革新派の恐怖~楼山早輝・須塔美羽(ゴーオンヒロイン)前編~

※このストーリーにはいくつかモチーフがあり、それらを複合的に取り入れたオリジナル・ストーリーです。


ゴーオンジャーは敵であるガイアークについて調査している内に、とんでもない事が明らかになった。
ガイアークには別部隊がいた。
それは、機械生命体の台頭よりも新たな強力な生命体を作り出す、というリベラル派のメンバーだ。
日本の政治の世界ではないが、ガイアークも保守派とリベラル派と分かれているのだ。
ゴーオンジャーが闘っているのはガイアークの保守派で、リベラル派の存在を知ったのはつい最近であった。
さらに、最近そのリベラル派が地球にひっそりと侵入して何かをしようとしている情報も聞いた。
さすがに放っておけないと思ったゴーオンジャーの年長者達は、どうにかしようと集まる。
しかし集まったのはその年長者だけで、最年少の楼山早輝と城範人の姿は無かった。
調べていく内に、リベラル派はかなり過激な行動も厭わない連中で、目を覆いたくなるような残虐な行為をしている。
ゴーオンジャーとはいえ、まだ子供と言っていい年齢の早輝と範人は巻き込まない方がいいと思ったのだ。
さらに、リベラル派は保守派以上の絶対実力主義で、恐らくかなりの手練が集まっていると踏んだゴーオンジャーは、戦闘のプロであるゴーオンウィングス兄妹に協力を要請した。
すでにリベラル派の情報を仕入れている兄妹は、もちろん協力を受け入れた。
しかし、やはり早輝と範人には秘密のままだった…。


夏が近づくある麗かな陽気の中、アルバイトを終わらせた楼山早輝が街を歩いていた。
ゴーオンジャーになってからはバイトはしてなかったが、短期バイトの需要が多い時期なので、短期でバイトを再開していた。
その帰り、何を買う訳ではないが、デパートの最新の服やアクセサリーを見ていこうと思ったのだ。
その時、探偵会社の建物から見慣れた人が見えた。
早輝「あ、連だ!」
ゴーオンブルーこと香坂連だった。
声を掛けようとしたが、会社の探偵であろう人と何か真剣な表情で話しているようで、話しかけられる雰囲気ではない。
早輝「何話してるんだろ…」
すると話し終えたようで、連が探偵と分かれて歩き出す。
ボケーっと見ていた早輝が慌てて気付き、声を掛ける。
早輝「あっ、おーい!」
手を振ってスマイルで連の所に駆け寄る早輝。
気付いた連は、何故かビックリしていた。
連「あっ、、お、おう。」
早輝「いきなり見つけたから、ビックリしちゃったっ。どうしたの、こんなところで?」
すると連は、慌てて資料のような封筒を鞄に入れた。
連「あ、いや。何でもないよ。」
慌てている不自然な様子に、早輝は不思議に思い、建物を見ながら話す。
早輝「こんなところに、何の用事があったの?」
連「いやあ、、別に何でもないさ。」
おかしな笑顔でごまかそうとする連だが、好奇心旺盛の早輝には逆効果だった。
早輝「ひょっとして、何か事件の依頼? あたしたちゴーオンジャーの出番?」
好奇心いっぱいに詰め寄る早輝に押されながら、連は何でもないと改めて念を押して言った。
連「お前こそこんなところで何やってんだ? バイトじゃなかったっけ? まさかサボったんじゃ…」
早輝「違うわよお! バイトはさっき終わったの! ショッピングに来ただけです!」
連「ハハハ、お金無いのにか?」
早輝「ムウッ、いいじゃない! 見に行ったって…。」
むくれてしまった早輝に、連は笑いながら早輝の頭を撫でて別れた。
連「ハハッ、冗談だよ冗談。じゃあな。」
早輝「はーい。…もうっ!」
拗ねた返事をして、自分をからかう連にむくれる早輝だが、さっきの探偵とのやり取りの内容を聞き忘れた事を思い出した。
様子からして、何か重要な用件だったような感じだった。
それを、子供扱いされて結局誤魔化された。
仲間に話をはぐらかされた…
何か気持ちの良くない感じがした早輝だった。
もう一度探偵会社の建物を見て呟く。
早輝「何やってたんだろう…」


数日後、バイトの給料で早輝は、いつものように範人を連れてショッピングをしていた。
また大量の荷物を持たされて、疲れ顔の範人は、
範人「もう帰ろうよお」
早輝「何言ってんのよ、まだまだ! あっ、これ可愛い―♪」
案の定の二人だった。
そしてショッピングが終わり、珍しく早輝が喫茶店に寄った。
範人「ふう、疲れた―っ」
早輝「もう、だらしないんだから―。はい、ジュース。」
範人「お、サンキュー。」
ドリンクバーで範人の分も飲み物を持ってきた早輝。
しかし早輝はそれだけでは飽き足らず、パフェを頼んだ。
範人「おいおい、、自分で払えよ?」
早輝「もちろんよ♪」
範人(どうだか…)
心の中で疑う範人だった。
パフェを待つ中、範人が何か面白い話題を切り出そうとした時、急に早輝が真剣な表情になる。
早輝「…ねえ範人、最近ゴーオンジャーの皆、何かおかしくない?」
範人「へ? 何だよ、いきなり…」
早輝「何か、、調べ事してるみたいなの…、あたしたちに隠れて。」
実は早輝は、自分と範人を除くメンバーが自分たちに秘密で何か調査をしている事に不安を感じており、
範人に相談しようと思って喫茶店に誘ったのだ。
メンバーが自分たちに内緒で何を調べているのか、、早輝は不安と心配でならなかった。
早輝「あたしたちに内緒で、何か危ない事に首を突っ込んでるんじゃないかしら。」
実は範人も皆の挙動不審さには気付いていて、何も教えてくれない事に少し不安と心配があった。
しかし、基本的にはあの人たちなら大丈夫だ、と信じている範人は、いつか話してくれるまで待つ事にしていた。
けど、早輝の方はかなり心配していたようだ。
そんな心配そうな早輝を見る範人。
範人「大丈夫だって! だってゴーオンジャーなんだよ。何調べてるか分かんないけど、大丈夫だって信じよう?」
早輝「うん、、そだね。。」
範人「ほーら、いつものスマイルはどうした? スマイルスマイル!」
明るく言って彼女の頬を引っ張って元気付ける範人。
早輝「もうっ、分かったわよう!」
等と文句を言って、範人の手を振り払う。
さらに範人は、パフェが来た事を早輝に教える。
早輝「わあっ、おいしそう♪」
いつの間にか早輝はまた明るくなっていた。
そうだ、彼らもゴーオンジャー。きっと大丈夫だと信じよう。
不安を拭えないながらも、悩みを打ち明けて少しほっとした早輝であった。

ギンジロー号の中で、走輔と連と軍平、さらにはゴーオンウィングスの大翔と美羽がいた。
5人は何やら深刻な面持ちで議論していた。
内容は、やはりガイアークリベラル派についてだった。
走輔「…そんな事が、、なんて恐ろしい奴らだ!」
大翔「ああ、正直言って今までのガイアークとは異質な連中だ。気を付けろよ。」
美羽「…」
それぞれの調査報告書を聞いて、その内容の過激さに言葉を飲み込む美羽だった。
美羽だけでない、ほぼ全員が今までにない不安な雰囲気に包まれていた。
その時、
連「あの、、やっぱり早輝と範人には何も知らせないで良いんスかね?」
走輔「当たり前だ! こんな酷え事、、とても子供には聞かせられねえよ。」
軍平「落ち付け走輔。だがその通りだ、連。今回の任務はかなりヤバい。まだ幼いあいつらには酷すぎる。いいな、絶対に秘密だぞ。」
連「…了解ッス。。」
納得はしたが、仲間に隠し事をする事にやはり後ろめたい思いがする連だった。
美羽「仕方ないわよ。今回ばかりは相手が酷過ぎるわ。早輝達のためにも、絶対にこの5人で解決しましょう。」
大翔「そうだな、美羽。では今後は…」
早輝「たっだいまー!」
範人「今戻りましたよー!」
5人「!!」
ショッピングに行った年少二人が、ギンジロー号に戻ってきた。
5人はすぐさま議論をやめ、調査資料を隠した。
慌ててこの光景を隠す様に連が出てきた。
連「よ、よう。帰ってきたのか。相変わらず早輝の荷物持ちか、範人。」
範人「ふいー、疲れた! 早輝はいい加減人に荷物持たせるのやめろよな! 皆もそう思いますよね?」
早輝「何よそれーっ。男の子なんだから、そんな事で文句言わないの! スマイルスマイル♪」
範人「…何か、早輝のスマイルって、時々我儘の言い訳に使ってません?」
連「…だな。。」
多少呆れ気味の二人の後ろから、元気いっぱいの走輔が資料を隠し終えて出てきた。
走輔「あはは! 相変わらずだな、二人とも!」
早輝・範人「おっと!」
走輔「む…」
またも年少二人の頭に手を置こうとした走輔だが、置く前にガードされた。
範人「あれ? 大翔さん達も来てたんだ。」
大翔「お? おお、まあな。」
美羽「何よ、来ちゃ悪い?」
範人「あっ、いえ。そういう訳では…」
皆があはは!と笑い、和やかな雰囲気になった中、早輝だけは疑いの表情を隠せなかった。
早輝「ねえ、美羽達、何しに来てたの? ここで一体何してたの?」
美羽「え? どしたの早輝?」
連「おい早輝…」
早輝「だっておかしいじゃない!? 美羽はとにかく、いつも一匹狼の大翔さんが、皆とここに居るなんて、ただ事じゃないわ!」
範人「落ちつけよ、早輝…」
さっき喫茶店での早輝の不安や心配はどれだけ大きかったか、相談を受けた範人には良く分かっていた。
何より範人自身も隠し事をされている方なので複雑な胸中だが、それだけ隠さなくてはならない事をしているのは何となく分かっていたから、彼らを信じるしかないと思っていた。
早輝もその事は勘付いていたが、仲間との絆においては隠し事無し、という考えを持つ早輝には、気になって仕様が無かった。
そして、この出来事での挙動不審な仲間に、それでも隠そうとしている仲間に、とうとう抑えていた思いが爆発してしまった。
早輝「だって、、皆あたしたちに隠れて何を調べてるの!? 何であたしや範人には内緒なの? 仲間じゃないの?」
今まで共に苦難を乗り越えてきた仲間に隠し事をされた早輝の問いかけは、悲痛なものだった。
隠し事をされても仲間として信頼していけるには、早輝はまだ幼かった。
ショックがどっと溢れた早輝は、ついに泣きべそをかいてしまう。
そんな早輝を、そばでフォローしていた範人が慰める。
範人「早輝、大丈夫だから。」
早輝「心配、、グスッ、なのに…。」
泣き付く早輝を受け止め、包む様に背中と頭に手を乗せて、頭を撫でる。
いつもは嫌がりそうな早輝だが、そのまま範人の胸の中で泣きべそをかいた。
さすがに悪いと思ったのか、ゴーオンジャーもゴーオンウィングスも黙りこくってしまった。
いつもスマイルと言って皆のムードメーカーの早輝だが、中身はまだ20歳にも満たない女の子だ。
隠し事をされて、不安や心配はとても大きかっただろう。
そんな中、早輝と姉妹のように仲良しになってきた美羽が、後ろから早輝の肩と頭に手を置いて慰める。
美羽「大丈夫よ早輝。私たちも危ない真似はしないから。ガイアークを全て倒すまで死ぬわけにはいかないし。」
早輝「…本当に?」
範人の胸の中に埋めていた顔を上げて美羽を見上げる。
美羽「うん、もちろんよ。解決したら、絶対に早輝にも範人にも全部話すから。今だけは、信じて待ってて。」
「信じて待ってて」という言葉に、早輝は反応した。
範人「そうだよ早輝。信じて待ってよう。」
早輝「…うん、絶対だよ!?」
美羽「うん、約束するわ。」
そう言い、二人は指切りした。
やっと早輝に僅かながら笑顔が戻った。
ようやく和やかな雰囲気が戻った。その時、
大翔「逃げろおーっ!!」
6人「え?」
ドッガーーンッ!!!
何とギンジロー号が爆破されてしまった。
7人は間一髪で車から脱出し、難を逃れた。
本当に間一髪で、皆の衣服は焼けた跡が所々ついていた。
ほんの少しでも遅れていたら、大怪我だっただろう。
大翔のおかげだった。
大翔は美羽を、範人は早輝を、それぞれ庇う様に脱出していた。
よって大翔と範人は怪我をしてしまう。
早輝「ありがとう、、範人怪我は?」
美羽「アニ! 大丈夫!?」
範人の怪我は軽めだが、大翔は皆も庇ったためか大怪我をしていた。
走輔「くっそーっ、奴らめ!」
軍平「どうやら奴らが爆弾を投げ込んだに違いないな。全く気配を感じない。」
早輝「奴らって誰?」
軍平「え?」
怪我をした範人を庇いながら、真剣な表情を仲間に向ける。
早輝「奴らって誰なの? お願い、教えて!」
静かだが強固な口調は、今までの早輝には無いものだった。
それに爆弾に巻き込み、範人や大翔が怪我をした今、これ以上シラを切り通すわけにはいかなかった。
走輔「分かった、俺が話すよ。」
連「お、おい! 走輔! それはさっき…」
走輔「もう黙っておけねえよ。分かるだろ?」
美羽「…そうね。とにかく、まずはアニ達を治療しましょう!」

7人は仮のキャンピングカーに移り、怪我をした範人と大翔の治療をした。
さすがゴーオンジャーの有能な治療施設で、範人はすぐに動けるようになった。
範人「やっぱゴーオンジャーの設備は凄いんだなー。もう全然痛くないよ!」
早輝「良かったぁ! さっきは、庇ってくれてありがとう!」
範人「いや、ははは。」
軍平「おーい、イチャつくなー。さっきの話の続きするぞ。」
美羽以外は、制服がボロボロになったため、各々私服に着替えていた。
早輝は、フード付きの薄いノースリーヴシャツに、軽やかなミニスカート姿だった。
制服やさっき購入した最新トレンドの服は、爆発で全て焼け焦げたため、その後美羽に買ってもらったシンプルな物だ。
本当は自分でじっくり選んで購入したかったが、制服ボロボロで街をうろつきたくないし、何より自分を庇ってくれた範人の看病がしたかったため、我慢した。
けど美羽が買ったものにしてはオシャレで可愛いから良かった、と今風の女の子の安心をしていたが、軍平の話でそれは一変する。
あまりの話の過激さに、範人も早輝も顔を引き攣らせる。
特に早輝は、途中で吐き気を催すような場面もあった。
それでも二人は我慢して聞いた。
軍平たちもそのまま話す。
ガイアークリベラル派に、全員で立ち向かおうと決心したのだ。
軍平「奴らの基地は分かってる。●●洞窟の地下迷宮だ。元々自然洞窟だったのだが、奴らは地下迷宮の基地を建設して、そのまま基地にしているんだ。」
連「地下の基地なら、俺らなら簡単に落とせるな。」
美羽「俺ら、じゃないでしょ? あたし達ウィングスなら、よ。あたし達は地下式の基地相手に何度か遂行した経験があるから自信があるわ。けど、肝心なアニは今動けない。攻めても成功するかは、分からないわ。」
走輔「けどやるしかないだろ。このままじゃ、またいつ襲われるか、分かったもんじゃないぜ。」
軍平「その通りだ。敵が知らないはずのギンジロー号に、俺達が集まったのを狙って爆弾を投げ込んだ。もはや、俺達の事は調べ尽くされていると思った方がいい。いつまでも手をこまねいている場合じゃない。」
その言葉を聞いて、早輝は恐怖に一瞬震えた。
ここまでリアルに恐ろしい敵を相手にした事は無かったからだ。
神出鬼没なところが、不気味さを倍増する。
範人「早輝、、」
怖がった表情を浮かべた早輝に気付いて心配する範人。
戦地でのムードメーカーだが、年相応の女の子の繊細さも持っており、ピンチの際に弱気になったりしていた。
よく一緒に戦う範人は、その度に早輝を元気付けたものだ。
早輝は正直もの凄く怖かったが、さっきの決心を思い出し、自分はゴーオンイエローである事を自分に言い聞かせた。
早輝「(何を怖がってるの早輝。皆と戦う、て決めたんでしょ!?)分かったわ、そいつらを倒しに行きましょう!」
美羽「早輝…」
女の子同士仲が良くなってきた美羽も、早輝の脆さを良く知っていただけに、今の早輝には驚いた。
連「(強くなったんだな、早輝。)ああ、行こう!」
「おお!!」
皆声を張り上げて、気を引き締めて出発した。
大翔は、特殊シェルターに移した。
これなら一人でいても安全だ。
6人がキャンピングカーを出たその時。
コン、コン、、
何かが飛んできたような音が。
軍平「皆、伏せろ!」
「なっ!!?」
軍平「ちっ、間に合わねえ! はあっ!」
飛んできた何かを軍平は力いっぱい蹴り上げて遠くに飛ばした。
ドッガーーーンッ!!
「うわあっ!!」
再びもの凄い爆発に、6人は慌てて伏せた。
幸い軍平が遠くに蹴り飛ばしたおかげで、ダメージを負わずに済んだ。
走輔「ひゅーっ、奴ら一気に殺す気かよ。危なかったぜ。サンキュー軍平」
美羽「油断しないで! 来るわよ!」
連「そうだ。今のは多分、ただの…」
?「そう、挨拶代わりだ。ゴーオンジャー。」
「!!?」
茂みから男の声が聞こえてきた。
慌てて向き直す6人。
一人の長身痩躯な男が立っていた。
早輝「え? あれがガイアーク? 本当に人間みたい…」
軍平「そうだ。柔軟な戦闘術と強力な力を身につけるために、他の星の人間型宇宙人を捕らえて同化した。それが奴らリベラル派だ!」
?「私の名はリバリ。こいっ、ゴーオンジャー。」
美羽「へえ、6人相手に威勢がいいじゃない。オッケー! あたしから行くわ!」
そう言う美羽が攻撃しようとしたところ、リバリは何と背中を向けて逃げた。
美羽「えっ? ち、ちょっと!」
リバリ「兄貴はともかく、妹相手じゃ張り合いが無い。闘いたかったらまずは、私の足に着いてくるんだな。。」
美羽「なっ、何ですってえ!? 待ちなさい!」
ムキになって追いかける美羽。
軍平「よせ! 挑発に乗るな!」
慌てて美羽を追いかけるゴーオンジャー5人。
リバリを追い、街まで来た6人。
連「熱くなるなよ美羽。まずは、落ち着くんだ。」
美羽「わ、分かってるわよ。あっ、いた!」
リバリは街の建物等の物陰を巧く使い、彼らに慌てて自分を探させた。
街で騒動を起こされたら堪ったものじゃない。
そんな心配が、彼らを焦らせる。
やがて彼らは、3組に分かれて行動した。
その中で、早輝は範人と行動していた。
街の駐車場の建物にいた。
ずっと追いかけっこをしていたため、戦士の中で体力の弱い早輝はもうヘトヘトだった。
範人「大丈夫か早輝!?」
早輝「うん、、はあっ、、はあっ、、大丈夫よ…!」
そう言ってスマイルで強がって見せるが、息は絶え絶えだった。
そろそろ休ませてやらないと。
そう範人が考えていた時。
??「お姉さん達、何してんの?」
範人「ハッ、、な、何だ、子供か。」
小学6年くらいの子供相手に、早輝が笑顔で話しかけようとした時。
リバリ「大分お疲れのようだね、お嬢ちゃん。」
いつの間にかリバリが上の階段で自分達を見下ろしていた。
範人「あっ、避けろお!」
ドッガーーン!
子供「うわあっ!」
小型爆弾を投げ込まれ、子供の側にいた早輝は慌てて子供を庇いながら避けた。
さっきよりも小さな爆弾で車より遠くで爆発したのが幸いだった。
リバリ「フフッ」
再び逃げていったリバリ。
範人「あんにゃろ! 早輝、子供を頼んだよ!」
早輝「う、うん。気を付けてね!」
さすがに頭に来た範人は、リバリを全力で追いかける。
さらに、疲労した早輝を休ませたいと思っていたため、子供を早輝に任せた。
早輝「ボク、大丈夫?」
子供「大丈夫だよ。僕はね。」
早輝「え? それ、どういう…」
すると、後ろでエンジン音が聞こえた。
駐車場に止まっていた車のエンジンが付いたのだろう。
同時に、人の歩いてくる音が聞こえ、早輝が腰を落としたまま後ろを振り向いた時。
リバリよりも大きい男が立っていた。
その男はゆっくりと早輝達の方に歩いてくる。
その様子を、早輝は茫然と見つめる。
早輝「あ、あの…?」
この子供の親かと聞こうとした時、大男は早輝に右手を向けた。
何かと思ったその隙に、後ろの子供が彼女の両腕を掴み背中の後ろで組ませた。
早輝「え、きゃ! な、何すんの!?」
困惑したまま、子供の手を振りほどこうとするが、子供とはいえ中学生寸前の年頃の男の力は、女の子の早輝には簡単に振りほどけない。
仕方なく思いきり力を込めようとした隙に、何と目の前の大男の5本の指が伸びて、自分に襲いかかったのだ。
ニュッ!
早輝「き、きゃあ!?」
ニュルニュルニュルッ
そのまま、素早く彼女の上半身に巻き付いて、グルグル巻きに縛り上げてしまったのだ。
子供が早輝を後ろ手の姿勢で押さえていたため、避ける事も出来ず、後ろ手という最も不自由な体勢で体の自由を奪われてしまった。
早輝「やっ! 何なのこれ!?」
子供「フフッ、大丈夫じゃないのは、お姉さんの方だよ。」
大男「任務通り、捕まえた。連れていくぞ。」
早輝「!!!」

その頃、範人はリバリを見失ってしまった。
範人「くそっ、どこに行ったんだ。。」
早輝「きゃあああーーー!!!」
範人「ハッ、、早輝!?」
早輝の大きい悲鳴が聞こえた。
悲鳴の方向に走ると、そこから軽トラックが凄いスピードで出てきた。
範人「うわっ! 危ないな…あ、早輝!!」
何と軽トラックの荷台に、上半身を何かできつくグルグル巻きにされた早輝が、倒れるように座っていたのが見えた。
それだけじゃない、早輝の隣にあのリバリが余裕そうに座っていたのだ。
範人「リバリ! しまった、早輝が!」
始めから早輝の誘拐が目的である事に気付いた範人は、急いで仲間に応援を呼んだ。
すると、軽トラックの進行方向から、仲間が駆け付けた。
走輔「早輝!」
それを見たリバリは、すぐさま小型爆弾を取り出した。
早輝「!? や、やめてえ! う、あああ!!」
ニュルニュルニュルッ
爆弾投下を止めようともがく早輝を、助手席から指を伸ばして早輝を縛っていた大男が、指に力を込めて早輝の体をさらに強く締め上げて抵抗を押さえ付けたのだ。
その強い力に、早輝は苦しさから絶叫を上げる。
軍平「早輝っ! な、何だあれは!?」
連「指が、伸びてるのか!?」
その異常な光景に面食らっていたところに、爆弾が落ちてきた。
ドッガーーン!
「うわあっ!!」
慌てて避けたが、少々ダメージを負ってしまった。
美羽「皆、大丈夫!?」
リバリは余裕で手を振っていた。
その姿に頭に来た範人は走り、側にあったバイクに駆け寄った。
範人「キーが付いてる…、持ち主の人ゴメン、バイク借りるよ!」
アルバイトをたくさんこなしていた範人は、採用に有利なため単車の免許も持っていた。
美羽「あ、待ちなさい範人!」
範人「早輝が捕まったんだ、待ってられないよ! 絶対に取り返す!」
そう言って、バイクで軽トラックを追いかけた。

グアンッ! ブオオーー!
早輝「きゃあっ!」
荒々しい運転に、後ろ手に縛られバランスの取れない早輝は、悲鳴を上げて右に左に倒れる。
範人と違い元々ペーパードライバーで運転にコンプレックスを持っていた早輝は、乱暴な運転に怖がってしまっている。
しかも運転手は、あの子供だったのだ。
子供がこんな荒々しい運転をして、危なくないわけがないと、早輝は隣のリバリに思わず抗議する。
早輝「ねえ、危ないわよ! いやあっ!」
道を乱暴にカーブして、再び早輝の体が倒れる。
何とか早輝は体を起こして、
早輝「止めさせて! 子供が運転だなんて、危なすぎるわ! う、、きやああっ!」
ニュルニュルニュルッ
抗議したところに、助手席の大男が再度指に力を込めて早輝を強く締め上げる。
少女の柔肌に痛々しく触手指が食い込み、苦しそうに絶叫を上げる早輝。
大男「黙れ、大人しくしてろ。」
少女を誘拐した軽トラックは、もの凄いスピードで街を駆け抜けていく。

しばらくして、人気のない山の中の道路を走る。
最初は触手指の緊縛から逃れようともがいていた早輝だったが、
グルグル巻きに何重にも縛られていて、しかも後ろ手首や胸の上下など、肝心な個所にもきつく巻き付けられており、もがいても苦しいだけでビクともしなかった。
さらに上半身だけで無く、太ももも締め上げられていて、満足に立つことすらできない。
しかも少しでももがくと、大男はすぐに指に力を込めて早輝を締め上げ、抵抗を押さえ付ける。
抵抗したお仕置きも兼ねているのだろう、ギリギリと早輝の華奢な体を容赦なく締め上げる。
指を通して早輝の抵抗がすぐに分かるのだろう。
早輝(ダメ、、これじゃ抵抗もできないわ…、とても逃げられない。。)
それを悟った早輝は、ガックリと頭を落とし、捕まった自分の愚かさと非力さを悔やむ。
そうやってしばらく大人しく横座りの姿勢で荷台に座っていた。
そんな姿を隣のすぐそばでじっくりと眺めてくるリバリの視線が気持ち悪くて仕様が無かったが、耐えるしかなかった。
抵抗しても抗議しても、自分を縛る触手指に締め上げられるのが落ちなのだから。
大人しく座る早輝をまるで作戦通りに捕縛したのだと、誇らしげに眺めているようにも取れるリバリの視線に、早輝は屈辱感がする。
一体どこに連れていかれるのか、、青看板を見てすぐに分かった。
●●洞窟、、奴らの基地の地下迷宮に連れていく気なのだ。
何ていう事だ。早輝は顔をしかめる。
洞窟の基地なら美羽の経験から攻め落とせる可能性が高かった。
しかし、こいつらはそれをさせないよう、人質を作り基地に連行する気なのだ。
洞窟の基地を攻め落とせるのは、あくまで基地の連中が全員敵であったらの場合だ。
一人でも人質がいては、人質の無事を考慮して慎重にならざるを得ず、攻め落とすのは極めて困難になる。
しかも人質を盾にされたら、もはやどうする事も出来なくなる。
その人質として、早輝が捕らえられてしまったのだ。
山の中の道はカーブが多く、少年はノリノリで運転する。
子供「やっほー! やっぱ本物の運転はリアリティがあっていいね♪」
まるでゲームをしているかのような無邪気さだった。
早輝「くうっ、、あああぁあ…っ!!」
子供「ちょっとお姉さん、さっきからうるさいよ! 捕虜なんだから、大人しく静かにしててよ。」
気分を害されて、とんでもない事を言う少年だった。
大男「俺がきつく締め上げているからな。」
さっきから大男は、再び触手指に力を込めて早輝を苦しめていた。
早輝自身は大人しくしていたのに関わらず、大男は強めに早輝を締め上げ続ける。
しかも、一瞬弱くしたら再びギュウッと締め上げるなど、嫌な強弱の付け方をし、常に早輝を苦しめ続ける。
ミシ、、ミシミシ、、
早輝「あうぅっ、、ぐうぅ…っ!(やめて…っ、骨が、、折れちゃう!)」
少女の小さな華奢な体に、太い触手指が容赦なく食い込み、彼女のやわな体が悲鳴を上げるように、骨がきしむような音が聞こえる。
夏の薄着で露出した二の腕や太ももの肉に容赦なく指が食い込んでいる痛々しい光景を見るだけで、どれだけ早輝が苦しいかは良く分かる。
これ以上力を込めると、骨がイカれてしまうんじゃないかというくらいの厳しい締め上げ方だ。
しかし隣で眺めているリバリは、満喫するようにその光景を鑑賞していた。
大男「何人もの同志を殺してきたゴーオンジャーだからな。締め上げて弱らせて、何も抵抗できないようにしておくのさ。それに、俺は娘の華奢で柔らかい肉を締め上げる感触が快感でな。いい気持ちだぜ。」
子供「あっそう。まあ、女性の悲鳴は僕も聞いてて気持ちいいけどね。」
早輝「っ…!!(な、、なんて奴らなの!?)」
憤慨するが、さっきから自分を縛り上げて締めつけている触手は、大男の指なのだ。
肉に食い込んでいる感触が気持ち悪い、、いや服の上から食い込んでいても、その感触は伝わってくる。
ゴツイくせに柔らかくて生々しい肌の感触。
それが、自分の全身に、胸や太ももや二の腕にまで巻き付いて締め上げてくるのだ。
年頃の女の子には苦しさと同じくらい、生理的に気持ち悪くてしょうがない。
幼さの抜けない可愛い少女にこんな残虐な仕打ちを平気でするこいつらに、明確な恐怖が沸き上がる。
早輝「(気持ち悪い…怖い…、皆、助けて!)あっ、、ぎゃ、あああぁっ」
大男「ククク…苦しむがいい。」
相変わらず大男はネチネチと早輝を締め上げ続ける。
子供「ただ運転中はうるさいだけなんだよなあ。ねえリバリさん、お姉さんに猿轡噛ませて黙らせてよ!」
早輝(!! いっ、いや!)
口を塞がれる事に、明らかな嫌悪感を浮かべた早輝だったが。
リバリ「今はその必要は無い。フレグ、うるさいからやめろ」
大男「はい。」
命令通り、フレグと呼ばれる大男は彼女を締め上げる力を少しだけ弱めた。
相変わらず少女のやわな肉に食い込んでいるが。
苦しくて堪らない程じゃない。
早輝「くはあっ、、」
どうしようもない程強烈な苦しさからは解放された早輝は、一息ついた。
まだ体の締め付けは強くて苦しいが、少し余裕のできた早輝は、恐る恐るだが気丈に吠えてみた。
早輝「あたしを誘拐して人質にしても無駄よ。そんな事で負けるゴーオンジャーじゃないんだからっ。」
リバリ「それだけじゃないさ。お前は我々に協力してもらう。」
早輝「協力、、一体何を?」
リバリ「フフ、後でゆっくり教えてやるよ。お前は協力者として我々に手を貸すのだ。」
そう言って早輝の頭を撫でる。
すぐに早輝は頭を振って避ける。
早輝「何をさせるつもりか分かんないけど、あたしが敵に手を貸すとでも思ってるの? 絶対に嫌よっ。」
リバリ「お前の意思など関係無い。否でも無理やり協力させてもらう。ゴーオンジャー全滅のためにな。」
早輝「な…!? いや、、させないわ! この…」
ニュルニュルニュルッ
早輝「きやああああっ!!」
足を振って攻撃しようとしたところに、フレグの指の締め付けが襲いかかった。
さっきよりもさらに強い締め付けで、骨がきしみ苦しみのあまり荷台に転がって喘いだ。
フレグ「クク、この程度の力でこんなに苦しんでくれるんだからな。か弱い小娘は嬲り甲斐があるぜ。きっと、全力で握ったら骨がバラバラに砕けるぜ。」
早輝「っ!!(やだ、、怖いよお…。ん? あれは…)」
その時、後ろからバイクが近づいてきたのが見えた。
早輝が大人しくなったのを見計らってフレグが指の力を抜いたため、早輝はじいっとバイクの人を見た。
子供「げえっ、来たぞ!」
早輝「範人!」
後ろからバイクに乗った範人が追ってきたのだ。
助かるかもしれない、と希望を取り戻し、久しぶりに明るい表情に戻った早輝。
グルグル巻きに縛り上げられ、荷台に無様に倒れた格好のまま、範人に助けを求める。
早輝「範人っ、助けてえ!!」
範人「待ってろよ早輝! すぐに助けてやるから!」
リバリ「やれやれ、うるさい子供たちだ。」
そう言うとリバリは再び爆弾を取り出した。
思わず早輝は不自由な体で必死にリバリににじり寄る。
早輝「いややめて! 範人が死んじゃう!」
ニュルニュルニュルッ!
早輝「ああああっ!!」
やはり再び指の締め上げに襲われ、荷台に倒れて苦しむ早輝。
フレグ「大人しくしろ、このガキが!」
仲間が追ってきた予想外の展開に、フレグは焦りを隠せず神経質になっていた。
そんな一部始終をバイクで見ていた範人。
範人「早輝! くっそお…!」
人質に対する酷い扱いに、何としても早輝を助け出さなければ!と奮起する。
ドッガーーンッ!
早輝「きゃあ!! 範人ぉ!!」
爆発の煙にバイクが見えなくなり、一瞬当ったのでは?と早輝は恐れてしまう。
けど、何とか範人は避けていた。
早輝「ホッ…範人、、」
再び追いかけっこが始まる。
リバリはさらに爆弾をいくつか投げる。
早輝「気を付けて範人!」
範人「分かってる!」
早輝は抵抗すれば触手指に拷問される。
その事をさっきのやり取りを見て理解した範人は、すぐさま返事し、フレグによる拷問から早輝を守ろうとする。
ドッガーーンッ! ドッガーーンッ!
手慣れた操縦で、爆弾の爆風を避け、尚も追ってくる。
子供「ヒューッ♪ やるなあの兄ちゃん。」
フレグ「どうします? このままじゃ基地まで着いてきますよ。」
リバリ「問題無い。応援が来た。」
早輝「!?」
その言葉を聞いて慌てて辺りを見渡す早輝。
すると、道の上の山の木に、誰かがいた。
その黒服の男は、ボウガンを所持して構えていた。
早輝「!!? 範人、危ない!!」
範人「え?」
ビュッ! ビシイッ!
範人「うっ、うわああーーーっ!!!」
ボウガンの矢がバイクに命中した。
バイクはバランスを崩し、範人は為す術なく道路に叩きつけられた。
早輝「いやあっ!! 範人お!!」
確実に大怪我を負った範人の様を、早輝は縛られたまま眺めるしかなかった。
自分のせいで…さっきまで気丈だった早輝は、意気消沈してしまった。
早輝「範人、、グス…」
フレグ「へへ、これで一人消しましたね。」
範人「いや、これくらいで死ぬような奴らじゃない。」
それを聞いて早輝はハッとする。
そう、冷静に考えれば、あの程度で範人は死なない。
必ず生きて、助けに来てくれる。
早輝(範人、、どうか無事でいて…!)
心の中で必死に願う早輝だった。
暴走トラックは、さらに山奥を走って行った。


走輔「それで!? 大丈夫なのかお前は?」
範人「ええ、何とか受け身取ったので骨には…けど動けないです。」
壊れたバイクのそばの歩道に、怪我を負った範人が腰を落として仲間と通信していた。
走輔「よかった、、とにかく今から迎えに行くから、そこで大人しく待ってろよ。」
範人「いえ、僕よりも、早く早輝を助けに行ってやって下さい!」
連「範人、、だがな…」
範人「バイクから見てました。奴ら、早輝のような女の子相手に、酷い拷問を…っ。俺は大丈夫ですから、早く早輝を助けてやって下さい! お願いします!」
その時、軍平が冷静に言う。
軍平「落ち着け、範人。敵がどれだけ脅威か、お前も分かってるだろう。大翔にお前まで欠いた状態で、早輝を人質に取った奴らに、どうやって勝てるんだ。」
範人「ぐっ、、けど…!」
軍平「奴らの行き先は分かる。その道なら●●洞窟に違いない。早輝はアジトに連れ去られたんだ。」
範人「だったら、尚更早く助け出さないと! 奴ら、早輝にどんな酷い拷問をするか…」
軍平「落ち着くんだ!」
いきなりの大声に、範人はビックリして黙りこくった。
焦りの空気を止めた軍平は、落ち着いた口調で話し始める。
軍平「お前の気持ちは良く分かる。だが今は引き下がるんだ。いいな?」
範人「分かりました。。」
目の前で早輝が苦しんでいるのを見た分、捕まった早輝の事が心配でたまらない範人だったが、軍平の言う通りだった。
早く傷を治す事が先決だと、自分に言い聞かせた。
範人「待ってろよ、早輝。」
勝手に奪って壊した他人のバイクの弁償の事まで忘れる程、強固な思いだった。

その頃、早輝を乗せた軽トラックは洞窟に着こうとしていた。
早輝(●●洞窟、、やっぱり、こいつらのアジトに…。これから、何をされるの…?)
気丈な表情を保ちながらも、アジトに連行されてどんな事をされるのかと思うと、身が竦みそうだ。
さっき以上のつらい拷問をされてしまうのだろう。
泣き出したい気持ちを抑えて、健気に気丈さを保つ。
だが、恐怖のあまり体の震えを抑える事は出来なかった。
そんな様子を隣の間近で見つめているリバリは、少女の健気さが可愛らしく思えた。
軽トラックが止まり、男達が降りた。
早輝「あっ、きゃあっ!」
フレグが指を操作し、荷台の上の少女を乱暴に引きずり下ろし倒した。
フレグ「さっさと立って、歩くんだ。」
無理やり引きずり落としたくせに…
あまりの乱暴さと勝手な言い分に、勝気な早輝は逆らいたくなり、倒れたままプイッとそっぽを向いた。
それを見るとフレグは、またも指を操作して、彼女を引きずって歩きだす。
ズリズリ、、ズリズリズリ、、
早輝「あっ、痛い!」
洞窟の地面の石と砂が、夏の薄着を着てるために露出した彼女の二の腕や生足を擦りつける。
早輝「いっ、痛いよ! やめて!」
少女が喚いても、フレグは容赦なく緊縛した少女の体を地面に擦りつけながら引きずる。
さすがに痛くて惨めで耐えきれなくなった早輝は、
早輝「やめて! 歩く、歩くから、、だから乱暴にしないで!」
それでも引きずり続けるフレグに、慌てて不自由な体を捻る。
肩と膝を立てて、地面に擦りつけられる痛みに顔をしかめて必死に体を振る。
早輝「いつっ、、ぐ…!」
ようやく立ち上がった早輝。
今の作業でも縛られた少女にはかなりきつく、すでに疲れて息を吐いていた。
そんな惨めな姿を男達にご満悦そうに眺められる屈辱に、泣きそうになるのを堪える。
ニュルニュルッ
早輝「ぐ…っ!」
フレグ「ククク、いいだろう。さあ歩け。」
再び触手指の締め付けに襲われ、呻く早輝。
早輝(く、、歩かなきゃ。)
太ももの緊縛は幸い緩まれていたため、歩けない事は無い。
しかし、攻撃ができないのは明らかだ。
悔しげに唇を噛みながら、命令通り歩き出す。
歩くたびに太ももに巻き付いている指がももを擦る感触が、気持ち悪くて堪らない。
それを表情に出さないように耐えるには、早輝はまだウブだった。
歩くたびに気持ち悪さに顔をしかめ、震える様を、男達は嘲笑しながら側を取り囲むようにして歩く。
子供までがいやらしく自分を眺めていて、何とも嫌な連中だと思った。
そう思うと同時に、やはり恐怖感も増していく。
こんないやらしくて残虐な連中に捕まって、アジトに連れ去られて何をされるのか?
生理的嫌悪からの体の震えに、恐怖感が混じっていく。
その時、ふいにリバリが少女の後ろから目に何かを付けた。
早輝「あっ、や!」
いきなり視界を封じられた事に、困惑して思わずもがく早輝だったが、
ギュウッ!
早輝「きゃうっ!!」
フレグ「動くな!」
やはり指の締め付けで抵抗を押さえ付けられた。
リバリ「クク、そうだ、大人しくしてるんだ。」
早輝「っ…!」
悔しくて仕方なかったが、抵抗できない自分も悔しかった。
早輝「何をしたのっ?」
リバリ「心配いらない。アイマスクを付けただけさ。お嬢ちゃんには刺激の強過ぎる光景が多いからね、配慮してあげているんだよ。感謝したまえ。」
早輝「これじゃ、何も見えないわ…! 歩けないわよ。」
フレグ「心配ねえよ。」
早輝「いやっ!」
耳元で囁きかけられ、目の見えない早輝は驚いて慌てて避ける。
フレグ「ククク、可愛いな。安心しろ、俺の指で引っ張ってやる。いいから歩け。痛めつけられたくなかったらな。」
早輝「くっ…!」
悔しくて堪らないながらも、捕虜である自分の立場を受け入れて言う通りにするしかなかった。
慎重に歩きだす。
自然のボコボコな道に、転ばないように気を付けるので精いっぱいだ。
時折フレグが、指を締めながら少女の体を乱暴に引っ張り、軌道修正させる。
そしてまた、少女は大人しく歩きだす。
アイマスクされた目から涙が溢れてくる。
敵にいいように連行されて弄ばれて、、さらに仲間を制限する人質にされて、、
そんな自分が惨めで仕方なかった。
しかしそんな涙も、分厚い目隠しに吸収され、敵の目に届く事は無い。
やがて、扉のような音が聞こえたかと思ったら、道がボコボコの石からタイルに変わった。
早輝(これは、、人工の道…。そうか、敵の地下迷宮が洞窟にあるって、、その中に入れられたのね。)
目の見えない早輝は、シューズから伝わる足の感触で推測した。
しばらくその状態が続く…
ニュルニュルッ、、
早輝「ぐ…っ!」
何度も何度も指で締め付けて軌道修正され、どこをどう来たか全く分からない。
さっきからどのくらい歩かされたのか、捕虜の早輝には確かめようがない。
「とうとう捕まえたか。」
「哀れな姿だな、いい気味だ。」
「本当にまだガキだったんだな。」
という声が時折どこからか聞こえてくる。
恐らく基地の敵のメンバーだろう。
早輝(まさかこいつら、地下迷宮を隅々まで引き回して見せ物にする気じゃ…!)
予想通り、リバリは早輝を地下迷宮中引き回しにしていた。
そうする事によって、早輝の疲労や恥辱を高めていた。
さらに、ずっと目隠し状態のまま、いつ指の締め付けが強くなるかもしれない不安、これから何をされるかの恐怖が、彼女の精神力を確実に削り取っていた。
少女は恐怖のため涙が溢れ、目隠しの分厚い布に染み込んでいく。
早輝(皆、、早く助けて…!)
引き回しが2時間近くも続いた。
しばらくして、さすがに疲労困憊と目隠しとによる不安と恐怖でフラフラの早輝に、何か異様な雰囲気が包む。
何とも嫌な匂いと言うか気配と言うか、とにかく嫌な空気だった。
熱いとも冷たいとも言えない、今までに感じた事の無い空気だった。
それは歩を進めるたびに強烈になり、明確な匂いと気配を感じる。
おそらく基地の中心地だろう。
早輝はその気配の所に連れていかれる恐怖に、身をすくませながら歩く。
目隠しのせいで、もはや気丈さを保っているのは限界だった。
早輝(いや、、何があるの…、あたし一体、どうなっちゃうの…?)
そんな早輝の困惑気味な様子は、敵も察知していた。
とうとう中心地に辿り着いた。
ニュルルッ、、
早輝「うぐ…!」
指を引っ張って早輝の歩みを無理やり止めさせる。
早輝(着いたのね…)
リバリが目隠しを外した。
涙で濡れた少女の目が露わになった。
久しぶりの光に、早輝は眩しさを感じて目を瞑るが、異様な声が聞こえ、慌てて目を凝らして見た。
早輝「き、きゃあっ! 何よあれ!?」
ここはかなり広い部屋で、一番向こう側に大きな牢屋があり、中には今まで見た事無い化け物が何十匹と収容されていた。
異様な空気は、あの化け物達のものだった。
牢屋には呪符の結界があるため、化け者達は出られない。
しかしそれでも、牢屋の外を求めて手を差し伸ばそうとしていた。
何ともおぞましい姿の魔物だった。
リバリ「ほう、もう牢屋の柱に触れるのか。もうすぐだな。」
早輝「!?」
何の事だか分からず少女は、すっかり混乱してリバリと化け物たちに視線を交差する。
フレグ「さあ、歩け。」
早輝「あっ、や! やぁだ!」
あの化け物たちの所に歩かされている事に気付いた早輝は、恐怖いっぱいに抵抗した。
早輝「いや、やめてよ! 怖いよ! あっ、あああ!!」
再び指の締め付け…早輝には抵抗などできないのだ。
怖がりながら化け物たちの下へ歩かされる早輝。
その時、フレグは…。


走輔「まだ大翔の怪我は治らないのかよ!」
範人「ちくしょう! このままじゃ、早輝が…」
正午になり、完全治療設備による治療でもまだ意識が戻らない大翔に、皆焦り始めていた。
数時間前、早輝が誘拐されてしまったためだ。
調査により奴らがどれだけ残酷な連中か分かっており、早輝の身を案じて焦るのは無理も無い。
早輝を人質に取られた以上、戦闘力の高いリベラル派の基地に大翔抜きで殴りこむのは自殺行為に近い。
どうする事も出来ず、ただ大翔の意識が覚めるのを待つしかなかった。
その時、範人の携帯が鳴った。
範人「み、皆! 早輝からだ…」
皆の緊張感が強まる。
おそらく、奴らからだろう。
早輝の携帯を奪い、履歴から連絡をしてきたのだ。
今日の朝、範人はショッピングのため早輝と連絡していた。
軍平「よし、俺が出る。」
仲間の中で最も冷静な軍平が出る事にした。
軍平「もしもし。」
早輝「あ、あたし…、ごめんなさい。。」
軍平「早輝! 今、捕まってるんだな。」
早輝「うん、、皆、助けて…!」
絞り出すような早輝の声に、かなり怖い目に遭っている事が窺い知れる。
今、早輝は両手を頭の後ろに組んだ体勢で縛られて吊るされていた。
足は床についていたが、化け物たちの牢屋のすぐ前で背中を向けた状態で吊るされており、後ろの化け物が怖くて仕方なかった。
その状態で、すぐそばに長身のリバリが携帯電話を早輝の耳に押し当てている。
「余計な事は喋るな」と予め脅されていて、情報を口にできない。
長身のリバリが小柄な早輝を見下ろすその目は威圧的で、早輝は身が竦む。
自分を完全に捕らえたフレグが敬語で話す立場のリバリ。
フレグ以上の実力と残酷さを持つ事は、その気配からも容易に読み取れる。
とても逆らえなかった。
軍平から範人に替わった。
軍平は断ったが、心配している早輝をせめて安心させてやりたいと、無理やり奪った。
早輝「範人…よかった。むぅッ…」
本当に安心そうな声で言う早輝。
よほど心配していたのだろう。
しかし、久しぶりに微笑む早輝の口を素早くリバリが手で覆い塞いだ。
範人「おいどうした!? 早輝!」
軍平「替われ! もしもし!」
リバリ「クク、可愛い仲間とのお喋りはこれまでだ。」
軍平「きっ、貴様あ!」
早輝「んん~~っ」
悔しさのあまり口を塞がれたままくぐもった声を出す早輝。
その声は携帯に通じたが、リバリは塞いだ口を解放しなかった。
強い力で少女の口を塞ぐリバリは、落ち着いた口調で携帯に話す。
リバリ「娘は頂いた。返してほしくば、明日××に出頭するのだ。」
軍平「な、何故××に?」
リバリ「お前達に質問権は無い。こっちの要求に答えろ。分かったな?」
軍平「…分かった。」
すぐに携帯が切れた。
その要求内容について、やはり議論が起きた。
連「何故アジトで無く、××なんだ? おかしいじゃないか。」
軍平「わからん。早輝を人質に取られてるから、命令に背いて聞き返せなかった…。」
走輔「くそっ、絶対に罠だぜ。怪し過ぎる!」
その時、困惑していたメンバーを鎮めるように、沈黙していた美羽が口を開く。
美羽「分かった。あたしがこれから、そこに行って確認してくる。」
走輔「な、何を言うんだよお前!」
軍平「いや確かに、、××に罠を張られている可能性が高い以上、先に行って何があるのか見てくる必要があるな…」
連「そして敵に気付かれずにそれができるのは、戦闘経験豊富な須塔兄妹しか居ない、という訳か…。」
走輔「だが危険過ぎる! そんなら俺が行くぜ! 俺だって強くなってんだ、敵に気付かれないよう侵入できる!」
美羽「だからあたしが行くのよ。この行動は危険過ぎる。もしもの時、走輔まで居なくなったら、本当にもう勝ち目が無いわ。」
軍平「け、けどよ…」
美羽「それに、、あたしのせいで、アニが大怪我を負ったの。これくらいはしたいの。お願い…!」
走輔「美羽…」
連「しょうがないっスよ。これが最善の方法なんだから、勝つための…!」
軍平「連…」
本当は、皆美羽が心配だ。
だが、早輝の捕縛、美羽の作戦と覚悟を考えると、納得するしかなかった。
走輔「分かった、、気を付けろよ…!」
悲痛な顔で走輔もやっと納得した。
女の子を危険な地に出すしかない、、何とも味の悪い作戦だった。
美羽はジャケットやホットパンツに武器や通信機を装備し、出かける準備をした。
連「本当に一人で大丈夫なんだな?」
美羽「ええ、何かあったらすぐに通信機で呼ぶから、ちゃんと来てよ。」
軍平「もちろんだ!」
走輔「…絶対に駆け付けてやるからな。」
美羽「うん、頼りにしてるから。」
そう言って、美羽は皆に見送られて一人出発した。
極めて危険な、敵の下へ。
その時、犬がこちらに近付いてくるのが見えた。
犬「ワン、ワン、、」
美羽「あら、捨て犬かしら?」
その犬は人懐っこく美羽にじゃれ付き、可愛さから美羽も犬をあやす。
これから死地へ赴く美羽への神からの手向けかなと思い、精一杯犬を可愛がる。
その後、真剣な表情に戻り、××へ行った…。


《続く》