[独りぼっち]

 そっと床を蹴って、仰向けに身体をゆっくり横たえる。
 わたしの身体は、滑るように浮かんでいく。
 広い広い水の中を、わたしはたゆたう。
 何もできず、ただ、たゆたう。
 それがわたしの意志なのかも、少しずつ融けて、わからなくなる。

      ★

 うつ伏せの身体を、彼は抱きかかえるように起こした。
 そのまま押し倒すように体を入れ替える。
 彼は体重がかからないように気を使いながら、口唇と口唇を重ね合わせる。
「好きだ、好きだよ」
 硬い彼の口唇の奥から、赤く濡れた舌が割り込んでくる。
「あ、うん。わたしも、わたしも大好き…」
 表情が柔らかく融けていく。
「ちょっと本能を刺激してやれば、誰だってこんなものさ」
 冷たい声が頭上に響く。
「早くこの世界に融けてしまいなよ、自分の力なんか忘れて、今に溺れてしまえばいい」
「そんなの、違う…」
 青年の手が、わたしの胸をスーツ越しにつかむ。
 わたしのおっぱいがへにゃっと押しつぶされて、それでも先っぽは反応して立った。
 すかさず彼の指が浮き出た乳首をはじく。
「あっ…ダメ…」
 わたしも女の子なのに、初めての感触に背中が震えた。

      ★

「神隠し? 人間が消えちゃうっていう、アレ?」
 コーヒーを持って、ウメコがデカルームに入ってきた。
「そうだよ。最近増えてるらしい」
 センちゃんは書類から目も離さずに答えた。ウメコが放り出した分まで、センちゃんはさっさと捌いていく。地元の警察に戻して調べ直してもらうもの、共同で調べるもの、明らかにアリエナイザー絡みと思われるもの。これをきちんとしないと、わたしたちが余分な事件を背負い込むだけならまだしも、丸腰の一般警察官をアリエナイザーと対峙させることになりかねない。
「人間が消えたって、どうして分かるんだヨ。行方不明ってんなら、まだわかるけどサ」
 最近は大きな事件も起きていない。退屈なのはいいことだ。わたしはそう思うけど、バンは力が有り余って仕方がないと言う感じだ。
「逆だよ、バン。『消えた』から、僕たちのところに回ってきたんだ。何しろ、目撃者がいるらしい」
「目撃者? 見た人がいるのか、その…」
「人が消えたところを?」
 ホージーの言葉を遮るように、わたしは言っていた。
「ボス! ジャスミン、行きます!」
「おいジャスミン、待てよ!」
 後ろからバンが追いかけてくる。わたしは振り向かず、マシンドーベルマンに乗り込む。
 来てくれたのがバンで、わたしは安心する。バンならわたしがどれだけ暴走しても、追いついて受け止めてくれるから。

「ジャスミン!」
 何度目かも分からなくなるくらい、バンはわたしの名前を呼び続けている。聞こえてるよ、と何度言おうと思ったか。でも、わたしはひたすらドーベルマンを走らせた。
「説明してくれよ、ジャスミン!」
「バン、ちょっと黙って」
「どこ行くんだよ! 説明してくれなきゃ、俺、黙ってたら何にもわかんないだろ!」
 そうだけど、でも言えないものは言えない。
「黙るべし!」
 わたしが怒鳴ると、子供のように口を尖らせて、それでもバンは黙ってくれた。
 そういうバンを、わたしはときどき、とても遠く感じる。

      ★

「好きなのに、こんなに好きなのに…」
 わたしは彼に抱きしめられた。
 その態度は、以前の彼と変わらない。
 あっ……。
 肩に触れた彼の手から、彼の気持ちが流れ込んでくる。
 わたしの言葉がわたしに振り返る。
 わたしの思いは今、屈折してわたしに襲い掛かる。
「僕と一緒にいてくれる?」
 ダメだよ、と拒絶の言葉は口唇に閉ざされる。
 彼の口唇がわたしの口唇を捉えてはなさない。
 ダメ、と言おうと口を開くと、待ち構えていたように舌が差し込まれた。
 彼の舌がわたしの舌にからみつく。
 そのやわらかい感触は少しだけ、あの暖かさを思い出させた。
 暖かい…。なんでこんなに感じてるの?

      ★

「ウメコ、最近センちゃんとはうまくいってるの?」
「なになにジャスミン、唐突だなぁ。何が聞きたいの?」
 デカベース内のプールサイドには、少しだけくつろげるスペースがある。わたしとウメコは夏場になると、よくここでジュースを飲んでいる。
「いや、なんとなく」
「えーっと、そうだなぁ…」
 ウメコはそう言ったきり、オレンジジュースを口に含んだ。ストローをくわえる口唇がキスマークに見えて、妙に艶めかしく思えた。
 あたし、泳いでくるね。そう言って、ウメコはプールに飛び込む。ほとんど水飛沫が上がらないきれいなフォームだった。こうやってウメコは、いつでも自然に生きている。たぶんセンちゃんとも、そうやって付き合っているんだと思う。言葉にしようとしても、ウメコにはあまりにも当たり前すぎてできないのかもしれない。
 …ふぅ。うらやましいなぁ、もう。わたしよりもボン・キュ・ボンだし。
「ジャスミンさんは、いい男性いないんですか?」
 かけられた声に驚いて振り向く。マリーさんの水着はシックな黒のワンピースで、すらっとした彼女のスタイルによく合っている。これができないんだ、わたしは。
「わたしは…まだお子ちゃまですから」
「そうなんですか…。でも好きな男性くらいいるんじゃありません? ホージーさんとか、地球署のボスもダンディですし」
 ボス。ドギー・クルーガー署長。確かに格好いいけど、異性とは思えない。
「それより、マリーさんは休めました? 少ししたら、また帰らなくちゃいけないんでしょ?」
「ええ、リフレッシュしました。身体が疲れてるのは、それほど気にしませんし」
「いろんなところを見て回ったりとか」
「ええ、それも。昨日まで、バンバンさんにいろいろ連れてってもらいました」
 泳ぎません? とマリーさんは誘ってくれたけど、わたしはそれを丁寧に断った。一緒にプールに入ったりしたら、マリーさんの心まで読んでしまいかねない。わたしの能力は、水の中を伝わってくるノイズをたどってマリーさんとバンの思い出をなぞってしまう。いつまでたっても、わたしは自分のこの力に慣れないし、持て余してしまう。
 わたしの身体は、わたしの心より、ときどき、ずっと卑しいから。

      ★

「好き、好きだよ」
 彼の股間に顔をうずめて、そそり立った彼のモノを舐めまわす。
 根元から先っぽまで何度も何度も舌先で舐め上げる。
 唾液でねとねとになった彼のモノは、暗い部屋の中に射し込む光に怪しく光る。
「あっ…、最…高…」
 そのおチ○チンを見ていると、わたしはだんだんほしくなる。
 スーツを解いて、グローブも外し、スカートの中に手を差し入れた。
 ベトベトになったショーツの奥で、わたしがうごめいているのがわかる。
 わたしも女の子なの、と、わたしの身体はわたしに言う。
 あまりにほしがるので、中指を与えてみた。
 一番根元まで差し込んでみても、出したり入れたりしてみても、わたしは収まらない。
 かえって蜜があふれ出てくる。
 いつもならこれでガマンできるのに。
 もう一本あれば足りるのかな。
 わたしは人差し指と薬指と、指三本で女の子の部分を慰めてみる。
 彼のおチ○チンはそそり立っている。
 はじめて見る男性のおチ○チンは、びっくりするくらい太くて長くなった。
 先っぽをくわえ込んだ口の中で、舌が絡み付いて動いている。
 欲しいの。欲しい。欲しい。欲しい。
 わたしだって女の子なの。女の子なのに。
 女の子として愛して欲しいの。
 男の子のおチ○チン、欲しいのに。
 いっぱいいっぱい入れたり出したりしてほしいのに。
「ごめん、俺、出ちゃうよ…」
 おチ○チンがぴくぴく動いて、お口からトロッとした白い液体がこぼれる。
「美味しいよ、バン…」

      ★

「やっぱり、君だったのね」
 わたしの前に現れたのは、すっかり大人になっていたが、確かに氷狩だった。宇宙のある種の星では、地球上よりもずっと早く年齢を重ねると聞いたことがある。彼がスペシャルポリスを目指して地球を離れてまだ数年しか経っていないのに、現れたのはわたしと同じくらいの青年だった。
「おねぇちゃん…」
「なぜ? なぜなの? あのとき、確かに…!」
「やっぱり、僕はエスパーなんだ! 誰も僕のことなんか、わかっちゃくれないんだ!」
 彼は腰から銃を抜いた。視線はわたしに向けたまま、すかさず3発発砲する。銃声と銃弾が当たった音とがわたしを包む。振り返ると、バンの2丁の銃と胸のエンブレムに命中していた。
「養成所で、こういうことだけはうまくなったよ」
 バンのスーツは非常解除されて、生身のままアスファルトに崩れ落ちた。
「おねぇちゃんだってわかってるんだろ! 僕たちは、ずっと独りぼっちなんだ!」
 確かに、そう思うこともある。でも…。
「ジャスミン、バン、聞こえるか! 昨日地球を出たマリー刑事が…」
「マ、マリーがどうかしたんですか」
 気がついたバンが、声を振り絞って応答する。
「消息を絶った。惑星カーイスで、無人のデカマシンが発見された」
 わたしはもう一度、氷狩の目を見つめる。
「そうだよ、僕だよ。きれいな人だったから、思わずね」
「キ、キサマぁ…!」
 生身の身体のまま、バンは氷狩に突っ込んでいく。
「そっか。そういうことなら、同じところに送ってあげるよ」
 氷狩の右手が光をまとって、その光はバンを包んだ。

「氷狩くん、なぜ?」
 バンが消えた跡が歪んだ。氷狩の顔に、靄がかかったように見える。
「おねぇちゃんは『独りぼっちじゃない』なんて言ったけど、
やっぱりぼくたちは独りだよ。
ずっとずっと、独りで生きてくしかないじゃないか!」
「なぜ? 氷狩くん、何があったっていうの?」
 彼の表情は変わらない。あんな冷たい表情を、以前の彼はよくしていた。
「おねぇちゃんだってわかってるくせに」
「それを自分で律しながら生きていくのが人間なの!」
「僕たちは、人も好きになっちゃいけないんだよ」
「そ、それは…」
 氷狩の言っていることは正しい。そう思い知らされることは、わたしにもある。わたしの力は、近づけば近づいただけ、その人を傷つける。わたしは、自分の好きな人を傷つけ続けることに耐えられない。
「それは、あなたが優しいからよ」
「おねぇちゃんは、それでいいの?」
 それでいいの? それでいい? ずっと独りでだって、わたしは生きていける。
「おねぇちゃん、好きな人いるんでしょ?」
 わたしは答えられない。ただ黙ったまま、わたしはSPライセンスを彼に向ける。
「おねぇちゃんも、連れてってあげるよ」
 さっき見た右手の光が再び現れて、わたしと氷狩を包んだ。

      ★

 バンのおチ○チンが、股間にゆっくり突きこまれた。
 最初はゆっくりと、次第に早く、時にやさしく、時に強引に、バンは腰を振る。
 彼の右手はおっぱいを触れるようになでるように体中を這い回る。
 わたしは我慢できずに、胸とオマ○コを自分で弄り続けた。
 でもダメ、バンのおチ○チンが欲しい。
「おねぇちゃん、やっぱりあのおにぃちゃんのこと、好きなんだね」
 黙っていると、氷狩はわたしの乳首をつねった。
「あ~っ。え、えっと、そぅ…よ…」
「でも言えなかったんだ? エスパーだから」
「違う…、バンには彼女が…」
 素直になりなよ、と彼はわたしの顔を二人のセックスに向けて固定した。
 マリーさんがバンにまたがって、バンは下から突き上げる。
 ジュプジュプといやらしい音が響いて耳から離れない。
「おねぇちゃんも一つになりたいんでしょ?」
「あぁ…。バンと、ひとつに…。なり…たい…」
「じゃ、自分のものにしなよ」
 氷狩はわたしを立たせると、力の入らないわたしを蹴り飛ばした。
 倒れたわたしの目の前で、バンとマリーが一つになっている。
「わたしの、わたし欲しい!」
 マリーから引き抜いたおチ○チンを咥えていた。
 ちょっと苦くて、でも甘美な味わい。
「美味しいよぉ、バン。美味しいよぉ…」
 マリーは弾みで倒れこみ、バンのあっけにとられた顔が映る。
 すぐにスカートをたくしあげショーツを下ろし、バンの顔に押し付けた。
「バン、わたしのも食べてぇ、美味しぃ? ねぇ美味しぃ?」
 バンの舌が茂みをまさぐり、割れ目を押し広げ、クリ○リスをころがす。
 きゅっと収縮したわたしは、バンの顔に潮を噴きかけた。
「ごめんね、バン。あなたのこと、大好きなの…」
 わたしは身体を入れ替えて、彼のおチ○チンを自分のおマ○コへと導く。
 バンのものは太くて、ちょっときつくて、でもわたしは気持ちいい。
「ねぇバン、このままずっと一緒にいて…。大好きなの。大好き。
ずっとわたしと一緒にいて…。もうダメなの…。もう独りぼっちはイヤぁぁぁぁ……」