禁断・香水の匂い
   
   
   
 千里がみくの言葉に笑って頭を上げた。そのわずかな間にその胸に触れた。
「きゃっ」
「やぁ~、牛みたい」
「ちょっと何するのよ!!」
 おもわず手を払いぬける千里,修学旅行二日日、朝からのネジレジア出現で汗だくの二人は、乳搾り体験学習から戻ると露天風呂へ向かった。
「うわー、すごーい」
 このホテル最大の売りがかけ流しの露天風呂だった。タオルを身体に当てて外へのサッシあけた二人は、予想以上の大きさに目をまるくしていた。
「予想以上ね」
 千里は屈んで手を入れた。ヒノキの桶を取り湯をとった。タオルを起き、肩から流した。メガスーツを着ると、いつも汗だくでシャツの張り付く感じが気持ち悪い。お湯はそんな感じを流してくれるように感じさせた。
「きもちいいー!」みくも身体を湯で流していた。微笑んだ彼女を千里が見ている。「――ん? どうしたの?」
「ううん、全く、ネジレジアもいい加減にしてって感じよね?」
「うんうん! ほんと、ありえない」
 壁の向こうは男湯で、健太たちのはしゃぎ声が聞こえていた。
「みく、あんなこともうやめてよね。『千里の胸みたいに柔らかいー』なんて」
「だって、本当に柔らかかったんだもん。千里の胸」
「あのねー」
 乳搾り体験学習の際、仲間のいる前で牛のお乳を千里の胸みたいとみくが表現して、千里は冷や汗を欠いた。
「……まあ、いいけど」
 昨日の晩、二人でふざけあって胸は触ったし何はしたしだったけれど、それを健太や瞬の前で言うのは憚られ、保守的な耕一郎がきいたら、そのまま卒倒しかねなかった。
「ねえ、千里?」頬を染めたみくは肩にお湯を掛けながら声を細めた。
「なあに?」
「お風呂でね、やるとすっごくキモチいいんって」
「何を?」
「あれよー、あれ」
「あれ?」
「ほうら」そういって、みくは自らの胸に手を伸ばす。紅色の胸丘の上で乳房が揺れている。
「あたしで、試してみる?」
 軽い物言いに千里の顔を見る。多少のぼせて赤らめた顔が挑発的だ。壁の向こうで男の子達が馬鹿笑いをしている。千里の身体は湯に沈んでいる。
「千里ってダイエットとかしないの?」
「運動するけど、したことはないなあ」
「うそう?」
 みくは恐る恐るといった感じで、千里の腰のくびれに手を伸ばす。ティーン向けファッション誌の「夏までに五キロ!」特集の熱狂的読者としては信じられなかった。よく洗ったピーマンの手触りがした。
「嘘じゃないよ~、中学までテニスしてたでしょ、耕一郎みたいに筋トレしないけど、それなりには動いてるし、それに……メガスーツで戦うと暑いのよ」
「えーでも、あたしだってメガスーツよく着るのに」
「それで終わると、ジュース飲んでクッキー食べるんでしょ?」
「…………ううっ」
 そういえば、みくには思い当たる節があった。ネジレ獣を倒して汗だくで変身を解いて、部室に戻ってきたとき、千里はウーロン茶を頼み、みくはセブンアップを買った。別の日にお洒落なカフェを見つけて二人で行ったときは、千里はコーヒーにローファットシュガーとブルーベリーヨーグルトで、みくはカプチーノと大きな苺のショートケーキだった。
「図星でしょ」
「ううっ……ひどいよー、千里」
 千里が身体を横に倒した。身体がわずかに近づいた。みくは手を離すと、その身体を引き寄せた。温泉の中でぞくぞくしていた鼓動がますます早くなった感じがした。頷きあって、目を閉じて、唇が重なるのをどちらからともなくした。
 健太の叫び声がして沈黙が断ち切られ、二人は目を開け笑いあった。
「本当にキモチいいのかな……?」
 千里が低い声できいた。みくは再びくびれを取り、さすりながらその腕をゆっくり下へとおろしていった。海草のように湯の中で左右に蠢く、千里の産毛がみくの指に絡みついてきた。その中に指を入れていき、臀部はまるでイソギンチャクのような手触りだった。
「ぁ……ぁぁ……っ」
 指がクマノミのように分け入っていく。温泉によって血行の良くなって老廃物の少なくなって、まるでそこが大きな穴であったかのように、いとも簡単に指が膣の中に入り、千里が大きく息をつくと、みくの指の第一関節ぐらいのところに、ぐっと扉が挟まってきた。
「うぅく……ちょっと、みく、何してるのよ……す、す」
「す?」
「うそ……ああぁ、ちょちょ…っ……んん」
 一呼吸の間にみくの指は関節一つ分もぐりこむ。入っていない指が産毛から膣の辺りを撫でた。皮膚がお湯でふやけてひだひだが逆立っていた。
「はあぁ……んんんんっ」
 千里の腕がみくの身体にすがりつき、頭が肩に乗った。千里は喘いだがその声は押し殺されていた。
「千里~、きもちいいんだ」
 掛け流しの湯の水音が大きいとはいえ、一枚の壁を隔てた向こうにはいつもの面子が騒いでる。男の子だから当然壁の向こうから変な声がすれば――そんなことは考える間でもなく解る。
「どう?」
「すっごいよ、みく」
 千里は笑っていた。みくが指を動かすたびに顔をしかめ、叫びそうになるのを押し殺し、短く小さな声をする。壁の向こうから「俺も入るぞ」という大岩先生の声が聞こえた。
「あ……そこ……そこだめ……」
 海老反りに入れた指で膣壁の奥のほうを引っかくと、千里の腕に力が入り、みくの肌に爪が食い込んだ。
「そこは……お願い……だめ」
「うん」
 といいながら、膣を引っかくと、湯とは違う温度の液体が指に絡み付いてきたような感じがした。みくははっとした。小水ではないかと思ったけれど、そこが膣の奥だったから違った。
 みくの身体を引き寄せると、体内に入った指を刺さったナイフを取るように引き抜く。水面に出し舌を伸ばし舐めた。身体を更に密接させ足を広げ、広げさせた。みくは笑っている。
「……っっ」
 襞同士が重なり合い口付けを交わすと、電流が突き抜けたみたいだった。千里がみくに身体をぶつけ、みくが千里に押し付けてきた。そのたびに現われる波は大きく、次第に力を増していく。
「ああぁん……」
「あはぁ……」
 囁くような声は水音にかき消されそうだった。アルコールで身体が軽くなったように感じられたときより大きな感触だった。
「ふぅ……」
 血と肉と感情が身体の一点で重なり合い、ほんのわずかな空間には空気よりも水分が多く水分は空気よりも重く、微細なゆららぎ、性感の交換――言葉ではなく、感覚だった。
「ああぁ……ううっんっっ……」
 気だるさが徐々に身体を下から上へ伝い、何もする気が消えうせた。いっちゃった――口が動いた。
「千里? 千里?」
「ああっ、もう……」
 『なー、みくー?』健太の声だ。不意に現実に引き戻されたみくはむっとする。
「なぁーにー?」
 とっさにみくが健太の声を返した。
 『昼飯何にするか、大岩先生がきいてるんだけどよー』
「あっ、あー、なんでもいいよー」
 『千里はー』
「なんでもいいってー」
 『みくじゃねーよ、千里ー、大岩先生がさー、このあと何食うかってきいてるんだけどー』
「いたりあんー」
 気だるそうに身体をみくに預けた千里はピンク色の頬を壁に向けるとそれだけ言った。
 『いた飯だな』
「うんー」千里はそれだけ言うとみくの胸に身体を預けた。「のぼせちゃったのかも、みく、そろそろあがろう?」
「大丈夫?」
「うん、何とか……あ…ん…ちょ、もう……やめてよ、本当に」
 ヒップから回り込むようにして、みくの指が蕩けたひだひだの裏側へもぐりこんでいった。
「ふうぅん………んんぁ……」
 千里はみくの身体にすがりついて懇願したが、切なげなウサギにも似た表情がみくの脳裏に焼きついただけだった。
「……かわいい」
「ううん……うぅん……」
 千里の手が温泉の底の石から離れて、みくの股間に迫っていったが、そのうち身体の中から湧き出る濁流に身を任せるしかなくなったのか、底に戻っていった。
「ぁわあん!?」
 桃色の吐息を重ね、声が自制を失いつつあり、浴槽の近くにおいた千里はヒノキの桶から、タオルを出すと必死に耐えるようにして簡易ギャグにして噛み始めた。
「んんーっ、んんんんっっーーー」
「メガイエロー」みくは千里の耳元で囁くと、充血した目がゆっくりみくの目へ視線をのばした。
「んんんっっっーーーーーんぁ……はあはあぁぁっっっ」
 二人の周りの湯がわずかに濁り、硫黄の臭いと共に動物の匂いが鼻についた。千里は死んだように身体を硬直させると、不意にみくの身体に巻きついてきた。すべすべの肌がつるりと絡み合い、ゼリーとプリンが混ざり合うように二人の白い肌は完全に密接した。
「んんっ、うぅん……」
 二人の身体のささくれ立ったひだひだが湯の中で、音も無く貝あわせて二人の鼓動は見る見る間に上がっていく。
「…………バカ」

「千里、顔が蒼いぞ」
「あ、うん……だいじょぶ」
 欠伸を欠いた千里は半分以上残したパスタの上で、フォークを弄んでいた。
「どうしたんだ?」
 耕一郎がきくと上の空で応えて、窓の外を見ていた。いたずらっぽくみくがテーブルの下でローファーをこつんとぶつけると、一瞬血走った目を浮かべみくを見つめた。
「あうん、ちょっと疲れたのよ」
「休んだ方がいいんじゃないか?」
「だいじょうぶ、耕一郎よりは健康よ」
 という午前四時起きの耕一郎は健康体そのものだった。
「千里、食わないなら、俺が食べるぞ」健太はパスタに目が釘付けになっていた。
「いいよ、あげる」
「だめだ、健太。千里、ちゃんと食べろ。栄養を取らないと快復しないぞ」
「みくがりんどう湖に落としたからだからじゃないのか?」
 瞬が図星のようなことを言う。昨日、みくがりんどう湖に落ちそうになって助けた千里が、バランスを崩して落ちたのだった。
「そんなことないよ」わざと間をおいたような話し方でみくが応える。
「みく、お昼が終わったら、千里とホテルへ戻るんだ」
「だから、大丈夫だから」千里は笑うが、誰が見ても辛そうだった。
「ネジレジアとの戦いは日に日に激化して、受験もこれからが本番だ。頭も身体も大切になってしまうこのときに、俺は修学旅行に来るのも反対だったんだ。バスの出発時間まで休め、これはメガレンジャーのリーダーとしての命令だ」
「解ったわよ……」
 降参しましたというように、千里はフォークを置き、ジェスチャーで応えた。
 みくとともにレストランからホテルへ続く道を歩く。どちらからともなく、ラブソングを口ずさみ始め、夏の始まりを告げる湿気っぽい風が、ベールのように道路を流れていった。
「眠いね……」
 千里は囁いた。中学時代に全国レベルのテニスの腕だったという千里――今をもってなお何故テニスをやめたのか、みくは知らなかった――だったから、戦いのときも動き方を心得ている。
 いつもネジレ獣を倒したあとでも、ヘトヘトなみくを尻目にクールな雰囲気をかもし出していた。そんな千里が疲れて眠いと呟いて、みくに肩を抱かれるようにしていた。エレベーターのカゴは登っていく。
「着いたよ」
 扉は開き、廊下へ出た。千里はうつらうつらしていた。まるで酔っ払いのOLみたいだった。みくも疲労感を感じていたが、これほどではなかった。部屋につき、プラスティックバーのついた鍵をさし、部屋へと入った。
「みく……」
 ドアが閉じた途端に千里はみくのリボンを掴むと、引き寄せるようにして顔を近づけ、唇を重ねた。刹那、顔を見合すと、真っ赤に頬染めた千里は途方にくれた顔をして、ベッドの縁に腰を下ろした。溜息のあと、倒れこむと、瞳が恋しい色彩を帯びた。
「ねえ……あたし、疲れた」
 勝気にネジレジアに向かっていく態度、男の子達と対等に渡り合う瞳が、女の子のそれに変わっている。みくは目に釘付けになったまま、ゆっくりソファに腰掛けた。
「ねえ……」
「かわいいね」
 誘うような声、無防備なベッドの上の姿に、乾いた声でみくは頬づえついて眺めた。いつも千里を求めていたみくが、求められるといたずら心が湧いてくる。
「ち・さ・と……」
 腕で抱き、胸を寄せ、顔を近づける。千里はゆっくり瞼を下ろし、潤んだ口吻を交わす興奮した感じは不思議と胸からおりていき、代わりに安心感が身体を包み込み、何もかもが白くなってしまうようだった。
「?」
 顔を離し、みくは仲間の表情を見た。どこか微笑んでいた。瞼は閉じられ、髪が扇型に広がり、すやすやという呼吸の音がかすかに届いてきた。眠りに落ちた彼女の額に、軽いキスをすると、伸びをして、自分もベッドに入った。