青い復讐! 時の牢獄の罠


「お久しぶりです。トリプルランサー」
「おまえは!」
 ランスを持ちかえながら、ブルーランサー・豊臣ふゆのは声のする方向へ向き直った。敵戦闘員はあらかた倒した。あれぐらいなら、マスクオフの状態で戦っても、楽に勝てる。
 黒いすらりとした影、丸い板をハメ込んだような顔、見間違うこともない。かつて、ブルーランサーを圧倒した時計魔人がそこにいた。
「なに、性懲りもなくまた現れたの?」
「無敵の私たちにまだ用があるのかしら?」
 ブルーランサーの頼もしい味方――レッドランサー・織田ひみか、イエローランサー・徳川みことが両側に立っている。
「そうです、というより、ブルーランサー、あなたにね」
「あんたって本当、キモチ悪い」
 ふゆのは笑みを浮かべた。
 一度倒された敵に倒されるほど、トリプルランサーはばかじゃない。舐めないでよね――言外の意味を込めて、ランスの先端を相手に向けた。
「もし、地獄から蘇ったとしても、またあなたを成仏させてあげるわ!」
「嬉しいこと言ってくれますね。実はこの私はあなたに倒されれば倒されるほど、強くなって蘇ることができるのです」
「どういうこと?」と、みこと。
「私たち、怨陽軍団は、人の憎しみ怒りを得てより強くなることができるのです」

「なんですって」
 レッドランサーは声をあげた。時計魔人は向きなおり、ひみかの目を見た。
「そうです、私はふゆのさんの私への憎しみを糧により強くなることができるのです」
 やばい――ひみかは頷いた。冷静なふゆのは敵の挑発に簡単に乗せられたりしない。だけど、ふゆのには弱点がある。それはプライドだと、ひみかは思っている。
「つまり、トリプルランサーには倒せないってこと?」
 プライドを傷つけられれば、ふゆのは傷つく。それはいっそう強い相手への敵執心へ――
「そうです、よく解りましたね。私たちが卑劣なことをするたびに、あなた方の正義の炎は燃え上がる。その炎を食べて、私は生きるのです」
 言いながら、時計魔人は顔の文字盤に取り付けられた針を動かした。ひみかはその動きの意味を知っている。
「まて!」
「タイムフロスト!」
 甲高い鐘の音、プリズムにひみかは顔をしかめた。空気が青く染まって見える。時計魔人は、時間を止める魔法を唱えた。そして――時間は止まってない。
「いえ、ここは時間が止まった世界です」
 時計魔人の言葉に、ひみかは再び相手を見た。この技が発動してしまえば、こちらのフリになる――
「ふゆの、みこと――?」
 一歩引いて、仲間に呼びかけた。仲間は、隣に並んでいた――氷像のように凍り付いたまま。
「ふゆの!?」
 彼女はブルーランサーの肩に手を当てた。ぴくりとも動かない身体――
「無駄です。ここはあなたとわたし以外の時間は止まった世界――」
「どういうこと? あなたはふゆのが目的じゃなかったの?」
「そうですよ?」時計魔人はクックと声をあげる。「ですから、同じ技で、もう一度ブルーランサーを倒し、よりいっそうの憎しみを与えるのです。それには、あなたに証言をしてもらわないと――私が、確かに時間を止めてブルーランサーをいたぶった、とね?」
「ふざけないで!」
 下ろしかけたランスを振りあげ、レッドランサーは時計魔人とブルーの間に入って出た。ひみかはふゆのを守ろうとした。
「そこを退いてください。あなたには用はありません」
「私には用があるのよ――えい!」
 時計魔人は隙だらけに見えた。ひみかは身を踊らせ、距離をつめた。ランスを振り下ろし、それをよけられれば、背後から入りなおした。顔をあげ近づけ、再び離れる。
「仕方ありませんね。ですが、あなたにはちゃんと証言してもらいますよ」
「誰が、そんなことをすると思ってるの?」
 ひみかは鼻で笑った。その時だった。時計魔人の影がぼっと薄れて、次の瞬間には背中にいて脇に手が回され――
「ここは私の空間です!」
「しまった! あああああああぁあぁぁっっ!」
 迂闊さを乗ろうと同時に目覚まし時計のベルの音が何倍にも増幅されて身体を襲い、電撃に身体がしびれて悲鳴をあげた。
「レッドランサー、あなたがリーダーとして仲間を想う気持ち、それはとても美しい」
「くっ――それはどうも」
 ひみかは腰をついた。身体に手をやり、よろよろ身を起こす。
「だが、あなたは間違えた」
「ゃっっ!」
 時計の針状のダーツがレッドランサーの手元に命中して、ランスが床に落ちた。ランスを見て、顔を上げたそこに時計魔人の足があり、キックで後ろに向かって跳ね上げられる。
「あうあああっ!」
「かつて、自分が抜け出した敵の罠の中で、仲間が倒された、そう知ったら」
 時計魔人はレッドランサーの胸ぐらを掴み、引き寄せその顔を見た。
「あなたもブルーランサーに負けず劣らず美しい」
「何を企んで――」ふゆのは時計魔人の手を掴んだ。胸ぐらの手は程なく首にまわり、首がぎゅっと締めあげられ、呼吸が遠のく。
「負けず劣らず美しいあなたが、惨めにこの私に倒されれば、ブルーランサーは自分が倒されるよりも、私に憎しみを抱く、そういうことです」
「そんな……」
 ひみかは手を伸ばす。やがてふりほどけない、そう悟ると相手の顔――文字盤に手を伸ばした。
「いわば、あなたはふゆのと楽しく遊ぶ為の前菜です」
 ひみかは目を丸くした。いきができない。
 時計魔人は顔の文字盤を動かして、時間の移動を決める。そこに文字盤はあった。伸ばした指は文字盤に届いた。だけど、動かせたのはせいぜい三十秒がいいところだった。三十秒、レッドランサーは自分で針を進め、自分の運命を進めただけで終わった。
「もっと苦しませてあげたいですが、仕方ありません」
「ぐえぇへぇぇぇぁはぁぁぁぁ!」
 ぐい、首に伝う力がいっそう強くなって、レッドランサーは呻き身体をばたつかせた。

「させない!」
 イエローランサーは息を切らしながら、ブルーランサーの前で、時計魔人との戦いを続けていた。みことはひみかの姿を見て言葉を失い、気を動転させていた。
「えい!」
 時計魔人の時間凍結の魔法の中にひみかに続いて、捕らえられてしまった。でも、ふゆのがそこから出たようにそうすればいい。みことはそう思っていた。
「たあっ!」
 みことは、ひみかやふゆのに比べたら鈍くさいし、戦いでも強いとはいえない。だけど、今、二人を守れるのはイエローランサーしかいないんだ。
「イエローランサー、随分、戦闘力があがりましたね?」
 敵はそういった。言いながら、みことの振りおろしたランスを片手で受け止める。
「はなせっ!」
「現実では、私が負けたかも知れません」
 みことはランスを敵の手から取り戻そうとした。ぐいぐいいくら引いても、その手とランスは張り付いたように離れない。
「返せ!」
「ここは私の空間。私に服従無きものには、敗北の二字しかありません」
 ニヤニヤ笑う時計魔人。みことは恐怖を感じながら、それでも毅然としていようとした。だが、その動きは怯えを隠せずに、相手のペースに巻き込まれている。
「お、お前に服従も、敗北も――」
 どす。気づかぬ間にイエローランサーは時計魔人に圧されて、その背中を背後の壁にあてていた。時計魔人の手が光る。バリ、ハッキリとした音で、ランスはその手の中で折れた。
「まだ解らないのですか」
 イエローランサーはランスを取り戻した。その先端は失われて、ささくれ立っている。
「そんなぁ…」
 呆然としたみことは、ランスを捨てた。もう役には立たない。その拍子に、時計魔人はイエローランサーに覆い被さった。
「は、はなせっ!」
 敵に抱きしめられ、嫌悪感を抱いた。みことはその腹部に鈍い感覚を覚えた。時計魔人が折ったランスの反対側がちょうどダガーのように、みことのへそのあたりにあてられ――光を放つ。
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」
 その武器には再生能力があった。折れたランスとみことの勾玉が共鳴して、それを再生させようとした。元の姿に戻りながら、武器は宙を伸び、遂にイエローランサーの身体の中に入り込み、反対側へと貫通した。
「あぁっ…ああ……な、なんで」
 く、くやしいよ。ランスは壁をも突いた。時計魔人はすぐ目の前にいた。みことはそれを見てしまった。血が見えた。黒い染みがスーツに広がっている。
「イエローランサー。実に美しい。まるで芸術品のようですっ!」
 血の気が引いて、寒かった。みことは時計魔人の向こうを見た。そこには凍り付いたように動かない豊臣ふゆのがいる――くやしいよ、ふゆの。
 しぬの、かな。

「私たち、怨陽軍団は、人の憎しみ怒りを得てより強くなることができるのです」
 ふゆのは言葉を聞いていた。その言葉が終わると、隣にいたはずの二人の気配がかき消すように消えていた。
「タイムフロスト!」
「はっ」ブルーランサーは鳥肌が立った。時計魔人は時間を自由に操ることができる。それはつまり――こういうことで――
「ひみか! みこと!」
 その次の瞬間、現れた二人の姿にふゆのは言葉を失った。二人は倒されていた。
 その間は、ふゆのにとっては一瞬にしか思えなかった。だけど、二人がどれだけいたぶられたのか、それはふゆのが一番知ってる。
「時計魔人!」
「はい? なんでしょう、ブルーランサー?」敵はそこにいた。「私たちの間に、この二人は不要なので、始末させてもらいましたよ?」
「始末ですって?」
「そう。私はあなたさえいれば、それでいいのです」
 時計魔人をふゆのは見ていた。
「実は、時間を止め、あなた方の基地に入り込み、寝ているあなたを襲ったこともあります」
「……!」
「ですが、やはり、わたしは氷のように動かないあなたよりも、生きているあなたを食らいたい」
 時計魔人は嘘をついている。いくら相手にその能力があっても、そんなこと出来るはずがない。ふゆのは思った。これは挑発で――だけど、もう二人も倒されている。
「ふざけるな! やあぁぁぁぁあっ!」
 気合込め、ブルーランサーは走り出した。頭のどこかでは、無駄だと解っている。だから――
「えっ!?」
 ランスを振りおろすと、それは宙をかいた。
「何をしているのです?」
「やアっ!」
 背後の声に向けて再びランスを一振りして、同じ結果が出た。
「諦めの悪い人ですね」
 クックと敵は笑っている。運動神経がどうのという問題ではないことは、ふゆのが一番よく解っている。まるで、モグラたたきでもするようにランスを振るっている。幾度も、幾度も、身体を起こし振るい――
「わたしは――」
 やがてふゆのは肩で呼吸をし始めた。目の前に姿を現す時計魔人に指一本触れられない。宙をかき続け、神経を集中させた。
 体力は消耗し、相棒のように親しんできた武器は徐々に重みを増していく。
「負けないわっ!」
「私は学びました。あなたに近づかなければ、不覚をとることもありません」
「男なら接近戦でケリをつけたらどうなの?」
 汗が眉間を伝う。
「イヤです――花時計ショック!」
 とっさの出来事に身体がうまく動かなかった。その蔦は時計魔人の腕から飛び出てブルーランサーの身体に巻き付くと、ぎゅっと骨や肉を巻き込みながら締め付けた。
「はあぁあぁぁぁあぁぁぁっ!?」
 電撃がふゆのの身体を襲い悲鳴をあげると、蔦から緑色の樹液が流れ出て、ランサースーツを濡らした。
「やああああぁぁぁぁあぁあぁあっ!!」
「いい、やはり、あなたですね。ブルーランサー。悲鳴といえば、レッドもイエローもよかったが、やはりあなたです」
「ああっぁ…身体が…」
 ふゆのはどさっと膝をついた。どくどくと樹液が流れ出て、蔦にピンク色の花が咲いていた。
「他愛もない――ブルーランサー、その花は女のエキスを吸って花開くのです」
「な、なに……」
 ふゆのはそれをみた。蕾は理科の実験番組のように目に見える早さで花開こうとしていて――身体が痺れている。
「そうです。私はその花のエキスを是非飲みたい」
 ふゆのは倒れ、時計魔人はその袂に立った。足でランスを遠くへ蹴りとばした。
「やぁああぁっ」
「これであなたが私と戦う武器は、もう何も残っていない。やはりあなたは実に美しい」
「そんなこと…はんっ!」
 ブルーランサーを時計魔人は足で転がし、仰向けにさせると、その足で彼女の腹部を踏みつけにした。ふゆのは身体を動かそうとしたけれど、蔦は彼女を縛る拘束具のように絡みついていて――
「ああぁあぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁっ!」
「そうです、その表情です」
 のけぞり顔を白く染めて苦痛に喘ぐふゆの――
「あぁあぁあっ…イヤだぁ……」
 ふゆのは頷いた。首もとの花はもう八分咲きといった様子だった。全身が痺れてうまく動かせない。死ぬのかな。一瞬、言葉が頭をよぎる。だけど、負けない。絶対、負けられない。
「くっくあはあぁぁぁぁぁっ!」
 ふゆのは叫んだ。口を開いた。口の中が乾いて血の味がした。そして――首もとに咲いた花を口に含んだ。
「な、なにっ!」
 淡い感覚に包まれた。口に感覚はなく、彼女は一瞬死の世界を錯覚した。蔦は、花にエネルギーを与えていた。そのエキスを口から含み、痺れは止んで感覚は妙にハッキリした。
 ふゆのは蔦から花を引きちぎった。とれたてのレタスを思わせる味がしていた。歯と舌でつぶし、ふゆのはそれを口に含んだ。
「バカな!」
 時計魔人は狼狽えた。ブルーランサーのエネルギーを吸い取り、その花を食らえば、この小娘の力を得ることが出来る。そうすれば――だが、当の小娘は、そのエネルギーを食らい、再び我がものとしてしまった。
 音を立てて蔦の戒めが解かれた。ふゆのは――ブルーランサーは立ち上がりながら、その蔦を掴んだ。その先には、時計魔人がいる。
「はなせ!」
「時計魔人?」
「なんです?」
「後一歩だったわね」
「まだ負けたわけではありません!」
 時計魔人は言って、その言葉にふゆのは嘲笑した。
「そうね。だけど、私は負ける気がしないの」
 ブルーランサーは力を込めた。時計魔人は引っ張られて、引き寄せられた。ふゆのは指を伸ばした。時計魔人の顔に文字盤がある。それを反時計回しにすれば、時間が戻る。時間が戻れば――ひみかとみことが倒される前の時間に戻ることが出来る。

「私たち、怨陽軍団は、人の憎しみ怒りを得てより強くなることができるのです――って、アラ」
 時計魔人は辺りを見回した。空がある。雲がある。
「く、くそっ。それであれば、再び時間を進めるまで――! あっ、あっ!」
 時計魔人は文字盤に手を当て、焦りを露わにした。文字盤の針が動かないのだ。
「残念、もうあなたに時間を操ることは出来ないわっ」
 時計魔人は目の前を見た。そこには、ブルーランサーを中央にして、レッド、イエローの三人が並んでいた。
「どういうことです、これは!」
「これよ!」ブルーランサー接着剤のチューブを手にしていた「これであなたの文字盤を固定したのよ?」
「小癪な――そんな安っぽい技で、この私を――」
「でも、これでもう」
「時間を動かすことが出来ない」
「さあ、時計魔人。今度こそ――」
 三人の息のあった言葉に、時計魔人は不敵に笑った。
「成仏しますか。いいですよ。何回でも成仏させて下さい。だが、トリプルランサーも人の子だ、私に対する憎しみを拭い去るなんてことが――」
「本当にバカみたいね」
 レッドランサーの言葉に時計魔人は顔を向けた。
「まだ気づかない?」
「どういうことですか?」
「可哀想だけど、時計魔人。私たちが悪と戦い続ける限り、確かにあなたを成仏させることは出来ない」
 ふゆのは言った。笑みさえ浮かべている。その顔には憎しみもあれば加虐心すらあって、だから時計魔人を成仏させることなど――
「だから、あなたを閉じこめてあげる」
「閉じこめる?」
「そうよ!」ひみかも笑っている。
「時の牢獄にね」
 当然、みことも笑っていた。
「時間を動かせなければ、そこがあなたの牢獄になるの!」
 時計魔人は気づいた。そこは、はじめトリプルランサーを襲った場所と同じに見えた。だが、何かが違う。彼は気づいた。そこは空があって雲があった。しかし、その両方とも動いていなかった。
 トリプルランサーの背後に発光が起きている。それは時計魔人も見慣れたものだった。時の牢獄と人間界をつなぐゲートだった。
 そう、ここは人間界ではなく、彼自身の牢獄の中なのだ。
「じゃあ、時計魔人」
 ふゆのに接着剤のチューブを投げられ、時計魔人はキャッチした。呆然としていた。アイツらを始末しなくては、最悪の結果になる、それは解ったが、この時計を操る魔人である自分が、この小娘共に時間を操られたことが信じられず――
 光が消えると、トリプルランサーもいなくなっていた。
 全ての時間は止まっていた。彼は若返ることも老いることもない世界に、ただ一人だった。
「まさか、な」
 苦笑して、その空間を眺め回した。何の感触もしない。空間がただただ広がっている。この空間を創ったのは自分だ。
 だから、自分がよく知っている。当然、逃げ道なんてない。逃げる必要のない場所だから。

 風はそよぎ、雲は宙を泳いでいる。
「どうしたの?」
「ひみか」
 ふゆのは声の主に答えた。缶コーヒーをひみかに渡され、彼女は隣に座った。
「ありがと」
 高台にある公園のベンチからは遠くに広がる街の光景が一望に出来た。
「まだ、悩んでるの?」
 缶を開ける音がした。ふゆのは口をあてる。コーヒーはミルクの味が強くて甘かった。
「まあ、ね。本当は、私たち、あいつを成仏させなきゃ――」
「それが出来なかったんだから、仕方ないじゃない?」
 みことはパイン・ジュースの缶を片手に、ひみかとは反対側に腰掛けた。
「だけど、私たちの使命は――」
「私たちの使命は、人々の平和を守ることだよ、ふゆの」
「そうそう。それにさ、いつか成仏できると思うよ」
 みことは微笑んだ。
「いつか?」
「もし、私たちが悪い奴をみんな倒して、この地球に本当の平和が訪れて、みんなが憎しみあうことをやめることができれば、ね?」
 ひみかはふゆのの顔を見た。ふゆのはその顔を見た。人なつこそうなリーダーの大きな瞳がそこにあった。
「そう、そうだよね」
「そ、だからさ。焼き肉、食べにいかない?」
「焼き肉?」
「うん、もちろん、ふゆのの奢りで」
「なんでよ。むしろ、私が助けたんだから――」
 三人は三人それぞれの顔を見た。笑みを浮かべていた。ふいにふゆのは笑い、ひみかもみことも笑っていた。
 戦いは続く。だから、進むしかないんだよね。ふゆのは頷いて、缶コーヒーを飲み干した。
「割り勘、ね」