青色のサイミンガス 後編

 さくらは彼の顔をみて、身体をみた。火照り。アクセルスーツが触れあう。重なり、音が鳴る。唾液に濡れたグローブがあり、蒼太がその手首を掴んでいる。彼女は白銀の彼の股間に触れた。吃立した彼の男根がさくらの手の中をうねっとした手触りとともに転がり、彼のスーツの上でラインを描いている。
「ちゃんと握って」
 彼のいつもと変わらない口調が投げかけられた。さくらは言葉のままに、滑る手で彼の股間に手を重ねた。指を曲げ、彼のラインに沿って動かした。うね、上へ跳ね上がるように股間が動く。
「ん…くっ……」
 曇った表情を保ったままだった。跳ね上がる男根の根本、下側に指先があてられて、さくらは指の腹で撫でた。ぴくっと脈動が指に伝わる。蒼太は下を向きさくらをみる。みるみるアクセルスーツから浮かび上がるように勃起が続く。
「ちゃんと、しごいて」
 手首から持ち上げられるさくらの手の平でその下側をつかむ。竿をつかむとスーツの上からわかるほどにぬるっとしていた。臭いがした。臭い、と思わせる、何かが腐ったような――薄れる中で思っていた。
「あ……」
「持って」
 彼の指示が耳の中にじんと響く。うなされる感覚の中で、その手の中の脈動が身体の奥まで響く。汗が全身に浮かぶ。蒼太が身体を前へ倒した。さくらは後ろへ倒れようとしたのに、彼の空いている腕が背中をつかんで、それをやめさせた。
 近づく身体――不意に染みが突き立つ彼の亀頭から灰色になって広がった。手首を捕まれたまま、竿を掴んで、いちど、にど、いちど、にど。
「うますぎ」
 びくんと脈動が続く。つんとした臭いが立ちこめる。さくらはそれをみていた。手が離れる。腹部――へそのあたりに勃起した男根が載せられた。ひんやりしたスーツに熱くなったスーツが触れる。口を半開きにしてそれをみているさくら――首に手がさしのべられて、首を上に向けられると、蒼太の唇があって重なり閉じかけた口をこじ開けるように舌が入ってきた。
「……姉さん」
「あぁっ…んっっ……」
 へそにあてられる感触は布地二枚を介しても、明確な感覚になって伝わる。唇から唾液がこぼれる。汗が目に入って染みる。震えはじめる蒼太の手、唇が離れ、さくらは顔を向ける。
「ん…」
 さくらは押し倒された。仰向けの彼女と、四つん這いの彼、息づかいが次第に乱れてるのが気配でわかる。さくらは、自由なままの手を脇から腰、足の付け根へとうつした。濡れて蒼太の脈動を忘れない指先が、さくら自身の肉蕾へいたると――
「ああぁっ……」
「チーフが羨ましいよ――」
 指が青い指が添えられると、スーツの上から秘唇の間を無理にこじあけるように左右動をしながら挿れられた。
「あ――」
 くちゅ、体液のたてる淫らな音が響く。腰を浮かし、抜けてそのまま床に戻ってしまう。
「んんぁ…ああ゛ぁ……ああ…あ」
 途切れがちな吐息、かき分けて差し入れられる脈動に震える身体――気持ち悪さとかすかにかき消されそうな痛みが漏れ入ってきて、いっそう霞む。
「これが、姉さんのおま×こだね…」
 顔を傾けて、ふつうの口調で言われた。言葉なく頷くさくら――
「んんぁぁ……」
「姉さんは、ここをボクにいじられたいと思う。そう思うことに普段から心が燃えるように痛くなる」
 言葉が与えられた。
「だけど、それはいけないことだと分かってもいる」
「ああ…ああ……」
 うなされるような声で頷くさくら――舌を唇の間から少し出して、潤んだ目で彼の身体に釘づけていた。いじられたいと思う。そう思うことで心が燃えるように痛かった。もっと激しく――もっと――
「挿れるよ」
 はい、さくらは言葉なく頷いた。頷いてから首を細かく横に振る。戸惑い、痺れた頭から漏れるのは心を覆う切なさで、涙がこぼれて唾液が流れる。
「あぁぁ」
 漏れる声、そそり立っている彼の男根は白銀の光沢を保っている。さくらはみて頷いた。言葉を知らない子供のように、さくらは反応していた。薄く濁った意識が、蒼太のことしか考えられない。彼の優しい面もち、身体――欲望が滴り、彼がスカートをひっかけあげたとき、濡れて灰色に光る股間に彼女は羞恥して頬を染めていた。
「は、はい……」
 壊れかけの人形のようにかすれた声を出した。彼の言葉が聞こえるが、耳に理解できない。彼が近づく、さくらは頷く。知性あふれる矯正整った顔は、緩み壊れていた。肉の臭いがする。
「んぁっ…」
 蒼太の体重がかかる。肉がスーツと触れた。アクセルスーツ二枚を隔てて、さくらの肉壷の中に、蒼太の肉棒が挿りこみ、二つはねじりあい、きゅっと音をたてた。ゴムをこすりあわせたような音で、それは液体のぶつかる音の間に妙な明確さをもって広がった。
「あああぁっ……」
 短く区切れる声、アクセルスーツの中に蒸し暑さがあって、ぶるっと身体をふるわせる感覚がある。
「んぁ……」
「入った」
 小さな声で言われた。空気が滞留している。彼の茶色い髪が見えた。さくらは手を伸ばしていた。蒼太が顔を落としてきた。身体が移動する。彼の胸板に触れるさくらの胸――密着した衣服は、素肌と同じだけの実感を呼び起こして、短く囁く彼女は首を振る。
「あんぁ…っ…」
 目を細めて、さくらは蒼太をみた。少し力の抜けた彼の顔、なんだかカワイイと思った。仕事だけのつきあい、同僚、そういうふうに思っていた相手になぜこんなにと、思えるほどの恋しさを感じて、彼の体温がすぐそこにある。
「んく…こすれ…て…」
「…こう?」
 彼が腰を揺らす。つながった身体が揺れる。さくらは肘を曲げて、彼の胸板に手をやる。離れて、そういうふうにしたのに、痛み――こすれて身体の中を引っ張られる痛みに、顔をしかめて首を振るのに、彼の手が絡みついてくる。
「あっ……んぁっ…」
 胸板においた手がまるで溶けるみたいに、蒼太に抱かれてさくらは目を開けた。蒼太がいる。抱きしめられて、そのまま溶けてしまいそう。後頭部に添えられる手――
「君みたいな美人が悲しむのはみたくない」
 声は加熱したハチミツみたいに、さくらの中にこぼれて入ってきた。とろ火であぶられていた意識が、いっぺんに溶けて、身体の奥底までそそぎ込まれるみたいで痛みがわき起こり、瞼を開けたけど、瞬間的に止んでどろっとした感覚と熱だけが残った。
「ああぁっんん…っ…」
「さくら…姉さん?」
 呂律を乱しながら、さくらは短く答えた。ぶるっとした意識、いっそう強くなる霞の中で、頭は彼のことで満ちていく。その身体。繊細でだけど引き締まった指先――夢現の中で、心の中に直接絡みついてくる手がある――
「あっ、はいっ…」
 うなされた。醒めることのない熱の中で、抱きしめられて、身体が一つになっている。指先が蜘蛛のようにさくらの身体を撫でている。腰から尻、腿の裏側、それから脇へもどってきて、二の腕――あっ――摘まれて、首を振る。
「あ…ああ……」
 漏れる声――さくらは蒼太のうなじをみた。それはすぐ目の前に見えた。首まで白い装甲で包まれているのに、そこは素肌だった。キレイで、きめの細かい肌――顎を引き、彼の顔をみた。すぐそこにある。さくらは首を巡らせながら、口から舌を出した。先端にいくに従い、鋭いカーブを描く桃色の肉塊を彼女は男の口に差し挿れた。
「ン…っ…」
「ふぅ…んん……あぁ…あああ…」
 蒼太さんがすぐそこにいて、さくらとつながっていた。ずん、と腰が突き上げられる。大きくなった彼の欲望は、堅くて、ぐじゅりと濡れていた。ボディーを包むスーツの白い部分は灰色になっていて、溶けた水飴のようなにおいがする。
「ああ゛…あぁ゛……」
 痛みが搾りでるみたいだった。彼の動きについて身体を動かす。濡れた音――身体をぎゅんぎゅんと広がる痺れ――混ざりあう。
「キモチいい?」
 囁かれる言葉に、戸惑いがちに少し動けなくなってから、こくりと頷いた。頷くのと腰が突かれるのは一緒で体中にあふれでた戸惑いがつーっと身体の中に混ざりあう。
「――はぁ…い」
 汗がくすぐったい。身体の感覚が一点にだけに集中していくみたいだった。意識、身体がぎゅっと縮こまるみたいだった。さくらは訳の分からない思いで、蒼太の顔をみた。彼は笑っている。笑えばいい、んだ、そう思って、涙を流して首を振る。
「あああ…ああっ」
 突かれた。スーツを着ているのに、肉が混ざりあう。スーツには神経フィードバックのシステムが組み込まれている…‥ふと思い出した。溶けていく。スーツの表面で感じたことが、そのまま身体の奥底にそそぎ込まれて――負荷とか、そんな言葉が浮かんだけど、このままなるようになってしまいたいという欲望で覆い尽くされて――あぁっ、蒼太に強く抱かれた。
「もう、イキそう……」
「わたし…も…です……」
 身体がおかしくなってしまったのかもしれない。びりりという電流がかけめぐる。激しく息づき脈動を繰り返す蒼太の身体のリズムがそそぎ込まれる。身体の感覚がぱっと白い絵の具で覆い尽くされて、強い光があてられるみたいだった。
「んあぁっ…ああ…ああああぁっっっぁ…」
 ひく。
「イった…」
 彼の宣言に、さくらは頷いた。もう一度、頷いた。どろんとした意識が途切れ途切れの古くなったテープカセットみたいだった。汗がこぼれる。身体は壊れていないようにみえた。突き抜ける感覚があってぱっと花を開いていて、桃色のベールがあたりにかかって見えた。
 身体はそのままだった。まだつながったままだった。くちゅ、お漏らしをしたみたいに見えた。アクセルスーツの中もあふれでた蜜液でぶつぶつ感じるほどに濡れていた。白くてねっとりしたものが見える。蒼太の精液だった。あふれでてた。
「ああっ」
 愛でられるように、蒼太に抱かれた。快楽の中で、蒼太の顔を見上げた。彼の表情は優しげに見えた。愛しさはますます、ひどくなった。汗ばんだ身体はひどく色香に包まれていた。まぶたが熱くなって、一条の涙が流れた。もういつまでも離れられないような絡みつく蜘蛛の糸に包まれたみたいで、さくらはただただ涙をあふれさせた。息が詰まる。なにも考えられない。なにも考えられない。
 ぶるぶると震える身体――その中にあふれる熱情は途切れることなく、さくらを包んでいた。蒼太の男根が、さくらの胎内から抜け出て、震えている。舐めたい。そう思ったのに手を伸ばさなかった。そうやって嫌われたくないと思った。だけど、彼女は身体を密着させた。
「蒼太…さん……」
 身体の位置が入れ替わって、さくらは四つん這いで、蒼太が仰向けになっていた。
「いいんだよ、今まで通りくん付けで。それに、ミッション中は――」
「わかってます」
 口元をほころばせた。彼にくっつき、彼の男根は抜けて脚の間にある。さくらは腿を絡ませた。アクセルスーツはひどくすべすべしていて、もっとくっつけていたかった。髪の毛が前にかかる。かきあげた。舌に唾液を絡ませた。舐めたい、そう思って、さくらは舌を蒼太の顎へあてた。
「ふぅ…」
 頭が重い。鈍い頭痛ですら心を解くように感じられた。スーツは蒼太の体温を吸い込んでいるはずなのに、ひどく冷たかった。ブロンズ像みたいだった。汗がぽた、ぽた、と流れている。欲望は、蒼太のことしか考えられない。上も下も右も左も定かではないのに、蒼太はすぐ目の届くところにいた。
それだけは事実で、彼女の身体を震わせる。
「ああ…んん…」
 舌の裏を、彼の胸板から鎖骨へはわせた。息がこぼれて、吹き付けるようにしながら、首を振る。上目遣いに彼をみた。頭を撫でられた。
「咥えてみて」
 言葉は柔らかだったけど、逆らえるはずもなかったし、逆らうつもりもなかった。濡れた舌を近づけちょんとその先端にやる。胸元で押さえつけて上を向かせて笠の下側に指の腹を当てた。つま先が亀頭に食い込む。男根をみてから、蒼太の顔をみた。口元を照れた感じに綻ばせて割れ目に沿って舌を這わせた。酸っぱい感じが鼻先をくすぐる。
「そうやって、チーフにしてるの?」
「蒼太くんだけですよ」
 指先を先端にあて、こねくり回す。一周二周としてにわかに湿り気を帯びる。
「うそだね」
「ホント、ですよ」
「なんだか、姉さん変わったよね」
「え?」
「昔はもっと、つまらない女だった」
 聞きながら、口に含んだ。唾を吹き付け、舌の腹をこすりつける。
「おもしろくなりましたか?」
「かなりね」
 舌を伸ばしていく。ひくつき、盛り上がるように固くなっていく。さくらは身体を起こした。顔を前へ傾けた。舌を巻き付けるように絡め、首を動かす。身体が張った。蒼太が腰をふり、喉仏に達するほどの突きがくる。息のつまる感覚に戸惑いがあふれでて、首をふり、それからまた――少しリズムが狂う。
「んんっ…んぁっ……くちゅ…ん……」
「姉さんのおかげで、まだまだ――
「んぅ……感じますか?」
「ああ」
 唾液がこぼれる。ひくつくように矢を張りつめた弓のように震える男根――
「では、挿れさせていただいても――」
「そうやって、チーフはいつも言わせるの?」
 顔を見合わせた。彼の表情がゆがむ。さくらは肩のアーマーを腕で捕まれた。「きゃっ」
 不意の動きに、さくらは声を漏らして肩を揺らしてから、蒼太の顔をみた。
「姉さん?」
 向かい合う二人――きらびやかなスーツを着衣したまま、さくらはそれから白んだ意識の中で、蒼太の顔を見た。笑顔で頷いた。
「このミッションに、チーフは関係ありません。わたしは、わたしの意志で、蒼太くんのお◎んぽが欲しくなってしまいました。あなたのことで、頭がいっぱいです」
 言葉がでた。彼女は首を頷いた。唇の左右の端が自然と上に持ち上がる。蒼太の腕が離れる。二秒間、何もないまま過ぎて、今度は蒼太が上に立った。

「どうした? さくら?」
「いえ、なんでもありません」
 明石の問いに、さくらは顔を下に向けたまま応えた。書類をめくる。
「寝不足?」
 蒼太の無邪気な声が届いた。曖昧に返答を返した。午後のサロンに西日が差し込んでいたけれど、空調がほどよくきいていて涼しかった。ブリーフィングテーブルのスツールに腰掛けている真墨と菜月、ソファに腰掛け、最近入手したという骨董品をみている明石、もう一つのテーブルで書類とノートパソコン相手に格闘しているさくら、そしてその真向かい至近距離で、装備のメンテをしている蒼太がいた。
「昨日も、遅くまでドックにいたので――それ、取り付けが逆です」
 さくらはノートパソコンの画面に目を移した。蒼太が解体して洗浄している装備をちらりとみた。彼が視線を返してくる。目線があう。顔を伏せる。
「さくら、仕事も大切だが、休むときは休め」
 明石が立ち上がった。菜月が何か言いかけて、真墨がその腕を引いた。
「問題ありません」
「チーフの言う通りじゃない? さくら姉さん、なんだか、ちょっと顔色が悪いよ?」
 彼が楽しんでいるのは、間違いなかった。明石をみる。蒼太をみた。なんでこうなったのか、わからなかった。