ディーナスの毒

 ピンクのアンチハザードスーツに身を包んだ巽マツリ・ゴーピンクは逆三角型のバイザーからきりっとした強さの宿った瞳を露にしていた。高層ビル火災の現場、広々としたオフィスフロアを真っ黒に焼け爛れた建材を避けながら、歩いていく。既に鎮火しており、一酸化炭素は排出されている。
 レスキューツールを肩にしたマツリは、要救護者の有無を調べていた。バイザーの温度表示はまだ六十度ほどを指している。要救護者はおそらく危険なレベルのやけどを負い、動かすこともままならない状況にあるはずだった。
 兄たちは各階で同様の調査を続けていた。安全確認されたフロアで首都消防局のファイヤーマンが待機している。だが、まだゴーゴーファイブのいるフロアは油断がならず、アンチハザードスーツの人工筋肉がなければ、危なすぎて入ることが出来なかった。
 マツリは耳を澄ましていた。
 酸素マスクのフィルターを通して流れる自分の呼吸と、消防無線の耳障りなホワイトノイズ、可燃物がロウソクほどの血でパチパチ立てる音、その間から苦しんでいる人を懸命に探していた。
「ここは」ゴーピンクは息を呑んだ。「こんな部屋、図面に無いわ」
 重厚な木目超の重厚なドアを目の前に、マツリは見上げた。事前確認で大まかに把握していたビルの図面に、この場所は無かった。しかもドアだけが火を受けておらず、ピカピカに輝かせていて、おかしな感覚を覚えた。
「冷たい…」
 厚手のグローブを通しても、金メッキされたドアノブが冷気を放っているのがわかる。蝶番の軋みが鮮明に響いていた。無意識のうちに、胸が高鳴るのが解った。落ち着け、でも、この中に誰かいる気がした。
 ドアが開き、白煙が床に吹き付けた。ひんやりとした空気だった。完全に開けると、風の流れが変わり、内部に吸い込まれていくようだった。
「まさか、バックドラフト!?」
 火災現場で空気中の酸素量が減ると、火が不完全燃焼状態になり、そこに酸素が流れ込めば一気に大火になることがある。レスキューの初歩中の初歩だった。マツリはとっさにドアを閉めた。あと少しというところで、緑色の炎がガスバーナーのように噴き出した。だが、マックスパワーでドアを閉めた。どんと音がして、ドアが震える。
「ま、まずいわ……」
 不完全燃焼であれば、致死量をはるかに越える一酸化炭素が排出されているはずで、要救護者は既に中毒死するはずだった。だが、人がいるプロの勘と室内で炸裂する炎の振動に、言い知れぬものを覚えた。
 マツリは再び冷たいドアノブを掴んで、ゆっくりと開いた。意を決して中に飛び込んだ。
「あ、あれぇ!?」
 中はひんやりとしていた。炎の姿はどこにも見えない。白濁した煙が滞留して、なぜか冷えていた。視界が著しく妨げられており、向こうの壁はおろか、床さえよく見えない。マツリは鼓動が高鳴るのを覚えた。
 煙という感じがしなかった。まるで気化したドライアイスだった。その証拠にバイザーの大気成分表示は二酸化炭素が増えている。ここは冷蔵庫ではないはずだった。でも仮に大型のドライアイスが保管されていれば、その二酸化炭素が火災の炎症を食い止めて、この部屋が無事だった――のかもしれない。
 ぎーぎいいいいい、ばたん。
 蝶番が軋んでドアが閉じた。すると、ドアが滲んで、煙に溶けるようにして消えた。そこには壁などなく、鬱蒼とした煙が滞留していた。
「どういうことなの!?」
 マツリはこの部屋の謎をおぼろげながら悟った。ホルスターからゴーブラスターを抜いて中空に向けて構えた。ここは冷蔵庫なんかじゃない。敵の――災魔の罠だ。
「どこなの!? 卑怯よ!」
「オーッホホホホホ」
「その声は――ディーナス!?」
 災魔四兄弟邪霊姫ディーナスの不気味な声が、霧の中を乱反射してマツリの耳に届いていた。ゴーブラスターを構えたマツリはその所在不明の敵の声に、あちこち振り向いた。
「その通りよ、ゴーピンク」
 ステップを踏んで振り返ったゴーピンクの後ろから顔を出したディーナスは、マツリがその姿を見せる前に姿を消した。
「姿を現しなさい」
 その気配の方向へ足を進ませた。嫌な予感だった。霧に影がおぼろげながら見えた。構えて慎重に進む。だが、それは全裸のマネキンだった。
「罠?!」
「いいえ」背後からの声に振り返ったゴーピンクに、マネキンから本性を現したディーナスがその鋭い犬歯をむき出しにして襲い掛かった。あっ、そのときにはディーナスの姿は肩に迫っていた。
「あああああぁぁぁ――」
 アンチハザードスーツを突き抜けて、ゴーピンクの内側のマツリの白い肌に突き刺さったディーナスの牙は、その幼い面影残る末娘から血を吸った。ピンク色のスーツに鮮血が流れ、絵の具を溶かすように、霧の中に落ちて、ぽたっと床に跡を作った。
 マツリが一気に青ざめて仰け反った。ディーナスが後退する。犬歯だけが突き刺さったまま、スズメバチの針のようにどくどくと息づいていた。その左肩を抑えたマツリはふらつきながら、足を砕かれて倒れた。
 ディーナスが口元の血を舌で味わった。
「災魔の猛毒に耐えられるかな、ゴーピンク」
 にっこりと微笑む、マツリは床の上でもがいた。無事な右手が中空を掴んでいた。目の前が白黒した。
「何をしたの?」
「ちょっと味わってみたかったの、あなたの血を。お返しにちょっと猛毒をプレゼントしてあげたわ」
「うぐあぁわぁ…」
 マツリは酸素マイクの中に反吐を吐いた。口元につんとした臭いが立ち込めた。噛まれたアンチハザードスーツの左肩部分が融けはじめた。何重もの防火・耐衝撃熱圧繊維で構成されたスーツが、陰りを見せ、変色した。火で上昇する体温を抑制するジェル状の防熱剤が、ぱんぱんと音を立てながら、小さな区画ごとに破裂した。
 露出する肩には真っ白な犬歯が二本ささっていた。
「あああああっ! うわあああああああ!」
 肩の動きにあわせて動いた犬歯をディーナスが引っこ抜いた。つま先まで届くような衝撃に揺さぶられたマツリは頭がくらくらした。艶やかな肌に食紅で着色したように綺麗な傷口が二つ顔を見せていた。
「か、肩がぁ…うぐ…」
 腕で押さえた肩に冷気を感じながら、マツリは悶絶していた。防熱剤が傷口に猛烈に染みた。ディーナスの毒は血管の中で芋虫が這いずり回っているようだった。吐瀉物に満たされたマスクから合成酸素が流れてこない。血が頭に上っていく――反して不思議な高揚感を覚えた。ディーナスの存在はもう頭から消えていた。

「ナガレ、行くぞ!」
「解った、兄さん」
 ゴーレッド・マトイは予定時刻を過ぎても、マツリが戻ってこないことを訝しがっていた。しかも無線が通じず、遂にゴーブルー・ナガレとともに捜索にでることになった。
 俺の判断ミスだ、マトイは恥じた。フロア数があまりに多く、時間はあまりに少なかった。今はとりあえずマツリの無事を確認することだった。
 ゴーレッド、ブルーはマツリのいるはずのフロアに着いて、息を呑んだ。二人の回っていたフロアより破壊が激しい。ナガレを後ろにつけて、現場の啓開をしながら進んでいく。
「反応あり!」
 ゴーレッドは急いだ。二十メートル近くある梁が何本も横たわっている。その下にパソコンやコピー機、デスク、コーヒーメーカーなどが押しつぶされていた。その中に反応がある。
「ウワッ」
 機材をどけて、床下の水道管から水がふきだして、マトイのバイザーを濡らした。煤や塵がついてアンチハザードスーツを真っ黒にしていった。
「ウヲオオオオオオオ!」
「……いた」
 ナガレが声を上げた。一抱えもあるような梁をゴーレッドが持ち上げ、その下に横たわっているピンクのスーツ――おそらく、マツリは脆くなった場所に足を踏み込んでしまい下敷きになったのだ。
「マツリ!」
 肩が破壊されていた。マトイがあたりの建材やオフィス機器をどけると、横に来たナガレがゴーピンクの変身を解除した。倒れたままの姿勢を保持して、オレンジ色のジャケットを引き裂いた。パステルピンクのブラジャーを露にした裸体を指で触れて、骨や臓器に異常が無いか調べた。
「うぐっああぁ…」
 気道を確保しようと頭を少し動かしたマトイのバイザーに、マツリの嘔吐がかかった。その顔が少し安らかになったようだ。
「肩に不思議な傷口があるがそれ以外は大丈夫だ」
「よし、ダイモン! 聞こえるか? メディックを待機させろ!」

「なんてむごいことを」
 臨海総合病院の手術室の前で、三男ショウが言った。四男ダイモンにいたっては、今にも泣き出しそうだ。
「おまえらしっかりしろ!」変身を解除しても、マトイとナガレは真っ黒だった。レスキューを終え、ようやく病院にやってきたのだが、マツリの手術はまだ続いていた。
 アルミドアの上にある「手術中」の赤い表示が消えた。低い音を立てて、白髪の医師が手術着を身にまとったまま出てきた。
「先生! マツリは! 妹は無事ですか?」
「あなたたちはご兄弟ですか?」医師は口元のマスクをはずしながら返した。「正直言いますと、巽マツリさんは非常に危険な状態にあります。外傷はほとんどないのですが、肩から何らかの毒物を注射された痕があります。私の担当は内科ですが、今、神経科医などと共同で毒物の特定に急いでいます」
「なんだって」ダイモンが素っ頓狂な声を上げた。
「毒物って先生、妹は火災現場で」
「知っています。ゴーゴーファイブでしたら、もしかしたら災魔一族が関係しているかもしれません。お兄さん方もなんらかの方法で調べていただけますか?」
「はい、解りました……」
 医師はいくつか付け加えると、では急ぎますので、と前置いて手術室に戻っていった。失意にくれる四人が可愛い妹のために毒物の調査をするため、病院の玄関にさしかかると、妖しい雰囲気だが、品のいいスーツ姿の女が迫ってきた。
「巽さんでいらっしゃいますか?」
「あ、はい」
「わたくし、国立遺伝子研究所のものです。実は妹のマツリさんのことを、医局で聞きました。その毒物特性が、わたくしどもの扱っている危険物質によく似ていると思いまして――」
「なんだって? いや、その危険物質というのは」
「それが先月、謎の窃盗団に試験管一本分の危険物質を奪われまして」
「それだ!」
「もしよろしてければ、車のノートパソコンがありますので、それで概要を説明できればと」
 そういわれて女に付いていった四人は、駐車場の奥に停められた白い国産のステーションワゴンの前まで来た。そのとき突然、ワゴンの中からインプスたちが現れ、抵抗するまもなく四人は捕縛されてしまった。
「ディーナス! てめえだましたな!」
 スーツの女はディーナスの姿に戻り、地面に押さえつけられた四人の前に立ちはだかった。
「ふふん、呆気ないわね。そんなことでは可愛い妹はどうなってしまうでしょうね?」
「マツリに何をした?」
「何をしたんじゃないわ、何をするのよ」
 ディーナスは顎でインプスたちに命令した。四人がギャグをはめられて、車に押し込まれた。窓に黒いフィルムが張り巡らしたワゴンは駐車場を出ると、漆黒に消えた。

 白濁した意識をマツリは見ていた。長い時間かかって、天井にある黄色い蛍光灯の光を認識した。
「目覚めましたね」
 ベッドの横で椅子に座っていたナースがマツリの様子に気づいて声をかけた。「ここは?」
「病院です。あなたは火災現場で事故に巻き込まれたんです」
「えっ…」
 マツリの手が無意識に肩に伸びた。襟からパジャマの中に手を入れる。そこは凸凹した感じがした。
「いま、先生を呼んできます」
 ナースが出て行った。マツリは虚ろな意識に戻った。
 さまざまな検査が行われた。質問されて答えていると頭が痛くなる。気づいたら夜になっていた。消灯時間になると、暗くなった病室に孤独を覚えた。兄たちの姿がどこにもなかった。不安に包まれたまま、真夜中になった。
 突然、テレビの電源がオンになり、聞き覚えのある嫌な声が耳に届いた。
「オホホホ! ゴーピンク! 元気かしら?」
「ディ、ーナス?」
「その通り。これを御覧なさい」
「お兄ちゃん!」
 マツリの四人の兄は十字架に磔にされていた。
「ううっ……はなせぇ」
 マトイの悲痛に耳を覆いたくなった。「お兄ちゃん……」
「ゴーピンク? 解るわよね。午前三時に都南区の倉庫街にある澤木乳業の第三工場に来い。もし来なければ、尊敬するお兄さんたちは――」
 ディーナスが剣をダイモンの首にやった。抵抗するダイモン、一番年齢の近い彼とマツリは一番親しかった。
「この先が見たくなかったら、午前三時に澤木乳業の第三工場よ?」

 看護婦の制止を振り切って、マツリは夜の街に出た。オレンジ色のレスキュージャケットにホットパンツ姿の彼女は、タクシーを捕まえると、港南区の歓楽街で降りた。そこから歩けば、すぐ倉庫街に着く。マツリの鼓動はバクバクと音を立てていた。
 澤木乳業は倉庫街の北にあり、広大な敷地にいくつもの工場を持つ一大ミルクメーカーで、牛乳とヨーグルトなどの乳製品を扱っていた。
 敷地の金網をジャンプで越えると、第三工場と書かれた建物を見上げた。大きな建物だった。五メートルほどもある扉を開けると、中に足を踏み入れた。つんと鼻を突く臭いがする。牛乳の腐った――豊満なチーズの臭いだった。
 重機が不気味だった。全自動稼動している機械の音がしたが、人気はなかった。マツリは足元がふらつくのを覚えた。毒物――医師は言わなかったが、その引っかかる物言いで解った。
 ディーナスの毒――マツリはウォークイン型冷蔵庫を見つけると、そこに強い何かを感じてロックを解除した。
「まつりい!」
「お兄ちゃん!」
「ようこそ、ゴーピンク」
 案の定、ディーナスはそこにいた。磔の四人がインプスたちの銃剣を首筋にあてられていた。
「おっと、一歩でも動けば、お兄ちゃんの命は無いわよ?」
「あたしをどうする気なの?」
「さあね。あなたは言うことを聞けばいいのよ」
 ディーナスが笑った。舌を噛んだマツリは状況を観察していた。罠だと解って飛び込んだ罠だけど、どこかに絶対何かウィークポイントがあるはずだった。インプスが彼女を拘束すべく迫ってきた。
 インプスはマツリを後ろ手にして手錠をかけた。四人に銃剣を当てていたインプスが引く。ディーナスが満足した様子で近づいてきた。これで、お兄ちゃんたちは大丈夫。
「あーら、目はまだ勝気ね」
「あたしは勝つわ」手錠をかけられる寸前に起動したゴーゴーブレスに向かって声を上げた。「着装!」
 一瞬でゴーピンクのスーツを着装したマツリは脇のインプスを屠ると、ディーナスにハイキックを浴びせて、マトイたちのもとに飛び出した。
「ううっ…」
 胸に激痛が走った。左手でそこを抑えながら、インプスたちを倒し、マトイのギャグをはずした。
「マトイ兄ちゃん!」
「マツリ、お前大丈夫か?」
「うん…大丈夫だから、安心して」
 肢体の固定具に手を伸ばすと、全身を突き抜ける痛みがゴーピンクを襲った。
「あああぁぁ…」
「どうしたんだ! マツリ?」
「ううん、なんでもない」
「我が毒に冒された身体で、激しいアクションなんかすれば、一気に寿命を縮めるわよ」
 ディーナスは余裕綽々と言った様子だった。はじめから仕組まれていた。マトイの十字架のもとに突っ伏したゴーピンクにディーナスが迫った。
「おい! ディーナス、てめえマツリに何をしたんだ」
「安心しなさい、ゴーレッド。あなたにもすぐ解るわ」
「あたしは負けないわ」
 掴んだスーツに大きな皺が寄っていた。マツリはよろよろと立ち上がった。
「ファイブレイザー、ガンモード!」
 鉄の扉も焼き切るほどの高熱レーザーの引き金を引く。
「ウワッ」まるでディーナスはあたりに来るようだった。
「スティックモード!」
 警棒モードに変更すると、マツリは一気に走った。
「えい!」ゴーピンクとディーナスが交差した。
「たあ! ……ああ」
 ファイブレイザーを振りかざしたまま、ゴーピンクは凍りついた。鳥肌が立ち、脳が揺さぶられたときのような気持ち悪さが襲ってきた。ディーナスの悪魔の微笑みが、ゆっくり立ち上がって、逆三角のバイザーに浮かび上がる血走ったマツリの眼をよく観察した。
「きゃっぁ!」
 ディーナスの手が光って、水流が巻き起こると、ゴーピンクを包んで、壁までの数メートルを運んだ。
「あああっ!」
 床にファイブレイザーが落ちる音がした。ゴーピンクを包む水流が凍りついて、マツリの肢体を捕縛した。身震いに襲われ、胸の激痛に心臓が破裂しそうだった。内から燃えるような恐怖が襲ってくるのに、全身が凍りつき始めていた。
「インプス、おいで!」
 直属のインプス親衛隊と呼ばれる女インプスたちが、ディーナスの命令に従い、マツリを担ぎ上げた。冷蔵庫の扉が開き、真っ白な冷気が外へ漏れていく。そこには半分が床下に埋められたタンクがあった。直径十メートルほどもあるステンレス製タンクは低いうなり声を上げながら、今もなお稼動していた。
「う、うわあ、あああぁぁ!」
 全身の痛みに叫び声をあげるゴーピンクを担いだ女インプスたちがタンクのところまで来た。
「お前ら何をする! マツリを離すんだ!」
 マトイの声が工場中に響いていた。
「チーズにするのよ」
 タンクのスライドにインプスの一匹が手をかけた。中にはまだ半液体の牛乳が攪拌されていた。強烈な臭いが立ち込めた。
「まずはこのマスクをはずしてあげなきゃ」
「あああっ! いやああああ!」
 ナックルのようなものを手にしたディーナスがゴーピンクのバイザーに拳を込めた。ガシャン! 合成金属製のバイザーにいとも簡単にひびが入った。
 強打されたマスクの破片があたりにきらきらと飛び散った。
「はああぁ!」
 最後に残った酸素マスクを強引に引き剥がすと、よだれが糸を引いた。マツリは白目を剥いて、何かを呟き始めた。
「お兄ちゃんたちもすーぐにチーズになっちゃうから安心してよね」
 子供をあやすような口ぶりで、ディーナスが言った。インプスたちが軽々とゴーピンクの肢体を巨大攪拌器の中に放り込んだ。
「やめろおお!」
 ゴーピンクのアンチハザードスーツが強烈な臭いを発するペースト状の牛乳を浴びて、めちゃくちゃに汚れた。気持ち悪い液体を喉もとの奥まで飲み込んでしまい、即座にマツリは吐き出した。白濁した液体がアンチハザードスーツを汚す。
 インプスの一人が水泳でもするように飛び込み、ゴーピンクを押さえつけた。ペースト牛乳を喉を押さえて流し込み、マツリの喉が震えた。胸をもまれて、痒いような痛いような刺激を覚えた。
「ああぁん、ああん、あああ!」
 無意識にマツリは悶絶し始めていた。
「インプス! 戻っておいで」
 ディーナスが命じると、インプスは素直にタンクのはしごを上った。マツリはしばらく浮かんでいたが、生も尽き根も尽き、毒の症状で全身麻痺に陥り、そのまま沈んでいった。
 鼻をしかめたディーナスが満足そうな表情でそれを見終わった。こんな腐れミルクでライバルを殺すつもりなど毛頭無かった。