虹色アブラマミレ

 湿気でじめじめした路地裏――水溜りは油か何かと混ざって七色の光沢を帯びていた。そんな水たまりがそこかしこにあり、蒸発しきらなかった水分は、あたりにあるものを吸い寄せて結びつき、臭いを放っていた。
「はあぁっ! やあ!」
「ええいっ!!」
 ゴーオンスーツに身を包んだ二人の戦士は、襲いかかる蛮機兵ウガッツたちを次々に倒していく。ステップを踏むたびにあちこちの水溜りを蹴散らし、吹き飛ばしていく。
 一人は目が覚めるような鮮やかな黄色のスーツ、もう一人は高炉から取り出してきたままのような鈍いブラック/シルバーのスーツに身を包んでいた。その動きは要所要所をきれいに整えられ、かと思えば軟体動物を思わせる柔軟さで、敵を前に蹴りを繰り出し、拳を見舞う。
 「早輝!」ゴーオンシルバーは手にしたロケットダガーを構えなおして、ゴーオンイエローに向けて声をかける。
「うんっ! バレッドクラッシュ! ゴーオン!」
 イエローは手にした武器をウガッツに向けて放つ。パチンコのように放たれたレーシングガー型の弾(パレッド)は、敵兵の間に飛び込むと、ビリヤードのように跳ね返り命中して一気に敵を一網打尽にしていく。
「ギュビッ!?」
 一気に数人の兵が一蹴されたことで、ウガッツの間に一瞬動揺が走る。
須塔美羽――ゴーオンシルバーはその一瞬を見逃さず、敵の前へ飛び出した――
(こんな奴ら、武器をを使う必要もない!)
 ウガッツの間に降り立った美羽は、まるでそれがあらかじめ定められたダンスであるかのような身のこなしで、あたりを伺う。敵兵と目が合った瞬間には、美羽の腕に握られたロケットダガーは、敵に届き、その武器と体の間には激しい摩擦の火が飛び散る。
「ウガッツッ!」
 背後からやってきたウガッツが、無我夢中でロケットダガーを振りかぶるシルバーの腕にとりつく。突然のことに一瞬意識が後ろに行きかけた美羽の正面から両手をつきだした別のウガッツが――
「シルバー!」
「なにするの――! きゃっぁ!!」
 早輝の声。その瞬間、ゴーオンシルバーのリズムは音楽がとまったように停止していた。ウガッツたちは右から左から殺到し、シルバーはあっという間に囲まれてしまう。
「助けないとっ! ちょっとっ! ええっ!!」
 突然のことにホルスターからマンタンガンを抜いたイエローの前にウガッツたち数体が立ちはだかる。
「じゃま!! マンタンガン!」
 三体を吹き飛ぶ。シルバーの目の前に飛び出た早輝は、ウガッツたちがシルバーの上にのしかかろうとしているのをみて――彼女は目を見開いた。
 しかし――つぎの瞬間、光が――出し抜けにひかった光とともに、ウガッツたちは空中に吹き飛ばされるのが見て取れた。
「美羽、大丈夫!?」
 巻き起こる白煙のなかにゴーオンシルバーを認めて、早輝は声をかけた。
「ゴーオンシルバーのあたしが、こんな奴らに負けるわけがないでしょ――でも、今日はなんだか数多くない?」
「ウガッ!!」
 二人のいる場所は、路地の行き止まりで三方が有針鉄線の巻かれた三メートルほどのフェンスで囲まれていた――残った一方向からウガッツは次々に送り込まれてくる。
「うん、なんかいつもより力押しな感じがする」
「さっさとみんなと合流しないと」
 いざとなれば、このフェンスを飛び越えちゃえばいいんだけど――美羽は古びた金網を見上げておもう。今日は蛮機獣が出てこない代わりにウガッツばかり送り込まれてくる。
 町中にに同時多発的に送りこまれてきているらしいウガッツたちに、ゴーオンジャー、ゴーオンシルバーは個々に対処を迫られていた。一体ずつの戦闘力は大したことないものの、こう集まってくると――正直苦戦というより、うっとうしいという感じだった――美羽は自分より少し華奢な早輝の後ろ姿を見やって頷く。
「まあでも、なんとかなるでしょ。いくよ!」
「うんっ!」
 こう力任せに来られると、武器にばかり頼っていられない。シルバーは拳を握ると、イエローとともにウガッツたちの中へと飛び込んでいった。

「作戦は成功でオジャる……」
 相手に判断をする隙を与えない。そうすればいくら能力に優れた相手でも、徐々に追いつめることができるはず――そう考えて立案したケガレシアの作戦は図に乗りつつあった。
「さすが、ケガレシア様っ!」
 シルバーとイエローが戦う近くのビルの一室――路地に追いつめたゴーオンジャーたちにウガッツでひたすら送り込む。そのまま、二人をその場所に固定する。
「いくらゴーオンシルバーが訓練を積んだ戦士で、ゴーオンイエローが小生意気な小娘でも、所詮は多勢に無勢でオジャる……」
 その言葉に、ドクガバンキは頷く。
 地上の二人にはほとんど見えないだろうが、多数のウガッツを放ったその場所には何匹もの毒蛾を放っており、その羽根からは、ゆっくりゆっくりと毒鱗粉が落ちているのだった。
「ですが、よろしいのですか、このような回りくどいことをせずとも、わたくしめならあの二人を一網打尽にすることも容易いかと」
「ふふふっ、敗北というのは常に屈辱にまみえる必要があるのでオジャる――」
 ケガレシアは腕を組んだまま、ウガッツに囲まれる二人に目を向ける。二人がその場所に『追いつめられて』既に十分以上の時間が経過している。倒されたウガッツの数は尋常なものではなくなっている――
「ウガッツになんか負けるはずがないという驕りを抱いたまま、あの二人には敗北の味を味合わせなければ意味がないのでオジャる――」
「それは――さすが、ケガレシア様っ!」
 ドクガバンキは手をたたき、すりすりと羽根を揺らしながらケガレシアに擦り寄ろうとする。
「くさいでオジャる! あまり近づいたら怒るでオジャる!」
 彼女はドクガバンキにしっしと手を振った。
「失礼しました!」
 

「キリがないッ! もうホント何匹いるのよ!!」
 美羽は周りのウガッツ三匹を倒すと、早輝にとりつくウガッツニ匹を倒した。
「なんかあとからあとからくるみたい!」
 まるでゾンビ映画だわ――美羽は、いつか大翔と見に行ったおぞましい映画のことを一瞬思い出して首を振る。こうなったら――
「早輝、このフェンスをジャンプして越えるわよ」
「うん!」
 手近な敵をすべて掃討すると、二人は武器を手にしたまま、そのフェンスを飛び越えるべく足を踏み込み、一気にジャンプをした。壁は高かったが彼らのスーツの能力をもってすれば、飛び越えることは簡単に――思えた。
「なにっ!! あああぁあっ!!」
「きゃああああぁっ!!」
 ジャンプの途中で二人に、めがけて白化した光が集中する――電撃が甲高い音とともに殺到し、地面に引きずり戻されてしまった。着地の衝撃は鈍い音とショックになって体の内部に響き、二人はわずかに跳ね返り、鉄製のフェンスにぶつかった。
「早輝! だ、だいじょうぶ?」
「美羽のほうこそ――いまのは」
「わからないけど、バリアみたいなものが張ってあるみたい――」
「バリアっ!?」
「ええ」
 通りの向こうから顔を出すウガッツたちをみて、美羽はイエローの手をとって立つように促す。
「どうも、ここに追い込まれたのはガイアークの作戦みたいね」
 罠に落ちた。それは――古来から続くものすごく単純な罠だ。美羽はウガッツたちは誰かが指示で動いているのだろうかと思った。ヨゴシュタインかケガレシアか――でも、そいつらは、この場所に顔を現す様子はなかった。いつもならそろそろなんだけど――
「早輝、疲れていない?」
「なんとか――」
 ゴーオンイエローはあたしより持久力がない。トレーニングはしているけれど、それはゴーオンウイングスが普段こなしているようなハードなものではなく――そんなことは今まで問題にならなかったし、ただ、こう戦いの時間が引き延ばされると――美羽だって、体力は続いても、集中力の低下を感じずにはいられなかった。
「ウガッツたちの間を無理やり抜けて通りに戻ってみんなと合流――は?」
 早輝の言葉に美羽は意外そうに目を向ける。かわいいだけの子だと思っていたのに――ある意味簡単すぎて美羽が思い浮かばなかったことを、彼女が簡単に言葉にして見せた。
「上がダメならそれしかないようね」
 二人で道を開く――イエローとシルバーはウガッツたちと相対して目を細めた。美羽はひどく汗を欠いていた。スーツは密閉されていて通気性なんてないに等しい――いつもなら、それでもスポーツウェアの高機能繊維みたいに汗を自覚させないのに――今日だけは、不思議なほど息があがり、全身から汗が染みだし、スーツには貼り付いてくるのがわかった。
 それは不快感で、美羽ははやくその感覚から抜け出したいと思った。ロケットダガーを握りなおして、攻撃に打って出る。ウガッツたちの攻撃はワンパターンで予測するのが簡単に抜けられるはずだった。
「はぁっ! えいっ!!」
 敵に短剣の入り込む感覚。爆発とともに飛んでいく戦闘員――イエローも同じように蹴りを打ち込み――何匹かを押し返し、投げ飛ばしていく。通路の角までは十メートルあまり。その場所はまるで満員電車のようにウガッツで埋め尽くされていた。
「もう、数ばっかり多いんだからッ!」
 二人ともそのうちウガッツの間に挟まり込んでしまう位置になってしまう。密着していたのに離されて、意識を集中させないと――美羽が首もとに汗のこみ上げる不快感を感じたとき――
「きゃっ!!」
「早輝っ! ああぁあっ!!」
 もといた通路のほうにイエローが投げ返されてしまう。そちらのほうを向いて悲鳴に一瞬意識がそがれた瞬間、左右からウガッツが抱きついてきて、両腕を上に上げさせようとした。
「いい加減にしてっ!」
 美羽よりも二周りも体の大きいウガッツたちに持ちあげられそうになる――彼女は鉄棒の逆上がりの要領で、空中で一回転すると、ウガッツたちの腕をねじり上げて離れると、イエローのほうに寄る。
 ウガッツたちはゴーオンイエローを取り囲んでいる。その醜悪さに彼女は再びゾンビの群れを思い出し――美羽は、彼らを一蹴すると、早輝を無理矢理立たせた。
「ごめん、美羽」
「こんなんじゃ、あいつらの間なんか抜けない――」
「ごめん」
「謝るのはあと」
 ゴーオンイエローのスーツには水たまりの中に転げ込んだからか、真っ黒な汚れがついていて、つんと臭いを立ち上らせていた。まるで、それはこの状況のまずさを物語っているかのようだった。
「それに、謝ってほしくなんかないっ!」
 ゴーオンウイングスも、ゴーオンジャーも、こんな奴らに負けたりしない。ガイアークにだって負けたりしないし、そんなの須塔美羽が許さないし――アニだって認めないだろう。
「ちょっと悔しいけど、早輝、合わせ技で行くよ」
 イエローの肩を軽くたたくと、彼女はまだ十分イケそうだった。美羽は汗を拭おうとして、グローブの甲がマスクの表面でつるんと滑った――余裕がないのは、こっちのほうだ。
「ゴーオンキャノンボール! ゴーオンッ!」
 ウイングトリガーにロケットダガーを差し込む――ウイングブースターを構える。早輝のマンタンガンと同時発射して、一列目のウガッツを倒し、ニ列目にも続いて命中する――
「イケる!」
 ニ列目から、三列目――ウガッツたちは爆発すると小さな破片を残して消失してしまう。つぎからつぎへと、シルバーとイエローは連続発射しながら、さっきと違ってゆっくりウガッツたちを押し返していく。
「ウガッ!」
「ウガアガッ!!」
 次々に四散する蛮機兵たちはまるで歯車の壁をつくろうとしているかのように次々にぶつかっては爆発を繰り返す。三メートル、五メートル――あともう少し――というところになって、二人は不意に――
「ちょっとなに――あああぁっ!!」
「きゃあぁあぁっ!!」
 爆発はスーツの表面から起きた。目の前へと急に進めなくなったかと思うと、電撃がスーツの表面に殺到し――派手な爆発とともに、二人は跳ね返され押し戻されてしまう。
「あっ痛っ……」
「なんなの――っ」
 着地するときかすかに足をひねったらしい。腰がオイルまみれの水たまりに使っていることがわかっても即座に動けず――それでもなんとか身体を起こす。
「ウガッツ! ウガッツッ!」
 大量の仲間が既に失われているというのに、ウガッツたちはそのような損害はまるでなかったかのように平然と押し返されたところから再び進軍を始める。美羽の目にうつるそれは不気味で――突然爆発したあたりで、ウガッツの身体がわずかに発光しているのが見え――その光が上へと伝って、壁のようなエネルギーフィールドの存在が――
「まさかあそこにも」
「バリアー……」
 完全に閉じこめられた。実感はゴーオンシルバーに悪寒を走らせるのに十分だった。ウガッツたちはエネルギーフィールドを抜けると、しばらく二人の様子を伺うように、銃を手にしたまま距離をおいている。
「じゃあ、どうすればいいの」
「早輝!」
 いまにもべそを欠きそうな早輝の肩に手をおいた。美羽だって本当は泣きたかった――だけど、プロとしてゴーオンジャーにいつも『上から』の目線を渡している彼女にとって、早輝の前でべそをかくようなことはできなかった。
 瞼の熱さを感じながら、ゴーオンシルバーは起き上がり立て膝をつく。ウガッツ四体が――それらは感情のない歯車とねじの目をしていて――めいめい銃を構えている。やられる――そう見て取ったとき、体はすでに動いていた――美羽は早輝の前に立ち、手を広げる。
「だめっ……」
「ウガッツウガッツっ!!」
 歓喜に沸いた蛮機兵の声はそのまま銃撃の音に重なった。
「あああぁぁっ!!」
 銃口が連続して発光を繰り返す。そのマズルフラッシュの間から飛び出てきたのは黄金色に輝くネジだった。そのバレットの先端の鋭くなった部分は相次いでシルバーとブラックで構成される美羽の強化スーツの表面に集中する――命中すると、爆発は矢継ぎ早に黄金色の炎を瞬かせ始めた。
「ああぁぁっ!!」
「美羽!」
「大丈夫、スーツはこれぐらいの――ああぁあっ!!」
 ネジは爆発の瞬間チクッチクッとスーツの内部に感覚を伝える。爆発の瞬間それは消えるが、代わりに熱した鍋に素手でふれたような感覚がいくつもいくつも瞬間ごとに連続して炸裂して、肌の表面に引っかくように広がっていった。
 四体の銃撃を終了すると、すぐ後ろにつぎの四人が控えている。美羽はそれでも、気高く腕を広げたまま、その背後に立つ、ゴーオンイエローを守るために――銃撃の雨を受けた。。
「アアッっ!」
「早輝!」
 跳弾した弾が、イエローの足に突き刺さる。それは爆発することなく、彼女のブーツの上のタイヤ模様の部分に突き刺さる。
「それを抜いて!」
「えっ! あっ――きゃっ!!!」
 手を触れると、ネジは抜け、イエローの手の中で爆発した。
「あああっ!!!」
 衝撃波はシルバーを後ろからも襲った。イエローが吹き飛び、鉄製のフェンスに派手な音をたててぶつかり、シルバーは後ろからのその圧にわずかに前のめりになってしまい――その瞬間にネジの弾丸は頭に集中して、バイザーの向こうが少しぼやける。同時に警告の表示が現れると、いくつも集中して視界を埋め尽くした。
 爆発はすぐ顔のすぐ目の前で起こっていた。音は大きく、それは何重にも重なっていys。前からの衝撃波は立て膝の彼女を崩しそのまま彼女のことを地面に引きずり倒し――尻餅を打たせた。

「ウガッツッ――!」
 いまや冷酷な破壊者であることを誇示しようしている四体のウガッツはさらに一歩前へと足を進ませた。倒れたシルバーは失神したのか身体のあちこちをびくつかせながら、水たまりの中に沈んでいる。
 その向こう、フェンスに背中をあてて、右手を真っ黒に汚している少女――ゴーオンイエロー・楼山早輝がいた。マスクをつけていても、明らかな怯えを見せて、彼らに向けて片手をあげた。
「やめっ――」
「ウガッツっ!!!」
 彼らは懇願の声よりも前に行動を開始していた。銃撃はシルバーに成されたのと同じぐらい執拗かつ重点的だった――そのわずか数分後にイエローもシルバーと同じように失神しその地面に倒れてしまった。

「やめて!!」
「離してッ!! 離してったら!!」
 ウガッツたちは、そのわずかなチャンスを見逃すことは決してなかった。一気にその空間に流れ込んだウガッツは、ゴーオンシルバーとゴーオンイエローを手の中に納めると、その手足を金属ワイヤーでぐるぐる巻きにした。
 彼らは容赦なくそのワイヤーの結び目を自らの身体から引き破がした先の鋭い工具で締め上げた――ワイヤーがグローブに食い込むぎちぎちという感覚で、彼女らは目を覚ます。抱きついたウガッツたちはその黄色い悲鳴をきくや否や、五体がかりで抑え込み――二人の正義の味方の行動を奪った。
「一体なにをするつもりなのッ!」
「そうよ、あたしたちがこんなもので捕まえられると――」
 美羽はそのとき上から『何か』がふり注いでくるのがわかった。そのことは早輝もまた気づいたらしく、二人して上を見上げた。
「キラキラしてる――ー」
「これは――」
 金色の粉のようなものが降り注いでいる――それはちょうど何かの花粉かのように思わせたた。それらが地面を転がって汚れたスーツに貼り付いていく。
「これは――あああぁっ!!」
「あぁって――身体がしびれるっ! ち、力が抜けるよう!!」
 二人の身体がにわかに輝きはじめる――脱力感と疲労感、どうしようもない熱さがいっぺんに身体に押し寄せ――ウガッツにしっかり抑えられながらも、身を捩らせて、ゴーオンシルバーもゴーオンイエローもなんとか、この場からの脱出を試みるが――
「あぁあぁぁっ!!」
「ああああぁぁっ!!」
 二人にとりつくウガッツは五体から四体に減り――まもなく三対になった。最後には羽交い締めにする背後の一体と足を抑える一体の計2体になる。二人は抵抗から次第に身を捩らせる方向へと変化し、美羽は思わずマスクの内側でべそを欠いて、首を小刻みに振った。
 二人の手がきつく閉じられていた手が、けいれんして掴むものをうしなったかのように開かれて、そのまま、だらりとなってしまう――どういうことだかわからないが、その粉が二人のパワーを奪ったのは確実なようだった――
「あああぁっ……」
「ううああぁっ……」
 痛みのぶり返しと、熱とで高熱に冒されたかのように――動物のように声をあげる。
 ビリ! ビビビビリッビリッ!!
 その音はあまりにも唐突に二人の耳に届いた。それと同時に感じるのはお尻のひんやりとした感じで――そのあまりに明敏な感じが、スーツが――スーツが破かれていることだと知れて、散漫な動きで背後に首を振ると、自分の身体は見えないのに蛮機兵の股間にそそり立つ整髪料のスプレー缶のような――それが見えて、美羽は――そして早輝もまた悲鳴をあげた。
「いやあぁぁっ!!」
「だめっだめっ!!! あああぁぁっああ゛ああ゛ああぁぁっ!!」
 ゴーオンイエローの裂かれたスーツの股間にウガッツの一体が乱暴に液体のようなものを吹き付けられると、早輝はぴくんと震え、さっきみたばかりの巨大なパイプのようなものが身体に触れる感覚と突き納められる痛み――諸々の交錯したものが痛みと――出血になって、イエローの身体に失神と蘇生の連続を作り出した。
「だめだめだめぇっ! いやああぁぁっ!! ああぁあ――っ!!」
 美羽もまた――いつもの冷静沈着さを失おうとしていた。
 激しい怒りと恐怖がない交ぜになったなか――『経験』のあった彼女でさえ、その巨大な機械の塊を挿入されたことで傷ついた膣に出血が起こった。
 血と身体の破壊を防ぐかのように矢継ぎ早にしみだした愛液、ウガッツが塗り込めるローションか何か熱いものの作用で――ピストンがはじまったとき、顔を真っ赤に染めて、口を半開きにされたまま、拘束された手を地面について四つん這いの格好で、挿入を受け入れることしかできなかった。
「ああぁっ! うぐああぁっ! あああぁっ! あうああぁっ!」
「ひくっ! ひぎいぃ! ああぁっ! ふああぁあっ! きゃあぁっ!!」
 ゴーオンイエローはイエローで、目の前に立つウガッツにお手のような格好で腕を掴まれていた。その背後に立つ別のウガッツは何かの作業かのような抑揚を欠いた動きで、早輝のマスクに手をやると、そのまま上に引き上げ――真っ赤に染まった早輝はしばらく表情を失い、驚愕の表情を浮かべる前に、ウガッツの『機械』を口の中に放り込まれることとなった。
「ううぶぶぶぶっああぁっ! ああぁあっ! ううぐぐぐっ!!」
 端正のとれた表情が醜くゆがみ、涙が堰を切ったように流れ始めた。
「早輝――っ! ああぁはあぁあぁっ! だめ!!」
 早輝のとろんとした目に美羽は若干の正気を取り戻しかけていたが、自らもまたウガッツによってマスクが破がされてしまう。。乱れてくしゃくしゃになった栗色の髪が頬に貼り付き、涙に赤く腫れた目があたりを見回し、明るくなった視界のなか明敏な現実を吸収するに――ウガッツは美羽と早輝の身体を破壊しそうなほどの力任せにピストン運動を繰り返す。
 悲鳴をあげる彼女ら――どろっとした液体はそのパイプそのものからも吐き出されているらしかった。
「ああんあぁっ! あんっ!! あぁぁああlっ!!」
 足の付け根から胸までが焼けただれたように熱く感じられた――そのころには、彼女らの声に次第に甘ったるい声が混じるようになった。
(やだやだっ! 感じてなんかないッ!!)
「ああぁっ!! ちがっ! ちがうのぉっ!!」
 感じているわけなんかじゃないのはわかった。この急激な反応は、ガイアークのクスリか何かで無理やり感じさせられていることは確実で――でも美羽はまわりがぱっと明るくなったように思えた。
 金色のキラキラの粉がまるでそれぞれがきれいな雪のようだった・金色で純白で、青く輝くきれいの雪、目の前のそれに見せられ、そのころ乱暴に胸に伸びてきた手がエンブレムの内側にある胸の頂――乳首をしごきだしたとき、美羽はとろんとした感覚に流されそうになる自分を気づき、声をあげた。
「あああぁあぁっ!」
 機械が性交するハズなんかない。だけど、あたしたちはウガッツに犯されている。身体の奥をこそげ取られるような感覚で――でも顔の赤みがとまらない。痛みが何かの拍子にとろんとしたものへと変わろうとして――でもそれを必死に押さえつけていて――
「早輝を……」
 声に出して、自分を叱咤する――目を向けて、まっすぐ見た先で顔を真っ赤に染め――口を半開きにしたままのピストン運動に従って腰を振る早輝の姿を見いだした。
「ああぁっ! ひいぁあぁっ! ああぁっ! もっと! もっと!! あああぁあっ! イクあああああああぁっ!!」 
 そのとき、美羽は、何度めかの落涙をして、そのまま涙がとまらなくなった。
「早輝、だめっ、ガイアークに負けちゃっ……」
「美羽っ――」
 とろんとした声――美羽はにっこりと笑って、拘束されたままの腕を伸ばして、美羽の腕に触れた。
「いや」
「スマイルスマイルっ!!」
 その口にはさきほどウガッツが塗りつけたらしい液体が大量にまといつき糸をひいて滴り落ちていた。
「うぐっ!!」
 早輝にとりついたウガッツが、美羽の前に彼女を押し出し――そうして近づいてきた唇と美羽はキスする格好になった。
(これはオイル――)
「んんんっあぁ! さき――さき――しっかり――あぁあぁあ……ああぁっあああんっ!!
 早輝の舌によって送り込まれてくるねっとりした液体の苦みに、美羽は顔をしかめる。ウガッツたち、あたしたちを――身体の内部を突かれるたびに、美羽は系統だった思考を失っていく。
「ああぁがあぁぁっ! あぁあぁっ! いやぁ! いやっあぁああああ! ああぁああぁ! あんってぁl イクイクイクウウウウッ!」
 たたきつけるような痛みはいつしか痛みではなくなり、赤くぼやけた感覚のなかに、美羽は頭のなかが真っ白になって――つぎの瞬間、墜ちる感じと圧倒的な幸福感が迫ってきて、美羽は――

「こんなに作戦がうまくいくとは思わなかったでオジャル……」
 ケガレシアは、つんと異臭立ち込める通路に足を踏み入れながら、ドクガバンキに話しかけた。
「ですが、他の地域では成功したとはいえません……」
 他の三箇所でも同時に行われた同じような作戦は失敗といっていい結果にだった。数頼みのウガッツの投入といっても、スクラップの量にはおのずから限界があって、それやゴーオンジャーたちの作戦の成果もあって、唯一、成功といっていいのは、この場所だけになりそうだった。
 だから、ケガレシアは『事を』急がせた。ウガッツたちに充填された大量のオイルでもって、シルバーとイエローを犯して再起不能に――
「一箇所でも成功すれば、わらわの作戦は図に乗ったも同じでおじゃる……」
「しかし、それではかえってやつらの憎しみを――」
「ふふふっ」
 ドクガバンキは口をつぐんだ。ケガレシアの表情が笑みを――何か見てはいけない表情に彩られていたから――だった。
「そうオジャる――あいつら、ゴーオンジャー、ゴーオンウイングスの憎しみを一身に受けるバンキ獣が必要でおじゃる。それに三箇所も作戦を失敗させたバンキ獣に対する罰も必要でオジャる……」
「そ、それは! ケガレシア様っ!」
「あとの始末は任せたでオジャる! ドクガバンキ!」
 ケガレシアは体を翻すと、そのまますっと空気の中に溶け込むように姿を消してしまう。ドクガバンキはその先に思わず手を伸ばして飛び込もうとした。だが、その中に入ることは必ず、代わりに二人の女戦士の前に飛び出すカッコウになった――ゴーオンシルバーとイエローは激しいバンキ獣の攻勢に虫の息になっていた。
 体中の穴という穴にウガッツたちの潤滑油を注ぎ込まれ、それは血や反吐と混ざって、虹色の光沢を作り出そうとしていた。
「――バンキ獣! これは! てめえ!!」
「美羽! 早輝!」
「美羽ッ!!!」
 複数の足音がきこえたときには、最後の角にはその五つの影はすでに現れていた。かれらはこの明るく照らし出された路地の奥を認めて、口々に声をあげていた。