オクトパス・アタック

「よろしゅう、たのんますよ……」老婆は箸でエビフライを摘んだ。
「解りました」
 ユウリはコーヒーを口にした。この老婆は美味しそうにエビフライを食べつつ、ユウリの正体を知っているのでは、と思わずにいられなかった。
 シティーガーディアンズが法人の警護ビジネスを行っている。自動小銃に手りゅう弾、まるで軍隊の装備だ。タイムレンジャーの装備は千年後の装備で、彼らをはるかに越えている。この老婆がユウリのもとに来たのはある意味正しい。
「私は不安で不安で……東京は危ないでしょう。怪獣とか変な奴らとか」
「怪獣はいませんよ……宇宙人とか囚人はいるかもしれないけど」
 インターシティー捜査官のスキルを生かして私立探偵を営むユウリを、何処で知ったのかこの老婆は尋ねてきた。東京に住む孫娘が最近の様子が最近怪しいので調べて欲しい。それが老婆の依頼だった。
 好奇心旺盛な老婆をユウリは扱いかねた。仕事は他にもあったし、二十代の孫娘に彼氏の一人や二人いても、一向に不思議ではない。三十世紀の価値観では、一夫多妻も少しも不思議ではない。それでも、その依頼を受けたのは名古屋の旧家の出だという老婆が、お礼を弾むと言って、札束を見せたからだった。
 竜也やシオンはその札に目の色を変えて、依頼を受けるようにユウリを説得して、結局折れた。
「その宇宙人とか囚人とかですよ」
「というと?」
「宇宙人とか囚人に襲われるかも知れないんですよ」
「それはどういうことですか?」ユウリは思わず老婆を見た。もし孫娘がロンダースの犯罪に巻き込まれているとしたら、それは自分の任務でもある。契約書を交わしてから、こんなことをいうなんて――フェアじゃない。ユウリは小さく舌打ちをした。
「だって、東京には恐ろしい宇宙人が出るっていうじゃないですか」
 突然、老婆は笑い出した。周りの正装の客たちの目がある。ユウリには老婆の神経が全く図りかねた。こんな訳の解らない老婆の、ロンダースの犯罪に巻き込まれているかもしれない孫娘のことなど、知りたくもなかった。でもこれは仕事だった。
 写真と彼女のアパートの住所、その他個人情報を受け取ると、老婆はウェイターを呼び、ユウリも分も勘定を払った。コーヒーが九五〇円、エビフライが三千五百円もするレストランだった。
 二人して外へ出ると、銀座の空に雨が降り出した。タクシーを捕まえ、乗っていきなさいという老婆を丁重な断った。小走りに駅へ向かうと、地下鉄は湿気を帯びていて、ブラウンのエナメルコート姿のユウリは、パステルピンクのインナーの襟口に手をあて、下車駅に着くのを待っていた。

 次の日から二週間の約束で、ユウリはその孫娘の身辺調査に乗り出した。
 彼女に関するデータを、タッグに頼んでネットでさらってもらった。午前八時、孫娘のアパートの向かいにあるコーヒーショップでユウリはそのデータを読んだ。別段変わった様子は無い。どこにでもいる女子大生、それが孫娘にユウリが抱いた印象だった。ただ一つだけ、タッグの言葉が気になった。
「ネット上に、彼女に関して不自然なデータ削除の痕跡がある、か。タッグも意味深なこといってくれるじゃない」
 もし、彼女がロンダースと関わっているとするなら、敵のハッカーがデータを消した可能性がある。老婆の取り越し苦労かと半信半疑だったユウリも、孫娘とロンダースの関係を疑いはじめていた。
 そのアパートは、アパートとは名ばかりのオートロック装備の独身女性向け賃貸マンションという趣だった。老婆が裕福なら、不自然ではないものの、女子大生が住むには不釣合いな外観だった。ひょっとすると、家賃もロンダースから……
「来た」
 八時半ちょっと前、写真と同じ女性――孫娘がアパートから出てきた。黒のパンツに白のハイネックシャツといういでたち、犯罪に加担しているようには見えない。ごく普通の大学生と言った印象。急ぎ早にメモをすると、コーヒーショップを出た。不自然に遠くでもなく近くでもなくを、追跡しはじめた。
 九時過ぎに私鉄で二駅先にある大学の最寄りに到着、コンビニで緑茶のペットボトルを買い、九時半の一時限目の時間までには、講義のある教室に入った。
 ユウリは真ん中に位置する彼女から多少離れた位置に座った。「英米文学論」という講義は九十分続き、そのあと別の教室に移動して、二時限目の「文化人類学」が同じく九十分続いた。後の授業で隣に座ったおそらく女友達と昼休み学食へ行く。
「真面目に授業受けてるし、何も変わったところなんて無いじゃないのよ」
 タッグの入手した講義登録によると、今日はこの後すぐ「哲学C」の講義があり、それで今日の講義は終わり。ユウリは欠伸をかみ殺しながら、「哲学C」を受けた。孫娘はキチンと出席し、板書を書き込んだ。優等で養成学校を出たユウリにも講義内容は理解できたが、その内容は古過ぎて退屈だった。
 終了後一時間は図書館で勉強、それが終ると昼とは別の友人――ストレートヘアの女が一人、男三人――猿顔、二枚目、スポーツ青年と合流して、ファーストフードで会合。先に入ったユウリは小型収音マイクで会話を盗み聞きしたが、特に何も得られなかった。
 半年振りの再会で、高校時代からの友人で、最近の現状を情報交換、途中で孫娘の隣の女性の携帯電話を回して、旧知の人物に一言ずつ挨拶をしていた。博士と言っていたから、誰かの担当教授だと推測した。
「オバサンの取り越し苦労のようね」
 カラオケを二時間楽しんだあと解散。猿顔と二枚目が別れ、孫娘はストレートとスポーツ青年と駅へ向かう。三人は楽しそうに話して、ストレートが反対方向のホームへ向かった。スポーツ青年と二人きりになった孫娘は、電車に乗った。表情の変化を見逃さなかった。スポーツ青年がロンダースとは考えにくいものの、何かあった。
 二駅走り電車がホームに入った。二人とユウリの他に三十人ほどが降りた。二人はホームに立ち、電車が出ても話し込んでいた。ユウリは女子トイレに入った。トイレの中から偶然、鏡を通してホーム上の二人が見えた。孫娘がブーツで背伸びをした。短い口吻にスポーツ青年は顔を真っ赤にしていた。アナウンスが流れ、後続の電車が入線した。スポーツ青年が乗り込み、孫娘は手を振って見送った。
 ユウリは見てはいけないものを見た気分だった。たが、それが老婆の望むものなら、結果は安心して良い。ロンダースじゃなく、若いツバメなのだから。鏡を見ると、孫娘がこちらへ歩いてきた。はっとしてユウリは個室へ飛び込む。孫娘が入ってきて、隣の個室に入る。下着をずらす音がして、更に音が続く。
 突然の高音にはっとした。クロノチェンジャーが音を立てているのだ。
「はい」小さい声で通信に応対すると、スピーカーから声が漏れた。
「ユウリ、急いで都内B-121へ向かってくれ」
「解ったわ」
 タッグの声は急迫していた。一旦中座して、ユウリは指示された場所へ急行した。
 人気のない駅の女子トイレをユウリが出て行く。彼女は後から出てきた孫娘が自分に不審な視線を投げかけていることに全く気づかなかった。

 道中でクロノチェンジしたユウリを繁華街の照明が光沢に染める。タイムレッドたち四人は先に現場に到着していた。四人のいるビルの屋上に、タイムピンクは迫った。
「おまたせ、竜也」
「おっ」タイムピンクの姿を認めて、レッドは手をあげた。
「どうしたっていうの?」
「俺たちの出番は終ったよ。もう」
 よく見ると、下の地上に四人の先に青緑塗装の警視庁のバスが止まっており、何台ものパトライトが回転している。ランドクルーザー――シティーガーディアンズの専用車も数台とまっている。
「『誰か』が、一般人二人に襲い掛かった」と、タイムブルー。
「俺たちは偶然近くにいて、瀕死の二人を助けた」と、タイムイエロー。
「『誰か』って誰なのよ?」
「それが解らないんですよ、ユウリさん」タイムグリーンの丁寧な口調が緊迫している。「ロンダース囚人のようにも見えたんですけど、不可解なんです。タッグに調べてもらっても、ロンダー刑務所の囚人リストに無い奴だったんです」
「つまり?」
「それで、本部に照会したんですが、ハッキリしないんです」
「はあ?」
「アヤセの話だと」竜也は子供へ話すみたいな口調で言った。「本部は何かを知っているのに、それを故意に隠したような文面だったそうだ」
「ああ、そんな臭いがする」
「さっぱり解らないわ。それで被害者は?」
「さっき救急車が連れて行ったよ。一命は取り留めた」タイムイエローはこの屋上から撮ったらしい写真を示した。「この二人だ。だいたいなんでこんな奴らが襲われたか。さっぱり解らない」
「この二人!」
 ユウリは思わず叫んだ。イエローから写真をひったくると、穴が開くほどその写真を見つめた。
「どうしたんだ、ユウリ?」
「あのオバサンの孫娘の友だちよ! ついさっきまで孫娘とカラオケしてた猿顔と二枚目よ!」
 四人は声をあげ、ユウリを囲んだ。
「どういうことなんですか、ユウリさん?」

 結局何も解らぬまま夜が明けた。ユウリは二人の件を四人に委ねたあと、三時間仮眠をした。きっかり八時に孫娘のマンションに向かった。彼女は午前中何も知らない様子で、大学の学食で朝食を取り、二時限目の「明治文学史」を受講した。昨日のことが嘘みたいな快晴のキャンパスで、ひょっとして、あの二人は人違いなのではとも思った。
 昨日と同じ女の子たちと孫娘がランチをしている最中、腕のハンドヘルド型携帯電話かPDAのようなものが鳴った。彼女は友だちの輪を出ると、着信に応答した。瞬間表情が変わる。ユウリにはその意味が解った。
 孫娘は友だちに一言告げると、キャンパスを出てタクシーを拾った。三十分後に警察病院のエントランスをくぐっていった。

「ここまでがほとんど。結局、あとは何も解らなかったわ」夜、五人で打ち合わせを始めると、ユウリは経過を説明した。「そのあとは、警察病院を夕方に出て、タクシーで家に帰った。それから動きは無いわ」
「ユウリが帰ってから何か無かったかな」
「無いわ、ドモン。もしあったら、ドアに警戒センサーをつけたから、すぐ動きが解るわ」
「俺たちも何の収穫もなかった」アヤセはメモに目を落としていた。「二人は通り魔に襲われたってことで、警察は処理する腹らしい」
「直人に一応きいてみたけど」竜也は乗り気ではない表情をしていた。「『そんな細かい事件、イチイチ隊長の俺が管理してると思うか?』だった」
「引っかかるわね、敵はどんな奴だったの?」
 ユウリは思案した。調査対象の友人が襲われたのだ。
「そうだなー、ロンダー囚人ぽかったけど、微妙に違う」
「何よ、その妙な言い方」
「人間じゃなかった。二メートルはあった」
「他には?」
「そういえば、妙なことを叫んでいた」
「なんて?」
「復活! 復活だ、です、ユウリさん」

 次の日は土曜日だった。八時にレンタカーのライトバンをアパートの前に止めると、それからさっぱり動きが無い。コンピューターを車に持ち込んで、色々調べてみたが、結局情報も出ず、彼女も動かなかった。それは日曜も同じだった。彼女のいることだけは赤外線センサーを照射して調べてあった。
 月曜日、同じくレンタカーをとめた。彼女の講義は午後からで午前中いっぱいは同じように動きがないと推測された。ユウリがコンピューターで調べると、不意に窓を誰かがノックした。若い警察官が中へ不審そうな目を向けている。
「何か?」
「免許書」ぶっきらぼうな口調で、警官は告げた。車を降りてユウリが提示すると、警官は眉を上げた。
「困るんだよね」
「何がですか?」
「近所の住人が不審なライトバンが一日中止まってるって通報してるの。八時から二十時まで、まるで判を押したように。変態の男じゃないかと思ったけど、あんた女みたいだ。でも、女のストーカーもあるっていうし」
 迂闊だった。警官の演説のような説教をきいてユウリは舌打ちした。
「ストーカーなんて……」
「なんか言った? とにかくね、ここは公共の土地で、この路側帯の線、習ったでしょう? ここは駐停車禁止なんだよ。点数引くからね」
 男は違反切符を取り出した。ユウリは汗が出るのを感じた。ユウリの免許書は住民票を偽ったが、しっかりとした警察で試験を受けて作った。でももし住民票が偽ものだとわかれば、厄介なことになる。
 そのとき、警官の背後で孫娘が慌てて駆け出していく様が見えた。まだ九時で、講義は午後からだ。
「あ……」
「きいてるの? とにかく――」
 孫娘を追おうとすると一歩踏み出すユウリの肩を、警官が掴んだ。
「逃げる気か、あんた?」
 警官がぎらついた目をしていた。
「そんなことないです!」
 強い口調で言って切り抜けようとしたが、警官にそんなこけおどしきくはずも無く、また長々しい演説が始まった。孫娘は交差点の向こうで消えて、見えなくなった。

「ああもう!」違反切符はなんとか切り抜け、警官にもうここには止めないと約束して出るまで、優に三十分を要した。ユウリはライトバンを大学の近くに止めると、キャンパス内に入った。既に昼休みがはじまっており、往来が激しい。無駄に一時間が経過した後、孫娘の登録講義の教室へ出向いたが、彼女はいない。
「あの!」
 そのとき不意に肩を叩かれ、さっきの警官を思い出してユウリは嫌な予感に振り返った。
「あなた、何者?」彼女は紛れもない孫娘だった。
「何のことかしら、人違いじゃないの?」
「いい加減にして欲しいわ。あたしのことをずっとつけて、知ってるんだから!」
 警官は孫娘が呼んだものらしい。顧客とは守秘義務があったが、このケースの場合はどうしようも無かった。ユウリは喫茶店に行くと、あまり年の変わらない孫娘に何もかも話して、身辺警護をすると告げた。
「やだア、おばあちゃん」孫娘は笑った。「ところで、ユウリさんはどう思いますか。やっぱり、奴らの仕業?」
「奴らって誰?」
 そのとき、二人の腕はめたブレスがそれぞれ鳴って、それぞれ同じ内容をそれぞれの指揮者が告げた。互いは互いの顔を見合わせた。

 孫娘――城ヶ崎千里はユウリと共に喫茶店を出ると、現場へ急行した。おばあちゃんたら、恥ずかしい。私立探偵なんて雇うなんて――それにしても、あの勘のよさは何なんだろう。前回も事件をうすうす感づいていた。偶然としては、なんて勘が良いんだろう。
 城ヶ崎千里は諸星学園を卒業後、都内の私立大学へ進学した。それ以来は一度、ヒズミナというネジレジアの亡霊が出現して以来、メガレンジャーの出番はない。しかし、ヒズミナは存在した。猿顔と二枚目――健太と瞬が襲われたことに、何かの関連があるとすれば、それは大変なことだ。
 そして、私立探偵――ユウリは謎の女性だった。
「インストール・メガレンジャー!」
「クロノチェンジャー!」
 二人がジャンプすると、地上に降り立つまでに変身を完了させた。走りながら戦闘スーツにマスク姿のお互いを驚いたように見合わせた。

 現場は廃工場だった。二人は誰よりも早く到着した。正確には一人だけ先にいた。その一人は敵――巨大なタコの化け物に絡めとられている。今村みく――メガピンクは五メートルほどもあるタコに絡めとられて、既に生気も無いぐったりしていた。
「メガピンク!」
 メガイエローはタイムピンクとともにその元に駆けつけた。タコは意思を持って、みくへ襲い掛かった。「許せないわ!」
「今は話してる余裕なんてないわね。メガイエロー、メガピンクを助けるわよ!」
 タイムピンクが躍り出ようとした刹那、タコの後ろから人影が二つが現われた。千里はその姿に目を疑った。
「二度あることは三度あるっていうわね?」
「いいえ、四度よ」
「嘘!」
「今度こそ、メガレンジャーを滅ぼし、世界を歪ませるわ。そこのピンクさんは誰かしら?」
「自分が名乗ったらどうなの!」
 タイムピンクはさっとボルスナイパーを二人に向けた。
「私はシボレナ」
「ヒズミナよ。おかしなピンクがいるみたいだけど、同じことだわ」
「タコネジレ」シボレナはタコに告げた。「五秒以内に、あのピンクとメガイエローが武器を捨てなかったら、メガピンクの背骨をへし折っておやり」
「卑怯よ!」千里は言った。
「卑怯が悪の専売特許よ、さあ、三、二……」
「くっ」
 タイムピンクは舌打ちをして、ボルスナイパーを投げた。千里も従う。タコネジレの触手が即座にボルスナイパーをアスファルトの地面ごと粉砕した。
「さあ、あなたたちもネジレジア復活の生贄となるのよ」
 ヒズミナの声とともに二人の胴に触手が巻きつき、自由を奪う。足が地面から離れ、揺れている。千里はメガスーツの上を伝う気色悪い感触に吐き気を覚えた。
「ごめんなさい、あなたのおばあちゃんにあなたの安全を……」
「ああぁぁ!」
 みくの喘ぎに二人は言葉をやめて目を向けた。触手の一本がおぞましい姿に変貌し、スーツの上からみくを乱暴に愛撫している。
「そんな! やめて! 約束でしょ!」
「約束……? そんなものしてないわ。私は武器を下ろさなかったら、メガピンクの背骨を折るって言っただけよ」
「言ったでしょ! ネジレジア復活の生贄になるのよ。大丈夫、あなたもすぐに後を追うわ。面倒だから、そこのピンクも――ところでお名前は?」
「あああぁ!」
 触手を電流が伝い、タイムピンクを襲う。その肢体が暴れ、悲痛な叫びが構内に響く。
「私たちは名乗ったわ。あなたも名乗るのが、礼儀よね? 悪が名乗って、正義が名乗らないなんて、筋が通らないわ」
「くああぁああぁ……タ、タイム…ピンク……ユウリ…」
「よく出来ました、タイムピンク。あなたは邪魔ね。だけど、強そうだから……そうだ」
「どうしたの、ヒズミナ?」
 シボレナはきいた。その視線を交わし微笑みあう。
「それはよさそうな考えね。それにはまずお邪魔を避けなきゃね」
 千里は身体が淡い光に包まれるのを感じた。死ぬんだ、一瞬だけそう思ったが、そうではなかった。

「千里、千里!」
 千里は妙な頭痛とともに意識が明けるのを感じた。その声はみくの声で、目を開けると、妙に薄暗い視界――インストールしたまま――に、メガピンクとタイムピンクが心配そうに覗き込んでいる。
「あぁ……ここはどこ?」
 いつの間に意識を失ったのかも解らない。そこは黒い地面であたりは暗闇に包まれている。タイムピンクの手助けを借りて、上半身を起こすと見回した。
「解らないわ。敵の手に落ちたのよ」
「メ、メガピンク、大丈夫なの」
「うん、何とか」みくが無理をしているのは声で解った。敵の手に落ちたのだ。怖い、千里も思うことをみくが思わないはずは無い。
「静かに」タイムピンクは冷静だ。「何か音がするわ」
「何?」
 三人は耳を澄ませた。確かに何か液状のものが地面を這う音がする。千里はその音の方向に目を向けた。とっさに立ち上がり、頭の前で腕を組む。走査ビームの照射を選択した。
「調べてみるわ。――デジカムサーチ! ……きゃああぁ!」
 そのときだった。視界の向こうから巨大な影が現われ、立ち上がってビームを浴びせるために無防備なメガイエローの身体に何かが殺到した。千里の身体は後ろへ倒れ、メガスーツの表面を下が舐めるような感触に鳥肌を覚えた。
「ちさ……ああぁっ!」
「いやああぁあああああああ!」
 仰向けからうつぶせになり、手を伸ばした先に見えたのは二の腕に群がる十センチほどの赤い塊と、その群れの中に埋もれそうになっているメガピンクとタイムピンクの姿だった。
「くっ……あああぁ!」
 そして赤い塊の群れが千里の身体を這っているのは間違いなく、その塊が手のように息づいて、全身を這って、皮膚に鳥肌が深く刻まれ――
「ははぁ…」
 妙に生暖かい息だった。胸に群がる五匹ほどが千里のハリのある胸に何本もの足を伸ばして貼り付いている。メガスーツは非常に耐久性に優れていたものの、厚さは一ミリも無いから、直接触れられると、全身に張り巡らされたセンサーのフィードバックとあいまって、まるで素肌を触れられているような――特殊なスーツのため、下着も何も付けられなかった――感触を受けるのだ。
「ふはぁあぁ…」そのような息が漏れるのを千里は恥じた。足で息づき、股に群がり、腋に入り込む奴らに千里は悶えていた。「み、みんなぁ……」
「千里ぉ……ああぁ……」
「千里さ…はあああぁぁぁぁあぁぁ……」
 三人は手を伸ばして指を絡めあった。自分たちは負けないという意思を示すように、指の次に手をつなぎ、這って三人は近づきあった。互いを背にして三分以上かけて立ち上がった。千里は前後不覚になりそうになりながら、全身に群がるものを見た。赤い塊は黒と赤を混ぜたような体液が染み出ている。何本もの足が、お弁当のソーセージみたいに伸びて吸盤が、スーツに貼り付いている。生ぬるい音をたてて、汗まみれのスーツに貼り付いている。
「何なのこれ?」
「それはタコネジレの子供たちよ」
 シボレナとヒズミナは笑いあって、三人が全力で立っている姿を見ていた。
「なんですって…はあぁぁぁ……」
 吐息に熱くなった三人はがくがく震えていた。
「みんな、大丈夫……」
「うん、なんとかぁ……」
「ええ……」
 お互いに力強く頷きあった。身悶えた身体が芯の奥から恨めしく熱かった。千里はそれでもかっと敵を見た。
「見上げた根性だこと」
「だけど、根性じゃ」
「どうにもならなくてよ」
「何故なら」
「この子たちは「女の子をエッチにする液」を吐いてるんだもの」
「いつまで耐えられるか、見ものね」
「いやあぁ」メガピンクは悲痛な声をあげた。倒れこもうとする彼女を千里とユウリが両側から支えると、腕を組み合って、がんとした意思表示を示した。
 それに反して、メガピンクは組んだ手を胸の腕にあてて、乳房を自ら愛撫しだした。
「みく!」
「負けちゃだめ!」
「そうやって、どんどんあなたたちは内側から崩れていくのよ! タコネジレもっとやっておやり!」
「きゃああああああああああああああっ!」
「な、なにこれぇぇ!」
 シボレナが命じると、タコネジレは太い触手の一本を消火ホースのようにのばすと、「墨」を三人に放った。真っ黒になった三人のスーツを墨が伝う。超高撥水のスーツに墨は全く付着せずに流れていく。その様を見て、千里は視界がピンク色の染まって、骨盤の内側を渦巻く自らの欲望に強く舌を噛んだ。
「あああぁ……きもちいいよおぉ……メガイエロー、タイムピンクー、手を離してぇー、あ、あたしもう、だめぇー、ああイクぅ!」
「何を言っているの……はふっ」ユウリのその声も既に弱弱しく艶を帯びえている。ピンク色のバイザーは肉欲と抵抗の二つの感情が入り乱れて、複雑な色彩を差していた。
「ああぁははあぁ……何があっても、絶対ひい…負けないわ……」
 千里は瞳孔を大きく開かされた。スーツの内側を怪物の体液ではない何かが流れた。それはトロトロしていて、尿ではなく、すごく気持ち良いのを否定できなかった。

 みくは自分の手を胸に股間に手をやった。信じられないほど痺れていて、怖いぐらいに気持ち良い。それは自慰などとは比べものにならないほどで、まるで……みくとみくがセックスしているみたいだった。
「あああぁ……」
 丸まって、スーツに触れるだけで意識を失いそうだ。千里と組んだ腕すら巨大なペニスが二の腕を絡め取っているみたいだ。
「しっかり……してぇ……メガピンク」
「だ、だめ、千里……だって、すんごく……ああぁん、瞬が欲しいよ……」
 高校を卒業して二年、みくは未だに並木瞬のことが忘れられなかった。
「ああ……瞬、しゅん、もっとぉ……」

「はあああああああああああぁ、いくうううううううううう!」
 メガイエローは崩れ落ちそうになるユウリをあらん限りの力で抑えた。だが、自身も身体に力が入らずに、足が内股になって、ひざを付きそうになって持ち直す。焦点が合わなくて、ぶよぶよになった皮膚が荒い呼吸を繰り返しながら、欲望をもっともっとと叫んでいる。
「元気が良いこと」
 シボレナは一層微笑んだ。オルガズムを迎えた二人を無理やり立たせている姿を嘲笑しているのだ。
「元気が良いって、大好きよ。タコネジレ、この小娘にもっと墨をかけておやり」
 鎌首もたげた触手がゆっくり目の前に迫ってきて、千里は貧血を起こしそうになった。もし今シボレナの言う「女の子をエッチにする液」を掛けられてしまえば、沸騰寸前の身体が快感を否定できなくなってしまうだろうし、その濁流に身を晒されるだけで二度と立ち上がることは出来なくなってしまう。
「いやだぁ……みく、ユウリさ…ん、あはぁ…」
 腕を組んだタイムピンクとメガピンクを一層こちらに引き寄せた。まるで三人が触手の前に並んだようになってしまっている。力なくだれた二人を必死におさえてその触手と対峙した。だが、その左手は胸を弄っているし、右手はスカートの上から股間を愛撫している。その力にタコの子供が破裂して、ヌルヌルの液をスーツの上にばら撒いた。気が遠くなった。
「ま、負けない……身体が痺れてく……」
「どうやらもう、要らないようね」
「でもまだ、心の中では戦っているわ」
「いいわ……健気なメガイエロー、もう気持ちが良くてたまらないでしょう?」
 タイムピンクとメガピンクの腕がするするとメガイエローの腋を抜けていく。悶絶した二人は性器や胸に手をやり、スーツの上から悶えている。転がりながら、タコの子供たちが次々に潰れて「女の子をエッチにする液」がスーツに練りこまれて、素肌に染み始めた。
 メガイエローはそれでも触手をかっと見ていた。気合だけで立ち尽くしていたものの、いつの間にか胸と股間を強く愛撫して、悶えて、マスクを仰け反らせている。千里は足が震えるのを抑えることが出来なくて、強い貧血に落とし穴に落ちていく。膝が折れて、身体がL字型になっていた。
 地面が迫ってきて、マスクが音を立てる。うつ伏せになったメガイエローの腹部や腿にくっついたタコの子供たちも潰されて、体液をばら撒いている。千里は悶絶しながら、仰向けになった。天を仰ぎ、喉が鳴った。
「ひゃあぁあぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
 千里はしばらく痙攣していた。やがて四つんばいにまで起き上がり、意識をしっかりさせようと頭を振った。ぶよぶよの塊たちの何本もの腕が心地よく仕方がなかった。吐息に白く染まったバイザーに前が見えない。
「ああぁ……なんてこと……」
 メガイエローは四つんばいのまま動いた。快感に身体が突き動かされていた。やがて、彼女は何かの塊に当たって、つんのめって転んだ。何か軟らかいものの上に身を横たえた。それがメガピンクであると知ると、相手のタコに覆われた腕がこちらの耳元をおさえた。
「みくう」
 シュ――エアの抜ける音共に、バイザーの曇りが消え、日が射し、マスクが外れた。みくは既にマスクを外していた。二人は身体をしっかり抱きとめた。どちらから言われるともなく抱き合った。髪にタコたちが液をかけているが構わなかった。
 二人は口吻を交わしながら、甘い口づけに翻弄され頬を染めて、奈落の底まで落ちていった。
「みく……ううふう、きもひいい」
「千里ぉ……あはぁ…ねえ、触って、したくて仕方が無いよ……」

「料理は順調ね」
「はああぁぁあぁぁぁ……」
 シボレナとヒズミナは歩き出した。一人自慰にふけるタイムピンクの姿があった。黒い前頭部から逆ハート型バイザー、銀色の口元が脱落していた。露になった表情、艶やかな髪がたてがみのようにマスクからあふれ出ている。鍛えた身体の柔軟さで身体を舐め、タコを口に含んでいた。メタリックなスーツが鈍い光を放っている。
「この娘を使うのが良いわね」
 千里とみくが絡まりあっている中で、シボレナとヒズミナはユウリへ迫った。腰の砕けた彼女を立たせると、そのタコを一匹ずつ剥ぎ始めた。口に含んだ奴を取る。しばらくすると痙攣が止まり、徐々に顔に生気が蘇り、赤みが消えていった。その目に凛とした意思が入り、おさえずとも立てるようになると、二人は支えるのをやめた。
「ここは一体……」
「タコネジレ、第二作戦よ!」
 反射的な動作だった。ユウリはマスクが外れているのにも構わず、五メートルはあるタコネジレに向かった。三歩も進まぬうちに、タコネジレはその巨大さに似合わぬスピードで四本の触手を動かし、素早くユウリの肢体を封じ込める。
「しまったっ!」
「既に罠の底なのよ」
 シボレナはユウリの袂に腰を下ろした。凛としたユウリはその様子を観察している。怯えた色にヒズミナが微笑み、顎に手をやった。
「さすがのヒロインも怖くてたまらない様子ね」
「離しなさい!」
 インナースーツの内側を濡らす体液の気持ち悪さを表情に出さなかった。
「あれだけ、えっちになっていながら、都合のいい娘ね」大きく開かれた股にシボレナは手を充て弄った。
「……はふっ」
 愛液という海に漬った身体がその意思を取り戻すのに時間など要らなかった。抵抗の言葉もいえぬまま、ユウリは顔を染めたが、シボレナは冷酷にクロノスーツを引き千切ることで、欲望に答えるのを止めた。
「っ……」
 最も女性として恥ずべきものが敵により晒され、理性と欲望の渦の間に晒され、ユウリが正気をほとんど失うのも当然だった。とろんとした顔は引き裂かれた部分に釘付けになっていた。
「さあ、タコネジレ」
 その触手は極めて巨大としか言いようがなかった。その先端に巨大な吸盤がついている。その内部はイソギンチャクのように鬱蒼とした繊毛が生えており、その中央に屹立した一本の管が伸びている。
「はぁはぁぁぁあぁぁぁ」
 ユウリはそれをみて男性器を連想し、発情の度を深めた。シボレナの号令とともに吸盤はスーツの裂け目に密着し、管は裂け目から膣の奥深くへともぐりこみ、全身を揺さぶった。膣痙攣が起きて、それはいつまでも終りそうになかった。
「はあああああああああああああああああ! 身体があぁぁあああああああ!」

「ふううううう……」
「うぶぶぶぶっふぁぁぁ……」
 イエローが上、ピンクが下で、シックスティーナインの体位を取った二人は一心不乱に互いの性器に舌をのばし、膣の奥深くまで舐めていた。
「ふはああああぁ…………」
 その様は動物的だった、スーツから染み出た精液が互いの顔にかかり、ヌメヌメとした妖しい光を放っていた。
「タコネジレ、子供を回収しなさい」
 ヒズミナの号令でタコネジレは高周波の音を発しはじめた。メガイエローとメガピンクに群がるタコの子供たちはその音に呼応して、次々にタコネジレのほうに戻り始めた。二人の身体に潰されてもひるまず、程なく全て消えると、二人の動きが次第に散漫になり、やはり眼に意識が戻り始めた。自分たちのしていることを身体がやめないという様子で十五分以上かかってようやく、二人は体位から解放され、自らの身体を愛撫するのもやめ、正気を取り戻しはじめた。
「千里……」
「みく……」
 眼を潤ませた二人は言葉もなくその場にいた。シボレナはその中に肉塊を投げた。
「タイムピンク!」
 意識を失ったユウリに二人は近寄り、身体を揺さぶった。その眉間が次第に緩み、ユウリは意識を取り戻した。千里は肩を揺さぶるのをやめた。お互いがお互いの顔を見て、惨状に言葉を失っていた。
「なんてことなの……」
「頭が痛い…」みくは頭を抱えた。ユウリは肩に手を当てた。
「何だか妙に身体が重い……」
「あたしたち、負けたんだよね……」
 自嘲気味に千里が笑った。みくを見て、ユウリの姿を見た。そのとき、敗北はまだ続くことを知って絶望に昏倒しそうになって、みくに支えられた。
「大丈夫、千里」
 ユウリが千里を覗き込んでくる。千里は血走った目で、みくの介抱から逃れた。
「ダメ! 来ないで……!?」
「気づいたようね、タイムピンク、自分の小股を見なさい」
「何コレッ!!!」股間に隆起した性器の姿に言葉を失った。ユウリが手を触れてその甘味な快楽に一瞬で酔った。ふたなり化したタイムピンクを前に、千里とみくは互いの手を取り合って怯えることしか出来なかった。「はあああああん!」
「――快楽の海に浸かったあなたたちの身体は、信じられないぐらいエッチなんだから……」
 ヒズミナがそのペニスを握ると、ユウリの瞳孔がこれほど無いぐらい散大してディープピンクの色のスーツが艶かしくくねくねと悶えはじめた。
「ふはあぁ……ダメ、ダメったら……」
 ユウリの言葉を耳に貸す様子はヒズミナにはなかった。緩いブリッジのような体位で蠢くタイムピンクの股間をヒズミナがしっかり握りしめた。
「ぅはぁ……ああぁん! イヤァ……」
 無残な未来戦士の姿に、千里とみくは釘付けになっていた。その眼は欲望に血走りぎらつき、獰猛な猛禽類をシボレナに連想させた。浮き足立った彼女らの背後にはタコネジレがゆっくり二本の鎌首をもたげて、吸盤のパチパチと言う音と体液の滴る音と湯気を立てながら迫っていた。その獣にも肉欲の色が宿っていることを見て、シボレナは完全に満足した。
「はぁ…はぁはああぁぁぁ……」
「まるで新鮮な小魚みたい」
 ヒズミナは自らの身体をピンク色のボディーラインに押し当てた。熱く煮えたぎったユウリのペニスがその身体と密接し、官能に酔った顔が美しく歪んでいた。
「はああぁ…ああァー」
 ヒズミナは密着したまま、首元からユウリの顔を見やった。しっかり隣接し、冷たい吐息が吹きかかり、甘い旋律が心臓に嵐を起こさせている。
「そんな…切ない眼で……ダメッ…ふはぁあ…」
 ペニスは今まさに膨張し破裂せんばかりになっていた。ヒズミナは再び握り締めると、ゆっくり揉み下した。そのたびに肩が大きく揺れ、精神の高ぶりを抑えられぬとばかりに、雌の悲鳴が空間を色染めている。
「本当に小魚みたいね、ぷにぷにしてて、元気が良いわ。……何を怯えているのかしら……」
 ヒズミナは自然に手を話した。冷酷な手淫から解放されて呆然とした表情を浮かべたユウリは相手を見ていた。ペニスは大きく膨張したまま、びゅんびゅんと震えている。そのときヒズミナが恐ろしいほど冷酷な表情を放ってきた。
「タイムピンク、気持ち良い? 気持ち良いわよね? もう身体の制御なんて効くはず無いわ」
 言うとおりに効いていなかった。骨盤の中でぱっと飛び散った濁流が身体の管の中を逆巻いている。全身の血液が沸騰したようになり、ペニスが耐えられないほど熱くなって仕方なかった。
「ああぁ……ああぁ……はああぁ…ふあああぁ…イ、イヤ……いく…………!!」
 呆気なかった。ドクと音を立て、白濁した樹液のようなザーメンが亀頭の先端から漏れた。一度やみ、大きく頷いたペニスが二度目、液が滴らせると、そのまま止まらなくなって、つーっと伸びたザーメンの糸が床まで滴り、染みになった。ピンク色のユウリの皮膚がワインレッドに変わって行く。
 焦点の定まらない目で何かを呟いていたが、それは意味の無いことだった。

「ああああああああぁーッ!!」
「ハアァ…ああぁん……ふはあぁあぁ……ああ、あ、キモチ良いんのおおおあぁ!」
 三十センチほどの触手の先端はイソギンチャク状になっており、メガイエローとメガピンクの股間を優しく煽動しながら、粘液を念入りに練りこみ、スーツを融解させた。グレーのインナースーツが露になると、三十本近い触手を巧みに使い、切れ目を入れて広げた。
 ビリリリリ……ユウリが奇声を張り上げる中で、蕩けた表情の千里とみくの愛園のクレパスが白日の下に晒されていった。イソギンチャクはやがて仕事を終えると、それ自体が一本の醜く歪んだキノコ型に変わっていった。そして、大人しく大胆に挿入した。
「あああ! ああああ! ああああぁん!」
 お尻を大きく振り上げて、左右に振っている千里にシボレナは迫った。犬のように節操を無くした千里は目の前がよく解らなくて、沸き立つ欲望にただ流されるままに尻を振っていた。それは動物として当然のことであったし、雌としての本能であった。
「あきれたわねぇ……」
 シボレナは触手をしっかり掴むと、その鎌首を千里の膣の中で出し入れさせた。膣の中で沸き立つ散漫なピストン運動に千里は喘いでいる。シボレナの目に狂喜の色が宿っていた。その姿は既に正義の女戦士でなく、ただ欲望のままに蠢く雌の豚だった。
「きゃあああぁっ……いやぁ…もっとしてぇ!」
 唾液と涙を流しながら、みくはシボレナにすがりついた。メガイエローを愛撫していたシボレナはため息をついてしまった。コイツもコイツも情けない。
「それなら、このタコさんの足を一緒に持って、オナニーでもしたら……?」
 シボレナがみくに千里の膣へと伸びた触手を手渡すと、みくはそれを持って動かし始めた。喘ぐ千里は暴れながら、目の前にたまたまあったみくに挿入された触手を掴むと、それを無我夢中で抱きしめていた。再び絡まりあった二人の身体は性欲のループの中へと沈んでいった。

 黄色とピンクの塊がくねくねと混ざり合ってぴくぴく動くのを、ユウリは呆然とした面持ちで見ていた。特に感情は無かった。二つの塊が混ざり合うだけ。雌の動物があげる空間を引き裂くような叫びを耳にして、性欲を覚えた。
 びくびく息づくペニスの感覚が確かにした。血管の濁流と共に胸や敏感なあちこちに感じるエクスタシーに頬が熱くなっていく。猛り狂う塊が絶頂を迎えた様、瞬間に強烈な萎縮が起こった。
「うううっ……っ」
「はあ……ふはあああああ」
 その声の艶は幼さ残るヒロインたちのものではなかった。気高い敵の、シボレナとヒズミナが肩肘付いたり、内股を作って、股間を押えている。その指の間から液体が糸を引いており、女幹部たちは性欲を味わっているようだった。
「何が……」
 エクスタシーの中で、ユウリは状況を見た。千里とみくは相変わらずお互いの生殖器に刺激を与え合っている。シボレナとヒズミナは二人に関心を払う様子もなく、正気を取り戻そうと躍起になっているようだった。
「くっ……タコネジレもなかなかやるわね」
「……結構気持ちよかったわ」
 タコネジレという怪物が千里とみくにオルガズムを与えると、シボレナとヒズミナも同じように快感を覚えたようだった。もし、仮にあの触手のペニスが敵幹部それぞれの快感中枢と密接に関係しているとすれば……すれば、ユウリの手はペニスを愛撫していた。
「ダメ……快感に流されては……ああっ、でも……」
 与えられる快感の度はあまりに強大だった。この快感を敵に与えれば、敵を倒すチャンスを得られるかもしれない。だけど、それにはどうすれば……
「それしかないみたいね」
 ユウリは股間に手をやり、立てなくなる身悶えの感覚を抱きながら、タコネジレへと迫った。そして四つんばいになると、敵に向かってヒップをむき出しにして、自らの指でスーツを引き裂いた。むき出しになったヒップは繊毛に覆われており、浅黒い蒙古班が大人びた体つきに不釣合いに映えていた。
「さあ、やりなさい」
 汚れ無き肛門がむき出しにされて、タコネジレは触手を伸ばした。もっとも大きいものだった。さっきのように特殊な形では無かった。笠の掛かった酷くグロテスクに肥大したペニスの形というだけだった。インターシティー捜査官が自らアナルファックを誘うなんて、ユウリには耐え難い屈辱だったが、もし、あの二人を性欲の虜に出来れば、活路が開けるかもしれない。
「…………っっ! いぎぁっ! くあああぁ!」
 まるでそれは直腸をはるかに越え、十二指腸まで突き抜ける強力な一撃だった。肛門そのものが触手によって何倍にも肥大化して、引き裂けるようで涙が出て、快感というより激痛に傷口が疼いて、血が滴るのはあまりに明白だった。
 しかも耐えがたかったのは、二本目の触手が口を開き、ペニスを含んでいることだ。痛みと快感のダブルセットに腰が立たなくなって、びっこを引きずるような姿勢になってしまう。このままいっそ死んでしまいたい。そうまで感じたが、なんとしても生きてやる、固い決意は変わらなかった。
「ふはあああぁあぁあぁ!」
「うあああぁああぁ……」
 シボレナとヒズミナが性欲の渦の中に倒れるのは同時だった。四つんばいになった彼女らの姿を目にして、ユウリはタコネジレを足蹴りした。触手が一瞬にして引っこ抜かれ、直腸を突き抜ける感触は耐え難く、オルガズムを迎えた身体は何より重かった。
「覚悟なさい……」
 あらん限りの気力で身体が動いた。マーシャルアーツの動きをイメージし、ほんの一瞬だけ解放する。スーツのパワーは後わずかだけ残っている。それに賭けた。
「たあああああぁ! いやああああああぁ!」
 無防備なシボレナとヒズミナにダメージを与えるのはあまりに容易かった。最早二人はやられていることすら意識できなかったようで、傷口から火花が噴出し、可燃性のコスチュームが火に変わり、蝋人形のように溶け出した。
「うううっぁ……」
 立つことすら出来なかった。それでも、ユウリの与えた傷口から爆発の閃光が起こり、辺りが火焔に包まれていく。勝ったかどうかはよく解らなかった。一つだけ確かなことは全身の気だるさが雪解け水のように溶けていく感じだった。

「千里ぉー、この人なんて新庄そっくりだでねえ。資産家の息子でね、名古屋の会社の……」
 おばあちゃんと千里は写真を手に取り、談笑を交わしていた。おばあちゃんの持ってきたのは紛れも無いお見合い写真だった。しかし、おばあちゃんもその気があるというわけでもなく、千里も面白半分に受け流している。
「良かったわ、元に戻って……」
 ちょっと離れた席に座ったユウリはカプチーノを口に含んだ。隣にみくが座っている。
「ほら、あなたにも来たわよ」
 自動ドアが開き、男が入ってくる。彼は人を探している様子で、みくを認めると手を挙げて笑みを浮かべた。
「お世話になりました……」
 その声は明るく弾んでいる。ユウリは微笑みあって、みくは男――瞬の腕を手に取ると喫茶店を出ていた。
「さてと……」ユウリは反対側に座った竜也の顔を見た。「私達は何処へ行きますか?」
「ん、ああ……そうだなぁ…とりあえず飯でも行くか」
「……そうね」
 ユウリは綻んだ。ペニスは無くなっても、身体が性を求める気持ちはずっと大きかった。