何故、生きているのかさえ解らなかった。
 天敵であるシボレナの剣に斃れ、千里の瞳から凛とした色は消えた。戦意はもとより、既に感情すら湧いていなかった。
「あ……わ………あ……」
 赤子が呟くような声で千里はフラフラと身体を揺らした。
「死にたい? 死ねないわよね?」
 少女の耳元で妖しく呟くシボレナ。血まみれの肌と白い手の間に、納豆のように血が糸を引く。冷酷無比のネジレジアの作戦参謀にとって、拷問、そして陵辱は得意中の得意だった。
 拷問――それは、殺さず生かずを意味していた。その職業的技術を、己のサディズム/快楽として天敵に向けたとき、黄色いスーツに包まれた女戦士は、生物学的に生きるだけの屍と化した……
「そんなあなたもまだ…オンナなのよね……」
 シボレナは千里の耳へとキスをした。後ろへ倒れようとする身体を抱きとめると、右手をメガイエローの股間へと伸ばした――既にむき出しになった生殖器に、シボレナの指が入る。鋭利な刃物がフルーツの果肉を切るように、赤い液体が流れ出た。
「あぁ………くあ……し……」
 まだ、死ねないのかな――思考の雲霞の中で、元女戦士は呟いた。アンドロイドのミリ単位の精密さで切り刻まれ、血ばかり流れても、とどめを打たれていなかった。
「わたしがあなたをいたぶり続けるのよ」
 シボレナには天敵を殺すことが出来た。既に虫の息と化したメガイエローを始末するには、その小刻みに震える肩を押し出して、地面へ投げ出すことで、傷口は開き、心肺機能は活動を停止する。
「永遠の苦痛と快楽の繰り返しの中でね」
 だが、それはシボレナのプライドが許さなかった。これまで正義の上に君臨してきたシボレナにとって、この女戦士は、殺し、安らかな時を過ごさせる気にはなれなかったのだった。
「………………ぅ」
 白いグローブに包まれた赤い手が、ゆっくりと伸びた。そこにまるで彼女を救う存在、仲間が存在するかのように手を伸ばしていた。痙攣し、指と指がもつれあいながらも伸びる手に、かつての力強い面持ちはなかった。