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The slave lei of a chimera


「視力が完全に回復することはありえません。
  立花隊員がダイナピンクとして戦うことは… 残念です。
   彼女のことを思い少しでも回復を望まれるのであれば
    専門のスタッフが揃っている医療機関に移送することをお奨めします」

ダイナステーションのメディカルルームで治療用のカプセルの中に横たわるダイナピ
ンク立花レイに
目を向けて、メディカルスタッフに突きつけられた厳しい現実にダイナステーション
総司令夢野久太郎は
隊員たちの前で決断の言葉を口にした。

「ダイナピンク立花レイを科学戦隊から除隊、早急に次隊員を候補者の中からピック
アップ。
  弾君、リーダーであるキミに全てを一任する。 ただし、レイ君の回復次第では
戦隊復帰も考慮するよう」

その顔に苦渋の色を滲ませながら、ダイナレッド弾北斗は命令を承諾すると
これまで共に戦ってきた仲間との別れを惜しみながら他のメンバーと共にメディカル
ルームをあとにした。


グランギズモ内、王女キメラの私室。

「キメラ様、ご報告申し上げます。 ダイナピンク立花レイは生きているようです」

「フン、当たり前でしょう。 進化獣の自爆に巻き込まれた程度で命を落とす女じゃ
ない。
  あの女に止めを刺せるのは私だけ、次こそは必ずこの手で…」
「それが、その進化獣との戦いで再起不能の傷を負ったようで
  現在はダイナステーションを離れ、郊外の病院で治療を受けていると」
「なにっ!」

分をわきまえず上司のカー将軍に作戦を進言して叱責され、本来ならば即処刑されて
いるであろう
科学者戦闘員をキメラは拾い上げて、自分の部下として引き取った。
個性的なシッポ兵で腹立たしい物言いをすることもあったが
グランギズモ内の様々な情報を収集しては報告に来るこの科学者戦闘員をキメラは重
宝していた。

「カー将軍に捨てられたお前がここまで役に立つとはな」
「お褒めの言葉ありがとうございます。 そのお礼と言っては何ですが…」

白衣のポケットから濃い緑色の液体が入った小瓶を取り出した。

「なんだそれは」
「そうですね『ジャシンカの素』と申しておきましょうか」
「ジャシンカの素?」
「ハイ、このままでも十分使用は可能ですが、キメラ様に使って頂くのならばと思い
…」
「何が言いたい、構わぬから申してみよ」
「ハイ、これまで人間をジャシンカ帝国の戦闘員にする作戦は幾つか遂行されました

  全てが失敗に終わっております。 それは外見だけを戦闘員にして操っていたに
過ぎないからです。
   ですが、この『ジャシンカの素』を使えば人間の外見は変化させず、脳細胞を
変質させて
    ジャシンカ帝国に従順な奴隷へと改造できるのです。
     勿論、奴隷となった人間は容易に進化獣に改造することもできます」
「なるほど、面白い薬だな。 で、私が使うならばどうすると」
「ハイ、これは薬と言うよりは生命体にございます。  キメラ様がこの生命体を虜
にきれば
  奴隷となった者はキメラ様に絶対服従の忠実な奴隷になるでしょう」
「私がそれを虜にする…だと」
「簡単なことにございます。    キメラ様の愛液を与えるだけで…」
「ナッ…」

キメラは科学者戦闘員の言葉に顔を引き攣らせ嘲笑したが、この戦闘員の言葉に今ま

一度として偽りがなかったことを思い出すと真剣な顔になり

「よ、よかろう、後ほど届けよう」
「ハハァ  ありがとうございます。 それと…」
「まだ何かあるのか」
「この生命体は実験中に偶然できた産物でして、今はここにあるだけしかございませ
ん。
  恐らくは数人分… 最高の素材を人体実験に使っては如何でしょう。
   キメラ様のお気持ち次第ではありますが、あれ…ならば最高の素材かと」
「フン… それが立花レイか、ホントに面白いことを進言する奴だなお前は」


移送された病院の病室で窓から入る風に当たっている立花レイ。
負傷した目には痛々しく包帯が巻かれている。

「立花さーん、そろそろ行きましょうか」
「エ…エェ… でも、今日の検査はもう… それにいつもの方と違いますよね」

レイは窓の外に顔を向けたまま覇気はない声で看護士の言葉に応じている。

「いつもの看護士は午後から休みを頂いています。 それより
  立花さん、聞いてないんですか? 目が、視力が回復するんですよ」
「エッ!! ホント…ですか…」

レイは看護士の口から出た言葉に喜びを隠せずベッドから身を乗り出した。

「少しでも早いほうがいいだろうって、先生もお待ちです」

話しながらベッドに近づく看護士のゴム手袋をはめた手には折りたたまれた
白いガーゼが握られており、目が見えないレイがそのことに気がつく訳もなく

「それでは車椅子に移るお手伝いを…」

ベッドから立ち上がったレイを手助けして車椅子に座らせた瞬間
ガーゼでレイの鼻と口を塞ぎ、染み込ませていた薬品を吸わせた。

「な、なにを… ムグ…ムゴ…モゴ…」
「治療の前には麻酔が必要でしょう  ダイナピンク、立花レイさん」

― な、なぜ…  ジャシンカ…

レイの意識は次第に薄れて、口に当てられていたガーゼを外そうと
抵抗していた手が力なく下がりカクリと首が折れた。
看護士はそのまま車椅子を押して病室を出ると、扉の外でレイの警護に
あたっていたダイナステーションの隊員の前を何食わぬ顔で軽く会釈をして通り過ぎ
た。
隊員たちも病院に来てから鬱ぎがちだったレイが俯いたように下を向いている
光景をよく目にしていたので麻酔で眠らされている彼女に気づくことはなかった。

この一時間後、レイは病室に戻ってきた。



人型に窪みができた鋼鉄製のベッドに手足胴を固定されたレイは寝かされいた。
その体にはピッタリと張り付くように黒い戦闘服を着せられ、手と足には
肘と膝までの革製のブーツとグローブを着けられ、腰に巻かれたベルトには
ジャシンカ帝国のエンブレムが鈍く輝いていた。

「いい姿だな、立花レイ」
「その声はキメラ! こんなことをして私をどうする気なの!!」

レイは虚勢を張り強がって見せるが
戦う力を失ったという思いは恐怖心となり、レイの体は素直にそれを映し出した。

「フフン 可愛いね、震えているクセに強がりかい」
「クッ…」

レイは反論できない悔しさに顔を背けた。
横を向いたレイの頬にキメラは指先を這わせ戦闘服に包まれたレイの体を嘗め回すよ
うに見つめ

「お前の為に用意した戦闘服、似合ってるじゃないか。 今の自分の姿、見てみたい
だろう」

キメラがベッドとケーブルで繋がったゴーグルを嫌がるレイの顔に取り付けてスイッ
チを入れると
レイの思考にイメージとして自分の姿が映し出された。

「な、何をする!! やめ…ろ…  こ、これは… こんな物を私は着せられて…」


イメージが切り替わり、キメラの姿がイメージとして送り込まれる。

「気に入ったか?  お前をこの手で倒せないのは残念だが、どうだ私の部下とし
て」
「ふざけないで!! こんな物を着せられても、私はダイナピンク!
  あなたの部下になど死んでもならないわ」
「フン、最初から判っていたけど聞いてみただけさ。
   けどね、お前の意志に関係なくお前は私の部下に、奴隷になるのさ」
「ナッ! わ、私をどうする気なの キメラ!!」
「迎えに行かせた看護士が言っただろう。その目を治療すると。
  ただ、今までとはすこーし見え方が変わるかもしれないがな。
   敵だった者が仲間に見えて、仲間だった者が敵に見えるって感じにな ククク
…」
「そんなこと… 病室に私の姿が無ければ仲間が私を探して助けに来てくれる。
  それまで何をされても耐えてみせる。 私はダイナピンクなのよ!!」
「そうだったか? クビになったんだろう、ダイナピンクを。
  それにお前が居た病室にはちゃんと立花レイが眠っている。 お前に化けたシッ
ポ兵がな」
「そ、そんな…」

流石のレイもこれ以上の強がりを見せることが出来ず、ぐったりと脱力した体がベッ
ドの窪みに収まる。

「キメラ様、完成致しました」

科学者戦闘員が濃緑の液体で満たされた注射器を納めたケースを大事そうに運んでき
た。

「その薬は…なに…」

ゴーグルから送り込まれるイメージが怪しい液体で満たされた注射器を映し出す。

「これがお前を私の奴隷に作り変える『ジャシンカの素』さ。
  こいつを頭に注射すると脳細胞が変質して私に忠誠を誓う奴隷に生まれ変われる
そうだ。
   ククク… 怖いのかい、さっきみたいに強がってみなよ」

恐怖に血の気が失せたレイの顔は蒼白になり、奥歯をガチガチ鳴らしながら

「や、やめて、そんな物を… 殺して… 奴隷なんてイヤ… お願い殺して…」
「元ダイナピンクがみっともないね、でも安心しな、お前が第一号の人体実験だ。
  運がよければ死ねるだろうが、どちらにしても元ダイナピンク立花レイは死んで

   ジャシンカ帝国の奴隷、立花レイとして生まれ変わるのだから死んだも同然だ
ろう。
    アハハハハハ…」

キメラは科学者戦闘員に準備を促し、ケースの注射器を取り出した。
科学者戦闘員はレイの顔からゴーグルを外して変わりに額に数本のケーブルが繋がっ

ヘッドバンドを取り付けるとベッドの脇に設置されたモニター上に二つの波形が映し
だされた。

「イ、イヤ… やめて… 奴隷はイヤ…」
「残念だよ、お前ともう戦えないと思うとな」

キメラはレイの顎を掴み横を向かせると長い針を首から頭蓋骨内に向けて突き刺し
た。

「ヒッ… やめてェー!!」

レイの甲高い悲鳴に似た叫びを気にする事も無く、キメラが残虐な微笑みを浮かべて

一気に濃緑の液体をレイの頭の中に送り込むと直ぐに反応があらわれた。

「アギィ… ウゲッ… ウゴォ… キヒッ…」

レイは唸るような声をあげ、体を固定しているベルトが体に食い込むほどの力でもが
き苦しむ。

「キメラ様、青い波形が我々有尾人の脳波で赤い波形が立花レイの脳波を示していま
す。
  脳細胞を変質が進めば、赤い波形が青い波形に近づき、二つの波形が重なれば
   立花レイの脳改造は完了です。 もちろん赤い波形が消えてしまえば人体実験
は失敗…
    と言うことになりますが」

キメラはベッド脇のモニターに映しだされた二つの波形を指さして説明する科学者戦
闘員の話を
そっちのけで苦しむレイを楽しそうに見つめていた。

視力を失い白濁した瞳を見開きながら、口元に泡を吹きガクガクと痙攣を続けるレ
イ。 だが
赤い波形が次第に青い波形と同じ波を描きはじめると、レイの痙攣も小さくなり波形
が重なり
一つになるとレイの瞼は閉じられて眠るように大人しくなった。

科学者戦闘員はレイのヘッドバンドと拘束用のベルトを外して、泡と涎で汚れた口元
を綺麗に整え
弾むような声でキメラに完了を告げた。

「キメラ様、立花レイの脳改造完了致しました。 どうぞ、奴隷立花レイにご命令
を」
「大した自身だな、失敗しているとは思わんのか」
「どうぞ、お試し下さい」
「フン…  起きろ、立花レイ!」

キメラは低い声でレイを呼び覚ます。
その声にピクリとレイの指が反応しゆっくりと瞼が開かれる。
白濁していた瞳はキメラに注射された液体と同じ濃緑に染まり異様な輝きを放ってい
た。
上体を起こしてベッドから起き上がるとキメラの前に直立不動の姿勢でキメラの目を
見つめた。

「立花レイ、お前の私の何だ。お前の存在理由は」

レイは直立不動の姿勢から目を逸らすことも無く、右手を斜め上に掲げて敬礼の姿勢
をとると奇声を発し

「イー!! 私は王女キメラ様の奴隷です。 奴隷は主の命令に従うためだけに存在
します」
「ならば、この剣で喉を突き果てよ」
「イー!!」

レイはキメラが目の前につきだした短剣を片膝を付いて頭を垂れて両手で丁寧に受け
取ると
再び直立不動の姿勢に戻り、両手で短剣の柄を掴むと切っ先を喉につき立て血を滲ま
せた。

「待て、もうよい」
「イー!!」

左手に短剣を隠すように持つと右手を掲げ敬礼の姿勢でキメラの目を見をみつめた。


「敬礼もよい、レイ、今の気分はどうだ」
「はい、キメラ様。 これまで感じたことのない、とてもいい気持ちです。
  キメラ様、何なりとお申し付け下さい」
「そうか、その前に一つ聞いておく。 その短剣、突き立てる相手が誰なのか申して
みよ」
「はい 科学戦隊ダイナマン。 かつて私が所属していた組織です」
「よかろう…   立花レイ、命令だ」
「ハッ、キメラ様の仰せのままに」



数日後、キメラは立花レイを新しいダイナピンクが誕生する前に科学戦隊へ復帰させ
ると
レイに他のダイナマンを自分の奴隷に改造させて、彼らを使いダイナステーション
そして帝王アトンを破り、新ジャシンカ帝国の女王として玉座についた。

その若き女王の前には屈強な四体の進化獣を従えるかのように
かつて若き女王がまとっていた深紅のアーマーを着けた二本の尻尾を
与えられた立花レイが跪き、主からの命令を心待ちにしていた。