壮絶! ギレールの悪魔作戦

   1
  千里は自分がどこにいるか解らなかった。ネジレ次元にあるネジレジアの基地だとは見当をつけていたが、まだ地球上のヒネラーシティーにいるのかも知れないと思っていた。
 メガイエローにインストールしたままの姿で、千里は壁も天井も鏡で覆われた独房に捕らえられていた。女性の身体で、やっと腰掛けることの出来る壁の出っ張りに座り、瞳を真っ赤に腫れ上がらせていた。その顔には、ネジレジアで最強にして最悪の幹部ギレールの暴力が、無理やり引き剥がそうとしたマスクの残り屑が、首輪のようにくっつき、メガスーツには乾いた泥がこびり付いていた。
 メガレンジャーになんかならなきゃ良かった。何度も千里は考えた。ネジレジアの理不尽な悪の暴力から地球を救う、なんて任務を久保田博士から受け、なんとなくの気持で仲間と頑張って戦ってきた。でも、本当の戦いがどういうものだか、千里はこの戦いまで知らなかった。悪のねじれた心で世界の征服を目論む集団の本気は、彼女みたいな女子高生がデジタル変身したくらいでは、どうにもならなかった。
 仲間がどうなったか、自分のことでさえよく解らないのに、解るはずもなかった。ただ鏡の独房に閉じこめられていた。目の前には敗北を抱えたちっぽけな女の子がいて、目を背けても、どこからか飛び込んできた。一人ではない、鏡のメガイエローが何人もいて、千里の敗北を見つめていた。
「降参する気にでもなったか」
 気づいて目を上げると、ギレールがいた。
「ギレール」声をつまらせてから、千里はいった。
「お前らメガレンジャーには散々な目に遭ったからな。しかしこれからはそんなこともなくなる。弱い、イエローかピンクを捕らえて、マスクのデータを押さえれば、メガレンジャーの弱点も、秘密も全て明らかになる、作戦は大当たりだ」
 ギレールは笑い声を上げた。千里は眉間に皺を寄せて、相手を見つめた。メガイエローはギレールの言う弱いメガレンジャーで、敵の集中砲火を食らわせることで、敵の作戦通りに倒れた。そして既に洗いざらいの秘密はマスクのコンピューターから吸い取られていた。
 自分の不甲斐なさと悔しさに、思わず涙を流しそうに、怒りにまかせて掴みかかりそうになる。でも千里は知っていた。マスクのない今、ベルトのバックルやスーツの中に埋め込まれたコンピューターでは、せいぜいクネクネ程度の相手しかできないのだった。
「く、久保田博士が、今、きっとメガレンジャーの、システムを変更、してるわ。私のシステムを奪ったところで、役には……」
「その甘さがお前らを死に追いやるのだ。メガイエローのマスクの情報を元に既にお前らのメインサーバーもシークレットサーバーもクラッキングしてある。お前らにもう勝ち目はないのだ」
「そんな」千里は一瞬俯いてから平静を取り戻そうとした。メガレンジャーが壊滅するなんてことは絶対にあり得ない。ネジレジアが世界をねじれた世界に変えるなんてことはそれ以上にありえないことのように思えた。「メガレンジャーは絶対に負けない!」
「クククク……どの次元の戦士も、このギレールの前でそう言う口をきいた。だがそいつらの願いとやらが叶ったことなど、一度としてないのだ。降伏しろ、メガイエロー、いや城ヶ崎千里。地球の人間やメガレンジャーの仲間をこのギレールに売る気があるなら、お前のそのねじれた心をもっとねじれさせ、心も体も我々のものとして生きながらえる権利を与えよう」
 ギレールの調子づいた嘘に千里は悔しさがこみ上げてきた。
「降伏なんて、絶対しない!」
「どうかな」そういうと、ギレールは筋肉の塊のような腕を千里の脇腹に埋めた。
 鈍い音がして、千里は奇声を発して、床に転がった。スーツの能力が半減していて、衝撃がまともに彼女の身体をみまった。細くにしか開けられない瞳の先に、ギレールの足があった。
「ああああああ!」千里は顔を歪ませた。足が胸の谷間に食い込んでいて、ナイフのように突き刺さっている。
「お前もやがて、ネジレジアに永遠の忠誠を誓うこととなるのだ。それこそ、お前ら人間の不完全である証になるのだ」
 笑いながら、ギレールはメガイエローが気を失うまで、足で転がした。
「やめてぇぇ! ああ」

   2
 千里は空腹と突然火のついた痛みに、かっと目をひらかせた。千里は明らかに別の鏡の牢獄の錆びた金属のベッドというより板の上に寝かされていた。どれだけの間気を失っていたかは見当も付かなかった。それからしばらくして、千里は自分の黄色い肢体がX型に固定されていることに気づいてもがいた。
「いや……」
 からからの喉が呻いた。殺される。死という文字が形になって、千里の頭の中をロケットになって駆け抜けていった。一切の時間の感覚が無くなっていた。ネジレジアの独房は、彼女の人間としての感覚を奪っていた。
 宇宙線研究所。久保田博士の話。みくと健太と捜査に入る。怪しい影の発見。瞬と耕一郎との合流。クネクネ。クネクネ。暗闇。インストール。メガスナイパー。発射。ギレール。挑発。攻撃。痛み。痛み。鏡の監獄。ドライアイスの棒のようなものが脳に入ってくる感覚がして、記憶がバラバラになって、一つの言葉になって固化した。「恐怖」
「やめて!」
 暴力。ギレールは最悪のサディストだった。メガイエロー姿の千里を殴り、蹴り上げることに、喜びを見いだしているようにみえた。メガレッドとの対決でだって、こうはならなかったはずだと、千里は思った。メガレッドとギレールは力と力の激突で、千里――メガイエローとギレールは、ギレールの力だけが支配する一方的な関係だった。そして、ギレールの暴力は痛みだけを確実に千里に残した。
「うっ……お願いだから……やめて! ああ!」
「クククク。そろそろ幻覚剤の濃度を落とせ。十分後、ゼロにするんだ」
 マジックミラーに隔てられた部屋で、ギレールはクネクネに命じた。クネクネはダイヤル型のつまみを最大の値から落とし始めた。頭上の黒いスピーカーがメガイエローの近くに設置されたマイクが拾う声を流していた。
「いやああああああ!」
 今まで倒した何匹ものネジレ獣が彼女を囲み、それぞれ攻撃していた。キノコネジレが毒胞子を発射し、カメレオンネジレは長い舌で肢体をがんじがらめにし、サイネジレは人肌のようなドリルのツノを股の間に射し込んでふるわせ、コウモリネジレが脳を刺激する殺人波を浴びせ、その状態でアリジゴクネジレの開けた穴に引きづりこまれようとしていた。ベタベタした手、手、手が自分を包んでいるのを千里は感じていた。砂が足下から踝、腰と埋まっていく、死ぬのかな。
 パニックした中で千里は妙にハッキリ考えていた。もし助かるなら、助かり、元の生活に戻れるなら、何をしたっていい。メガイエローをやめたっていい。やめたいと思った。幸せな生活をして、女子大生になって、マスコミに就職して、好きなカメラ片手に世界を見て回れるなら、何をしてもいいと思った。とにかく助かりたかった。
「助けてぇぇ! やめてぇ!」
 千里は室内にギレールが入ってきたことにも気づけなかった。千里は今まさにネジレ獣の群にたかられたまま、砂の中へ引きづりこまれようとしていたはずだった。ギレールは千里の頭のそばにある機械から先端に丸い吸盤のようなものがついた二本のコードを引き出して、大粒の汗が浮かんでよじっている額につけた。
「うぐぐぐ……」
 妙にねっとりとした砂が口の中に満ち、千里の口を塞いでいた。もう駄目、みく、みんな、ごめん、もう……
 ギレールは速度計のようなメーターを見た。それから切替式スイッチを押し、つまみを掴んだ。
「クククク」
 周りの砂場ごと砂が吹き飛んで、電撃と共にネジレ獣の群は吹き飛んだ。気づくと周りを数人のギレールが囲んでいて、青い稲妻を放っていた。砂をネジレ獣を吹き飛ばした稲妻は千里に絡みついた。
「あああああああああああああああああああああああ!!」
 身体が吹き飛んで宙を舞い、地面が迫ってきた。目の中を電撃が交差し、白くなって、視力が失ったかと思うような時間がしばらく続き、感覚がいっきに引いていった。音と共に地面に落ちると、そこは金属の板の上だった。身体が磁石のような板に吸い付けられ、千里は金属の板の上に黄色い肢体を固定されて、もう一度目の前が白くなった。
「あれ?」
 ギレールはつまみを三分の一のところまであげてから、もういちど元の場所までもどした。千里は血走って潤んだ瞳をかっと見開いていた。
「クククク」
「あれ?」
 そこは鏡だった。天井にマスクを引き剥がされた城ヶ崎千里が目を見開いて、自分のことを見ていた。プラスティックか何かが焦げた匂いがして、乾いた泥の間から顔を覗かせるメガスーツの破損部分に気づいた。
「クククク」
 忍び笑いのような声に千里は頭を向かせた。ギレール。

 あなたは誰なの……。
 それから数えられないくらい長時間、千里は放置された。意識だけが妙にハッキリして、鏡にうつった黄色い姿を見つめていた。眠気が訪れると、身体に電気が走って、目覚め続けさせられた。明かりが不規則についたり消えたりして、千里の感覚を切りくずそうとしていた。
 千里は参っていた。メガブラックやメガピンクや他の仲間が助けに来てくれるという確固とした確信が、もしかしたら無理なのではないかという考えになり、もう既に捕まったあとなんではないかとなり、今は死んだのではないかと考えるようになっていた。隣部屋にいるかも知れないし、ずっと遠いところにいるのかも知れなかった。どっちにしても同じことだった。鮮やかさを失ったメガスーツではなく、じかに来る電流が千里の考える心を少しずつ引き剥がされていくのを、彼女はぼーっとした思考で見つめていた。
「助けてぇ!」
 頭の吸盤から入った電流が胸を突き抜けて、つま先へ突き抜けていく。どうしようもない痛みと痺れが現れ、千里の皮膚に密着したメガイエロースーツの超極薄デジタル回路が、ぴくぴくと痙攣し、無意識のうちに乳房が浮き上がった。
「ああああああ……」
 痛みも悲しみも消え、とめどなく溢れる涙と涎に言葉にならないものを流していた。
 ギレールは、汗に湿る千里の髪を掴み、無理やり台から起こした。千里は悲鳴をあげたが、だらりとして抵抗しなかった。
「見て見ろ、メガイエロー」ギレールは正面の鏡の千里を見るように言う。「貴様の成れの果てだ」
 メガイエロースーツはいつの間にか電流にボロボロになっていた。左肩は露出し、ブーツは黒ずんでいる。乳房の小さな突起が目立ち、あちこちの裂け目からは焦げたコードが顔を見せていた。
 しかし、なによりも無惨だったのは、千里の顔だった。目には隈が重なり、涙と涎のあとが頬から顎に続き、才色兼備を思わせる知性的な顔立ちは崩れ、戦争映画の捕虜そのものになっていた。呆然とした表情で千里は自分の鏡の姿を見つめていた。何も感じなかった。ギレールに掴まれた髪が痛かった。
「もうお前に助けは来ない。仲間共はこの俺が始末する。お前だけはネジレジアに標本として残すことに決めた。どうだ? 十字にされ、手や足に針が刺されていくのは?」
「いや……」
 完全に拒絶したわけではなく、千里は呟いた。早く自由になりたかった。シャワーを浴びて、浴槽に浸かりながら、雑誌を読む。パジャマに着替え、髪をバスタオルで拭きながら、コードレス電話で友達と長電話。
 日常の生活を送りたかった。今着てるボロボロの戦闘服なんてさっさと脱ぎたかった。メガレンジャーなんて、高校生のやることじゃなかった。こんなところで異次元から来た筋肉と頭脳しかないような怪人に閉じこめられて、心も躰も汚され、廃人にされるのが普通の女の子の生活じゃない。
「いや! 早く離しなさい! 私を解放しなさい!」
「やれやれ……ついに狂いおったか……しかしまだお前には選択しなければならないことがある」
 いつの間にか現れた二匹のクネクネが千里の腕を掴んだ。千里は解放されるのかと、一瞬思った。彼女の脇にクネクネの首が入り、千里は持ち上げられた。鏡の一部分が開くと、メガイエローは廊下へ出て、遠くへ持っていかれ始めた。

   3
 放り出された場所は闇だった。潤んだ眼には、ギレールしか見えず、足下まで漆黒の空間が押し寄せていた。半身起こして這って逃げようとしても、闇はどこまでも追ってきた。
「い、いや……」
「クククク」
 ギレールは躰の鎖や装甲を外した。赤とオレンジの襞状の皮膚がネバネバとした体液を濡れ始め、黄色かった瞳が赤になり、襞が一枚いちまい剥がれ落ちた。
 千里はその様子を呆然と眺めていた。そのうちに、股間の襞の間から男根が現れ、目を丸くした。言葉にならない言葉を漏らしながら、後ずさりを続けると、その男根は少しずつ充血して、隆々と固化していた。ギレールは身体中から、稲妻を発し、その一つがメガイエローの腹を直撃し、悲鳴を上げた千里は数度転げ回った。苦しみに歪んだ瞳が見上げると、ギレールは一歩いっぽ近づき始めていた。
「来ないで……なんなの、それ」
「それとはなんだ、雌豚」
 ギレールは千里の上で仁王立ちになった。膨張した男根は瑞々しく充血し、千里は恐怖を重ねてみていた。口をつくのもはばかられたが、何か強気を喋り続けてなければ、千里は今にも発狂しそうだった。
「それ……そ……」
「ひい!」
 ギレールがメガイエローのスカート部分目がけて、しゃがんできた。千里はなんとか後ずさった。ギレールは千里の広げた足の間に納まっていた。逃げようとした。急に躰が固まって、恐怖に動かなくなった。上擦って声が出なくなった。ギレールの血管の浮き出た男根がすぐそこにあった。
「降参するなら今だぞ」
「そんなこぉ……」
「メガイエローが恐れている逸物を千里の躰に入れ、掻き回して、お前が汚されたくないだろう?」
 千里は涙で頬を濡らしながら頷く。
「それならお前は降参しろ、このギレールに懺悔し、メガレンジャーがメガイエローが敗北したことを認めろ。そしてお前の愛する学校の生徒や仲間のメガピ…今村みくが、メガイエローの代わりとなり、この陵辱を受けさせてもいいというなら、お前をこの空間から解放し、人間界に帰してやろう」
 ギレールは言い、千里のグローブに包まれた左手を握った。その手を離そうと、千里はもがくがうまくいくはずもない。ギレールはその華奢な手を自らの逸物に誘い、握らせた。
「んん!」
 千里は瞳孔を二倍くらいに大きくし、目を白黒させて、暴れて、その左手を逸物から逃れさせようとした。ギレールは千里にしっかり握らせ続けた。グローブの内側で極太の血管が脈を打ち、渦巻く空間の歪みを感じ取った。そのうち、身体中に正体不明の電撃がぱっと走ったきり、千里は諦めたように力を抜いた。そのとき、ようやくギレールの逸物から手が逃れられた。その時間はわずかだったが、千里には1時間にも二時間にも感じられた。
 呆然と、グローブを見ると、透明のものと汚濁した二種類の粘液がこびり付いていた。それ自体が生を持っているかのように、蠢いているのを千里は認めたような気がした。腕の方からグローブの内側に手を入れ、無理やり、グローブを引き裂いた。投げ捨てて、黄色いインナーグローブだけの左掌を見つめた。粘液はついていなかった。しかしなま暖かい感覚と妙にネバネバとした感覚、逸物の感触はいくら拭っても消えなかった。地面に擦り付け、擦り付けた。ギレールはその様子を笑いながら見つめていた。
「さあどうだ、降参しろ」
 辛うじて千里は首を振る。ギレールは拳を振り上げ、M字型のマークの入れられたベルトのバックルに振り下ろした。がつん、と、音がしてスパークして、ベルトは砕け散った。
「ううう……」
 スカートの裾をギレールの腕が掴んだ。
「いやいやいや……」
 両足が千里の足を捕らえると、スカートを一気に引きちぎった。千里はもうほとんどまともに喋れていなかった。スカートを奪った手がメガスーツの上から陰部を舐めて悲鳴した。
「ああ、あああ、ああああああ……」
 もう恐れしか千里にはなかった。壊れたバックルの縁をギレールの爪が摘んだ。メガスーツに切れ目が出来て、ぴりぴりと音を立て始めた。シールを剥がすようにメガスーツが皮膚から剥がれていく。ほとんど何も言わず、血走り潤み疲労した目で千里は見つめていた。
 やがて薄く生い茂った若草が姿を見せ、多少濡れた陰部全体が明らかになった。ギレールは合成繊維の布きれになったメガスーツに、こびり付いた汗や愛液を、千里の頬に擦り付けた。
「クククク」
 千里は震え、震えた。
「降参する最後のチャンスだ」
「ああ……」
 感情がこみ上げてきた。逃れたいと思った。子供のようにえんえんと涙をこぼし、助けて欲しかった。凛々しいメガイエローはもうどこにもなかった。スーパーヒロインとしての顔も女子高校生の顔もぬぐい去られて、男に圧倒される女でしかなくなっていた。女の弱さをさらけ出して、さらけ終わってもまだ溢れ続けた。
「もう勝手にして」
 諦めたように千里は呟いた。ギレールはどこまでも続く、長い笑い声を上げ続けた。
「メガピンクを代わりにしてでも……助けて下さい」

 千里は無傷で地上へ帰された。ネジレジアが空間を歪ませて、千里が捕らえられたことは無いことになっていた。代わりにメガピンクがさらわれていた。数日後、鬱蒼とした樹海の中で、肢体を縛られ、手錠をかけられて、陵辱の痕を傷深く残した、メガピンクが発見された。
「みく! みく!」
 メガピンクを抱き上げて、千里は声を上げた。
「ねぇ……本当? ……千里があたしを……って……」