彩終:それぞれの空
普段どおり、労働をする二人。
だがもはや入所した頃に比べたら別人のようだった。
目の輝きは完全に失われ、虚無と絶望に満ちた死んだ目だった。
二人はコミュニケーションはおろか目を合わせることも無い。
合わせたくないのではない、合わせる元気もないのだ。
もはや心ここにあらずといった感じで黙々と作業をする二人。
作業のきつさにこけそうになって、スカートが捲くれショーツが見えても、何の反応もしない冴。
何の希望も無かった、希望を持とうとしても無駄だ。
ふと空を見上げると、、
薄黄色の空に大小3つの衛星という、非常識な光景。
もはや地球ではない、、助からないんだ…。
空を見上げるだけで、ため息をついてしまう。
その空はまるで、絶望のようだ。
そんな二人の姿を見ている男がいた。
アベルだった。
やはり監視カメラで二人の様子を見て、明らかに絶望感に染まった様子の彼女らに、本当に満足していた。
ア「ふふふ。私の計画は完璧だったのだ。見事、時代の異なる二人を捕まえ、辱めて捕らえてやったのだ。ふふふ、この上ない幸せだよ!」
と、監視カメラで彼女らを眺めながら自己満足に浸っているアベル。
だがこの後、とんでもない革命が待ち受けているとは、誰が想像できたか?
次の日、やはりいつも通り重労働に就いていたユウリと冴。
今までの疲労が溜まりに溜まっていた。
特に幼い身で体力も弱い冴はもはや限界で、思わず岩場をこけて転んでしまった。
看守「何やってるんだ!!」
とちった冴に迫り鞭を振りかざす。
怯える冴に、看守は鞭を打とうとして、
ドオオーーン!
看守「なっ、何だ!!?」
刑務所の棟の方から、何か衝撃音がして、それに驚いた看守は注意を刑務所の方に向けた。
間一髪で鞭打ちから逃れ、一安心すると共に、冴もその事態に驚いた。
周りの看守たちも慌しくなってきた。
もはや囚人たちに注意がいっていない。
もしかしたら助けが来たんじゃ・・・!?
失っていた淡い希望を取り戻した冴。
看守の目が完全に自分たちから消えたことを確認した。
ユウリさんと一緒に逃げよう、と思った矢先、いきなり手首を掴まれ、刑務所とは違う方向に走る。
冴(ユ、ユウリさん!)
それはユウリだった。
ユウリも希望を取り戻していたのだ。
冴よりもはるかに早い判断で動き、冴を引き連れて逃亡を図る。
そんなユウリにやっぱり凄いと感心し、憧れる。
満足げにユウリの後につく冴。
完全に労働場から逃げ出した二人。
ローターの振動が来ない。
という事は、自分たちは監視されていないという事だ。
一体どういうことなのだろうか、、
つい考え込んでしまう冴と、その突然の事態を受け入れひたすら冷静にこれからの逃亡を考えるユウリ。
やはりこの辺は今までの生き方の違いだった。
平凡に生きてきた16歳の冴、捜査官として命を懸けて生きてきた21歳のユウリ。
ユウリは冷静に判断し上手く逃亡ルートを設定し、冴を引き連れ走っていく。
おそらく自分たちが連れてこられた港に行くつもりなのだ。
冴(やっぱり、すごいなあ。)
素直に羨ましがる冴だった。
この辺の素直さが冴の長所であり魅力である事に、本人は気付かない。
刑務所を抜け、港までの道のりを走るユウリと冴。
と、ついに
戦闘員「いたぞ! 捕まえろ!」
十数人の戦闘員が自分たちに迫ってきた。
おそらくアベルの差し金だろう。
どこまで狡猾なの、、とユウリは憤りながら、やむを得ないという風に、苦渋の決断をした。
港へ続く扉の前に行き、戦闘員に向かい構えるユウリ。
すかさず冴も構えるが、ユウリは冴を扉の方に押し、逃げるようにジェスチャした。
自分を囮に、冴を逃がすつもりなのだ。
そう気付いた冴は、猿轡された顔で懸命にイヤイヤをする。
けどユウリはそんな冴の頬を優しく覆い、頭を撫でる。
ユ(ごめんね、一緒についてあげられなくて。あなただけは、、生き延びて…あたしの分も。)
その手の温もりに、冴は涙が出そうになる。
ユウリはすかさず冴を扉の向こうに押し、扉を閉め鍵をかけた。
ガチャリッ
扉の向こうに冴を逃がし、追っ手が来るまで少しだけ物思いにふける。
ユ(これで、、良かったのよね竜也、許してくれるよね。)
ふと空を見上げるユウリ。
夕暮れで赤く染まっていた。
ユ(まるで、、血の赤ね。父さん、母さん、メイ…もうすぐ、会いに行くからね…。)
追っ手が来て、覚悟を決め鬼神の様な表情で対峙するユウリ。
その頃、扉の向こうでは、冴が扉の前でユウリを求めていた。
冴「んん~~!!(いやっ!! ユウリさん!!)………」
少し扉の前で駄々をこねたが、ユウリの意思に従うことにした。
申し訳ないという思いでいっぱいに扉に背を向けて走る冴。
冴(ごめんなさい!! 逃げ切ったら必ず、必ず助けますから!!)
涙を流して懸命に逃げる冴。
追っ手がまだ数人ほど来るが、冴は必死に振り切る。
ここで捕まったら、ユウリの命がけの行為が無駄になる…
そんな事はできない。
必死に走るが、やはり女の子の走力では敵わず、すぐに戦闘員に追いつかれてしまった冴。
疲弊しきった身体ではもはや闘う力は無く、自分を取り囲む戦闘員に怯える。
冴(どうしよう、、どうしよう…。)
再び諦めの心に襲われる時、周りの戦闘員が吹き飛んだ。
残った戦闘員も、すかさず倒されてしまった。
誰?それを見た冴は、思わず涙が溢れた。
青「ホワイト、助けに来たぞ! もう大丈夫だからな!」
戦闘員に奇襲したのは、ガオブルーだった。
ついに助けが来た…冴はとても安心した。
よほどの戦闘をしたのだろう、その身体は傷だらけで、変身もしてなかった。
いや、もう変身できないのだろう。
それだけ痛々しい傷だった。
一体どうやってここが、、そう聞きたいが、今はそれどころではなかった。
青「行くぞ!」
ブルーは冴の小さな手を握り、一緒に走って逃げる。
冴も、ブルーに身を任すように彼の手をギュウッと握っていた。
その手は温かかった。
…やがて、追っ手を振り切り、物陰に隠れて一休みしたブルーと冴。
疲れきった冴は、その場にペチャンと座ってしまった。
と、ミニスカートが捲くれショーツが見える。
それに気付いた冴は、思わずチョコンと座りなおしてスカートの裾を直した。
今まで失っていた羞恥心が、希望によって、そしてブルーと会った事によって戻ったのだ。
そんな姿を見ていたブルーは、少し艶かしい光景に恥ずかしがりながらも、何とか気丈に振舞う。
そして自分が着ていたボロボロの上着を脱いで冴に着せた。
冴にはやはりサイズが大きく、ぶかぶかだったが、そのおかげで、彼女の肌の際どい露出は大体防げた。
青「それ着てると、暖かいからさ。」
そんなブルーの優しさに、冴は嬉しくてしょうがなかった。
そして今までの辛抱が一気にはじけ、ブルーの胸に顔を埋め泣きすがった。
猿轡された悲痛な声で泣く冴。
青「大丈夫だ。怖かったろ。もう何も心配ないからな。」
と彼女を抱きしめ優しく撫でながら暖かく慰めた。
冴(ブルー…ありがとう、、ありがとう!)
泣き止み、少し落ち着いた冴。
冴の口を塞いでいる滑稽な猿轡を何とか外してやろうと、ブルーはペニスギャグに指をかけるが、
青「く、、外れねえ…! 変身さえできりゃ、、くそっ!」
ペニスギャグは彼女の顔にぴったりと張り付き指も通さず、悔しがるブルーに、冴はクウ、と切なげな呻き声を出す。
やはりブルーは変身も出来ないほどのダメージを負ってしまったのだろう。
上着を脱いだブルーの身体は、さらに痛々しかった。
何ともいえない複雑な感じでしょ気てしまった冴を慰めようと、ブルーは言う。
青「それにしても驚いたろ? もう一人、ユウリさんて人も助かったらしいぞ。もう安心だ。」
冴(ユウリさんが助かった…やった!)
今までの曇っていた表情が急に明るくなる。
自分も頑張らなきゃ、、と思う冴。
冴はブルーに、逃げようとジェスチャする。
そんな彼女の健気さにブルーは感心する。
青(やっぱりこの子は清い子だな。)
そして、逃げようと足を動かしたその時。
ヴィイイイン!
冴「んひゅぅっ!」
青「ホワイト!? ま、まさか…」
何と、恐れていた事態が起こってしまった。
股間のローターが振動し、悶えた冴は身を凍る思いになった。
アベルが来る…。
今までの冷酷で残虐な仕打ちで自分たちを捕らえ嬲り者にしたアベル。
冴は再び怯えてしまう。
それと共に、ブルーにローターの存在を知られてしまうことを恐れた。
冴(いや!…ブルーには、こんなこと知られたくないのに…。)
だがごまかせない。
振動はさらに強くなり、自分を責める。
冴はとうとう倒れてしまった。
青「やはりまさか…」
感づいたブルーが、彼女のスカートに手をかけた。
冴「んん! んん~!!」
その行為に、冴は必死にイヤイヤした。
せめてブルーにだけはこんな恥ずかしいものを見られたくない!
切実な願いだった。
だが、そういう訳には行かない。
それは冴も良く分かっているが、それでも嫌だと強く思った。
そんな冴の気持ちを重々承知しているブルーは、申し訳なさそうな表情で
青「ホワイト、ごめん!」
冴のスカートをバッと捲り上げ、ショーツの股間部を見た。
青「やっぱり…(ローターか。年頃の女の子に、何てひでえ物を…)」
冴「ん、、ふ、ううぅ~~」
再び冴は泣いてしまった。
大事な仲間に、しかも年頃の少女らしく淡い恋心を抱いていたブルーにこんないやらしい姿を見られたことに対する恥ずかしさにだ。
彼女はブルーに対し、どこか他の仲間や男の人たちとは違う感情を持っていたことに薄々自覚していた。
けどそれが恋心だというのは、そういう経験のまだ無かった冴には分からなかった。
皮肉にも囚われの身になってから初めて気付いたのだ。
刑務所に連行されてから、絶望の状況の中、押し潰されぬように暖かい両親のことを思い浮かべていた。
そうすることによって、破壊されそうな精神を辛うじて保ってきたのだ。
だが、何故か両親だけでなく、ブルーのことも思い浮かべてしまっていた。
その時冴は、ブルーの事が好きなんだとはっきりと自覚した。
もう一度会いたい、、その思いを糧に乗り切ってきたのだ。
一度は陵辱地獄に本当に屈したが、今日の希望で、再びその思いが蘇り、さらにはっきりしたものになったのだ。
だからこそ、自分の恥ずかしい姿を見られたくは無かったのだ。
ブルーは戸惑ったが、脱がすわけにはいかないと思う。
脱がせたらこんな際どいスカート丈では股間が丸見えで、年頃の女の子にはつらすぎるだろう。
考えて、ある結論を出し、やってみることにした。
青「ホワイト、ちょっとだけ我慢しろよ。」
その言葉に戸惑う冴だったが、コクリと頷いて言う通りにした。
ブルーなら安心できる、と信頼しきっているのだ。
と、何とブルーは冴のショーツに手をかけたのだ。
冴「んうぅっ!!?」
思わぬ行動に、冴は羞恥心が増して抵抗したが、
青「ジッとしてろ! もう少しの辛抱だ。」
恥ずかしくて堪らなかったが、その言葉を信用して大人しくすることにした。
と、ブルーは、ショーツを少しだけ下にずらした、それだけだった。
それだけなら、股間は見えないしローターも女性器から離れる。
シンプルなしかし見事な思い付きだった。
青「ど、どうだ? これなら大丈夫だろ。」
未だ嗚咽を漏らす冴をなだめる様に、しどろもどろに聞くブルー。
感謝感激の冴はウンと頷く。
行こう!と冴の手を握り走り出す。
冴もブルーの温かい手を握り返す。
そして走り出したその時、
ガチンッ!
冴「んむぅっ!」
とうとう最悪の事態が、、
彼女の両手首と両足首に嵌められていた強力枷の磁力が作動したのだ。
彼女は為す術もなく後ろ手に足もぴったりとくっ付いた格好でその場に倒れ込んだ。
青「な、、何だこれは!? んっ、、ぐ、おおおっ!! ダメだ、全くビクともしない。」
アベルが迫っている…。
冴は明らかに怯えて震えている。
そんな冴の様子を感じ取り、ブルーは健気に、
青「大丈夫だよホワイト! 絶対に奴らにお前を渡しはしない! そうさ、、絶対に帰るんだ、地球に。」
冴(ブルー…。)
ブルーのその健気な励ましに、冴は嬉しくて仕方なく、今度は嬉し涙が止まらない。
そんな冴にブルーは、
青「ったく、いちいち泣くなよ。せわしないヤツだな、お前は。」
と、シャツの袖で冴の涙を拭う。
そんな優しさも嬉しい冴だった。
と、ブルーは冴の小さい体をヒョイと腕に抱き、お姫様抱っこした。
青「こうすればいいんだ! よし、行くか!」
暖かい、、ブルーに抱かれ包まれた冴は、切にそう感じた。
ブルーが走る、冴はそのブルーに身を委ねていた。
と、少し走った時、
戦闘員「いたぞ、あそこだーー!!」
とうとう見つかってしまった。
恐怖が蘇る冴。
青「けっ、諦めてたまるかよ!」
と必死に追っ手から逃げるブルー。
そんなブルーに、怯えていた冴は励まされた気がし、気を引き締めて自分も周りを注意することにした。
相変わらず自分を縛り上げている強力磁石の枷が恨めしい。
そして、何とか追っ手から引き離した、、そう思っていたその時。
ドン! ドン!
後ろから戦闘員が銃を放つ。
慌てて冴を庇う体勢で逃げるブルー。
怖くて思わずブルーの胸に顔を埋める冴。
…しばらくして、何とか本当に追っ手を撒いたようだ。
冴もそう確認し、一安心した。
と、ブルーの様子がおかしいことに気づいた。
そのままブルーは倒れ込んだ。
冴「ん、んぅう!?」
心配になってくぐもった声をかけた冴は気づいた。
ブルーは背中を怪我していた。
おそらくさっきの銃で撃たれたのだ。
血がどんどん出てくる。
ブルーは力なく倒れる。
冴(い、、いやっ…! ブルー! お願い、しっかりして! 死なないでよ!)
悲痛な呻き声でブルーを呼ぶ冴。
とそこに、銃を持った戦闘員が追いついた。
絶体絶命の状況に、冴は怯える。
戦闘員「やっぱ弾当たってたな。手間かけさせやがって。止めだ。」
銃を二人に向け構える戦闘員。
冴はすかさず縛られた不自由な身体でにじり動き、倒れたブルーの上に乗り、彼を庇う。
怖くて仕方ないが、それ以上に大好きなブルーを守りたい!
そんな思いからの必死の行動だった。
とその時、戦闘員たちの後ろから拍手の音が、、
何だろうと見た冴は、顔を一気に引き攣らせた。
アベルだった…。
ア「美しいよ、大河冴ちゃん。それに鮫津海くん。お互いを命がけで思いやる愛情。本当に美しいよ、、憎らしいほどにな…!」
アベルは言葉を険しくし、銃を出して二人に構える。
覚悟を決めた冴は、ブルーを庇いながら彼の身体に顔を埋め目を瞑る。
アベルが引き金を引いたその時、
バッ
冴「んんっ!?」
ア「な、、何!?」
倒れていたブルーが起き上がり、冴の上に覆いかぶさり、彼女を庇った体制になった。
弾はブルーの肩に当たった。
血が噴出し、ブルーの下にいた冴の衣服に滴り落ちる。
青「一緒に、帰ろう、、な。」
冴「んっ、んん~~!!」
思わず絶叫する冴。
だが、アベルはある意味それ以上に精神的ダメージを負っていた。
ア「何故だ、、何故、他人のために命を…。なぜだぁ!!」
銃を発射しようとしたその時、
バシュッ!
ア「ぐわあぁっ!」
どこからかビームが発射され、アベルの手首に当たり、銃を落とした。
アベルも冴も何だろうと見る。
それはタイムピンクだった。
捕らえたはずのユウリが、拘束をいつの間にかほどき、タイムピンクに変身していたのだ。
冴(ユウリさん!)
ア「ど、、どういうことだ…? ま、まさか、やはりタイムレンジャーの…」
竜也「その通りだ、アベル。」
と、タイムピンクの周りに、他の4人のタイムレンジャーがそろい踏みだった。
ア「や、やはり先ほどの騒ぎは、お前たちのせいだったんだな。」
シオン「ああそうさ。お前が時空を操作して二人を陥れたように、我々も時空を操作して二人を見つけ、ガオレンジャーと協力して助けに来たんだ。まず指令センターを破壊して、お前らの情報をカットし、見えないところから破壊していったんだ。そしてかろうじてユウリさんを助けられた。」
ア「お、、おのれ~! タイムレンジャーめ!!」
ユ「アベル、人間の心は、あんたが思っているよりずっと真っ直ぐできれいで、そして強いものなのよ!」
ただの古臭い綺麗事だ、だがその言葉に、アベルは何も言い返せなかった。
今までの憎しみのオーラが消えていくような…。
ユ「今度こそ許しはしないわよ!」
ダメージを食らったアベルを、ユウリは電撃戦であっという間に倒した。
ア(それが、、人の心か…。見事だ、、私の中の憎悪や怨念が、消えていくとは…。あれほど、、恨んでいた、のに、、な…ユウリ……)
倒れたアベル、しかし何とも穏やかな様子だった。
ユ(アベル…)
そんな最後のアベルに、思わずユウリも物思いにふける。
と、その時。
冴「ブルー! ブルーってば!!」
タイムレンジャーによって拘束と猿轡を外された冴が、目の前に倒れる血だらけのブルーに泣きながら呼びかける。
アヤセ「大丈夫だお嬢ちゃん。気絶しているだけだよ。応急手当は施した。命に別状は無い。」
冴「ほ、、本当…?」
縋る様に聞き返す。
本当に大丈夫だと分かり、安心する冴。
その目は、ただ真っ直ぐ純真にブルーを求めていた。
そしてブルーという青年も、ただ真っ直ぐに命がけで冴を守ったのだ。
ユウリは、そんな二人の純真さが少し羨ましかった。
復讐を糧に刑事を全うしていた自分とは、、
そう言う意味では、自分もアベルと同じ種類なのかも…。
そう思っていたユウリの肩をポンと叩いた竜也。
ユウリももう一人じゃない、、そうなれてユウリは幸せだった。
…その後、戦闘員たちと戦っていた他3人のガオレンジャーも到着し、一件落着になった。
一安心した冴は、今まで一緒にいたユウリに、命がけで自分を逃がしてくれたユウリに、涙いっぱいに抱きついた。
冴「ユウリさん、、良かった…。ありがとう…!」
切実な思いの言葉だった。
ユ「冴ちゃん、もう大丈夫だからね。」
そう言うと、ユウリも今までの我慢がはじけたのか、冴を抱きしめたまま一気に泣いてしまった。
あっけに取られる周りの仲間。
だが、竜也はすぐに理解していた。
ユ(あたしのせいで罪も無い冴ちゃんが、取り返しのつかない辱めを受けて、、。ごめんね冴ちゃん。。)
全くイメージのつかないユウリの号泣に、周りも冴でさえも驚いてしまった。
冴(ユウリさん…)
そんなユウリに冴は涙を溜めた瞳でユウリを見つめ、幸せいっぱいの笑顔を久しぶりに見せた。
ありがとう、、それはユウリも同じ思いだった。
冴のその溢れる笑顔と健気さが、自分の心の悲しみを優しさに変えていく。
ユウリの凍りついた心をすっかり溶かしてくれていたのだ。
そう、助かったのだ。
・・・・・・~現在:ユウリ~・・・・・・・
それからしばらくして、ユウリたちは2001年に帰り、再び仕事をしていた。
今までの蹂躙の件が嘘の様にユウリは現場復帰し、仕事に精を出す。
今は自分だけじゃない、仲間たちが、竜也が、そして遠い冴ちゃんがいる…。
それだけで、自分は元気になれる、そう思えるのだ。
今日も仕事で外に出かけるユウリ。
案の定心配する竜也。
竜也「おい、本当に大丈夫か? 俺が替わってももいいんだからな。」
ユ「いいわよ、こういう仕事は竜也だと全然使えないから。」
竜也「うおっ、そう言う言い方ありかよ?」
躓く竜也に、ユウリはくすくす笑う。
幸せそうな笑顔に安心した竜也。
そんな竜也の気遣いが嬉しいユウリ。
ユウリは竜也に向き、いきなりそっと口付けをする。
そして小声で呟く。
ユ「ありがとう」
竜也は何も言わず、ただ暖かく頷いた。
ユ(竜也がいてくれて、本当によかった…。)
切にそう思いながら、仕事に向かった。
外に出て、陽射しが眩しい。
ユウリは空を見上げた。
・・・・・・・~現在:冴~・・・・・・・・
一方2000年に帰った冴たち。
しばらくしてブルーは見る見る回復し、もう通常生活を送れるようになった。
その間、ずっと冴が献身的な介護をしてくれたお陰もあるが。
冴の方は、やはり今回の件が肉体的に、何よりも精神的にとてもつらかったらしく、さらにその後休みなしでブルーの看病をしていたため、無理がたたって身体を壊してしまった。
自分を命がけで守ってくれた、大好きなブルーの看病なら、、その無理の結果である。
高熱で寝込んでいる冴。
と、その部屋に怪我が治ったブルーがおじやを持って入ってきた。
青「具合はどうだ? 冴。」
冴「あ、海! 大分良くなってきたみたい。」
あれ以来二人だけの時は本名で呼び合うことにしたのだ。
付き合う事になったわけではないが、冴がそうしようと言ったのだ。
海は良く分からずOKした。
ベッドのすぐそばにおじやを置き、
海「本当か? やせ我慢とかじゃないだろうなあ。」
と、すかさず冴の広いおでこに手をやり、自分のおでこにも手をやる海。
熱を測っているのだ。
冴「あ…」
いきなりの思わぬ行為に驚いて顔を赤らめる。
だが、同時に海の掌の温もりを感じ、それが心地よかった。
海「…まだ少し熱いかな?」
と言って手を離す海。
海からしたら何気ない行為だが、冴はすっかり意識してしまい、顔を赤らめる。
その気恥ずかしさを隠そうとする様がとても可愛らしいが、当の海は気付いていない。
海はすっかり回復したが、傷跡がまだ残り、冴はそれを見て、
冴「ねえ海、、助けてくれて、本当にありがとう。」
真剣にそう言った。
あっけに取られた海は、
海「な、なんだよ急に真面目な顔で…。良いって事よ! それより、俺の方こそ、ずっとお前が看病してくれて、こんなに早く元気になれたよ。ありがとな。」
と、海の方も真面目に答え、今度は逆に冴の方があっけに取られ、胸がドキドキしてしまう。
冴(やだっ、あたしったら、、ドキドキしちゃって…。…今、言うべきなのかなあ。)
そばにいる海に、気持ちを伝えようと、グッと表情を引き締め、覚悟を決めて俯き加減に口を開く。
冴「あ、あのね、、海…。海が助けてくれた時、あたし本当に嬉しくて、、それで、、」
いよいよ決意の言葉を。
冴「それで、、あたし海の事っ…、!?(あれ?)」
勇気を出して告白しようと、海を見た瞬間、あれ?と言葉が止まった。
そこに海はいなかった。と、
海「飲み物、牛乳で良いよな? 成長期なんだから、ちゃーんと飲まないと大きくなれないぞ?」
冴が俯いていた間、海はベッドのそばから冷蔵庫まで移動し、飲み物を用意していた。
当然、冴の言ったことは何も聞いていない。
あっけに取られ、ポカーンと口が半開きの間抜け顔になってしまい、それを見た海は思わず吹き出し、
海「はは、何て間抜け面だよ! そんなんじゃ彼氏出来ないぞ?」
と彼女の鼻を摘みからかうと、すっかりムッとなった冴は、
冴「もうっ! やめてよ!! 子供扱いしないでって言ったでしょ!」
と怒り、想像以上の大きいリアクションに海はまたもあっけに取られた。
海は思わぬリアクションに驚きながらも、半分からかい気味になだめながらベッドのそばに戻った。
冴(せっかく勇気出して言おうとしたのに、子供扱いして…。あたし、一応女の子なのに、、そういう風に見られてないのかな…。)
すっかりしょ気てしまうが、それもすぐに収まり、今の幸せを平和を実感した。
まだ気持ちは伝えていない冴、けど今はこれでいいと思った。
今はこれが幸せなのだ。
戦いが終わって、その時改めて、、
そのためにも、この戦いを遂げる、そう決意した冴だった。
と、海の手に持っているおじやにクリッとした瞳を向け、
冴「ねえ、それおじや? ひょっとして海が作ったの?」
海「うん、そうだよ。俺のおじやは結構旨い、はず?」
冴「プッ、、なによぉ、その微妙な返事! 心配になっちゃうじゃない!」
海「いいから食べろって。」
そう言う海に、冴は少し甘えたい気持ちになった。
冴「食べさせて♪ あーん」
海「ったく、甘えん坊なんだからお前は。」
と、熱いおじやをフウフウして少し冷ましてから冴の口に運んだ。
この辺の優しさも冴は大好きだ。
モグモグと食べてみて、
冴「あ、おいしい!」
と嬉しそうに言った。
海「だろう? さ、後は自分で食べな。」
冴「え~?」
海「子供扱いされたくないんだろ?」
それは図星だ、そう言われると冴もちょっと不満そうに頬っぺたを膨らませながらも黙りこくり、大人しく一人でおじやを食べる。
本当においしく、冴はおいしそうにおじやを食べる。
海「今日はいい天気だよ、ほら!」
と、海が部屋のカーテンを開けると、気持ちのいい陽射しが差し込んでくる。
冴はその快晴の空を見上げる。
・・・・・・・・~現在:冴&ユウリ~・・・・・・・・
どこまでも青く澄んだ空。
その空はまるで、、、、
二人はそれぞれ異なる思いを抱いた。
が、その思いにはもはや絶望などの負の感情は無い。
二人ともその空を見て、希望の思いに包まれていた。
≪終≫
≪終≫