[失われた絆]

 冴は一人、さまよっていた。
 ガオの宝珠を、3つも失ってしまったから。
 今考えてみれば迂闊だった。
 あのオバサンが一人で現れるはずなどなかったのに。

    ★

 じんわりと気持ちよさが身体中に広がっていく。
 最初はあんなに痛かったのに、
 最初はあんなに悔しかったのに、
 あたしの身体は、あたしの心とどんどん離れていく。
 あたしの大切なところはもうぐしょぐしょで、
 白いスーツにもしみが広がっている。
「わたしはエッチ好きの変態娘です」
 自分がそう言っているように見えて、顔を背ける。
 あたしの初めては、白馬の王子様に捧げるはずだったのに。
 彼は確かに大切な人だけど、こんな風になりたいわけじゃなかった。
 ポロッと涙がこぼれそうになって、
 彼に見られるのが嫌ですぐにぬぐった。

 うめき声がもれそうな口に、もうひとつの凶器が押し込まれる。
 初めて舐めるそれは、どこかほろ苦くてねとねとしていた。
 口の中で、それはうねうねと動いてあたしを汚す。
 先っぽから出てくるとろとろした液体は、
それ自体とは比べ物にならないくらい苦くてネバネバしていた。
 吐き出そうとしても、それはあたしののどの奥に、
植えつけるように液体を流し込んできて押し返された。

 大切なところに差し込まれたそれも、
 あたしの中にどろどろの液体を吐き出した。
 あたしの大切なところは、白い濁りに汚されてしまった。

    ★

「あ~あ、つ~ま~ん~な~い~」
 ガオズロックに一人でいると、がらんどうの空間に自分の声だけが響く。
 残されたメモはそっけない。
『留守番お願いね』
 体よく置いてきぼりにされたのだ。
 男どもはテトムだけ連れて海に行っちゃったらしい。
 あたしだって行きたかったのに。
「お子ちゃまの水着姿なんて見てもねぇ…」
 誰の声だか知らないけど、そんな声が聞こえた気がした。
「あたしが怒ると怖いんだからね!!」
 思わず怒鳴ってしまったけど、壁に遮られて冴にしかその声は届かない。
 …ゴボゴボゴボゴボッ。
 怒鳴り声に反応するように泉が吹き上がる。
「えっ…。オルグだよね?」
 普段なら誰にも言わずに出撃することはない。
 レッドが最初に決めたルールは、みんな文句は言いながら守っている。
「あたし、行く。置いてきぼりにしたの、絶対許さないんだから」
 それが最初で、最大のミスだった。

「あ~ら、今日は子猫ちゃん一人なの?」
「そっちこそ、今日は間抜けな相棒がいなくて寂しいんじゃないの? オ・バ・サ・ン」
「キ~。憎たらしい小娘ね!!」
 口調は荒げても、態度にはさっきより余裕が見える。
 …やっぱり一人じゃ、迫力に欠けるのかな?
 …ダメダメ、そんなこと考えちゃ!
「子猫ちゃん、あたしと勝負なさいよ」
「勝負?」
「そうよ、あたしが勝ったら子猫ちゃんを可愛がってあげる。
一生離れられないわたしのペットとしてね?」
 突き出されたツエツエの左手には赤い輪っかのようなものが見える。
「この首輪をつけて、そうね、
まず最初に3回回ってニャ~オって鳴いてもらおうかしら」
「そんな勝負、受けるわけないじゃない!」
「そうよね、受けるわけないわよね?」
 …え?
 ツエツエがそんな簡単に引き下がるなんて。
「この玉イタダキ~!」
 甲高い皺枯れ声が響き渡った。同時に重い衝撃を受けて、冴はよろけた。
 わき腹に手を触れる。スーツを通しても、そこは猛烈に熱かった。
「これでラセツ様に褒めて頂けるわね、ヤバイバ」
「そうだなツエツエ」
 ヤバイバが小さな玉を太陽に透かせている。
 すぐに冴はそれが何か気付き、確かめるように左手を腰に当てた。
 ポケットに入れていた宝珠がない。
「じゃあね、小娘ちゃん」
 杖から放たれた光線が冴を包む。
 二人が消えるのと、冴の膝が崩れ落ちるのはほとんど同時だった。

     ★

 ハイネスデューク・ラセツは食事中だ。
 できることならあまりその食事風景には立ち会いたくはない。
「なんじゃ騒々しい」
「ラセツ様、ガオの宝珠を持ってまいりましたぜ」
 ヤバイバは恭しく手に入れた宝珠を差し出す。
「これは鹿か。ヤバイバよ、褒めて遣わす」
「わたくしもでございます、ラセツ様」
「おう、ツエツエも褒めて使わす」
 下がってよい、と言われる前にそそくさと二人は立ち去った。
 バキバキ、ボキボキと硬く澄んだ破砕音が響く。

「なんで全部出さないのよ?」
「バカ言え! 3度に分けて出せば3度褒められるだろう?」
「そうね。でも抜け駆けするといけないからあたしが預かるわ」
 ちょっと細工をすることは言わなかった。

     ★

「冴、気持ちいい?」
 頭の中で、直接言葉が響いた。
 声は聞こえない。声にする必要がないから。
 あたしと彼はつながっているから、ただ思うだけで気持ちは伝わる。
 あたしからも、彼からも。
 彼は世界で一番、あたしのことを分かってくれてる。
「とっても好き。気持ちいいの、と~っても好き」
「もっと冴とひとつになりたい。冴のこと、いっぱい感じたい」
「あたしも。あなたと、いっぱい、好き」
 はしたなく広げた股間からあふれた蜜が彼のものを求めてはなさない。
 ぐちょぐちょと突き上げる彼に合わせてあたしは腰を押し付ける。

「こっちはどう? 冴」
 もう一人の言葉がしみこんでくる。
「お口美味しいよぉ、もっと欲しい…」
 あふれ出たネバネバと唾液とが混ざり合って、
ぬるぬるのいやらしい汁があたしの口の中に満ちていく。
「もっと飲みたい?」
「飲みたい…もっとネバネバ注ぎこんでぇ」
 咥えたモノがゴブッとうねって、さらに濃いネバネバが広がる。
 さっきは苦かったような気がしたのに、
口の中に広がるネバネバは甘くてあたしは満ちるだけ舌にからめた。

     ★

「ガオタイガー、ガオディアス、ガオエレファント…
みんなどこ行っちゃったの?
お願い、あたしのところへ戻ってきてよぉ…」
 変身も解かぬまま、冴は森の中をうろついていた。
 その足取りは軽く心もとない。
 今まで支えてくれた白虎を、鹿を、象をみんな失った。
 オルグとも戦えないし、みんなにも合わせる顔がない。
 スーツだけはまとっていても、力は入らない。
「あ~ら、みっともない子猫ちゃんね」
 目の前の大樹の陰から、ツエツエがひょっこり顔を出した。
「オバサンに用は…ないわ…」
 口ではそう言っても生気はない。
「この宝珠がわたしの手の中にあっても?」
 ツエツエの左手に、2つの宝珠が光る。
 遠目にも、冴にはそれがタイガーとエレファントだと分かる。
「ガオディアスは? ディアスはどうしたの?」
「さぁね。今頃はラセツ様のお腹の中で解けちゃってるんじゃない?」
「え、そんな…」
 冴はぼーっと立ち尽くした。間合いを詰めてきたことすら気づかなかった。
 背中から杖で叩き倒された。冴はそのまま、気を失った。

     ★

 目覚めると、あたしは床に縛り付けられていた。
「お目覚めねぇ、子猫ちゃん。
たっぷりかわいがってあげるから覚悟しなさい」
 声のした方に視線を向けると、ツエツエと二人の男が立っている。
「あれが子猫ちゃんを女にしてくれる王子様よ」
 ツエツエの両隣の男が、あたしを取り囲む。
「放しなさいよ、オバサン!!」
「そんなメス豚みたいな格好で言われてもねぇ?」
 あたしは自分の身体を見回した。
 ヘルメットは剥がされ、左胸のエンブレムも剥ぎ取られている。
 スカートは切り裂かれ、股間にも穴が開いているのが分かる。
「メス豚にはやっぱりケモノがお似合いなんじゃない?」
 ツエツエの言葉に頷くように、二人の男はあたしにのしかかる。
「やだ、やめて! あたしは王子様と!」
「かわいそうにね、お前たち。
メス豚ちゃんにとっては、あなたたちはやっぱりただのペットみたいよ」
 …ただのペット? 誰?
(た…け…、さ…、た……)
(ぼく……のこ…、わ…らな……?)
 微かに言葉が伝わってくるけど、遠すぎてよく聞き取れない。
「さぁオス犬ども、メス豚ちゃんと気持ちいいことでもしてなさい」
 二人の手が、スーツ越しにあたしを撫で回した。
 顔も、胸も、わき腹も、脚も、股間も。
「ほら、唇があなたを待ってるわよ」
「あんたはこっち。メス豚のオマ○コなんかぼろぼろにしちゃいなさい」
 一人の男は一瞬躊躇いを見せたけど、頭を押し付けられてあたしの唇を奪った。
 もう一人はツエツエに性器をつまみ出され、あたしの性器にあてがわれた。
 …そうだったの!!
 電撃が走る。あたしの頭の中にはっきりと像が結ばれた。
(助けて、冴、助けて…)
(ぼくたちのこと、分からないの?)
 さっきまで遠かった言葉も、はっきりと聞き取れる。
(あなた、ガオエレファント? それにあなたはガオタイガー!)
(そうだよ、冴ちゃん、ごめん、ごめんね)
「ぼさぼさしてないで早く犯しなさいよ」
 背中に鞭を入れられても、ガオタイガーはあたしを犯そうとしない。
 皮膚が破れて血が流れる。
(ダメ、ダメだよ。ダメなのに…)
「早くしなさいよ! このオストラ!」
 ツエツエがガオタイガーの腰を蹴り、その勢いであたしはタイガーに貫かれた。
 今まで築いてきた絆が、砕けてなくなったのがわかった。

     ★

「気持ちいいよぉ、冴ちゃんのぉ、気持ちいい…」
「タイガーの、硬くて、太くて、もっと突いてぇ… 大好き…」
 破れたスーツがビラビラしてうざったい。
「ねぇエレファント、あたしのスーツ脱がせてぇ」
 エレファントは股間をあたしの顔に押し付けたまま、
役割を果たしていないスーツを身体から全部剥き取った。
「エレファントのおち○ちん、美味しいよぉ…」
「あっ、また、また出ちゃう」
 口の中に吐き出された粘液はまだ濃くて、喉につかえて飲みきれない。
 仕方なく端から零れ落ちた分を、エレファントはなめ取ってくれる。
「美味しいね、エレファント?」
 エレファントは口元に自分の白濁液をつけてうなずく。
 その笑顔があたしはとてもいとおしい。
「ぼくも、ぼくも出ちゃうぅ…」
 腰をこすり合わせていたタイガーがうめきながら覆いかぶさってきた。
 あたしたちは唇を重ね、舌を絡めあいながら絶頂を求める。
 熱い熱い白い液があたしの身体を駆け巡る。
「いっぱい出たねぇ…。子ども、できちゃうね…」
 次はエレファントだね、とあたしはひょこんと身体の向きを入れ替えた。
 秘唇が再び熱くそそり立ったもので満たされて、あたしはいやらしく腰を振る。

「あたし、もう二人じゃなきゃダメ…」
 あたしの秘唇がコポコポと白い泡を吹いた。
「ずっと、あたしと一緒にいてね…。
タイガーもエレファントも、あたしの王子様だったんだね…。
ずっと気持ちよくなろぉ…ね…」
 新しい絆は、もう砕けることはない。
 二人の王子様に抱かれて、あたしはとてもしあわせ。