二股男とコウモリ傘

 ホテル行こうぜ。
 虫取りとか魚釣りにでも行くような気軽な鷹介に誘われて、七海は処女を捨てた。八週間前のことだった。雨の強い日でおぼろさんの機嫌が悪くて、逃げるようにしてやってきたファミリーレストランで、ドリンクバーのジャスミンティーを口にしていた。
 首を傾げてとぼけてみせると、鷹介は不敵な笑みを浮かべた。何かを見通すような笑みがふてぶてしく、だけど、それが彼をヒーローにしているもののように思えた。
 傘なんてもってなくてコンビニは少し向こうで、会計をすると入り口のすぐ横に傘立てがあった。
 彼は誰かのコウモリカサを傘立てから引き抜いた。たしなめてみるのに、借りてるだけだって言い張って、正義の味方のはずなのに、そんな悪さを見せて――彼の言葉に少なからぬ緊張を覚えている七海は心が溶けていくのを感じた。
 ホテル・ミルフィーユ。看板の横を通り抜け、部屋に入る。何かのドラマでみたようにシャワーを浴びると、鷹介は怖い顔をしていた。いつもの彼じゃない。彼の身体からは雄の臭いがして、タオルを巻いただけの七海は押し倒されて、一時間が過ぎたとき、激しい息づかいの身体に組み敷かれて、七海は淡い電流に焦がされていた。

 それから、鷹介とは時々夜を過ごすようになった。みんなの目があるから好きなときにというわけにはいかなかったけれど、一週間とか二週間に一回、セックスをして気持ちよくなった。いつも彼がバイト代からお金をだした。七海は今まで自分が少女だったということを思い知らされ、そして、大人へ変わっていく違和感に包まれていった。
 シノビチェンジしてやってみたい。彼にそういわれたとき、七海はおもしろそうと思った。ハリケンファイバーでできたスーツは淡い光沢で、きれいなボディーラインを作っている。
 彼女はうなづいて、サイドテーブルの上にあるブレスを腕にはめた。裸でカーペットの上に仁王立ち。
「忍風シノビチェンジ! はっ!」
 シノビメダルが回転するとともに、身体の表面に網タイツと青色のスーツを定着させていく。マスクが頭を覆い、口元が閉ざされる。
「水が舞い、波が踊る! 水忍! ハリケンブルー!」
 いつものクセで口上を口にすると、鷹介の視線を感じてとっさに恥ずかしくなった。
「すげぇっ」
「すげぇじゃなくてさ」ゴーグルを開けて、頬を膨らませた。「鷹介も早く変身してよ」
「ああゴメンそうだな」
 彼の裸は、なんていうか、すごく男らしい。マッチョの見本みたいな身体にきれいに割れた胸の肉。七海は立ち上がる彼を見上げて、その横顔を見つめてしまった。
「なあ、七海」
「なに?」
「オレが変身する前に、七海がまず犯されてみるってどうよ」
 彼が視線を送ってくる。七海は身体の熱を感じた。身体がスーツ出密閉されているからひどく熱くなってくるのだ。いつもはもっと通気性がよく感じられるのに、きゅんと身体は熱くなって火照っていた。
「いやっていったら?」
 七海は自分がことさら子供っぽい声を出しているのを感じた。ちょっと昔ならそんなこと思わなかっただろう。でも、ハリケンブルーに変身して、スーツが身体に密着していて、どうしようもない熱に汗がこみ上げていた。
 鷹介の腕が肩に回されて、ぎゅっと抱き寄せられる。薄いタイツを通じて感じられるのは少し冷たい彼の身体で、だから七海は自分が火照っているのをなおさらのように意識した。
「七海」
 彼の息づかいが聞こえる。
「鷹介」
「ゴーグルを閉めろ」
 彼の命令に七海は閉めた。彼女の顔は閉ざされ精悍な水忍の表情だけがそこに残された。そこへ鷹介は顔を近づけてくる。彼はそんなときいつも遠くをみるような目をする。七海はその目をいつもすごく奥深くを見透かされているように感じてしまう。
「七海」
 彼の声がもう一度聞こえて、彼の唇がマスクにぶつかる。硬いマスクに唇がぶつかっているだけ。それなのに、まるで唇同士がふれあっているような錯覚を呼び起こした。
「ようすけ……」
 鼓動が大きな音へ変わる。そのことを悟られたくなくて、左右に動こうとするのに彼の腕に押さえ込まれてしまう。変身しているから彼の手から逃れるのは簡単だろう――そこまで考えて、七海は鷹介のねらいに気がついた――ハリケンブルーになった七海は手のなかから簡単に逃れることができる。変身していない鷹介は物理的な力だけじゃないもので、七海を手のなかに納めることができる。
 彼女は薄暗いマスクのなかで、彼の口吻を受けた。彼の指先が首筋から胸、ベルト、スカート――股へ伸びていく。
「なんかすごくない?」
「ああ」
 声とともにみえた表情はかすかに笑っていた。
「鷹介」
「七海、すげえよ。ハリケンブルーが目の前にいるなんて」
「そんなの、いつものことじゃん」
 そういって、彼女は自分のことをみた。ハリケンブルーのコスチュームは確かに派手でだけど、七海たちにとってはいつものことだけど、少なくともふつうのことじゃない、そう思った。
 鷹介に少し乱暴に押し倒されて、ブーツも脱がないままベッドに横たわったとき、七海はこのシチュエーションプレイにハマっていた。彼はいつもより少し乱暴に七海を熱かった。その目はいつもよりもきつく真っ赤に燃えていて、だから七海もそれに応えた。
「キスしたい」
 七海はそういって、ゴーグルを閉じた。身体を起こしかけた鷹介の背中に腕を回し引き寄せる。
「んんっ」
 声ははじめだけあふれて、二人の舌が触手のように絡み合うまで時間はかからなかった。くちくちゅとわざとらしい水音がした。鷹介はスーツの上から胸をもんでいて、ブラなんかつけてない胸の頂点で乳首は硬くなって、スーツの表面――ちょうど編み目ができるあたりに浮かび上がった。彼はそれを見せてきて、恥ずかしさが身体にこみ上げてきた。
「なんか、今日の鷹介怖い」
「今日の七海はスッゴクエロい」
「もう」
 でもまんざらでもなかった。エロい感じがしていたし、彼に組み敷かれてもうどうにでもしてほしかった。彼は腿をつかんでもみくだして、胸をつかんで強くしたり弱くしたりを繰り返した。裸でされたのと同じことが、ハリケンファイバーの表面を通すと何倍にも感じられて、そのたびに七海は「エロくなって」いった。
「んんっぁ……あぁっ……ふぅっ……」
 肩を揺らし、足を開いたり閉じたりを繰り返す。七海は目を細めて身体のなかに入り込んでくる感覚を全身で受けた。腰をよじり、声をあげる。目の前でハリケンブルーの身体が鷹介に――男に蹂躙されていて、まるで身体がマゾヒストになってしまったようだった。
「よう、すけ……やだ」
 声に彼は耳を貸さない。彼の手はそんな弱い抵抗じゃ決して退くものじゃない。そう知っているからこそ、だから真っ青な身体に入り込んでくる腕――スカートの内側に添えられる指先はまるでイソギンチャクの触手みたいに股に絡んでくる。
「ああぁっ……ああ」
 身体が震える、まっさおなパンティ――が、ぐっしょりと湿り気を湛えている。今にもあふれ出しそうでスーツの外側からでもハッキリそれがわかるだろう。まるでお漏らししたおむつみたい――
「濡れてる」
 彼の指摘な正しくて冷たくて、耳たびが一瞬でかっと熱くなった。顔をそらそうとしたのに、顎が頭にあてられくいっと正面を向かされてしまう。
「いや」
「いやじゃない」
「いや、鷹介ちょっと待って――ん」
 今日何度めかのキス、唇は熱くななっていた。七海はその唇をむさぼるように吸った。
「脱がして」
 ぐっしょり濡れたショーツのうえから鷹介の指が執拗に揉み下してくる。異物がくすぐったさに代わり、電流を帯びたものへと代わっていく。
「ああっ……ああっ」
 浮かび上がりそうになる腰を抑えて、首を横に振る。その感覚から逃れようとするのに、そのことが許されない。熱い鼓動がさらに速度を増し、身体が上からしたまで敏感になっていく。鷹介の唇が頬からフェイスゴーグルの縁にやってきて、マスクの内側へ舌を伸ばす。まるでは虫類みたいだった。
 七海は反対を向いて首をそらした。彼の舌は顔から離れてちりちりとマスクの表面を伝っていく。耳たぶにわずかに残った彼の舌の感覚がその舌と合わさってまもなく彼の頭は首筋へと至る。
「あんっあ」
 まるで吸血鬼みたいに首を甘噛みをされた。ショーツのうえの指の動きが不意に細かくなり、鷹介の歯が太い血管をつかんでいる。
「はぁっい、いたっ…・・あぁ……んんっ」
 激しい血流は少し阻害されただけで過敏な反応を示した。意識がほんのわずかばかりつんと遠くなり、その刹那激しく弄くられている腿の付け根薄い繊維を通した向こうで腫れぼったく充血した肉芽は、時間を追うごとに敏感になっていく。
「んぁあああっ……待って」
 七海はショーツに添えられた手を払い、足を手前に引き寄せた。体育座りのような格好になって、スカートの裾をたくしあげる。ショーツはぐしょぐしょで網タイツには灰色のシミが大きく広がっていた。
「なんだよ」
 いつもの彼からするとずっと粗暴な声。そんな声もまた彼女のいとおしさを増幅させる効果しかなかった。
「脱ぎたい」
 組み伏せようとしてくる手をもう一度払い、七海はショーツをずり下げた。細い足の間を伝い青色の塊がつま先へと移動していく。
「もらい」
「ちょっと」
 心のなかでそうされるのではないかと思って、鷹介がブーツの先から落ちようとするショーツを掴み、その鼻に持っていくのをみて、顔が真っ赤に熱くなった。
「七海のにおいがする」
「ちょっと返してよ」
 腕を伸ばす。腿の全体が痺れて、ベッドからある一定以上の高さまでしか手が伸びない。
「これはオレのもんだ」
「違う、あたしの」
 無邪気な彼の声、スーツと同じファイバーで作られたショーツはぐっしょりとしていて、彼はそれを鼻にあててはずずずと音をたてながら臭いを嗅いでいる。
「じゃあ七海も嗅いでみろよ」
 伸びた腕をすり抜けて、青色の塊が七海の口の中に押し込まれた。
「ううっぐっ……ちょっt、何」
 とっさに吐き出して胸元にショーツが広がって目に飛び込んできた。口の中が酸味でいっぱいで――目の前には愛液と唾液のまざった下着があって、彼女が反応するよりも先に鷹介は手に取り、七海のみている前でそれを履いた。
「ちょっとやめてよ、もうヘンタイなんだから」
「へへっ、こんなときでもないとハリケンブルーのスーツなんて着られないからな」
 自分のだってそんなに変わりはないじゃない。いいかけて、それがばかげているとわかって、彼の股間に密着している下着と、その横から出ている生殖器をみて、七海はそれがほしいと思った。
「ねぇ、鷹介」
 丸めていた足を開いて、M字に左右へ開いていく。七海は身体の柔らかさが自慢で、ほとんど水平まで身体を開くことができた。青い下着と彼のモノをみたまま、大きく開いた足の付け根に手をかけ、左右に押し開いていく。
 濡れたタイツは幾分か耐久力が落ちていて、だから引っ張るとまるでスナックの袋みたいに破れていった。
「すごいにおいだな」
 顔を近づけようとする彼の頭を手で押さえようとすると、その腕がふりほどかれる。両腕を掴まれて、鷹介は身体を起こす。七海はバンザイ姿勢になって、脇を冷たい風が通り抜けていった。
 彼の熱い目線を浴びて、彼の右手が七海の手首から離れる。スーツの裂け目にあてがわれたその右の指先はギタリストみたいに細くて、濡れた茂みに絡みついてきて、クレヴァスの縁までやってくる。なでつけるようにあたりに触れると、彼は腰を起こして亀頭の先を七海に近づけていった。
「ああぁっ……」
 異物を身体に受け入れたとき、彼女は背中をえびぞりにして目を細めた。違う体温で、すごく硬くなったものが身体のなかに差し込まれて絡み突いてくる。
「はぁっ……あんっ……ああぁ…くぅっ……」
 奥まで入ってそれからすぐに出口まで戻っていく。鷹介の視線を浴びてもう一度両手首を掴まれる。逃げられない姿勢になって、唇をうばわれた。上唇だけに触れてじらすようなその仕草に七海は頭を傾けて追いかけていく。身体を動かすと、彼のモノは奥まで入り込んでいく。血管の一つずつが微細に身体に絡んでくる。抽送が二度、三度と続き、最初はゆっくりだったのが彼が高揚するにつれ、徐々に速度を増していく。
「七海」
「鷹介……」
 彼はあげたままの腕に顔を近づけ、その舌の先でタイツを舐め始めた。身体の内側のラインに沿って冷たい感覚が手首のあたりから脇へとおりてきて、くすぐったい。
「はぁっ……くうっん…あぁっ……あぁ」
 くちくちゅ、音が身体の中からあふれる蜜の多さを物語っていて、彼の動きはいったん早くなった後に遅くなって、突然はやくなったりした。
「くすぐったい」
 身体を揺らすと、彼は強く身体を押しつけてきた。男根はさっきよりも大きくなったように感じられた。
「んんっ」
 身体の中を行き来するうちにビリビリと電流を帯びるような感じがした。押しては引く波のように散漫に身体のなかに満ちていくものがあって、七海は口を開けたり閉じたりする。唐突にぴくっと身体が震えて小さな波が身体の中に満ちて溶けていく。
「イッた?」
「かも」
「かもって」彼の設問口調。
「イッたよ。イッちゃった」
 その言葉に鷹介がベルトを掴んできた。腰がもちあがり、七海の身体に鷹介のものがいっそう奥へと入ってくる。
「でも、足りない。もっと奥まで突いて」
 演技半分本音半分と心のなかでつぶやいて、彼に身体を近づけ胸を近づける。波は大きく迫って達して、だけどまだまだ足りなかった。ちょっと前七海ははずかしくて、そんなこと決して言わなかった。だけど、いまは躊躇なくおねだりをしていた。彼女は口を開いて笑って、そのたびに身体がひくひくと息づいて、彼の抽送は先ほどよりも早さを増して、すこし乱暴になってきた。
「あぁんんっ……ちょ、い、いたいっ……」
 抜き差しは次第に奥へと移っていく。体温が同じになって、たくさんの蜜が絡まって、ぞくぞくして彼は七海の声を無視して、だから少し痛くて、だけどその感覚も腫れぼったい心地よさに紛れていって、ただただ心地よさが身体にあふれていく。
「七海、あぁっ」
 その声は彼がもう限界に近づいていることを伝えていて、だけど七海は身体の力がうまく入らなくてベッドで横になって腰を揺らしていることしかできなかった。
「鷹介」
 彼に名前を呼ばれると、呼び返したくなる。そのたびに切なさgで身体のなかはいっぱいになってくすぐったいような溶けちゃうような感覚で、さっきの波が嘘みたいにむずかゆさでいっぱいになって、電気は強くなっていく。
「あっ、そとに出して」
 言葉に彼は耳を貸さない。冷静さとどうでもいいと思う気持ちが一緒に混ざりあい、彼女はもう一度開きかけた口を閉ざした。二人の腰はリズミカルに動く。七海は大きく開いた足で彼の身体に回した。その姿勢がまるで蜘蛛かなにかみたいに思えた。身体の中が真っ赤な感覚で覆われて、真っ白に染まろうとしてた。七海の目の前で、彼は達して、その瞬間にあっと声を漏らした。
「ううぁっんんっ゛あぁっ……!!」
 鷹介の精を受けて、妙に冷たく思えて、だから七海はいっそう高ぶった。中に出されたら困るのに、そのことがいっそう彼女を彩って波はどうしようもなくなるほど高ぶった。彼がのけぞって七海に腰を打ちつけている間、彼女は背中をエビ反りにして、ただぶちまけられているものを受け入れることしかできなかった。
「ああんん、もうっ……ふぅっん……」
 ひくっひくっと彼の身体はとまることのない脈動を続け、七海の身体に刺激をそそぎ込んでいる。彼女は、腰を揺らし、淡い快楽の渦に身を横たえると、幸せな感じがこみ上げてきた。
 鷹介の荒い息づかいが聞こえる。彼は達すると同時に手を離して、だけど七海は抱かれるのを待っていた。もっともっと、身体は大きな渦と化してしまったみたいで、もっと彼を求めていた。

「七海の戦いかた、かわったとおもわへん?」
 おぼろさんはパソコンに映し出された画面をみて、傍らにいるハムスター ――無限斉館長に向けて言った。
 画面にはハリケンジャーとジャカンジャの戦闘が映し出されていて、レッドとイエローの一歩前に立ったブルーの激しい攻撃がマゲラッパをケチらしている様子がわかった。
「父ちゃんもそう思うやろ」
 戦いはいまのところジャカンジャに優勢で、二人が心配するところなどほとんどなさそうだった。特に七海の攻撃力はいつもの二倍にも三倍にもみえ、その圧倒的な力の前に敵も攻撃を躊躇しているようだった。
「まあなんだ。七海もいろいろあるんじゃろな」
「いろいろってなんやねん」
「そのいろいろじゃよ」
 無限斉は訳知り顔で言うと、画面のなかで起こる爆発をみてふんふんと頷いた。敵が一掃されて、三人は集まってハイタッチで敵を倒したことを喜んでみせた。
 おぼろは手元のポテチに手を伸ばす。ぱりぽりとかみ砕き、ハリケンジャーが強すぎるのもつまらんなぁとか、無限斉にしてみれば不謹慎な一言をいって、パソコンから離れる。
 無限斉はハムスターの前足をおろして、画面をじっとみていた。フェイスゴーグルをオープンにした七海の笑顔と、鷹介の表情をみて、彼らが吼太の目を盗んでは目線を交換しあうのをみて、こくりと頷いた。
 まぁそういうことは忍風館館長としては指導するところではあるが、あまり目くじらをたてるのも大人げない。彼はハムスターとしての顔をつり上げると、最後にブルーが差し出した手にレッドがそっけなくタッチする様をみて、にっこりと笑った。