『正義の巫女斗(ミコト)』第一話 正義の乙女は義理の妹!?

第一章:正義の大和撫子
「今日こそ、仕留めてやるぞ」
常盤瑛士は愛用するニコンのデジタル一眼レフカメラを握りしめながら、煙を上げる丸の内ビル群に向かう。
美大の3年生の彼はカメラマン志望だ。新聞社のアルバイトとしてスクープ写真をものにし、専属プロとして契約を、と燃えている。
ここ半年の間に東京の街にはテロや大手金融機関の略奪が続いている。要人の暗殺も数件起きていた。事件が起こるたびに犯行声明を出す「ジェノサイド」という秘密結社の目的は知れない。だが、人々が彼らの影におびえて生活していることだけは確かだ。どころのマスクをつけた武装戦闘員はいたるところに現れ、都民を恐怖の底に陥れる。そんな彼が、狙うのは首都を破壊する犯罪集団の蛮行…ではない。

髑髏マスクの戦闘員たちが襲撃したのは東都光陵銀行本店にある大金庫だ。次々に麻袋いっぱいに詰め込んだ札束を運び出している。
警察も特殊部隊も歯が立たない。なぜならば、ジェノサイドには魔怪人と呼ばれる非人間的な戦士が存在するからだ。筋骨隆々のバイオレンスマスクと呼ばれる巨人が指令を出す。
「さぁ、我らジェノサイドの聖なる活動のため金が要る!! お前たち、一円たりとも盗りこぼすな!!」
誰もが、破壊しつくされた建物を前に行われる略奪劇をただ見ているしかないのだ。
これが首都の日常となりつつある。だが、そんな東京にテレビの世界よろしく、彼らの悪事を粉砕する一人の少女が現れたのだ。その名を正義の味方ならぬ「正義の巫女斗」という。
「正義の巫女斗」はその名の通り、日本の神社、仏閣でお馴染みの白衣に火袴という巫女姿だ。神聖かつ穢れのないいでたちだが、まるで白無垢の花嫁の様に丹念に施された白塗りの化粧の下には美少女フェイスを覆い隠している。その姿からは気品や気高さが感じられ、風に靡く漆黒のロングヘアは、古き良き時代の大和撫子を体現するかのようだ。そして彼女は強い。160㎝余りの小柄で華奢に見えるスーパーヒロインは決してパワーで相手をねじ伏せるわけではない。まるで魔法少女のように相手を眠らせたり、脱力させたりしてしまう七色の鮮やかな光を武器としていた。ここ数か月は、彼女の名を聞かぬ日はない。そして、それは今日、今この時も…。

「財政難の日本に、あなた方にお渡しするお金などありませんわ!!」
壊れたビルの頂上に降り立ち、凛とした声で言い放つ一人の女の子。彼女こそが、「正義の巫女斗」だ。
「来たか、『正義の巫女斗』!! だが金勘定は大人の仕事だ、お嬢ちゃまは引っ込んでな!!」
バイオレンスマスクの強烈な拳をひらりと交わした「正義の巫女斗」は、ふわりと宙を舞うと地面に鮮やかに着地し、正義感に満ちた顔で敵を睨む。
「お金は働いて得るものよ!! 一円たりとも残さずお金を返してこの場を立ち去りなさい!!」
理路整然とした言葉を投げつけると、最後通告をするように胸元から眩い光の玉を取り出す。
「おう、に、逃げろ!!」
髑髏マスクの戦闘員たちは一斉に後ずさりしだす。「正義の巫女斗」の必殺技を理解しているのだ。
正義の美少女は去る者は追わずの姿勢で、逃げ惑う戦闘員に追い打ちは。だが、唯一攻撃の姿勢を崩さないバイオレンスマスクにだけは威嚇を続ける。
「ふん、小娘に何ができる!! 俺を倒せるものなら倒してみろ」
「受けなさい正義の光を!! インペリアル・レーザーーー!!」
光の玉は菊の御門の様に形を変え、バイオレンスマスクの頭上でスパークした。
「う、うお? な、なんだこれ・・・は…」
筋骨隆々の怪人は徐々に崩れ落ちると、地面に倒れ伏すのだった。

「これこれ、こういうシーンを待ってたんだよ!!」
常盤瑛士はデジタルカメラのシャッターを切り続けた。一連の闘いは無論のこと、勝利を納めた「正義の巫女斗」が照れくさそうに喜びの声を上げる観衆に、小さく手を振り微笑む姿まで記録し続けた。300ミリの超望遠レンズを装着したカメラのファインダー越しに、正義の乙女が視線を送ってくれている。
「やった!! カメラ目線までゲット それにしても可愛い」
シャッターを押しながらも、スーパーヒロインの愛くるしさに気を取られていると一瞬にして彼女は瑛士に駆け寄ってくるではないか。
「危ないですッ!!」
耳元でそう声がしたと思った次の瞬間には、瑛士は宙を飛んでいた。無論、「正義の巫女斗」とともに。下界には崩れ落ちたビルの瓦礫が散乱しているのが見える。戦いで崩落し、落ちてくるコンクリートの塊から瑛士を守ってくれたのだ。
「あ、ありがとう 「正義の巫女斗」…」
「いいえぇ、どういたしまして」
正義の少女は背中から瑛士を抱え上げたまま微笑んだ。天女の羽衣のようなスカーフが風になびいている。甘い香りとともに柔らかな感触が、瑛士の身体にも伝わってくる。
「でも、周りに注意しないと危ないですよ」
「正義の巫女斗」は優しく微笑むと、ゆっくりと着地し瑛士を大地に下ろした。そのまま立ち去ろうとする「正義の巫女斗」を呼び止める瑛士。
「あ、待って!! き、君の正体は、君はどこの誰なの?」
多くの都民が抱いている謎をとっさに尋ねる瑛士。
「それはお教えできませんわ、でも・・・」
「正義の巫女斗」は少々悲しげな表情を作った後、急に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「正義のヒロインはどこの誰かわからない方がロマンチックでしょ? わたくしの心は何時も皆さんとともにありますから」
「正義の巫女斗」は愛らしくウインクを送ると、かけなかった黒髪をなびかせ青空に飛び去って行った。

第二章:義理の妹
翌日、瑛士は今日から始まる新しい生活に気ぜわしさと居心地の悪さを感じ、落ち着かない様子でソファに腰を下ろしたり、立ったりを繰り返している。それは、本日から自分の家族になる女性を前にドギマギしているからに他ならない。
「ごめんなさいね、瑛士クン 急に押しかけてきてしまって…大学も始まっているでしょうにお手伝いまでしてもらって…」
柔和な笑みを浮かべ、涼しげな瞳を細めて笑みを浮かべる美女は今日から瑛士の母親になる雅子だ。TVキャスターだけに震えるほどの美しさで、テレビの繊細な液晶を通してみるよりもはるかに輝いている。
「いやぁ、いいんだよ どうせコイツは大学だってさぼり気味だし、カメラマンになるとか言って、就職もまともにできないんだから」
瑛士以上にソワソワしている、というよりウキウキモードを抑えきれないのが、父親の恭平だ。大江戸TVで少しは知られるディレクターだが、著名な美人キャスターを娶ることができた慶びに子供のようにはしゃいでいる。
(いい気なもんだねぇ)
瑛士だけはこれから始まるこの著名な義母との生活を鬱陶しく思っている。無論、この優しく美しいキャスターのことは好きだ。だが、気を遣うタイプの美女と一緒のマンションに生活するのは相当に息が詰まることなのだ。しかも、彼にとって新しい家族は雅子一人ではない。彼女には一人娘がいる。つまりは瑛士には義理の妹が誕生するわけだ。雅子から聞くところだとその『新しい妹』は高校に入学したばかりの15歳で、幼少期は英国で育ったという帰国子女とのこと。雅子とは親父が交際中から何度となくあっているが、その娘とは今日が初顔合わせとなるのだ。しかし、その妹は姿を現さない。
「ごめんなさいねぇ、恭平さんと瑛士クンを待たせてしまうなんて… 人との約束は守るように常々言っているんだけれど…女の子は扱いにくいわぁ」
雅子は本当に申し訳なさそうに美貌を曇らせる。
「いやぁ、いいんだよ でも、もしかして道に迷っているのかな? 迷子になってるんじゃあ」
恭平のソワソワぶりに呆れた顔をした瑛士は遠慮がちに腰を上げる。
「じゃあ、僕は部屋の整理をしていますので…」
雅子の荷物を運びこむ手伝いはほぼ完了している。あとは、自分の部屋の隣に自室を用意されている「妹」の到着を待つばかりなのだが、いったん瑛士は自分の城へエスケープを試みた。ここ広尾にある敷地面積にして50坪余りあるマンションは4人で生活するには決して狭くはない。だが、母を亡くして以来、初めて女性を迎え入れるという事で少々リフォームを行い、配置換えも行った。その結果、瑛士自身は一番手狭な6畳の部屋に追いやられたわけだが…。不満を言いたいのはやまやまだが、新しい家族と折り合っていかなければ、と思う彼は浮かれて華やいだ声を上げる「両親」に背を向けた。

幼少期から写真家に憧れる瑛士の部屋は写真集やカメラ雑誌、様々な書籍が散乱している。
「さてと、これをどう狭いスペースに片づけるか…」
独り言ちた彼はソファに腰を沈めると、唯一置き場が決まっている46インチのテレビのスイッチを入れた。すると、画面には今、彼を一番夢中にさせている少女が映し出されていた。それはファン投票でセンターを決める48人のタレント集団ではない。午後2時50分のローカルニュースは都内の高級宝石店に賊が押し入って金品を奪った挙句、警備員を抹殺しかかった集団の蛮行を報じている。しかし、それは未遂に終わった。そう、またしても「正義の巫女斗」の活躍だ。
老若男女問わず彼女の支持率は当然高く、御多分に漏れず、瑛士も今や「正義の巫女斗」に夢中で、彼が一番気になる女性だった。
「また「正義の巫女斗」が助けてくれたんだ…」
末世感の強い東京に現れたジャンヌダルクのようなスーパーヒロインを誇らしげに眺める瑛士。
『「正義の巫女斗」はジェノサイドの戦闘員と思われる男たちを眠らせると、警察に引き渡しました それでは生の声をお聞きください』
ニュースを伝える若い男のアナウンサーの声も心なしか弾んでいる。
「あ、あの…え、ええっと…とにかく皆様がご無事で何よりでした」
このスーパーヒロインの特徴として、敵を倒して颯爽と立ち去るのではなく、ドライな現代っ娘と思えぬほどに懇切丁寧に被害者を助け介抱していくので駆けつけたマスコミに敢え無く捕まり、インタビューに応じざるを得なくなるのだ。その肉声も控えめで、心底人々の無事を安堵しているコメントがほとんどなので、これまた人気が高まるのだ。
『最後に、卑劣な悪行を重ねるジェノサイドに一言お願いします』
インタビュアーに振られた彼女は、急に表情を引き締めると純真を絵にかいたような瞳をカメラに向けた。
『…あなた方の行為はとっても卑劣なものです この国の人たちに迷惑をかけるのは即刻、おやめなさい! 「正義の巫女斗」が許さなくてよ!』
最期の「許さなくてよ」の台詞に思わず痺れてしまう瑛士。昨日は彼女に命を助けられたことも、夢のように思える。
「正義の巫女斗」の正体はどこの誰か、無論わからない…。

憧れのスーパーヒロインの活躍に気を良くした瑛士は、携帯音楽プレーヤのボリュームを引き上げ気分を高揚させていた。と、その肩をポンポンと遠慮がちに叩く白い手。振り返るとそこに一人の少女がしゃがみ込んで微笑んでいた。
「あの…瑛士さま…ですよね?」
いきなり部屋に侵入されたうえ、女の子から「さま」をつけて呼ばれたことに思わず戸惑う瑛士。
「そ、そうだけど、君は」
「すみません 申し遅れました わたくし近衛雅子の娘、百合子と申します あ、でも、もう母も常盤姓ですので常盤百合子、ですね」
(そうか、この娘が…)
百合子と名前だけは聞いていたので辛うじて、この目の前に現れた少女が妹になる娘だと認識した。と、言うのは彼女の柔らかな物腰や口調は15歳とは思えぬ上品かつ落ち着きあるもので、間違えても女子高生と話しているようには感じられないのだ。それに、美しい! まあ、蛙の子は蛙というとおりで、母親があれだけの美女にして大才媛なのだから、その令嬢も容姿端麗であっても不思議ではないのだが。
【申し訳ありません、勝手にお部屋にお邪魔しまして】
百合子は折り目正しく首を垂れる。その垂れ方も気品に満ちていて惚れ惚れしてしまう瑛士だ。
「さっきから、何度も呼んでいたのにヘッドホンなんかしてやがるから」
恭平が険しい顔で背後に立っている。雅子は傍らで微笑んで兄妹の初対面を喜んでいる。
「そ、それはごめん」
「いいえぇ、今日から母共々よろしくお願いいたします、瑛士さま」
再び、項を下げようとした百合子を雅子がたしなめる。
「百合子、なんていうことを… 瑛士さんはあなたのお兄様なのよ きちんとそうお呼びするの」
優しくも教育ママの口調の雅子に指摘された百合子は、慌てて微笑みながら頭を下げなおした。
「そ、そうですよね 失礼しました まだ慣れませんで… それでは、よろしくお願いいたします、お兄様…」
(お、お兄様…かよ)
決して妹に憧れも萌えも感じないはずの瑛士も、奇妙なくすぐったさを覚えずにはいられないのだった。

ご機嫌で帰宅した瑛士は自室で新聞を広げ、誇らしげに眺めていた。帝都新聞の月間最優秀報道写真で彼の撮影した「正義の巫女斗」の勝利の瞬間を納めた写真が大賞に輝いたのだ。命を助けられた一件以降も、瑛士は彼女を何度となくカメラに収め、話をしている。彼女がどこの誰かという事は謎のままだが、間違いのないことは「正義の巫女斗」が、まだ少女であり濃厚かつ端麗なメイク越しからも相当の美少女であることだった。彼女の姿を見るたびに、瑛士の中に密かな恋にも似た感情が根付いていくのだが、それと同時にどこかで彼女に似た人物に出会った記憶もあるのだ。
(誰だろ…あの言葉遣い、あの声…? どっかで?)
思案していると部屋のドアがノックされた。
ドア半分から除いた美少女フェイスは「妹」百合子だ。
「兄さま、ちょっといい?」
百合子は帰国以来通っている名門女子校の東都女学館のセーラー服姿だ。後ろに手を組み、微笑んで瑛士を見上げる。
「…どうした?」
百合子は背中に隠していたものを瑛士の顏の前にずいっと差し出す。
「ふふふ、おめでとう、兄さま!」
どこで聞きつけたのか知らないが、瑛士の大賞受賞を知っているらしく、手には帝都新聞を持っている。ここ一月で百合子とは急速に仲良しになり、「百合」「兄さま」と呼び合う関係になった。セレブキャスターの令嬢という事でさぞかし、嫌味な娘と思っていた瑛士だが、百合子の飾らぬ純情な性格に好感を抱いていたし、可愛らしい奴とも思っている。なかなかのお洒落さんで、肩にかかるくるんくるんの完璧な巻き髪が眩しい。15歳のくせにどこか大人の色香も身に着け始めている。
「おいおい、どこから聞きつけたんだ?」
「ふふふ、私には特別な情報網がありまして…兄さまの事ならすぐわかっちゃいます」
百合子は謎めいた笑みを浮かべ、チラリと瑛士に視線を送る。親しい肉親への情愛と、微かな思慕の念を含んだ瞳に戸惑う瑛士。一家で外出するときは必ず、瑛士が百合子をエスコートする格好になるので、自然と恋仲のような振る舞いが自然にはなりつつあるのだが、この愛らしい妹を異性とみるか、大切な家族とみるか微妙なところなのだ。
「明日は、また取材でさ…」
恥ずかしまぎれに明日の予定を切り出す瑛士。
「取材? まだ、ちゃんとしたカメラマンとして入社もしてないのに?」
百合子はちょっぴりからかうようにころころと笑い声を上げる。
「うるさいってっ! 東京帝都ホテルで経団連パーティがあるんだ そこをジェノサイドが襲うかもしれないって噂があってね」
「まぁ…」
百合子の顏が急速に凍り付くのを、瑛士は見逃している。
「もしかしたら、また巫女斗が現れるかもしれないだろ? そしたらスクープをものにできるかもってさ」
意気軒昂な瑛士とは異なり、百合子は美少女フェイスを沈ませる。
「兄さま…『正義の巫女斗』を好き?」
突然の質問に思わず答えに窮する瑛士。無論嫌いなはずはない。憧れを超えて、恋にも近い感情を持っているといっても過言ではないが、年下の美少女にそれをストレートに打ち明けるのは少々気が引ける。
「ま、まァ…好きだよ なんてったって東京の治安を守ってくれているのは巫女斗だし、俺自身も命を助けられているしね」
百合子はそんな瑛士の言葉が耳に入らないかのように、珍しく強い口調で言う。
「私は嫌い! その姿を観たくもないわ…」
意外な言葉に戸惑う瑛士。
「だって、巫女斗が現れるということは、ジェノサイドに苦しめられる人がいるという事だもの… 巫女斗がいない世界が早く来て欲しい…」
平和を願う純粋で真摯な少女の横顔を、正義のヒロインとはまた別の想いで見つめる瑛士だった。

第三章:悪の淫靡な陰謀

ところ変わって、ここはジェノサイド本部。日本の首都制圧を目標に掲げながらも、突如現れた大和撫子ヒロインにことごとく妨害された秘密結社は、新たな幹部を迎えたところだ。髑髏マスクの戦闘員たちの前に立った軍服姿の彼は、黒い眼帯を押し上げながら、まるで絵にかいたような独裁国家の総統然とした風貌そのままに演説を始める。
「エェ??諸君、私が東京掃討計画本部長に任命されたスナッフ大佐だ」
スナッフ大佐と名乗る男は部下たちを叱責する。
「君たちは何を手間取っているんだッ、相手は明らかに子供だぞ アジアを代表する秘密結社の名が泣くわ!!」
一呼吸置くと、妙に興奮した口調で演説を続ける大佐。
「ジェノサイドにおいて女の事ならば、スナッフありといわれたこの私が来たからには安心だ コムスメキラーの異名を持つ私にかかれば、どこのどんな娘だろうと犯して、あ、いや、倒して見せる」
このスナッフ大佐、自認する通り無類の少女好きとして知られ、政府要人の娘の誘拐を一手に担当し、組織の繁栄に貢献してきた過去があるのだ。
「私の右腕を紹介する」
スナッフ大佐が合図を送ると、黒いベールをかぶった大柄な男が現れる。表情はおろか、顏すらうかがい知れないその男からは異様なオーラが醸し出され、戦闘員たちの間に緊張が走る。
「ジェノサイドのジョーカーといわれたカオス博士だ ククク、みておれ、『正義の巫女斗』とやら 必ず、貴様のバージンを奪って、いや命を奪い、我が組織の野望を実現してやるぞ!!」
奇妙な気勢を上げるスナッフ大佐率いる、新生ジェノサイドだった。

第四章:正義の乙女の正体は?

「日本経済はゴルフに例えれば、バンカーにつかまった状態であります この窮地から脱するには…」
東京帝都ホテル。経団連会頭、近衛敬一郎の挨拶が続いている。瑛士は片隅からその話に聞き入っていた。
「近衛って…そうか、この人が百合子の爺ちゃんってわけか」
旧伯爵家の血を引くという近衛翁の端正な貌と、義妹の貌を思いだし比べていた。
その時だ、金色の屏風の間から巨大な影が現れた。それはみるみるうちに蜘蛛の形に変化する。
「ジェノサイド、魔怪人、ダーク・スパイダー参上!! 日本のブルジョワに制裁を加える その手始めに貴様を血祭りにあげる!!」
悪の組織が送り込んだ魔怪人が指さしたのは無論、近衛翁だ。阿鼻叫喚の巷となったホテルの大広間で、財界人のリーダーが公開処刑の危機にさらされる。
ダークスパイダーの吐き出す白い糸に捕まった近衛翁。
「ぐ、ぐわあああああぁぁぁ!! み、みんなを、招待客を逃がしてくれぇ」
モーニングを着こんだ老体をぎりぎりと締め上げられ悶絶しながらも、他者を慮る紳士の命は風前の灯火だ。
「フフフ、もっと苦しめ、もっともがけぇ???」
狂喜したように叫ぶ、ダークスパイダー。

その時だ、照明を破壊されたはずの大広間を鮮やかな光が照らしだす。
「愚かで野蛮な悪の手先よ! 正義に光の前に跪くがよい!!」
高貴な声音とともに舞い降りたのはそう、正義の巫女斗である。
「その人をすぐ、お放しなさい! さもないと、許さなくてよ!!」
決め台詞を毅然と言い放つ巫女斗。いつもより気高く美しく、正義の怒りを湛えた瞳に、思わずカメラを向けるのを忘れていた瑛士は慌ててカメラを向けた。
「やはり来たか、正義の巫女斗め お前が財界要人の警護に現れることは織り込み済みだ どうだ?この爺を盾にとられては手も足も出まい」
蜘蛛の仮面の下で糸を噴き出しながら、巫女斗を威嚇する魔怪人は捕えている近衛翁を盾として己の前に曝す。
「卑怯者…」
ここで瑛士が機転を利かせた。デジカメのストロボをダークスパイダーに向けて発光させたのだ。
たじろいだダークスパイダーは、意識を失った近衛翁を思わず投げ出した。
「巫女斗、今がチャンスだ!!」
思わぬ応戦に、濃厚な白化粧をハッとさせた巫女斗は体制を整えるとしなやかに宙を舞う。
「インペリアル・ダンス??ッ」
その名の通り、皇帝の威厳と巫女の艶やかな舞を連想させる踊りは、空気を引き裂く一陣の旋風を生み出し、ダークスパイダーを弾き飛ばした。
「やった!!」
巫女斗は喜ぶでもなく、床に倒れ伏す近衛翁に駆け寄る。
「お爺様、しっかり!!」
「ええ?お爺様?」
キョトンとする瑛士の体が宙に浮いた。
「え、え? いったいどういう うわあああああぁぁぁ????!!」
今度は瑛士が悲鳴を上げる番だった。
「やってくれるじゃねえか、お嬢ちゃん!! だが、俺は姫様の舞で眠りこけるような風流な感覚は持ち合わせてねぇんだよ」
復活したダークスパイダーは今度は瑛士を糸で捕え、人質にとって巫女斗を威嚇する。
「い、いったいどこまで卑怯なの…」
巫女斗は心底怒りに燃えた瞳で敵を睨む。
「戦闘に卑怯も糞もない! さぁ、こいつを助けたくば、変身を解いてもらおうか? お前の正体を晒してもらう」
「み、巫女…斗…俺に構うなぁ…」
正義の戦士の足手纏いになりたくない瑛士は、薄れゆく意識の中叫ぶ。巫女斗の顏が悲しげに歪んだ。そして唇が動く。
「に、兄さま…」
濃厚な白無垢化粧に隠された美顔は明らかに義妹のものだったのだ。
苦痛に喘ぎながら瑛士は、追い続けた正義のヒロインの正体を知らされることとなったのだ。

第五章:無残!! 拷問された正義のヒロイン そして…凌辱の危機!!

(み、巫女斗の正体は百合子…? ま、マジかよ)
目の前の出来事に夢でも見ているかのようなショックを受ける瑛士だが、現実は残酷な様相を呈している。
兄を盾にとられた巫女斗は観念したように、ダークスパイダーの前に跪かされた。
「フフフ、それでよい、一般民衆を見殺しにはできんだろう それでこそ、正義の乙女だ」
「巫女斗、ダメだ!! 俺に構わず闘うんだ!!」
瑛士の構わず叫びも虚しく、巫女斗は義兄の命を守ることを優先した様子で敵に対して無防備だ。そんな正義の乙女に魔の毒糸が絡みつく。大広間の天井近くまで吊り上げられる巫女斗。
「ジェノサイド最強の魔怪人、ダークスパイダーの恐ろしさを骨の髄まで教えてくれるわ!! 苦しむがいい、ダークネット!!」
糸は広い壁一面に広がり、大きな蜘蛛の巣が完成する。巫女斗の身体はまるで捕えられた蝶の様に大の字に、しかも逆さに磔にされてしまった。張り巡らされた蜘蛛の巣に走る強烈な電流に巫女との悲鳴が響き渡る。

大広間に無残に散らばった巫女の衣裳。襦袢も緋袴も白足袋もすべては切れ端となり、素顔を晒した巫女斗、いやすでに常盤百合子という正義の心を持った一人の美少女は半分変身を解かれた状態だ。白衣もむしりとられた巫女斗が唯一身に着けているのは、眩しいほどに純白のレオタードである。どうやら戦士の下着らしく、彼女の貞操を守るための最後の寄りのような神々しさを放っていた。しかし、逆さに大の字に捕えられた彼女になす術はない。
「でかしたぞ、ダークスパイダー!!」
嬉々として現れたのはジェノサイドを率いるスナッフ大佐、そしてカオス博士だ。
「気分はいかがかね? 巫女斗クン 素顔は想像以上の美少女だな その正体は経団連会頭の孫娘、近衛百合子、いや今は常盤百合子という噂は本当だったようだな」
事前に巫女斗の正体について調べ上げていた様子の大佐は、美少女フェチらしく百合子の無残な磔絵図に目じりを下げる。
「私一人捕えれば、十分でしょう お爺様と兄さまを解放して!」
百合子は普段、肩までかかる漆黒の髪を揺らしながら、大切な者の助命を毅然とした口調で要求した。
「なかなか可愛いレオタード姿じゃないか どう料理してくれようか むふふふ」
大佐は百合子の言葉には耳も貸さず、ついに捕えたスーパーヒロインをどういう手法で血祭りに上げるか思案している様子だ。
「私を殺したければ、殺しなさい! 悪の辱めを受けるより処刑された方がマシよ でも、その2人だけは釈放して!!」
だが、スナッフ大佐は百合子の哀願には、これまた耳も貸さない。
「これまでわれらジェノサイドを散々苦しめてくれた巫女斗を簡単に殺しはしない たっぷりと苦しめて、辱めて、想像を絶する恐怖と絶望を味あわせてやる その前に聞き出すこともたんまりとあるしなぁ?? 泣き喚いてわれらに屈服する姿を、仲良しの兄さまに見てもらうがいい!!」
大佐はこれまで行ってきた数々の拷問を思い出して悦に入っているようだ。

「あッ、あぁッ、ああああぁぁぁぁ?????ッ!!」
蜘蛛の巣に囚われた妖精のような美少女の、レオタードに包まれた華奢な肉体がビクビクと痙攣する。ダークスパイダーの魔力で、張り巡らされた糸に強烈な電流が走るのだ。
「さぁ吐け、お前を正義の巫女斗に命じたのはどこの誰だ!? 政府要人か!? 財界人か!? 白状するのだ、さもないと…」
スナッフ大佐はダークスパイダーに顎をしゃくって、残酷な拷問をさらに過酷なものとするように命じる。
「さぁさぁ、巫女斗ちゃんよ、どこまで俺様の電気ショックに耐え忍べるかなぁ?」
狂喜しながら、蜘蛛の巣に流す電流のレベルを上げにかかる魔怪人。
「あッ、ああッ! きゃあああああぁぁぁ???????ッ!!」
蜘蛛の巣に磔にされた肉体をビクビクと仰け反らせ、清楚な美少女フェイスを苦悶に歪め苦痛に耐える百合子。正義の戦士とはいえ、15歳の少女には耐えがたい拷問である。そんな妹の危機を目の当たりにした瑛士は声を限りに叫ぶ。
「百合子!! しっかりしろ、必ず…必ず俺が!!」
助けてやりたいとはいえ、自分も囚われの身だ。しかし、これまでも正義の乙女には助けられている。その正義の巫女斗が自分の妹であり、そんな彼女が今こうして捕えられ、過酷な拷問まで受けているというのに何もしてやれないのだ。百合子はそんな兄の心中を察したのか、逆さ吊りにされたその顔を瑛士に向け、気丈にも微笑んで見せる。
「だ、大丈夫よ、兄さま…けっこう私、タフだから… こんな目に遭うくらいへっちゃらです 私…正義の巫女斗ですもの…」
「ほほう、お嬢さんは大変なタフネスガールでいらっしゃる ならば、ダークスパイダーよ この娘が音を上げるまで放電を続けてやれい!!」
「了解!」
嬉々としたダークスパイダーは、吐き出す糸にバチバチとさらにボルトの高い電流を流す。
「い、いやあああああああぁぁぁぁぁぁ??????ッ!!!」
白目を剥いて絶叫する百合子。膨らみかけた乳房がレオタードの下でくっきりと浮かび上がり、天に剥けて伸びるナマアシは痙攣し、華奢な肉体に火花が散る。
「ハハハハ!! 良い声だ、小娘の泣き叫ぶ声は何にも勝るシンフォニーだ もっと泣け、喚け、そして許しを乞え!!」
「ああぁ…」
やがて、百合子はカクンと顎を大地に向けて垂れ、ピクリとも動かなくなった。揺れる長い黒髪が、正義の乙女の美貌の悲壮感をさらに過酷なものにしている。
「百合子ぉ!!」
瑛士の声にも正義の少女は反応を示さない。蜘蛛の巣にはりつけられたまま、ゆらゆらと天を揺れている。
「さすがに意識を失ったようです」
「フフフ、脅しのためにしていれば、意外にもろい娘だ しかし、ただただ苦痛を与えるだけでは芸があるまい… カオスよ」
スナッフ大佐は傍らに仕えているベールをかぶったマッドサイエンストを促す。
「ご安心を…大佐にお喜びいただけ、さらに巫女斗を徹底的に嬲りつくすためのネタを、ダークスパイダーに仕込んであります」

宙を舞うテニスボール大の塊。それは下着同然のレオタード姿で大股開きにされ、逆さ磔刑という屈辱に耐える乙女の股間部分に張り付くと、蜘蛛の姿に変化した。そしては、求めていた花の蜜でもすするかのように、頭部を百合子の聖なる女陰のワレメに押し付け愛撫を始める。
「なッ、何をするの! やめて、やめなさいッ、汚らわしい!!」
大の字に捕えられた肉体をビクビク悶えさせながら抵抗を試みるが、淫靡な責め苦から逃れるすべがあろうはずもなく…。正義の巫女斗が性的拷問にかけられる姿に快哉を叫ぶ、ジェノサイドの面々。
「どうだ、正義の巫女斗!? 我が分身、スパイダーローターの味は 俺のアソコにもお前の処女マンコの柔らかぁ??い感触が伝わってきてたまんねぇなぁ」
恍惚の表情で喘ぐ百合子を見上げるダークスパイダー。
「あ、あぁッ、ひッ、ひッ卑怯者…あッ、あぁ…」
性的な辱めまで受ける正義の巫女斗の心中はいかに。
「フフフ、結構感じているのだろう? 悦びの声を上げても構わぬぞ」
「いや、大佐、巫女斗はまだ生娘と思われます まだ、快楽の何たるかも知らぬのでは?」
「ならば、‘女’の悦びをとくと教えてやりましょう!」
ダークスパイダーはここぞとばかりに気合を入れる。純白のレオタードに隠された百合子の股間にずぷッ、ずぷッと頭を埋める魔怪人の分身。
「きゃううぅぅッ!!」
ジェノサイドの面々が言い当てたとおり、百合子は処女。名門女子高の厳しい規律に加え、名家の令嬢育ちの彼女はオナニーという言葉すらろくに知らない。しかし、そんな百合子でも女体を知り尽くしたジェノサイドの魔道具で弄ばれれば、乙女のうら若き肉体を熱らせたとて、無理はない。
「ちゅぱちゅぱくちゅちゅう…」
スパイダーロータが百合子の膣内をうかがうように、レオタード腰に頭を振動させるたびに淫靡な音が、部屋中に漏れる。
「あッ、はぁうぁぁ、あぁ??…」
無念そうに涙を零す百合子。同時にレオタードを身に着けた股間部分からも、淫らな液体が幾重にも滴を作って滴り落ち始める。
「ハハハ、いいぞ! 純粋無垢な正義の巫女斗が我が、ジェノサイドの魔道具にかかって潮を吹く様を見れるとは!!」
ジェノサイドの歓喜の瞬間はもう間近に迫っている。百合子の喘ぎとともに、処女の愛液が大広間の絨毯を濡らす。

「ゆ、百合子!!」
瑛士は胸を引き裂かれる思いだ。このまま正義の巫女斗が敗れれば、日本はジェノサイドの思うがままだ。そのきっかけは自分が人質となったことだ。しかも、その正義の乙女は自分の妹になった少女。15歳にして悪と闘う健気な女の子一人も守れないなんて…。
「に、兄さま…無念です 大切な人ひとり守れなず、死んでいくなんて」
百合子は正義のヒロインとしての心も折られた、という表情で、項垂れる。その時だ、瑛士の視界にあるものが飛び込んだ。瑛士はがんじがらめにされた身体を捩ると再びデジカメのフラッシュをダークスパイダーに向けて発光させる。
「うお!!」
目のくらんだ魔怪人は、思わず瑛士を縛っていた糸を緩める。その隙に瑛士は破壊された室内に転がるホテルの備品「蜘蛛の巣バスター」と名付けられたスプレー缶に飛びついた。
「たとえ、魔怪人でも蜘蛛の巣の成分は同じだろ!! 喰らえ!!」
「ぬおおおおおお!!」
ダメもとの奇襲作戦は以外にも功を奏した。ジェノサイドの魔怪人はのたうち回り、吐き出していた糸はたちまち消失してゆく。
「ど、どういうことだ、カオスよ!?」
魔怪人の余りのもろさにたじろぐスナッフ大佐。
「文明の利器といいますか、日本人の技術力の高さは予想以上という事で…」
己の発明の欠点が露呈し、しどろもどろのカオスだ。
「こ、このぉ、ガキめ!! 貴様からまず始末してくれるわ」
さすがに決定打にはならなかったようで、顔面をケロイド状にしながらも立ち直ったダークスパイダーは瑛士に襲い掛かる。
「そうはさせなくてよッ!!」
気高い声とともに、瑛士の身体を抱き上げたのはそう、正義の巫女斗だ。
「ゆ、百合、いや巫女斗!!」
みれば、正義の乙女は百合子という少女からスーパーヒロインの姿に戻っている。
「わたくしを信じてくれる方がいる限り、巫女斗は何度でも蘇りますわ」
巫女斗は、とびっきりチャーミングな笑みを浮かべウインクしてみせる。
「ちょうどいい、お前も一緒に地獄へ送ってやる」
「何度も同じ手が通じると思って? 受けなさい 正義の矢を」
巫女斗は瑛士を守るように背に庇うと、弓を引くようなポーズをとった。
「ハッピーアロー!!」
巫女が用いる福矢を思わせる光の矢を、再び毒糸の餌食にと画策する魔怪人に向けて放つ。
「うぎゃあああああああ!!!」
あえなく消失する魔怪人。
「さぁ、今度はあなた方の番…今日という今日は許さなくてよ!!」
ジェノサイドの患部2人を指さし、お約束の台詞もばっちり決まった巫女斗の美しさに思わず惚れ惚れしてしまう瑛士。先ほどまでの囚われた憐れな妹の面影はなかった。
「き、今日のところは堪忍してやろう だが覚えておけ!! お前のバージンは必ずわれらが戴く そして、日本は我が軍門に下る日がやってくるのだ、ふははは??ッ」
天井に開けた穴から脱出してゆく、スナッフ大佐とカオス博士。
「まぁ、ホントに破廉恥なんだから」
珍しく少女らしくほっぺを膨らませ、怒りを表す巫女斗。
「百合子、じゃなかった、巫女斗…」
瑛士は妹に駆け寄る。
「ありがとう、兄さま あのままではたぶん私はきっと…命をおとしていたわ でも私はヒロイン失格です 辱めを受けてしまった…」
巫女斗は急に先ほどまでの凌辱を思い出したのか、哀しげに瞳を潤ませる。思わず、妹が愛おしくなり抱きしめてしまう瑛士。15歳の少女にはたまらなく辛い戦いだったはずだ。
「大丈夫だ! お前の身体は穢されやしない お前は気高い心を持った正義の乙女だ」
「ついに正体を知られてしまいましたね、兄さま でもこのことは…」
「わかってるさ、誰にも言いはしない」
瑛士は約束する。
「ホントですよ、スクープとか言って新聞社に売り込んだら私、許さなくてよ」
決め台詞を用いたユーモラスな物言いで、兄を軽くにらんで見せるチャーミングな仕草に瑛士はどぎまぎしてしまう。
「じゃあ、指きりです」
巫女斗、いや百合子は白く小さな小指を差し出す。おずおずと、自分の指を絡める瑛士。
「嘘ついたらハリセンボンの??ます」
正義の乙女の歌うような朗らかな声が瑛士の耳を撫でる。
しかし、幸せな時間は束の間のこと。巫女斗の、そして瑛士の過酷な闘いは始まったばかりだ。(第一話完)