快感!? 女同士の友情
城ヶ崎千里の鼓動が、今にも破裂しそうだった。今、視界は狭い。限られた視界には数字やグラフが表示されていた。高等数学らしく彼女には理解できない。どっちにしろ、意味のなく興味のないことだった。
メガピンクのかどはないが、精悍なマスクは無表情だった。千里にはみくが微笑んでいるようにみえた。メガピンクは俯いて、歩み寄ってきた。強力なエネルギーが今にも溢れてきそうだった。メガレンジャーは常人の百倍のパワーを引き出すことが出来る。古い木製の床がミシミシと音を立てていた。みくの足取りは重い。
「ち、ちさと…」
砂を舐めるような空電のあとに、震えた少女の声がした。無線の声は耳元で囁かれているみたいだった。千里が両手で、みくの手のひらを包み込んだ。冷たかった。わずかに脅えていた。多くの罪悪感がみくをまだ躊躇させているのだろう、千里は思った。
「安心して」
そう言ってから、自分の両手をみくの手のひら、腕と伝わせ、小柄な彼女の方を包み込んだ。みくは千里の中に滑り込んだ。後頭部を撫で、脅える肩をしっかり抱き留める。マスクがぴりぴり震えていた。泣いている、即座に解った。
「みく、安心して」
三日前の戦いでメガピンクは孤立してしまい、強力なネジレ獣と一対一で戦わねばならなくなってしまった。ネジレ獣はメガピンクの弱点を把握していたらしかった。何度も何度も拳で圧倒した後、みくをまるで巨木のように電撃コードでがんじがらめにし、発電所一個以上の電撃で、彼女が死ぬ直前まで圧倒した。間一髪の所で、千里と仲間が介入しなければ、確実に殺されていただろう。
メガスーツを着ていたにもかかわらず、みくは全身に痣や傷を負っていた。細かな骨折もしていた。それでも、I-NETの世の中にはまだ極秘の特殊医療技術で、たった三日でかさぶたも何も残らないほどまで回復した。
傷は癒えても、戦えるかどうかは解らなかった。三日間ベッドで眠るみくのそばに、千里はずっといた。みくとは同級生、友達、同級生、メガレンジャーで共に戦う仲間、どんな言葉を使っても足りないほどの、関係だから当然だった。眠るみくは何度も目覚めた。きりっと目を見開いて、圧倒的な恐怖をたたえていた。
千里はそんなみくを見ていられなかった。彼女はピンクの仲間に出来るせめてものことをするつもりだった。もしかしたら最終的に、千里のことをみくは嫌うかも知れない。それでも構わなかった。
実際には、千里もみくほどではないものの、傷ついていた。傷は消えても、敗北は疼き続けていた。次ぎに戦う勇気も掴めない。言いしれぬ不安感が胸に広がって、納まらなかった。だから、これはみくだけでなく、千里にも必要なことだった。
二人して、マスクに搭載された極薄コンピューターの主電源をオフにした。メガイエローはデジタルカメラ、メガピンクは携帯電話、のマークが額の部分で輝いた。次には視界に表示されていた高等数学が消えて、遮光モードが切れて、メガピンクを見ると、黒い視界が十秒かかって薄らぎ、透明になったバイザーからみくの純粋だが脅えた瞳が現れた。その瞳に見つめられて、千里はわずかに胸を貫かれたような衝撃を感じた。メガスーツのデザインが人間の形をディフォルメしていた。みくの瞳はアンバランスだった。
みく、用意はいい?
千里は声が上擦った。みくの瞳がぎこちなく泳いでいる。声が、耳の中に飛び込んできた。
「うん、大丈夫」
千里は唾を飲んだ。メガイエローのバイザーも透けて、見えているはずだった。二人とも立ちつくしていた。一瞬現実感が遠のいて、全て夢のように千里は感じた。無意識にグローブをはめた手で、虹色の光沢がついた黄色いスーツの上を滑らせた。スーツのセンサーがピリッと電流を湛えていた。
狭い部屋暗くて、照明は強くない。今は、変身して強化服に身を包んでいるが、巨大な角も蛇のように踊る触手も七色の光線も、それらを持つ怪物もいない。二人はただ立ちつくしていた。
千里の乳頭は弱いショックを感じ、固くなっていた。何か感じてる、千里はみくに向かって、歩み寄り始めた。身体中が帯電していて、感覚が麻痺したようだった。
瞳がぼっとろうそくのような炎を燃やして、目頭に何か溜まると、涙がこぼれて千里自身も驚いた。マスクの中から拭うことも出来ない。一滴だけ鼻のすぐ横を通り抜け、口にあてられた酸素マスクの側面を流れていった。
「さあ」
落ち着いて千里は胸を張った。千里はテニスをはじめとするスポーツで全国大会レベルの腕を持っている。そこから来た女戦士の自信を千里をたたえていた。みくはまだ踏ん切りがつかないようで、腰が引けていた。小柄なメガピンクの肩にメガイエローは腕を回した。
メガレンジャーの能力の悪用は許さない。それはメガブラック、遠藤耕一郎が言った言葉だった。だけど良いじゃない、千里は思った。高校二年から三年の貴重な時間を割いて、戦ってきた。遊ぶことをせず、成績も若干下がった。無報酬で命をはって戦ってきた。だから、少しくらい良いじゃない。
千里は思って、左腕をみくに回した。マスクに比べてとても体は小さい。メガスーツのパワーがなければ、体力だってあるわけじゃない。
「ち、さと……」
泣いている? みくは千里に包まれて、その腕の中にもたれた。
ベッドの上に乗った。シミも皺もない純白のシーツ、ダブルのベッド、ブーツを脱ぐことは出来るが脱げば意味がないので、そのまま乗る。みくが脱ごうとしていたので、出来ない耳打ちをして、通信回線で呟く。そんなことしてなんになるの。
千里に言われてはっとして、みくはブーツを戻した。白いブーツは怪獣の体液や地面の埃で汚れているものの、まだ白い。みくから離れて戻る。広いベッドの左翼で四つん這いになり、力を失ったように、そのまま内側に向かって崩れた。瞳を細めて丸くさせ、マスクの内側で口をパクパクさせた。脱力した身体の指を細かく動かし、みくが近づいてきた。
みくは戸惑ったようだったが、なるがままに千里の腕と足の間に滑り込んできた。みく、呟く。大きいマスクの狭い視界から見つめる瞳だげが、二人を確かめている手段だった。黄色いメガスーツが密着した千里の腕の間にみくが首を現す。メガイエローはメガピンクの首筋へ手を回し引き寄せる。メガピンク、か細くすれ切れた丸い声で千里が呟き、マイクを通じたノイズを帯びた声は、みくを揺さぶって、身体中を煽動させていた。
「千里……メガイエロー!」
不安に陥った赤ん坊の如く、みくが唸る。千里は小さくうなづき返して、メガピンクを抱きしめた。腰に手を回し、いつか敵の怪物を退治したとき、喜び合って抱きしめあったことが、思い出されてきた。妙な感覚がしていた。その奇妙さが実感となって、千里の脳へ迫り、彼女の腕に力をこもらせた。ぴかっ、彼女の手元が閃光になると、青と緑のプラズマが現れ、赤や黄色の火花になって、メガピンクの背中のスーツ表面を走って、みくがいきなりの出来事に声を上げた。
「ごめん! メガピンク!」
千里は身体を離し、腕を放し上半身を起こして、頭を下げた。
「いいよっ、メガイエロー」いたずらっぽく言うと、みくはメガイエローの胸部にある五色のマークへ両手の人差し指を伸ばした。何かと頭を降ろして視線を伸ばしている千里の瞳をみくは確認して、また今度はいたずらっぽく微笑んで、くらえぇと宣言した。
「きゃぁっぁ!」
ちょうど乳房がメガイエローとメガピンクを示す、黄色のピンクのマークの辺りにある。みくのグローブの先にメガピンクのエネルギーが集まり帯電、レーザーとなり、メガイエローのスーツに噛みつき、千里の乳房を襲った。力の加減をしないから、千里は予想外の衝撃に一瞬視界が白黒になって、星が舞い、仰け反って、二、三度痙攣した。強烈なほど痺れるような痛みが千里の乳房から身体を伝い、身体中を包み込む。千里は笑い顔をした。次の瞬間、赤とオレンジの火花が散って、叫びながら千里は仰向けになり、シーツに受け止められた。
「大丈夫っ?!」
みくは目の前の光景に目を丸くした。黄色く鮮やかなスーツが煤けている。みくは起きあがり、千里を見た。彼女の瞳は閉じられている。一瞬、恐怖と悲しみが交錯して、メガイエローのマスクを叩いたが、反応はなかった。
千里、千里、千里、千里、ねえ、ねえ、ねえ、ねえったら! メガイエロー!! 暖かさのないメガスーツでは千里の様子が伺い知ることは出来ない。バイザーの中の千里の顔は、一分前より青白く見えて、ぐったりとしてしまっている。煤けたスーツをみくは必死にこすり、汚れを消そうとした。メガスーツはぐしゃぐしゃと千里の胸肉の上で踊り、みくは今にも涙を流そうとして、彼女自身も胸の痛みを感じた。
「!」
メガイエローのグローブがピンクの左腕を掴むと、捻り上げて、みくが戸惑う間に、背中に回す。千里は上から乗りかかり、右手も背中に捻りこんだ。千里の瞳は今まで誰に見せたこともないほどに泳いでいる。時々言葉にならない言葉を発しながら、黄色い声をあげるみくをシーツの上にねじ伏せた。足の間にみくの両腕を捉えると、左手をマスクの後頭部にやり、押さえつける。みくも笑っている。右手でホルスターのストッパーを外し、レーザー銃・メガスナイパー取り出す。みくの首元に銃口をあてた。
「あははははは」
千里の顔には理性はない。あるものは、幼児帰りしたような神経だけだった。そのとき、みくの左腕が千里の足下から抜けた。その手の先がメガイエローのスカートを掴む。千里が不意によろけた。みくの指がスカートを巻くしあげ、必死になりながら、股に潜り込み、メガスーツの上から城ヶ崎千里を押し上げた。
「あああああっん!」
千里が叫んで脱力する。額のデジタルカメラのマークが輝いた。みくは瞬間的に起きあがり、向き直ると、千里の両腕を掴んで、メガスナイパーを取り上げて放った。デジタルカメラのマークが輝いたまま、千里はまた仰向けに倒れた。目が喜んでいた。みくがその上から乗りかかり、右の胸を揉み砕き始めた。
千里はとぎれとぎれに声の艶を呼吸と共に吐き出してくる。言葉の間にみくを欲して、両手でみくの腕を取り除こうとするものの、本当にそんなことをすることはない。みくはどんどん指を巧みにして、千里を揉み崩していた。
非常に柔らかくて、みくは身体中に熱を帯びた。彼女に誰かがねっとりと囁きかける。城ヶ崎千里を倒せ、メガイエローを血祭りとするのだ。千里のマスクの額にはデジタルカメラが輝いたままだ。さっきより千里の瞳が少し曇った場所に見える。映像解析してる、みくの直感が教えた。もっと撮って、みくは心の中で叫ぶ。曇ったバイザーでも確認できるくらい、千里の顔は紅潮している。
「はぁ、はあはあはあはあ、はぁはぁ……」
息はどんどん早くなり、肩が揺れている。不意にみくが胸を揉ませるのをやめ、千里の息をつく肩に抱きついて、きつく抱きしめた。こつこつと、メガイエローとメガピンクのマスクが接触を繰り返している。
「千里、好き、好き、誰よりもだぁい好き!」
「私も。メガピンク……みく!」
千里の両手が多少弱く、みくを抱きしめる。千里の神経の全てが逆立っている。数回抱きしめ合ったまま左右に転がり、ベッドの中央で今までにないほどきつく抱きしめ合う。身体中が帯電して、青緑にスパークする中で、抱きしめ合っていた。
メガイエローとメガピンクが5メートル近く飛び上がる。手刀構えて降下を始める先には、グロテスクな二メートルほどもある怪物が居る。ええい! 共に叫んで斬りかかった。ところが怪物は二本の触覚から虹色のビームを発射して、二人にあてる。きゃああああっ地面に墜落して、黄色い声で叫ぶ二人を怪物の足を踏みつけた。助けにまわろうとしたレッド、ブラック、ブルーの三人をレーザーであしらって、もう一度足を振り上げて、二人へ落とす。
「うあっ」千里の胃がひっくり返り、肺が叫びを上げながら、喉に声を捻り出させられていた。触覚が伸びて、二人の胴に巻き付いた。メガピンクが腕を振り回して、必死に無駄な抵抗をしている。千里は押しつぶされた食道を何かがこみ上げてくるような感覚がしたが、その何か、生体エネルギーは触手を通じて、怪物に吸収されていく。イエローのピンクの生気があっという間に衰えていく様を、地面に転がるメガレンジャー三人は見るしかない。千里は顔から血の気が引くのを感じ、身体中が震えて、しびれを感じて、触手に締め上げられている圧迫感が少しずつ和らいでいくのを感じた。目が霞み、のどが渇き、唇が乾いて、耳を包み込むの耳鳴りが始まった。逃げなきゃ。頭では解っていることが出来ない。ああああああっ! ああぁぁぁっ! バイザーに危険状態の表示が現れている。あわぁっ! たすけて……
触手ではなくみくの両腕が千里を抱きしめている。メガレンジャーのパワーがみくに怪力を引き出させている。千里は振り解いて、息を付いて安心した。夢ではないが、頭を流れた不思議な戦慄。みくは四つん這いに這って近づいてくる。千里はごく自然体でそれを受け止める。メガスーツを着て、互いの名前を呼び合って、甘く絡む。ただライオンの子供のように群れて遊ぶ。既に二時間が経っている。二人に時間なんてない。あるものは、最後まで楽しむ、こと。
「私の胸を触って!」
わたしはみくにえねるぎーをすいとられている。突然叫んだ千里へ、頭を駆け抜けて消える記憶が訴える。
「あつい、とっても!」
こんな姿を見たら、みく以外全員が幻滅する。千里は考えたが、考えられない。かなりの理性が崩壊して、メガピンクの愛撫に浸りきっている。ぎこちなかった彼女の動きはだいぶ洗練されてきて、巧みに千里は快楽の海に落とされていた。ただただ落とされるがままにされている。ネジレジアに負けた傷が塞がれてきて、喜びは最高潮の3歩手前まで何度も近づいてはかえしている。わたしたのしんでいる……
不意に全ての意識が頭の中ではち切れた。言いしれぬ怒りが頭に集まり、千里は妙な不快感を噛みしめると同時に、ああああっと、大きな喘ぎ声を上げた。濡れていた。二時間ぶりにメガレンジャーの機能が復活し、デジタルカメラの紋章が光を放つ。
「デジタルサーチ!」
千里はみくの指を振り払い、声を上げて、半身起こすとそのまま、みくを突き倒して、上に乗りかかった。きゃっとか、みくが声を上げる。青黄色の可視光線がメガイエローの前頭部から放たれて、メガピンクを舐めあげた。千里のバイザーには今村みくそのものが映し出されている。スーツに隠れても駄目だ。みくの陰部が映り、ふさふさした毛があった。あああああっ! 千里はまた声を上げる。頭を仰け反らせて、イメージする。メガスーツには許容能力があり、裏技が出来る。千里の白い顔が紅潮し、青いスパークに身体中が帯電している。愛液が吹き出して、千里はみくの上で尚も喘いで仰け反った。
スパークがメガイエローのの陰部に吸収され始め、スカートがまくしあがった。スパークが黄色いワイヤーフレームに変化し、千里のクリトリスがむせび泣き歪んで、男性器に似たもの――エネルギー体のホログラムが形成させた。
「みくっ!」
痛みに満ちた高音を張り上げて、千里は腰をみくの股にあてがう。定めるとみくはメガピンクのスーツから直接突かれた。
「あんんんあああああっ!」
声を上げたのは二人同時で、マスクの裏側で互いに顔中に皺を寄せて強ばらせている。千里が形成したエネルギー体はその形を保つのに大量のエネルギーを必要とする。快感などは無い。二人とも身体がぶよぶよにふやけたようになり、小刻みに痙攣を始めた。悲鳴、奇声、喘ぎ、いずれともつかない声に口がとり憑かれて、裏返ったが尚もやめることはない。
そのうちに二人の生体エネルギーが尽き始めると、マスクが吹き飛んだ。ばらばらになった破片が飛び散る。千里の長髪が振り解かれて、みくにかかったが、そんなことを気にする余裕はない。みくは自らの内部がはんだごてをあてられ他の如く燃え上がり、奥へ奥へ入り込もうとするものの存在を認めるだけで、精一杯だった。乳房が浮き上がり、チェレンコフ光に似た光りが接合部から漏れている。身体中の血液、メガレンジャーのパワー、全てがそこに集中する。耐えられなくなったスーツが火花を放ち、肩や背中、足、二の腕から黒く焼けただれた集積回路やセンサーが覗かれ始めた。スカートが分解されるように、超極細コードにばらけていく。
「あああああきゃぁああああ!!」
「ああああああ! あああああああああ!」
二人は予想していない言葉を同時に叫ぶ。「いやぁ、いくっぅ!!」
千里の目の前が真っ暗になった。噴き出した愛液が股をだらだらと流れていく。胸がみくのものと触れて、横にすれて左腕がシーツを受け止めて、だらりと倒れた。大きく息を吸い込む。身体中が40度くらいの高熱に犯されているようだった。腕を動かそうにも、足を動かそうにも出来ない。ただ脱力すると、エネルギー体が崩壊しているのに気づいた。強烈な悪感が走り、千里はオルガニズムを既に迎えていることに気づいた。メガスーツがボロボロになり、マスクは破片となって飛び散っている。グローブから頬を触れると、刺身にようにぶよぶよしていた。指を、身体に沿わせて、右足から反転させる。その場所へ近づこうとすると、ざっくりと穴を広げた傷の痛みに触れて、涙が溢れてきた。
みくは呆然としている。千里から見る限り、正気を失っているようだった。そのうちにみくは千里の肩に泣きついてきた。肩に口を広げ超極薄回路のプリント基板に涙がこぼれて、じゅっと何かの蒸発音がする。白煙がみくの顔に流れ着き、空中へ消える。千里はしみるような痛みをぐっとこらえ、みくの肩に手を回し、身体を右に向けて、向き合うと、思い切り抱きしめて、口に舌を入れた。いまごろびっくりするみくをグローブで撫でてなだめ、瞳を閉じて、抱きしめ在ったまま、長い時間そうすることにした。
みくとの二度目の親密な仲が終わって、窓から太陽を臨み、スポーツセンターの更衣室のようにメガスーツを脱ぎ始めた。身体中から吹き出た汗がぬめぬめとしていた。背中に腕を回し、ロックを外し、圧迫された腹部が解放されるが、上下つなぎのメガスーツは身体に密着したままだった。みくは千里を見つめている。妙な気持ちがこみ上げてきて、グローブの内側に指を入れて、ジッパーを押し上げ、グローブを外した。汚れたグローブの中から原色のイエローが現れた。千里はみくを無視するふりをしている。メガスーツに包まれて皺のよらない掌を見て、無表情をしている。舐めるように眺め返し、手の甲を見、反対の手でつねった。メガスーツはスーツというより、ボディーアートみたいだった。終わると、首のスーツ内側へ指を入れる。ここでも汗が行き場を失っている。冷たい空気が入り込んだ。背中の皮膚に沿わして、指を這わせる。そこが盛り上がるけれど、他の場所に圧迫感はない。肩越しの辺りのジッパーを捉え、首の付け根から外に出した。反対側の手のグローブを外し、黄色い手でジッパーを捉える。千里は背中の筋を曲げる。一気にジッパーを下へ降ろすと、水を帯びた素肌が姿を現す。黄色や白や灰や黒の中から人間が現れた。
千里は喋らない。開いた背中の両端に腕を回し、指で捉えると、肌に沿わせて脱ぎ始めた。一皮剥けるの言葉そのままに脱いでいき、腋まで来て、内側に手を入れて、そこも剥けはじめた。胴を包むメガイエローのスーツから解放されて、そこに締め上げられていた胸が姿を現す。極薄プロテクターがあてられていた乳房やその他の上半身は、どこも汗でてかてか輝いている。スーツ自身は脱いだそばから収縮していく。千里の身体のいたる所に痣の後や、完全に治癒した傷がある。戦いの傷だった。
胸から腹部へそして腰へ、再び後ろに手を回し、尻へ手を入れた。ぐん、と一度身体全体を揺らせると、脱げた。うっそうと茂った場所は全身よりもてかてか濡れている。細い足があっという間に現れた。しゃがんで体育座りをし、慣れない手で両方のブーツをはずし、黄色く輝くメガイエローから千里は脱皮した。メガスーツは転送されて、光りと共に消えた。
裸の千里は幼顔をして、みくを睨み付けた。目配せが終わり、みくも手動変身解除を始めた。みくの身体も千里の躰と同様に、てらてら光を反射していた。千里は息をのんで、それを見つめていた。終わると、壁に掛かった時計を見て、立ちあがると、裸体のまま抱きしめあって、肌を擦り付けあい、愛おしむようにして両者の指を相手の陰部に入れて、絶頂する。済むと、シャワーで汗を流し、制服を着た。それぞれのナップザックや鞄を手にとり、部屋を出ると、いつもの才色兼備の優等生と、ドジな子供になり、メガイエローとメガピンクは城ヶ崎千里と今村みくに戻っていった。