恐怖の卵   
レッドルはよろめきながら、先を急いでいた。カマザキラーに卵を産みつけられ、激痛に耐えながら 新装備のドリルスティンガーをブルービートに届ける為に戦場に向っていた。カマザキラーの卵は体内で成長を続けインセクトアーマーの中の(羽山 麗)は妊婦の様に腹部をパンパンに張らしていた。
「早く、これを届けなくちゃ・・・拓也までやられてしまう・・・」
レッドルはドリルスティンガーを抱えながらブルービートの身を案じていた。ジースタックとレッドルが戦闘不能の今、ブルービートが倒されればジャマールに対抗出来る者はいなくなってしまう。そうなれば、地球の最後だ。
「やはり、現れたね。網を張っておいて正解だったようだ。」
戦闘員ジャマーと共に女幹部・ジュラが姿を現した。どうやらビーファイターを一人づつ、しかも確実に仕留める為に待ち構えていた様だった。ムチを構えジュラ達はレッドルの周りを取り囲んでいった。
「フフフッ。こっちもエモノのひとつでも無いとね。レッドル、お前にはここで死んでもらう。やれっ!!」
一斉にジャマーが襲い掛かって来た。普段ならなんともない相手だが、産み付けられた卵の所為で苦戦を強いられていた。
ジャマー達は執拗にレッドルの弱点、腹部を狙っていた。レッドルは腹部とドリルスティンガーを庇って闘わざるを得なかった。
しかし、どんなにハンデが有っても、ジャマー達では簡単にはレッドルは倒せなかった。ジャマー達は見る見るうちに倒されていった。
「・・・ハァハァハァ・・・・ジュラ!どんな敵でもビーファイターは負けないわ!」
レッドルはジュラに向って言い放った。とても、卵の所為で死にかけているとは思えない姿だった。
「・・・・仕方ない。ジャマールに楯突いた事を苦しみながら、後悔すると良い。」
ジュラの背後から奇妙な装置を背負った2組のジャマー達が現れた。どうやら、2種類の違う装置を背負っている様だった。
警戒するレッドルに最初の一組が銃の様な物を向けた。ガードしようと腕を上げた瞬間、液体がレッドルに浴びせられた。
液体を全身に浴び、驚いたレッドルは身体中を見回したが変化は無かった。
「何?何ともない・・・・うぎゃあぁぁぁ!何!何がぁぁぁ!あ、熱いィィィィィ!身体がぁぁ・・・溶けるぅぅぅ?!・・ヒィィィィィ!」
麗の悲鳴と共に全身から凄まじい白煙が上がり、レッドルは地面をのたうち回った。まるで殺虫剤を浴びた虫その物だった。
ワインレッドのインセクトアーマーは、奇妙に変色し表面はボ ロボ ロに劣化していた。頭部のソニックセンサー等は溶け落ちてしまい、黄色く光っていたカメラアイは火花を上げ、黒く沈黙していた。一目 で判るほどの致命的なダメージだった。
「クククッ。苦しいかい?それはラズベルとか言う食虫植物から抽出した溶解液さ。貴様らビーファイターでも、これは効くだろう。
なにせ、虫を溶すんだからねぇ。さあ、もっと苦しめ!ドロドロに溶けてしまいな!」
もがき苦しむレッドルに次々と溶解液が掛けられて行く。肩や胸のアーマーは原型をとどめない程溶け落ち、内部のコードや回路が剥き出しになっていた。踏み潰され、内臓が飛び出しているようだ。
「ヒィィィィィ!ヤメテェェェェェ!溶ケルゥゥゥゥ!助けてェェェェェ!アガァァァァァ・・・・・」
レッドルの動きが段々と鈍くなって行く。全身のインセクトアーマーのドロドロに溶け、頭部を守っていたマスクも溶けて外れてしまった。
無惨に汗と涙で薄汚れた顔が晒され、纏め上げられた美しい長い黒髪も溶解液でベトベトに汚れていた。
ジュラは抵抗出来なくなったと判断すると、別の装置をもったジャマー達をレッドルの周りに配置した。
「レッドル。お前の腹の中には、カマザキラーの卵が産み付けられている。これが成長すればカマザキラーの幼獣がお前の腹を食い破って産まれて来る。内蔵を食い荒らされ、その激痛を味わい、血反吐を吐いてお前は死んで行くのだ。」
ジュラが手を上げるとジャマー達は、一斉に装置を倒れたレッドルに向けた。
「これはその卵の活動を活性化させる超音波を発生させる装置さ。この超音波を受けると卵は一気に10倍 のスピードで成長する。
もう、殻は脆くなったから、すぐにでも姿を見せるだろうよ。レッドル、ビーファイターなどになった事を後悔し、苦しみながら死んでゆけ。」
ジュラの言葉と共に、一斉に超音波がレッドルに浴びせられた。
「いや・・・やめてぇぇ・・・ウギュ?!グギュッ!!グギャァァァァァァ!ダズゲべェェェェェェ!グガガガガガガガ・・・・」
麗が奇妙な叫び声を上げたと同時にレッドルの腹部のアーマーにヒビが入り、粉々に砕け散った。
インセクトアーマーの中から妊婦、いや不気味なまでに膨れ上がった麗の腹が姿を現し、まるで別の生き物の様にビクビクと蠢き始めた。
あまりの激痛に麗は白目 を剥き、腹が蠢く度に頭部を激しく痙攣させ、悲鳴と共に口からゴボ ゴボ と泡を吹き始めた。
「・・・グボ ボ ボ ボ ボ ボ ・・・・グギッ・・フゴッ・・・グギャァァァァァ!ガバババババババ!グベッ!ゴボ ボ ボ ボ ボ ボ ボ ボ ・・・・・・・・・・・・」
真赤な泡を口から噴きだし、麗は断末魔を上げた。それはドロドロに溶かされ、殺されたレッドルの断末魔でもあった。
麗の腹を破裂させ、血塗れのカマザキラーの幼獣が誕生した。同時にレッドルの生命活動は永遠に停止した。
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なんとかカマザキラーを倒し、ジャマールを撃退したブルービートとジースタックには麗は南米支部に転属になったと伝えられ、 2代目 レッドルには、最終的に(鷹取 舞)がなる事となった。
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アースアカデミーの研究班はカマザキラーの寄生卵とジャマールの溶解液の研究の為、溶解液でインセクトアーマーと溶け合って、 重甲の解除が出来なり、特殊樹脂で固められた(羽山 麗)の遺体を(研究資材)として南米支部に輸送した。 (羽山 麗)は貴重なサンプルとしてジャマール戦以後も研究が続けられた・・・・・・・