強奪!超力パワー

「最近のオーレンジャーはますます強力になってきたな」
 バッカスフンドは月面のバラノイアの拠点で、先日の戦いのムービーを再生させていた。
 皇帝にとっていかんともし難い状況だった。地球制服の宣言まで発布しながら、オーレンジャーなどに苦戦を強いられていたのだ。
 相手はたった五人と思って見くびったのが間違いだった。奴らは昔バッカスフンドを滅ぼした超力で武装し、洗練された格闘技を自在に使いこなし、マシン獣を次々に倒していく。
「あーら、またそれを見てるの」
 ヒステリアは扇を使いながら、彼の前に歩み出た。
「人間は愚かだ。だが、見くびっていたのだ」
「あなたらしくない、弱音? 人間なんかに」
「そんなことはない! 人間なんか一発だ。だが、超力が邪魔だ。超力のせいで、オーレンジャーを倒せない」
「あーら、馬鹿ねえ」ヒステリアは笑う。「超力のせいなら、超力を利用すればいいじゃない?」
「利用?」
 ヒステリアは扇を畳んだ。バッカスフンドは妻の言う意味が解らなかった。機械だから相手のデータを読めばいいのだが、高度に発達した機械には失礼に当たる。
「そうよ利用。オーレンジャーの超力を奪って、超力で武装した最強のマシン獣を作るのよ。超力で勝てないなら、超力で倒せばいいわ」
「そうか……だが、そんなことが出来るのか」
「あんたはだから馬鹿なのよ! 人間の機械で超力が制御できるんだから、マシンの機械で超力を制御するなんて、朝のオイル補給よりすぐできるんじゃないの!」
「おお!そうか! ヒステリア、さすが私の妻だ」
 バッカスフンドはヒステリアのアイディアに感銘した。ヒステリアのコンピューターの方が優秀らしかった。彼は早速、開発に取り組んだ。マシンの開発となれば、ヒステリアの何倍もの速度でこなせる。
 あっという間に、マシン獣を作り出す手腕をヒステリアが背後から覗き込んだ。
「あんた、ラムダの値を0になさい」
「お、そうか! その手があるな!」
 バッカスフンドは開発をものの三分で終らせた。起動したマシン獣がのそりのそりと歩いてくる。
「マシン獣バラスーパーだ! オーレンジャーを倒してくるのだ」
「了解しました」
「あんた、待ちな!」ヒステリアは扇で二人を制した。
「なんだ! これでオーレンジャーを殲滅できる」
「バラスーパーは実験していないわ」
「実験などしなくても勝てる」
「その浅はかさだから負けるのよ! まずオーレンジャー1人を血祭りにあげるのよ!」
「オーレンジャーひとり……」
 バッカスフンドは思いもよらず考えた。それもそうだ。実験だ。誰にしようと思った。
『とう、えい! バラノイア覚悟!』
 そのとき、つけっぱなしになっていた戦いの画面がバッカスフンドの視界に入った。生意気なピンク色のヒロインが中国拳法の優雅さでバーロ兵にヒットを決めた。
「よし、バラスーパー、オーピンクを血祭りにあげるのだ」
「了解しました」

 バラスーパーはオーレンジャーの超力を奪うため、オーレンジャーと知りうる限り同じ機能を持っていた。通信もその一つだった。バラスーパーは、オーレンジャー無線の周波数をECMで潰すと、命令どおり参謀長の声色を使って、オーピンクのブレスに送信した。
『桃! 大至急第三採石場に急行してくれ、バラノイアだ』
 夢の中から聞こえていた声で、桃ははっと目覚めた。瞬間的に起きられるのは軍人の悲しいサガだった。
「参謀長、了解しました!」
 桃は即座に部屋を出て、階段を下りながら、パワーブレスをクロスさせた。超力が全身をまとい、OHスーツとなって定着した。ピンクジェッターに跨ると、ターボブーストシステムが紫色の煙を発した。

 ――第三採石場
 ここ数年、採石に利用されてない荒涼とした砂利地は夜中の霧が立ち込めていた。オーピンクはピンクジェッターで採石場に突入した。不意に、霧の中からレーザーが弾着して炎があがる。
「超力変身!!」
 繊細だが強引なバイクテクニックでレーザーを難なく避けると、スキージャンプ状の斜面へ速度をあげた。
「とう!」
 ピンクジェッターは正確にレーザーの発射体へ向かってジャンプをした。オーピンクはジェッターを離れると、大きく跳躍する。キングブラスターを抜いて、霧の中へ放つ。
 視界が開けると、バーロ兵が次々に倒れていく。優雅な姿勢で地面へ降り立つと、バーロ兵は敵を囲んだ。
「あんたたち、あたしの睡眠を邪魔して許さないわ!」
 オーピンクご自慢の手刀にあっという間に三体が倒れた。サークルディフェンサーを取り出すと、胸の前に構えた。
「疾風超力ディフェンサー!!」
 サークルディフェンサーを構えて空中に躍り出た。バーロ兵が真っ二つになり、崖から転がり落ち、爆発して一気に始末されていく。
「どんなもんですか!」
 あたりに敵が見えなくなると、桃は不審に思った。誰もいないのだ。
「隊長ー! 樹里ー!」
 人気自体無かった。オーピンクは耳に手を当てて、無線を開こうとした。
「きゃっ!」
 前方から現われた光る鞭がしなる。寸前で避けたオーピンクが砂利の上を転がる。
「誰なの?」
「オーピンク、私のフィールドへようこそ」
「お前は?」
「私はバラスーパーだ。オーレンジャー最強の刺客」
「最強? オーレンジャーは無敵よ」
「そうだ、無敵だ。オーレンジャーが無敵だから、私も無敵だ」
「何言ってるか、さっぱり解らないわ!」
 桃はバラスーパーがいやに余裕綽々なのが苛立った。もしかして……罠? どうやらそのようだった。状況はまずかった。
「とにかく、オーピンク、今日がお前の最後だ」
 バラスーパーはジャンプして、こちらに向かってくる。しかし、その動きは散漫そのものだ。オーピンクは三歩下がって、軽くジャンプした。敵の肩を掴み、こちらに引き寄せ、後ろへ飛ばした。
「ぐはっ!」
 オーピンクは時間を置かずにキックを浴びせた。バラスーパーの頭が大きく曲がった。「どんなもんですか!」
「ふん、どうやら、かなり強いな」
 バラスーパーはオーピンクに見下されていた。桃はキングブラスターを抜き構えた。「降参しなさい!」
 そのときだった。不意にほんのわずか眩暈がした。まだほとんど寝ていなかった。その前は一日勤務だった。戦闘中なのに意識が割れた。
「あいにく白のハンカチは持っていない、――今だ、くらえ!」
 桃の油断をバラスーパーは難なく見抜いた。キングブラスターを奪い取ると、それを口に放り込んだ。カーボン・ナノチューブ並に強靭な牙が銃身を真っ二つにする。
「しまった!」
 中に含まれた超力が光になって牙の間から漏れている。だが、次の瞬間それは消えた。同時にバラスーパーの身体が光に包み込まれた。オーピンクが気づいたときには五メートル吹き飛ばされ、頭を打っていた。
「ううっーいったーい!」
 何が起こったかわからなかった。桃は光と渦を巻く煙の中から、バラスーパーが現われるのを見た。その姿は先ほどののろのろとしたイメージがなく、力強かった。
「超力装填! グハハハハハ! 形勢逆転だ!」
「形勢逆転、まだまだよ!」
 オーピンクは尻を持ち上げた。サークルディフェンサーを――
「うまそうだ!」
 バラスーパーの鋼鉄の舌がカメレオンのように伸びて、サークルディフェンサーを掴んだ。機械らしくないその生ぬるさに、桃は手を離してしまう。
「しまった!」
 轟音が響き、サークルディフェンサーが牙に噛み砕かれた。呆気に取られている桃に、バラスーパーはますます力強くなったようだ。
「どういうことなの!?」
「オーピンク、死ねぇ!」
 バラスーパーが跳躍――したあと何も見えなかった。腹部に強い衝撃を受けたあと、背骨がへし折られるようなショックがして、腕がへし折られる――OHスーツに守られてなんとか無事だった――激痛が走ったあと、地面に倒れていた。桃は目の前に転がる小石に目を丸めた。
「くっううっ……そんなオーレンジャーが」
「私は超力をエネルギー源にしている」
「!?」
「そうだ、超力で動く、お前等と同じだ」
「そんな……超力は正義のための」
「残念だが、利用させてもらった」
 バラスーパーは口を広げた。武器と同じように噛み砕かれる恐怖――その中に大きな砲門が開いている。逃げなきゃ、とっさに腰が浮かんだ。
「くらえ!」
 直径二メートルに及ぶ光の渦はオーピンクを飲み込んだ。
「きゃああああああああああああああああ!」
 悪用された超力の破壊力は想像を絶していた。光の中で、桃の身体はOHスーツに守られていた。だが、スーツそのものは緑色の炎を放っていた。あっという間にピンク色の表面層が燃え上がって、細かい区画や回路や基板やICが浮かび上がった。
「あああ――ああぁっ――っ!」
 綺麗な卵形のマスクは無残に変形していた。丸型バイザーの表面のメッキが燃えて、その中に丸尾桃の素顔が明らかになっていた。
 桃は一時間以上も身体が燃え上がるような恐怖と痛みを受けたような気がした。そして三十分以上もかけて、身体が地面へ倒れ込むような気がしていた。
「まだ終わりではない」
 バラスーパーは身体から一本のチューブを取り出すと、それをオーピンクの股間に装着した。朦朧とした意識の中で桃はそれを見て、股間の部分に固いものの感触を覚えていた。
「これは効率的に超力を吸収するチューブだ」
「そうんな……」
「もうお前に勝ち目は無い」
「ああっ――いやあぁ――」
 バイザーに恐怖に怯える桃の顔があった。炸裂した衝撃はスーツだけでなく、丸尾桃自身も揺さぶった。彼女自身の体にも超力が眠っており、ものすごい吸引チューブのエネルギーは、知ってか知らずか股間に当てられ、クリトリスにものすごい衝撃を与えた。
 桃は目の前が真っ白になって、圧縮された映像のように視界が見えた。
「ちょ、超力が!! あああっーーーっっぁぁぁぁぁ!」
 それは全身がかきむしられて、ミキサーでかき回されるみたいだった。
「あああああああぁーーーーやめてぇえええええええええ!」
 既に桃には泣き叫ぶ以外にすることは無かった。バラスーパーはオーピンクを背後から押さえつけ、しっかりと吸引チューブが外れることが無い様おさえていた。
「だめええぇぇぇーーーそれ以上しないでーーーーー」
 桃は耐え切らず、ゆっくりとヒップを揺らし始めた。バラスーパーはその尻をしっかりと押さえ込んだ。四つんばいになったオーピンクの背後にバラスーパーがいる図は、あまりにシュールだった。
「ああああ……だめ……」
 戦士として軍人としてのプライドと神聖な部分を踏みにじられるショックにオーピンクは我を失った。意識が潰えていく。桃は全身から力が抜けた。超力が股間から抜けていく。
 抜けていく超力の濁流はナイアガラ瀑布のようだ。
「ああ…もうだめ……ここんな」意識は止まらなかった。
「――ぁ――――」

 * * *

「ちょっと強すぎたな」
 バラスーパーは股間から吸引チューブを引っこ抜くと、その先端の汚れを拭いながら呟いた。その汚れがマシン獣には何なのかわからなかった。OHスーツをまとったまま、失神したオーピンクを見下した。レーザーで燃やしたからもうほとんどピンク色でもなかった。
 再度、口を開いた。砲門のエネルギーは十分にあった。
『お、おい、待て!』
 バッカスフンドの声にバラスーパーは気づいた。
「は、なんでしょうか、皇帝陛下」
『そいつは持って帰るのだ。情報を色々聞き出す』
「了解しました」
 バラスーパーはあくまでも命令に忠実に従った。もとよりマシン獣に心は無かったのだ。
「はぁ…はぁ…はあ……頭が回る」
「まもなくバッカスフンド様の玉座に着く」
「いやぁ…」

 ――その頃、月面ではヒステリアがバッカスフンドを叱っていた。
「実験体を殺したら駄目ではないですか! 人間は死んだら用がなくなる。でも、生きていたらなにでも使えるのよ!」
「あ、ああ。そうだな」
「あなたはいつもああそうだな、ああ、ああって、たまには別のことが言えないの!?」
 ヒステリアのヒステリーは止みそうに無かった。