「おはよう」
吐き気を催すような声
目を覚ましたルカの眼前に、口紅歌姫が立っており、その背後には、5人の少女が跪いている
身体の疲労は完全に取れており、同様に精神も回復している
未だルカの心に諦めはない
「何の用?」
敵意を帯びた口調で言うルカに、
「フフフ…“お化粧”の時間よ」
「…!!」
その言葉の意味は、すぐに理解できた
あの少女達のように、自分にも化粧をすることで奴隷にする
戦慄するような状況に、しかしルカは虚勢を張る
「アンタなんかに屈するワケないでしょ」
「フフ…その生意気な言葉を聞くのもこれで終わりかしらね」
愉快気に、口紅歌姫が笑う
ルカの強がりは、敵を喜ばせるものでしかない
そのことがわかっていても諦めを見せるのは海賊としてのプライドが許さなかった

「始めるわよ」
口紅歌姫は小瓶から化粧水を出し、掌に伸ばした
そして、それをルカの顔に撫でまわすように塗りつける
「…っ!!」
指が触れる度に、心に嫌悪感が溜まっていく
しかし、どうすることもできない
それが終わると、今度は手に真っ白なファンデーションを取り、それをルカの顔に塗りたくる
元々化粧が薄く、血色のいい肌が、真っ白に覆われていく

「次は目ね。じっとしてなさいよ」
ピシャリとした言い方に、抵抗も許されず、なすがままにされるしかない
口紅歌姫は小さな筆を手に取り、ルカの目の端にチョンと着け、目の縁に走らせた
くすんだ紫色のアイラインにより、大きめの目が、くっきりとなる
さらに、マスカラでやや長い眉毛をカールさせ、アイシャドウにより、目の周りが鮮やかに彩られる
目の端は赤く、瞼は黒く、目の下は紫色で目の周りに陰影が作られていく
アイメイクが終わると、次は綺麗な眉が黄色く彩られる
その後、白い両の頬に同じく黄色のチークカラーが施される
「…素晴らしいわ」
口紅歌姫は、恍惚して言った
潤いに満ちた肌に、活発さを感じさせる目や眉―全てが美しい顔に、濃厚なメイクがされることで更なる美しさが際立つ
「貴女は私が作った“最高傑作”よ!」
口紅歌姫の素直な讃辞に、しかし女海賊は怒りの目を向ける
「絶対…みんなが助けに来るんだから…」
ルカが未だ諦めない理由―それは仲間達を信じているからだ
しかし、
「あらそう。でも、もうそろそろ仕上げなのよね~」
口紅歌姫が取り出したもの
小さくて丸い円筒
すぐにそれが何なのかわかる
「くっ…!」
化粧の最後に施されるもの
―口紅だ
口紅歌姫は、それをルカの口の端に立て
「…可愛いわ」
つー…と線を引いた

全ての工程が終わり、ルカの顔は先程までとは大きく違うものとなった
それを見て、5人の少女は恍惚とする
「あぁ…なんて美しさなの!」
「流石はお姉さまの“最高傑作”だわ!」
称賛の声も、ルカにとっては皮肉でしかない
そして、口紅歌姫は顔がちょうど映るくらいの大きさの鏡を手に取り
「ご覧なさい」
ルカの顔の前にかざした

気がつくと、そこは暗闇の中だった
何もない、黒い闇だけが広がるばかりの、果ての見えない空間
そこに、ルカ・ミルフィはたった1人、立ち尽くしていた
ここはどこなのか、何故ここにいるのか―そんなことは一切わからない
と、その時
『…あはは』
微かな笑い声が響く
「…誰!?」
その声のする方へと、ルカは振り向く
暗闇の中で、まるで夏の夜の蛍のように、現れたその人物の身体は眩い光に包まれている
「…っ!」
その姿に、ルカは呆然とする
今、暗闇から現れ、自分の前で笑みを見せるその人物は―
「アタシ…?」
同じ服、同じ背丈、同じ髪
目の前にいるのは、間違えるはずもない、“ルカ・ミルフィ”その人だ
鼻や目、口、まつ毛など、顔のパーツも相違ない
ただ、1つだけ違うのは
『あははは…』
その顔は、ファンデーションやアイライン、アイシャドウなどの過剰ともいえる程の化粧で、彩られているということだ
―とりわけ目を引くのは紅い唇
その唇を歪ませおぞましく笑う“自分”に、ルカは戦慄を隠せなかった
「何なの…アンタ?」
『何って、アタシはアタシ。ルカ・ミルフィよ』
その返答に困惑する
そんなルカを、目の前の存在はまるで憐れむような目で見つめている
『可哀想…』
「…は?」
意味不明な言動に、困惑が苛立ちに変わっていくのをルカは感じた
それを示すように、眉間に皺を寄せ、目の前にいる“自分”を威嚇するように睨む
しかし、“自分”は、そんなことは気にも留めない様子で―否、むしろ楽しむように笑っている
『アンタ、今が楽しい?』
「…」
意図をつかみかねるその問いに、ルカは答えを返さなかった
『今のアンタは満たされてる?』
『そんな自分でホントにいいの?』
『今のアンタは、“ホンモノ”なの?』
矢継早に相手の口から発される言葉の数々は、何を意味しているのかルカにはわからない
だが、目の前の正体不明な―おどろおどろしい化粧をしている点以外では全く自分と同じ姿のその存在が、ルカ自身の存在を否定するようなものであると、そう感じられる
だから、
「…はぁ」
ウンザリしてため息をつくと、目の前の“自分”へ向けて不快感を隠さない、侮蔑を込めた視線を送り
「バッカじゃない?」
“自分”の言葉を両断するように、言い放った
「さっきから黙ってればワケわかんないことゴチャゴチャゴチャゴチャ…」
「今が楽しいかって?そんなに聞きたいなら答えてあげる」
「今のアタシは、最高に満たされてる」
「マーベラスがいて、ジョーがいて、ハカセがいて、アイムがいて、鎧がいて、トリィがいて…そしてアタシがいる」
「そんでムカつくザンギャックの連中ぶっ飛ばして、お宝見つけて、お金稼いで…」
「こんな楽しい人生他にある?」
思い出すのは、マーベラスたちと出会う前の自分だ
最愛の妹を失い、貧しく惨めで、その日を生きることに精一杯だった日々
もはや生きることに希望さえ見出せなくなっていたあの時と比べて、今のルカは何よりも満たされていた
仲間がいて、やるべきことがあって、叶えたい夢がある
皆の前ではとても言えることではないが、今の自分が幸福そのものにあると、ルカは断言できる
「そういうことよ、わかった?」
「アンタが何者かなんて知らないし知ったこっちゃないけど、自分が欲求不満だからってそれをアタシに押し付けないで」
「わかったらさっさと消えてもらえる?」
不敵な笑みを浮かべ、毅然とそう言い放つ
おそらく目の前の“自分”は、ザンギャックの精神攻撃か何かによるものだろうと分析していた
だから、その存在をはっきりと否定してしまえば、消失してしまうだろう―と
だが、
『あははは…嘘ばっかりつくんだから』
“自分”は、ルカの言葉を何とでもないように、否定した
「…え?」
想定外の事態に、ルカは思わず茫然としてしまう
その動揺の隙間に入り込むように、“自分”は瞳を爛々と輝かせ
『だから、それは本当のアンタじゃないだってば』
『勘違いしてるみたいだから教えてあげる』
『仲間も、お宝も、お金も、全部、ぜーんぶ、無価値なの』
『本当に大切なのは、そんなものじゃない』
その言葉に、激しい怒りがわき上がる
「この…っ!」
しかし、それと同時に、ルカが何よりも大事だと思ってきたものが、自分と全く同じ声で否定されたことで、彼女の絶対の自信がほんの一瞬だけ、揺らいでしまった
その隙を、“自分”は見逃すことはなかった
『もっと素直になりなさい』
「何…言ってんのよっ!!」
耐えられず、ルカは声を荒げた
「アンタにアタシの何がわかるって言うの!?お化けみたいな顔して―」
『わかるよ』
“自分”は、ルカの言葉を遮り
『だって、アタシはアタシ…ルカ・ミルフィなんだから』
「何を…」
ルカの頬に、両手を当てた
「…!」
その指はまるで氷のように冷たく、しかしどこか肌触りのいい感触がある
言葉に詰まるルカに、“自分”は
『わからないんなら教えてあげる』
『アンタにとって一番大事なものは、仲間でもお宝でもない』
『それは他でもない、アンタ自身よ』
「アタシ…自身…?」
精神が混乱状態にあるルカには、目の前の“自分”の言葉を否定することなど不可能だった
『そう、アンタ…いや、アタシ自身がこの宇宙で一番価値があるもの』
『他に大切なものなんて何一つとしてない』
『だから受け入れるの、アタシを―』
その声はたまらなく甘美な音色となって、ルカの耳に響いた
だが
「違う…」
残された気力を振り絞り、“自分”の言葉を否定した
「アタシは…」
その先に言葉は続かない
しかし、明確な意思をもって、ルカは“自分”を否定した
対し、“自分”は
『もう、ホントに素直じゃないだから』
腰に両手を当て、呆れたように言うと、ニヤリと笑い
『なら、見せてあげる』

『―ちゃん』
聞き覚えのある声が、遠くから響き渡る
『―お姉ちゃん』
今度はより近くで、ハッキリとしたものとなって
『お姉ちゃん!』
その声を忘れたことなどない
「リア…?」
今は亡き妹
ルカが、宇宙一の金持ちになるという夢を抱くきっかけとなった存在の声が、近づいてきている
「リア!」
声のする方を見る
『お姉ちゃん!』
朗らかな笑みを浮かべ、手を振りながら走っているのは、あの日のままの、幼い妹の姿だった
「リアっ!」
考えるよりも先に身体は動いた
妹の方へ、ルカは無我夢中で走った
あの日から、ずっと会いたかった
会って、抱きしめて、謝って、笑い合う
それは、ルカ自身が内に秘めた願いだった
夢でも幻でも構わない
もし一目会えたなら―というルカの願いは今、はっきりとした形で目の前にある
しかし
「…え?」
リアは、駆け寄ったルカの横を、速度を落とすことなく過ぎて行った
まるで、ルカの存在など認識していないかのように
その走っていく先を、目で追う
そこにいるのは―

『リア!』
“自分”が、両手を広げる
『お姉ちゃん!』
リアは、その胸に飛び込み
2人は、互いの身体を抱きしめあった
『リア…ごめんね』
『いいの、お姉ちゃん』
“自分”は謝罪し、リアはそれを気にしていないかのようにより強く抱きしめる
『大好きだよ、お姉ちゃん』
『アタシも、リアが大好き』
二人の姉妹は、屈託のない笑みで笑い合う

「なん…で…?」
その光景を前にルカの身体は自然と崩れ落ちた
あれは、ルカ自身が言いたくて言いたくて仕方なかったことではなかったのか
あそこにいるのは、自分なのではないのか
「どうして…」
目元が熱くなり、その端から、何かがこぼれているのを感じる
「う…あ…」
計り知れないほどの絶望に、ルカはしゃくりを上げ、やがて
「うわあああああああああああああああああああああああっ!!」
慟哭が暗闇の世界に響き渡った

「うあ…あ…」
どれほどの時間泣いていたのかわからない
もはや涙も枯れ果てるほどに、ルカの顔は泣き腫らしてしわくちゃになっていた
『わかった?本当のアタシが』
目の前で、“自分”は口の端を吊り上げる
その右手は、しっかりと妹の左手を握っている
やがてその手を離すと、地に落ちるルカの身体を抱きしめた
『もう何も怖くないでしょ?』
冷たい肌は、泣きわめき、熱を帯びたルカの身体に心地よい感覚をもたらす
『これでアタシは何も失うことはない』
甘美な誘惑が耳に響く
『仲間や宝なんかより、大切なものがわかったでしょ?』
“自分”の胸に顔を押しつけ、ルカはこっくりと頷いた
『だから受け入れなさい、本当のアタシを』
もはや、ルカはその言葉を拒むことなど出来なかった
否、拒む必要などなかった
「本当の…アタシ…」
次の瞬間、全身が暖かな光に包まれた


目を開けるとそこに暗闇などはなかった
眼前に広がる世界は彩りに満ちていた
ルカがいるのは雲一つない青空の下、色鮮やかな花々の咲く丘の上だ
ここにいるだけで気分はポカポカと、幸せなものになっていくのが感じられる
「お姉ちゃん」
その声に、後ろを振り向く
「リア…」
最愛の妹が、満面の笑みを浮かべて立っている
耐えられず、ルカはその身体を力いっぱい抱きしめた
「…?」
「ごめん…ごめんねぇ…リアぁ…」
戸惑っているのを感じたが、そんなのは瑣末なことだった
あの雨の夜から、胸に埋まっていた感情が一気に溢れだす
幼い妹の肩に、涙がこぼれる
「泣かないで、お姉ちゃん」
リアは、ルカを慰めるように、ぎゅっと抱きしめた
「うぇ…え…」
その感覚により激しく涙がこぼれる
ルカは幼い妹の胸の中で、号泣した

どれほどの時間泣いていたのかわからない
「ぐすっ…ひぐっ…」
みっともなくしゃくりを上げるルカの身体を離すと、リアはにっこりと笑い
「お姉ちゃん、大好き」
「ア…タシも…リアが…大…好き」
泣きやむこともできず、たどたどしい口調でルカも返した
「ちょっとここで待ってて」
そう言うと、リアはどこかへと走っていった
「あっ…」
声をかけようとしたが、それより先にリアの姿は見えなくなった
その内に、
「ん…」
麗かな陽気の下、ルカは眠気に負けて、意識は沈んでいった

「…ちゃん」
声が聞こえる
どこかまだ起きたくないという気持ちがある
「…お姉ちゃん」
身体が覚醒を拒んでいる
「お姉ちゃん!」
「ひゃっ!」
何度目かの呼びかけに、ルカは目を覚ます
「…リア」
妹の存在を確かめるように、名前を呼ぶ
「もう、お寝坊さんなんだから」
「あはは、ごめんごめん」
ふくれっ面のリアに、バツの悪い笑顔を向け
「それで、なにしてたの?」
聞くと、リアは右手差し出す
「これ、あげる」
その掌にあるのは、一輪の花だ
「何の花なの?」
受け取り、じっくりと見る
見たこともない、変わった花だ
「それ、すっごく珍しい花なの!」
朗らかに言うリアに
「ありがと。大事にするね」
「…うん」
礼を言うと、リアの表情が少し曇る
「リア、どうしたの?」
「お姉ちゃん、私、そろそろ行かないといけない…」
「え…?」
「もうすぐ、時間だから」
唐突に告げられた言葉に、返事をすることはできない
「そんな…せっかく会えたのに…」
引き留めようと腕を掴むルカに、リアは優しく微笑み
「これじゃあ、どっちがお姉ちゃんかわからないよ」
全くその通りだと思う
今、リアを引き留めているのは、ルカのワガママでしかない
「お姉ちゃん、すっごく綺麗…」
「え…?」
「その花、大事にしてね」
言うと、リアの身体は指の先から、光の粒子のようになり、風に消えていく
「リア、待って!」
必死で引き留めようとするルカに、リアは笑い
「お姉ちゃん、大好き」
その身体は、完全に消えた
「リア…」

しばし茫洋としていたが、やがてルカは手に握られた花を見た
七色の花弁に包まれた中心部分は眩い光を放っている
そこを、覗きこむ
「…」
すると光が収まり、鏡のようにルカの顔を映し出した
そこに映っているのは―


「あ…あ…」
鏡に映る自分の顔に、ルカは目を背けることができなかった
肌は気色悪いほど真っ白に染まり、目元はアイラインで強調され、様々な色のアイシャドウで陰影がつけられている
眉毛と頬は黄色に色づけされ
唇は、真赤なルージュで染まっている
「ああ…」
うわ言のように声を出す
その内心は、
(綺麗…)
鏡に映る自分に、見惚れていた
さらに、変化は訪れる
(アタシ…こんなに魅力的だったんだ…)
口と目がつりあがり、どこか爬虫類的な印象を受ける淫猥な笑みを浮かべる
(宝とか…戦いなんか…もうどうでもいい…)
瞳が爛々とした光を放ち、
(だって…アタシは…)
長いまつげが更に伸び、禍々しい形を描く
(こんなにも美しいんだもの…)
今まで見つけてきた財宝など、全てが無価値だと思えるほどに美しい自分の顔
(アタシが探してたのは…“コレ”だったんだ…)
もはや心に恐れはなく、幸福で満たされている
『聞こえるかしら、ルカ?』
声が聞こえる
少女達を使い、卑劣な罠で自分を捕えた怪人
『貴女の主の名を読んでごらんなさい』
その名を―
「口紅歌姫様ぁ…」
淫靡な声で、ルカは言った
『聞こえないわ』
その声の主は憎むべき敵ではなく、永遠の美をもたらし今まで味わったことのない幸福を与えてくれた『主』に他ならない
「口紅歌姫様ぁああああああああああああ!」
つい先ほどまで怨敵だった怪人の名を、ルカは愛情を込め、精一杯叫んだ
「口紅歌姫様ぁ…口紅歌姫様ぁ…口紅歌姫様ぁ…」
壊れたレコードのように、何度もその名を呼ぶ
『よく言えたわね。ご褒美よ』
「!!」
唇と唇が重なり合う
一瞬驚いたように目を見開いたルカだが、すぐに受け入れるように目を閉ざす
(ああ…アタシはなんて愚かだったの…)
何度も目の前の『主』に刃向い、顔に傷をつけるにまで至った
それらの行為を、猛烈に後悔する
その瞬間、
ガチャン、と拘束具が外れ、磔にされた身体は崩れ落ちた

口紅歌姫は、目の前の黄色い戦闘服に身を包んだ女海賊の姿を満足気に見つめた
ルカ・ミルフィは跪き、深々と頭を垂れている
「…懺悔なさい、ルカ」
すると、
「わたくし…ゴーカイイエローことルカ・ミルフィは、宇宙で一番の美貌を持つ口紅歌姫様のご尊顔に傷をつけるという愚行を犯しました」
以前口紅歌姫に命令され、やむを得ず言った台詞
「続けなさい」
今、ルカはそれを自らの意思で何の躊躇もなく口にしている
「口紅歌姫様…!この愚かで汚らわしい罪人をどうかその清く美しい心でお許しくださいませ!」
「そう…ならば宣言なさい。自分が何者なのか」
サディスティックな声で、口紅歌姫は続ける
「わたくしは、ルカ・ミルフィ。宇宙を支配するザンギャックの行動隊長―口紅歌姫様の忠実なる下僕…。貴女のためならばどんなことも厭いません!」
それを聞いて口紅歌姫は、満足気に
「フフフ…いいわ。貴女の我が悪魔聖歌隊の一員にしてあげる」
「…ありがたき幸せ!」
恍惚とした表情で答えるルカを5人の少女が囲む
「でも、私達より後輩なんだから、当然アンタが一番下っ端よ、ルカ」
岡本愛美が言う
「はい、愛美お姉さま…」
恍惚とした表情で、自身より一回りも年下の少女に、恭しく頭を下げる
「教育係は翔子の担当よ」
「…はい」
口紅歌姫の指示を受け翔子が前に出る
「良かったわね、ルカ。口紅歌姫様のモノになれて」
「あぁ…幸せですぅ…翔子お姉さまぁ…」
妹の姿を重ねていたその少女を、ルカは躊躇いもなく“お姉さま”と呼んだ
「じゃあ、早速歌のレッスンを始めるわ」
「はい!」
といって、黄色い戦闘服に身を包んだ女海賊は、自分より背丈の低い少女に連れられ、部屋を出た
4人の少女もそれに続き、部屋を後にする

残された口紅歌姫は、
「フフフ…ウフフフフ!」
笑いを抑えきれずにいた
あの勝ち気な女海賊が、あそこまで堕するとは…
満足感に心が満たされる
そして、懐から1枚の写真を取り出す
ルカを捕獲した際に奪ったものだ
そこに映っているのは、6人の人間と鳥型の機械
口紅歌姫の興味を引くのは、朗らかな笑顔のルカの隣で笑っている女
黒髪でポニーテールを結んだ可愛らしい上品な顔立ちの女性だ
それを見て、口紅歌姫は笑みを浮かべ
(この娘も私のモノにしようかしら…)
新たな作戦に想いを巡らせる
そのまま立ち上がると写真をビリビリと破き、無造作に放り投げた