戦慄!吸血の廃病院
ネジレ反応を示した深い森の中――電磁戦隊メガレンジャーの五人は、それぞれに分かれて、敵の行方を捜索していた。
メガイエロー/城ヶ崎千里は、リーダーであるメガブラック・遠藤耕一郎とともに、反応を示す方向へ密林の奥へと進んだ。
「反応はあったか?」
「ううん、ぜんぜん」
メガイエローはデジカムサーチ――向かう先を頭部のコンピューターからサーチビームを行く手に照射したが――薄暗い森は、さっきまであったはずの反応を、それがまるで幻であったかのように隠してしまっていた。
「湿ってるせいで、ビームが奥まで届いていないのかも」
千里はマスクの耳に手をあて、バイザーに投射された情報をオフにした。さっきまで雨が降っていたらしく、森全体が水気を帯びているようで――そんな環境では、コンピューターを用いた捜索にも限界があるようだった。
「困ったな。通信も途切れがちで、このままじゃバラバラになりかねない」ブラックは腕を組んであたりを見回す。「一度、戻って対策を練り直す必要がありそうだな」
「それもそうね」
メガイエローもまた、腕を組んで辺りを見回した。足元はところどころぬかるんでいて、ブラックの下半身は泥まみれといっていい状態だった。昼過ぎにこの森に入ってもう二時間、太陽の光は西から差していた。
「どっちにしても、ちょっと休まない」
「そうだな」
いつもの彼なら、敵がいるかも知れない場所で中でとんでもないとか言いそうなものだったが――彼も少し疲れた様子だった。それでも用心深い彼らしく立ち止まると、あたりをさらに見回した。
「INETの情報の間違いなんじゃないか、ってメガレッドが言ってたことにも、一理あったかもな」
森に入ろうとしたとき、深い茂みをみて面倒くさそうな感じでレッドが言ったことを思い出して、ブラックは首を回す。
「ああ見えて、勘が鋭いから」
「だな――」
千里も立ち止まって、屈伸して伸びをした。鮮やかなイエローのスーツは、水気をまといつかせた木々に触れてきたせいかびっしょり濡れて、細かい水滴が梱包材のぷちぷちのようにまとわりついていた。ブーツもグローブも土くれで汚れ、特に手の平はあちこちつかんだせいか、茶色と黒とが混ざっていた。
「メガイエロー。動くな」
彼がふいに声をあげ、足下にしゃがみ込んだ。
「えっ」
「なにかついてる」
ブラックは彼女の左の股に手を伸ばし、そこに張り付いた何かを掴んだ。プチッ、痛みのない何か感覚がする。彼の手が持ち上がってきて、ぬるついた何かが見えた。
「なんなのそれ。気持ち悪い」
「ヒルだ」
イエローは身体をひねって、左の内股――彼のふれたあたりをみた。土くれがところどころついて、汚れになっていた。
「普通のヤマヒルだろう――あっ」
その身体は相当柔らかいらしく、ヒルは身体をこじらすと、彼がなにもしていないのに身体を二つに裂いて――絶命したらしかった。
「ヒルっていうことは血を吸われたってこと?」
「メガスーツを着ていたから、大丈夫だろう」
「でも、そのヒル真っ赤――」
彼の手には絶命したヒルがいて、べっとりとした血が滴り落ちていた。「ああ、でも、メガスーツを着てたんだから、こんな小さな生き物に貫通されるはずがない」
彼はそのヒルを地面に捨て、近くの木の皮で指を拭った。
「でもなんだか不安」
「戻ったら検査してもらえばいい」
どこか他人事の口調に、千里は反論しかけて――口をつぐんだ。彼は悪い人じゃないけど、そういうデリカシーはいまいちなくて――でも、そのことを指摘したところで――握りかけた手を開いて、軽く腰のあたりを指でたたく。
「そろそろ暗くなるし、山をくだろう」
「ええ、通信は」
「ダメだ」
ブラックは耳元に手をやっている。今日は一日中デジタル回線の調子が悪い――朝にも、みくが携帯電話がつながらないとボヤいていて、どうやら今日一日、電話という電話はこの調子らしかった。
もの来た道にきびすを向ける彼の後姿を見て――イエローは不意に手を伸ばした。
「ちょっと待って。わたしたち、両方ともヒルかそれ以外の虫がついていないか確認した方がいいわ」
「――そうだな」
やれやれといった様子で、彼は出しかけた足を引っ込める。お互いに向き合い、順番に身体を上から下へ調べていった。
結果、メガイエローの肩の肩胛骨のあたり一匹がいて、メガブラックの尻と背中に計三匹がいた。二人は手を伸ばしにくい場所にいる虫をそれぞれの身体から剥がし――千里は背中にチクっという感覚を感じ、ブラックの背中から剥がしたとき、スーツの表面がぬめっとした液体で覆われているのを認め――それは血のように見えたけれど――でも、結局は変身を解くわけにもいかず、森を降りなければどうしようもないことを確認しあっただけだった
「ねえブラック、あれ」
「クネクネだ、隠れろ」
山を降りる途中――ブラックとイエローは下から全身紫色のスーツの戦闘員――クネクネたちがあがってくるのを認め、手近な茂みに潜り込んだ。そこは大量のダンゴ虫やムカデなんかが蠢いている暗がりで、千里は思わず声をあげそうになったけれど、なんとかこらえた。
彼らがメガレンジャーに気づいた様子はなく、そのまま山道を二人が来た道を反対に登っていった。
「どうやら、俺たちが奴らの先を行っていたらしいな」
「ええ」
クネクネが完全に見えなくなってから、二人は茂みを出た。ブラックは自分の出した結論に、もっともらしく頷いている。メガイエローは、さりげなく体を見回して、まとわりつく虫なんかを払い落とした。
この森のなかにいると――体中を虫が這うような感覚がして――それがこんなとき素肌にぴったりフィットするメガスーツでは、まるで素肌の上をはいずり回されているような気持ち悪さを覚えさせた。
嫌悪感に顔をしかめそうだったけれど、目の前のリーダーにそんなことを言えば、敵がいるのにおまえはみくかと、説教をうけてしまうだろう。
「どこかへ向かっているようね」
「追いかけよう」
彼らは来た道を戻る格好になった。それは軽い上り坂で――千里は頭上をみあげた。山に囲まれたその場所はすでに、さっきより太陽の光がだいぶ弱まっていて、うかうかしていると夜になってしまいそうだった。
クネクネまるでハイキングを楽しむかのように山を上って降りてを繰り返して――少しずつ奥へと分け入っていった。
二人は戦闘員に気づかれないように距離をおいて、追跡をかける。敵は暢気でロクに後ろを捜索している様子すらなく、だから後を追うのはそう難しいことではなかった。
空はまもなく、夕暮れに変わっていく。さっきまではいったん戻ろうそう言っていたブラックも敵を近くにとらえては、さすがにそうは言っていられない様子で――千里は少しずつ暮れていく空に言いしれぬ不安を感じていたけれど――谷間に立った廃墟に彼らが消えていくのをみるにつけ、あとに引けないと思うようになっていた。
「あそこが奴らの基地だな」
「たぶんそうね」
その場所が見える梢の隙間はわずかしかなく、二人は密着しそうなほど体を近づけて、顔をのぞかせた。それは山奥にあるというにはいささか不釣り合いな鉄筋コンクリートの建物で――山道しかないその場所にどうやってそんな建物をたてたのか不思議に思えた。
「みんなを呼びましょう」
千里は言ったが、結局通信はぜんぜん入らなかった。呼びに戻っている時間はないはずで――通信ができるならサイバースライダーを呼ぶとかそういうことができるのに――電装がダメであれば他にいい案があるはずもなく、結局中に入って様子をみよう、ということになった。
森は三階だてのその建物を包み込むように鬱蒼と茂っており、建物の手前でけが不自然に開かれたスペースとなっていた。さっきのクネクネ以外に敵らしき反応はなく、彼らは梢の間から身を踊らすと、ホルスターからメガスナイパーを抜いて、廃墟の壁に背中を寄せた。
「いくぞ」
「うん」
さきほど入っていた扉は、ドアがなく真っ黒な穴を明けていた。空に木星が光っているのが見えて、まるで千里の気持ちを映すように不気味に瞬いていた。
二人は穴の縁から中の様子を伺い、まもなく中へ入った。
「奴らどこへいったんだ」
この建物が基地じゃなく、ただ通りすぎただけじゃないか、ブラックがそういうことを言ったが、メガイエローはそうとは思えなかった。
建物は入ってすぐのところに階段があったが、半ば以上崩れかけていた。クネクネたちが上へ向かった様子はなく、その背後へ進むと、今度は案外しっかりとした地下室への階段が姿を見せた。
「たぶん、こっちよ」
「こっち?」
「微弱なネジレ反応が出てるわ」
千里は言った。廃墟なのに、その地下室への階段はわずかに明かりが灯されていた。反応は微弱だが、ネジレ反応もあって、ほかに人気はしなかった。
「行くしかないな」
コンクリート階段の下には、廊下が現れた。左右に扉があったけれど、どれもふさがれており、一番奥にある観音開きの扉だけが口をあけて――ごみ処分場、薄汚れたプレートに古い手書きの文字が書かれていた。
「どういうことだ」
中は古い焼却炉と、前から置かれていたらしい木箱がいくつかあるぐらいだった。不気味な場所だが、敵の気配は――
焼却炉の後ろから足音が聞こえてきて、二人はあわてて木箱の背後にまわった。
「メガレンジャー抹殺計画は進んでいるの」
「ご安心ください、シボレナ様」
彼らは声に耳を傾けた。足音のするほうにまだ見つけていない通路があるらしく、そこからネジレジアの女幹部シボレナと――ネジレ獣の声がして、それに先ほどのクネクネたちが続いている足音がした。
「すでに獲物はとらえてあります」
「それはいいことね」
「獲物? どういう――」
「し、静かに」
シボレナとネジレ獣たちは焼却炉の前までやってくると、クネクネに扉を閉めるように命じた。蝶番のさびた扉はいやな音をたてながら、内側に向けて閉じていく。
「さぞかしおもしろい見せ物になることでしょう」
「メガブラック! メガイエロー! そこにいるのはわかってる! 出てきやがれ!」
木箱に跳ね返える言葉をきいて、ブラックとイエローは舌打ちをせざる得なかった。彼らはメガスナイパーを構えると、木箱の左右から躍り出て、銃口を向けた。
「全部お見通しってわけね、シボレナ!」
「こざかしい作戦をたてやがって!」
二人の目線の向けた先には、シボレナとクネクネ、それに真っ赤に膨らんだ玉をいくつも身体につけたネジレ獣が立っていた。
「ふふふっ、おばかさんたちの遠吠えね」
「もうおまえ等はここから逃げられない。このヒルネジレ様の餌食になるだけだ!」
ヒルネジレと名乗ったネジレ獣は、真っ赤な球を不気味に光らせながら、暴れ馬のように頭を振るっている。
「そんなに簡単にいくわけないじゃない!」
「そうだ――その自信叩き潰してやる!」
「クネクネ、やれ!」
ヒルネジレの背後にシボレナが立ち、クネクネたちが向かってくる。メガイエローとメガブラックはそれぞれにクネクネに向かった。
「やあ! とう!」
「えい!」
メガイエローは左右からやってきたクネクネに蹴りを食らわすと、三体目にメガスナイパーの光線を浴びせた。目の前が開けると、ブラックの背後にクネクネが回り込んでいるのが見え――その方向に向かって、引き金を引いた。
「気をつけて!」
「すまん、メガイエロー!」
ブラックの動きはいつもの精彩さを欠いているように見えた。クネクネは焼却炉の後ろからあふれるように現れ、次々にブラックとイエローに襲いかかってきた。千里は次々に敵に向かって蹴りを食らわせていく。
バラバラになったらやられてしまう――メガイエローは目の前が開けると同時にブラックのもとに向かおうとして――ヒルネジレに背中を向ける格好となった。
「逃がすか!」
ヒルネジレがイエローの背後に迫ると、背中に拳で殴打を加えた。
「ああああっ!!」
とっさのことにまともに対処もできずに、背中から火花をとばしたメガイエローの身体は空中を一回転する。持ち前の反射神経で、なんとか着地して敵と相対する。その瞬間、真っ赤な膨らみのいくつかが、ゆっくりとネジレ獣の身体から離れると、いくつもの小さな塊に分かれて、メガイエローに向かって襲いかかってきた。
「きゃっ!!」
ブツブツブツッ! と矢継ぎ早にあたってきた小さな赤い塊はメガスーツの表面にぶつかった。首から胸元にかけての盛り上がり、右の二の腕、へそに、腰――ベルトを隔ててスカートから、右の股――それらはびっしりとまとわりついたメガスーツごしに千里の皮膚をひっぱりあげるように――吸いついてきた。
「これはヒル!?」
さっき、森の中で遭遇したヤマヒルそっくりな虫が数を百倍にもして、身体にまとわりついていた。メガイエローは二、三歩後ずさりする――
「その通りだ。メガイエロー、そいつは」
千里はそれらをはたき落とそうとするが、さっきのヒルと違い、それらは容易にはずれようとはしなかった。
「あああぁっ!!
次の瞬間、メガイエローの両腕にヒルネジレの腕が伸びて巻き付いてきた。
「メガレンジャーのエネルギーを吸い取る働きがある!」
鈍い光がメガイエローの身体を包んだかと思うと、引っ張り上げる感覚が強くなり――ある種の痛みへと変わって、ぼやけた感じとともに眼球の背後に真っ赤な色が浮かんだ。
「きゃあぁぁぁああっ!! あああっ!! 身体が痺れてくるっ!!」
プチプチッと身体のあちこちから破裂するような音が聞こえた。ヒルたちはさっきよりもいくらか大きくなり、真っ赤な袋を広げている。
「ああぁあぁっ!! あああだめっ!」
身体を震わせながら、メガイエローはそのまま地面に倒れ込み、一瞬正座をすると、そのままうつ伏せに倒れる格好となった。千里は首を小さく振りながら、腕で胸を抱いた格好になって、手足を小さく引き寄せた。身体を動かせなくなりそうで、でもなんとかヒルに手を伸ばして、そのやわらかくぶにぶにした感覚を剥がそうとした。
ヒルは指の中で小さくつぶれて、真っ赤でどろっとした血をべっとりとしたものグローブに滴らせた。一匹、二匹――数十秒後には手は真っ赤に染まり、でも、体中に沸き立つ焼けるような感覚は少しもゆるむことがない。
「血が吸われてる――でも、メガスーツを着てるはずなのに」
目の前の事実を否定しようと、ヒルを引き剥がす――ヒルは剥がしても剥がしても減ることがなく、剥がすたびに少しずつ皮膚に感じる感覚が強くなってきて、右肩が真っ赤になった頃にはスーツの内側から染み出た血が黄土色を広げはじめたそのとき――ひどい貧血状態が脳裏に満ちるのがわかって、指先が震えるのをとめられなかった。
「ああぁっ! ああぁっあぁ!」
目もくらむような感覚――真っ赤に染まった脳裏とは逆に視界は少しずつ白く染まっていくようだった。千里は身体を震わせながら、その身体にまとわりつく赤くはれぼったい感覚をなんとかして拭おうとした。
「剥がしたらダメじゃないか!」
「ああぁっ!!」
ヒルネジレは腕をそのまま上へ向けると、倒れたメガイエローの身体を仰向けにして万歳の格好にさせた。ぽとぽとと、手の中にあったヒルの死骸がこぼれ落ちてマスクのバイザーに真っ赤な斑点を作った。
「もっと、エネルギーを吸い取れ、子供たちよ!」
「あああああぁぁっ!!」
鋭い音とともに触手が帯電して、その瞬間メガイエローの身体を激しい電流が見舞った。メガスーツの表面を上から下へと走った電撃は鮮やかななスーツの表面を激しく責め立てていく。それらを浴びてヒルはさらに激しい光を放ち――さらに剥がしたところは針で滅多刺しにしたような激しい痛みを帯びた。
「はうっぅ!! きゃあぁあぁあっ! ああぁあ!!」
びくんびくんと電撃の発光度合いによってその身体は意志とは関係なしに跳ね上がる。人間であれば即死を免れないほどの電撃も、メガスーツによってまもられていたものの――スーツの破損と、蓄積していたダメージによって、少しずつ壊されようとしている。
電撃が止んだ後、鼻を突くようなプラスティックかなにかの焦げるいやなにおいとともに、千里は暗澹たる思いを抱き――そして、同時に激しい疲労感を感じた。
「あああぁっ――どうしあら」
マスクの中で少女の顔がゆがむ。ブラック――彼の姿は見えず――千里は仲間の行方を案じた。彼女は息を整え立ち上がろうとしたが、触手によって引っ張られ――次の瞬間には、壁際にYの字につま先立ちをさせられてしまう。
「どうだ、オレ様のヒルの味は?」
「最低に決まってるじゃない!」
「そうか、じゃあ、もっと最低にしてやろうじゃないか!!」
ヒルネジレはそのぶよぶよに膨らんだ手をメガイエローのスカートの内側に持って行った。
「きゃっ!!」
「まだ、そんな反応を示す余裕があるとはな!!」
ヒルネジレはそういうと、その身体をスーツごしに激しく撫でつけはじめた。激しい嫌悪感に千里は声をとがらせる――ぐいぐいと不躾な手を動きは――身体にまとわりつくヒルそのものだった。
「や――やめなさいっ!!」
声を荒げて何かを否定するかのようにメガイエローは首を振る。ヒルネジレはバイザーに顔を近づいて、その濁った目でマスクの内側をのぞき込むような視線を送る。
「やめろとはなんのことだ! オレはおまえの身体に触っているだけだぞ!!」
触っているだけなんて嘘もいいところだった――千里はそのネジレ獣の嘲り声を聞きながら、唇を噛んだ。撫でつけるような動きは的確に彼女の感覚の中枢に達するとそれをスーツごしに――ほとんど素肌に触れられているのと同じ感覚とともに、ヒルの口先を向け、激しくそこを責め立てていた。
「ああ――なにこれ――ああいやっぁっ!!!」
ふいに声が吹き上がるような身体が焦がれる感覚を抱いて、彼女は顔を歪める。敵の手は猛烈に熱く感じられた。そこから血を吸われているみたいに――すぐにも身体の内側の熱くただれるような感覚はぐちゅぐちゅという水の音を体の中で音が響くのを感じ――千里は頬を真っ赤に染めて体を震わせた。
「熱い――いや、あぁっ」
声が漏れ出てしまい、口を噤んで上を向く。目の前には怪物が立っていて、指先がさらに彼女の身体を強く責め立てていく。
「熱いだと! メガイエロー! 感じてきたな!」
「そ、そんなこといやっ! やめなさいッ!!」
語尾は激しくかき混ぜる音に変な鋭さを帯びた。グチョッ! さっきとは別のいびつな音が響いて、千里はその音とと動物のにおいに体中を針で刺したような羞恥に彩られる感覚に包まれた――悦楽がすぐ目の前の真っ赤な塊のように膨らんでいるのがわかって――熱く焦がれるような感じがして、どうにもとめらなくなりそうだった。
それは感覚と関係なしに、本能が駆り立てられているみたいで――ヒルネジレの腕は――『そこ』から直接血を吸い取っているの――そのイメージを抱いてしまった瞬間に、彼女は拘束されているにも関わらず、腰をくねらせ、頬を高潮させるのをとめられなかった
「あああぁあああぁぁっ!!」
悦楽が高ぶって、全身にあふれ出た――そんな感じで、彼女はメガスーツを着用したままぶるぶると震えた。胸を張り、まぶたをきっと開くと、その胸の頂点で二つの蕾がそのスーツごしだというのにハッキリとした形を抱いていて――黄色く輝くその右側に一匹のヒルがやってくると、血が吸われ始めた――そうされているのに、さっきまでのかさぶたをはがされるときのような感覚はなく、その吸血に身をゆだねたい意識に一瞬押し流されそうになる。
「あああぁぁっダメ! 胸はダメっああぁあっ! ああぁあぁッッちゃうぁぁあぁぁああああ!!!」
快楽の渦は気づいたときには、全身を包んでいた。ヒルはメガイエローの胸に吸い付くと、彼女はひくひくと痙攣を繰り返させた。マスクの裏側で激しく息をつく彼女は口元をゆがませ、でも目元は緩み、はあはあと激しく息をつきながら動くことができず、身をゆだねることしかできなくなっていた。
「うぐっ! あああっ!!」
クネクネの連続攻撃に壁際に追いつめられるメガブラック――
「なんて数だ――」
文化系の研究会に所属していても、運動神経には自信がある彼だったが、クネクネの数を頼りにした攻撃に、次第に壁際へ追いつめられようとしていた。
「どうしたのかしら、メガレンジャーのリーダーともあろうものが、クネクネごときに圧されているなんてね!」
シボレナはクネクネの間に入ると、サーベルの先端から鞭のような光線を発射して、メガブラックの胴をぐっと締め上げた。
「うわああっ! なにをする!」
拘束され無理に立たせられた彼の身体から火花が相次いでほとばしる。バイザーに映し出されるダメージ画像――火花は瞬く間に爆発といっていい勢いへと変わっていく。
「あああああぁあっ! やめろっ!!」
激しい火花はすぐに炎へと変わり、そのガスバーナーを思わせる火勢に焼かれ――それらが黒い煙へと変わると――彼はうめき声をあげながらその場に崩れ落ちた。
「くうあぁっダメージが――クソ!!」
「ダメじゃない。メガブラック。そんな下品な口をきいては」
シボレナはうつ伏せになったメガブラックのすぐ近くまで歩み寄ると、声を浴びせた。腕をその足へと伸ばしかけるブラックだったが、左右から現れたクネクネが、その体をがっちりつかむと左右から彼を持ち上げる。
「はなせ! うぐっ!!」
彼の要求への返答は、シボレナの拳で返された。くの字に折れる黒焦げの身体――「次は、これでどうかしら!」
うなだれる彼に向かって、シボレナは投げキスを与える。唇模様が空中に浮かぶと彼の身体をその桃色の光が包み始めた。
「うわああぁあっ!! なにをする!!」
「決まってるじゃない!」
シボレナはメガスーツの上からブラックの股間に手を伸ばした――その股間にある生殖器をシボレナの指先が包み込むように握るとピストンし始め、それに従って、彼を包む桃色の光はマスクを包み、その内部へと吸収されはじめた。
「うわああぁっ!! うわあぁあっ!! やめろっ!!」
「メガイエロー、正義を語るあなたも一皮むけばただの女ね」
不意に投げかけられた声に、千里は冷や水を浴びせられるような感覚を覚えた。それでも、身体を包む倦怠感と、反面鋭く疼く感覚が鎮まることはなかった。
「ち、違う――」
目線の先にシボレナのブーツが目に入った。千里を首を振った。首の付け根のあたりが痛くて、まわりにはヒルネジレやシボレナだけじゃなく、クネクネなんかも立っているようだった。
「そう、ヒルネジレにイカされて、無様に倒れているだけの女じゃない」
「違うわっ!」
よろめきながら立ち上がろうとする彼女の尻をクネクネらしき足が蹴り上げた。
「あああっっ!!」
そのまま投げ出されるように目の前に倒れるメガイエロー。
「クネクネにもそんな無様に蹴られるだけのあなたが、それでも、正義のヒロインを気取るのね、無様なことだわ――」
「くっ……」
彼女は顔を歪めて目に涙を溜めた。
「さあ、来たわ」
声に視界の外がかすかにざわめいて聞こえた。漂ってきた異様なにおいに彼女は顔をあげる――
「メ、メガブラック!」
視線の先で、彼女の仲間は両脇をクネクネに固められて立たされていた。彼はそのマスクを剥がされ、遠藤耕一郎の素顔を露出させていた。スーツは黒い色なのに猛烈な炎であぶられたのが一目瞭然で、顔は何回もクネクネに殴打されたらしく、埃にまみれ、あざと血をこびりつかせていた。
「メガ、イエロー……」
耕一郎は弱々しく笑った。絡まったままのヒルネジレの腕が後ろからメガイエローを立たせる。
「メガレンジャーはぼろ負けだ」
「そんなことない……」
「メガレンジャーのリーダーは、クネクネなんかに敗北したわ。さあ、あなたも負けを認めなさい」
「いやよ! わたしは……わたしはっ!! はうっ!!」
手近にいたクネクネがメガイエローのマスクを殴打した。いかにも軽そうなパンチだったが、それによって首がもぎとれそうになるほど、彼女は首を曲げられてしまう。
「こんなことされたって」
「じゃあ、これならどうかしら」
メガブラックはシボレナの合図と同時にクネクネによって、メガイエローの前にひざまづかされた。
「なにをするんだ!」
声を荒げてはいるものの、その動きは反抗的ではなく、彼の心が半ば以上折れているのを知、千里は顔を青ざめさせた。
「さあ、メガブラック、メガイエローを口でしてあげるのよ」
「ダメっ!! メガブラック! ダメだから!!」
彼の後頭部にクネクネがメガスナイパーの銃口を突きつける。彼は顔を強ばらせていた。その無骨な顔が――クネクネの一匹がその頭をつかんで、千里の足の付け根に無理矢理押しつけはじめた。
「うううっっ」
彼は何かを言おうとしたが、顔をおしつけられていたせいで言葉にはならなかった――その息がスーツごしに吹きかかるだけで、絶頂を迎えたばかりの身体はまた先ほどの甘い痺れを思い出したかのように震え、彼女は足で内股を描くのをとめられた。
「うううっ……あぁあぁっ……あぁあああぁ……ダ、ダメッ!」
「敵にされるより、こちらのほうがいいでしょ。さあ、さっさと、メガイエローをイカせるのよ!」
顔はごつごつしていて、その鼻筋があたって――そのたびに、熱情が再びまるでボタンを押しただけで動き出す機械みたいに、燃えさかりはじめた。
「ダメェッ!!」
股間に押し当てられた顔はくちゅくちゅと蠢き、一度消えかけた炎はあまりに些細な動き一つで、再び紅蓮の炎へと変わっていくようだ。彼女はまぶたを見開き、何かを否定するかのように首を震う。
「ブラックダメっ――」
「ブラック、仲間のマ×コをなめなさい!」
彼の瞼のうごき、鼻息呼吸――そして、そのすぐあとに遠慮がちに舌が差し出されてきた――彼があんなにプライドの高い彼がこんなに短時間で屈服した――千里はショックと怒りを覚えた。だけど、怒りは身体を燃え上がらせる材料にしかならず――彼女はメガスーツのあちこちを敏感にしながら、腰を揺らし、ここから逃げ出すすべを――
(もう、エネルギーがない――)
ヒルによってエネルギーの大半を吸い取られ、コンピューターは機能を停止していた。それによって、コンピューターによって補正されているスーツの耐久度は、本来の生地素材が持っている程度に低下していた。それなのに、それだからこそか、感覚がダイレクトに伝わってきて、伸縮するメガスーツは彼の突き出される舌の感じを――陰淵から奥底へ転げ落ち、ずるずると抽送を繰り返すそれを――いやらしく、感じさせた。
「ああぁあぁっ……いや、メガブラック、正気に戻って! ああぁっ――!」
「ほら、メガイエロー、かなり追いつめられているじゃない」
声のする方向にシボレナがいた。千里は目を細め、口で二、三度呼吸を繰り返す。感覚は時間を減るごとに強くなっていく。敵に見られて無様な醜態をさらしている。そのことがたまらなく悔しくて、でもそのことがかえって――いやそんなまさか――理性が真夏のアイスクリームのようにどろどろに変わっていくのがわかって、一度爆ぜた熱情はいとも簡単に再び解けようとしているのがわかって――クネクネがメガブラックの頭をわし掴みにして、鼻の頭を蜜壷にこすりつけ上下に動かしはじめる。
「ああぁっ! あああぁっ!!」
「メガイエロー、おまえもサービスをしなきゃな」
ヒルネジレは絡みついた腕をまたもや発光させた。ぼやつく光に包まれると、彼女はさらなる困惑を感じた。熱く痺れは強くなっていく。血が吸われて、まともな思考が崩れていく。熱い。鼻の頭と舌が交互にぶつかりかき混ぜられて、ふっと飛びそうな感覚があって――次の瞬間に愛液がまただらりとこぼれるのを感じた。
「んぁあぁっ……ああぁあぁあっ!!」
熱はさらに強くなっていく。貧血のような感覚がそれらをまた強いものに変えようとしているかのようだ。メガイエローは確かに追いつめられていて――いつの間にか消えていたコンピューターの表示が何かまたふいにかすんだ視界の向こうで点滅を繰り返し始めたのをみて、その点滅にすら身体がゾクっと彩られるのを止められなかった。
「ああ! だめ! ダメダメダメェェェ!!」
熱い感覚は強くなっていき、マスクが真っ白な光に包まれて、次の瞬間――そのマスクが消滅すると同時に、その内部からぐっしょり濡れたストレートの黒髪と、城ヶ崎千里の素顔がさらされてしまう。
彼女は、身体の奥底で鳴る異様な音に身体を震わせる。
悦楽がブシャっといういびつな音とともに、潮吹き爆ぜ――すべてが一瞬のうちに真っ白く濁りのないものへと変わり、彼女は全身を放心させて、ぴくぴくぴくと激しく痙攣を繰り返し始めた。
「ふふふふっ、やはり、メガレンジャーといっても、ただの女じゃない!」
「よくも――ゆ、ゆるさない……」
千里は頬に汗で濡れた髪をまといつかせながら、声を震わせながらシボレナを睨みつけた。イカされ放心する間にネジレ獣の拘束が解かれていた。四つん這いにされ、彼女は体を震わせていた。
「戦闘力は消失、仲間にクンニされてイカされたヒロインなんて、ぜんぜん怖くないわ」
「うるさい!」
千里は、マスクが消失したことすら全く異に介することもなく、立ち上がる。グローブに包まれた拳を握り、嘲り声をあげる敵の女幹部に声をあげた。
「よくもこんなまねをしてくれたわね!!」
「あなたが戦うのは、わたしじゃないわ」
シボレナがいうと『彼』は、その間に立った。
「メガブラック!」
彼は、シボレナの命令に従っていた。千里の目に熱いものが溜まっていく。
「シボレナ、ブラックになにをしたの」
「簡単なことよ。この子の本能を引き出してあげたの――あなたとヤリたいっていうね」
「うそ――」
「うそじゃないわ。さあ、メガブラック! メガイエローをやりなさい!」
メガブラックは機械仕掛けのように構えをとった。千里は凛と構えていたが、こみ上げる恐怖心に黒く塗りつぶされそうな思いを味わった。
「うそよ――」
ブラックは次の瞬間、イエローの目の前に立つと、その顔に向かって殴打を二発繰り返す。暗転、鈍い音とともに彼女の体は地面に倒れる。
「あああぁあっ!!」
れた彼女が再び四つん這いにさせられると、ブラックの腕は背後からその黒髪を鷲掴みにして無理矢理に持ち上げ始めた。
「ダメっ! ダメよっ! メガブラック!!」
胸をもみはじめたその手は紛れもない耕一郎のもので、だから、千里はなおさら、頬を真っ赤に染めて、目を細めて、その横顔をみた。感情のない横顔、まるで手は機械のように動き、スーツごしに千里の胸をまさぐり、揉みくだし――乳首がはっきりその光沢の上に形を作り始めると、彼女は涙を浮かべる。
「ちさと――オレ、こうしたかっただ」
「うそよ! あなたは操られて――アア゛ッッ!」
スカートに押しつけられる彼の男根の固くそそり立った感覚に逃げようと身体を動かすが、もはや力を失ったメガスーツではガタイのいい男性から逃げることは容易なことではなく、足はずるずると逆Yの字に内股を描いていく。
「いやぁあっ!! ああぁあぁl アアアアァアッ!!!」
彼女の身体はエビのようにしなりながら、彼の拘束のなかへと落ち込んでいく。ブラックの股間の先から光がこぼれると、スーツはまるでゴムのように伸縮して、黒いペニスが浮き立つと、まるでコンドームのように彼の男根が千里の秘所へとずるずる音をたてながら収まってしまった。
「いやっ……あぁあっ……ああぁぁあ!! やめて、いやぁあっ!!」
声が止まらない。いつも凛とした言葉で敵に相対しているはずの――メガレンジャーのサブリーダーが、喘ぎ声をあげながら身体を震わせていた。男根は膣壁をずるずると入り込み、さらに多くの愛液を潤滑の為に供すことを繰り返した。
「あぁあぁっ!! ああああぁあっ!!」
何度もイカされた身体は、今更火照るのをやめようとはしなかった。波はさらにつよく大きく、まるで身体のなにもかもを焼き尽くそうとしてさらに濃厚な快楽を作りだそうとしているかのようだった。
「千里――気持ちよさそうじゃないか」
その声は溜まらなく下品で、全身が強ばるのを抑えられなかった。
「耕一郎! ヤメッテッ! こんなことってこんなことない――!!」
膣壁をずるずると入り込んでいくその男根は彼の身体を付きを反映したかのように、熱く硬く燃えさかっているかのように思われた。奥へ奥へ――入り込んでくるたびに、千里は汗が止めどなくあふれるのをとめられなかった。熱い。どうしようもなく熱くて、どうかなりそうだった。
「あああぁあっ! ああぁあぁっ!! ああぁぁっだめだめぇえっ!!」
熱い――どうしようもなく熱くて、なにも考えられない。体中がこれまでにない快楽で満ちて、真っ白に染まりあげようとした時、千里はそのままの状態で、背骨が折れそうになるほど身体を硬く強ばらせ――そして、これまでよりもより強い快楽を全身に覚えた。絶頂は、緊張と無の中から唐突に全身を包み込んでいく。
「あはははぁ……っはぁっ……」
息をつないだとき、千里は失神していたことに今更のように気づかされた。立ったまま、耕一郎に犯されていたのに、今は目の前に彼がいて、前から挿入され、乱暴に揺さぶられていた。そんなふうにされて、気持ちよくなるわけなんかない。なのに――なのに――千里は涙を浮かべた瞼を真っ赤に染めながら、声を漏らしていた。
「あああぁっ……あぁあぁっ……あぁぁあっ!」
声を漏らすうち、顔の筋肉が溶けて痛みが痺れになって、そのうち痺れも感じなくなろうとしていた。
(こんなことで負けるなんて――こんな最後なんて――でも、なにも考えられない――)
「はあぁっうううぁぁあっ!」
何度めかの絶頂。何度めかの囁き。千里はそのうちに半笑いになって、そうなるのを抑えられなくなろうとしていた。
(耐えなきゃ――でも、もう――ーはああぁんっぁあ!!)
メリメリメリッ――彼のペニスは鋼鉄のように硬くまっすぐで千里の性器の奥へと突き刺さると、その亀頭は乱暴に膣壁をえぐりねじり込み、そのたびに彼女の身体は吐血するように愛液を送り出し痛みを生み出していて――千里はそのたび声を出して反応してしまう。
身体を打ち付けられて、まるで人間の動きではない――杭を打ち付けられるような感覚は痛みを越えてぼやけた甘い感覚へと変わろうとしており――何度も快楽に飲まれた身体は、その身体を破壊するような動きでさえ、飲み込み――さらに強い快楽が巻き起こると同時に、絶頂を迎えた。
「ああぁあぁっ! はんあぁっ! ああんっ! ああんあんっ! ああああぁぁあぁあぁっ……んああぁぁあぁああぁあっ!!」
同時に彼のペニスもまた絶頂を迎えたかのようにひくひくと痙攣を繰り返し始めたのがわかった。
(き、気持ちよすぎる――だめ、もう、なにもでも――)
だらしなく口から唾液をこぼしながら、千里は彼に身体を預けるよりほかにできることはもうなかった。
「全く、あいつらどこほっつき歩いてるんだよ――」
「しかし、連絡が取れないのは妙だな」
「そうだよ、いつもなら、あたしたちが連絡取れないとすぐ怒るのに」
レッド、ブルー、ピンクが麓の駐車場にたどり着いたとき、夕日は山の向こうに沈もうとしていた。平日の昼間とあっては、その広い駐車場には車の姿はなく、彼ら三人のほかには人影すらなかった。
彼らは、敵を捜索して山の中を歩き回ったものの、結局ネジレジアの存在は確認できなかった。イエローとブラックとの通信が取れなかったが、三人で話し合い、いったん麓まで戻ろうと言うことになったのだが――
「待って! ものすごいネジレ反応!」
メガピンクが耳に手をあてると、不意に頭上を見上げて声をあげた。
「シボレナ!!」
なにもない空中が、不意に破けるように空間を開くと、そこにネジレジアの女幹部シボレナの姿が現れたのだ。
「メガレンジャーの残り三人に伝えるわ! ブラックとイエローはとらえた!!」
「なんだって!!」
シボレナの背後には十字架にかけられたイエローとブラック――マスクは剥がされ、胸と股間にそれぞれ金属製のビキニのような形のものを装着させられ、全身を震わせられていた。
「まだ二人は生きているわ。もし、この二人を返して欲しければ、地獄谷の廃病院までいらっしゃい! まあ、そこがあなたたちの墓場になるでしょうけど」
オホホホ、シボレナは甲高い声で笑い声をあげると、その映像は徐々に薄くなり消えていった。
「あいつら! ふざけやがって!!」
「待て、これは罠かもしれない!」
「罠だろうが、なんだろうが関係ねえ! メガブルー、おまえは仲間があんな姿で敵にとらえられているっていうのに見捨てて逃げられるのかよ」
「そうだよ! いますぐ行かないと!」
「オレだってなそれぐらいわかってるよ!!」
「よーし、じゃあ行くんだろうな!」
メガレッドはメガブルーに今にも掴みかかろうとしているぐらいの勢いで顔を近づけた。いったんは顔を背けたブルーだったが、仲間を見捨てることはできない――戦いにおける当然のルールに彼もまた背け続ける訳にはいかなかった。
「ああ、行く。二人を助け出さなきゃな」
「よーし決まりだ。メガピンク、行くぞ」
三人は、今まさに出てきたばかりの森にきびすを返すと、その足場の悪い山道を薄暗くなりはじめのその時間から奥へと戻り始めた。仲間を助ける。その意識に燃えた三人は、その尻や股にびっしりとヒルをこびりつかせているのには気づかなかった。一部は血を吹き、また別の個体は青い体液を痛みもなく、寄生した宿主に送り込んでいるものもあった。
彼らは血気盛んにあっという間に山を越えて、目標の谷へと達した。その少し前には再び通信の調子は悪くなりはじめ――INETととの連絡は全くできなくなってしまい――夜は更に暗闇を増していたのだった。