UNDER CURRENT

この頃ライブマンの紅一点でありリーダー、岬めぐみことブルードルフィンは、夢を見る。

自分の戦闘時のスタイル、胸にイルカの絵があしらわれた青と白のタイトなブルードルフィンのスーツ変身して水の中を漂っている。
申し訳程度についた白に青のラインで縁取りがされたスカートが、ひらひら舞っている。
底があるかわからない広大さ。
上の方に光が見えるので、これは海の中の光景かしら、と彼女はぼんやりしながら考えた。
なぜこんな夢をみるのか見当がつかない。
不思議である。
もしかしたら、と思うときはある。
ただ、頭の中が空っぽになり溶け込んでいき、言いようの無い心地よさがあった。
ただそれだけだが、その夢を見る度、しばらく現実に帰れなくなる。

これはブルードルフィンとして戦うとき、大いに不便だった。
本来朝飯前である戦闘兵ジンマーに遅れをとり、互角の幹部達に苦戦する。
仲間であるレッドファルコン・天宮勇介、イエローライオン・大原丈の二人はまあ調子が悪いんだろう、とたいして気にもしなかった。
彼女のフィジカルの弱さはいまに始まったことではないからだ。彼女の本領発揮は、頭脳だ。
ただその頭脳のほうも、調子が狂ってきているのではないかという懸念はあったが。
彼らの基地グラントータスでバックアップする人間型ロボット・コロンもまた不安を感じていた。

このままでは、士気・信頼・任務に響く。
めぐみは、三人に自分の見る夢を説明した。
「ノイローゼちゃう?そのうち出なくなるさ。」
「秀才は悩みすぎるんだよ。その分俺たちは悩まないもんね」
勇介と丈は、そういって相手にもしなかった。
「おバカじゃないの貴方達!仲間が苦しんでいるのよ!助けるのが仲間でしょ、全く・・・」
コロンはそう言うと「めぐみ。その夢はもしかして、ボルトの仕業じゃないかしら」
めぐみも「コロンもそう思う?こんなことするのは、あいつらしかいないって。」

ライブマンの敵、科学カルト集団ボルト。
勇介・丈・めぐみの科学アカデミアの同級生でもあり、対立関係にあったケンプ・マゼンダ・オブラーの三人が謎の男・大教授ビアスに服従し、幹部となり、めぐみ達の目の前で級友を殺し、あろうことかアカデミアを滅ぼし、地球を天才の惑星にするという狂った考えを持ち行動する集団。
彼らの仕業なのだろうか。そう考えなければつじつまが合わない。

そしてその夢はやはりボルトの仕業であった。
グラントータスに元頭空っぽの少年ギャング、今風に言えばチーマーの頭で、その向こう見ずさをビアスに気に入られ肉体ならぬ頭脳改造を受け、幹部になったアシュラからビデオレターが届いたのだ。
「親愛・・・でもないライブマン共!貴様らを滅ぼすためにこのいい頭でかなり考えた。岬めぐみ、貴様を能無しにすればよいのだ。実に簡単だ。そう思って戦闘時に貴様の体に悪夢を毎晩見るてぃっぷを生みつけた。このてぃっぷはCIAとKGBという会社が開発したものをビアス様が強力に調合された。しかも血液にすぐ解け同化する優れものだ。おおいに苦しみ、その少し優秀な頭脳を失うがいい。さらばだ!次は皆殺しだ・・・」
まくしたて、テープは切れた。
「てぃっぷって・・・チップだろ。それにCIAやKGBが会社って、組織だっつーの。愚連隊はダメだね。」
「いや勇介、そこに突っ込むなら少し優秀って。お前よりこのめぐみさんが数万倍優れているって話だよな。」
「確かに、アホは底なしだな。」
ハハハと笑う二人にコロンが嗜める。「笑い事じゃないのよ。めぐみは操られているも同然なのよ。」
「その通りよ、コロン。いずれ向こうから攻めてくる相手。それなら、こちらから攻めてやるわ。そうすればその溶解した物質を無効化するワクチンか何かが必ずある!行くわよ!」

こうして確信があるわけではないが、ボルトが出没するという情報が入った都内の廃工場へ先回りして変身し、潜入した。
ジンマーが入ってきて、アシュラが工場の中に入ってきた。
そこにライブマンが突っ込む。
たちまち白兵戦となった。
ブルードルフィンはアシュラが工場の外へ出るのを見かけ、後を追って出た。
レッドとイエローも続く。
と、その時。
彼女の頭上から、何かがかぶさった。
投網だった。レッドとイエローが取ろうとするが背後から銃撃された。
振り返るとアシュラが出して使う三分身がそこにいた。
「めぐみ!」レッドとイエローが救出に駆けつけた。
「フフフ、かかったなブルードルフィン。本当は三人欲しかったが・・・連れてゆけ!」
「かかったな!」
「つれて!」
「行け!」
レッドとイエローが「待て!」と飛び掛る。
三分身のコーラスとともに、アシュラはその場から姿を消した。

さて、某所。
海の匂い。海辺。微かに揺れる。大きな船の上か。
ブルードルフィンは返信の解けない姿で、そのまま何かのコードで縛られていた。
「何よ、これ!」
手は頭上で縛られ。
首には鎖がかけられ、わずかに隙間がある。抗えば絞まる。意識が落ちようとしても。
椅子に座らされ、足には鉄枷。
「お尻に変なものが・・・いいい!」
仕上げにヒップの二つのポケットに感じさせるよう、突起物がついていた。
しかも念入りなことに縛られている。
痛みと無意識とを無限に感じ続けるようになっている。
「こんなことをして、ただじゃ済ませないわよ!」
そうは言っても、ただただもがくばかりである。
囚われて放置されて随分経つ。
散々な放置プレイの末に待っていたのは、コードから伝う電流攻撃だった。
「いばあああああああ!うううううううううううう!」
首。両手首。足。三方から電流がくる。
「ん、ん、ん、あっ、なに、ああん、ああん!」
がら空きの脇からは差し棒でくすぐられる。
「あっ、あっ、あっっ、ふうううん、だめ、駄目」
痛みと、なでられくすぐられる辛さ。しかもそれが何も物言わず続く。
「離しなさい!は・・・な・・・せ」
はじめ叫んでいたブルードルフィンも、叫びつかれてしまった。
くすぐりが脇と太ももに増えた。
「なああん」
しかも官能的になぜられる。上から嫌らしく、脇からいたぶるように。
とぷん。不覚にも愛液が漏れた。「な、なんてこと・・・」
乳液もでて、青いスーツに染みができた。それをアシュラに舐められる。
「やめなさい、だめ、そんなこと。いや、離して!」
椅子から解放された。(助かった・・・)
その間もなく、股間に衝撃が走る。
「うううう、な、うううう、あ、あ、あん」
急所に縄をまたがせ、それを吊り上げ、擦り付け、いためつけるという荒業。
愛液に染まった白いスーツの股間が赤くなる。
「い、痛いいいいいい!助けて勇介!丈!」
絶叫する声は水面にこだまし、無意味に響き渡った。
そして首の戒めに関係なく、「あふう・・・」と口から空気が漏れて、落ちた。
(さて、お楽しみはここからだ)アシュラは、力無くうなだれるブルードルフィンを見て、一人、ごちた。

やがて気がついた。
自分の体が浮いている。
戒めが解かれている。
わたし、縛られてた、わよね・・・。
意識が戻ってきた。
彼女の体はあの夢に出る水の中であった。
(いったい、何があったの?)彼女は思う。
(どうして現実から夢に、いいえ違うわ、これは夢じゃない。かすかに海の匂いがする。)
マスク越しに見える景色は幻想的であった。
はるか上で光が見えている。ゆらゆら、それは波に揺れている。
その下を魚が泳ぐ。岩場が照らされる。
そして自分がいる。
ライブスーツのお陰で酸素不足にならずにすんでいる。
(なんだかわからないけど・・・心地いい)
流れに乗ったようだ。アンダーカレント、海を流れる底流。
自分の体が漂っていることに気持ちよさを感じていた・・・その時。
(起きたか、ブルードルフィン。)アシュラの声。頭の中に聞こえてくる。これも溶解性チップの効能か。
(アシュラ、これは一体)
(言ったであろう、これがてぃっぷの効能だ。貴様は今から苦しむことになる、そのための道具も用意した。待っているがいい)
(なんですって!待ちなさい)
(そうツンツンするな。いまから貴様が溺れる所を見たいだけだ。)
(ライブスーツを着てて溺れるわけがないでしょ)
(それを、今から経験するのだ。)
(けいけん!)
(する!)
(のだ!)
交信が途切れ、魚の群れがいなくなり、海の中にブルードルフィン一人。
その瞬間。
海で最も恐れられる知能の高い狩人・シャチの群れが襲い掛かってきた。
狙いはブルードルフィン。
(き、きゃああああああああ!)
悲鳴と、ゴボリと漏れる水の泡。
それを残し、ブルードルフィンはシャチにブーツを噛まれ、水の中へ吸い込まれた。
(いやあああああ、ぐ、ぶ、ごぼごぼ、ご、ぼ)
そして引き込まれたり、浮上したり、また引き込まれ、浮上して。
(がほぼ、がぼぼ)
引き込まれ。浮上して。引き。浮上。引。浮。引。浮。
(こぽぽ、こ、ぽ、ぽ、ぽ)
頭が痛くなり、耳鳴りが起こり、上下がわからなくなり、激しい嘔吐感が襲ってくる。
(こ、こほ、い、息が、息が)
潜水病の症状だ。海の中のグラントータスに入る際最も恐れるべきことである。
(お、ふぉ、へ、る)
シャチが獲物を捕獲した時、意識を失わせるためにこれを行う。
(た、たす、ゆう、す、け)
それを繰り返されれば、ライブスーツとて彼女の身は守れない。
(じょ、う、ころ、ん、もう、だ、め・・・)
ごば。最後に残った空気を吐いた。
(こ、れ、は、ゆめ。きっと、ゆめ)
そう言い聞かせ、楽になった。
彼女の体は意識を失って、一つの漂う体となった。
スーツで強化された曲線美を誇る体は、シャチに抵抗するのをあきらめ、素直に海底へ沈んでいく。

その後シャチは彼女を海上に上げて、バレーボールのように鼻先で打ち上げ、何度か繰り返した末一匹が噛み付き食べようとしたが、お口に会わなかったと見え、そのまま放り捨てた。
そしてブルードルフィンの体は海を漂い、流れに導かれるまま、海岸に漂着した。
そして何者かにお姫様抱っこされ、その場から消えた。

目が覚めた。彼女はベッドの中にーーーいなかった。
またアシュラに捕らわれていたのだ。
あの、船である。
しかも今度は亀甲縛り。マスクオフ。
胸が強調され、乳首が立ち、股間に食い込み、宙に浮いていた。
「おお、生きていたか。水を吐かせたのがよかったな。」
「アシュラ・・・今度はなによ!」
「元気も出たか。そうでなくては困る。何度でも、何度でも、同じ目にあってもらわないとな。」
言うなり、胸を掴み、彼女は悲鳴を上げた。
「勇介!丈!コロン!誰かああああああああああ!」

その後すぐ、レッドとイエローとコロンが駆けつけ、乱戦。
亀甲縛りというはしたない姿を見られるも、ブルードルフィンは安堵し、意識が再び落ちた。
そこをコロンに鎖を解かれ、解放された。
解放されたはいいが力が無くなり、立てなくなってしまった。
そして今度はレッドに抱かれて、グラントータスへ帰っていった。

その後しばらくは戦うことはおろか、ベッドで動けない体になった。

水の中の変身した自分は、その後も忘れようとしたときに限って、彼女の脳裏によみがえり苦しめ、戦闘能力に大いに支障をきたす事になった。