返して! 奪われた身体
   
   
   
 二人はどこへいったんだ。遠藤耕一郎は東京中を捜索していた。二人はとても動けるような体じゃなかった。もしかしてさらわれたのか、ネジレジアに。メガブラックの精悍なマスクがふるえていた。奴らは千里を陵辱した。メガピンクが樹海の中で見つけ、病院に運びこまれた時の姿を耕一郎は忘れられない。
 メガスーツに黒い血がこびり着き、涙のあとが頬に残り、破けて見えた皮膚には紫だった。顔は不思議なくらい安静だった。
 病院の廊下で唖然としている彼の前を、ベッドに乗せられたメガイエローは手術室へと連れていかれる。手術中のランプがともり、拳を握った。
 どんな凶悪な犯罪者だってそんなことはしない。それは犯罪者も人間であり、人間はどんなに変わろうとどこかで互いを解りあえるところがあるからだ。だが、奴らは違う。奴らは倫理や道徳を持たないモンスターだ。
 耕一郎は黒いメガスーツに身を包み、武器をふるい、そんな敵から沢山の人々を守ってきた。メガブラックの精悍なマスクは、自分の無力さに震えていた。
 自分は人々を守るために戦ってきた。だのに、彼は沢山の人々どころか、一番大切な仲間すら守ることができなかった。
 その代償として、いつも自分をサポートしてくれ、互いにリスペクトしあい、高めあってきた仲間は無惨という言葉では幼稚なほど変形した姿となって、倫理・道徳観念を持たないモンスターの元から帰されてきた。
 今、再びさらわれた仲間を、モンスターの元から自らの力で取り戻すことができなければ、メガブラックになった自分がなんだったのか考えるのは易しいだろう。その考えは、ほかの二人でもたいして変わりはなかった。

 城が崎千里と今村みくのインストールした肉体は、過疎化で捨てられた廃虚の中で、ギレールの意志によって歩いていた。
「くっくっく」二人のシンクロした忍び笑いがした。
「お嬢さんたち、何をしているのかしら」
 二人は振り返った。その動きが獣そのもので、ふたつのマスクが振り返って自らの顔を見つめてきたとき、シボレナはなにか異なるものを感じた。しかしネジレジアのその女幹部にしても、その姿はみまがうものなく、メガレンジャーだった。
「私達はついに掴んだのよ! あなたの陰謀をね!」
 メガイエローの声が響く。ギレールはほくそ笑んだ。シボレナの秘密作戦がこの人々との生活と切り放された場所で進行中だった。ギレールがそのことを知らないわけもない。だが、シボレナもユガンデも、ましてやドクターヒネラーも彼のメガレンジャー壊滅作戦を知らない。
「何のことかしら」
「しらばっくれても無駄よ!」メガピンクの声とともに、メガキャプチャーがかまえられた。超音波光線が放たれると、シボレナは指でそれを跳ね返した。
「どっちにしろ、あなたたちを帰すわけにはいかないわ。私がたっぷりといたぶって再起不能にしてあげる」
 シボレナは電撃攻撃を与える鞭を取り出した。メガイエローとメガピンクは身構えた。二人ともマスクの下で笑みをこぼした。たっぷりいたぶられて再起不能になるのは、貴様の方だ。貴様を再起不能にして、ドクターヒネラーを我が足元にひざまつかせてやる。ジャビウス一世などという傀儡の力を通してではなく、私自らの手でな。

 空は広すぎた。地上も広すぎて、イエローとピンクの戦闘服が目だっても役にはたたない。メガブラックは焦っていた。メガイエローを勝手に探しにいったみくの気持ちもこんなものだったのだろう。彼は人工衛星にアクセスした。最近の人工衛星には、駅でサラリーマンがよんでる新聞の記事を追えるぐらい鮮明なものがある。それを使って、二人を探すことにした。

 シボレナは翻弄されていた。黄色とピンクの光が前後を高速で駆け抜ける。鞭を振るってもそれは風を切るばかりでまったく効果がない。メガレンジャーなどに圧倒されるわけはない。
「は!」
「えええい!」メガピンクが両手を交差させて目の前に突き出していた。その陰が一気にシボレナの視界いっぱいになり、首に交差した手が突き刺さった。
「あうぅ!」
 呼吸が止まり、シボレナは肘をついて倒れた。背中にメガイエローのチョップが刺さり、頭がくらくらする。体液がこみ上げてくる。それでもシボレナは鞭を構え、立ち上がろうとした。
「たあ!」
 黄色い陰がよぎる一瞬に向かって鞭をふりおろした。
「きゃああ!」
 やった。シボレナは声をあげた。メガイエローの首に鞭が巻き付いていた。「食らえ!」
「あああああああああああああああ!」
 メガイエローが火花をあげた。シボレナはその出来事に熱中するばかり、後ろの警戒を怠った。
「うわっ!」
「死ねぇ!」
 後ろからシボレナに掴みかかった腕は同時に鞭を掴んだ。その腕から火花がでるがピンクの腕はまったく気にしない。メガイエローの体が崩れた。やった! 二度目の驚喜がシボレナに訪れる前に、鞭がシボレナの首に回り、電撃が体を走った。
「あああああああああっ!」
 体中に針が刺さるみたいだった。シボレナの体は半分機械で半分人間みたいなもので、電撃による衝撃は想像を絶するほどひどかった。しかし、メガピンクの腕とてまともで済む訳にはいかないはずだ。
 奴が鞭を引っ張るから、メガイエローもやはりダメージを負ったはずだ。なのに、なぜこ奴らは気にしない!
「ずいぶんあっけないじゃない」
 気がついたら、メガイエローが目の前にたっていた。光沢鮮やかなスーツのところどころが黒ずんでいる。そのマスクを見上げ、シボレナは納得した。
「お前は・・・・・・本当にメガイェ」
 シボレナの声が途切れた。メガピンクのメガスナイパーが青い背中に押し当てられ、彼女の胸を打ち抜いたのだった。痛みなんて古いものが走った。ドロドロの青い体液が地面に飛び散り、メガイエローのブーツにもかかった。シボレナはドクターヒネラーが創り賜れた生命だ。それぐらいで死ぬはずもない。
「・・・・・・私をどうするつもりだ」
「たっぷりといたぶって、再起不能にするのよ」メガピンクの声がする。冷たい声だ。正義のヒロインはこんな声をしない。シボレナは振り返り、そしてもう一度メガイエローを見上げた。不意にその右腕が青白く光って、自身のマスクに寄せていた。
「今までの恨みの全てを晴らしてやる。私に刻んだ傷の全てをあなたに味あわせてあげる。ブレードアーム!」
「うわっっ!」
 火花が一回よぎる間にシボレナの胸がはだけた。異様に青白い皮膚に、ピンク色の乳頭が乗っている。
 羞恥心とか、シボレナは不完全から完全になるため捨てた。いや、持つことをやめた。だが、彼女は最高にプライドの高いネジレジアの幹部シボレナ。ドクターヒネラーの世界を手中に納める計画に、手助けをし、たてつく者の全てには死のみしか残されていないはずだった。だが、今その彼女が追い詰められていた。
「やめろ! やめないか!」
 メガイエローはいやこの異様な黄色い怪物はしゃがみこんできた。数々のネジレ獣を手なづけたシボレナにさえ、怪物に見えた。
「やめたくないわ」声とともにメガイエローのマスクの口元、銀色の部分が開いた。
 微笑んだ口元が知れた。人間の唇だった。赤とピンクの中間ぐらいの色をしていた。シボレナの目はその唇に釘付けになった。見る見る間にシボレナの元に近づいてきて、彼女の青く冷たい唇を吸い始めた。ほとんど間近にあるメガイエローのバイザーの中のまだ見ぬ宿敵の瞳に、邪悪な輝きをシボレナは見た。
 幻だ。シボレナは唇を吸われながら叫んだ。全てうそだ。
「嘘じゃない。私達はメガレンジャーよ」
 メガピンクはよつんばいになっていた。彼女のマスクもイエローと同じように口元が開くと、冷たいヴァギナにかみついた。口に含み、冷たい暖かさを悪魔の身体の中へおくった。
「冷たい……」
「!!!!!」
 お前らは誰だ。お前らは! シボレナは意識を狂わせる二色の陰に頭を振った。唇が離れて、マスクが閉じた。メガイエローの身体が目の前に見えて、胸の中にシボレナは抱かれた。息をついた。息を吸い込むと、ドクターヒネラーとの情事でのみあふれたものが生きた貝の間から流れた。
 誇り高いネジレジアの女幹部が聞いて呆れる。ギレールは四つん這いのシボレナを半身起こした。奴の目は身体よりも先に到達していた。メガイエローが前を抱え、メガピンクが後ろを抱えた。メガイエローは再びシボレナの唇を暖かく抱きしめ、股の間では更に濃密なくちづけが行われていた。メガイエローとシボレナの貝が互いに口を交わし溶けていった。
「もっともっと、メガイエロー」
「はう。ああ・・・ううん。はあん」
 それはあまりにひどい仕打ちだった。シボレナは常に上に立つ者なのだ。それが崩されてはいけない。それが愚かな人間であればなおさらだ。

 ギレールの肉体は城が崎千里と今村みくの意志によって、切り立つ崖を落ちるようにして下ってきた。空間から逃げ出すことはむずかしかった。強力なパワーバリアーはいかにしようとも破くことができなかった。だが、チャンスが訪れた。空間のある場所はネジレジアの本拠地に近く、偶然にもクネクネが近くを通ったのだった。
「おい、お前」
 クネクネは近づいてきた。二人は胸が張り裂けそうだった。敵の身体に幽閉されていようとも心は女子高校生そのものだ。戦った経験があろうとも、異形の敵を前にして恐怖が訪れない方がおかしい。
「何をしている! なぜ私をこの場所に捕らえているのだ! あんた・・・・・・貴様はこの状態の重大さが理解できているのか!」
 クネクネは面食らっている。当然だ。みくはすっかり小さくなっていた。千里だって怖い、レイプだってされた奴にこれから立ち向かわなければならない。泣き出しそうだった。
「貴様、今すぐこの私をこの場所から解放せねば後々ドクターヒネラー様よりどんな仕打ちが行われるか解らないのか!!」
 クネクネはあわてた。なんのことだかさっぱりわからないが、とにかくギレール様がこの電気檻みたいなのに捕らえられていて、自分が捕らえたことにされている。大問題だ。大問題だ。クネクネはすぐに制御盤のようなものを見つけた。その赤いボタンを押すと、檻は消えた。これで何もかも安全だ。頭を上げたクネクネはギレールの拳を食らい、地面に突っ伏した。
「さあ行こう。千里!」あっけらかんとしたみくの意識がギレールの声を発した。

「!!!」
 近くの建物の壁に線が引いてあった。四本の縦線に一本の斜線、「正」の字を使ってものを数えるみたいにその縦線と斜線はいくつも描かれていた。そのそばではシボレナが倒れていた。ヴァギナとアナルにメガスナイパーが差し込まれていた。その引き金は絞られたまま固定されており、絶え間なくイオン粒子がシボレナの身体に注ぎ込まれていた。メガイエローが新しい縦線を書き込んだ。
「あんたもよく死なないね・・・・・・」
 メガイエローのマスクがシボレナの顔をのぞき込む。無惨な美貌は涙を引きずって、白目を剥いていた。メガピンクがシボレナのわき腹を蹴りあげた。
「おまえ・・・ら・・・いったい・・・何者・・・・・・」
「何度もいってるじゃない。私はメガイエロー」
「メガピンク!」
「ちが・・・う」
「どう違うって言うの? 困ったわね。さあ私に奉仕しなさい」
 メガイエローは立ち上がって、自らの足の間にシボレナの頭を沈めた。
「はああぁん……そうよ、や、やれば出来るじゃないか……シボレナ」
 メガイエローの身体は海老ぞっていた。シボレナがその正義の味方のヴァギナの奥底に舌を埋めると、メガスーツにうっすら汗が浮かんだように見えた。そんなはずはない。シボレナが瞬きをすると、精悍なマスクが喘いだ。

 メガブラックは一種の反応を探知した。そのエリア一帯には強力なジャミングが働き、あらゆる電波を跳ね返していた。その外側で強力なネジレ反応が探知された。衛星のカメラのピントを合わせるとなんとそこにはギレールがいた。ブラックは興奮を抑え、情報を仲間におくった。
「みんなD1ポイントだ」
「解った!」
「よし今直ぐ合流だ」レッドとブルーの声。

「待ちなさい!」ギレールの声が町にこだました。
「!」メガイエローとメガピンクは顔をあげた。シボレナはほとんどこと切れていて、何の反応も示さなかった。途切れ途切れに浅い息をしては何かの悪夢にうなされているだけだった。
「ほう。逃げ出したか」二人のメガレンジャーの肉体は腰に手を当て胸を張った。「よくできました。おめでとう」シンクロした声。
「あなたたちを絶対許さない!」
 ギレールは刀を構えた。千里はみくとともにその刀を握っていた。憎しみがこみ上げてきて、それが全ての恐怖心をほんのひとときだけ拭っていた。
「攻撃できるものならしてみろ。ただし、これはお前らの肉体だからな」
 メガイエローとメガピンクは笑い声をあげる。ギレールは一気に間合いを詰めた。剣の光が空を走り、勝負は一瞬でついた。
「うあああああああ!」
「そんなぁぁ」
 少女の声で悪魔は叫ぶ。倒れた。ギレールは振り返り、自分の身体を見つめた。
「さあ返して!」
「わ、わかった!」

 レッドとブルーと合流したメガブラックはギレールの飛び込んだエリアへ突入した。超低空で木の間を駆け抜け、町中に入ると、建物の陰に身体を寄せながら、あたりを捜索した。町の中心部に謎の反応があった。
 三人がその中心の通りに躍りでると、ギレールがいた。彼は三人に背中を向けていた。その先には倒れたシボレナ、それに彼らの仲間メガイエローとメガピンクが剣を受けて、火花をまき散らし倒れたところだった。彼らは思わずメガスナイパーを引き抜き、ギレールへ引き金を絞った。

 千里とみくの意識に激痛が走り、身体が崩れた。メガイエローとメガピンクが体勢を立て直そうとしていた。ギレールの黄色い瞳に陰が走り、金色の歯が苦しみを吐き出すとき、千里とみくは仲間の登場を見た。
 ギレールの意識にとっての勝機が訪れた。メガイエローとメガピンクの身体は立て直しをやめた。まもなく三人が二人に駆け寄り、肩をつかんだ。
「大丈夫か、二人とも」メガレッドがメガスナイパーをギレールにみせたままきいた。
「大丈夫なわけないじゃない! メガレッド!」泣きそうな声のメガピンク。彼女は助け起こしてくれたメガブルーにすがりついた。
「みんな遅い!」メガイエローが声をあげた。
 千里とみくの意識は唖然とした。どうすればいいのかわからない。
(瞬! 気づいて!)
(みんな! 何でわからないの)
 しかしそれは二人にもよく分かった。二人は剣を持つ手を見た。その姿は異形でどんなに努力しても元の姿と同じに見えない。
「ギレール! もう貴様はゆるさねえ!」メガレッドが叫ぶ。
「よくも俺達の大切な仲間にここまでひどい仕打ちを与えたな」メガブラック。
「今日はお前の最後だ、ギレール」メガブルーは親指を下向きにした。
「なんで……なの……」
 三人はメガイエローとメガピンクをかばうように立っている。千里もみくも声がでなかった。
「ドリルスナイパーカスタム!」
「マルチアタックライフル!」
 躊躇しているうちにレッド、ブラック、ブルーは必殺武器を構えた。打ち出される光弾をとっさに自分の剣を構え、跳ね返した。逃げなくちゃ。それだけが考えに浮かんだ。そのとき、視界の中にシボレナが入った。
「あ! そうだ!」
 千里は考えた。みくは瞬に攻撃されたという事実が今の状況になっても信じられず、ただ呆然としているだけだった。シボレナの身体を抱え上げると、廃屋の屋根まで躍り上がった。
(……千里! どうするの!)
「待て! この野郎!」
 ビームが飛び交う中をギレールの身体は涙を浮かべながら疾走していった。その姿は瞬く間にメガレンジャー達の視界から消え、三人には無力感だけが残った。だけども、二人は取り戻した。三人の背後でメガイエローとメガピンクは舌打ちをした。あんな身体いくらでも替えがある。白昼の花火になってくれれば、奴らがいなくなるんだがな。まあいい。