洗脳?不良のクラスメート


 彼は諸星学園高等学校3年A組23番、サトウ・アキヒロ、学籍番号003421E。

 ――クラスの学級委員はスポーツ万能で成績優秀、明るい性格で誰からも好かれていた。クラブはデジタル研究会に属している。まさに何でも兼ね備えた才色兼備の女だ。

 その美少女に対して、アキヒロはただのワルだった。ワルといっても、学校でとある粉末を売っているだけだ。センター街の入り口にたむろってるイラン人から卸した粉が、面白いように売れる。真面目な顔をした参考書と予備校がすべての童顔の奴らに、よく売れる。寝不足が解消され、集中力が増す。あらゆる欲望を振り切ることができて、受験勉強に専念できる。そうなった奴らの進学先は、精神病院だが、それは自己管理の問題だと、アキヒロは考えている。当然じゃないか。
 とち狂った奴らの顔は面白い。歯がなくなって、真っ青になった顔で、もっとくれもっとくれとせがむ。そのまま放置すると、スピンアウトしていく。標的に定めた奴らはだいたいスピンアウトする。アキヒロはあの澄ました顔の鼻持ちならない学級委員をスピンアウトさせたいと思っていた。お高くとまった女ほど、ムカつく奴はいない。スピンアウトさせるまで追い込んで、メス奴隷にして、どぶに捨ててやる。

「あっ、サトウくん。どうしたの?」
 誰もいなくなった放課後の教室で、城ヶ崎千里は花瓶の水を交換していた。アキヒロは参考書を忘れたとか言って、教室に入った。別段気に留めてる様子はないようだ。窓からそよ風が吹き込んできて、カーテンを揺らす。
「そうやって、毎日交換しているのか?」
「うん、そうだよ」千里は振り返り微笑んでいる。
 机の下にカプセル錠を入れるような瓶がある。中身は言うまでもない。
「クラブは?」
「今から行くところよ」
「ところでさ、受験勉強どう? おれはぜんぜん進まないんだ」
「あたしもよ。最近忙しくて」
「そうなんだ。おれさ、最近、トモダチから集中できる薬もらったんだ。よかったら試してみない? ぜんぜん安全なんだ」
 アキヒロは小瓶を取り出した。千里はこちらを見ながらも怪訝な表情を浮かべている。ここでは誰もがこういう顔をする。このあと納得させるのが腕の見せ所だ。
「危なくない?」
「いや、ぜんぜん。なんせ、ノースカロライナの有名な大学の教授が作ったんだ。アメリカでは認可されてるんだけど、厚生省がグズだから、なかなか国内使用認可が下りないんだ」
「興味は、あるけど、高いんでしょ?」
「とりあえず、これはやるよ」アキヒロは瓶を投げた。千里が胸で受け止める。
「いいの?」
「ああ」
 千里は相変わらず怪訝そうな顔を浮かべながらも、小瓶のふたを開けて、臭いをかいでみていた。アキヒロはうまいこと言った。
「飲んでみようかな」カプセル錠になったそれを千里はひとつとって、口に含んだ。「ちょっとにがい」
 そのとき、静かな教室にピピピッ、という音が響いた。千里がはっとして、アキヒロと目線を合わせた。
「ごめん、ちょっとポケベル。じゃ、ありがとう」
「おう、初めて飲んだときだけ、ちょっとふらつくけど、気をつけろよ」
「うん」
 千里は足早に教室を出て行った。アキヒロはおやと思った。その様子は授業中などに何度か見たことがある。同じデジ研の仲間と一緒に、何か隠している風に教室を出て行くのだ。前々からアキヒロはそれに興味があった。だから、彼女のあとを慎重につけていくことにした。
 彼女は階段を三段下りで下ると、エアコンの室外機が並んだ校舎裏に走ってきた。手元のPDAを見ると、なにか喋っている。ポケベルではなく、携帯らしい。そのとき、アキヒロは驚愕の出来事を目撃することとなった。
「インストール・メガレンジャー!!」
 まばゆいばかりの光が千里の身体を包み、全身タイツのようなアクリルイエローのスーツをまとい、卵形のマスクを装着した。うわさのメガレンジャー……まさか、アキヒロはその場で凍りついたまま、立ち尽くしていた。メガイエローは変身が完了すると、すぐ彼の脇を通りすぎていった。
「メガイエローだったのか……フン」
 アキヒロは裏門を出ると、しばらく走り、路上にとめてあるレンジローバーに乗り込み、鍵をかけた。親父の名義だが、別に問題はない。まだ間に合うはずだ。アクセルを踏み込んで、奴の後を追った。
 十キロほど走ったショッピングモールの外の広い公開空き地で、ネジレジアが暴れていた。五人のメガレンジャー――城ヶ崎千里がそうなら、他の奴らもデジ研だろう。ぞくぞくするのを覚えた。
 アキヒロは公開空き地のよく見える場所にレンジローバーをとめた。ネジレジアの雑魚とメガレンジャーがファーボールになって、メガレンジャーが簡単に奴らを負かした。五対一の攻勢になって、怪人はビビっているようだった。そのとき、青いプロテクターをまとった艶っぽい女が現れた。すると、千里――メガイエローが一歩前に出た。
「シボレナ、今日こそ決着よ」
「望むところよ。メガイエロー」
 どうやら、青いのと千里はライバル同士らしい。メガイエローが突進し、シボレナと入り乱れる。見るからにきれいなアクションだ。計算された鋭い動きで、あっという間にメガイエローが優勢に立っていた。
「えい! とう! やぁぁ!」
 気合のこもった声はここまで響いてくる。
 そのとき、ひずみが生じた。
「きゃあぁぁぁ!」
 攻撃を受けたメガイエローは打ち上げ花火みたいな激しい火花を散らして落ちた。助けに入ろうとする仲間に怪人が邪魔をした。怪人はそれなりに強いらしい。メガイエローはといえば、苦しみながらも立ち上がる。いつものあの凛々しい姿と比べると、あのスーパーヒロインはとてつもなく艶っぽい。
 立ち上がったあとのメガイエローの動きは明らかに遅い。そうか、アレが効いたんだ。アキヒロはうなづいた。アレを飲んで、あんなスーツで感覚が研ぎ澄まされれば、地面に足を触れているだけで、セックスしているような快感だろう。たまらないはずだ。
「おほほほほほぉ!」
 青い奴がソードで乱れうちをして、踊るようにメガイエローが翻弄された。予想外の展開にアキヒロはものすごく満足していた。あの、気高い城ヶ崎千里が黄色いスーツを着て、コスプレの奴にやられている。スーツがほつれて、破れている。やられるまで時間の問題だ。
「ほら」
 青い奴のソードがマスクに突き刺さって、火花とともにマスクが割れて、千里の姿が露になった。チャンスと近づく青い奴に、むかつくことに仲間の援護が入り、青い奴は後退する。黒と青のメガレンジャーが額から血を流した千里を抱えあげて、後退をはじめ、ぱっと光を放つとともに消えた。
 怪人たちも要がなくなったと見えて消えた。警察が来る前に、アキヒロは満足して、レンジローバーを発進させた。

 城ヶ崎千里の自宅なんて、連絡網を見れば一発だった。アキヒロがその一軒屋の前に来たとき、誰も家の中にいる様子はなかった。アキヒロはそこでふんぞり返っていた。今日の予定は全部中止だ。奴を奴隷にするのは、これまで以上にわくわくすることだと思った。お高くとまった学級委員がお高くとまったスーパーヒロインなんだからな。
 二時間ほど経った午後7時、千里が帰ってきた。額にガーゼをあてて、仲間に見送られてきた。アキヒロはダッシュボードを空けて、中の箱を取り出した。そこにはエーテルがあった。エーテルは即効性があるが持続性のあまりない麻酔薬で、取り扱いが結構難しかった。だが、アキヒロは慣れた手つきでプラスティック容器のエーテルを折りたたんだハンカチにしみこませた。
 仲間が去るのを見届けると、アキヒロは城ヶ崎家のインターホンを押した。千里はすぐに出てきた。
「ああ、どうしたの?」
「怪我したのか?」
「うん、ちょっとね」
 運動部で養った身のこなしで間合いを詰めて、ハンカチをその口元にあてた。女戦士はさすがに動きは早かったが、全く予想外の行動に、しかもまだあれの効果が残っていて、三呼吸ほどで足元がふらついて、その場に倒れこんだ。
 アキヒロは誰かに見られる前にブレザー姿の千里を肩に担いで、レンジローバーに乗り込んだ。

 アキヒロはレンジローバーを借りているガレージに入れると、ガレージ続きのホビールームに千里を連れ込んだ。防音設備の整った部屋に入ると、鍵をかけた。そこはあれに狂った女をとっかえひっかえ連れ込むための部屋だった。
 ベッドに載せ、ありあわせの麻紐で両手両足後ろ手でをぐるぐる巻きにすると、ようやく千里はまどろみ始めた。
「ん…んっ……」
「ぁぁ…ん……こ、ここは……」
 目をつぶる。眉間に刺すような痛みがするのだろう。
「ここは…」
「やあ」
「サ、サトウくん!?」
「元気か? 城ヶ崎千里、いやメガイエロー」
「…………」千里は息をのんだ。
「どうしてこんなまねを?」
 麻紐がこすれる音が妙に鮮明にした。
「メガイエローだったとはねえ、まさか」
「……何のこと?」
 しらけて気高く装う千里。アキヒロは平手打ちをした。
「むかつくんだよ。この正義のスーパーヒロインさんよ?」
「……何で知ったの?」
「偶然、校舎裏で変身するのをみたからな」
「で、何がほしいの?」
 また平手打ちをした。頬が真っ赤になる。
 ベッドで上を向いて、後ろ手に縛られた女はむかつくほどあわれだ。なのに奴はまだプライドを保とうとしている。アキヒロは鼻持ちならなかった。
「メガイエローに変身して、おれをばったばったと倒せばいいじゃないか?」
「そんなこと……」
「できない?」
 アキヒロは手を伸ばすと、ブレザー越しにその豊満な胸を握った。はっとして、きりっとした瞳で千里が握り締めた。
「変態!?」
 平手打ち。
「どっちが今、上にあるのか解らないようだな。おれはな、おまえがむかつくんだよ」
 凛々しそうな表情を保とうとしている。その無残な光景が今までになく面白い。額のガーゼを引き剥がす。赤紫の傷口が見えている。指で思い切り押さえてやった。
「ぁぁ……やめなさい…こんなことしたら、退学よ」
「俺の親父が諸星学園に持ってる影響力を知ってから言うんだな」
 アキヒロが両腕でブラウスの襟をつかむと、一気に力を込めた。ブチブチブチッ! ブラウスが破れて、レモン色のブラジャーが目に入る。今まで戦ってきた名残の痣がいくつか見えた。
「ぃ、ぃゃ……」
 このとき初めて、千里は恐怖の表情をした。あとはどんどん顔の色が変わっていくだけだった。アキヒロはその表情がたまらなく卑猥だったため、棚においてあるデジカメでその表情を収めた。フラッシュに気づいた千里が焦る。
「どうしたんだ?」
「な、何を……?」
「おれが変態だなんて吹聴されちゃこまるからな」
 言いながら、アキヒロはリーバイスのチャックを下ろし、トランクスの間からペニスをさらした。その物体の作り出すイメージに千里の顔が青くなる。アキヒロはペニスをそのむかつく顔の前にさらした。
「…………」
 入れて、快感を覚えさせることも、フェラチオで奉仕させることもしない。ただ、晒した。その表情が色とりどりに彩られて、艶かしかった。
 10分ぐらい続けたあと、アキヒロはベッドの上に乗り、千里を尻に敷き、喉もとからブラジャーのフロントホックの内側にペニスを滑り込ませた。ぞくっとするような感覚が全身を駆け巡った。その谷間は予想以上に急峻で、指でホックをはずすと、機械で風船を膨らませたときのように、谷間は大きくなっていく。アキヒロのペニスは勃起していた。
 アキヒロがベッドから降りると、既にそれだけのことに、千里の自尊心は大きく傷つけられたと見えて、瞳が涙ぐんでいる。
「やめなさい……」
 麻紐がこすれている。アキヒロは千里のブレザーをめくると、二の腕を露出させ、すばやく注射器を手に取ると注射した。
「痛っ……何を…」
「さっき教室で飲んだのと同じあれさ」
 次の言葉がつむぎ出る前に、千里の身体は崩れ落ちた。顔をピンク色に染めて、肩で息を始めた。ちょっと量が多かったか、アキヒロは仕方ないから、落ち着くまで待つことにした。
「んんん…はぁ……はあはあ…」
 麻紐がこすれて、白い皮膚が赤くにじむ。ベッドに血がぽたぽたと滴り落ちても、痛いとかそういう感覚は既にキャンセルされているはずだった。暴露された乳房が上下に揺れている。額や腿が汗だくになった。慣れない身体にはだいぶ辛いようだった。
「ああぁん…ああぁ…ぁぁぁ…はああぁぁ…」
 三十分も経つと落ち着きを取り戻したようだった。アキヒロはそれを見計らって、すばやく別の注射をもうひとつした。馬のように奇声をあげる姿は異常だった。まもなくぐったりとなった千里を見ると、アキヒロはおもむろに近づいた。スイスアーミーナイフをポケットから取り出すと、麻紐を切った。それでも千里は相変わらずぐったりしていた。
 アキヒロは千里のストレートヘアをかきあげると、うなじに口元を寄せた。
「さあ、言うことがあるだろう? お前のご主人様は?」
 汗だくになった千里は額に皺を寄せた。感情を戦っている複雑な表情だった。
「アキヒロさまぁ……」
 ろれつの回らない声が口から漏れた。そう、二本目の注射は精神を支配する薬だった。しかも、この薬の驚くべき効用は、もとの意識を意識の中にとどめておきながら、口だけが喋りだしてしまうというものだった。
 この薬はアルゼリオンZ4といい、旧ソビエト連邦KGB科学研究所が開発したものだった。ソ連崩壊後、失業した科学者が持ち出したものを、イラン人が持っていたので、札束を積んで譲り受けたのだ。KGBが政治犯への拷問に使っていた薬であるから、それだけ強力だった。今回にこそ、最も有効な薬だった。
「ううっ…」
「ご主人様の言うことはどうするんだ?」
「なんでも…き、ききますぁ…」
「そうだ、それでいい。お前は俺の意のままだ」
「そ、その、とおり、で、です…」
 千里の眉間はますます険しくなっていく。目は細くなり、視界がどこも結んでいない。
「じゃあ、まず、変身してみろ、俺はお前のメガレンジャー姿を間近で見てみたい」
「は、はい…」千里は体を動かした。手元のPDAを手元に寄せると、テンキーに暗号コードを打ち込んだ。3・3・5だ。擦り切れるような声でインストール・メガレンジャーとささやくと、あっという間に千里はメガイエローに変身した。
「合格だ」
 アキヒロは満足げに頷くと、その精悍なマスクに顔を寄せて、身体と身体を密着させた。女性の裸体に密着した極薄繊維は裸体にボディペイントを施したかのようだ。
「それでは俺への服従の印に、オナニーをして見せろ」
 アキヒロは立ち上がった。メガイエローが身震いするのがわかった。全身で拒否しているようだが、アルゼリオンZ4はそんなにやわな薬ではない。ベッドの上で上半身を起こしたメガイエローはマスクを下に向くと、おもむろに両足を開いた。レモン色の内腿のスーツにクリトリスとクレパスが浮かび上がっている。ここまでびっちりしてなくてもいいと思うのだが、アキヒロは黙ってその様子を見ていた。
「ああぁあっぁん…ああん…んっ…」
 グローブがスーツごと、クレパスにもぐりこんでいった。マスクからこもった声が漏れてきた。ゆっくりずぶずぶと奥まで入れた千里は頭を横に振りながら、ゆっくり指を出した。
「あああぁぁん!」
 指が小刻みに震えている。だが、その意に反して、指は再びクレパスをもぐっていく。
「んっんっっ…あはあぁぁぁ…ぁ…」
 そのピッチはどんどん早くなっていく。
「はあああぁぁ!」
 間延びした声が部屋に響く。黒いバイザーが見つめる先には、黄色いヴァギナがある。スーツは服ではなく、身体機能を飛躍的に向上させるものだった。性的反応も飛躍的に向上していた。
 胸の部分の輪郭が先ほどよりはっきりしていて、乳房が際立って大きくなった。
「ああああああああああ! ぃゃぁ……ぁぁぁぁぁ…」
 勝手に逝ってしまった千里は糸が切れたように、ベッドに倒れこみ、両手両足を投げ出した。アキヒロは満足して、メガイエローに近づいた。
「それでは、俺の質問に答えてもらおう」
「は、はい…」
「スーツの防護能力を落とすことはできるか?」
「……どういう意味」
「俺の手で破ることができるようになるかという意味だ」
「で、できますぅ…」
「じゃあ、やれ」
 黒いバイザーに光が漏れて、低い音が漏れた。「大丈夫です…」
「次はマスクをはずせ」
 空気の燃える音がして、マスクが耳の辺りで二つに割れる。千里の素顔が露になると、そのストレートヘアが汗で頭にこびりついていた。反抗とオナニーで逝ったことによる戸惑いの表情だ。
 アキヒロは両胸をつかむと、一気に引きちぎった。ビリリィ! スーツが破けて、乳房だけが明らかになった。千里の顔は明らかに反抗しているのに、身体ばかりはどうにもならない。アキヒロは裂け目から手を入れると、汗ばんだ身体に腕を探りいれた。
「ぃ、ぃゃ…」
 千里は身体をよじりだした。しかしその腕はアキヒロの腕をつかみ、もっともっとと入れようとする。意思とアルゼリオンZ4の強制力では強制力のほうが勝っていた。
 千里の肌は汗ばんでぬるぬるになっていた。
「あぁぁぁ…」
 アキヒロは満足すると、手をスーツの穴から抜いた。
「変身を解け」
 そういうと、ふらふらしたままベッドの上で千里の身体が光に包まれた。ブレザー姿に戻った。ブラウスのボタンがほどけたままだ。こいつの精神は崩壊しかかっていることだろう。アキヒロはこの女を陵辱するだけでは満足できなくなっていた。
 新しい獲物をこいつに捕らえさせるのだ。正義のため? フン。そんなことおれには関係ない。

 レンジローバーの助手席で、千里は夢うつつの状態にあった。今村みくの自宅にはライトが煌々と灯っていた。メガイエローが城ヶ崎千里なら、今村みくはメガピンクだという推測は、千里の言葉によって見事に当たっていることが解った。
 アキヒロはエーテルをしみこませたハンカチを千里に握らせた。
「今村みくを捕らえてくるんだ」
「…はい」
 城ヶ崎千里はレンジローバーから降りると、不安定な足取りで玄関まで歩いていった。桃色のTシャツにデニムのスカートのみくの姿が目に入り、扉が閉まった。
 しばらくアキヒロから見えなくなり、しばらくすると、ふらふらした足取りの今村みくを小脇に抱えた。城ヶ崎千里が現れた。

 エーテルの効き目が途切れる前に、部屋でみくをX字型にして立たせた。
「こ、ここは…?」
「千里…?」
 無表情の千里は注射器を持った手を痙攣させながら、みくの皮膚にあれを注射させた。汗だらけになったみくに十分たって、アルゼリオンZ4を注射させた。
「やだ! やめて! いやああああ!」
 それからまた十分たち、みくは大声で叫んでいた。千里より幾分か根性がある様子だった。アルゼリオンが脳に回るのを拒否するように奇声を上げている。あれの効果があるから反抗などままならないはずなのに、見上げた気合だった。
「ああああ! やあああああ!」
 アキヒロはみくに近づくと、平手打ちを数度頬に見舞った。うなだれたみく、やがて目がトロンとなって、か細い声すら出なくなった。
「ご主人様ぁ…」
「よし、よろしい。今村みく、お前はメガピンクだな」
「はひぃ…」
「ここにバイブレーターがある、これをお前のヴァギナに入れてみろ」
「く、鎖をはずして、ください…」
「よろしい」
 千里に命じさせて、みくの右手の鎖をはずさせた。その瞬間、みくの肩がぶるっと震え、唇で変身ツールを起動させた。
「みんな、助けてぇ!」
「しまった、くそっ」
 アルゼリオンZ4が利かないことがにわかに信じられなかった。そのとき、千里の視点のつかない目が急にきりっとして、その腕が風を切って、アキヒロのほうへ飛んできた。アキヒロはとっさに避け、距離をとった。千里はなみだ目になりながら、ファイティングポーズをとった。
「よくもやったわね!」
 アルゼリオンZ4の有効時間は一週間以上だ。アキヒロは解った。今村みくの家に入った瞬間、すべて把握していたメガレンジャーたちによって、アルゼリオンZ4の解毒剤を注射されたのだろう。そうだ、そうに決まっている。変身ツールを没収しなかった自分の不手際に後悔した。
「くそっ…」
 千里のものすごい身のこなしは形成逆転していることを明らかにしていたが、変身していなければ、女子高生に違いはない。アキヒロはたやすく避けると、距離をとりつつ、ガレージの扉を後ろ手につかんだ。うかうかしていたら仲間が来てしまう。
「待ちなさいっ!」
「ばーか」
 待つ奴がどこにいる。アキヒロは千里がみくから離れられないことを見切って、ガレージへの扉を開けると、レンジローバーをバックのまま急発進させた。上空にはガレージを出ると、レッド、ブラック、ブルーがサーフボードみたいなものに乗っていた。アキヒロはギアを一気にトップに入れると、闇夜にまぎれて逃走した。
 アキヒロの素性はばれてしまったが、まだ切り札がある。アキヒロはダッシュボードからデジカメを取り出した。これを流出されたくなかったら、奴らはこのことを黙っているだろう。