いまこそ!牙を剥いたスーパーウェポン

「デルタメガ!」
 健太の呼びかけにデルタメガの動きが鈍る。ギャラクシーメガのコクピットから身を乗り出したメガレッド、四人がその背後から目線を送る。
「デルタメガ?」
 再生ネジレ獣軍団の陽動作戦にはまり、デルタメガがネジレジアの誘導電波に乗っ取られてしまった。五人はギャラクシーメガを呼びデルタメガへ迫っていく。レッド、ブラック、ブルーが力づくで破壊を止め、その隙にイエローとピンクがオンラインを介して、操縦系を奪還する作戦だった。
「よし、そうだ。おとなしくだ」
 健太も本来の回線への呼びかけを続けていた。その動きが鈍り、腕がゆっくり下りて行く。千里はディスプレイを見て、健太の肩へ手を伸ばす。その瞬間、その赤い背中の向こうで、四〇ミリ回転式機関砲――ガトリングブラスターが銃口をコクピットに向けていた。
「伏せて!」
 それは一分間に六つの砲身から七千発の発射能力を持ち、特殊タングステン弾は劣化ウランの三倍の破壊力を秘めている。ネジレ獣の強化装甲を貫く能力を持ってすれば、ギャラクシーメガの最も装甲の薄いコクピットを破ることなど容易い。
「うわっ!」
 五人が頭を下げたと同時に炸裂したガトリングブラスターは、コクピットに激突し跳ね返っていく。ガラスがたわむ間延びした音が響き、次の瞬間鋭い音で、ヒビが刻み込まれ、火花がはね飛んだ。
「きゃあっ!」
 ひときわ鋭い音が響くと、何百万もの破片がコクピット内に飛び散り、埃が舞い飛ぶ。同時にガトリングブラスターの斉射はとまり静かになった。
「みんな、大丈夫か?」
 メガブラックの声、千里は抱えた頭を持ち上げ、何とも無いことを確認した。コンソール上や地面に破片が散乱していた。
「オーケーよ」
「なんとかな」
「デルタメガ……なんてことを……」
「メガピンク、大丈夫か?」
 メガブラックはきいた。四人は頭をあげたが、彼女だけうずくまったままだ。
「あ、足が……」
「みく!」
 千里は彼女の右足を見るや座席を飛び降り、メガピンクの元へ寄った。その右足の踝の少し下の部分のスーツが強化ガラスに裂け、真っ赤な血がどくどくと流れ始めていた。
「メガイエロー、後ろに行って、処置しろ」
「解ったわ、メガブラック――メガピンク、後ろ行くよ」
 千里はぐったりとしたみくの肩に腕を回すと、右足に負担が掛からないように心持だけ持ち上げ、Mマークの刻まれた自動ドアを抜けた。
 開いたままになったデルタメガとの回線からの不正アクセスの警告メッセージが、がら空きのバックシートに表示されていた。しかし、五人とも起こった事態に対処することで精一杯で、警告音も耳には入らなかったし、気付くものも無かった。

 ギャラクシーメガのシステムは宇宙船として機能するように閉鎖系のシステムを作っている。各セクションごとに仕切られ、ロボット変形時には緊急シャッターでセクションごとに隔離される。従って、外へ出るにはコクピット外の廊下の左右にある脱出ハッチしか無く、負傷し二体のロボが激しく機動しているときに出るのは危険だった。
 しかし、コクピットを出たところには簡易の休憩所が設置され、そこには救急箱が置かれている。メガイエローは振動する廊下をメガピンクを抱いてこの休憩所に入った。
 丸椅子の一つにメガピンクを座らせたメガイエローは、立ち上がって救急箱に手を伸ばす。
「きゃっ!」
 軽い地震のような揺れが襲い、体勢を崩しかけた。救命箱がするりと手の中を抜け、床に落ちて中身が散乱する。
「あっ……」
 ガラス容器が割れ、消毒薬の臭いが立ち込める。
「大丈夫…メガイエロー?」
「うん…なんとかね」
 みくの声は歯を食いしばったようだった。メガイエローは中身を箱へ素早く戻すと顔を軽く振った。
「あもう、邪魔くさい」
 マスクを手に取ると、アタッチメントを外してリリースする。中から千里の顔が現われ、汗にびしょ濡れになった髪が広がる。
「みく、足の指動く?」
 千里は傷口を避けるようにみくの足に手をあてた。
「痛いけど、なんとか」手で触っても、変な感触はしない。
「良かったわ、折れてない。今、包帯巻くからね」
 人工ダイアモンドコーティングの鋏を取り出すと、ピンク色のメガスーツを傷口を中心切り取っていく。
「ちょっと、染みるかも……足あげて」ギャラクシーメガの機動は最大16Gに達し、スーツが無ければ人間の体は持たないから解除するわけにいかなかった。
「――痛ッ」
 千里が消毒ガーゼの封を破った。みくは足を大きく上へあげ、股を開く。血を拭かなければ包帯を巻くことは出来ないが、それには傷口へいたずらに手を伸ばすことになる。心臓より足を上にしておけば出血はまだマシになる。
「我慢して」
 みくは腿のあたりを手にあて、ガーゼに血を吸い込ませていく。血を吸ったガーゼを床に捨て次のをあてる。幸いにも出血は既に止みつつあった。
「みく、傷は浅いみたい」
 出血が止まったことを確認すると、大きく厚いガーゼをあてその上から包帯を巻く。
「そう?」
 なれた手つきでぐるっと巻くと、最後にぴっと縛りつけた。
「うん……ふぅ、なんとかこれでオーケーでしょ」
 汗で髪がこびりついた額を手の甲で拭うと、千里は息をついてみくの顔を見た。
「あ、ありがとう、千里」
「お安い御用よ」
 ……ヒューン、甲高いエンジン音が不意に落ち照明が落ちた。
「何?」
『非常用電源が、作動します』
 機械的な声でアナウンスが流れ、天井の赤色灯がついた。不意をついたような静寂だった。

「なんだ?」
 メガブルーはレッドとブラックを見る。非常用の照明の中でそのマスクが不気味だ。
「おいおい、どうしたっていうんだ」
『ハッハハハハハ!』
 突然、笑い声がして三人は振り返る。左右のディスプレイにシボレナの顔が大写しになっていた。
『今からこのギャラクシーメガは、私のものよ』
 その瞬間、しゅるしゅると現われたベルトが三人の体を拘束する。
「うわっ、何する!?」
『特等席で愛するメカが町を壊すのを見物させてあげるわ』
「やめろぉぉ!」

 その声は廊下のスピーカーからも流れていた。
『ギャラクシーメガはネジレウイルスの支配下になったのよ』
「シボレナ!」
 千里はマスクを手にとり、みくと共にコクピットへ戻った。ところがコクピットの扉のところに緊急用のシャッターが既に降りていた。
「え、どういうこと?」
 二人はそのシャッターの近くに立ち、ドンドンと叩いた。
「メガブルー!」
「メガブラック! 耕一郎!」
 ところが宇宙空間でもビクともしないように設計されたシャッターは、鈍い音をたててるだけで内部で何が起こっているかさえわからない。
「みく、通信はっ?」
「駄目、ぜんぜん通じないよ」
 千里とみくは不安げに周りを見回した。赤い照明が廊下を照らし出している。
「閉じ込められた…」
「そう、みたいね」
 コンピューターのために異様なほどに冷やされているにもかかわらず、千里とみくはスーツの内部に汗が噴き出すいやな感触を覚えていた。
『さあ、ギャラクシーメガ、デルタメガ、町を破壊しなさい!』
「ぁ!」
「あぁ!」
 ロボが急激に右へ傾き、二人は床に転び重なり合った。廊下は本来無人だと設定されてるため、人工重力発生装置が設置されてなかった。
「きゃあぁっ!」
「あ!」
 上方へのGが掛かりメガイエローとメガピンクは絡み合うように空中へ浮き上がる。イエローのマスクがころころっと音を立てて廊下の奥へと転がっていく。
「あぁ!」
「いやぁ!」
 前のめりになったところでGが止み、二人の体は床へ戻る。マスクオフにしていた千里は後頭部をしたたかに打ちつけ、みくは傷口に千里の腰が乗りかかって、喘ぎながらのたうち始めた。
「ちょっとどうしろっていうのよ……あっ!」
 打ち付けた部分を手でこすり、千里は肘をつく。左に傾き、滑り台を行くように滑っていく。
「ぁぁ!」
 四五度以上の傾斜は垂直に落ちていくのと大して変わらなかった。二人の体は脱出ハッチの上で絡み合って痛みに耐えていた。
「だめ!」
 脱出ハッチの制御コンソールに乗ったみくの手を千里がどけた。このままの状態でハッチが開けば受身も取れないまま、ロボの肩部分を転がり落ち、数十メートルを落ちることになる。そうなれば、ただではすまない。
「あう!」
 ロボの姿勢がもとへと戻ると、ハッチから剥がれ落ちるようにさっきは壁だった床に落ちる。
「このままじゃ持たないよ……」
「うん、あれ、マスクは?」
 千里は腰を起こしながら、辺りを見回した。しかし薄暗い廊下で物を無くせばそれで終りだ。今度は反対側に傾き始め、二人はするすると廊下を滑り始めた。
「何か策は……」
 マスクがどこかへ行ってしまったせいで、出口はますます遠のいた。それでも、必死になって頭の中の設計図を考えめぐらせた。
「みく? 配管ダクトどこだっけ?」
「はいかん?」
「そう、配管ダクト。確か、天井を走ってるでしょ、それがクーラーに接続してるはずだから、そこを通って……」
「……よく覚えてるね、千里」
「うるさいわねえ」
「あっ、あれそうじゃない?」
「そうあれ! きゃっ!」
 みくの指すほうをみて千里は声をあげた。コクピットと休憩室の中間にクーラーの集気口が金網に覆われて口を開いていた。
 受身をとるような姿勢でギャラクシーメガが横転した。遠くから大きな音響いて来る。かなり大きなショックに二人はうめいたが、とっさに目の前の集気口の金網を千里がはずす。
「みくっ!」
 千里が中に入った時点でギャラクシーメガの姿勢が正常に戻り始める。
「千里!」
 みくの腕を掴んだ千里は宙ぶらりになった彼女を引き上げた。インストールしていたからとかく力はいらなかったが、ショックの連続で開いたかもしれない傷口をまもってあげる必要があった。
「千里、血が……」
 みくに言われて千里は額から頬へ一筋の血が流れているのに気付いた。

「なにっ!?」
 余裕の表情でデルタメガの上に降り立ったシボレナは、そのコクピットの中に三人しかがいないのを見て瞬きをした。
「ええい、メガイエローとメガピンクは、どこへ行った?」
「知るかよ!」
 メガレッドの声にデルタメガが前進する。その肩に設置されたデルタレーザーがコクピットにあてられる。ガトリングブラスターほどの破壊力は無いが、剥き出しのコクピットの中に放たれるには充分すぎる威力だった。
「さあ、どこへ行った? と言っても、答えるわけ無いわよね?」
 シボレナはレーザーの銃身に飛び移ると、そこを歩いてコクピットの中へ足を踏み入れた。
「殺すんなら殺せよ!」ベルトに拘束されたメガレッドが叫ぶ。
「殺す必要が出たら、殺すわ」
 そういうと、シボレナはメガピンクの端末に手を伸ばした。

 メガシップの空調システムは集中式をとっており、二種類のダクトが動脈と静脈の役目を、集中クーラーが心臓の機能を担っている。ダクトは変形時に接続を変えながら保持される。クーラー本体は変形時に右足部分におかれ、クーラーまで降りれば、そこから地面に出られる計算だった。
「このはしご、どこまで続くのよ!」
 みくは声をあげた。ロボの首元から股間部分まで続くC2ダクトのはしごは三十メートルにも達する。みくは千里の下を行っていたが、進度は遅かった。
「みく、下みちゃだめ! みく!!」
 千里が叫ぶ。最下部にはプロペラ型の換気ファンが設置されている。スーツなら耐えられるが、みくはスーツを損傷しており、千里にマスクは無い。高所恐怖症ではないのが幸いだった。
『メガイエロー、メガピンク?』不意にスピーカーから声が響く。
『あたしが誰だか解るでしょう。あなたたちの仲間はここにいて、いつでも倒せるわ』
「シボレナ!」
『今から通信を一回線オープンにするから、さっさと降伏しなさい。しなければ、レーザーを起動させるわよ』
 ギャラクシーメガの中では、無人エリアの廊下やバックヤードに何基もの小型レーザーが設置されている。クネクネが攻めて来た時のための防御用兵器だった。
『5』
「みく、いそいで早く!」
『4』
 もちろんダクトにもレーザーは設置されている。死ぬことは無くても、傷つけばはしごから転げ落ちる。転げ落ちれば換気ファンに巻き込まれることになる。
『3…往生際が悪いわね…2』
「みく!」
『1…もう無理ね』
 ゼロという声とともにレーザー始動を告げるアラームが鳴り響く。すぐ近くのシャッターが開き、メガスナイパーの半分ほどの大きさの銃口が露出する。
「きゃっぁ!」
 黄色い背中をなぞる様に熱いものが感じられる。スーツを貫通したり傷つけたりはしないようだった。
「ああぁ!」
 みくの場合は運悪く傷口にレーザーが命中する。露出した肌が一瞬で焼けどを負い、足が宙を浮く。
「みくっ!」
 千里はとっさの判断で足をはしごにいれると、空中ブランコの要領で足の関節を引っ掛けて180度曲げ、背中を翻してさかさまになると、手すりを滑りぬけるみくの腕を掴んだ。
『今なら、まだ間に合うわよ』
 シボレナの声は二人のことを知ってか知らずか余裕だ。
「はう!」みくの腕をレーザーが見舞う。
 みくは千里の手を取れば落ち、このままでは埒があかない。しかも二人の汗はグローブをぬるぬるさせ、二人の体重のかかった手すりがメキメキと音を立てている。
「千里、レーザー!」
 レーザーはゆっくりと銃身を回転させるとメガイエローの足の付け根に向かって放たれた。
「きゃっあああああああ!」
 ちょうど女性の弱い部分に命中したレーザーにスカートがこげ、千里がか弱い声をあげる。わずかな力の緩みにみくの体がするりと抜けかけ、硬直した体が手すりのヒビを破壊する。
「あっ……」
 メガイエローとメガピンクは手すりを離れ、スローモーションに変わった。千里とみくは互いの顔を見ながら、ファンがゆっくり迫っていた。
 ガン! ダダダン! 燃え上がるような痛みが体をしめつけたが、まだ首は繋がっている。
「あれ?」
 目の前にメガピンクのマスクがある。彼女も大丈夫なようだ。頭を振り意識を戻して見回すと、ファンのすぐ上に落下防止の金網が設置されていた。
 ガガガン! 突如として上から卵型の物体が降ってきた。メガイエローのマスクだった。

「子ネズミさんたら、どこへ行ったのかしら?」
 シボレナはサディスティックな笑みを浮かべてディスプレイを見ていた。
「おまえら、メガイエローとメガピンクをどうするつもりだ?」
「どうもこうも、五人並べてロボが町を壊す様を見物させてあげるのよ」
「ネジレジアの幹部がそれだけのケチな願いしかないのかよ」
 メガブルーの声に、シボレナがサーベルを首筋にやった。
「そのあとで、デジタル変身を解除して、ここから突き落としてあげるわ」
「全く、悪趣味には付き合いきれないぜ」
 シボレナのメガブルーへの視線はどこか好色めいていた。
「可愛いぼうやたちだこと」
 ディスプレイにギャラクシーメガの気密が破られたことを示す警告が現われ音を立てた。
「ずいぶん早かったわね」

 千里はマスクをつけ直すと、みくとともに本体の検査用の階段を下りて行く。全身を殴打してとても動けるような状態ではなかったが、今はとにかく逃げることだけだった。かかとの部分に達すると、外へ通じるバルクハッチの前へたどり着いた。
「開いた」
 スクリュー型のロックをはずすと、外には閑散としたオフィス街が広がっていた。
 潰れた地下鉄駅、燃えた車、割れたガラスに倒れた木、千里は数メートル離れると、頭をあげ敵に奪われたギャラクシーメガの姿を見た。その瞬間、顔がゆっくりこちらを向いた。
「メガイエロー!」
「気付かれた?」
 今出てきたばかりの足が動き始めると、二人へ迫った。伏せると、そのすぐ上を足が通り過ぎ、半壊した雑居ビルに激突する。
「みく、こっち!」
 足とは反対の方へ駆け出し、距離を取る。しかし、ギャラクシーメガがいたのが四車線道路の上で、路地に入れば退路が塞げる危険性があり、道路上にいれば、その姿は丸わかりになる。
「そうだ、サイバースライダー!」
 千里がサイバースライダーを呼ぶと、メガイエロー用のボードに二人で飛び乗り、最大推力を出すように指示をした。

「馬鹿ね」
「やめろ!」
 メガブラックの抗議にシボレナはわざと迷うような仕草を見せた。

 反重力ジェットボードはバックファイアを出して五十メートルほどまで上昇した。
「あっ!」
 宇宙空間を飛行するときに足をロックする固定具がメガイエローの足を捕まえる。
「まさか!」
 バックファイアはたちまち途切れ、速度がたちまち鈍りゆっくりと旋回しはじめるとギャラクシーメガの方向へ向いてのろのろと飛行し始めた。
 ギャラクシーメガから操作すれば、サイバースライダーを操ることなど他愛も無かったのだ。
「メガピンク、降りて!」
 メガイエローはとっさに振り返ると仲間に促す。
「で、でも」
「とにかく早く!」
「わ、わかった!」
 メガピンクが地上へ向けて飛び出すと、下から現われたギャラクシーメガの腕がのろのろ飛行するサイバースライダーを捕まえた。
「千里!!!」
 サイバースライダーが真っ二つにへし折られ、黒煙の中にメガイエローの華奢な身体が消えた。

「メガイエロー!!!」
 残骸が落下するとシルバーに磨き上げられた手の中で煤けたスーツのメガイエローが姿を現した。
「今更、負けを認めても遅いわよ」
「だ、誰が!? ……あうっ!」
 メガイエローの身体を鷲づかみにさせると、ゆっくり下へ下ろした。十階建てほどのビルの屋上にメガピンクがいる。

 みくは腕が迫ってくるのを見ていた。その中にメガイエローがいて、バンザイの姿勢で抑えつけられている。
「スーツを壊さずに、この娘の骨と肉をめちゃくちゃにするのなんて簡単よ!?」
「ヤメテッ!」
 みくが叫ぶと、ギャラクシーメガの反対側の腕がメガイエローのマスクと掴み、頭だけを掴んだまま身体の抑えを解いた。
「やめて! えい!」
 あんなことをされれば、首がもげてしまう。メガピンクが飛び立つと、デルタメガの腕がぬっと覆い被さってきて気付いたときには衝撃と共に地面に激突していた。
「あぅぅ…ぁぁ……」
 顔をあげると、砂塵を巻き上げながら、どちらかのロボの足が迫ってくる。
「いやぁああぁっ!!」
 ガラスやコンクリートの破片と共に数十メートル投げ飛ばされ、目の前が霞む。瞬きをする中で、宙ずりにされたメガイエローに向けて、ギャラクシーメガの足がせまる。
「やめてええええぇ!」
 卓球を蹴り上げるようにしてはね飛んだ黄色い体が、みくの五メートルほどの場所へ落ちた。動かない……死んだ?
「メ、メガイエロー……」
 右足が……動かない。みくは足を引きずり彼女のもとへと急いだ。千里はぐったりして動かない。マスクが両側からの圧力に変形し、バイザーが外れていた。その中に血まみれの千里の顔があった。
「千里! しっかりして! 千里!」
 咳き込むような音、顎のあたりから滴り落ちる血、瞼がよわよわしく動く。
「み、みく……?」
「千里!」
 ザザザッ! 音に横目を見やる。
「あたし……もう……」
「千里!?」
 ギャラクシーメガの手があたりの砂や破片ごと二人を掬いあげる。
「シボレナ、何が目的なの!?」
「レッド、ブルー、ブラックの前であなたたちを潰してあげるわ。虫みたいにね」
 蟻地獄のように砂や破片が指の間から落ちていく。最後にわずかばかりの砂と二人だけが腕の中へ残っていた。みくは千里の身体をしっかりと抱き、目をつぶった。二枚の壁が迫ってきた。
「はうぅ!」