フィギュア少女の痛い罠
「京都…?」
「京都ニャ?」
「京都ぉ!?」
秋葉原にある戦隊カフェひみつきち―店内のカウンターに座る三人は、口調こと異なれど、同じ単語を口にする
赤いジャケットのジャケットを着たボサボサヘアーの男―赤木信夫は語気を強めて
フリフリの衣装に黄色いウィッグ、その上にネコミミを着けた女―萌黄ゆめりあ(CN)は珍妙な語尾で
紺色のブレザーと青いチェックのスカートを身に纏った女子高生―青柳美月は訝しげに
それぞれの目線をカウンター越しに立つ、店長の葉加瀬博世を―性格には彼女が手に持っているチケットを見つめていた
「そ、京都の一泊二日宿泊券三枚もらったの。あなた達で行ってくれば?」
ニヤリと笑う博世の腕を、震える手で信夫は握り締め
「行く…絶対行く!!」
感極まった表情で頷いた
「ゆめっちも行きたいニャア!」
ゆめりあも満面の笑顔で言う
「おじさんもゆめりあさんも、京都なんて興味あったんですね」
2人の様子を意外そうな顔で見つめ、美月が言った
「清水寺とか金閣寺とか、全然似合わな―」
熱血男とコスプレイヤーが古都の歴史的建造物にいる場面を想像して思わず笑いそうになる美月に、信夫は突如詰め寄り
「違う!京都といえば太秦映画村だろ!
「は…?」
迫真の表情をする信夫に対し、美月はポカンとしてしまう
「美月殿、京都と公認戦隊は切っても切れない縁なのでござる」
いつの間にかセーラー服に着替え、武士のような兜をかぶっていたゆめりあが、大げさな口調で言う
「戦隊と京都にどんな関係があるんですか?」
信夫は、呆れたようにため息をついて
「美月、お前まだ見てないのか!?アバレンジャー第12話及び第13話、デカレンジャーEpisode.18、そしてマジレンジャーStage.22!」
「ごめんなさい、まだ…見てないです」
まくしたてるように話すその姿に若干引きながらも美月は答えた
非公認戦隊として活動するにあたり、最近は美月も公認のシリーズをレンタルしてよく見ているが、いかんせん数が多すぎて追いつかないのが現状だ
「その話は京都が舞台になってるんだよ!」
「そしてそのロケ地になっているのが、東映太秦映画村なのでござる」
「へぇ~」
熱弁する2人の言葉に頷く
「とにかく、そうと決まれば早速明日―」
「あ、私は明日ちょっと無理…かな」
結論付けようとする信夫を制する
「どうしてでござるか!?」
顔を覗き込むゆめりあに申し訳なく思いつつ
「明日はちょっと外せない用事があって…あ、博世さんかこずこずさん、代わりにどうぞ!」
そう言って小さく会釈すると、そそくさと店を後にした
正直言うと、少し残念な気はする
先日の撮影所での新堀和夫との出会いを経て、美月は公認を目指すと決意した
京都でもそのような撮影所があるのなら是非行ってみたいと思う
しかし
美月はカバンから一枚のチケットを取り出し、眺める
「こっちと比べたらなぁ…」
名残惜しそうに言いながら握りしめたチケットにはこう書かれている
“にじよめ学園ズキューーン葵 スペシャルイベント”
翌日
新幹線の車内
駅弁をものすごい勢いでかきこむ信夫をよそに、ゆめりあは窓の外を眺めた
「美月殿とも一緒に来たかったでござる」
「しょうがないって。アイツにも色々あるんだろ」
何だかんだで意外に常識的な部分のある赤木は、箸を止めてそうフォローした
「まあ、そうなのでござるが…何だか胸が不安でいっぱいなのでござる」
「…どうして?」
博世の問いかけに、ゆめりあは
「拙者にもよくわからないでござる。ただ…」
「ただ?」
「ステマ乙なら出ないだろ。俺達が秋葉原いない以上、妄想しようがないんだし」
「そうなのでござるが…」
「そんなことより京都だ京都!太秦映画村だぁ!」
こんな調子の3人を乗せ、新幹線は一路、京都へと走っていた
同時刻、秋葉原のとある地下ホールに美月はいた
(こ…これは葵とサトミの限定フィギュア!えっと、値段は…)
熱気に包まれたイベント会場で、グッズの数々に目を輝かせていた
(うーん、迷うなぁ…)
グッズを買い漁れるほどの所持金はない
どれにしようかと、品定めするように目移りさせていた
その時―
「あ、ごめんなさ~い♪」
小さな影が足元にドンとぶつかると、ササッと走り去っていった
「…?」
妙にアニメじみた声色に、美月は思わずソレが去っていった方向を見つめる
その小さな人影は人混みの中に消え、もう姿は見えない
しかし
「あれは…」
美月の目に映ったのは“ある人物”らしき姿だ
ピンク色の髪に露出の多いレザー製の衣装
(マルシーナ…?)
長身で豊満な肉体を持つ女幹部の姿は、人がごった返すこの会場においても一際目を引くものだ
すぐにその姿は見えなくなる
「…っ!」
美月は反射的に、彼女が消えた方へと足を向けた
しばらく歩くと、人気のない通路に出る
薄暗い廊下の先にはドアが1つだけある
美月はそのドアの前にしゃがみ込むと、通気口を覗きこむ
レザーブーツとそこから覗く太もも
マルシーナのものだと確信する
『ええ、上出来よ。この会場にいる人間は皆―――』
そこから先は何を言っているのか聞き取れない
しかし、ロクでもないことをしようとしているのはわかった
だから
「そこまでよっ!」
ドアを開け、中へと踏み込む
「なっ…アキバレンジャー!?」
マルシーナが驚きの声を上げる
「何を企んでいるの!?」
普段こういった台詞は主に信夫の担当であるのだが、彼がいない以上そうも言っていられない
両の拳を握り、ファイティングポーズを取る
「くっ…何故ここに…!?」
うろたえてそう言うマルシーナに対し、美月は強気の姿勢を崩さず
「どうせしょうもないこと考えてるんだろうけど、私が来たからには―」
「フフッ」
と、マルシーナは一転して小さく笑った
「…!?」
「かかったわね、子ネズミちゃん♪」
ガチャリ、と鍵のかかる音がする
その瞬間、追い詰められていたのは自分の方だと理解し
「くっ!」
カバンからフィギュア型の変身アイテム“MMZ
01 モエモエズキューン”を構える
「ウフフフ、今日はお仲間がいないようねぇ」
「だから何?」
つっけんどんな口調で返すと、マルシーナはさらに笑い
「いえ、これで思う存分アンタを甚振れると思って」
サディスティックに笑う女幹部に対し
「こっちの台詞よ。今日こそアンタを倒して見せる」
フィギュアのポニーテール部分を持ち、トリガーを引く
「ジューモーソー!」
変身が完了すると同時、場所は狭い倉庫から採石場へと移る
「アキバ…」
眼前に悠然と立つ女幹部へ向け、舞うような動きの連続を繰り出し
「ブルー!」
背後から青色の爆発が上がる
「シャチーク!やっておしまい!」
アキバブルーが名乗り終えると、マルシーナは女幹部特有の妖艶な動きで指示を出す
仮面を被り背広を着た戦闘員が何体も現れ
「邪魔よ平社員ども!」
アキバブルーはその中へと、臆することなく飛び込み
「はっ!」
先頭の一体へとひざ蹴りを放ち
「ふっ!」
その一体を投げ飛ばす
「はあああああああああああああああああああっ」
そのまま、周囲一帯のシャチーク達に連続蹴りを浴びせ
「ボウケンスコッパー!」
斬撃により瞬く間に、シャチークは全滅した
「あとはアンタだけよ!」
再び構えを取るアキバブルーに、マルシーナは妖しく笑い
「ウフフ、まだまだよ」
指をパチンと鳴らして
「来なさい、中野パラドキサカマキリ!」
「ハイハ~イ♪
聞こえるのは幼い少女のようなアニメ声であった
「この声…!」
間違いない
会場で足元にぶつかった小さな人影
あれがステマ乙の係長だったのだ
そして、声の主はアキバブルーとマルシーナの間に割って入る
「アハハハハ、こんにちはお姉ちゃん♪」
現れた怪人の背丈は美月の腰ほどしかない
やや胸に膨らみがあるその姿は、すぐに子供だとわかる
(こんなのが係長…?)
今までの屈強で野太い声の持ち主だった係長とは違い、無邪気な笑い声を浮かべているソレは、とても強いとは思えない
「あとは任せたわ、中野パラドキサカマキリ」
「は~い、マルシーナ様♪」
後ろに下がったマルシーナの代わりとでもいうように前へ出ると、中野パラドキサカマキリは肩にかけたポーチから“あるもの”を取り出す
「お姉ちゃん、これ見て!」
見せびらかすように怪人の手の中でブラブラと揺れているのは―
「フィギュア…?」
美月はズキューーン葵以外のサブカルチャー類には極めて疎く、それが何のアニメ、あるいはゲームのキャラクターかはわからない
「お姉ちゃんもボクと一緒に遊ぼーよ♪」
何故だかわからないがこの怪人の声を聞いていると神経が逆なでされるような気分になる
だから
「生憎子供と遊ぶ趣味はないの」
そう言って身を低く構えた
「むっ!カチーン」
とても戦闘能力が高いとは思えない
すぐに終わらせようと、飛び蹴りを放つために
「はっ!」
大きくジャンプをした
結論から言えば、中野パラドキサカマキリの戦闘力は高くはないという美月の推察は当たっている
しかしそれとは別に、美月は気付いていない
つい今口にした台詞―敵の姿形から実力を判断してそれを見くびるような発言をするという行為は、信夫の言いそうな言葉で表すと“敗北フラグ”であるということを
「はああああああああああっ」
上空から急降下し、蹴りを喰らわせようとする
その直前
「…え!?」
中野パラドキサカマキリの姿が視界から消えた
「どこに―」
着地し、辺りを見回したその時
「カワイイー、くまさんパンツだぁ♪」
背後の足元から声が聞こえた
「なっ―」
振り返ると、小柄な怪人が青いスカートをめくり上げ、その中を見つめていた
「あははは、子供みたーい♪」
「このっ!」
振り向きざまに蹴り上げると
「キャッ」
小さな身体が吹っ飛んでいく
「…お仕置きが必要みたいね」
怒りを表すような冷たい声で言うと
「あははは、お仕置きされるのはボクじゃなくて、お姉ちゃんの方だよ♪」
「はっ!」
煽るような言葉を振り払うように、再び接近し蹴りを放つ
しかし、
「あはははは、こっちこっちー♪」
声が、全く別の方向から聞こえた
「えいっ!」
「あはっ♪」
「やあっ!」
「うふっ♪」
「せいっ!」
「えへっ♪」
そのまま、中野パラドキサカマキリはアキバブルーの蹴り技を瞬間移動でいともたやすく回避を続ける
「はぁ…はぁ…はぁ…」
息が上がっているのを美月は感じた
妄想世界では戦闘力は高くなるが、慢性的な体力不足はどうにもならない
しかも、自信を持っていた格闘術がことごとく破られたことで、この世界での力の源となる美月の妄想力は大きく下がっていた
「お姉ちゃん、もう終わり?つまんなーい♪」
「まだまだっ!」
再度蹴りを放つが、また姿は消え―
「もう終わりだね♪それじゃあ―」
背後から声が聞こえる
「お仕置きたぁーいむ♪」
「…え?」
目の前に広がる光景に美月は違和感を覚えた
採石場の岩山は、先程よりも何十倍にも大きくなっている
また、地に散らばっている小石も、心なしか大きく感じられる
つまり、縮尺がおかしい
そして
自分の身体を、巨大な影が覆っていく
「嘘…」
その影の正体は―
「つーかまーえたぁ♪」
先程まで自分の腰ほどの背丈しかなかった怪人は、今や“巨大”というに相応しい姿になっている
伸ばされた手は、逃げようとする美月の身体を容易く捕えた
「うふふふ、可愛い♪」
中野パラドキサカマキリは10センチ程度に縮小したアキバブルーの身体を弱い力で握りしめた
「く…は…」
苦しそうにもがくその姿はとても愛らしい
「マルシーナ様、見て見て!ボクの新しいフィギュア♪」
「あらまあ、何て可愛らしいの!」
大げさに言うと、再開発部長はさらに
「お顔が見て見たいわぁ」
「はぁい、わかりましたぁ♪」
その要望にこたえるべく、ポニーテールのついた、青いマスクに包まれた頭部を右手の親指と人差し指でつまむ
「くぁ…」
力を入れすぎると潰れてしまう
繊細な力加減で、中野パラドキサカマキリはアキバブルーの頭を横にひねった
「うあ…」
パカッという音と共に、マスクは外れ、ボブカットと厚めの唇が特徴の気の強そうな顔が露わになる
「ウフフフフ、ふぅ~」
マルシーナはアキバブルーの顔に、吐息を吹きかけ
「帰るわよ、中野パラドキサカマキリ」
妄想世界から姿を消した
「離して!」
ジタバタともがくアキバブルーに顔を近づけ
「ダメだよぉ。お姉ちゃんはボクのフィギュアなんだから♪」
言うと、肩にかけたポーチに入れた
中でまだジタバタしていたが、それはムダな足掻きだった
「出して!出しなさい!」
ガラスの壁を、美月はドンドンと叩いた
その向こうには、気分が悪くなるような女の顔
とても悪の組織の本拠地とは思えない雑居ビルの一室
殺風景なその部屋には、今、女幹部と怪人が、15センチ程度のガラス瓶に入れられた美月の姿を見て楽しんでいる
「アンタ達、絶対に後悔させてやるんだから!」
しかし、どれだけ大声で喚いても、マルシーナ達にとってはフィギュア大に縮小した可愛らしい玩具にすぎない
「もう、そんなに怒っちゃイ~ヤ」
「へ…きゃあっ!」
次の瞬間、ビンが倒れ、中の美月の身体も同様に後ろへ大きく倒れこむ
その反動でスカートがめくれて―
「いいなぁ、くまさんパンツ!ボクも欲しい~♪
さらに
「きゃああああああああああああああ…っ!」
円筒形の瓶は、マルシーナによってテーブルの上をゴロゴロと回転する
それによって美月の身体も同様に回転する
ガラス越しに見るその姿がとても滑稽なものだと美月は気付いていない
そのまま、マルシーナはしばし遊んだ後
「そろそろ出してあげるわ」
瓶にフタがスポンと外し、逆さにした
「きゃっ!」
突然上下が代わり、重力に従って落下するしかない身体を、マルシーナの手が受け止める
「ウフフフフ…」
右足首を摘まれ、美月の身体は逆さで宙釣りのままプラプラと揺らされる
「やめな…さいよっ!」
強がる台詞も震えている
マルシーナの手元から床まで、150センチ程度の距離だが
フィギュアサイズの美月には、その10倍程に感じられるのだから
「悪く思わないで。捕まえた戦隊ヒロインをいじめるのも、悪の女幹部のお仕事なのよねぇ」
ため息交じりに、しかしどこか楽しそうに言う
「そんな仕事あるワケないでしょ!」
美月の必死な言葉も、マルシーナの気分を良くさせるBGMでしかない
その身体が、突如テーブルの上に抑えつけられ
「…何なの?」
ワケもわからず動揺する美月に
「お姉ちゃん、ボクがいいって言うまで動いたり喋ったりしちゃダメだよ♪」
幼女のような声の怪人の言葉に
「――んんっ!?」
身体から一切の力が抜ける
口から出そうとした言葉も、出ない
まるで身体が自分のものでないような感覚に襲われる
「ウフフフ、始めるわよ」
(一体…何なの…?)
ささやかな抵抗を試みることすらできず、マルシーナの指にされるがままになることしかできなかった
数分後―
戸惑う美月の前に、四角い鏡―今の彼女の身体を移すには十分なサイズの―が置かれる
(これって…!)
映っているのは
両腕を握って構えた、ファイティングポーズを取る自分の姿だ
(い…やああああああああああっ!)
その感情とは裏腹に、顔は気の強そうな、自信に満ちた笑顔を浮かべている
「ウフフフ、どうかしら?」
「お姉ちゃん、カッコイイ~♪」
女幹部と怪人の言葉に屈辱が生まれるが、どうすることもできない
「次はこんなポーズはいかが?」
再びマルシーナの手により、取らされた自分のポーズは
(もう…やめてっ!)
身体をピンと伸ばし、左足を大きく上げてハイキックを繰り出しているものだ
表情はさっきとは異なる、凛然としたクールな表情を浮かべている
「お次はこうかしら?」
今度は脚をM字に開き、淫靡な笑みを浮かべたものを
「マルシーナ様、こんなのどうですかぁ?」
鎖により四肢を拘束され、悔しそうに顔を歪める表情のものを
マルシーナと中野パラドキサカマキリは、物言わぬフィギュアと化したアキバブルー=青柳美月の身体をポージングさせ、遊びつくした
「そろそろ最終段階よ!」
「はい!マルシーナ様♪」
マルシーナは大げさな仕草で、シャチーク達を呼び出す
「モデルテストは合格!これから“商品化”に入るわ!」
「シャチーク!!」
(商品化って…?)
あまりいい意味だとは思えない
「中野パラドキサカマキリ!」
「はぁい♪」
促されるままに、中野パラドキサカマキリは美月に掌を翳し
「フィギュアスキャンビーム!」
そこから、青い閃光が放たれる
(…っ!)
小道具の十字架にかけられていた美月は当然、よけることも悲鳴を上げることもできない
しかし
(痛くない…?)
その光線を浴びても、痛みはおろか何の感触すらない
「さあ、情報を端末に送信なさい!」
「了解しましたぁ♪」
すると今度は、光線をシャチークが持ってきた装置へ向け照射する
「送信完了ですぅ♪」
「よぉし!それなら早速!生産、開始ぃ!」
マルシーナは手にしたリモコンらしきもののスイッチを押す
ヴオオオオオオオオオオオオオ…
鈍い音と共に、巨大な装置は稼働し始め
数分後、全ての工程を終え、それは出てきた
「すごい…素晴らしいできだわ!」
「本当に最高の出来ですぅ♪」
盛り上がる2人の姿を、美月は見ることができない
と、マルシーナがテーブルの前に来て
「ウフフフ、ご覧なさいアキバブルー!」
テーブルの上―屈辱の表情で十字架に架けられた美月の前に置かれたのは
(…)
表情を作ることもできないが、内心呆然とする
それは、黒いボブカットに厚めの唇に大きな目―
青いスーツに身体を包んだその“フィギュア”は
自分―すなわち青柳美月と寸分違わぬものであった
「あら、これじゃ感想が聞けないわ。中野パラドキサカマキリ!」
「はぁい♪お姉ちゃん、もういいよ♪」
その言葉と同時、全身を縛っていたような感触がなくなり、身体が自分のものになるのを実感する
「ふざけないで!そんなのさっさと生産中止にしなさい!」
「ダメだよお姉ちゃん、大量生産して中野ブロードウェイで限定販売するんだからぁ♪」
「ウフフフ、そう言うこと。良かったわねぇ。アキバレンジャー念願のフィギュア化決定よ!
確かに、公認戦隊ではフィギュアが発売されているものも多くあると、信夫はゆめりあが言っていた
公認になってフィギュアが発売される時のことを妄想して2人は良くニヤニヤしていた
しかし、それは正当なスポンサーである玩具会社によって発売されるものであり、悪の組織に身体をいじくり回され、コピーされるというのは全く違う話だ
「とにかく、そんなの今すぐやめなさい!」
「嫌よ」
次の瞬間、ガチャリと手足の拘束が外され、身体が十字架から崩れ落ちる
「…っ!」
その身体を、マルシーナが掴みあげ
「これはお礼の証よ」
濡れた舌を突き出し、美月の身体をペロリと舐めあげた
「ひっ…!」
スーツ越しにも感触が伝わってきて、鳥肌が立つ
「まだ足りないかしら?」
「いやっ…やめ―」
必死の抵抗はまるで意味をなさず
「ん―レロレロレロ…」
「やめてええええええええええええええええええっ!」
悲痛な叫びがこだまするばかりであった
「美月の奴、どうしたんだろうなぁ」
京都から帰って数日、美月は姿を現さないどころか連絡さえ通じない状況だ
しかし信夫は、心配そうな表情から一転して、だらしない笑顔を浮かべる
「それにしても太秦映画村…すごかったなぁ…」
「ホントねえ…」
博世もうっとりしながら返す
その時
「ノブくん、大変だよ!」
「ん、どうしたぁ?」
小学生男子のコスプレをしたゆめりあが血相を変えて飛び込んできた
手には四角い箱を持っている
「これ見て!」
その箱のパッケージを見せる
「なになに…“中野ブロードウェイ限定発売!アキバブルースペシャルフィギュア”…ってええええええええええええええええええええええええっ!?」
「な、何でこんなものが!?」
驚く信夫と博世にゆめりあは
「わかんない…何か売ってたから衝動的に買っちゃったけど…」
「とにかく開けてみましょう!」
丁寧に、梱包を開封した
「す…すごい…」
3人は思わずその造形に息を飲んだ
まるで本物を縮小したような寸分違わぬプロポーション
着脱可能なマスクの下には、どう見ても美月にしか見えない顔
普通、実写モノをフィギュア化する場合、顔はアニメ調にデフォルメされたり、リアルさを表現しようとして何とも言えない表情になるのが当然なのだが
このフィギュアは、まさに美月の顔のパーツ、仕草、そして質感まで、本人のそれを忠実に再現するものであった
「いつの間にこんな技術が…?」
「さあ…?」
顔を見合わせ困惑する2人をよそに
「っていうかなんでブルーなの!?レッドは!?俺は?ねえ俺は!?」
信夫は喚き散らしていた
「でも、フィギュアが発売されたってことは…」
「…そうか!俺たちも公認様の仲間入りってことか!?」
ゆめりあの言葉に信夫はハッとして
「「やったぁああああああああああああああああああああっっ!!」」
2人は腕を広げて抱き合った
そんな浮かれる2人を尻目に
「でもこんなメーカー聞いたことないわよねぇ…」
博世はパッケージのレーベルを見て呟いた
そこには、公認戦隊の玩具が発売されているメーカーの名も、ロゴもなく
“プロダクション?乙”と書かれているだけであった
「限定フィギュア、すごい売れ行きですよ、マルシーナ様ぁ♪」
「ウフフ、よくやったわ中野パラドキサカマキリ!シャチーク、梱包作業のスピードを上げなさい!」
「シ…シャチーク!」
不眠不休でのシャチーク達の作業もあり、商売は大盛況だった
「それもこれもアンタのお陰よ、美月ちゃん!」
左手に持った、フィギュアの原型に感謝の言葉を告げる
「絶対…許さないんだから!」
「あっそ、それじゃあご褒美の時間ね
マルシーナは美月の身体を、自身の豊満な胸の谷間に放り込んだ
「んんっ…んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!」
「ウフフフフフ!イイ子でちゅねー!カワイイでちゅねー!」
ジタバタと暴れる美月を宥めるように、マルシーナは自分の胸を思いっきり揉みしだき、揺らした
それを数分繰り返すと、やがて抵抗はなくなる
「お休みなさい」
気絶した美月を谷間から抜き取り、ガラスの瓶に入れてフタをする
「オホホホホ…」
徐々におかしさがこみ上げてくる
「オホホホホホホ!オーホッホッホッホッホッホッホッホッホッホ!」
美しき女幹部の爆笑が、雑居ビルの一室にこだました
はたして、信夫をゆめりあはステマ乙の企みを暴き、美月を救い出すことができるのだろうか?
そしてアキバレンジャーフ公認化の行く末はいかに?