超凶悪!!蠍のポイズン

「超重甲!」
 コマンドボイサーにカードを差し込むと、ネオインセクトアーマーが重甲されていく。鮎川蘭からテントウに変わる瞬間、蘭の身体がより進化していくみたいだった。
 蠍妖獣スコルーザの出現を受け、ビーファイターカブトは緊急出動をした。だが、強力な毒素の針を尻尾に備えたスコルーザはカブト、クワガー、テントウを翻弄し続けていた。
 バイザーの向こうに迫ったスコルーザが大きな鋏をもたげている。
「きゃああ!」
 両手でマスクを塞ぐことしか出来なかった。鋏が腰のアーマーに食い込み、爆発を起こした。
「うわあぁぁっ!」
 テントウの身体が宙へ浮き、蘭は手足をばたつかせた。
「テントウ!」
「くらえ!」
 カブトとクワガーがレーザーで攻撃するが、スコルーザは難なくそれを避けた。
「ああぁ!」
 ネオインセクトアーマーの内部で背骨がしなって、蘭は悲鳴をあげた。テントウをがっちり掴んだ鋏を巧みに使い、縦横無尽に動くため、二人は接近すらできない。
「クソッ、このままじゃテントウが持たない」
「お前らもその程度だな」
 蠍妖獣スコルーザはサソリをそのまま大きくしたような形をしていた。二足で直立しておらず、八本足を巧みに使いこなす。一見、野蛮に見えたが、機動力では人間など足元にも及ばない。昆虫戦士も真っ青の甲冑を持っており、頭の上に被る尻尾――テントウのマスクの背後に控えていた――は鉤爪になって、光を放っていた。
「カブト! オペレーションBで行くぞ」
 クワガーがいった。
「えっ、あの作戦を…」
「それしか、テントウを助ける手は無い」
「解った」
「いやぁーっ!」
 二人は頷き合うと、スコルーザに向けて駆け出した。
「お前らに俺は倒せん」
「倒す必要は無い! 俺たちはテントウを助ける!」
 クワガーの足が空気を切る。スコルーザの尻尾に命中するが、ダメージは無い。その先端の針がクワガーにもたげた。
「トウ!」注意が一瞬それたのを見計らって、カブトが乗りかかった。足の一つを掴むと、根元の節からその足がもげた。
「グワアアアァ! 何をするっ!」
 痛みにテントウの身体がぶんと振り回された。飛び上がったクワガーがテントウの胴に抱きつく。
「この野郎!」
 カブトが反対側の足ももぐ。火花が散り、スコルーザがバランスを崩す。
「グハッ!」
 バランスを崩した刹那、スコルーザの針がクワガーのネオインセクトアーマーを背後から突き破った。パーツが飛び散り、黒光りする表面が黒く血に汚れた。
「まだだぁ!」
「くらえ!」カブトがホルスターを抜き、レーザーで鋏を撃った。同時に、テントウの身体を鋏から引き抜くと、三人同時に空中に飛び出た。
「うわあぁ」
「ぐはあぁ」
「ううっ……っ…」
 胸を押さえて蘭はよろよろ立ち上がった。クワガーは背中から出血し、カブトは右腿のアーマーが破壊されて、皮膚が露出していた。
「ビーファイター…よくも」だが、同様にスコルーザもダメージを受けていた。「必ずリベンジしてやるっ」
「二人とも…」
 スコルーザは姿を消した。カブトとクワガーの元に駆け寄り、テントウは腰を下ろした。自分のネオインセクトアーマーも多くの機能が機能不全に陥っている。背骨が外れているみたいだったが、動けるから多分大丈夫。
「大丈夫だ、蘭」
「ああ、俺もだ」
「よかった…ごめん……」
「謝ることじゃないさ」
 仰向けになったクワガーの背中のアスファルトに血が広がっていく。
「健吾!」テントウは腰を浮かせて、クワガーに近づこうとしたが、不意に眩暈がした。目の前が真っ白になって、激しい耳鳴りがした。頭を揺さぶられたようなショックで、二歩と出ないうちに紫色のアーマーが光を失って、アスファルトに激しい金属音を放った。
「健吾ぁ――」

「……ここは…」
 蛍光灯、くすんだ塗り壁、白衣の男がクリップボードを持って立っている。
「目覚めましたね。大丈夫です。ここはコスモアカデミアのメディカルセンターですよ」
「あたしは…助かった……」
「そうです。今、博士を呼んできます」
「あの……」
「はい?」
「カブトとクワガー――甲平と健吾は?」
「目下、治療中です。あなたは安心して自分のことに専念してください」
 医者は病室で出て行った。エタノールのきつい臭いがした。遠くで何かのアナウンスがしている。医者の小走りと誰かの落ち着いた足取りがリノリウムの床に響いて、蘭の耳に響いていた。
 果てしない不安のあと、走ってくる足音がして、小川内博士が現われた。
「蘭、大丈夫か?」
「はい、あの甲平と健吾は?」
「大丈夫だ、安心しろ」
「大丈夫って、どう大丈夫なんですか?」
 プログラマーの蘭にしてみれば、世界には○と×しかない。コンピューターの選択肢に△はないし、あやふやには出来ない。
「私を守った二人は…どうなったんですか?」
 博士はメガネをはずした。
「解った。話そう。二人は目下重体だ。カブトは右足にクワガーは背中のネオインセクトアーマーを破壊され、二人の身体にもダメージを受けた。意識が無い」
「それで…二人を助ける方法とか」
「二人はスコルーザの毒を身体とアーマーの両方に受けている。スコルーザの毒素からなら中和剤を作れるかもしれないが……」
「それなら私が捕まえてきます!」
 上半身を起こそうとして、さっと血の引く感覚がする。慌てた博士が蘭をベッドに戻した。
「まだ無理だ。コスモアカデミアの総力を結集して、二人は助けるつもりだ。自分を……」
 破砕音がまず響いた。窓枠が揺れて、ベッド脇の机から花瓶が落ちて割れた。振動が病室を包み、二人がさっと窓に眼をやった。キノコ型の雲がもうもうと立ち上っていく。メルザードだ、スコルーザだ。蘭でなくてもそれは解った。
「博士、私、行きます!」
「ま、待て! 蘭!」
 机の上に置かれていたコマンドボイサーを手に取ると、パジャマであることも構わず病室を飛び出ていた。にわかなパニックに陥ったエントランスを抜けて、前の通りへ出た。キノコ雲はどんどん大きくなっていく。
「超重甲!」
 白と紫の光が蘭の身体で渦を巻くと、ネオインセクトアーマーが身体に装着され、蘭の顔が精悍なマスクに変わる。バイザーのコンピューターが起動して、オーケーの表示が出た。完了と同時に紫色のボディーがぱっと発光した。何十キロものアーマーをまとっても、その人工筋肉で身体は羽がついたように軽い。
「とう!」
 しなやかに身体が跳躍した。その身体はどんどん空中へ高度をあげていく。
 ――待ってなさい、スコルーザ。必ず二人は助けるんだから。
 バッタのようにジャンプを繰り返しながら、決意を固めた蘭は現場へ急いだ。

「ビーファイターはまだかあぁーーっ!」
 瓦礫と化したダウンタウンで、スコルーザは逃げ遅れたOLを鋏で掴んだ。
「イヤアアァァーーーッ!」
 制服姿のOLは足をばたつかせている。尻尾の鋭い針が形を変えていく。ピンクミニをめくりあげて、ヒップをさらけ出す。勝負下着と呼ばれるような黒のTバックだった。
 ぐじゅうっ!
 尻尾をヒップに突き立てると、Tバックを難なく裂く。巨大な棍棒と化した先端が肉の穴へ潜り込むと、不気味な音がした。
「アアアアァァ!」
 肌が裂けて、鮮血がほとばしる。OLは泣いていた。
「ええい!」
 蘭は惨劇を見るやいなや、一目散にスコルーザに飛び掛った。
「おっ、ようやく来たな」
「離しなさい!」
「よかろう」
 ぐじゅぶぶぶっ――つ! スコルーザは鋏を離す。テントウとOLが空中に投げ出され、蘭はとっさに彼女を包み込んだ。鈍い音がして、背中がアスファルトに激突する。女をしっかり抱きとめた。
「大丈夫ですか?」
 二、三回転すると、女の顔を覗き込んだ。普段の顔は知らないが、一気に二十歳は老け込んだように見えた。
「は――ぃ」
 声はか細かった。腰の辺りから制服に血が滲んでいる。すごい出血だ。病院に運び込まなければ危ない。
「グハハハハハッ」
 スコルーザが勝ち誇った。一気に飛び掛ってくるぐらいに近距離にいる。OLを守らなければならない。中和剤を作るための毒素を奪わなければならない。彼女を背後において、ゆっくり身体を起こした。
「卑劣な行為、許せないわ!」
「許してもらうつもりは無い」
 OLは気を失ったようだ。ちらっとみて向き直った。あまりにバイオレンスなスコルーザに十分身構えてきたつもりだが、この人の惨劇に恐怖がみなぎった。
 女をこんなにする卑劣な妖獣を許すことは出来ない。同じ惨劇を受けたら――でも、蘭はビーファイターテントウだ。意を決した。仲間を助けなきゃならない。
「テントウスピアー!」
 個人武器のスピアーは四つ股に分かれている。腰でバランスを取り、長大なテントウスピアーを背後に回して、前に構える。一歩前に出て、間合いを計った。
「くらえ!」
「とう!」
 スコルーザが口から毒素を吐く。スピアーを使って空中を舞い、巧みに避ける。
「仕返しよ!」
「グハッ!」四つ又の刃先が背中の甲冑と激突してスパークを噴き出した。襲い掛かる尻尾をスピアーの芯で逃がす。空中で一回転して足をはらい上げた。「ウワアァ!」
 横転したスコルーザは八本の足をばたつかせた。まるで亀だ。
「二人に注入した毒素を中和する方法は!?」
 直立すると、刃先を腹につきたてた。最も弱い腹なら、チタン合金さえつき抜くテントウスピアーで突き破ることが出来るかもしれなかった。
「死んでも言うものか……」
「ならどうなるか解ってるわね!?」
 八本足が動きを止める。観念したのか。落ち着き払って、テントウは刃先を一瞬浮かせた。
「隙あり!」
 八本足がやはり亀のように突き出て一瞬伸びた。
「きゃあぁっ!」
 バックハンドアーマーへ、足が鞭のようにしなると、テントウスピアーを払う。スピアーはあらぬ方向へ飛んでいく。しまった――考えるよりも先に攻勢が蘭を襲った。いつでも動けるよう腰を浮かせていたことにより、テントウの足は容易に払われてしまう。仰向けになった彼女の身体の上に、大きな影が覆いかぶさった。
「何するの!?」
「俺は尻尾で元に戻れるんだ。亀とはだいぶ違うんだぞ」
 演技に騙された。左右の足でひし形をつくり、その中にテントウを包み込む。足に滑り止めとしてついているギザギザがアーマーをこすって、火花を発した。
「もしもしっ……!」
 とっさに通信回線をアクティブにする。暗号化処理が開始され、衛星にアップロードされるまで永遠の時間が流れた。
「させるかぁ!」
「いやあっ!」
 スコルーザが牙を剥くと、テントウのマスクを包み込んだ。バイザーに蠍の毒や粘液だらけの口内が大写しになる。バリバリゥィ! 額の辺りに設置された四本の通信とセンサー、レーダーのアンテナが根元からへし折れる。
「そんな……」
 コンピューターが一瞬ブラックアウトする。酸素マスクにひどく臭くて生暖かい空気が流れ込んできた。ぱっとバイザーが復活すると、サブモードの起動表示が出た。だが、通信もセンサーもレーダーも動いていない。
「きゃっ! そ、そんな!」
 クワガーの背中を突き破り、カブトの腿を破壊したショックがよみがえる。それを直接見たわけじゃない。だが、ブンブンに振り回される中で音だけはきいた。この世のものともつかない音、頭の中からさっと血が引くのが解った。
 シューッッ! アンテナ内部に循環する冷却液が破壊されたことで、蒸気になって噴き出し始めた。
「アッチイナ」
 スコルーザは足を使ってそこを閉じた。
《エマージェンシー》
 行き場を失った蒸気が排出チューブの中で膨張し、吸入チューブは液不足を起こした。本来なら対応できるほどのダメージだった。だが、サブモードのダメコンに高度な機能は付加されていなかった。
「あああぁぅ!」
 顔面に焼き付けるような空気が吹きかかった。気圧差を起こしたマスクが小さな爆発を起こした。規模こそ小さかったが、額のすぐ上で起こった爆発は頭をしたたか揺さぶり、バイザーにヒビを入れた。そのショックに超高性能CPUの三個を機能不全に陥れ、集積回路に集中する一万二千本の回線を切断した。残りのユニットはダメコンに走ったが、物理的破壊が襲い掛かり、独立したユニット以外の全てが停止した。
「く……はぁ…っ…」
 ネットワークに接続していた人工筋肉の三分の二がブラックアウトしたことで、体重をはるかに上回るネオインセクトアーマーがものすごい重量になって、彼女に襲い掛かり、スコルーザに抑えられていることと同時に、テントウが蘭を捕縛した。
「おやっ、深刻なダメージを受けたようだね。死んだか?」
「ううっ…」
 まだ死んでいなかった。額が切れて、目に血が入って滲んだ。涙があふれてくる。バイザーが閉じて、緊急時補助インターフェイスが起動する。といっても、発光ダイオートの発光信号で、その点灯パターンでメッセージを表示するというものだった。
「まさに虫の息だな」
 ハッハッと笑ったスコルーザはもそもそと動いて、テントウの顔をよく見える位置へ移動した。視界に陽が射し込んで来る。痛いぐらいの眩しさだった。真っ赤な眼と鋭い犬歯を持ったスコルーザの顔――
「毒素をっ……」
「まだやるか」
 またハッハッと笑ったまま、マスクに噛み付いた。喉の奥から声が響いてくるみたいだった。ガツンッ! 髪と顎のすぐそこまで牙は差し込まれた。ものすごい音と共に、バイザーを通さない陽が顔に刺さった。
「マ、マスクがっ」
 不利なものを感じていたが、蘭はまだ何とかできると考えていた。昆虫のエネルギーはネオインセクトアーマーを自動的に修復してくれる。その勝機を待てばいいぐらいに考えていた。だが、マスクが破壊され、素顔が白日の下になり、凶悪な妖獣の顔を前にすると、気合が一気に萎縮した。
「そうだよ」
 牙を引っ込めると、人間の三倍もありそうな口で蘭を貪った。
「ううっ! おぶぅっ」
 歯で必死に拒否したが、人間のものではない特有の皮膚に反射が起こった。その隙に口で抱え込めないほどの舌が流れ込んできた。
「ふんぐうぅっ」
 口内を嘗め回って、ぶるぶる震えたスコルーザの舌は脱皮を起こして新しい舌を突き出すと、喉の奥底まで嘗め回った。あり得ない場所を生暖かさが襲い、貧血を起こしそうになる。
「ぐはっ――こんなことをするために、捕まえたわけじゃないでしょう」
 そう、毒素でビーファイターを倒す。もし、毒素を注射される直前に逃げられれば、まだ……まだ、勝機があるかもしれない。絶望だったが、蘭は決してめげることは無かった。
「いや」
「えっ!」
「お前は毒で殺すには勿体無そうだ。十分に若さのエネルギーと虫けらのエネルギーを貪りつくしてやる」
「エネルギーを……貪りつく…す……」
「そうだ」スコルーザの顔が歪んだ。「具体的には――こう! やるんだ!」
「きゃあああああああぁーーつっ!」
 畑からニンジンを抜くようにテントウを鋏で持ち上げられた。マスクをはがれ素顔を晒した蘭はパニックを起こした。手足をばたつかせて、廃墟と化したダウンタウンが眼に焼きついた。強烈なデジャブ――カブトとクワガーが毒を打たれた時も同じだった。今、助けてくれる仲間はいない。
 暖かい季節なのに、寒い空気を覚えて全身が冷気した。太陽光パネルのようにテントウの身体は天に向かってかざされていた。その通りに、紫と黒とシルバーを基調にしたアーマーがきらきら光を放っていた。
「で、こうだな」
 ゆっくり……驚くぐらいゆっくり、その身体を前に倒した。お尻を上に持ち上げ、頭を下げる。全身に掛かる機能を停止したアーマーの重量と、昆虫のエネルギーに支えられて保っていた体調が一気に崩れた。もう一度、蘭はデジャブした。このようにされたあのOLの末路……
「やめてぇええええええぇーーーーぇ!」
 心拍数増加に身体をショックが襲い、意識が途切れかける。アーマーの独立ユニットが自動電気ショックを起こし、瞳を大きく見開いた。鮮明なイメージだった。
「もし、俺がオマエみたいな虫けらを犯すとしたらどうするね? 毒よりも怖いだろうな。毒なら死ねるが、犯されたぐらいじゃ死なないからな。特にオマエみたいに仲間を助けたい一身の奴は決して屈しない」
 涙が落ちていく。
「だが、そんなことどうでもいい」
 右の鋏で身体を固定すると、左の鋏で筋を伸ばした。ネオインセクトアーマーは今となっては鉄くずと変わらない。だが、それでもまだ合成金属としての強力な弾力を持っていた。
 ガシャンッ!
「…ム、ダ……」
 おへそのあたりにある緑のユニットが火花を上げた。鋏がもう一度ぶつかる。そこはサブのサブシステムが収まっていたが、もう機能を停止していた。
「オマエが抵抗することが無駄なのか。俺がこうすることが無駄なのか」
 蘭の身体が震えると、サブサブシステムが煤けた内部を明らかにした。スコルーザが鋏で器用に引き剥がすと、音を立てて、周りのユニットが数珠繋ぎに脱落していた。数重のインナーの表面に冷気が襲い、汗が一気に引いた。
「ぎゃあああああぁあぁっっ!」
 アーマーを引き剥がされる強烈なショックが蘭を襲う。痛みは無いが、苦痛に満ちた。ネオインセクトアーマーを通じて、テントウは蘭であり、蘭はテントウだった。昆虫としてのテントウと人間としての蘭は一体化している。身を裂かれるのと寸分違わなかった。
「フッハハ」
 いかに苦痛しようと、気絶することも死ぬことも無かった。残った独立ユニットは蘭を生かそうとテントウのエネルギーをつぎ込んでいた。既に沈船で水をかき出すような動作だった。
「!!?」脱落した部分のインナーを鋏が掴み、皮膚に鋭利な感じがした。「や、やめてぇー!」
「助けて欲しいか。だがムリだ」
 インナーから素肌がさらけでた。時として、現実は十八歳には受け入れがたいものに変貌する。尻尾が棍棒を振りかざしており、蘭は更に泣き叫んだ。まわりには硝煙の臭いが立ち込めており、可笑しいほどに寒かった。
 微動が全身を駆け抜けた。濡れていなかった。濡れるどころの事態ではないし、腰が抜けていた。液をまとったスコルーザの棍棒が、一気に子宮壁まで突きあがった。
「ああぁ! あああぁん!」
「中々の絞まり具合だ」
 肉襞から愛液が勝手にほとばしった。快感ではなく、自己防衛だった。始めはくすぐったかったが、棍棒に肉が裂け、血の滲み、全身の力が抜けた。
「あああぁあぁあああああぁん!」
「オシオシ」
 顔が真っ赤になって、蘭は顎を引いて叫んだ。犬みたいだった。ネオインセクトアーマーを装着したまま喘いでいた。異常だった。異常が意識を勝手に高ぶらせた。それは快感なのか、激痛なのか理解できなかった。
「はああああぁん! いやああああああぁ!」
 昆虫と人間とメルザードの融合が起こると、三者が拒否反応を起こして、負荷は全ては蘭の身体に来た。膨張を続ける棍棒が蘭の身体とは到底あっていなかった。
「あああぁん! あああん!」
 快感を受け入れまいと腰を振って必死に逃げようとした。もうどうにもならなかった。
「このままじゃ! しんじゃう!」
「はああああああぁん!」
 肉壁をこする棍棒が身体を汚し、メルザードのエネルギーがアーマーを逆流した。ショートを起こして停止しはじめた独立ユニットが割れる。作動油をアーマー内部に漏らし、隙間から侵食した。肉の焼ける臭いだけが漂っていた。
「もう、やめてぇ!」
「了解した。終わらせてやろう。第一段階を! しっかりきめろよ」
 ぐじゅじゅじゅじゅじゅじゅ! 裂け目からヴェルーザのザーメンが滴る。蘭は白目を剥いて、手が中空を掴んでいた。わなわな震えながら、糸が切れた。
「はああああああああああああああああぁぁぁんんんんん!」
 オルガズムに達したことなんか無かった。快感を感じるというよりは勝手にイかされていた。熱湯をかけられたように肉壁が腫れ上がるのが解る。火照っていた。肩が息をしていた――
「飛んで火にいる夏のテントウだな」
 ぐい、ぐいぐい、尻尾を巧みに揺らした。
「ああぁ……ああああぁ…」
 だらりとした身体が揺れにあわせて動いた。口をパクパクさせて、紫色のテントウはオルガズムに浸かっていた。
「はあぁぁ……わたし、メルザードの子供を……」
 スコルーザに中出しされたことで、蘭はそのことをぼんやり考えていた。もし、身体を食い破って妖魔が現われれば、彼女は確実に死亡する。
「大丈夫だ。それだけは保障しよう。尻尾のザーメンに生殖機能は無い」
「えっ…」
「その代わり、出した相手のDNAを強制書き換えをする」
「…………」
「ビーファイターテントウ、オマエは晴れてメルザードの女戦士になるのだ」
「そんなぁ……」
「それまでにはまだ時間がある。楽しませてもらうぞ!」
 グジュジュジュジュ! 尻尾が勢いよく蘭から抜けた。
「はああぁん!」
 アスファルトにアーマーのぶつかる音がして、頭から地面に落ちた。彼女はテントウを引きずりながら、その場から離れようとした。オルガズムを受け入れても、死んだわけじゃない。屈辱的に、精神的には死んだ。でも、負けるわけにはいかない。
 アーマーはひどく重かった。身体が鉛で出来ているようだった。いつもははるかに軽いのに――
「そうはさせるか」
 スコルーザは尻尾の棍棒を針状に変形させて、テントウの背中を打ち抜いた。先端が素肌の寸前で止まる。スパークは弱弱しかった。
「まあ時間はある」
 蘭は肢体をばたつかせた。生きたまま針で刺される標本のようだった。露出した密林から蜜が漏れてアスファルトに道を作っている。
「楽しもうぜぇ……」
 鋏でテントウの両手を掴む。蘭は絶望的なものを感じていたが、絶対にスコルーザに屈するつもりは無かった。クワガーとカブトをなんとしても助けることを決意していた。
「やめてぇ!」
 スコルーザの鋏が軽々とテントウを持ち上げると、仰向けにして背中に乗せた。肥大化した棍棒が鎌首もたげて、影を落としていた。