LOST IN SPACE
1 イン・スペース
「スタースリンガー!」
パチンコ型の武器を構え、アシュレーは引き金を絞る。アストロネマは槍でその光弾を弾く。イエローレンジャーの足元で爆発が起き、腕でおおってよけると、槍が目を前にあった。
「あぁ!」
目の前がめまぐるしくうつりかわり、地面に叩きつけられる衝撃。アシュレーは腕をついた。得意げなアストロネマの顔が一瞬うつった。アンドロスもTJも、キャシーもいない。完全に劣勢だ。頭ががくんがくん揺れている。
「やあ!」
振り下ろされる槍を手刀で抑える。痛い! 血が出るみたいに真っ赤に肌が燃えだす。なんとか、槍を腋に押さえ込み、立ち上がる。
「おばかさぁん」
アストロネマの満面の笑み。プロテクターをはめた腕が、イエローレンジャーの腹部にめり込んだ。目尻に皺がよるよりも早く、腋から抜かれた槍がアシュレーの胸を左から右へ斜めにふりおろされ、花火のように火花が吹き出た。
「きゃあああああああ!」
「ちょっと、痛いけど我慢してね」
アストロネマはイエローレンジャーの大股に槍の先端を差し込んだ。火花が散り、スーツが破壊されるものすごい音が響いたあと、鮮血が噴きだし、今までで一番大きいアシュレーの悲鳴が当たりに響き渡る。
「う、あ……」
マスクの下で苦痛に顔をゆがめ、槍の刺さった足をおさえながら、アシュレーは地面に崩れた。
「いやああああああ!」
一瞬真剣になったアストロネマが、槍を引き抜く。その先端は赤く染まっていたが、アシュレーは目の前が真っ赤になって、焼けるような傷口に顔をゆがめながらうめいた。グローブで押さえた傷口からぽたぽた血が滴っていた。
「ああぁ……」
アシュレーは吐息を漏らす。「はああ」
「どうしたのかしら、イエローレンジャー、の、お姉さん?」
悪の女王アストロネマは後ろからアシュレーを抱きながら、訊く。
「パワーレンジャーなんてものも、案外呆気ないものねえ」
「い、いや」
白い肌が真っ赤に染まっていた。現実。それは呆気なかった。KO35が滅ぼされたとき、ゼインだって敗れた。でも、何度もピンチに陥りながらも勝ってきたから、アシュレーは未知で無限の宇宙で、悪の帝国と戦うことができた。イエローレンジャーは捕らえられてしまった。
アストロネマの髪は青い光を帯びて、美しく流れていた。その顔がやさしく微笑んだまま、腕がアシュレーの乳首に触れた。
「や、やめなさ…あああ…」
「メガシップのセキュリティーコマンドを解除しなさい」
無表情のマスクがうつむいている。アストロネマは結局何も求めていないのだった。要求は毎回変わった。降伏しろ、シルバーレンジャーを誘き出せ、降伏しろ、ひれ伏せ、セキュリティーコマンドを解除しろ。結局、アシュレーが苦痛に負けて、屈服するのを求めている。
「ずいぶん可愛くなってるわね。イエローレンジャー」
溶けた飴みたいに絡まってくる悪の女王の声をきくだけで、もう、辛い。
アシュレーは霞んだ目をしょぼしょぼさせていた。涎がマスクの中をどろどろにしている。アストロネマが乳首だけを執拗に愛撫していたせいで、どんなことにも敏感になってしまう。
指が傷口へもぐっていく。上ずった叫びがまた響いた。
「それであなたにみせたいものがあるのよ」
女王は話す。
アシュレーは半ば強制的に前を見させられた。目を覆いたくなるような光景だった。だが目をふさいでも、その悩ましげで艶を帯びた声は、耳に入ってきて、マスクのフィルターにろ過されて、臨場感ある劇場みたいな音に変わり、それはもともと、周りをよく把握できるように変換されるシステムだったが、今は何も聞きたくない。
でも、目を塞ぐように耳は塞げない。
エクリプターとエルガーに下半身を両方から突かれたピンクレンジャー・キャシーの素顔が露出して、スーツから肌が見えている。それはアシュレーたちが宇宙に旅立つ直前、地球の代々のパワーレンジャーが使っていたエンジェルグローブ郊外のステーションをディバトックスらに襲われ、破壊されたときに、ぼろぼろにされた仲間――キャシーの姿より、もっと残酷で悪意に満ちて、吐き気を催す姿だった。
コードがあふれでて、細かい部品がぽろぽろ落ちていた。
「いやああねえ、ピンクレンジャー、感じちゃってええ」エルガーがわいわいがやがや言っている。「うおっ、うおっ」
「ああああああああああああああ!」
鋭く冷たいキャシーの悲鳴。
「わははははは、我々の元にひれ伏すのでだ!」
クールで忠実なアストロネマの育ての親にして、悪の戦士、エクリプターも半狂乱になっていた。
冷たく鋭いキャシーの悲鳴。奇妙で生々しい音が続いていた。アストロネマが乳首を捻りあげた。激痛、悲鳴、苦痛……いやああああ!
2 ゼオ
ジャングルの獣道を、ピンクレンジャーが植物を掻き分けながら進んでいた。降るような星を受けて、スーツは暗闇でも光沢を放ち、滑らかで強靭な布地が、その中の豊かな肉の膨らみを際立たせていることが、よく解った。
「アシュレー……キャシー……」
いつまでも続くジャングルに、スーツを着ていながらも、キャサリンは疲労を感じた。パワーレンジャーゼオとして、彼女もアシュレーやキャシーの前に、地球をエンジェルグローブを守る戦いを続けていた。
ハイスクールを卒業し、より強いターボパワーを授かったが、程なくしてそれをキャシーに渡した。彼女はそれから戦いとは関係のない自分の夢へと歩みだした。ある夜、悪夢にうなされた。パワーレンジャーが悪の帝国に陵辱されている夢だった。奇妙なほど生々しく、吐き気を覚えた。
そして、汗だらけになって、目を覚ますと、枕もとにパワーブレスがあった……
ゼオパワーを身体にまとい、キャサリンは感覚の訴えるまま、今も陵辱され続けている仲間――後輩を探して、ジャングルの中に入った。星空が瞬いていた。
「今助けに行くわ。待ってて」
「へへええん!」
戦闘兵クアントロンがキャシーを抱きかかえていた。ピンクのスーツが青白い光りを放って、血とか白濁した液があふれていた。エルガーは潜望鏡のような機械を覗いていた。その中には、キャサリンの変身した姿がうつっていた。
「二匹目のピンクレンジャーだ」それだけで、エルガーは涎をたらした。
「だらしないわね!」
先ほど駆けつけたばかりのアストロネマの叔母ディバトックスが、エルガーの頭を叩く。
「うるさいな、叔母さ……」
叔母、という言葉を聞いた途端、ディバトックスはエルガーへ肘打ちをくわえた。
「うわぁ!」
「悪かったよお…」
エルガーは口元を拭い、よろけながら立ち上がった。
「それで、アストロネマ、その娘はどうなの?」
ディバトックスも嬉々として微笑んだ。
「はあああん……はぁ! あああ……んんんん……ふあああはああ」
アストロネマがアシュレーを後ろから抱きかかえて、どれだけの時間が経ったかわからない。もうマスクは破壊され、素顔は露出していた。アストロネマの力なら、イエローレンジャーのマスクをはずすなど、朝飯前だったが、あえてそれをしないのは、悪の女王がその状況を楽しんでいたからだった。
「だいぶ、可愛くなってきたわ。ディバトックス……」
「どれどれ。私にも見せてみなさい……」
ディバトックスの右腕がナメクジに変貌していく。対して左腕に拳が出来て、黄色いマスクに振り下ろされる。金属の音がして、アシュレーの口元が露になる。
「ディバトックス、私の楽しみを奪う気?」
「うるさいねえ、私もこいつにはさんざん痛い目にあってきたのよ。こいつらの基地は壊してやったけどね」
「じゃあ、それでいいじゃない?」
「うるさいわね。姪は姪らしく、黙ってな!」
ぐじゅ。アシュレーの瞳が大きく見開いた。
「んぐぐぐ……ぐうう…………」
「さあ、イエローレンジャー、おいしいよ。たんとお食べ」
ナメクジのような右腕をディバトックスは、アシュレーの喉仏まで乱暴にぶち込まれた。あごが外れるほどのその巨大な物体に、瞳は飛んでいた。
「あら、私も忘れないでね、イエローレンジャー」
アストロネマが乳首をねじりあげた。口元から唾液が飛び、ディバトックスの胸元へ飛ぶ。
「ほら、なにしてるの」
息も出来ずに、白濁した意識が真っ白になりそうになっていく。
「うはうはうははああ」その光景を見ていたエルガーが、誰に要求されるでもなく、自慰
をはじめた。
「エルガー! 汚いもの見せるんじゃないの!」
「うわああああ、ひどいなぁ。叔母さん」
「きゃあああ!」
マスクにクアントロンのブーツがめり込んだ。
なんで。なんでなの。じんじん痛む肩をおさえながら、キャサリンは肘をついていた。丸型のゴーグルにひびが入り、素顔が覗いていた。恐怖におびえた顔が全てを物語っていた。
「どうして……」
理由は簡単だった。パワーレンジャーゼオは悪の帝国に勝つため、ターボパワーを手に入れて新しいパワーレンジャーに生まれ変わった。そして宇宙へやってきて、アンドロスのパワーを持った新しいパワーレンジャーになった。キャサリンのまとったゼオパワーのスーツは二世代前のスーツ。そしてクアントロンは普段から最新のパワーレンジャーと戦っていた。基礎的な力に違いがありすぎた。
だからキャサリンを囲んだクアントロンの大群は難なくピンクレンジャーを窮地へ追い込んでいったのだった。
「やああ!」
背後に回った一人が腋に腕を回し、羽交い絞めにした。前の二匹がビームを放つ。電撃が走り、悲鳴と共に火花が散る。ゴーグルの破片が頬に刺さり、鮮血が飛ぶ。
ソードを構えたクアントロン。精かんな戦闘兵のマスクが微笑む。
「や、やめ……わああああああああ!!」
首元の白とゴールドの部分にくっきりと焦げ目が残っていた。
「ちょっと……何してるの!」クアントロンの一人が胸を掴む。きゅっと視界が遠のく感覚に思わず言葉が出る。「あなたたちピンクレンジャーにこんなことして、ただで済むと思ってるの!」
羽交い絞めにしてたクアントロンが近くの木の根元にピンクレンジャーを吐き捨てた。
「あう……」
引きつったキャサリンの瞳が、迫り覆い被さるクアントロンの影に悲鳴した。
「やめてえええええええええ!」
スーツが引きちぎられ、パニックに陥ったキャサリンの悲鳴が、その敵のジャングルに響き渡った。
へそが露になり、紫色の肩が露出している。クアントロンがいくつも重なって、その手がキャサリンの身体を愛撫する。その素顔が苦痛に歪む様を見て、奴らはますます殺到していく。
「ピンクレンジャー」みんなそんなふうに叫んでいるみたいだった。
「パワーレンジャーも呆気ないな」
集団がさっと左右に引く。装甲が黒光りしスリムな女性体系のクアントロンが現れた。
「あなたは……」
キャサリンは泥までまみれていた。
「さあね」
「きゃああ……」
リーダーらしきその黒いクアントロンは、キャサリンの足を掴むと、宙に高く上げ、股を大開にした。我を忘れる黄色い声は力無かった。屈辱的なことよりも、意識が朦朧としていて、マスクの中の顔は血が滴って、貧血気味に気だるそうだった。
「ピンクレンジャー、だらしないわねえ」
開いた股にクアントロンはブーツをねじ込む。意識が遠のていく。
「ちょっとどこを……うわああ」
すでに力は無く、間歇的な呼吸がはあはあと色香を帯びていた。
「人間はみんなここが弱いんだもんねぇ……」
敵は変な形の機械を取り出した。それを大開にした大股にねじ込んだ。
「はあはあ……な、なにこれえええ!」
「お前の生体エネルギーとパワーレンジャーのパワーを全て吸い取る装置さ!」
「はぐうぅああ! や、やめてええええ!」
機械が断続的に扇動して、スーツの上からキャサリンの生殖器に刺激を与えはじめた。「ここからが一番エネルギーが抜けていくのさ」
クアントロンの言葉など聞いていなかった。そのうち異臭が漂ってくる……キャサリンは失禁してしまったのだ。ぷしゅ、スーツを食い破った機械はアンダーヘアに絡みついた。キャサリンの尿があふれて、股を伝ってブーツまで流れていった。
露出したアンダーヘアに白い粘着質の液体がこびりついていた。後ろ首筋のあたりのマスクからストレートの髪の毛があふれ出ていた。現れている乳頭、肉に膨らんだ二の腕の裂け目についた血はどす黒く変色していた。
「やめて…やめて……」
うなだれたキャサリンの口元から血が引いていた。
そして、その、十字架の、隣、キャシーの手のひらに細長い釘が刺されていた。キャサリンと同じように十字架にかけられたピンクレンジャーは、もう輝きすら失って、韓国系アメリカ人の理性的顔立ちは無残に表情を奪われていた。
そのもう隣の十字架には、伝説のパワーを使ってキャサリンやキャシーよりも先に地球を守っていたパワーレンジャー――キンバリーがザーメンのシャワーをかぶったみたいに、真っ白になって精液が滴り、金魚みたいに口をぱくぱくとさせていた……
3 ターボ
どさ。アシュレーは崩れた。生ごみの強烈な臭いがする。チャンスは一度だった。何度もなんども……パワーレンジャーのスーパーヒロインたちは、順番に数えられないほど犯された。パワーレンジャーの能力を奪われて全裸になってしまった。それでも犯され、エルガーにまでも馬乗りにされて、アシュレーは、腐った石畳の上に血と胃液を吐いた。喪失したはずのターボパワーがアシュレーを助けてくれた。イエローレンジャーになり、敵と戦った。泣きながら戦った。
スペースパワーのレンジャーと戦う悪の帝国に、赤子の手をひねるぐらい簡単なことで、再び犯されそうになった。狂喜に歪んだエルガーの顔と、アストロネマとディバトックスの悪魔のような微笑みに、今までに無い恐怖がこみ上げてきて、アシュレーはビームを連射して、われを忘れて暴れた。
そして、気づいたときには、再びぼろぼろにされたスーツをまとって、水道のどこか、水滴の音がして寒くて暗い場所で、アシュレーはごみ同然の状態で、半分死んでいた。失禁さえして、スーツが黒ずみ、アンモニア臭がしていた。
アシュレーはみてしまったのだった。キャシーばかりか、キンバリー、キャサリンまでも……彼女らを助けねばならないのだろうか。でも、もう戦いたくなんかない。でもまもらなきゃ……大切なひとを。
右の肩がズキンと痛む。左の肩は外れて、だらりとなっていた。股間はもう感覚がしない。拭う気にもなれない。もう誰にもあいたくない。このまま死んでしまいたい。敵に陵辱されたパワーレンジャーなんて、死んだほうがマシ。
「ダークスペクター様、パワーレンジャーどもの始末に成功しました」
パワーレンジャーの血で染まった槍をたもとに置き、アストロネマは悪の支配者ダークスペクターに作戦の成功を報告していた。十字架の並ぶ姿に、ダークスペクターは満足げな様子だった。
「あとのパワーレンジャーを誘き出し一網打尽……くく、よくやったなアストロネマ。ところでディバトックスはどうした?」
「叔母ですか? 叔母は今ごろ、逃亡者を捜しております」
「何? 逃亡者がいるのか」
「イエローレンジャーが……申し訳ありません」
「……まあいい。ははは、これでお前も真の仲間というものだ」
水たまりにべちゃべちゃと足音がしていた。ディバトックスはたいそう機嫌が悪かった。連れてきたエルガーは役立たずで、三十秒おきに汚水の中に突き飛ばされていた。イエローレンジャーを探すクアントロンたちは懐中電灯片手にあちこち探すが、足跡が途中でぷっつり消えていて、その行方は知れなかった。
「うわあ! ねずみ、ねずみ」
「うるさいねえ、エルガー!」
水面に大きな波紋が出来る。エルガーはもう汚物にまみれていた。
「ひどいおばさんだなあ」
「うるさいっつってんだよ。いい加減に早くイエロークズレンジャーを見つけな!」
T字路の方から声が響いてくる。アシュレーは壁の影により、小さく丸まった。黄色い背中ががたがた揺れていた。オートブラスターのグリップをしっかり握っていたが、恐怖が度を越えていて、引き金にかけた指が震えていた。
そのうち、T字路にクアントロンが現れた。探してきな、ディバトックスの罵声が響く。クアントロンの近づく音がする。オートブラスターを握る震えはひどくて、撃てないと思った。汗が吹き出てきた。目の焦点が合っていなかった。クアントロンが目の前に現れた。振り返った。影を注視した。アシュレーは目を合わせた。
「うわああ!」
掴みかかった。汚物の川の中に飛び込んだ。身体中に臭いものが絡み付いてくる。気持ち悪かった。でももう吐くものは血すら吐いて何も残っていなかった。クアントロンのプロテクターをバリバリとはがした。
「見つからなかったわ。アストロネマ」
「そう。何、臭い!」
「エルガーだよ。あのくそバカが」
「え、またおいらなの?」
「お黙り! エルガー」
ディバトックスは司令室でアストロネマと話していた。戻ってきたクアントロンたちは列を作りディバトックスの後ろに並んでいた。
「仕事に戻りな」
ディバトックスが素っ気無く言う。そのクアントロンの中で一人やけに体格の違うものがいた。肩のアーマーが少しずれて、黄色いものがみえていた。そのクアントロンとエルガーは目ざとく目をあわす。
「ねえねえ」エルガーはディバトックスに聞いた。
「うるさいねえ、さっさとシャワーでも入ってきな」
「違うんだよ、叔母さん」
「うっせえんだ、さっさとお行き!」
エルガーはもう一度そのクアントロンを見た。クアントロンの身体が震えた。だが、エルガーはシャワーを浴びに行った。アシュレーはほっと息をついた。やらなければならないことがある。クアントロンに変装したまま、三人の十字架がかかっている場所へ、彼女は急いだ。
「おいお前、配置に戻れ、うわああああ!」
アストロネマの副官にして生みの親、エクリプターにアシュレーの拳がぶち込まれた。アシュレーはずきずき痛む肩をおさえ、急いだ。やがて、十字架にかけられた三人のピンクレンジャーの姿が現れた。アシュレーはクアントロンのマスクをはずし、見上げた。変身ブレスを装着し、イエローレンジャーになるため叫んだ。
「シフトイントゥーターボ!!」
「みんな! 私のパワーを受け取って!」
イエローレンジャーになったアシュレーは手を大きく広げた。光のウェーブが三人の身体に注ぎ込まれた。傷口がふさがりスーツが結合する。十字架の拘束から解放され、三人はぐったりと地面に座り込んだ。
「アシュレー」キャシーが顔をあげる。彼女の表情は窺い知れなかった。「助けにきてくれたのね!」
イエローレンジャーは彼女のもとによった。「さあ逃げるわよ」
「飛んで日にいる夏の虫、とはこのことかしら?」
四人はぎくっとして振り返った。アストロネマの微笑み、スーパーヒロインたちを凍りつかせる悪魔の笑みがその美しい顔に広がっていく様をみると、金縛りのように動けなくなってしまった。
「イエローレンジャー、やっぱりきたわね」
「もう、あなたには負けない!」
アシュレーは立ち上がり叫んだ。
「あなたの味はおいしいわ。私はもっと食べてやりたい」
「ふざけないで。みんなの武器を一つにするのよ!」
ピンクレンジャーたちは顔をあげる。アシュレーは振り返り、四人は頷きあった。
アローやボウガン、ナックル、盾を四人が一つにすると、大きな光りが放たれて、一個のバズーカ砲が生まれる。
「アストロネマ、あんたもこれで終わりよ!」
「ターボパワーのお嬢さんが何を言っているの。そんなものきかなくてよ」
「うるさい」キンバリーが叫ぶ。
「受けた屈辱、絶対許さないんだから」キャサリンも叫ぶ。
「くらえ!!」キャシーとアシュレーの声が重なり響き渡る。
プロローグ エンジェルグローブ
風光明媚な西海岸の幸せな町エンジェルグローブのダウンタウンに四人の姿があった。
それぞれの腕に変身ブレスは無かった。だが、今はもう必要ない。宇宙冒険に挑むテラベンチャーのなかで、パワーレンジャーロストギャラクシーが宇宙の平和を守っているはずだから。アシュレー、キャシー、キャサリン、キンバリーはこの幸せな町で、幸せに暮らす権利を得たのだった。