すごすぎ!スーパーみくの迷い
『みく、みく、聞いてる?』
今村みくにとって城ヶ崎千里という女性は憧れの対象だった。しかし、ガマネジレの超進化を促す液体銃を偶然浴びIQ800になり、スポーツも勉強も完ぺきにこなせるようになった。
『アンタは迷惑かけたくないって言ったけど、あたしたち、迷惑かけるだなんていった? あたしもみんなもみくに振り回されることはあったけど、だからって、みくがやだなんて思ったことない』
ところが、超進化の影響は体の節々に現われ始めていた。脳はその処理能力に耐えられず悲鳴をあげた。それでも、みくは元に戻ることを拒んだ。仲間に迷惑をかけないようになることは夢だったのだ。
『だってそうでしょ、スーパーであろうとなかろうとみくはみくじゃない』
そんな彼女の体を元に戻すため、噴煙立ち昇る茶臼岳へ仲間は出動していった。ホテルに残ったみくはその声に耳を傾けていた。ネジレ獣の攻撃に傷つきながらも、千里は言ってくれた。
『ムリして背伸びしなくたって、あたしたちは友達じゃない?』
「千里!」
そのとき、爆発音に悲鳴が重なり、通信が切れた。涙を浮かべたみくははっとした。仲間に迷惑をかけないようにすること――みくは今村みくとしていることだ。
気付いたときにはホテルを飛び出し走っていた。りんどう湖畔の雑木林を走った。
「ごめん…ごめんみんな……」
木々の向こうに茶臼岳の山頂が見える。赤々と燃え上がり、黒煙はすり鉢状になって空へ広がっている。
「あたし…あたし!」
汗がシャツを濡らす。しかし、足をとめはしなかった。
「インストール!メガレンジャー!」
腕にはめたデジタイザーをオープンにして、アクセスキーを入力する。たちまちに転送されてきたメガスーツが全身をまとい、マスクが顔を覆う。胸のマークは金色に輝いていた。
「とう!」
林の切れ目まで差し掛かると、サイバースライダーに飛び乗り、一気に上昇した。
『きゃあああぁっ!』
メガレンジャーはガマネジレ相手に苦戦している。爆発に巻き込まれ、苦悶の叫びをあげる仲間の声がマスクの中に反響していた。メガピンクは前傾姿勢をとり、速度をあげる。
『う…うっ…』
だが、みくにはいつまでたっても一向にスピードがあがっているようには感じられなかった。
『メ、メガイエロ―…』千里のことを呼ぶ健太の声だ。苦しげな千里の声が背後にある。
『う…ふああああぁ!! ああああっぁぁ!!!』
爆発音に雑じった甲高い悲鳴、みくは焦りを覚えた。
『はっ…ああうっ!!!』
声だけでは状況が解らない。山体はもうまじかに迫っているが、噴煙がどこにみんながいるのか解らない。通信電波を逆に辿るが、電磁波ノイズがひどい。
『オマエを退化させてやるっ!』ガマネジレの声に千里がいや!と反抗している。
『くらえ!』
その声が聞こえた瞬間、噴煙の裂け目に四色の目立つスーツ姿の仲間がいた。メガキャプチャーを手にとると、無我夢中でサイバースライダーを飛び出した。
「げろげろぉ!」
ビームが命中して吹き飛ばされるガマネジレ、一回転してメガピンクは地上に降り立つ。黄色い影に迫った。
「メガイエロー!!」
千里の肩を抱き起こす。様子が変だ。
「メガイエロー? 千里……」
その刹那、イエローのインストールが解け、千里の素顔が現われた。額から血を流し、夏服のシャツはこげたり破けたりして、綺麗な腿に血がにじんでいる。
「千里……」
みくは目を疑った。その目はとろんとしていて、正気が無い。みくが肩を揺さぶると、瞳孔が収斂し、こちらを見つめ返してきたのがわかる。
「だぁれ……」
飴玉を舐めながら出したような千里の声だった。
「千里、しっかりして!」
「ふえぇぇん……」
大人びた顔立ちを歪ませ、不意に涙を流しはじめる。みくはそのとき千里の周りの岩盤に青い液体が飛び散っているのに気付いた。成長を退化させるガマネジレの液体銃の溶液に違いなかった。
「ふん!」
そのとき、ピンクの攻撃から立ち直るガマネジレがこちらを向いていた。その距離は五メートル、千里をかばうためとっさに前に出た。
「逃げて!!」
「ふぇ…えぇえん……」
「メガピンク!」
彼女の前にレッド、ブラック、ブルーが立ちはだかった。
「早く行け、俺たちで青い銃を取り戻す! お前は千里を連れて安全な場所へ!」
「うん、解った!」
とっさにメガピンクは千里を肩に抱いた。力を抜いているためずしりと重い。
「お姉ちゃん…あたしね…千里だよ…」
うわ言のように呟く彼女を抱き、足場の悪い間を一気にメガピンクは駆け下りていく。うしろから叫びや掛け声が聞こえたが、聞こえないフリをした。どうやら千里は思考能力の退化を促す赤い銃を浴びてしまったようだ。
火山の活性化の影響で微震を繰り返す茶臼岳の、戦っていた火口から五百メートルほど降りたところにはるか昔に溶岩が作ったらしい数メートル直径の横穴を見つけ、みくはとっさにその中へ入った。すぐ奥が水流にあたっているようで、湧き水が流れていた。
「ここなら…大丈夫ね…」
スーパーみくの判断力はそう結論付けた。湧き水がぬるま湯程度の温度になっているが、坑内は湿気である程度で涼しかった。
「お姉ちゃん……痛いよ」
泣きじゃくる千里を降ろすと、みくは変身を解いた。その刹那、頭痛がした。スーパー化したことで脳や筋肉に負担が掛かる。風邪を引いたときのように体が重かった。
「痛いよぅ…お姉ちゃん、ここどこ…」
ハンカチを湧き水で湿らせ、千里の額の血を拭い始めた。
「千里? 本当に退化しちゃったの……」
「たいかってなあに……??」
ガマネジレが三人で倒せるとも思えなかった。
「どうしよう」
瞬たちも逃げていれば良いけれど、みくは平静の表情を浮かべる千里を見ながらなんとなしに考えていた。どっちにしても、あいつを倒さなければ、千里を元に戻すことが出来なければ、みく自身の体もやがて蝕まれてしまうだろう。
「じしん……」
千里の声にはっと我に変えると、地面が微弱に揺れを繰り返していた。
「千里、元に戻って……」
「もおと?」
「IQ800でもスーパーでも、あたし、千里がいないとうまくやれないよ……」
うなだれるみくに千里はそっと頭を撫でて微笑み始めた。
「なかないで…」
そう、泣くわけにはいかない。
「うっ!」
それはまるで針で脳を突き刺した痛みだった。頭を抱えたみくは地面に転がり、痙攣を繰り返し始めた。その異様な様を千里が脅えた目を投げかけていた。
「ううっ! あぁあ!!」
「おねえちゃん?」
噴煙は風に乗って西へと広がりつつあるのが、衛星写真で明らかになった。
「久保田博士、千里とみくはどこへ?」
『それがわからんのだ』
なんとか敗走してきた耕一郎ら三人は、ふもとからメガシップと通信をしていた。いずれも傷つき、満身創痍という言葉そのままだった。
「わからねえっておっさんどういうことだよ!」
「落ち着け、健太!」
「落ち着いてられっか。千里のあの銃を浴びちまってるし、みくの体には副作用が起こってんだぞ!」
「久保田博士、事態は急を要します。ふもとの民間人にも被害が及ぶ事態が想定されます」
『すまん』久保田博士の押し出すような声に三人は言葉を失う。『重金属硫黄の多い噴煙のせいで、千里とみくのデジタイザーにアクセスできんのだ。周辺には避難命令を既に出してある――』
「それじゃあ……どうすれば…」
『二人がメガシップにアクセスすればわかるんだが、すまんが三人とももう一度出動してくれ』
「もちろんです」
「ええい…メガレンジャーめ、どこへ逃げた」
クネクネを率いるシボレナとガマネジレは、逃げたメガレンジャー五人を探して山狩りを開始していた。だが、火山性の山特有の窪みや洞窟はそれこそ数知れないほど点在しており、二十匹あまりのクネクネでは五十メートル四方を捜索するのに一時間を要する有様だった。
「げろぉ…げろぉ…!」
ガマネジレは身振り手振りでクネクネへ指示を飛ばしていた。
「ガマネジレ、一刻も早くメガレンジャーを見つけるのだ!」
そういうシボレナの目はぎらついていた。その色はヒネラーに対する忠誠心でもあったし、敵を狩る一種野生の本能的なものでもあったし、あの憎いライバルが傷を負っていることの優越感でもあった。
「げげろぉ!」
「はあぁはぁ……」
全身を汗で濡らしたみくは、地面で荒い呼吸を繰り返しながら胸に手をあてて、その痛みが引いていくのをじっと耐えていた。
「千里…おとなしくして……」
涙を流して訳もわからず泣く千里に声をかける。その声に千里が目線を寄せる。
「お姉ちゃん、大丈夫……?」
「うん、もう大丈夫だよ……千里」
ごおおと音をたて、洞窟の奥から風が吹き抜けていた。その音が止むと、洞窟の外に足音がするのをみくは聞き付けた。
「クネクネ……」
こんなときに――みくは舌打ちをすると、すばやく千里とともに壁際に寄った。入り口から差し込んだ西日にクネクネの長い影が映る。声をあげようとする千里の口を塞ぎ、みくは彼女の目を見て黙るよう促した。
「げろげろおお!!」
あの声はガマネジレだ。
「んんんんひいい!!」
千里もその声には聞き覚えがあるらしく叫び声をあげようとする。口にあてられた指を噛まれても、その手を離すわけにはいかない。
「久保田博士…」小声でデジタイザーに話し掛けた。応答はない。どうやら通信がだめになっているようだ。すると、インストールも……いや、電送に使われる搬送波は通常の周波数帯とは別のものを使っているから、多分大丈夫だ。
「千里……よく聞いて、このデジタイザーを開けてね」
千里の腕のデジタイザーを握った。
「あたしが3・3・5って入力するから、インストールって言って」
「いんすとーる?」
「そう、いくよ」
みくはそのデジタイザーのテンキーパッドに3・3・5を入力した。
「言って」
「いんすとー……いんすとーる」
彼女の体を黄色い光が包み込み、メガイエローへ変身する。そのショックに嬌声があがり、入り口付近にいたクネクネの影がこちらへ向くのがわかった。
「ここにいて! 動かないで! ここにいれば安全だから!」
自分の体に起こった変化に困惑した様子の千里を、そのままにみくは駆け出した。
「えい!」
クネクネに飛び蹴りを食らわせると、ゴールポストに飛び込むラガーのように洞窟から外へ飛び出た。その間に変身して、メガピンクに変わると、ちょっと上のほうをみた。
「ガマネジレ! シボレナ!」
「メガピンク!」
その姿を認めたシボレナとガマネジレは一気に駆け下りてくる。二人が追い易いようにみくはふもとへ向けて走った。敵を千里から遠ざければいい。たとえ見つかったとしても、インストールしておけば、そのスーツが敵に破られることなどありえない――みくはそう目論んでいた。
「きゃああぁ!」
シボレナとガマネジレがメガピンクを追って遠ざかっていた。一方洞窟では、倒れていたクネクネは頭を振りながらゆっくり起き上がった。みくの攻撃は生身だったこともあり、クネクネに決定打を与えられないままだったのだ。
そのクネクネは思わぬ悲鳴に目をぎょろむかせて洞窟の奥へと進んだ。
『メガイエロー!!』
その声はもちろんネジレジアの言語で人間には何かの音楽のようにしか聞こえなかった。
そこには痙攣を繰り返すメガイエローの姿があった。その胸のエンブレムは真っ白になって胸を覆うラインと同化していた。退化銃を浴びた千里も千里で副作用を煩い、苦しみに悶えていたのだ。
『やったぞ!』
木々の間を走るうち、ここがどこだか解らなくなった。森はどこまでも続き、同じ顔を見せていた。みくは走るうち、テンポが鈍るのを感じた。ガマネジレとシボレナとの間隔はさっきよりも狭まっている。
「待て!」
「げろげーろ!」
みくはちょっとだけ右へよろめいた。その瞬間、体が杉の木にぶつかり、地面へ投げ出される。大きく揺れた杉は花粉や葉を散らして揺れた。
「やっと追いついたわ……メガピンク」
「きゃっ!」
シボレナがおい着くと光線を発し、その光線の中から手錠と足かせが現われ、メガピンクを拘束した。
「さあ、他の仲間の居場所をおっしゃい!」
「誰が言うもんですか! ああぁ!」
そういう彼女の肩をレーザーが掠め、スーツに黒い痕を作った。
「怒らせるんじゃないわよ……そうだ、メガピンク」
シボレナは言うとガマネジレから緑色の液体の入った瓶をうけとって示した。
「メガピンク、あなたは今ごろ副作用に苦しんでいるでしょう。この液体を飲めば、痛みから解消されるわ。どう、取引しない? 仲間の居場所を吐けば、この液体をあげるわ」
「死んでもお断り! きゃっ!」
今度は反対側の肩をレーザーが走った。
「生意気でもなんでもいいけど、苦しむのには変わりは無いわよ。ほら、そろそろよね」
シボレナの言うとおりだった。そろそろというと同時ぐらいにずきんとするものが頭をよぎり、顔から血が引いていくのが解った。
「うっ……うううっ」
「早くしないと、脳が死んで猿になっちゃうわよ。ピンクモンキーなんていやよね?」
『シボレナ様もどっかいっちまったしなぁー』
クネクネは苦しむメガイエローを両腕を掴んで仰向けにさせた。
「ああ、痛いよう!!」
そんなことを全く意に返さない様子で殴られた恨みをはらすように、体をこすりつける。光沢のあるスーツがきゅきゅっと音をたてていた。クネクネの股間はたちまち屹立して、反り返った男根、人間よりもだいぶ傘の多い亀頭に血管がぴくぴくと沸騰していた。
『14号、なにやってるんだよ!』
『お、20号!』
仲間が現われたのを見ると、14号は自分の獲物を得意そうに見せた。
『おい、すごいじゃないか、14号、早速シボレナ様に報告だ』
『バカ、20号。おまえなに考えてるんだよ!』
14号の声に20号は怪訝そうな顔をした。
『はあ? わけわかんねえよ、おまえ、ネジレジアへの忠誠はどうしたんだよ!』
『忠誠? 忠誠してるよ、だがな、たまには俺たちが憂さ晴らしをしたっていいだろ?』
『憂さ晴らしってなんだ?』
14号の顔が妖しく歪む。
『犯りたいとか思わないのかよ、おまえ? こんないい女…』
『いい女かなんて顔みなくてもわかるのかよ』
『バカ、こんなえろい体でブスなわけねーだろ』
14号はメガイエローの胸へ手を伸ばす。その大きな手にも胸肉があふれ、ゆっくり揉み砕き始める。
「あっ! あっ! ……くすぐったい」
体の機能までは退化しない。たちまち勃起した乳房、20号はその姿にごくりと息を呑んだ。
『他の奴はいるか』
『い、いや、みんなピンクを追っていった』
『ならさあ……これは20号、おれとおまえの秘密だ』
『14号、おまええらいなぁ……出世するよ』
『おれたちゃ、いつもこいつらに良いようにやられてるだけなんだ。たまにはストレスの発散も必要だよな』
『ああそうだそうだ』
そういうと、20号は仰向けのメガイエローの背中を抱きあげ、腋に手を入れ、おそるおそる胸を扱き始めた。
『たまんねえ…20号……いつも、おれこんな奴にやられてんだぜ…』
『ああ、14号。どうせこいつは退化してる。シボレナ様に引き渡したって、何一つ覚えちゃいないだろうよ。最強だぜ』
ヒップにこすりつけた20号の股間もたちまち屹立していく。
「ああぁっ…ううっ…!!」
「なかなか強情な娘ねぇ……」
シボレナは笑った。メガピンクの胸口を掴むと、自らへ引き寄せた。バイザーの中を覗き込むと歪んだ顔が見えそうだった。
「げろ…げろ…シボレナ様」
「どうしたの?」
「げろげろげーーー!」
「何!? 14号と20号が?」
シボレナは耳を疑った。
「ガマネジレ、こいつを捕まえておきな!」
荷物を押し付けるように青息吐息のメガピンクをガマネジレに預けると、シボレナは元来た道を戻っていった。
「げろぉ……」
ガマネジレの目が歪む。クネクネ二匹が捕まえたメガイエローをというガマネジレの報告を受けて、シボレナは戻っていったわけだが、ガマネジレも性別的には雄であり、クネクネと動物的衝動では大して変わらない。
「げろおぉ!!」
体が思うように動かずにいるメガピンクのスーツを裂くと皮をむいた果実のように汗が迸る。
「げ、げろおぉ!」
「おい、あれ、シボレナじゃねえか?」
「そうだ、追え!」
メガレッドははるか彼方の山肌にシボレナが走っているのを見つけ、ブルーとブラックが続いた。
「洞窟に入ったぞ!」
「あぁっわっ……」
『14号、す、すげえよ!』
メガイエローのパレオを破ると、スカートをめくりあげた。
『たまらねぇ!』
14号と20号は既に一回ずつ精液を発射し、メガスーツを汚していたが、その勢いはまったく衰えることなく、メガイエローを立ったまま撫で回していた。
『うっうっ!』
「あああぁ……ひいい……痛っ!!」
『ふっふっほ!』
20号がヒップを犯すと、その痛みに目をまるくしたメガイエローが14号にすがりついた。14号は顔を仰け反らせて喜びの声をあげると、男根を股間へねじこんだ。
『うおーーー!俺たち、正義の味方にこんなことしちゃっていいのかよ』
『いいってことよ、俺たちはなんてたってねじれてんだ』
『だよなぁ!』
『くねくねえぇ!』
『くねーーーーー!』
二人はほどよく締め上げられる男根を前後に揺らした。ぐじゅぐじゅ聞こえてきて、その音がひどく淫猥でクネクネの性感を刺激した。
『うおおーーー!』
その声は実際には音楽のような音だったからまるでこおろぎの合唱の中、紫の戦闘兵の間で悶え揺れる黄色い正義のヒロインという図は酷くシュールだった。さすがのシボレナもとっさに声が出なかった。
「何をしてる!」
『く、くね?』
『く…やばい……』
「何をしてると聞いてるんだ!!」
『シ、シボレナ様、俺はやめろっていったんですけど、14号が……』
「ひ、ひく……」上擦った少女の声が妙に鮮明だった。
『何言ってんだ、20号、おまえこそ、俺が誘ったとき』
「うるさい!」
シボレナの声に一瞬音が消える。
『……とにかく、一発出していいですか?』
『ここでやめたら逝っても逝ききれないッス』
『それからなら、死んでも本望……だよな、20号』
『ああ、14号』
「はぁはぁ……ん…ん! ぇい!」
ガマネジレを突き飛ばすと、虫が這うような姿勢でメガピンクは地面へ倒れこんだ。
「げろ…」
ガマネジレは舌舐めずりをするかのように口の中をぬるぬると動かした。その肉と粘液の混ざり合う音は、雑木林の中でいやにはっきり響いた。
「くっ…武器もないのに…どうすれば……ああぁっ」
みくはゆっくり体を起こしながら、じっとガマネジレを見つめた。目線を離すと今にもその口に飲み込まれてしまいそうだった。後ろへ一歩下がる。
「げえぇろぉ!!」
その喉を鳴らす威嚇スタイルは蛙というより蛇のそれだ。その声とともに弱い電流が口元を走っている。メガイエローを――千里をスーツの上から麻痺させただけのパワーだ。
「げぇぇぇ!」
今のこのマスクオフの状態で顔に受ければ、致命傷は免れない。みくはゆっくり構えを取ると、軸足を右に傾け、前傾姿勢になった。
「あ……く…」
体の節々が焼けるようだ。逃げ出さなければと思っていても、みくは千里ほどに頭がまわらない。目の前にネジレ獣がいて、自分を狙っているとなれば、逃走手段まで考えられない。
「でも…仕方ない。ガマネジレ!」
「げろ!?」
「ええい!」
華奢な体躯を生かして、その喉元に手をクロスさせ押し込んだ。とっさのことに相手は後ろへよろめく。その様子を見ずにメガピンクは一目散に後ろへ走り出した。
「メガイエロー!」
シボレナが向かっていったということは、すでに千里は捕らえられているだろう。木々の間を抜けると、茂みの間から何かがせりあがってきた。
「ああ!」
それは網だった。みくは網の中に飛び込み、網はみくの来た方向へ動き、たちまち動きを封じて地面に押し付けられた。気づくと、彼女を見下すくねくねが二匹いて、捕まえられたらしいということがおぼろげながら解った。
「離し…離して!」
その声はあざ笑うかのようだ。
『これで、メガピンクを捕まえたガマネジレ様がネジレジアの高位に就き、それを助けた俺たちは晴れて兵士から昇格と。な、23号』
『な、28号』1
「な、なに笑ってるの!」
「お前ら何してるんだ!」
ヒーローの登場にシボレナは振り返る。部下の暴走の結果だが、どう見てもシボレナが命じてメガイエローをクネクネに犯させているようにしか見えない。どちらにしろ、同じことだったが。
「……ひでえ!」
「メガイエローを離せ!」
「くっ」シボレナは振り返るとネジレ次元へ逃げた。
「待て!」
その目の前には、クネクネ14号と20号がメガイエローの前後の穴に挿入し、その周辺をがびがびに汚している姿だった。
『いや、メガレンジャー、俺たちはあくまでシボレナ様の命令で……なあ、14号』
『そうだよ、シボレナだよ。あの女!』
メガブルーが声をあげた。「おい、メガピンクとガマネジレはどうした?」
『助けてくれるのか、約束してくれよ? 教えるから助けてくれよ?』
「ぐにゃぐにゃ、うざいんだよ。さっさと教えろ!」
『わかったわかった。向こうだよ! 向こう!』
クネクネはメガピンクが逃げた方向を指した。
「よし、ブラック、ここは任せた。俺とレッドはメガピンクを助けに行く」
「解った」
『えー、それ、どういうことだよ、約束が違うだろ』
「おまえら、叩き潰してやる!」
クネクネの言葉は人間には通じなかったのだった。
クネクネたちは網をかぶせたままみくをガマネジレのところまで連れて行くと、手近な木にピンク色の体を押し当てた。網はたちまちに体を捕らえるロープに変わり、腹部に食い込んだ。
「げえぇ…ろぉぉ……」
ガマネジレは喉を鳴らす。先ほどより欲望に満ちているように、みくには感じられた。りんどう湖畔でメガピンクはガマネジレに瀕死の重傷を負わせたのだ。その時の仕返しでもしようというのか。
「げぇげげっげええええ!」
気づいたときにはスーツのあちこちが爆発を起こしていた。やや遅れて強烈な熱に悲鳴をあげる自分の声がいて、喉が押しつぶされるように呼吸が苦しくなった。ガマネジレの電撃が瞬時にメガスーツを襲ったのだった。
「きゃあああああっ!」
口の中に鉄の味がする。縛られている木の樹脂が燃えて甘い臭いがした。
「はあぁはぁ……はぁああぁ」
息をするにも喉がちくちくする。
「げゃぁぁぁあっ!」
「あっ!」
その腕が電撃に機能を麻痺したスーツに食い込み、さらに火花を撒き散らす。
「アアアーーーッ! アーーーアアーーーーアアアッ! アアッ!」
その手に両生類とは思えない鉤爪が生えており、極薄のスーツに食い込むと皮膚にまでめり込む。耐久度を失ったスーツは鋭利な刃に口を開くことこそ無かったものの、布の上から針を刺すようにみくの素肌に突き刺し、血を抜いた。
「アーアアッ!」
抵抗することも出来ない女戦士の体はパープルピンクから徐々に黒いの染みをぽつぽつと作り始めていた。そのスーツはも徐々にほつれはじめ、火花は徐々に勢いをなくしていく。
「アア!! ……誰か」
「げろろろ!」
体に突き立つ刃に顔をゆがませたみくの頬に涙が伝う。ガマネジレの舌が伸びて溶けたバターのような粘液をその頬にこすり付けていく。
「くっ……アン!」
「げろぉ!」
ほつれたスーツの傷が一気に口を開く。中には血に染まった白いインナースーツがあり、それもところどころ破けてへそがちょこんと顔をのぞかせていた。トイレットペーパーの一箇所をむりやり破いていったような状態だった。
「……もう、だめ?」
頭を落とした表情からは生気が抜けていた。意識は痛みによって保たれてるような状態だった。
「げろげろ!」
鉤爪をスーツとベルトの間に差し込んで一気に引く。メガレンジャーの象徴のMのエンブレムのバックルの中でチタン製のバックルが音を立てて外れ、ベルトが鉤爪と共に持っていかれる。
『案外、メガピンクってぽっちゃりなんだな』
クネクネ28号と23号は腕を組んで成り行きを見ていた。
『いや、単に着肥りだろ。ピンクって色も悪い。23号』
『あんなスーツ、俺たちもだけど服のうちに入るか?』
『じゃあ色のせいだな』
『やけにメガピンクの肩を持つな。やめとけやめとけ、ヒネラー様にユガンデ様、俺たちにおこぼれが来るときには植物人間だぜ、どうせ』
『おまえにはわからんだろうな。それでも浪漫だぜ。雑魚がヒロインを……ん?』
物音がして23号は28号のほうを見た。白煙をあげて倒れている。背中をレーザーでやられてる。
『メガレ――』
振り返って相手の名を呼ぶより前にクネクネ23号にレーザーが入り込み、その機能は停止した。
「ガマネジレ! そこまでだ!」
「げえろ!」
「覚悟しろ!」
突如として現われたメガレッドとブルー。
「げーげろーー」
「メガトマホーク!」
ブルーが跳躍すると、ダメージを与える一瞬の間にみくを引き離す。
「ドリルスナイパー・カスタム!」
メガレッドは必殺武器を構えると、ガマネジレに向けて引き金を絞る。
「ぎゃああああぁっ!」
ガソリンに火がついたようにガマネジレはたちまちに燃え、黒い煙へと変わっていった。
「みく、大丈夫か……」
「しゅ、瞬…い、痛いよ……」
「今助けてやるからな」