見破れ! 学習塾のカラクリ 後編
「何か?」
みくは神経質そうな受付嬢と向かい合っていた。
「あの……私の友達がこの参考書を学校に忘れてきてて」
「その人がここに?」
「はい、城ヶ崎千里っていうんです」
「ああ、解りました。それではこちらで渡しましょうか」
「はい、お願いします」
そう言って、みくは受付嬢へ参考書を渡した。その腕のブレザーの間から現われたデジタイザーを、受付嬢は見逃さなかった。
「あ、ちょっとお待ちいただけますか」
「え?」
「すいません、お名前を……」
「今村です、今村みく」
「解りました。今、問い合わせますので、もしかしたらお会いできるかもしれません」
「本当ですか?」
みくは声をあげる。受付嬢は内線電話を一本かけ、やがてみくを応接間へと案内した。そこへ座るみくに、日本茶が出された。受付嬢は「三十分ほどお待ち下さい」と告げた。そんなに待つ気など無かったけれど、その強引な対応に半ば引きずられる形となってしまったのだった。
空気に向かって鞭を振るいながら、千里は思い出していた――シボレナによって幽閉され、傷つけられたときのこと――幻想空間で、メガイエローはシボレナに敗北しようとしていた。だが、彼女はブレードアームを振るうことによって、その窮地を脱出したのであった。
鈍いショックによって、幻想空間から脱出したとき、メガイエローは身体が熱くなり、足元すらおぼつかなかった。今にも倒れそうだった。だが、メガレンジャーのサブリーダー、仲間の手前、その意識を支えていた。
瑠璃という女の子の世話を仲間に託し、足早に戦場を離脱した。スーツを解除するのすらわずらわしかった。メガイエローは諸星学園の体育準備室へと転がり込んだ。どこでも良かったが、誰にも会わない場所ということで、そこを選んだのだった。
腕が光った。
「ブレードアーム……」
千里は呟き、積み上げられたマットに向かってそれを振るった。白煙とともに繊維が紙のように立ちきられ、中に詰めものがわっとリノリウムの床へと広がった。彼女はそれを腕が力を失うまで続けた。
力を失うと、スーツも解除された。鬱蒼とした倦怠感の中――城ヶ崎千里は怒涛のような自分のサディズムを、怖れていた――
鞭が床へと黒い痕を残した。それはもしかしたら、ネジレジアによる洗脳なのであったのかもしれない。鞭は光、その光の渦に全身が包まれそうだ。だが、事実彼女は幾度も窮地に陥り、少なからず傷をおってきた。そのたびに、ネジレジアを倒そうとする正義感は彼女を包み込んだ。
「ハアアアアァァァァッ!」
その正義感がメガイエローにはたまらなく甘美だった。もし、プロフェッショナルであれば、自制心を持っていたかもしれない。だが、ただの女子高生だった。正義ではなく、偽善だった――――メガイエロー=城ヶ崎千里は、ネジレ獣を倒すたびに、快楽を見出していたのだった。
「な、何をするっ!?」
全く気配を消したその陰に、シボレナは油断していた。
「シボレナ様、あなたの正体を――私は知っています」
シャチネジレはたちまちにシボレナを捕縛してしまった。元の場所へ戻ると、手ごろな柱に括り付けられてしまう。
「無礼者!? シャチネジレ、只で済むと……!?」
「ご安心ください。シボレナ様。あなたも、私に従わずとも、私に感謝するようになります」
「どうする気だ……」
「シボレナ!」
部下の背後から現われたのはメガイエローだった。くすり、シャチネジレは笑う。その鞭は金色に輝き、彼女は鞭を振るい、それがシボレナに命中した。
「あうあぁっ!」
「シボレナ、今日こそはアンタを殺すわ!」
その目は正義のメガイエローではなかった。毛細血管が異常に拡張し、隈が出来ていた。人間というより、鬼にも近い形相に、シボレナは思わず目をそらした。唇を噛んだ。
シャチネジレは、頭のいいネジレ獣だった――奴はギレール! シボレナは思わず瞼を見開いた。ギレールはドクターヒネラーを討伐しようとした。それと同じように、シボレナはシャチネジレに討伐されようとしていた――
「まずは、謝りなさい。シボレナ?」
「謝る……と?」
「そうよ! 『メガイエロー様、私、シボレナが愚かでした。どうか、お命だけはお助けください』と言いなさい!」
「誰が…」言葉が止み、鞭がしなり、シボレナはそこから逃れようともがいた。傷みはまだ弱かったが、直ぐに機械は破壊され、機能を停止し始めるに違いない。そうなれば、シャチネジレに、メガイエローに屈服するしかなくなる――
「さあ、たっぷりお返ししてあげるわっ!」
「アアアアアアアアアアアアアァッ!」
白い肌が暴かれ、なかから精密機械がゴミ袋をひっくり返したようにあふれ出てきた。
メガイエローはその自らの血で汚れたグローブをシボレナの体内へともぐりこませた。バキバキバキッ!と金属やプラ材の破壊されるのに似た音が響き渡った。
「うあぁっ!」
白煙は巻き起こり、シボレナは舌を出し、だらりと猫背になった。目を白黒させ、機能が停止しようとしているのを、朧な意識の中で思った。
「ヤ・メ・ロ……」
妙な変調された声になって口から漏れた。
「誰が? あんたみたいなのはね、死んで当然なのよ!」
「ち、千里?」
それはあまりに想像を絶する状況だった。通された応接室で、一時間経っても、誰もこなかった。入り口へ戻ると受付嬢は姿を消していた。怪訝に思ったとき、上からズシンズシンという重低音が響いてきた。
みくは階上へとあがった。縛り付けられたシボレナが半壊し、分解する仲間の異様な姿と相対することになったのだった。
「メガピンク!」
シャチネジレはイエローとの間に滑り込んだ。人間体だったから、みくには何がなんだか把握できなかった。だが、そのオーラは明らかに人間の、女性とは異なるものだった。
「ネジレジア…一体何を……」
「何? これが親友の正体よ?」
「どういうこと……」
「簡単な暗示よ」
「メガイエロー! どういうこと!」
仲間の血走った目はまるで悪魔のようだった。
「み、みく…みく…」その口はがたがたと震えていった。
「千里さん…」シャチネジレは肩越しに告げた。「キモチいい――?」
「うぁ……」その一言がメガイエローを包み込み、その正義を変容させていく。
「よくも、千里を……」
みくには未ださっぱり解らなかった。だが、親友が敵の手に堕ち操られているということは、確かだった。切り替えは早かった。デジタイザーを起動させると、スーツが全身をまとった。
「インストール! ――えい!」
舐めるように飛び、人間の姿をしたシャチネジレを殺る。空中で円盤のように床と平行に身体を動かし、その脚でシャチネジレの体勢を崩させると、地面につく前にストレートに拳を放り込もうとした。
「! んあぁ!?」
シャチネジレに覆い被さった。その上から影が覆った。そのことに気付くよりも早く、そのブーツは彼女のマスクに放りこまれた。
「ああぁーーっ!」壁に胸から激突して落ちるメガピンク。
みくの視界に信じられない光景が飛び込んできた。シャチネジレに手を差し伸べるメガイエロー、その手で立ち上がり、シャチネジレはみくを睨みつけてくる。
「解ったでしょう? あなたの仲間の正体よ――メガイエローは、正義の心なんか持っていなかった。この娘が持っているのは、自分の下に相手を屈服させ、それで悦びを得る感情だけだわ」
「――そんなことない!」
叫んだ。みくには信じられるられない以前の問題だった。
「みく…」千里は言った。「すぐ、楽にしてあげるわ…いたい事はしないわ……」
「狂ってる…狂ってるう!」
メガイエローはメガピンクを掴みあげたのだった。スーツの内側は滑り止めのため、波状の凹凸があった。
迸る汗に着心地は悪くみくは顔をしかめた。マスクの中は湿気が篭り、息をするのが苦しかった。
「みく、座っちゃ駄目よ!」ぴしゃっとした口調の城ヶ崎千里、みくは強張らせて背筋を伸ばした。「そうそう、それでいいのよ……」
グローブをはめた千里の指は太く見えた。ピンク色のスーツがたっぷりと汗を吸って、パープルピンクに変色している。
グローブ越しに触れても解る。千里がその指をみくの肉を割り身体へ指し込んだ。
「ああぁ……っん」
何層もの生地に包まれた千里の指は男性の生殖器ほどの太さを持っていた。滑り止めの凹凸の裏地が膣の肉壁を擦り、関節が曲がり肉に引っかかり、奥へ入っていく。
「ねえ、みく。あたしの指がどんどん奥へ入っていくでしょ…キモチいいでしょ……」
「はっ……ふ…だめぇ、千里、あたしたち、メガ……」
挿れたままメガイエローはゆっくりと上体を起して、みく――メガピンクと向き合った。二人のマスクは表情を見せていない。
「キモチいいでしょ…?」
「そ、そんなことない……」
不服そうなため息がみくに聞こえた。挿れられているのとは別の、右の腕がみくの背中に回される。思考が次第に薄れていき、イエローの胸に身体を委ねた。感じられるスーツ越しの肉感に官能が短い悲鳴を発する。
「っ……」
「どうかしたの?」
指が釣り針のように捻られ敏感な部分を刺激する。目の前が青く染まって見えて喉が詰まった。視界にイエローが下を向き、上を向いて視線が重なった。
「ほんとのとこはどうなのよぉ?」
悪びれた様子も無い普段の、恋の話でもしているような口調だった。
「痛い……っ」
瞼に湛えられた涙が零れる。ピンクの布地はパン生地のように伸びた。弱々しい手つきでみくが両腕でイエローの左腕を掴んだ。イルカや鮫の肌のようにざらついたメガスーツを掴むというより撫でていた。
「痛いよ、も…やめて……ふっ、うぁ、ふううううん! お願い、メガイエロー……あ! あっ!」
千里の指が徐々に煽動を強め、ピストン運動をはじめていた。みくはあらん限りの力で股間を抑えた。足が裂けてしまうような痛みに指を抜きたかったが、逆に指はどんどんと奥へと収まっていく。
「ほおら、すっごくキモチいいんでしょ」
みくにはキモチいいということが、具体的にどういうことなのか解らなかった。
「いやぁ…しにたくない……」
年齢よりは不釣合いな性感がスーツを電気信号になって伝わり、コンピューターから脳へ直接送り込まれてくる。その感覚は本物の身体からの感覚よりはるかに鋭かった。
「死なないわよ、ふふん。ほら、触ってご覧?」
子供をあやす口調で語りかけられ、みくの手は上半身へ持ち上げられ、胸丘に充てられた。スーツ越しにも屹立した乳房がわかる。
「そ、そうよ、みく、上手いよ」
手が勝手にその鷲づかみにした胸を下から掬い上げた。
「ああっ、ねえ、やめて……」遠のきそうな意識の中で、そこを握ると妙に鮮明な感覚がした。
「何いってんのよ。まだ逝ってもいないじゃない?」
肩を抱く腕が一周して首筋沿いに来て、顎の下側からマスクの縁へ指が伸びていた。
「逝…く?」
マスク同士が接近して、口元のシルバーメッキが施された部分が重なる。神経を通じたキスの感じがして、みくは無意識にマスクの中で下を伸ばし、内側のやはりザラザラした部分を舐めた。
「そうよ、ねえ、もっと感じてみなさいよ。ほら」
ゴムの味がした。その二枚の複合素材を通した向こうに千里が同じことをしているのではないか、そう思うと痛みから覚め、昂揚感がこみ上げてきた。
「うっん…」
短く縦に頭を振った。揉んでいた手をイエローの背中に回し、身体で千里を感じてみたいと思った。身体が近接し、柔らかく無駄なく引き締まった体を感じる。足の付け根をあてがうとその指がまるで千里の生殖器であるような感じがした。
「だあめーあたしのを触りたかったら、まず自分で感じてみなさい」
千里は前にもましてピストン運動を強めた。腰の骨格が外れてしまうのではないかと思うぐらい強い運動にみくは立ったままで腰を振った。
「ああぁっ……ああっ」
みくは悶え、千里は笑った。逝く……どういうことか解らずとも、そのイメージの波が押し寄せてきてみくは目をつぶった。
「あっ…あぁっ…あぁん……」
ところが、ある一点を越えると急速に千里の指は勢いを失い、散漫なピストンをはじめた。股間に差し込まれる指がくねくねと蠢き、その膣壁面を撫でていた。
「えっ……な、なんで……メ、メガイエロー~」
「みく、本当に感じてる?」千里の目がバイザーの黒い闇の中に透けて見えた。みくは紅潮した顔からその中を見合わせた。「処女なのに、あたしがオナニーしただけで逝けるの?」
その言葉の意味をみくは図りかねた。強烈な痛みは引いてきたが、それにともなって体の奥に留まったままの行き詰まりが感じられた。するりと指は中から抜けていった。
「どういう……こと?」
「みく、相当の淫乱だよ?」
「そ、そんなこと……」
「みくさぁ、ね、触ってみて?」
メガイエローはみくの手を握った。彼女の手に介助され、みくは股間へと手を這わせた。
「ここがね、前の穴、解る?」
「う、うん」
みくの手が千里の手で穴から離れ、何も無いところへ伸びた。そこには足の間に突起があり、ぐしゅりと濡れたスーツの上からでもその膜に覆われた場所は解った。
「これがね、クリトリス…」
「わ、わかるよ~」
バカにしないで欲しい。妙な欲求不満と腹立ちさがみくの胸の中を駆け抜けた。ぴくぴくっと震えるみくのクリトリスの存在は自分が誰よりもよく解っているつもりだった。
「じゃあ、抓んでみ?」
「…ど、どこを?」
「クリトリスを?」
千里に介助されたまま、みくは指でそこを抓もうとした。スーツにすべり中々つかめなかったが、触れ指の間にはさんだ。
「オーケー?」
「うん」
「じゃあ、揉んで、ゆっくりとね……」
みくは頷いた。弱々しい電流が彼女の本能を刺激した。
「はふっ…ふっ…こ、れでいい?」
「いいよー、みく。じゃあいくよ?」
そのショックに、抓むというより掴んでいた。千里の指がぎゅっとみくの愛の園へともぐりこんでいき、その膣壁を強烈に刺激した。わっと声を発する間もなく、真っ白になる思考……逝く――みくにはその言葉の意味が解った。
「あ…………っ」
言葉を発する余裕さえなかった。全身の力が漲り、メガピンクに新しい力を与えてくれるかのようだった。冷や水を浴びせられたような思いで、もはやなにも考えられず、足が消えたような感じに、斃れこんでいた。
「どう? あたしの指テクは?」
千里は彼女の袂に立膝立ちをした。みくは手を伸ばし、その足に触れた。よく引き締まった光沢の足は綺麗だった。
みくの意識は鮮明だった。天井の照明がいやに綺麗で、身体が浮かび上がるような感じに包まれていた。その意識はひどく甘美だった。甘美なモノを、手放せるはずが無かった――