危ない!赤いバラの浸透(後編)
身体の穴という穴から緑色の糸蒟蒻状のものが顔を出していた。それぞれが意思を持ったかのように蠢いた。喉はぴくぴくと上下していた。生臭い臭いが辺りに立ち込めていた。
「身体がっ……」
電撃が身体を包み、音も無く変身が解除された。音をたて、ベージュのタイトスカートに液状のものが染みになって現われた。チェックのベストの表面に触手の凹凸が現われ、素肌とベストの間を這いまわっていた。
「ふふふふ……」
シボレナはサーベルをゆっくりとおろしていくと、そのチェックのベストに刃先を充てた。ボタンが跳ね裂けたベスト、下は白のシャツだった。そのところどころに青色の染みが出来ている。
「バラの聖水を飲めば、メガレンジャーも呆気ないわね……」
サーベルをあてるだけで同じようにシャツは裂けた。漂白したように白く染まった素肌の上に糸蒟蒻状の蔦が何十本も絡み付いていた。
「ふっふ…ぁ……」
口から唾液を流した千里はその胸を覆い隠すでもなく手足を投げ出していた。白煙が登った。薄い黄色のブラ紐が腋から袖口に落ちていた。カップがずれて、胸肉があふれ出ている。それはまるで、カップが胸を鷲づかみにしているように見えた。
「愚かな人間も、苦しむ顔は美しいわね」
シボレナは腰をおろす。その頬をなでブラを元に戻していく。蔦の粘液を吸って脆くなったそれは、不釣合いに見えた。やがて背中のホックが外れたのか、乳房が現われた。シボレナは微笑んだ。
「まだ、抵抗する元気があるの?」
「や…ゃ…ぃ……ぃ……」
シボレナの腕に力無く千里の指があてられていた。シボレナはその指を自らの口に含み、唾液で湿らせた。バラネジレとシボレナのDNAは全く同じで、唾液を得て蔦がにわかに蠢き、千里の身体を締め付けた。
「ぅぅぅうっ……」
その力に指がシボレナの手をすり抜け、身体の上へ落ちた。
「外して欲しい?」
眉間に皺を寄せた彼女がかすかに顔を横へ動かす。シボレナは指をブラのフロントにあてがうと持ち上げさせた。粘液がぽたぽた垂れた。現われた胸丘の表面に赤と青の毛細血管が浮き出て血液を送っていた。
「……はぁ…ふ……シシ…」
シボレナは戦闘服のまま、千里の身体に馬乗りになった。
「キスするわよ?」
シボレナは千里の口――糸蒟蒻状の蔦がイソギンチャクのようにはみ出た場所――に、自らの唇を重ねた。キスというより、その蔦を口に含むようにして唇全体を包み込んだ。
「んんっ……ん……」
蔦を扱くように咥内で上下させはじめると、全身の触手がしゅるしゅると収斂した。二本の足がそれに従って開かれていく。グレープフルーツを絞るように液体――粘液と血液と尿、排泄物がきつい臭いをたてながらその辺りに広がっていった。
「ふんっ!」
千里の愛淵から出てきた蔦の絡まりあったいぼいぼの重なった物体が、シボレナの同じ場所を突き上げた。彼女は腰を突き上げ身を捩った。粘液を吸い込んでたちまちにインナーショーツが要を成さなくなった。
「ああっ……あああっ!!!!」
胎内を下から上へ突きあげた物体はいぼを膣壁に擦りつけながら、その内部へもぐりこんでいく。シボレナは顔を真っ赤に染めて、口から唾液をたらしたが、にわかに我に帰ると、目の前にあるイソギンチャク状のものを口に含み、舌で狂ったようにしごぐ。
「っふっふ…!」
白目を剥いた千里はシボレナの行為に身を委ねるしかなかった。
「はっはっ!!」
傍からみると巨大な触手をシボレナは口に含み、それが千里の胎内をすり抜けて愛淵から表れ、それがシボレナの胎内で再び繋がっているようにも見えた。
「はあああぁっ!」
突如として爆発したバラネジレにメガサーベルでとどめを刺すと、ギャラクシーメガから降りたメガレンジャーの四人は、急いでメガイエローの行方を追った。
「メガイエロー!」
メガブラックが仲間の姿を認めて声をあげた。おぼつかない足取りで四人のほうへ向かってくる千里の身体が、芝生の上でゆっくりと倒れていく。
「千里っ!!」
メガピンクは一歩先へ走り出ると、地面に倒れる寸前に千里の身体をキャッチした。ゆっくり倒していくと、みくは自分のひざに彼女の頭をあてた。真っ青なひどい顔だった。口元についているのは血だろうか……グローブで彼女の身体を撫でた。
「うっ……」
「千里! 千里! しっかりして!!!」
「待て、メガピンク、安静にしないと……」
みくは変身を解いた。もっとよく彼女の顔が見たかったからだった。
「待って、千里が何か言ってる……」
その言葉に三人がびくっとした。こんな状態で意識があるとは思えなかったからだ。
「千里、何……」
その口は本当にかすかに動き、本当にかすかに喉から声がした。
「シボレナ………………倒した……」
「何?」
それからすぐにINETのメディカルセンターへ収容された城ヶ崎千里はICUに入れられ、全治三週間と診断された。彼女が意識を失う瞬間に呟いた言葉に関して、INET常任理事会では討論が交わされた。
それから三日後、彼女のもとに、委員会の命を受け、四人の仲間や久保田博士らには一切極秘でINETの特命隊員が派遣された。彼らの所属はコンピューターで照会すると、今は無き鮫島博士の研究室のプロジェクトメンバーに繋がっていたが、それ以上はどのようにも辿れなかった。
「今日、ここに私が来たのはあなたに記憶を取り戻して欲しいからなの……」
その隊員――女性隊員は酸素マスクで呼吸し、点滴を受けている千里に向けて語りかけた。それまで意識を混濁させていた千里はその言葉をきくと、瞳を大きく開かせた。その瞳に意識の灯を持った黒いものが徐々に大きくなっていく。
「まだ、起きるのは早いわ」隊員はその瞼をゆっくり閉じさせた。「この間はとてもよかったわ。口からバラの触手が伸びてそれを舐めると、貴女の下の口から出た触手が私の生殖機能を刺激するのよ」
「あ…たしが……触手…」
「だけど、そんなことは無かった」
隊員はゆっくりと手を離した。瞼が痙攣してゆっくり開いていく。その瞳は焦点を捉えておらず盲人の目をように光が無かった。
「無かった……」
「そう…あの日、あったことを言ってごらん……」
「はい」酸素マスクがはずされた。途端に呼吸に詰まったが、平静の様子で徐々に呼吸が戻る。「あたしはシボレナに苦戦していたけど、ブレードアームでダメージを与えました。シボレナはあたしの正体を知っていたから、更に攻撃して瀕死の重傷を与えました。爆発が起きて、異次元から解放されてあたしがメガピンクたちに助けられました」
「そのとおり」隊員は千里の頭を撫ではじめる。
「そして、あなたはどうする?」
「メガレンジャーを倒す……全員……」
「そう」
「あなたの名前は?」
「城ヶ崎千里……」
「本当の名前は?」本当のに語気を込めた。
「バラネジレ2号……」
「ご名答ね。それなら今から、大事なことを教えてあげるから、ちゃんと聞くのよ?」
「はい」
隊員が話はじめると、千里は最後まで黙って聞いていた。
二日後、シボレナが倒されたということが判明した。出動したメガレンジャーに対して、ユガンデの口からそんなような意味のこと口にしたのだ。
メガシップがしばし祝賀ムードに包まれた。仲間たちは辛い戦いがひとまず一段落したことを喜びあい、千里の快復を祈った。
ところが、シボレナは死に侵攻は止むという希望的観測は裏切られた。ネジレジアは新幹部ギレールを増強し、ますますその勢力を強めてはじめていた。そんな折、城ヶ崎千里の退院が決定し、その日パーティが遠藤耕一郎の自宅で開かれた。
普段は規則に厳しい耕一郎も一切の苦言をせずに、成り行きに任せていた。パーティは盛況のうちに幕を閉じ、健太、瞬、みくは急ぎ早に家を出た。実は三人が示し合わせていた。
その日、耕一郎の家に家族はおらず、千里は食器を片付け始めた。耕一郎はリビングテレビを見ていた。電話が鳴る。
「ちさとー、でてくれないかー?」
「もうー、しかたないわねー」
受話器を離す音がする。話し声。
「誰からだー?」
彼は立ち上がるとキッチンへ向かう。
「おい、千里? 何してるんだ?」
そこにはメガイエローがメガスナイパーをこちらに構えて直立していた。
「耕一郎、元気?」
「なんでインストールしているんだ。一体……」
耕一郎はその異様な雰囲気に口をつぐんだ。メガイエローのグリップを握った指が動くのをみてとっさに遮蔽になるものの背後に構えようとしたが、それよりもレーザー光線が彼の身体を襲い掛かった。ネジレ獣も絶命するほどの電荷が彼の生身を直撃した。瞬間的に心臓が停止した。
「死んだ……」
メガイエローは指を首筋にあてるとそれを確認した。だが、その心臓は幸いにも電撃の反作用により、即座に動き出した。このことが彼の命を救ったが、同時に長い昏睡の道が始まりだった。
メガイエローは変身を解くと、近くの電話台に立って119に連絡をした。そのうちに彼女の瞼が潤み始め涙がこぼれた。119のオペレーターは千里の嗚咽に住所の確認が出来ずに、それにより救急車の到着自体も五分遅れた。
「千里の次は耕一郎なんてな、なんてついてないんだ……」健太は呟いた。
それは些細な事故として処理された。病院の待合室で泣き崩れる千里をみくが介抱していた。駆けつけた久保田博士がINETの車を一台用意させ、部下に四人を送り届けられるように指示した。
瞬とみくの家でそれぞれ二人で下ろされた。健太の家へ向かう道すがら、高速道路の下の道を走る車に突然銃撃が浴びせられ停止した。銃撃は運転席を直撃し、運転手の隊員は喉を打ち抜かれて絶命した。
「なんだ!?」
「健太、あれ!」
千里の指す方向を健太はみる。
「クネクネか?」
「らしいわね……」
二人はデジタイザーのカバーを開けて無線回線をオンラインにした。どうやら、狙われているらしい。そのとき、カーオーディオが不意に音をたてて動き始めた。
「なんだ?」
身を乗り出した健太は背後から手がのびることが解った。その腕は人間のものとは思えない力を発揮し、正対するとそれが仲間の女性ものと解った。唇を噛み今起こったことが理解できずにいた。しかし、彼にも一つだけできることがあった。デジタイザーのボタンを押した。変身できないまま、彼も意識を失った。
瞬はその無線を聞くと家を飛び出てインストールしメガブルーの変身した。途中でメガピンクと合流すると即座に二人が攻撃を受けた地点へ向かった。そこでは健太と千里と運転手が倒れており、そこかしこに火がちりちりとついていた。
「まったくなんて1日だ」
メガブルーは健太と運転手を抱き起した。二人とも死んでいるのではないかと思われたが、健太はまだかすかに意識があった。
「メガピンク、そっちは?」
「大丈夫みたい……」
「なんだか、おかしくないか?」
「どういうこと?メガブルー」
もうすぐ救急車は来るはずだった。二人に出来ることは何もなかった。
「耕一郎と健太が同じ日にやられるなんてヘンだ。しかも、千里の目の前で……」
「それは確かにそうだけど……」
「さっきの通信で、ヘンな声がしただろ」
「え?」
「さっきの健太が襲われるときの通信だ。俺はきいた。突然カーラジオが動き出した」
「ああ、うん」
「俺の耳には確かに『青い誘惑の囁き』って言っているように聞こえた」
メガピンクの抱いていた千里が不意に起き上がった。
「千里、大丈夫なの?」
こくりと頷く。
「どうやら俺の読み通りらしいな」
INETの通信回線を傍受していたシボレナは、ここ数時間のあわただしい動きに耳を傾けていた。普段は暗号化した通信をしているINETが、時間を惜しんで平文通信をしていた。その中身をきいて、彼女は満悦の表情を浮かべた。
「シボレナ、実験は進んでおるか?」
「はい、バラネジレ化したメガイエローを使い、イエロー以外のメガレンジャーを全滅させました」
ドクターヒネラーはその答えにさすがに笑みをこぼした。
「では、メガイエローを処分せよ!」
「――お待ちください!」ヒネラーの目を見、シボレナは口をつぐんだ。
「なにか、あるのか?」
「メガイエローは今やネジレジアの一員、そして私の芸術作品です……」
ヒネラーの言うことのほうが正しくはあった。だが、シボレナはそれを実験の材料として、特にこれまでの失敗の終わった作戦の分析に、そして日々のフラストレーション解消に、メガイエローを使いたかった。
「しかしな」
「お願いします」
ヒネラーは顔を見上げた。
「……仕方あるまい。但し、即座に地球に回収してこい」
「解りました。ドクターヒネラー」
「回収したら、私のもとへ連れて来い」
ヒネラーは振り返りザマに言った。その好色めいた目がシボレナの胸に何かを感じさせた。それは嫉妬だろうか……シボレナはしかし、任務を遂行することのみだった。
端末に向かうと、側に特設された受話器を取った。
「青い誘惑の囁き――四時に第三埠頭に来なさい」
メガイエローに変身した千里は指示されたとおりに第三埠頭へ現われた。その誰もいないことを確かめて、シボレナは闇の奥から歩みでてきた。
「さあ。あなたを本当のファミリーに迎える日が来たわ」
「はい」
メガイエローはそう言ってゆっくりメガスナイパーを抜いた。しまった、シボレナも耕一郎と同様に避けようとしたが既に遅かった。
「うっ!!!」
光線はシボレナを包み、あちこちの生体端末が悲鳴をあげ、人間に例えようも無い痛みに襲われたシボレナは胸を手で包み込むように守ると、そのまま背後の壁へ圧されるように後退した。
「そこまでだ、シボレナ!」
声に気付くと、メガイエローの背後から四人の死んだはずのメガレンジャーが駆けてやって来る。
「……死んだはずでは!?」
「へへーん。俺たちがそんな簡単に」
「死ぬわけが無いだろう! ネジレジア!」
「途中で気付いたんだ」メガブルーはシボレナにゆっくり近寄りながら告げた。「敵や事故は必ずメガイエローの周りで起きている。そして、そこには電話やラジオがあった。ということは、誰かが電波を使って、千里を操っているんじゃないかってな。俺たちはそれを逆に利用させてもらったのさ! 千里に同じ暗示をかけ、お前を攻撃するように仕向けるようにな!!」
「し、しかし……バラネジレ化したメガイエロー……!!」
シボレナは気付いた。シボレナが始末されれば、DNAの遺伝情報は消えメガイエローは正常に戻る。
「そうはさせない……はあはあ……」
「シボレナ、よくもメガイエローをこんな目に遭わせてくれたわね!」
「よし、行くぞ! ドリルスナイパーカスタム」
「マルチアタックライフル!」
メガイエローはメガピンクに介抱され、レッドがドリルスナイパーを、ブルーとブラックがマルチアタックライフルでシボレナを狙っていた。
シボレナはこの状況の好転を飲み込むことが出来ないまま、その光線の洗礼を受けた。それはメガスナイパーにより傷ついていた胎内に殺到して、内部から爆発を起した。いくつもの破片へと変化したシボレナだったものは、更にあとから発生した高熱の火炎の中で微粒子状になるまで焼却されたのだった。
ケーキの包みを持った千里は襟元が黄緑のクリーム色のシャツと同じ色調のスカートという出で立ちで、少女とはじめて出会った公園へやってきた。その小さい姿を噴水のところで見かけたときに、千里は手を挙げて少女の名を呼んだ。
「ルリちゃん!」
「おね~ちゃん!」
その背後から千里の仲間たちがゆっくりと歩いてきた。怪訝そうに見ると、その背後にビニールシートが敷いてあってパーティーの準備が整っていた。
「誕生日のお祝い一緒にやろうと思って!」
「もう!」
みくの言葉に微笑む千里は仲間の下へ急いだ。その顔は心からの笑顔だった。