[鳳凰、闇に消ゆ]
ザイドスは一人ほくそ笑んでいた。まさに立ちはだかると言うべきその姿の前に、人影がひとつ倒れていた。
「ザイドス超妖術」
右手に握った泥細工を高々と掲げた。それは怪しい赤紫の光をまとう。そのまま、はだけた腰布のスリットから人影の股間に押し当てた。四肢にフィットする桃色のスーツの中に、泥細工は抵抗もなく吸い込まれていった。砂漠に撒いた水が乾くようだった。
「これでホウオウレンジャーもお仕舞いだな」
この術が効いて定着すれば、ホウオウレンジャーも晴れてゴーマの一員だ。ポテンシャルの高いホウオウを潰しておけば、あとの4人はどうにでもなる。シャダムとガラを出し抜くのも時間の問題だ。地団駄を踏んで悔しがるだろうシャダムの顔が目に浮かぶ。
……!?
ゴーマ三幹部は、離れていても互いの妖力を感じ合う。それはガラの気だった。陰と陽が混ざり合った独特の妖気だ。
ガラ……。ホウオウレンジャーを始末するにはガラを利用するのが得策かもしれない。相討ちにでもなれば、ホウオウレンジャーの首を以て自動的にオレがトップになれる。そこまで頭をめぐらせると、ザイドスはホウオウレンジャーに被せたゴーマの催眠マスクを叩き割り、その身を翻して闇に消えた。
「ザイドスめ……、いったい何を企んでいるのだ」
ガラの声には少し焦りが滲んでいた。ザイドスに、ではなかった。焦りと言うよりは苛立ちというのが正しいかもしれない。あの忌まわしきクジャクと似た空気を醸し出す女がうろつくようになってから、その苛立ちはやむことがなかった。ホウオウレンジャーを名乗る女、リン。
ザイドスの気がふと消える。チッ。舌打ちしつつも、ガラはなお、その地点へと歩を進めた。ザイドスの企みを明らかにしておかねばゴーマ全体に被害が及びかねん。ゴーマにあってもなお秩序を重んじようとするのは、その抜け切れぬ出自のせいとも知れなかった。
ガラも自身の気を弱めた。ザイドスにはできぬが、ガラとシャダムには自分の気をコントロールすることができる。即座に戦闘態勢はとれなくなるが、仮にザイドスに見つかったところで、背中から斬るような真似はするまい。
廃工場が現れた。ザイドスのものではない妙な気が漂っている。どこかで感じたようなこの気は……。
「ガラ!」
振り向くと、あの忌まわしき女の姿がそこにあった。ホウオウレンジャー・リン。両手を大きく広げた後光が、鳳凰をかたどってリンを包む。
ガラはその姿にすべてを理解した。リンの下腹部の黒い陰がザイドスの仕業であることも、その術の正体も、その効果が発揮されるまでの時間さえも。
「ホウオウレンジャーよ、待て」
両の手のひらをかざして仁王立ちになる。拳はおろさなかったが、リンは一瞬呆気にとられて立ちすくんだ。
「今ここで我々が争ったとて意味はあるまい」
「ガラ……」
ガラのことはクジャクから聞いた。元は汚れなき気力の民であったと。世が世なら、ゴーマに対峙する気力の戦士となるべき資質の持ち主であったと。であればこそ、今、ゴーマに堕してなお幹部の位にあるのだ。油断は出来ない。
だが、リンは微かな望みを抱いてもいた。クジャクとともに、天上界にあるガラの姿を。
「ホウオウレンジャーよ、気づかぬか」
「……何?」
窮屈な腰回りに片手をやると、その異変は明らかだった。スーツのスカートを押し上げる膨らみがあった。スリットが広がり、パツンパツンに張ったスーツはスカートの上からでもその形がわかった。
「何よ、これぇぇぇぇ!」
がに股になり、テントに覆い被せるように右手を押し当てた。ちょうど指に小さな玉がふたつあるのが判った。手のひらには太い棒状のものが当たっている。
今度はその棒を握るようにしてみる。……イタッ。力を入れすぎたのか、股間から腰のあたりまで稲妻が走る。もう一度ゆっくりその形を確認する。硬い棒の先に、なんだか膨らんでとがった部分がついていた。膨らみに指が引っかかった瞬間、スーツとの摩擦で再び強い痛みが走った。だがそれは痛みだけではなかった。もう一度味わいたくなるような、不気味な痛みだった。
「はしたないぞ、ホウオウレンジャー」
「……何よ」
「人前で性器をまさぐるような、破廉恥な女だったとはな!」
えっ……。男性器におチ○チンとタマがあることくらいは知っていたが、その感触など、リンには知る由もなかった。ましてや、自分の股間にそれがついているなどとは思いもよらなかった。ただ自分に起きた異変が知りたかっただけなのだ。しかし自分の行為の意味を知っては、リンは自分の顔が赤らむのを止められなかった。
「ガラ!あなたの仕業なの!」
「誓って言うがわたしではない」
「それなら誰がやったと?」
「そんな卑怯な真似はわたしはしない」
もう一度、わたしではない、とガラは繰り返した。おそらく本当に知らないのかも知れない。リンは質問をやめた。
「元に戻しなさい!」
「術はかけた者に解かせよ。あるいは……」
「あるいは、何よ!」
「道士・嘉挧になら解けるかも知れぬな」
道士……。リンはそっと嘉挧の顔を思い浮かべた。精悍で凛々しい、髭を蓄えた顔が微笑む。その嘉挧にこんな姿をさらすなんて、できない。
「あなたが解きなさいよ」
「道士には見せられぬと申すか」
当たり前よ!とリンは再びポーズを取った。さっきよりも一層強く張った感じがある。その張りはリンの股間の異物をも刺激し、その都度ズキ、ズキと感触が広がった。
少しずつ快感を覚え始めているようだな、とガラは思った。術が回り始めているのに大した抵抗もしない。ガラはそんなリンの姿に呆気なさすら感じていた。
「弱点を晒して戦うのか? その姿でわたしに勝てるとでも?」
「そうよ!」
「わたしも舐められたものだな」
急速に間合いを詰めるガラに、防御の態勢をとろうとした。それなのに、張ったスーツの刺激は股間を直撃する。
さらにガラの低い姿勢からのパンチが下腹部に炸裂する。今までに感じたことのない痛みが股間を襲う。男の人のアソコって、こんなに痛いんだ……。以前将児に「だらしないわね」と何気なく言ってしまったのを思い出した。悪いこと言っちゃったな、と後ろめたさを感じながら、リンは気を失った。
「起きよ、ホウオウレンジャー」
ガラの声にリンは目を覚ました。四肢を鎖で拘束され、大の字に寝かされている。スーツを着ているはずなのに、腰のあたりが冷ややかだ。
「ほどきなさいよ!」
「負けたというのに口の減らぬ娘だ」
ガラは右足を上げ、リンの股間にめがけて振り下ろした。
……キャアァ!
股間の突起に激痛が走る。ガラの足が腰に纏う布切れをはだけた。リンの股間から、赤黒い男性器が天を突かんばかりの勢いで伸びていた。
「これはまったく、拘束されて期待しているというのか。呆れた娘だ」
「ゴーマの妖術のせいよ!あたしじゃない!」
「あたしじゃない、だと? これはお前だ、ホウオウレンジャー」
ガラの足が横に滑り、今度は先端の亀頭を弾くようにヒットした。ブランブランと大きく揺れて、太腿とペチペチとぶつかりながら、それはまた元の位置に戻る。いじり回されるたび、それは心なしか大きくなっているようにも思われる。
「ホウオウレンジャー、賭けをせぬか?」
「賭けですって?」
「左様。お前が勝てば、わたしがその術を解いてやろう」
「あたしが……負けたら……?」
「その術が完全にお前を支配する」
「支配する?」
「そうだ。お前はその姿のまま、ゴーマにその身をやつすのだ」
「そんな……」
拘束されたこの状態では、みんなに助けを求めることもできない。恥を忍んで道士に術を解いて貰うことも、もうできない。
「早く決断せぬと、術が定着してはもう誰にも解けなくなるぞ」
「賭けって、何よ?」
飲むしかなかった。内容次第では勝ち目だってあるはずだ。
「わたしの妖力と、おまえの気力のどちらが勝つか、勝負するのだ」
「あたしの気力と、あなたの妖力……」
「左様。わたしがまだ若かりし、ゴーマの真実の術に目覚める以前には、わたしもお前たちと同じく気力の可能性を信じていた」
その顛末は、大伍を通してクジャクから聞いたことがある。ガラがクジャクをかばってできた傷が、ゴーマに堕ちる引き金を引いてしまったと。
「お前はまだ気力を信じている。そこでわたしの妖力とお前の気力を交換し、わたしを再び気力の道に戻すことができたなら、わたしがその術を解いてやろう」
「できなければ、わたしの気力は負け、わたしはゴーマに……」
「左様。いい賭けであろう?」
いかにガラが強いといっても、わたしの気力が負ける訳はない。リンはそう確信していた。ガラが踏み外した道を戻せば、ゴーマを制することも大打撃だ。
「いいわね。あなたを真っ当な道に戻してあげる」
自分が負けるとは露ほども考えぬのだな、とガラは思った。うら若き戦士が考えそうなことだ。
「で、気力と妖力を、どう交換するの?」
「お前がわたしとまぐわうのだ」
「まぐわう?」
「わたしと性交するのだ」
セイコウ……。それがセックスのことと判るまでにはしばらく時間がかかった。
「そ、そんな……」
「他の方法でも良いが、お前にかかった術を思えば、これが一番良い」
「そう……なの……?」
ガラは頷いた。愚かな娘よ、と笑みを浮かべた。
ガラは横たわったホウオウレンジャーに跨がり、いっそう固く屹立する性器の先端を自らの身体に押し込んでいく。セックスの経験すらないリンには、その刺激がどんなものなのかは比べるべくもない。ただただその刺激を正面から受け止めるしかなかった。
先端の膨らんだ部分がすべて包み込まれると、その肉と肉がこすれる柔らかなねとつきに、リンは快楽を感じ始めていた。今までなぜ男の子がエッチなのか判らなかったが、その理由がやっと判った気がした。
「ホウオウレンジャー、もう感じているのか?」
あ、え、ああ……。見上げたガラの顔は、まったく不安を感じさせない自信に満ちた表情を称えている。
「これしきで感じてたら、勝てるはずはないな」
ガラは下腹部にぎゅっと力を加えた。リンの男根を包む部分が温かく表面に絡みつき、そして……。
……あっ。
何かがこみ上げてきて、我慢しきれずリンは先端から汁を吹き出した。
「これがお前の気か? これではホウオウレンジャーもそこらの淫乱女と変わらん。勝負にならぬな」
「まだよ。今のは、あたしの気じゃない……」
「なるほど。では、これならどうかな」
ガラはリンの性器の根本をつまむと、力一杯に押しつぶそうとした。
「痛い!」
そうか、痛いか。そのまま、ガラはつまんだ指を上下にスライドさせる。痛いのに、痛くてたまらないのに、どこか気持ちいい自分がいる。
「さて、そろそろ勝負といくか。妖・気・転・流!」
「えっ、あっ、ああ……」
ガラが叫ぶと、どっと熱い粘液が性器を包み、じわっとしみこんでくるのが判った。熱が性器から逆流して、リンの身体に流れ込んでくる。
「熱いっ!」
「その熱は、お前の気力とわたしの妖力がぶつかって生まれるものだ。お前がゴーマに堕ちれば、自然と快感に変わる」
「そん……な……こと……ゆる……さ……ない……」
「どうとでも言え。それより、早くお前の気力とやらを撃ち込んでみるがいい」
リンは我に返った。大切なことを忘れていた。
「どうすればいいの?」
ぶははははは。女とも思えぬガラの高笑いが響く。
「そんなことも知らずに挑むとは愚かな者よ、ホウオウレンジャー。後生だから教えてやる。射精すればいいのだ」
「シャセイ……?」
「性器の先から、わたしの中に子種汁を出せばいいのだ」
……はあぁっ。リンは長い息を漏らした。それはため息ともためらいとも絶望ともつかない、ただ長い息だった。
「このままわたしのペースで続いては、お前に勝ち目はないぞ」
「そんな……。この鎖、解きなさいよっ」
手も足も使えない状態では、動こうにも動けない。ガラは刀で4本の鎖を断ち切った。ガラの腰を両手で引き寄せると、リンは下から腰を打ち付ける。
「ホウオウレンジャーもやっと、女を犯す気になったか」
「違うわ!勝つ気になったのよ」
リンの腰の動きは止まらない。円を描いたり、激しく上下したり、緩急をつけたりしながらガラを責めあげる。
「男として、女の中に、その精子を出せばどうなる?」
「それは……」
「簡単だ。女は子どもを宿す。これほどまでに淫乱で、変態の父親を持った子どもをな」
ガラはリンの両胸を鷲掴みにする。リンの膨らみが柔らかくゆがみ、スーツ越しに乳首が勃起する。
「男としてわたしを犯しながら、女として感じるとは、なんと淫乱な。なんと淫らな。これがホウオウを名乗る戦士とは」
ガラの言葉のひとつひとつが、リンの心に残っている支えを少しずつ砕いていく。違う、違う、これは勝つためよ。そう言い聞かせながら腰を振る。しかしながら、なおも熱とともに、快感が男性器からこみ上げてくる。太腿の付け根のあたりに、さらなる快楽を求めて欲求が募る。
「ふわぁ、イク、イッちゃう!」
ぼびゅ、ぼびゅぅ、びゅるるっ。
脈打ってほとばしる液体が、ガラの身体の中に広がる。これがわたしの気力の塊……。リンの身体に脱力感が広がる。気力が切れたのか、そのままスーツも脱げた。ガラめ……。
「これが気力か……」
リンは閉じた目をゆっくり開いてガラを見た。ガラの姿は、なおもリンの腰の上にあった。ひとつだけ、リンの期待を裏切った姿で。その姿は、純白のドレスではなく、ゴーマの黒づくめのスーツを纏っている。
「味わうがいい、自らの気力を」
ガラは自らの性器を、今まさにリンが気力を放ったばかりの性器を、そのリンの顔に向けて押しつけた。両手で正面に固定されたリンの鼻から口に、逆流した白濁の液体がたらーっと垂れた。あたしの、せいし……。上唇に触れた精子を、リンは無意識に舐めとった。
「あまい……」
ガラはさらに、唇に向けて性器をこすりつけた。リンは自らの精液を刷り込まれながら、キスを、ガラの淫唇に奪われた。荒っぽく動く性器の中から中から精子が漏れ出してきて、それは空気と混ざり粘つくゲルとなってリンの顔にこびりつく。
「良いことを教えてやる。これは気力の塊などでは無い」
……!?
「お前の男性器は妖術でできたものだ。これはお前の気力を、我らがゴーマの妖気に変えてしまうのだ。わたしはそれをここに受け止め、お前に刷り込んでいるだけだ」
「それ……じゃあ……」
リンは身体の異様な火照りに気付いた。身体全体が異常に熱い。
「お前は今まさに、ゴーマに変貌しようとしている」
「嘘よ! そんなの嘘!」
「嘘ではない。お前は気力をすべて使い果たし、わたしの妖力を代わりにそそぎ込まれているのだ。お前は、ダイレンジャーにはもう戻れない」
……転身! ……転身! ガラの下で、リンは何度もコールをかけた。ブレスレットの反応も、むなしく遠い音がするだけだ。
「そんな……。みんな……」
「まあ、それでも約束通り、お前の術を解いてやろう」
ガラはリンの腹の上に、股間を正面にして跨がった。リンが動けぬように両足で腰を押さえると……。
「ぎいやああぁぁ!」
ガラの手が、リンの男性器を、玉もまとめて握り込んだ。
ぶじゅ、じゅ、ぶじゅぶじゅっ。
リンの悲鳴は届かずふたつの玉が無惨につぶれ、断末魔のように2回血の混ざった汁を吹き出すと、屹立した性器そのものが斜めに折れた。
「あうあうあう、ああああ……」
ガラはリンの身体から、血塗れの男性器を引きはがした。リンの衣服が血に染まり、発する言葉が意味をなさなくなって、黒い闇がそっとリンを包み、ガラと同じ黒いスーツとなってその白い身体を覆った。