『最強の復讐者』

 足音がゆっくりと聞こえる。しかしそれはカッカッというような甲高いものではなくミシミシとした軋んだ音。足音の向かう先には大きなふすまがそびえ、その中からは呻き声のような呪文、あるいは念仏といった類のものが聞こえてくる。
人影がふすまの前で歩を止めるとすぅーとふすまが勝手に開き、中にいる髪の長い男の後ろ姿が確認できた。男の横では松明が左右に焚かれ、その明かりの奥では禍々しい表情をした偉業のものの像がいくつも並び立っていた。
「久しぶりだな巌鬼(ガンキ)…。」
声の主は女のものだった。巌鬼と呼ばれた男が応える。
「フン…今頃になって何の用だガラよ?」
今度はガラと呼ばれた女が応える。
「貴様に頼みがあってここに来た。」
「なにを都合のいいことを…。道士・嘉挧とゴーマの参謀長の座を争い、敗れた俺を見捨てたのは貴様らではないか…それを今更頼みなどとは…馬鹿馬鹿しい。」
ガラの一言に、鼻で笑うかのように巌鬼が返す。
「では我らの願いを貴様が叶えたあかつきには、ゴーマの参謀長の座を渡すと言えばどうだ??」
ガラが不適に笑いながら発した言葉に、巌鬼の背が微かに動く。
「それは…!!いや、貴様らの話次第だな…。で、頼みとは??」
巌鬼は振り返ることなく話つづける。
「道士・嘉挧が我等に反旗を翻して、ダイレンジャーなる戦士達を作りおった。我々の侵略をことごとく妨げるこの者どもを始末して欲しい!」
「ほう…嘉挧がなぁ…、で、奴らは何人いるのだ?」
因縁の相手の名を口走られても、巌鬼の口調は変わらない。
「6人…それに嘉挧を足せば7人となるが…」
「ははっ!!7人だと!?それはさすがに骨が折れるわ!!ともすればゴーマの参謀長になる前にこちらの命が亡くなるわ!!馬鹿を言うな!!」
巌鬼はガラの話が終わるのを待たずに口を挟み、その依頼を笑いながら断った。だが、ガラは迷わず話を続ける。
「そうは言ってもだ。貴様とて嘉挧への恨みは晴らしたかろう?」
「晴らすも何も奴さえいなければ、俺はゴーマから見捨てられずに済んだ。俺の妖力が奴に劣っているとは、今でも思っておらんわ!!」
「ならば…だ。奴と引けをとらぬ貴様の妖力で復讐の刃を向ければよいではないか!?」
そう言うと、ガラは口元をにやりとゆるめた。
「だからさっきも言ったであろう!?」
ここにきて初めて、巌鬼は胡坐をかいたままでクルリとガラの方へ向きかえった。長く生えた髭は胸元まで届き、表情はいかにも陰鬱で妖しげなものを放っている。
「しかし、7人では無くとも復讐は果たせるぞ?」
ガラは屈み込み巌鬼の顔を覗き込む。
「どういうことだ??」
巌鬼が怪訝そうな顔で逆にガラの顔を覗く。
「まずは1人…。」
「1人…とは??」
「ダイレンジャーの中でも取り分け強い気力の持ち主、ホウオウレンジャー。どうやらこいつは嘉挧の姪らしくてなぁ…。別にダイレンジャー全員や嘉挧を相手にしなくとも、こいつをいたぶり、討ち果たせば…嘉挧もさぞ嘆き悲しむであろうに…?」
それを聞き、巌鬼の様子が少し変わる。
「姪…だと?!…なるほどな…如何に気力が強いといっても嘉挧ほどでもあるまい?しかも女相手に倒されるほどの俺ではない…。」
巌鬼の顔に含み笑いが見て取れる。それを見逃さず、ガラは言葉を挟む。
「どうだ?やってはみないか??ホウオウレンジャーを討ち取った後に残った奴らを我等の手で始末すればいい話だ…」
「よかろう…この寺に篭り、磨き続けた我が妖力をもう一度ゴーマの為に役にたてようではないか…!」
そう言うと巌鬼は立ち上がり、先に歩を進めだしたガラの後を追って闇の中に溶け込んでいった。

悪い胸騒ぎがした。ダイレンジャーはコットポトロと三幹部を相手に死闘を繰り広げている。その傍に得たいの知れない編み笠を被った男がおり、ただならぬ妖気を放っている。
「もしやっ!!?」
その予感は外れでは無かった。
男はダイレンジャー達がそれぞれ戦う場が分断されたのを見計らうと、ホウオウレンジャーに向けて手をかざした。
「ハァーーーーっ!!」
男の手から妖力が黒い糸状のオーラになり発せられる。そしてそれは、何本にも細く分散しホウオウレンジャーの身体に絡みつきピンクの四肢をに絡みついた。
「アァァァーーー!!」
ホウオウレンジャーの叫びに、他の戦士たちが振り返り動きが止まる。その一瞬を男は逃さず、彼らにも同様の妖糸を浴びせ掛け動けなくさせる。
「一体、何者だっ!」
マスク越しではわからないが、明らかに唇をかみ締めたような声がリュウレンジャー発せられる。その時、
「お前は…巌鬼だな!!」
颯爽と嘉挧の声が響いた。胸騒ぎはこの男から立ち上る妖力が引き起こしたことに間違いは無かった。
「ふっ…久しぶりだな嘉挧よ!聞けばこのホウオウレンジャーは貴様の姪だと言うではないか?長年の恨みは、貴様では無くこの娘の身体をもってしっかりと返させていただくぞ!!」
編み笠の中で巌鬼の口が醜く歪む。
「させるかっ!ハッ!!」
嘉挧はその手から気力の光弾を放つ。も、巌鬼が顔を上げ大きく口を開き、
「カァァーーーーッッ!!!」
と一括しただけで、その光弾は四散し弾き返されてしまった。
「巌鬼っ!!その妖力はっ!!」
想像以上の巌鬼の妖力に嘉挧がたじろぐ。その一瞬が命取りだった。巌鬼はホウオウレンジャー以外を捕らえていた妖糸をからまた一本を派生させ、わずかの隙を逃さず嘉挧の身体に巻きつかせ、その動きを封じた。
「道士っ!!」
ダイレンジャー達が口をそろえて叫び、自らの動きを封じる妖糸を引きちぎらんともがく。
しかし、その妖糸はビクともしない。
「チクショウ!なんて妖力だっ!!」
テンマレンジャーが口走る。
「ふふっ、他愛もないなぁ…嘉挧?貴様の弟子はこんなものか??」
かざした手の先にあるダイレンジャー達の姿を見渡すと、巌鬼は再び口元を歪めて嘲笑した。
「クッ……クウッゥ…。」
ホウオウレンジャーからは苦しげな声が聞こえてくる。
「それでは俺はこいつをいただいて行くとしよう…。」
巌鬼はホウオウレンジャーにかざした手を回しその妖糸を一気に絡め取っていき、それに合わせてホウオウレンジャーは一瞬で巌鬼の手元に収まり、背後からまだ妖糸の絡みついたその身体を抱きしめられた。
「はっ…離せっ!!」
巌鬼の腕の中でピンクとホワイトの肢体が動くが、ビクともしない。
「これは置き土産だ…」
巌鬼は今度は他の戦士と嘉挧を拘束する妖糸が伸びる手をサッと縦に振るう。すると、その妖糸は巌鬼の手元から断ち切れて、ダイレンジャー達を拘束する妖糸だけが彼らの身体に巻きつき続けていた。
「ックソッッ!!」
ダイレンジャー達が必死にもがくのを尻目に、巌鬼は右腕をホウオウレンジャーのくびれた越し回りに、左手をマスクの下の首に回す。
「では、さよならだな…。カァァァーーーーーッッ!!!!」
再び巌鬼が一括した声を発する。それと同時に、
「キャァァッッッーーーーーーーッ!!」
ホウオウレンジャーの甲高い悲鳴がどす黒い声に重なるように響き、ホウオウレンジャーは全身を駆け巡る電流にピンと一度は背を伸ばすと、ぐったりと巌鬼の腕の中で首をうなだれた。
「リーーーーーンッ!!」「リンッ!!」
嘉挧が、ダイレンジャーが悲痛な声を上げる。そんな中、巌鬼はホウオウレンジャーのマスクを優しく撫でると、
「貴様らはまたいつかなぶり殺してやる。…その前に…この娘がどんな風に死んでいくか…楽しみにしているがいい!!」
と言い放つと、白煙が上がると同時にホウオウレンジャーと共に姿を消してしまった。
「チクショウ…っ!」「リン…」
巌鬼が消えたことで妖糸の拘束が解けた残された者たちは、悔しさとそしてリンの生死への不安を胸に、さっきまでホウオウレンジャーの姿があった方へと手を伸ばすしかできなかった…。


「うっ……うぅ………んっ」
まだ重たい頭のままで、ホウオウレンジャーは意識を戻した。真っ暗な部屋の四隅にはかがり火が焚かれ、彼女を閉じ込めているのが巨大で分厚い石畳の牢獄だとわかる。
「ここは…??…そうか、私…」
リンはマスクのバイザー越しに見えていた、先ほどまでの戦闘を思い出し唇をマスクの中で噛み締めた。
「私、捕まって…」
小さく呟くと心がはやり出し、一瞬で周りを見渡すとこの牢獄の入り口-それは分厚い鋼鉄でできていた-に向かって一気に駆け出して、その扉へと体当たりを放った。
-ドカッ!!-大きな衝撃音が響く。が、扉はビクともしない。
-ドンッ!ガスッ!!ドカッッ!!!-蹴り、殴り、身体をぶつけを繰り返す。
「早くここから出て、みんなの元へ…」
昂り、焦る彼女の気持ちとは裏腹に、扉はその口を開けようともしない。
「…ふっ……勇ましいお嬢ちゃんだな……」
扉の向こうから巌鬼の声が響き、扉の上部に設けられた覗き窓からその目がホウオウレンジャーを射る。
「おっ、おまえはっ!!?」
その冷たい目線にホウオウレンジャーは牢獄の中で身構える。どれくらい前かは分からない。ただ、さっきこの男に敗れ、ここに幽閉させられた事実を思うと彼女は今にも殴りかかりそうだった。だが、その前には打ち破れない硬い扉がある。それをバイザー越しに睨み付ける。
すると、すっと巌鬼の姿が扉の向こうから消えた。
「はっ!!」
驚き扉に駆け寄るホウオウレンジャー。しかし、その背後に人影が現れると、
「俺はここだよ、お嬢さん…」
と、さっき扉の向こうから聞こえた声が響き、ホウオウレンジャーの方を掴んだ。思わず払いのけ、振り向きざまに巌鬼へとパンチを繰り出す。だが、巌鬼はその一撃をすんなりとかわし繰り出されたリ右腕を掴むと、ホ
ホウオウレンジャーの腹に重い蹴りを加えてから牢獄の奥へと彼女を放り投げた。
「一体、どうやって!?」
ホウオウレンジャーは身構えながら、巌鬼に問いかける。
「ふん…俺の妖術を以ってすればこんなものすり抜けるのは簡単なことだ…」
巌鬼は口元をニヤつかせて話を続ける。
「ところで、貴様は嘉挧の姪だと言うが…間違いないか?」
「そうよ!だから何だって言うの!?」
攻撃を加えたいが、うかつには近寄らせない巌鬼のただならぬ雰囲気に飲まれ、ホウオウレンジャーにはそう答えるのが精一杯だった。
「そうか!!ならば、取引をしないか??」
口元はまだ歪んだままだが冷徹なまなざしで、巌鬼はホウオウレンジャーに問いかけた。
「取引ですって??」
「そうだ…。俺は昔、嘉挧とゴーマの参謀長の座を賭けた果し合いに敗れ…参謀長の座は愚か、このゴーマからすら追放されてしまった…」
「それが何だって言うの??」
ホウオウレンジャーには自らと関係の無い過去の話にしか思えない。
「まだ分からんか小娘…?この恨みを晴らすべく、俺は今回ゴーマに戻ってきた!そこで…だ。貴様と俺とで果し合いをする…。俺に勝てば…貴様を自由の身にしてここから開放してやろう!ただし…貴様が俺に敗れた場合は貴様をゆっくりと嬲り殺してから…その無残な亡骸を嘉挧の元に届けさせてもらう…」
「そっ、そんな取引!」
ホウオウレンジャーが身を乗り出すのを片手を広げて巌鬼が制する。
「いいのか…?俺はチャンスを与えているのだ。取引をしなければ、ここに幽閉し続け…数々の拷問を受け…死が待っているのみだ…。しかし貴様が俺に勝てば、仲間のもとへ帰り、再び仲間と共にゴーマに挑むことができるのだぞぅ…??」
それを聞くと、ホウオウレンジャーは俯き目線を一旦床に落とした。チャンスはこの一回きりかもしれない。さっきの戦闘も不意を付かれての拘束だった。ただならぬ雰囲気は感じるが勝てないと思い込むのも違う気がする。そして、何よりゴーマを倒すためにはダイレンジャーの力を集結させなければならいと彼女は感じていた。
「…わかったわ…その取引にのるわ…!」
彼女は右拳を握り締め頷くと、ゆっくりと立ち上がった。


両手には真っ黒い手枷が嵌められ、その真ん中からは鎖がつながれている。逃亡を防ぐために巌鬼がホウオウレンジャーの手首に施したものだが、それはまるで古代ローマ時代にコロッセオに牽かれて行く奴隷戦士の様そのものだった。
巨大な門をくぐる。長く暗いトンネルが続く。そして目の前に開けた景色の真ん中には巨大な円形の闘技場が設置されており、まさに古代ローマコロッセオのように無数のコットポトロが観衆としてその闘技場を囲むスタンドに陣取り歓声を上げ続けていた。
闘技場の中央まで歩を進めると、巌鬼は潔くホウオウレンジャーの手枷を外し、彼女の目の前に歩を詰める。
「貴様…名はなんと言う?」
「何でそんなこと教えなきゃ??」
ホウオウレンジャーは、ふざけないでといわんがばかりに返すが、巌鬼は冷静に
「闘技場では互いの名を呼ばれ、銅鑼が鳴らされてから果し合いが始まる。これは太古からの慣わしだからな…」
と落ち着いて諭すように話した。気がつけば銅鑼のばちを持ったコットポトロが彼女のほうへ耳を傾けている。
「そう…私はホウオウレンジャー・天風星 リン」
そばのコットポトロが頷く。
「そうか…俺は妖魔法師・巌鬼。リンよ、冥土の土産に覚えておくがいいわ…」
巌鬼が不適にわらうと、そばのコットポトロは銅鑼に近づき場内にアナウンスを始める。
「朱雀の方角、ホウオウレンジャー・天風星 リンーーー!!」
場内からは無数の「殺せ!!」コールが湧き上がる。
「続いて玄武の方角…妖魔法師・巌鬼ぃーーーーーー!!」
今度は無数の声援が巌鬼の方へ浴びせられる。そして、
「はじめーーーーーっっ!!!」-ドワァァァァ~~~ンンッツ!!!!-
銅鑼の音が高らかに鳴り響くと、会場のボルテージは最高潮に達した。
その渦に飲まれないよう、ホウオウレンジャーは気力を集中させた。
「先手必勝っ!!」
彼女は一歩で巌鬼との間合いを詰めると、その名の通り鳥のように華麗な動きでパンチ、キックを巌鬼に向けて繰り出していく。しかし、その打撃を寸でのところで巌鬼は見切り、かわし続けた。
「ほう…鳳凰拳を習得しておるのか…さすが嘉挧の姪だけあるな…」
連打をかわす最中でも、巌鬼は極めて冷静に相手を分析し、その動きを見切り続けた。
「これじゃぁ埒が空かない…」
ホウオウレンジャーもその動きに呼応しながら次の策をねる。そして、
「ハッ!!大輪剣っ!!!」
今度は右手に大輪剣を持ち、素早く巌鬼に切りかかっていった。そしてその切先が長く伸びた巌鬼の髭をかすめたのをホウオウレンジャーは見逃さず、さらにきり付ける速度を加速させていく。気がつけば、巌鬼は円形の闘技場の隅に追い詰められようとしていた。
「チィっ~!!」
それに気づいた巌鬼が大きく飛び上がりホウオウレンジャーの頭上を跳び越そうとする。その瞬間を彼女は見逃さなかった。
「よし…作戦成功…」
心で呟くと、
「天風星・一文字竜巻!!」
と、大輪剣を持った手を巌鬼にむけて必殺の一撃を繰り出した。ピンク色に彩られた竜巻が巌鬼を飲み込む。空中でガードの姿勢を失った巌鬼はそのまま竜巻に飲み込まれ、スタンドの下の壁まで吹き飛ばされて、その姿を壁にめり込ませた。
「よしっ!!決まった!!」
ホウオウレンジャーは喜びを動きに出すまいと、心の昂りを抑える。が、今まで数々の相手に見舞った一文字竜巻をまともに食らったはずの巌鬼が、のっそりと壁にもたれかかったまま立ち上がってきた。
「そんな…まともに決まったはずよ…!?」
だが、巌鬼にはダメージが残っている。そう見て取ると、動揺を冷静さに変えて彼女は巌鬼に向かい再度右手をかざした。
「天風星・一文字竜巻!!!」
さっきよりも、さらに気力を込めて放った。その証拠に、ピンク色の旋風はさっきよりも早く大きなものに姿を変えていた。
「ああああぁぁぁーーーーーっっ!!?」
スタンドからは、もちろん巌鬼を贔屓にする観衆のコットポトロ達から悲鳴にも似た感嘆の叫びが上がる。そのスタンドの真下。壁を背に立ち上がった巌鬼は迫りくる竜巻を見て、にやりと笑った。もちろん、観衆は気づいていない。そして、巌鬼に狙いを合わせているホウオウレンジャーすらそれには気づいていなかった。ピンク色の竜巻がもう少しで巌鬼を飲み込む…その刹那。
「カァァーーーーーッッッ!!!」
目一杯に口を開き、巌鬼は雄たけびを上げると一気に大きく息を吸い込んだ。会場が静まりかえる。その中でホウオウレンジャーの手元から伸びた竜巻は、巌鬼の口の中に吸い込まれていき、その風圧が残した微かな風だけが巌鬼とホウオウレンジャーの間を結んだ。
「そっ…そんなっ!!?」
もうホウオウレンジャーは動揺を隠し切れなかった。
「ふぅ…実戦から離れると、やっぱり勘が狂ってくるな…。妖魔方術・異空間吸息…この術で吸い込んだものは俺の体内から暗黒の異空間へ飛ばされる…」
すくっと立ち上がってみせた巌鬼にスタンドから一際大きな声援が上がる。
「くっ…まだまだ~!!」
ホウオウレンジャーは三度目の一文字竜巻を巌鬼に向けて放つ。しかし、最早技を見切っている巌鬼再び大きく息を吸い込み、竜巻を身体の中へと流し込みながら闘技場の壇上へをゆっくり歩を進めていった。
「あっ…あぁっ……」
ホウオウレンジャーは、歩を進めてくる巌鬼を見て後ずさる。
「もう終わりかな、お嬢ちゃん?では、こちらから攻めさせてもらうとするか…。こんなのはどうだ!?カァァーーーーッッ!!」
巌鬼は再び大きく口を開くと、今度は息を大きく吐き出す。すると巌鬼の口からはさっき吸い込んでいったピンクの竜巻がホウオウレンジャーに向かって発射された。その色は巌鬼の口元を離れるにつれて、妖力がその力を強めて黒く色を変えていく。
「ヤァっ!!」
ホウオウレンジャーは身を翻して、その竜巻をよける。それに合わせるように巌鬼は2つ、3つ、4つとドンドンと竜巻を発していく。そして、とうとう5つ目の竜巻が発せられたとき、ホウオウレンジャーは身を翻すことが出来ずにその竜巻に飲み込まれてしまった。
その勢いは凄まじく、ホウオウレンジャーの身体は何度も竜巻の中で旋回し、身がよじ切れんばかりの渦の中でもがき続ける。すると巌鬼がホウオウレンジャーを飲み込んだ竜巻を人差し指で指差し、何か念を送り込み大きく空に向けてその指を掲げる。その瞬間、地面と水平方向に走った竜巻が一気に上空へと向きを変え、ホウオウレンジャーの身体ごと上昇していき、その姿が豆粒ほどに見える高さに達すると、一気に風がやんだ。その数秒後…
-ドカッシャッッーー!!-
遥か上空から降ってきたホウオウレンジャーはその身体を、闘技場の真ん中にめり込ませる。
「あがっ…ぁっ……うぅぅ…」
胸を打ちつけたせいで思うように呼吸が出来ない。たたき付けられた瞬間の反動は首にも大きくダメージを与えた。それでも、
「まだ…やれるわよ……」
ホウオウレンジャーはふらふらとその足に力を込めて立ち上がり、巌鬼に向かっていく構えを見せた。
「ほう…さすが嘉挧の姪だな…。その根性だけは認めよう…」
巌鬼はそういうととどめを刺さんと手刀を振り上げ、その手の先に妖力を込める。
「今だっ!!」
そう思ったのはホウオウレンジャーだった。妖力を溜める一瞬の隙を突き、彼女は気力を蓄えた両の手のひらをを思い切り巌鬼の胸にぶち当てた。
「うぉぉぉーーーーっ!!」
その一撃は巌鬼を仰け反らせ、ホウオウレンジャーと巌鬼の間に間合いが生じる。その間合いにホウオウレンジャーは飛び込むとパンチ、キックと連打を重ねていく。さっきのダメージの分だけ、巌鬼の動くが遅い。いくつかの打撃はかわされたが、いくつかの打撃は巌鬼を捕らえることが出来た。
「後は、隙を見計らって懐に飛び込んで…至近距離から一文字竜巻を……」
一見は無闇に打撃を繰り返しているように見せて、ホウオウレンジャーは冷静にその策を一瞬で練り上げ、実行していた。そしてついにそのチャンスが訪れた。じりじりとバックステップで攻撃をかわしていた巌鬼が後方に大きく飛び跳ね、ホウオウレンジャーとの間合いを広げようとしたのだ。
「よしっ!!」
幸いにもホウオウレンジャーは中腰からやや低めの姿勢になっていた。つまり、大きく踏み出せばワンステップで巌鬼の胸元に飛び込める。後は、一文字竜巻を直接食らわせるだけ。
通じるかどうかは分からない。けれど、思い切り気力を込めた一撃、しかも距離をおかずに一文字竜巻を繰り出せば吸い込まれることも無く、直接的にダメージを与えられる。
ホウオウレンジャーは迷わずに大きく、巌鬼の胸元めがけて両足に力を込め、踏み切った。

……はずだった……

しかし、ホウオウレンジャーの両足は踏み切ろうとした地点を蹴り上げることもなくそこにとどまり、勢い余った彼女はバランスを崩して右ひざをついてとまった。
「えっ…??確かに踏み切った…ハズ……」
その前で巌鬼がにやりと笑う。
「ふっふっふっ…妖魔方術・操妖針…」
巌鬼は懐から鈍く光る針を取り出して見せながらそう告げた。
「そう…よう…しん??」
その針を見て、ホウオウレンジャーは自分の身体を見回す。すると、足の甲からつま先にかけてのあたりに両足に一本ずつ針が突き刺さっていた。
「いっ…いつの間にっ!??」
針が刺さった痛みは無かった。だが、現実に自分の足には針が刺さりその先を光らせている。
「さっきから不意打ちを食らってばかりだからな…。今度も何か企んでるだろうと、わざと飛び込み易い隙を作って、後ろに跳ねる瞬間に打ち込んだんだ…」
「くっ…くそぅ……」
冷静に策を練り、責めたつもりだった。だが、それは見透かされていて逆に相手に手玉に取られてしまった。でも、
「こんな針が何だって言うの!!?」
ホウオウレンジャーはバイザー越しに巌鬼を睨み付け、立ち上がる。
「まだ分かってないようだな?俺がお前に針を打ち込んだ位置はお前の足が動かなくなるツボなんだよ…。もう、お前はそこからは一歩も動けな…」
「何を!!」
ホウオウレンジャーは勢いよく巌鬼に向かっていこうとした。だが、巌鬼の言うとおり足はビクともせず、まるで針で自分の足の裏が杭打たれたかのように地面から離れようとしなかった。
「くくっ…動けなければもう何も出来まい…。どうだ?もうひとつ取引といこう。ここで素直に負けを認め、許しを請うなら…ゴーマ参謀長となる俺の側近としてお前を受け入れてやろう…どうだ??」
巌鬼は時折針を目の前で踊らさせては、ホウオウレンジャーに話しかける。
「馬鹿なこと言わないで!!私はみんなを裏切るなんて出来ないっ!!」
ホウオウレンジャーはどうにもならない足を懸命に動かそうとしながら、再度、巌鬼を睨み付けて声を荒げた。」
「そうか…まぁ、よかろう…。気の強い女は痛ぶりがいがあるしな……。」
巌鬼はそう言うや否や、手にした針をホウオウレンジャーに投げつけた。さっきと一緒で痛みは感じない。だが、突き刺さった針は両膝・両肘・両肩におよんだ。
「うっ…くっ……うぅん……」
「無駄だ。これで、お前の主要な関節の動きは封じた…。さて、まずは素顔を晒してもらおうか?」
身を捩るホウオウレンジャーの背後に回ると、巌鬼は左腕をマスクの上部、右腕をマスクのあごの部分にかかる具合に回してマスクを抱きしめると、一気に上方へ力を加えた。ミシミシとマスクの軋む音が聞こえはじめ、巌鬼の両腕の中では脱がされまいと懸命にホウオウレンジャーが首を揺らす。そして、その光景を包む会場のスタンドからは一斉に「脱がせ!!」
コールが響き渡り始める。
-ピシッ-バイザーに亀裂が走った。それをマスクの下のリンは目の当たりにし、大きく目を開き狼狽する。そして、
「ヌゥゥゥーーーーッン!!」
巌鬼が妖力を両腕に込めると、ピンクのマスクは一気に黒いオーラに覆い尽くされ、その状態で巌鬼が大きく身体を左右に揺らした瞬間。ホウオウレンジャーのマスクは巌鬼の腕の中に残り、そこからまず長い髪の毛が振り落ち、ホウオウレンジャーの素顔、リンの顔が現れた。
「おおぉぉぉーーーーーっっっ!!」
沸き立つスタンド。まだ少し幼さの残る愛らしい顔。しかしその瞳の奥に強い決意を秘めているかのような力を宿した少女がそこにいた。そして、一瞬悔しさで俯きかけた顔を上げて、今度はその瞳で巌鬼を睨み付けた。
「まだ、そんな表情が出来るのか…?それは、許しを請う気はないと言うことだな?」
「当たり前でしょ!!誰がゴーマの手先になるもんですか!!!」
リンは語気を強めて巌鬼に反論する。
「訊いた俺がバカだったようだな…では、これでひとまずさよならだな!」
巌鬼はリンの背後から右腕を首に回しその自由の利かない身体を押さえつけると、左手に操妖針を手にして大きく振りかざした。
「何をされても、私は負けないわ!!」
かろうじで動かせた首を回し背後の巌鬼をリンが睨みながら、威勢良く言い放った。その瞬間…
-ザスッ-
鈍く小さな音がして、リンは白目をむき、巌鬼が腕を放し妖力をもって身体に刺さった針を一斉に引き抜いた瞬間にその場に崩れ落ちる。
「三幹部たちよ!約束通りこの娘は貰い受けるぞ!!そして、今から俺が参謀長で相違ないな!?」
巌鬼はスタンドの最上段にいる三幹部に声を張り上げると、彼らが頷くのを確認し、足元のホウオウレンジャーのマスクを踏みつけ、一撃で木っ端微塵に粉砕した。
そして、白目を剥いたままのリンをその方に担ぎ上げる。最後の一撃。今、既にリンが生きているかどうかは巌鬼にしか分からないものになっていた。リンの額には一本の針が突き立っていた。


そこは廃墟だった。四方から光を浴びせるスポットライトの中心には手枷で両腕を拘束されたリンが横たわっている。
「ぁあ…んっ……」
目をゆっくり開き、周りを見渡す。スポットライトの明かりは思いのほか眩しく、一瞬視界がぼやけてしまう。そして、再び焦点を合わせ像を結びなおす。破壊されたマスクはもう無い。ふと右側の光景をみると、無造作に置かれたドラム缶の上に腰掛ける巌鬼が見えた。
「そうだ…こいつはおじ様への恨みの腹いせに私を…」
一瞬鳥肌が立つ思いがしたが、リンは唇を噛み締めた。
「何をされても…絶対に諦めない!!」
心の中で強く誓う。そのリンに、巌鬼がドラム缶の上から声をかける。
「ようやくお目覚めか…リン…」
「気安く呼ばないで!!」
落ち着いた巌鬼の言葉とは逆にリンは精一杯に強気な声で答えた。
「ふん…自分がどんな状況かまだ分からないと見える…やれ!!」
-パチン-巌鬼が指を鳴らすと壁際でコットポトロが大きなレバーを下方に下ろす。すると、
-ガクンッ!!-大きな機械の動作音が響き天井のウインチが稼動しはじめる。
「あっ!!…くぅっ!!」
そのウインチから下へ垂れ下がる鎖の行く先を目で追ってリンは焦った。さっきまで周囲を確認することに精一杯だったため、自分の両手首が手枷で拘束されていることに気づいてもいなかった。そして、上方から垂れ下がっている鎖は自分の手首を拘束する手枷と結びついている。
「くっっ…ぇぇぃ……あぁっ…」
リンは必死に身をくねらせ、足をばたつかせてその拘束から逃れようとする。が、ウインチは無情にもリンの両手を引っ張り上げ、リンが天井から吊るされ爪先立ちになるまで、それほどの時間はかからなかった。
「いいざまだな?リン…??」
ドラム缶から降りてくると、リンに近づきながら巌鬼はそう話しかける。
「私をどうするつもり!?」
リンが巌鬼を睨む。が、巌鬼はリンは何も答えず。黙ってリンの背後に回ると、そのあご先を手に持ち、自らの方へ顔を向かせた。
「何を…??それは分かってることだろう?お前をズタズタにして、苦しみぬかせた挙句に殺し……その無残な姿を嘉挧の前に晒してやるのさ」
「何をやったって、私はまだ負けないわ!!」
巌鬼のげひた笑いに、若干の恐怖をリンは覚えたものの、それを表に出すことを抑えて再びリンは強がって見せた。
「まぁいい…。では、最初は俺の自慢の針治療から始めようか…」
巌鬼は懐から操妖針を取り出すと、わざとリンの目の前でそれをちらつかせた。
「そんな針が…なんなのよ!?」
リンにはそう言うのが精一杯だったが、巌鬼はそれを聞きにやりと笑った。
「ふん…闘技場での戦いでも、おまえはこの針に負けたようなもんなのだぞ?それを忘れてしまった訳ではあるまい…」
確かに、巌鬼の言うとおりだった。その針で身体の動きを封じられた。マスクをはがされ。最後の瞬間も脳裏に焼きついている。振り返り見上げた巌鬼の手が下りてきた。そして、針が額に刺さる直前まで、恐怖に目を見開きながら針が近づいてくるのを見届けた。それを最
後にさっきまで意識を失っていた。その瞬間のことを思い出すと、リンは恐怖に駆られその身を少し縮こまらせた。
「ふっ…少しはこいつの怖さを思い出したか?怖いか?えっ…怖いか…?」
勝ち誇ったように薄ら笑いを浮かべながら、巌鬼はリンの顔を右から左からと覗きこむ。
「そっ、そんなもの怖くなっ……ッ!!あぁぁッッッッ…ァァアァァッッゥ…」
リンが言い返そうとしたその言葉が終わるのを待たずに巌鬼が手にした針がリンの首筋を襲った。巌鬼の指先から伸びる針は、リンの背筋に沿って立てにグングンと埋まっていき、
「…ぁぁ……っぁアッァアアッツゥ………」
その深度が増すと同時にリンの愛らしい口からは嗚咽が漏れ出しす。痛みはまったくと言っていいほど無かった。ただ、リンの触覚を刺激しているのは、体内に異物が挿入されていく異質な不快感に似た類のものと、時折感じるごくごく微かな痛みだった。
5センチほど針の先をリンの首筋から背中にかけて打ち込むと、巌鬼は針から手を離し、リンの首筋から生えている針の先をピンと弾いた。
-ピクンッ!!-小さくリンの背中が弓なりになり、背筋が伸びる。
「いったい…何をしたっていうの…??」
リンはほんの少し顔を動かして、巌鬼を見て問いかける。
「今はな…お前の痛覚を増幅させるツボに針を打ち込んだのさ…」
「それはどういう…?」
リンの問いかけを遮って巌鬼は、
「こういうことさ!!」
と、いきなり大声を出すと、針の尻の部分。つまり尖ってはいない方をリンの右の肩口にあてがった。その時、
「キャァァッッッーーーーーーーーッッ!!」
全身に電気が走ったような痛みをリンは感じて思わず絶叫した。
「くくくっ…わかったかぃ?針の後ろでもこれだけの痛みを感じる…つまり、お前は今些細な刺激でさえ激痛に感じるようになってるってことだ…」
そういうと巌鬼は今度はリンの脇の下から手を伸ばし、膨らんだ胸の頂に指先を当て、一気にリンの両方の乳首をつねり上げた。
「ひぃぃーゃあああぁぁっっーーーーーーー!!!」
再び響く悲鳴。今度は胸の先が火傷しそうなほど熱く感じられ、そこからまた全身へと電撃が駆け巡った。
「はぁっ…はぁぁ……」
針を打ち込まれてからたった2度の攻撃で、既にリンは汗だくになり肩で息を始めていた。
しかし、惨劇はこれでは終わらない。巌鬼がコットポトロにあご先で合図を送ると、コットポトロは何かを巌鬼に手渡した。巌鬼は振り返り、リンの眼前に手にしたものをかざす。
「ひっ!!」
巌鬼の手に握られたものは、極太の男根を模した張り型だった。巌鬼は傍らにいたコットポトロに再び指図を送る。すると、今度はコットポトロが背後からリンの爪先立ちになった左足の太ももに手を回し、股を開くにように持ち上げはじめる。清純なリンではあるが、張り型を見せられ、股を開かされると何が自分の身に襲い掛かるかは用意に想像ができた。
「やっ…ヤメろっ!!」
声を上げ、内股に力を込めようとするが、痛覚が増幅しているせいでコットポトロが内股を抱える指先の刺激すら痛みを感じ、広げられた股を閉じることも出来なかった。身を捩る内に、今度は巌鬼がリンの股の前でしゃがみこみホワイトのスカートに隠れているピンクにスーツの股間を見上げる。その間もリンは恐怖に打ち勝とうと必死に身を捩じらせている。そこにすっと巌鬼の右手がスカートの中に伸びる。巌鬼がその指先に妖力を込めて、スカート内部の股間のスーツ部分をその指で挟みこむと-ジュゥゥ~-と言う音が聞こえ、スーツが瞬く間に溶解して、リンのその茂みが鮮やかなピンクの内側から顔を出した。
「ひぃっ…見ないでっ!!」
リンは羞恥心に駆られ、思わず巌鬼に願いを口走る。が、巌鬼はその表情を見てにやりと笑うとリンの秘部に向けて張り型を構えてロックオンをした。
「お前、処女だろう…?」
薄ら笑いを絶やさずに巌鬼は張り型を構えたまま、頬を赤らめるリンを見上げる。
「そっ、そんなことどうでもいいでしょ!?」
リンは恥ずかしさに、さっきまでの強気な目線を失い。顔を巌鬼からそむけながらそう答えた。
「そうだな…。答えずとも、これを突っ込めばすぐにわかることだ…」
巌鬼はそう言うと、手にした張り型をリンの茂みに近づける。
「やっっ…やだっ、そんなぁ…ッアァアアアァァーーッッッーーーーァァゥゥゥーーーーー!!」
リンの視界からスカートの影に隠れて張り型が見えなくなったその瞬間には、リンの静止の懇願など全く無視して、張り型がリンの恥丘の奥深くまで一気に挿入され、リンは声が枯れそうな程の悲鳴を上げた。巌鬼の予想した通り、リンの中で決壊した処女膜からは鮮血があふれ出し、ピンク色のスーツの色を少しずつ濃くしていく。そして、前戯さえなく濡れてもいなかったその穴に無理やり異物を挿入された痛みは、痛覚が増幅されているリンにとっては並大抵の痛みではなく、今までのゴーマとの戦い負ってきた傷の痛みよりも遥かに大きな痛みの波だった。
「ァァーーアァッーーーゥゥッアアァーーーゥォ!!アガァーーーーーッッゥーーッ!!」
リンは身体を弓なりに仰け反らせ口を大きく開くと、目を白黒させながら悲鳴にならない悲鳴を上げ続けた。その口元からは涎が絶え間なくあふれ出て、愛らしかった口元を汚し。パッチリとした目も、これ異常ないほどに見開かれかわいらしさの欠片も感じれないほどになっていた。それでも、痛みの裏側では微かに押し寄せてくる快楽の波が挿入された張り型を動かされるたびにリンの心を刺激し続け、リンの内部は女性の本能に従いながらその蜜を滴らせている。激痛の波の隙間を掻い潜るように押し寄せる快楽をリン自身も感じ取り、二つの波の波動でもみくちゃになったリンの精神は一旦、崩壊への道へ加速していった。
「アァァァァァァアーーーーーァーァァァッッッーーーーーーー!!!!」
リンの身体は最後に一度さらに大きく弓反りになり、白目を剥いたまま天井を仰ぐと、その反動のままに意識を失ったリンは大きく前にうな垂れ失神した。コットポトロが抱えていた足を下ろし、巌鬼がウインチから下がっている鎖を妖力で断ち切ると、リンの身体は大きく前のめりにその場に倒れこんだ。
-ピクンッ!ピクッピクッ!!-
時折、リンの身体は痙攣を繰り返す。その様は、まるで浜辺に打ち上げられた魚のようだった。


次に目を覚ましたときに、リンが真っ先に気づいたのはわが身の異常だった。周りを見渡そうとする。仰向きに横たわった身体を起こそうとする。が。眼球が上下左右に動き、その視野内にあるものを確認できるだけで、身体を全く動かすことが出来ない。そして、全身のあちこちから感じる違和感。それは、さっき首筋に感じたものと同じで…。
「針が全身に…打ち込まれてる……」
リンの予感は当たっていた。彼女の関節や筋肉節からは鈍く光る針が不気味に姿を現していた。足首、膝、肘、肩、手首から首筋、果てはこめかみに至るまでだ。
「さぁ、立て…リン。そしてこちらに来い!」
少し離れたところから、巌鬼の声が聞こえた。その声に呼応するようにリンは立ち上がり、玉座のような大きな椅子に腰掛けている巌鬼の元へ歩を進める。
「えっ…なっ…身体が…勝手に……?」
自らの意思とは無関係に動き出す自分の肉体に、リンは戸惑いと違和感を同時に感じた。その目が狼狽を隠せないのを巌鬼は見抜いて、リンに話しかけた。
「俺の針を使った術は、何もツボを刺激し動きを止めたり、神経を過敏にさせるだけではない…。俺の術の一番の妙技は、いくつもの神経を針で支配することで相手を操ることにあるのさ…」
「なんですって!?…こっ…こんな術……くっ…!」
薄っすらと気づいてはいたが、リンはそれに抗おうと全身に力を込めようとした。しかし、本来は自分の意思で動く肉体は、脳と身体の各部位との連携が断ち切られたかのように反応しようとはしない。それどころか、自分の意思では力を込めているはずなのに、全身にはまるで力が入っておらず、身体だけが浮遊しているかのように感じられる。
「だが、現実にお前は俺の前に来れば両膝を着く…」
巌鬼は口元を緩めて、リンに伝える。
「そっ…ん……なっ……」
リンはまだ抵抗を試みようとするがその歩みは一歩一歩と確実に巌鬼も元へと向かい、ついに巌鬼の前にたどり着くと、巌鬼の言葉通りリンは巌鬼の前で両膝を着き、膝立ちの状態になった。
「これで分かったかな…?言わばお前は見えない糸で操られる、俺の操り人形になったというわけだ……」
その言葉を聞き、リンの額からは一筋の冷たい汗が流れ出る。リンにはこれから巌鬼が、自分をどうするつもりなのかが全く分からなかった。
「さぁ…長年女も抱いていないからな……俺のモノが元気かどうか、お前の口で確かめさせてもらうとしよう……。さぁリン、俺のモノに手を伸ばし、それを扱き…口に含んで俺を喜ばせてくれ…!」
巌鬼の顔が淫猥にほころぶ。
「バカなこと言わないで!そんなこと…する訳………」
リンの言葉は巌鬼の命令をピシャリと否定する。だが、身体の指揮権は既にリンの感情とは裏腹に巌鬼の元にあり、リンの右手は何のためらいも無く巌鬼の股間に伸びていく。
「あっ…いや……」
小さくリンは呟くが、もうピンク色のグローブは巌鬼のイチモツを握り締めそれを擦り始めていた。手の中のイチモツはその中で徐々に大きさを増し、熱を帯びていく。
「さぁ…もっと近くに来い!俺の股の間に顔をうずめれるくらいにな!!そして、俺のモノを早く口に含め、喜ばせるんだ!!」
勝ち誇った様な口調で巌鬼がリンに命ずると、リンは膝立ちのままズリズリと巌鬼の股間に近づいていく。そして、左手が巌鬼の右の内股に添えられると、右手が巌鬼のいきり立ったイチモツの付け根を握り締めた。
「いやっ、そんなの絶対いやっっ…!!」
リンは叫ぶが、否定の意思を示すために首を横に振ることさえ出来ない。それどころか、リンの身体が大きく前方に傾けられると、口が大きく開かれ…
-カポッ…ぴちゅぴちゅ……ちゅぺ…ちゅぱっ……くちゅぱっ………-
リンは大きく肥大化した巌鬼の男根を咥え、そのまま何度もピストン運動を繰り返し、時にはそれを丁寧に舐め上げた。
「うぅぅ…うぁ…………うぅぁん…」
口腔を支配する巌鬼の男根の隙間から、リンが時々嗚咽をもらす。それを聞きさらに興奮を覚えた巌鬼の男根の脈拍はさらに加速する。
「ぅぅん…うぇぅ……ぅぅ」
もはやリンには抗うすべはなく、目尻からは一筋の涙が伝う。そしてその口元からは一筋では済まない涎があふれ出ていた。
「おぉ…いいぞっ……なかなかやるではないかっ!!…ぅおっ……さぁ、お前の口に一気に出してやるからぁ…全て飲み干すんだぞっ!!」
確実に感じている声を必死に抑えつつ巌鬼はそうリンに言うと、リンの後頭部を両手で掴み、自分の元へ引き付け一気にリンの喉奥まで、彼の男根を差し込んだ。
「おぇっ…ぅぅぅんぅ……」
むせ返りそうになりながらも、リンはそれをくわえ込む。
「おおぉぉぉぉっっっ!!」
そして巌鬼が奇声に近い声を上げると同時に、
-ドバッ…ドバドピュ……-
リンの口内一杯に白濁し熱を帯びた精液が放射された。
「ぉぉおぅ…なかなか良かったぞ、リン…」
巌鬼はそういうと、リンの口からイチモツを抜き去る。そしてリンはと言えば、もはやその愛らしい目一杯に涙を流し浮かべ、それが目頭と目尻からこあふれ出している。と言うのに、
半開きの口元からこぼれ出た巌鬼の精液をピンクのグローブを白く汚しながら口の中へ戻し、丁寧に口元をふき取ると、口を閉じてその白濁液の味を味わうかのようにゆっくりとそれを飲み込んでいった。
「さぁ、今度は下の口で俺を満足させてもらおうか…。俺の股の上に乗り、お前のアソコに俺のモノを差し込むのだ…」
巌鬼は下世話な笑みのままリンを見つめて命令を下す。
「…ぃや…いやぁよ……」
そう口に出してもリンは立ち上がり、さっき溶かされたスーツの穴から、早くも復活している巌鬼のイチモツを侵入させると彼女自身の中へとそれを差し込んでいく。
「……いやっ…っ…ぃたぃっ…っ!」
先ほどの強制貫通の痛みも相まって、最深部まで巌鬼のモノが突き刺さると、リンは苦しげな声をあげた。
「さぁいくぞっ!」
「あっ…ダメぇ…いゃーーーーーっっ!!!」
巌鬼が腰を動かし始めるとリンの中で一本の杭が暴れだし、それはこのまま頭を突き破るのではないかと言うほどの痛みをリンに与えた。だが、
-ブスッ!-
巌鬼は動きに合わせながら、リンの腰に見事に針を打ち込んだ。
「っぁ!…ぅ…こ…今度は何を??」
痛みをこらえながら、リンは言葉をもらした。
「なぁにすぐにわかるさ」
その言葉が終わるか終わらないかの内に変化は訪れた。
「ぁ…ん……ぁあっんん……」
いままでの痛みが潮が引いたかのように消え去り、次に満ちてきたのは快楽の大波だった。
「快感を増幅させる神経に針を打ち込んだ…」
「あっぁああぁん…ダメっん……いいいぃ~~~っ…ぁぁあぁん!!」

しかし、その言葉さえリンの耳には届かない。リンの精神と頭脳は、その急激な変化すら最早分析できる状態になくなっていた。
「っあぁん…ぃいっぃぃぃ…っんぅん……だぁめぇぇ…」
巌鬼の腰の動きが早くなる。それに呼応するように、リンは快楽とその絶頂をもとめて腰を上下に動かし始めていた。そして、
「あああぁぁぁーーーんん…ダメェーーーー!!イっちゃうぅぅぅーーーーーっ!!!!!」
求め、訪れた絶頂にリンは大きく艶かしい声を上げると、腰を大きく弓なりに一旦反らした後、巌鬼にもたれかかるようにして果てていった。
「ふんっ!俺より先にイキおって…」
巌鬼はリンを抱え上げると彼女の身体を地面に下ろし、冷たい目でリンを見下した。
ピクピクとリンは腰を痙攣させながら巌鬼を見上げて、イキ、果ててしまった自分への悔しさを込めながら唇をかみ締めた。
「…そんな目で俺を見ても無駄だぞ…。お前がいくら正義の戦士だろうと、所詮は快楽に身を委ねるメスぶただとたった今わかったんだからな…」
巌鬼はリンを<メスぶた>とまで揶揄するほどにリンを見下していた。
「…ぁ…ぁぁ…何をっ…!!それはあなたが私を操ってたから……じゃない!!?」
リンが精一杯の力を込めて巌鬼を睨む。
「何をいうか…俺はおまえに『腰を自ら動かせ』とは一言も命じてないぞ…ん……?
お前の腰に針を打った直後には俺はお前にかけた術を解いたんだ…。なのに、リン!!お前は自ら腰を振り、快楽を求め貪っていたではないか!!」
そう言うと、巌鬼はつま先でリンの肩を小ばかにでもするかのように軽くつついた。
「そっ…そんなウソ信じるわけないでしょ!!」
リンはそう言うと同時に、仰向けになっていた身体をガバッっと上半身から起こした。瞬間に気がついた。
「あっ…!!…身体が…う…ごい……てる」
身体のあちこちにはまだ針は刺さったままだ。それなのに、さっきまではどれだけ脳が命令を下しても言うことを利かなかった身体が動いてくれている。
「…そんな……」
「わかったか?…無様なものだな…正義をかざした女戦士が……快楽におぼれて腰を振っていたなどとは。嘉挧が見ればどう思うことか…。はぁーーーっはっはっ!!」
「やめてーっ!!」
巌鬼の台詞に、リンは両手で耳を塞いで叫び声を上げた。そして、顔・首筋・胸・腹・そして股間とゆっくりと自分の手を沿わして、小刻みに身体を震わせる。
「…いやっ……そんなこと…」
目からは再び涙がこぼれだす。
巌鬼は身をかがめリンにそう囁くと、その首に手をかけて、まだ力の入りきらないリンを無理やり立たせると鳩尾に拳で一撃を加えた。
「ぐっ!!」
涙を散らしながら一瞬目を見開くと、リンの意識はそのまま闇の中へ消えていった。


目を覚ます。手首の違和感。上を見上げる。天井から垂れ下がった鎖。その下に繋がれた拘束具とそこに固定された手首。周りを見渡す。部屋の四方にはその部屋一面を明るく赤く染めるかがり火が見える。
「…こ…こは…?最初に閉じ込められた部屋…」
そう思うと同時に声がした。
「おはよう、リン…」
かがり火の後ろから巌鬼がすっと姿を現した。
-ビクッ!!-
思わずリンは身震いをした。同時に甦った記憶は先ほどの、おぞましく情けない自らの姿だった。もう、リンは巌鬼に勝てるとは思えなくなっていた。いままでどれだけ気持ちの上では抵抗を試みても、全て巌鬼の妖力とその術の前になす術を無くしていた。そして、この身体すらも奪われて…。
しかし、どんなに情けない自分を思い出したところで戦士の血は敗北を認めることを許さなかった。
「今度はなにをするつもり!?」
「ふん!?まだそんな口がきけて、そんな目が出来るのか?」
虚勢だった。それを見透かしたかのように巌鬼はとぼけたような口調でリンに話しかけた。
「何をするかだって?今から最高の恐怖をお前に与えてやろう…」
巌鬼は落ち着き払った口調でリンに答える。すると、それと同時に壁に掛かっていた槍が空中を浮遊し始め、10本ほどの槍が一斉にその刃先をリンに向かって向けた。
「何をしたって無駄よ!!」
リンは自分の弱気を吹き飛ばすかのように声を張り上げる。が、
「さぁ…そいつはどうかな?」
巌鬼は先程と変わらぬ冷静な口調で語り、人差し指を立ててリンを指差した。それと同時に一本の槍がリンに向かって勢い良く突っ込んでくる。
「くっ!!」
吊るされて爪先立ちのリンは、それを何とか身体を動かしてよけて見せた。
「ふっ!まだ安心するのは早いぞ…ここからがゲームの始まりだ…」
巌鬼がそう言うと、また別の槍がリンに向かって来た。それを寸でのところでリンはかわす。だがやはり、爪先立ちの状態では動きが思うように取れず、それを気にしてリンは思わず足元に目線を落としてしまった。その時だ。
「…ッアァァーーー!!」
-ドスッ-という鈍い音とにハーモニーをかぶせる様にリンの甲高い悲鳴が部屋に響き渡った。リンの背中に一本の槍がぐっさりと突き刺さっている。
「…くっ……ぅぅ…っ」
絶叫の後に苦悶の声をリンがのどの奥から漏らすのを巌鬼は聞きもらさなかった。
「ほらっ…そんなに痛みを気にしていては、次の槍が避けられないぞ?」
ハッと気がつくと、リンの右前方にあった槍が飛んでくるのが見えて、リンはそれを避けようと身体を捩った。
「アアアァアァァーーーっ!!」
直撃は免れたが、今度はリンの右わき腹を切り裂きながら槍は通り過ぎ、切り裂かれた部分からはスーツが裂けてリンの素肌がその隙間から顔を出し、そこからの出血がスーツの白い部分を赤く染め始めていた。
「…はぁ……はぁ」
額から汗が噴出し、目に入ってくる。が、それに視界を遮られては次の一撃が避けられない。リンは四方八方へと意識を分散させながら、それでいて集中を切らさぬよう自分に言い聞かせつづけた。
「ほぅ…たいしたものだな…。だが、これはどうかなっ??」
巌鬼はそう言うと、その指を-パチン!-と鳴らした。その音が部屋に響くと同時に、部屋の四方に焚かれていたかがり火がその光を消し、部屋の重い扉の覗き窓も閉ざされ、部屋は完全な暗闇へと姿を変えた。
「なっ…なにっ!!?」
リンは慌てて部屋中を見渡すが、最早漆黒に包まれた部屋の中では何かを確認することすら出来ない。
「心配するな…こちらからはお前の姿は見えているからな!そらっ!!」
リンの表情を見過ごしてか、巌鬼がそう答えたと同時に、
「アアッッーッ!!」
リンの左太腿に槍が突き刺さり、甲高い悲鳴が部屋に響いた。そして左太腿の槍が引き抜かれると、さらにわずかな間をおいて、
「ッッアァァーッッ!!」
という声と共に、槍は今度はリンの右わき腹に突き刺さった。
「っっうぅ…はぁ……ぁ……うぅ…」
少し荒くなったリンの吐息が部屋中にこだまする。
「ふふ…何も見えまい??これから5秒ごとにお前の身体を槍が襲うぞぉ…」
そう巌鬼が話す間にも、
「ァァアアアアァァーーッ!!」
リンの悲鳴が部屋に響いた。
-5・4・3・2・1-「ゥアァアアァァーーッ!」

-5・4・3・2・1-「キャァーーッッ!!」

-…3・2・1-「ヒィァアアァアァァアァーーーーッ!!」
槍は性格に5秒刻みに、次々とリンの身体を貫いていく。太腿、脹脛、腹、胸、脇、尻…。どれだけ目を凝らしても何も見えず、その暗闇からの一撃になす術も無く流れてるだけの5秒間。まるで視力を奪い去られたかのような恐怖感の中で、迫りくる5秒がリンにはとてつもなく長い時間に思えた。
-………1!!-「来るっ!」「ゥァアァーーーーァアァッッ!!」
次の一撃が「来る」とカウントしてみたところで、どこから襲ってくるかも分からない一撃への恐怖は、徐々にリンの神経を崩壊させはじめた。
「キャァーーーッッァァアァァーーッ!!」「アァッッーーゥァァッーーーーッ!!…お…ね……が…」「ァァーーアアアァァッッーーー!!…お…ねが……い、もう…」「やめてぇーーーーッッッァァッッーーーーーーッ!!」「ダメッ…もう……やめて…っ!!」
リンの精神は5秒後に迫る恐怖に耐え切れず、リンはとうとう巌鬼に懇願を始めた。
「…ふぅ…ん」
その声が聞こえると、一旦定期的にくわえられていたリンへの攻撃が止んだ。
「今、なんと言った…??」
巌鬼が静かに問いかける。
「もう…おね……が…い。お願…い、あなたの手下でもゴーマの戦士にでもなる…から…もう…やめて……お願いっ!!だから……だか…ら…たす…けてぇ………」
リンは枯れるほどの涙を流しながら巌鬼に命乞いをする。
「そうか…それならば……」
リンはその巌鬼の低い声を聞き、少しだけ安堵感を覚えた。が、
「……死ねっ!!」
「…ぇっ?…………ガハァッ…ッ!!!!!」
今度は悲鳴さえ上がらなかった。苦悶の声が聞こえると、リンの口からは言葉が聞かれなくなる。そして-パチン!!-巌鬼が再び指を鳴らすと、消えていたかがり火が再びメラメラと燃え盛り始め、部屋中を照らす。その中央には、八方から槍に全身を突き刺された無惨なリンの姿があった。

-ドサッ!!-
全身を襲っていた槍が引き抜かれ、拘束を解かれたリンは一気に床に崩れ落ちた。トクトクと傷跡から血が溢れ、倒れた時に身体を打ちつけたショックで思わずリンは意識を取り戻した。
「…ぁあ……ぁっ…あぅ…ぁぁ………」
微かに言葉にならない声を発するリンの巌鬼は近づく。
「ん……何が言いたい??」
「…ぁぁんっ…お……ねが…い…助け…て…?」
最早、力の入らなくなった身体でリンは巌鬼に向かって左手を懸命に伸ばした。
「…ふぅむ……そうか…」
そう言うと、巌鬼はリンの身体に再び針を刺し始めた。
「…なっ……な…に……を…?」
巌鬼の行動に、リンは再び曇った声を絞り出す。
「お前を俺の人形にしてやろうと思ってな…。生きたいんだろう…??」
その問いにリンは無言で頷く。
「ならば…さぁ…起き上がり、膝立ちになれぃ…」
巌鬼の声が心なしかさっきまでより優しくリンには感じられた。その命令と共に、リンは自らの意識とは無関係に身体を起こし、巌鬼の前で膝立ちになった。
「ではリンよ…お前は俺に忠誠を誓うのだな…?」
「……はい…」
リンは力なくその問いに答える。
「ならば……忠誠を誓う証を見せてもらおう…手を差し出せ…」
そういいながら、巌鬼は壁にかけられた短剣を手にすると今度は
「これを握るのだ…」
と告げた。それに応じて、リンの身体は反応し巌鬼の差し出すまま、リンは逆手になるように受け取った短剣を両手で握り締めた。
「…そうだ……それでいい…」
巌鬼が含み笑いでそう話す。
「…いいかリン、よく聞け…………。俺の手下には弱者は不要だ!!お前などは必要ない!!」
さっきまでの落着いた口調が一転して昂揚した口調に変わり、それを聞いたリンは大きく目を開く。
「だから貴様はっ!!その剣で自分の心臓を貫き死ぬがいいっっーーー!!」
「なっ…!!」
巌鬼の高笑いを聞き、驚く間さえリンには無かった。握り締めた短剣の刃が自分の方へ向く。
その刃先が胸に当たるまでにそれほどの時間はかからなかった。
「いっ…いやッ…っ!!…そんな……ヤメテっ…!!!!」
そして…

-ドスッ!!!!-

刃先が胸の膨らみに少し沈んだかと思うと同時に両腕がリンの意思とは関係なく一気に力を込め、握り締められた短剣が瞬時にリンの心臓を貫き、リンは足を折ったままで後方へと倒れ、大きく目を見開き口から鮮血を吐き出しながら果てていった。

「…弱い…そして…命乞いなどとは情けない奴だ…」
巌鬼はそう呟くと、倒れたリンの肩口に方膝を付き座り込み、リンの上体を少し起こして抱え上げた。
「貴様のような情けない女戦士にはこんな最後が似合うだろうて…」
独り言を繰り返すと、巌鬼は左腕をリンの首に回し固定し、右手でリンの小さな頭を大きな手でわしづかみにした。
「クワァァーーーーッ!」
気合の声と共にリンの首から-メキメキ- -ブチッ- -ブチッ-と鈍く気味の悪い音が聞こえ始める。そして、
-ブチビチッッ!!-
と音が鳴る。
「…さぁ、これでも嘉挧に送り届けるか…」
巌鬼はそう言いながら、手に掴んでいたものをポイと放り投げる。
-ドシャッ-
床に放り投げられ転がったのは、無惨に身体から引きちぎられた目を見開いたままのリンの
生首だった…。

<Fin>