―太陽系の外れにあるとある惑星
地球よりもやや寒冷な気候であるその星は今、地獄絵図の様相を呈していた
「ヒッ…助けてえええええええええええええっ」
ザシュ、と
その言葉を無視するように、鋭い刃が女性の身体を両断する
彼女と同じように、無数の屍が積み上げられ、赤黒い血が海を作っている
グシャリ、グシャリ、と
それらを何ともないように踏みつけながら、2つの人影が歩いている
ボディラインを強調するような戦闘服を身に纏い、頭は口元を残しマスクに覆われている
また、肩口からは口紅のような突起物が出ており、鮮血で彩られたその姿は、まさに“怪物”というに相応しい
「これで全員やったかしら。呆気なかったわね」
黄色い戦闘服を纏った1人がサーベルを持った腕を回し、場にそぐわない明るい声で言う
「確認次第連絡を入れましょう」
桃色の戦闘服を纏った1人が辺りを見回しながら応じる
「はーい」
露出した口元から舌を伸ばし、刃にこびり付いた血肉を舐め取った
「…美味しい」
「もう、まだ任務は終わっていませんよ」
その時
ガサ、と音が聞こえた
「…」
2人の位置からは死角になっている岩陰からだ
そこを、2人は覗きこむ
「見~つけた♪」
そこにいるのは、小さな身体をガタガタと震わせた、年端もいかない少女だ
「キャハハハ」
嬉しそうに笑うと、黄色い戦闘服の方は、刃を振り上げ―
「待って下さい」
桃色の戦闘服の方が、声をかける
「何よ?」
訝しげな声と共に振り向く相方を制止し、怯える少女の前にしゃがみこんだ
「行ってください」
「…え?」
少女はポカンとして、顔の見えない“怪物”の方を見る
「振り向いてはいけません」
優しく、慈しむような声色に少女の警戒心も解けたのか、立ちあがると
「もう二度と、悪夢を見ないように―」
祈るような言葉に背を押されるように、少女は走り出した
「ちょっと、皆殺しにするって指令だったでしょ?」
怪訝そうな言葉に対し、少女の背を見送りながら
「ええ。ですから―」
パンッ!という破裂音が鳴る
10メートルほど先で、小さな身体はパタ、と倒れた
「こうするんです」
向けられた銃口からは、白煙が立っている

「あ…は…」
倒れた少女の下に駆け寄り
「いい顔ですよ」
パン、パン、パン!と
小さな身体に幾度も銃弾を撃ち込んだ

「もう、ホント趣味悪いね、アイムったら」
変身を解除し、ルカはおぞましくも美しい顔を見せた
「ルカさん程じゃありませんよ。死体のお肉を食べるなんて」
アイムも変身を解き、おどろおどろしい化粧の施された顔を、ニヤリと歪ませた
かつて宇宙を股に掛ける女海賊であった彼女達は今、全宇宙を支配せんと目論む宇宙帝国ザンギャックの一員となっている
たくましく勇猛果敢なルカ・ミルフィと、心優しく可憐なアイム・ド・ファミーユと言う名の、正義の女海賊はもういない
屍の血肉を喰らい、絶望の中で死にゆく姿に愉悦を覚える彼女たちの姿は、まさに“怪物”であった
幾多の星で殺戮を繰り返し、2人の名は恐怖の代名詞として銀河中に轟いていた
と、アイムはルカの顔を見て
「もう、ルカさんったら、お顔が汚れていますよ」
呆れたように言うと、赤黒い血肉のこびり付いた口元に舌を伸ばし
ペロリ、と舐め取った
「あはは、ゴメンゴメン」
そして
「早く報告しよ」
通信機のスイッチを入れると、彼女達の“主”へと連絡を入れる
「口紅歌姫様、任務完了いたしました」
「この星に生命はもう存在しません」
完結に報告を済ますと
『そう、なら帰還するまで好きになさい』
絶対にして唯一の“主”の言葉に、2人は喜悦満面の表情を浮かべ、顔を見合わせた
「ありがとうございます、口紅歌姫様ぁ!」
「私達、とっても嬉しいですぅ!」
彼女達の全てを奪い、そして新たに全てを与えてくれた主へと、2人は礼を言って、通信を切る
そして
「はぁぁぁ…ルカさん…ルカさん!」
もう我慢できないと言わんばかりに、アイムはルカの身体を押し倒した
「愛してます…愛しています、ルカさぁんっ!」
「アタシも…宇宙一愛してるよっ…アイム…!」
瞬く間に互いの衣服を剥がしあい、露わになった気色の悪い程に真っ白な肌を密着させる
「あん…うむぅ…!」
「はぁぁん…ぅん…んちゅぅ…!」
唇を交わすと貪るように吸いあって
「私…もうイッてしまいますっ…ルカさん…ルカさぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!」
「アイム…アタシも…イッちゃう…イッちゃうよおおおおおおおおおっっ!!」
血の海の中、まるで狂った野獣のように、2人はお互いの身体を求めあった

「ウフフ…」
モニターに映る2人の様子を見て、口紅歌姫はほくそ笑んだ
性欲に身を任せ、身体を重ね合っている姿に―
自分が作った“作品”の中でも、一際自信がある
あの2人に全てを与えたのは、他でもない自分自身だ
殺戮者としての使命も、互いに抱き合った愛情も
それらは全て、口紅歌姫が“作った”ものだ
(ああ―)
あの小生意気な女海賊達がここまで美しく、素晴らしい“作品”になるなんて―
反対のモニターに、別の映像が映る
“作品”になる前の、彼女たちの姿だ
『ゴーカイイエロー!』
『ゴーカイピンク!』
高らかに名乗り、武器を構える
モニターに映る、凛然と戦う姿
自分達が正しくて、勝利を信じて疑わない、凛々しくも哀れで、惨めな女戦士達
その姿を見ることはもうないだろう
もはやルカ・ミルフィとアイム・ド・ファミーユは口紅歌姫に与えられたただ一つの“幸福”という檻の中で、生きていくしかないのだから―

その日、1つの惑星が消失した
塵一つ残さず、綺麗さっぱりと
その時
1人の怪人と5人の少女、そして2人の女戦士の歌声が宇宙に響き渡っていた
まるで、滅びゆく星と死者へと送る鎮魂歌のように―