孤島の美人像
 
ゴードムの神官、ガジャは八方塞がりの現状に苦慮していた。
パワーを格段にアップさせ、なおかつパラレルエンジンを無力化する理想的な装置、
ゴードムエンジンを完成させたまでは良かったが、カースではそのパワーに耐え切れず、
パワーを与えてやったクエスター達は、自分の命令など全く聞かず、勝手に暴れ回る始末。
こればかりは、他所からボ ディを用意する訳にも行かない。せっかくの切り札が、
自分の命令を聞かない上に、それを技術ごと他人に奪い取られたのでは話にもならない。
ゴードムエンジンは、ゴードム文明再興の為の物。他人に渡す事など出来ない。
しかし、ゴードムエンジンのパワーに耐えられ、他の組織に関係の無い者など・・・・
いる!いや、在ると言った方が適切だった。ジャリュウやツクモガミを上回るボ ディが・・・
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ボ ウケンピンクはボ ウケンイエローとチームを組み、ゴーゴービークルの調整も兼ねて
プレシャス(イカズチの水晶)確保の為に南海の孤島、バース島に上陸していた。
クエスターロボ に敗れ、大破したゴーゴービークルのパラレルエンジンの修理だけは完了したが、
全機体を同時にパワーアップする事は不可能な為、1~3号までの改造が先行して行なわれた。
その為に今は4号、5号の搭乗者だけがアクセルスーツを装着できた。さくらと菜月の二人である。
そして、ミッションが実行可能なボ ウケンジャーもこの2人だけだった。そんな折、南海の無人島で、
凄まじいエネルギーを放つと言われる(イカズチの水晶)の存在が確認された。
核エネルギーにも匹敵すると言われるプレシャスを悪用される事は余りに危険だった。
直ちにさくらと菜月は島に急行した。だが、捜 索を開始した途端、菜月は直感に従い、先へ先へと
どんどん先行してしまい、二人は逸れてしまった。毎回の事にさくらは呆れてしまった。
「イエローは、どうして勝手に行動を!チームとしての意識が足りなさすぎです!
何が起きるか分らないと言うのに・・・・ 」
さくらは文句を言いながら、プレシャス反応の高い洞窟まで、ようやく辿り着いた。
「スタートアップ!ボ ウケンジャー!」
さくらは(ボ ウケンピンク)に変身すると、洞窟の中へ入って行った。
内部はかなり広く、洞窟の内部は明るかった。慎重に進んで行くと洞窟内に僅かに霧が漂って来た。
熱帯では湿度が80%を越えると霧になる事が珍しくは無かったが、
洞窟内は既に濃霧となって、1m先も見えなくなった。アクセルラーのプレシャス反応を頼りに濃霧の中を
ボ ウケンピンクは進んで行った。だが、プレシャスの反応が突然、フッと洞窟内から消えた。
「えっ?!プレシャスの反応が消えた?そんなハズは・・・・」
プレシャスの反応を捜 していたボ ウケンピンクは突然の気配と同時に背後から激しい衝撃を受けた。
「ハッ!!うあぁぁぁぁぁ!・・・・・い、一体、何が ・・・」
吹飛ばされ、倒れ込んだボ ウケンピンクは素早く立ち上がりながら、背後を振りかえった。
そこには、岩石で作られた古代武者がこちらを見据えていた。その姿はハッキリと記憶に残っていた。
「う、ウソ?!どうして、こんな所に・・・あの時、確かに排除したのに・・・・・・・・」
それは、謎の古代文明の遺産で(モガリ)という衛兵だった。かつてガジャに利用され、ボ ウケンジャーと
闘った。超硬度のボ ディと凄まじいパワーを持ち、一体でボ ウケンジャーを壊滅寸前まで追い込んだ敵として、
初めて捕虜になった苦い記憶と共にさくらの脳裏に強烈に刻み込まれていた。
殆どの攻撃が通用しなかったのだ。あの時も一歩間違えば全員、あの場所で殺されていただろう。
ボ ウケンピンクが立ち上がると、ほぼ 同時にモガリが剣を振り上げて攻撃を仕掛けて来た。
モガリの素早く、そして重い太刀筋を受け、ピンクのスーツが火花を上げて切り裂かれていった。
「くあっ!あうっ!きゃあ!ううっ、サバイブレード!!」
サバイブレードで受け止めるが、力任せに(叩き斬る)様な斬撃にジリジリと追い詰められていった。
ドスッ!!、と背中が岩壁にぶつかり遂にボ ウケンピンクは追い詰められてしまった。
「ううっ!!ど、どうすれば?!・・・・・そうだわ!これなら!・・タアッ!!」
ボ ウケンピンクは渾身の力を込め、モガリの腹部を蹴った。岩壁を背にしたキックと不意を突いた事も有り、
モガリは2m程後方の霧の中に吹飛んだ。
「デュアルクラッシャー!!ドリルヘッド、シュート!」
余りのパワーの為、通常ならアクセルテクターを装着し、5人で使用する必殺兵器(デュアルクラッシャー)を、
ボ ウケンピンクは装着する間も惜しんで、モガリに向けて撃った。確かに手応えがあり、爆発が起きた。
「やった?!・・・・・くっぅぅぅぅ!や、やはり、アクセルテクター無しでは無理が在るようですね・・・・」
マスクの下で苦痛に顔を歪ませながら、ボ ウケンピンクは座り込んだ。全身が痛み、力が入らなかった。
リスクは大きかったがなんとかモガリは倒せた。安堵の余り、張詰めていたものが、ふっ、と解けた。
突然、霧の中から黒い何かが飛び出した。それはボ ウケンピンクの頭部を掴むと、一気に岩壁に叩き付けた。
「・・・・えっ?・・キャアァァァ!!・・・ウガァ!!ウガァ!!や、やめてぇ・・ウギャア!グギャア!・・・・」
不意を突かれたボ ウケンピンクは、何度も何度もマスクを岩壁に叩き付けられ、遂には失神してしまった。
両足首を掴むと、(漆黒に染まった)モガリはボ ウケンピンクを引き摺りながら洞窟の奥へと進んで行った。
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「良い格好だな、ボ ウケンピンクよ。」
その声と首を絞められる様な息苦しさにボ ウケンピンクは意識を取り戻した。
「ううっ!・・・・・ガ、ガジャ!どうして此処に・・・・」
首を掴んだガジャの手を振りほどいて、ボ ウケンピンクは言った。この島ではネガティブシンジケートの存在は、
確認されていない。ネガティブの存在が無い事を前提に、今回のチームは組まれていたのだ。
そうでなければ、対ネガティブ戦力として本 部に待機しているボ ウケンシルバーも加えられていたハズだ。
いや、ゴードムであればクエスターの存在も在り得る。島にはボ ウケンジャー全員で上陸していただろう。
「クククッ。プレシャス(イカズチの水晶)を探しに来たのであろう?バカモノめ!!その情報を流したのは、この私だ。
プレシャスと聞けば貴様等は必ず現れる。今度こそボ ウケンレッドに引導を渡してやろうと思っていたものを・・・・」
口惜しそうな表情を浮べガジャは続けた。
「それなのに現れたのは貴様等2人だけだ!!こうなれば、貴様にはボ ウケンレッドの分まで苦しんで貰うぞ!」
ガジャの背後から(漆黒のモガリ)が現れた。体色以外の違いは無かったが、何か異常なモノが感じられた。
「これはモガリの無数に在る(スイッチ)だけを再利用したものだ。名付けて、(ネオクエスター)!!」
ガジャが呪文を唱えると、胸のゴードムエンジンが作動し石像の様な(漆黒のモガリ)は金属質のアーマーを纏った、
(ネオクエスター)へと変化した。と、同時にボ ウケンピンクのアクセルスーツはゴードムエンジンの波動を受けて、
みるみるとパラレルエンジンのエネルギーが打ち消され、火花を上げて全機能が低下し始めた。
「うあぁぁぁ!!・・・・アクセルスーツの・・・機能が・・止まる・・ううっ!」
最早、ボ ウケンピンクのアクセルスーツは(強化スーツ)ではなく、身体の自由を奪う(拘束着)でしか無かった。
迫って来るネオクエスターに必死に抵抗しようとするが、やはり身体は重く、向き合うのが精一杯だった。
「クククッ。やれ、ネオクエスター!!ボ ウケンピンクを破壊してしまえ!」
動けないボ ウケンピンクにネオクエスターの拳が襲いかかった。全て機能が大幅に低下したスーツでは、
その凄まじい力に耐える事は出来ず、確実にその衝撃が身体を痛めつけていった。
「うっ!ギャアァァァ!グブッ!!ウ、ウアァァァァァ・・・・・」
反射的に防御しようとした腕の骨が一撃で砕かれ、もう片方の腕も守ろうした腹部ごと貫かれ、粉砕された。
激痛に倒れこむボ ウケンピンクに速く、そして重い蹴りが襲い、その身体を何メートルも吹飛ばした。
「ぐあぁぁぁぁぁ!・・・・・ううっ・・・・・うあっ!!な、何を・・・や、やめ・・・ギャアァァァァァァァ!!」
吹飛んだボ ウケンピンクの側に立ったネオクエスターは、ヒザを踏みつけるとそのまま踏み潰した。
砕けたヒザを庇い、のたうち廻るボ ウケンピンクのマスクごと頭部を踏み付けた。
「ひっ!ま、まさか・・・・・いや・・・やめてぇぇぇぇ!!頭がぁ、頭が潰れるぅぅぅぅ!・・・あがぁぁぁ!う、うぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・」 
内部のモニターディスプレイや高度通信システムが火花を上げて、圧壊していった。
眼の前が何も見えなくなり、頭が潰されて行く様な衝撃を感じたボ ウケンピンクは冷静さを失い、悲鳴を上げ続けた。
ベキベキッ、とマスクは悲鳴を上げ、割れ目 から衝撃吸収用の発泡剤が噴き出して、壊れたゆで卵の様になっていった。
(深き冒険者)、西堀 さくらは亀裂の入ったマスクを地面にめり込ませ、上ずった断末魔を上げ意識を失った。
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古代に使われていたであろう、X字型をした鋼鉄の磔台にマスクを破壊されたボ ウケンピンクは磔にされ、凄惨な姿を晒していた。
ピンク色のスーツに護られていたハズの手足の関節は既に無惨に破壊されて抵抗はおろか、歩く事も出来なくなっていた。
掌と爪先には暴れても外れない様に鋼鉄の杭が打ち込まれ、身体の自由を完全に奪い去っていた。
「・・・ううっ・・・・私に・・・何を・・・するつもり・・・ですか・・・・」
痛みと恐怖を必死に堪え、磔台のボ ウケンピンクはガジャに言った。
(処刑する)という答えを覚悟していたボ ウケンピンクに、ガジャは意外な答えを出した。
「貴様にプレゼントが有る。我々、ゴードムからの取っておきのプレゼントがな。」
驚きの表情を浮べるさくらに、ガジャは意外な、いや驚愕のシロモノを差し出した。
「貴様等、ボ ウケンジャー用のゴードムエンジンだ。本 当はボ ウケンレッドにくれてやるハズだったが、
ボ ウケンピンク、貴様にくれてやろう!存分に味わえ!」
ガジャはゴードムエンジンを握り締めると不気味な呪文を唱え、まるで液体に手を入れる様にボ ウケンピンクの胸に腕を刺しこんだ。
「ひっ!!・・・・い、いやぁ!ヤメテェェェェェェ!・・・・・・・・ぐげえぇぇぇぇ??・・グヒィィィ?!・・・ぶぐぉぐぅぅぅえぇぇぇぇぇ・・・・・・」
ガジャが不気味な喘ぎ声を上げるボ ウケンピンクから腕を引き抜くと、ゴードムエンジンは体内に埋め込まれてしまった。
胸の異物に顔を歪めて苦しむボ ウケンピンクに、勝ち誇った様にガジャは言い放った。
「外部からの干渉でアレだけのエネルギーの対消滅が起きる。それが体内からだと、人間の身体はどうなるのだろうなぁ?
ボ ウケンピンク、貴様にはその実験台になって貰おう。クククッ、楽しみだ。」
ボ ウケンピンクは愕然とした。外部からの干渉だけで、変身が解除されてしまう程のエネルギーだ。それを体内に流し込まれたら、
待っているのは、(確実な死)だけだ。
「や、やめなさい!・・・・いやぁ!やめてぇ!・・放してぇぇぇぇ!」
クエスター達の前に敗れ、手も足も出なかったあの時、さくらは戦闘中、初めて(死の恐怖)を味わった。
今までどんな訓練でも、実戦でも総て完璧だった。どんなピンチも事前に回避し、当然(生命の危機)に陥った事など無かった。
だが、それが裏目 に出た。恐怖は脳裏にこびり付き、増幅され、さくらは度々(死ぬ悪夢)にうなされるようになった。
(あれ以上の苦しみが・・・身体が壊される・・・・殺される!死ぬ?!私が死ぬ!・・いや!!死にたくない!)
ゴードムエンジンはその象徴だった。それを体内に埋め込まれた。さくらの心は限界を越え、遂に折れてしまった。
「貴様達の為のゴードムエンジン、その身で味わうが良い!ヒャハハハハッ!」
ガジャが呪文を唱え、ゴードムエンジンをスタートさせた。無様に悲鳴を上げ、磔台から逃れようと必死にもがき、のたうち廻っていた
ボ ウケンピンクのスーツがスパークを起こし、爆発を始めた。
「ウギァァァァァァ!ヤメテェェェェェ!死にたくないぃぃぃぃ!・・・・ぐぶぇぇぇぇ!ギャガガガガァァァァァ!グボ ッ、グボ ボ ボ ボ ボ ボ ・・・」
体内からのエネルギーとアクセルスーツのエネルギーの対消滅でボ ウケンピンク、いや(西堀 さくら)の体内が異常な高温になって、
体中の水分が沸騰し始めた。内蔵や血液、体液等も(煮込まれた)状態となり、その激痛は想像を絶した。
身体中の汗腺からは高温の汗が流れ出し、開きっ放しの口からは沸騰した涎や胃液が流れ出し、皮膚を溶かしていった。
「ウゲゲゲゲゲェェェ!ダズゲベェェェ!ユルジベェェェェ!ギャグゲゲゲゲゲ・・・ウギィィィ!メ、眼ギャアァァァァ!!」
さくらが異常な悲鳴を上げた。と、同時に両目 の眼球が沸騰し弾け飛んだ。両目 の痕からは沫だった血液が流れ出していた。
(西堀 さくら)はエネルギーの干渉波を体内から全身に受けて磔台でひたすら奇声を発し、血液を噴き出してもがき苦しみ続けた。
既にボ ウケンピンクの身体は、奇妙なオブジェの様に変わり果てていた。ピンクと白が基本 色だったスーツは赤黒く染まり、
胸のエンブレムは黒く焼け焦げて、ベルト背面の変身ツール(アクセルラー)は火花と白煙を上げながらも未だに機能を維持しており、
皮肉にもそのカタログデータどうりの耐久性でパラレルエンジンからのエネルギーを(確実)に受信しスーツに送り続けていた。
凛々しく、美しかった(深き冒険者)は装着したアクセルスーツに全身をジワジワと生きたままローストされていった。
「グベェェェェ!!ユルジデェェェ!アヅイィィィ、アヅイヨォォォォ!グ、ウギュゥゥゥ・・・」
膀胱の尿が沸騰し、そのあまりの激痛にボ ウケンピンクの股間からダラダラと煮立った尿が流れ出し地面に湯溜りを作って行った。
やがて、ボ ウケンピンクの身体が激しくビクビクと大きく震え出した。
「ギュウゥゥゥゥ!・・・・・ウギュ!カハッ!キュッ!アッ!アッ!・・・・・」
「フンッ、もうすぐ心臓が止まるか。ボ ウケンピンクよ、苦しみぬいて死んで行くが良い!」
口からブクブクと血の泡を吹きながら、ボ ウケンピンクは全身の血管が破裂して行くのを感じていた。
(もう・・・・私・・・・死ぬんですね・・・・イエロー・・菜月・・早く・・・逃げて・・・くださ・・・・)
全身の穴という穴から、血液を噴き出して(西堀 さくら)最期の冒険は幕を閉じた。
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「ククッ、死んだか。我らの恨み、思い知ったか!残るは後3人、いや4人か。ボ ウケンジャーめ!全員、地獄へ送ってくれる!」
奇怪なオブジェと化した処刑台のボ ウケンピンクを眺めながらガジャは腕を振り上げ、戦闘員カーズ達に(それ)を隣りに運ばせた。
それは、ネオクエスタ-に倒され、マスクを破壊され、奪われた(デュアルクラッシャー)から取り出したハイパーコンクリートで
ズタズタの全身を石像の様に固められ、息が出来ずに悶絶死した(強き冒険者)ボ ウケンイエローの変り果てた姿だった。
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12時間後、定時連絡の途切れたボ ウケンピンクとイエローの捜 索にボ ウケンシルバーとパワーアップを完了したボ ウケンレッド達が
バース島に到着した。早速、捜 索を開始したボ ウケンレッド達は島の中央部の洞窟内で(不気味なオブジェ)と(苦悶の石像)を発見した。
二人の(冒険者)は無惨な最期を遂げ、変わり果てた姿で仲間達に(回収)された。