- 黒い死の要塞!!恥辱まみれのモモレンジャー 救出編 -
「…おい。今どれぐらいの時間だ?グフフッ、グフフフフフッ」
ここ黒十字軍の秘密要塞…その中央の広場では黒十字軍の仮面怪人・日輪仮面が近くにいたゾルダーに今どれぐらいの時間か問いかけている。
「はっ!…あと約一時間で正午であります!」
すっかり夜も明け、太陽がその要塞の中を燦々と照らしている。辺りには使い捨ての小皿、割り箸、酒瓶など昨日の夜に繰り広げられていた“屈辱の宴”の残骸がそこら中に転がっていた。
「グフフフッ…だそうだ。後一時間後には貴様は処刑される。それとも何か?貴様のお仲間さんたちがそれまでに助けに来てくれるかな?…まぁどっちにしても貴様らは一網打尽、強がゴレンジャーの命日だけどな、グフフッ、グッフッフッフッフッ」
「…」
そのように勝ち誇る日輪仮面は右後方を振り返り、そちらにいる“屈辱の宴”の主役にあざけりの視線を向ける。その視線の先には…上半身に着ていた衣服をボロボロに剥かれ、哀れにも半裸状態で十字架磔にされ力無くうなだれているモモレンジャー・ペギー松山の姿があった。
「グフフフッ…そういえば昨日あれだけいじってやった“ここ”はもう大丈夫なのかな?…ほらっ、どうなんだ?グフフッ、グフフフフフッ」
「!っ…」
!?っ…ぁ!?…く、くぅ!?
昨日、日輪仮面によって散々に痛めつけられた下腹部を、ぱっかりと開いていたホットパンツのファスナーの口を通してヤツの左手にいじくられるペギー。もちろん彼女にはまだそこにひりひりする痛みが残っている。だがペギーはそこを触られる痛みを懸命にこらえ、声を漏らさないように必死に耐えていた。
「グフフフッ…黙っていないで何か言ったらどうなんだ?処刑する前に辞世の句ぐらいは聞いてやるぞ?グフフッ、グフフフフフッ」
そう言う日輪仮面は今度は右手でペギーの下アゴを掴んできた。だが…。
キッ!
下アゴを掴まれてしまったペギーは“反抗の意思”を示すかのようにヤツを鋭い眼光で睨みつける。そして自らの強い意思を誇示するようにこう宣言したのだ。
「…そうやって言ってられるのも今のウチだけよ!後でせいぜい吠え面かかない事ね。わたしたちは…ゴレンジャーはあんたたちなんかには絶対に負けはしないわ!ゴレンジャーは無敵なんだから!」
「ほぉ…昨日、あれだけ痛い目に遭わせてやったのにまだそんな事をのたまう気力が残っていたとはな。まったく元気のいいお嬢さんだ。そのカラ元気だけは認めてやるよ、グフフッ、グフフフフフッ」
思いの他、ペギーが反抗的な態度を取ってきた事をニヤニヤと見つめている日輪仮面。そしてそんな彼女の姿を見て、ヤツはその態度が“とある要因”に起因している事に気付いたようだ。
「…そうか。貴様、仲間が助けに来てくれる事を知ったのでそんな強気になっているのかな?…グフフフッ、大した信頼だ。だがな、ヤツらが貴様を助けに来る事もわたしの計算には入っているのだよ。もちろん、ヤツらを迎撃する方法もな、グフフッ、グッフッフッフッフッ」
「くっ…た、例えそうだとしても…わたしたちはそんな計算も打ち破ってみせるわ!そしてわたしたちゴレンジャーは最後には必ず勝つのよ!!」
「グフフフッ、ハハハハッ、ハーッハッハッハッハッ!…まったくおめでたいヤツだ。どこからそんな根拠の無い自信が沸いてくるんだろうな?…まぁいい。もうすぐそんな信頼と自信が何の保障もない、ただのデタラメであるという事が立証されるんだからな、グフフッ、グフフフフフッ」
く、くっ!?…あくまで強気な態度を崩そうとはしないペギー。日輪仮面はそんな彼女を高らかにあざ笑い、見下すような目で眺めている。
ババババババッ…その時、ペギーは聞き覚えのある機械音をかすかに耳にする。
!?…あ、あれは!もしかして…?
犬を模した特徴的なフォルム、大小四つのプロペラで飛行するその物体…彼女は遥か遠くの空によく見覚えのあるもの、捕らわれの自分が唯一の拠り所にしていた物を発見した。ゴレンジャーが誇る戦闘ヘリ、空の王者バリブルーンである。
「!…日輪仮面様!ヤツらです!バリブルーンが現れました!」
「グフフフッ…騒ぐな、分かっているさ。…よし、おまえら!迎撃体勢を取るんだ!砲弾の雨でヤツらをお出迎えしてやれ!…せっかくの来客だ。せいぜい失礼のないようにな、グフフッ、グフフフフフッ」
はっ!…ほいっ、ほいっ。
日輪仮面にそう命令されたゾルダーたちは次々と車の着いた、全長2メートル弱の対空砲を用意する。そして命令した日輪仮面自身もペギーから離れ、迎撃体勢を取った。
やがてバリブルーンがこちらへ更に接近してくる。それに伴い、豆粒のように遠くを飛行していたバリブルーン自体も機体の装飾がハッキリと目視できるぐらいまで大きくなっていた。
「はんっ!…何の考えもなく正面から突っ込んで来るなど、愚かな…よしっ、おまえら!よく引きつけて一斉射撃だ!バリブルーンをせいぜいハデにお出迎えしてやれ!グフフフフフッ」
はっ!…ガチャン!ガチャン!
要塞の広場に準備してあった対空砲の砲門が全て空中のバリブルーンへと向けられていく。その数、ざっと50門といった具合だ。
「グフフフッ…よし!狙いはバリブルーンだ。強こそは打ち落とすぞ、グッフッフッフッフッ……よぉし、一斉射撃だ!ってぇっ!!」
ドォーン!ドォーン!ドォーン!
黒十字軍によるバリブルーンへの対空砲火が一斉に始まった。だが集中砲火を受けているバリブルーンも弾幕を張って懸命に応戦している。しかしこのままではいずれ追い詰められていくのは火を見るより明らかだ。
「グフフフッ…弾幕を張って耐えているみたいだが…いつまでそんな事ができるかな?そしてその弾幕を打ち破った時がバリブルーンの最期ってわけだ。…ペギー松山!貴様もよく見ているがいい!貴様らゴレンジャー自慢のバリブルーンが無残に打ち落とされていくところをな、グフフッ、ハハハッ、ハーッハッハッハッ!」
バリブルーンへの集中砲火をニヤニヤと眺めながら高らかに笑う日輪仮面。
ああっ!?…あ、あんなに攻撃を集められたら幾らバリブルーンでももたないわ。こ、このままじゃ…。
その光景を不安げに見つめているペギー。だが彼女への救いの手は意外なところから差し伸べられた。
(おい、ペギー…聞こえてるか?こっちだ)
「えっ??…ア、アカ!?それにアオも!?…ど、どうしてここに…?」
集中砲火を受け続けるバリブルーンを不安げに見つめるペギーの後方から不意に彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。それは…そのバリブルーンに乗っているはずのアカレンジャーの声だった。しかもすぐ傍にはアオレンジャーもいる。思いもよらない場所から声を掛けられ、ペギーは思わず驚きの声を上げてしまった。
(シッ!…あまり大きな声を出すとヤツらに見つかっちまう)
(ぁ…ゴ、ゴメンなさい)
(…あのバリブルーンは無人でオートコントロールにしてある、いわばおとりだ)(だから“あっち”の心配はしなくてもいい。…それより今からこの十字架から解放してやるからな、ペギー。少し待っててくれ)
声を掛けてきたアカレンジャーの隣にいたアオレンジャーが彼らがここにいる“カラクリ”を小声で説明する。そしてアカレンジャーはペギーを十字架磔から解放すると言うのだ。
(分かったわ。…それとアカ、アオ…)
(ん?どうしたんだ?ペギー)
(…コイツらの罠があるって分かってたはずなのに…助けに来てくれてありがと…)
この秘密要塞に潜入してから初めて見せるペギーの安心しきった表情。彼らにそう礼を述べる彼女のその美貌は、突然の仲間の登場にこれまで張り詰めていたものがふっと抜けたためか、その瞳は少しだけ潤んでいた。
(…何言ってるんだ?ペギー。オレたちは仲間じゃないか?ピンチの仲間を助けるのは当然だろう?何よりオレたちには…ゴレンジャーにはペギー、いやモモ、キミの力が必要なんだ。だから礼には及ばないさ)
(うん。…ありがと、アカ、アオ…)
敵に捕らわれ、その上明らかにチームの足を引っ張る形になっていた自分に彼らは変わらぬ信頼を寄せてくれている。その事にペギーは改めていたく感激し、また少しだけ潤んでしまった。
(よしペギー、これからそこから解放してやるからな。少し待っててくれ…そしてバーディーでバリブルーンに向かって跳び上がり、この秘密基地から脱出する)
(OK。分かったわ)
ペギーへこの要塞からの脱出手順を簡潔に示し、彼らは彼女を十字架の磔から解放する作業に取り掛かる。アカレンジャーが左手首を拘束していた鎖を、アオレンジャーが両脚の白いロングブーツにグルグルと巻かれていた鎖を取り外す。無人のバリブルーンと黒十字軍の戦闘のどさくさにまぎれてペギーを拘束していた鎖を次々と外していく二人のゴレンジャー。だが…。
「グフフフッ…何をしているのだ?貴様ら…グフフフッ、まさか“あの”バリブルーンはおとりだったとはな、中々やるじゃないか?グフフッ、グフフフフフッ」
「!…日輪仮面!?…くっ!?もう気付かれてしまったのか?」
爆音にまぎれて順調にペギーの拘束を外していく二人のゴレンジャー。だがそんな彼らの様子に気付き、不意に日輪仮面が彼らの前に現れる。想いの他、早くヤツらに気付かれてしまった事に、ややあせりの色が見える二人のゴレンジャー。
「日輪仮面!昨日、ペギーを散々好きにしてくれたみたいじゃねえか?…ペギーはおまえたちの玩具なんかじゃねえ!オレたちの大事な仲間だ!悪いが返してもらうぜ!」
「グフフフッ、その女はもはや我々の“性の玩具”だよ、アオレンジャー…そういう貴様らも実はその女のエロい身体に惚れ込んでるんじゃないのか?でなきゃそんな女をわざわざゴレンジャーなどにはしないはずだよな?グフフッ、グッフッフッフッフッ」
!…そ、そんな事あるわけ…で、でも…。
ペギーは昨日、自分が“女”であるという事を、自分が男にとって非常に魅力的な身体をしているという事を嫌と言うほど思い知らされていた。
だから決して表には出さないとはいえ、仲間たちもそのような目で自分を見ていたのかも知れない。でなければ屈強な男に比べて自分のような体力的に劣る女をわざわざゴレンジャーのメンバーに選ばなくても…そのようにこれまでは思いもしなかった事を今のペギーは考えてしまうようになってしまっていた。だがすぐアオレンジャーが口にしてくれた言葉が彼女のそんな疑心暗鬼の心を紐解いてくれたのである。
「な!?だ、だまれ!…そんな事あるわけないだろ!ペギーは爆発物のエキスパートとして、戦力としてゴレンジャーにスカウトされたんだ!おまえみたいな下種野郎と一緒にするんじゃねえ!」
アオ!?…ありがとう…。
あくまでペギーを侮辱するような、卑猥な言葉でアオレンジャーを巧みに挑発していく日輪仮面。ヤツのその挑発に彼はまんまと乗ってしまい、みるみる激昂していく。
だが普段感情をあまり表に出さない彼のその態度は、これまでズタズタに傷つけられてきたペギーのプライドを癒してくれるものでもあった。
「アオ!?ただの挑発じゃないか?そんな安っぽい挑発に乗るなんておまえらしくないぞ!」
「!?…す、済まない、アカ。ヤツの下種な顔を見ているとついカッとなっちまって…」
「それよりアオ、早くペギーを…オレは日輪仮面を引きつけて置く。おまえはペギーを解放した後ペギーと一緒にヤツらの砲台を破壊してくれ!…全ての砲台を破壊した後、バーディーを使って三人で空中のバリブルーンへ脱出する!」
「了解だ!…それじゃ早速始めますか?」
ゴレンジャーのリーダーらしく、これからの作戦の道筋を明快に示すアカレンジャー。その彼にたしなめられたアオレンジャーもいつもの調子にすっかり戻り、再びペギーの解放作業に取り掛かる。彼女を縛っていた残りの拘束、右手首を縛っていた鎖を取り外す。
「よし…これで全部だ。もう何の問題も無く動けるだろう?ペギー」
「ええ。本当にありがと、アオ!…あ!?アオ!?前!」「何っ!?」
ほいぃぃぃぃぃ!
アオレンジャーがちょうどペギーを十字架磔から解放したその時、彼らのすぐ目の前に二人のゾルダーたちが襲い掛かってきた。だが…。
「ブルーチェリー!」
その時、アオレンジャーが放った弓矢、ブルーチェリーが二人のゾルダーたちをいとも簡単に射抜いていく。あっけなく倒れていく二人のゾルダーたち。
「フッ、相変わらずたわいもないヤツらだな…それよりペギー!今の内に早くモモレンジャーに転換するんだ!」
「オッケイ!分かったわ。……ゴー!!…!?あうぅ…ぅ、ぐっ…な、何!?今のは??」
アオレンジャーにうながされたペギーは横にクルリと一回転し、モモレンジャーへ転換しようと試みている。だが転換しようとした彼女の身体には何か強烈なしびれが走ったのだ。当然、そのような事態に見舞われてしまったペギーはモモレンジャーになる事ができず、身体に突然走った痛みにたまらず膝から崩れ落ちてしまう。
「ペギー!?一体どうしたっていうんだ!?何故転換できないんだ??」
「ぅ、ぐぅ…わ、分からないわ。でも転換しようとしたら急に身体に強烈なしびれが走って……も、もう一度やってみるわ!…ゴー!!…ああぅ!…ぐ、ぐっ!?ど、どうして…何で転換できないの??」
転換を失敗してしまい、あせるペギーはすぐさま立ち上がって再度モモレンジャーになろうと試みる。だが転換しようとするペギーの身体にはやはり強烈なしびれが走ってしまい、モモレンジャーになる事ができない。
ど、どうして転換できないの??
いつものように転換できないペギーはとまどいの色を隠す事ができず、再び膝をついてうずくまってしまう。
「といやぁ!…日輪仮面!今日こそ貴様と決着をつけてやる!覚悟しろ!」
「でやぁ!…それはこっちのセリフだ、アカレンジャー!グフフフッ……それより見てみるんだな。貴様の大事なお仲間、ペギー松山は“やはり”モモレンジャーにはなれないようだぞ?…グフフッ、グッフッフッフッフッ」
「何だと!?どういう事だ!?…!…ペ、ペギー!?」
アカレンジャーのレッドビュートと日輪仮面の日輪状の杖が激しい火花を散らす。そんな時、日輪仮面が不意にペギーの事に触れてきたのだ。気になったアカレンジャーがペギーの方を見てみると…彼の視界にはモモレンジャーに転換できないショックに膝をついてうずくまっているペギーの姿が飛び込んできた。
「ペ、ペギー!?一体どうしたんだ!?…!…日輪仮面!さっきペギーは“やはり”モモレンジャーにはなれないとか言ってたな!?貴様!何か知っているな!?…!…日輪仮面!貴様、一体ペギーに何をした!?」
アカレンジャーと日輪仮面。お互いの獲物が激しくやり合い、つばぜり合いを起こす。そんな中、ニヤリと意味深な笑みを浮かべる日輪仮面がペギーが転換できない理由について、更に陰湿な表情になり説明し始めた。
「グフフフッ…ところで貴様らはゴレンジャーになる時に身体に10万ボルトに相当する負荷が掛かるんだよな?グフフッ、グフフフフフッ」
「な!?貴様、何でそれを!?」
「グフフフッ、貴様らを倒すためにゴレンジャーの秘密は少し調べさせてもらったのでね、グフフフフフッ……それでだ。あの女の身体には昨日、あの女がおねんねしている間に特殊なクスリの入った注射を打たせてもらってね。そのクスリには貴様らがゴレンジャーになろうとする時、身体にその倍の負荷がかかるような液体が調合してあるのだよ、グフフッ、グフフフフフッ」
日輪仮面の口から語られる衝撃の事実…昨日、股間に“焼き”を入れられて気を失っていたペギーの左太腿に、ヤツが打ち込んでいた怪しげな注射はペギーがモモレンジャーになる事を封じるためのものだったのだ。そしてその狙い通り、今彼女はモモレンジャーへ転換できずに苦しんでいる。
「な、何だと!?そ、それじゃペギーは…」
「そうだ。あの女はしばらくモモレンジャーになる事はできない。だが安心しろ。“あのクスリ”の効果は一週間だけだからな。一週間過ぎれば何もなかったようにまたモモレンジャーになれるようになるさ。…もっとも貴様らは今日、ここで全滅するのだから一週間後はもうこの世にはいないけどな…グフフッ、ハハハッ、ハーッハッハッハッハッ!」
「バカな!…それじゃペギーはしばらくモモレンジャーにはなれないって事なのか!?」
勝ち誇り、高らかに笑う日輪仮面に反応するアオレンジャー。また、二人ともペギーがモモレンジャーになれない事に一様にショックを受けている。だが一番ショックを受けていたのは…。
そ、そんな…せっかく助けてもらったのに…こ、これじゃまた二人の足手まといになってしまうわ。そんな…そんなのって…。
そう、自分がモモレンジャーになれない事に一番衝撃を受けているのは他ならぬペギー自身だった。やっとヤツらの“魔の手”から逃れる事ができた今、またしても降りかかってきた試練に彼女が受けた精神的ショックは計り知れない。
ペギー…そんなペギーの様子は他の二人のゴレンジャーからもありありと見て取れた。そのショッキングな事実に打ちひしがれている彼女の近くにいたアオレンジャーが、膝をついてうずくまるペギーを励ますように声を掛けてくる。
「ペギー…例えモモレンジャーになれなくてもおまえはゴレンジャーの大事な戦力だし、何よりオレたちの大切な仲間だ。それにヤツの言う事が事実なら一週間後にはまた転換できるようになるんだろ?今、モモレンジャーになれない分はここを脱出するまでオレたちがカバーすればいいだけの事さ…だからあまり気にするな、ペギー」
…アオ……えっ!?
転換できないショックに打ちひしがれているペギーを気遣い、励ましてくるアオレンジャー。そしてペギーがそんな彼の方を見上げてみると…彼はあらぬ方向を向きながら、彼女に対して首に巻いていた白いマフラーを差し出している。そして“前をはだけさせている”ペギーに向かってこのように言ってきたのだ。
「ペギー…モモレンジャーになれないならコイツで“前”を隠してくれないか?その…おまえさんの胸が意外と大きいってのはよく分かったから…だがヤツらとの戦闘中に“そんなモン”をブラブラさせてもらってたら気になってしょうがないからな。頼むからそれ、しまってくれないか?」
「えっ!?…ぁ!?や、やっ…ゴ、ゴメンなさい…」
そうアオレンジャーに指摘されたペギーはみるみる顔を赤らめ、あわてて右腕で前を隠そうとする。そして左手で彼から差し出された白いマフラーを受け取り、それを自身の胸回りに巻き始めた。
アオ…ありがとう…。
アオレンジャーから受け取った白いマフラーで自身のバスとを隠しながら、ペギーは心の中で彼にお礼を述べていた。皮肉屋の彼が皮肉まじりに見せてくれたそのやさしさが今の彼女にはたまらなく嬉しかった。
そしてその彼女のやや大きな乳房を隠すには少し小さめのマフラーを胸に巻いたペギーはその場にスクッと立ち上がり、昨日ヤツらに強引に空けられてしまったホットパンツのファスナーの口もしっかり閉めなおす。モモレンジャーになれないとはいえ、彼女も戦闘に対する準備は万端整った。
「よしっ、もう準備オッケーみたいだな?ペギー……それじゃオレたちも始めるぜ。オレがゾルダーどもを一手に引き受ける。ペギー!おまえはオレがゾルダーを倒して手薄になった砲台をドンドン破壊していってくれ」
「オッケイ、任せといて!…それじゃアオ!援護頼むわね!」
「オーライ!それじゃ早速始めますか?…そらっ、ブルーチェリー!」
モモレンジャーになれないペギーの戦闘力の不足をアオレンジャーがカバーし、その代わり爆発物や武器の扱いに長けているペギーが手薄になったヤツらの砲台を次々と破壊していく。彼らは各々の強みを生かした作戦に出る事にしたのだ。
ダッ!
そしてその作戦を実行するためにペギーはヤツらの砲台目掛けて一目散に走り出した。砲台を目指して駆けていくペギーの後方からアオレンジャーが弓型の武器、ブルーチェリーで援護していく。
「はぁ、はぁ、はぁ……よし!こんなのチョロいモンよ♪…例え転換できなくても…戦いは力だけじゃないわ。わたしの能力(チカラ)、見せてあげる!」
そうよ。わたしには爆弾や機械類の扱いに長けているというみんなにはない武器があるわ。例えモモレンジャーになれなくても…わたしは足手まといなんかじゃない!
ペギーはそんな、自らのゴレンジャーでの存在意義を言い聞かせるようにヤツらの砲台を次々と使用不能にしていく。
「このアマァ、あまり調子に乗るなよ!またオレたちの玩具にしてやるぜぇ!…ほいぃぃぃぃ!」
「はっ?!…く、くっ!?何よ!たかがゾルダーの一人や二人!今のわたしでも何とでもなるわ!掛かってきな…」
遮二無二砲台を破壊していくペギーに向かって、ゾルダー兵が二人襲い掛かってきた。それに気付いたペギーも身構えて応戦しようとする。だがその時…。
ビシュッビシュッ!
そのゾルダーたちを二本の矢が射抜いた。アオレンジャーが放ったブルーチェリーである。
「えっ??もしかして…アオ!?」「…言っただろ?ペギー。ゾルダーたちはオレが全部引き受けてやると。だからおまえさんは安心してヤツらの砲台を壊していってくれよ!」
「アオ……オッケイ、分かったわ。それじゃゾルダーたちはお任せするわね!」「オーライだ!オレに任せたからには大船に乗ったつもりでいていいぜ!」
そうだわ。それにわたしにはこんなに信じあえる仲間たちがいる。この素晴らしい仲間たちがいる限り…わたしが、ゴレンジャーが絶対に負けるわけないわ!
自分の存在意義を確認し、仲間との絆を改めて確かめ合ったペギーにはもうさっきまでの迷いはない。全ての迷いを断ち切った彼女は“水を得た魚”のように己のすべき役割を次々とこなしていく。
カチャカチャ、カチャカチャ…カチャリ。
…そしてペギーは最後の砲台を機能不全にした。アオレンジャーの援護を受け、彼女は遂にヤツらの対空砲を全て使用不能の状態に追い込んだのである。
「…よし、これで……アオ!これで最後よ!この広場にあるヤツらの砲台は全部使い物にならないようにしてやったわ!」
「そうか!さすがだ、ペギー!……よしペギー、オレの傍に来てくれ!オレがおまえを抱えてバーディーで飛び上がり、バリブルーンへ向かって脱出する!」
「オッケイ!分かったわ」
ダッ!
全ての対空砲をつぶし終わったペギーは広場の中心にいるアオレンジャーの下へ駆けていく。彼らは空中で大気するような形になっていた“無人”のバリブルーンに向かって脱出するつもりなのだ。
「アカ!…こっちのやる事はあらかた終わったぜ!おまえも早くこっちに来てくれ!そしてこんな色気のない所からはとっととズラかろうぜ!」
「アオ!了解だ!…そういう事だ、日輪仮面!今回は決着を預けといてやる。…といやっ!」
そう言うとアカレンジャーは日輪仮面の胸板に右の足蹴りを打ち込んだ。
ガシィッ!
彼は日輪仮面を蹴った右脚の反動を利用して後方へくるくると回転しながら大きくジャンプしていく。
スタッ…そして大きく跳び上がっていたアカレンジャーは先に集まっていたアオレンジャーとペギーの傍へと華麗に着地した。
「ふぅ…ペギー!モモレンジャーに転換できなくても得意の爆発物処理のウデは全然衰えないみたいだな?」
「アカ!?…当然よ♪…それがわたしの最大の武器なんだから!」
例え転換できなくても全く変わる事のないペギーの爆発物処理の腕前を褒め称えるアカレンジャー。誇らしげな笑みを浮かべていた彼女は、グイッと右手の親指を立てそれに応えている。
「フフッ、そうだったな……ペギー、これまでヤツらの攻撃に耐えて一人でよく頑張ってきたな」「アカ…助けに来てくれて本当にありがと…」
「…お二人さん、その話はここから無事に帰ってから後でゆっくり話そうぜ。とりあえずはここからとっとと脱出するのが先決だ!」
ペギーのこれまでの苦労を労っているアカレンジャー。不意にやさしい言葉を掛けられた彼女は再び感激し、また少し潤んでしまった。そんな二人をたしなめるようにアオレンジャーが声を掛けてくる。彼の言う通り、今の彼ら三人にはここから逃げ出す事が何よりも優先されるべき事だったからだ。
「ああ。それもそうだな。…ところでペギー、おまえ確か“その黄色いパンツ”の中に煙幕弾を隠し持ってたよな?」
「!?ええ。確かに持っているわ。…でもそれをどうするつもりなの?」
「…そいつでオレたちの周囲に煙幕を張ってくれ。それでヤツらの目を眩ました隙に、バーディーで上空のバリブルーンに向かって飛び上がり、脱出する」
ペギーは万が一のため、ホットパンツの中に敵をかく乱するために使う10円玉大の小さな手榴弾タイプの煙幕弾を常に一つ縫い付けていた。アカレンジャーはそれを利用して自分たちの周囲に煙幕を張り、ヤツらから姿を眩ますつもりなのだ。
そして立ち昇ったその煙にまぎれて二人のゴレンジャーの腰のベルトに付いていた飛行ブースター・バーディーで空中へ飛び上がり、上空のバリブルーンへ脱出する腹積もりのようだ。
「そういう事ね。…分かったわ。それじゃすぐに…」
「グフフフッ…若い男女が三人寄り添ってどこに行こうというのかね?ゴレンジャーの諸君、グフフッ、グッフッフッフッフッ」
!…ペギーがホットパンツの裏地に縫い付けていた煙幕弾を取り出そうとしていたその時、彼らの後ろの方から暗く不気味な声が聞こえてくる…それは先程までアカレンジャーと戦っていた黒十字軍の仮面怪人、日輪仮面だった。
「日輪仮面!?フッ…悪いが今日はこれでズラからせてもらうぜ!」
「グフフフッ…甘いな、アオレンジャー。我が要塞からそんなにたやすく逃げ出せると思うなよ、グフフッ、グッフッフッフッフッ」
サッ。
そう言う日輪仮面が右手を上げて合図のようなものを送ると…彼らの四方、前後左右から何かの音波を出すような物々しい機械が現れた。
な、何あれは!?…そ、それに何なの?この嫌な胸騒ぎ?あ、あんなもの見た事もないはずなのに…何で、どうしてなの??
突然現れたその物々しい機械。見た事もないはずのそれにペギーはとてつもなく嫌な感覚を感じていた。それもそのはずでその機械は昨日、彼女の仲間たちをただの“ケダモノ”に変貌させてしまった催眠音波を出していた物そのものだったからだ。見た事もないそれにペギーは直感的に嫌なものを感じていたのである。
「くっ!?ヤ、ヤツらめ!一体何をする気だ??…ペギー!早く煙幕弾を…」
「グフフフッ…何かしたいみたいだが…もう遅い!…おまえら!やれっ!」
ガチャン!ウィィィィィン。
あせりの色を露わにするアカレンジャーが言い終わる前に彼らの四方に現れていた機械が動き出し…。
パワワワワワッ…。
昨日と同じように、またしてもその機械から耳障りな音波が三人の男女へ浴びせられていく。
「!…な、何だ!?この嫌な音は?う、ううぅ、あ、頭が、頭が割れそうだ!…う、うああああっ!?」「く、くそぉ!何だ、この音は!?…う、うああああぁぁぁぁぁ!」
「!…な、こ、この音は?…!…ア、アカ!それにアオも!…どうしたの、二人とも!?し、しっかりして!」
そ、それにこの音?…そ、そういえば昨日キやミドがおかしくなった時もこの音が…!…じ、じゃあ、まさかアカたちも同じように…!?
突如として自分たちに浴びせられる耳障りな怪音波に苦しみだすアカレンジャーとアオレンジャー。しかし同じようにその音波を浴びせられているペギーは何も感じない。その状況は昨日、キレンジャーたちがただの“ケダモノ”に変貌した時とまったく同じものだった。その事が益々ペギーを不安の渦へ陥れていく。
「う、ううぅ…う、うわああああっ!」「う、ううぅ…あ、頭が、頭がぁ…!?」
「ああっ!?…ア、アカ!アオ!…お願い!二人とも、しっかりして!」
そんな、激しい頭痛に苦しむ二人のゴレンジャーは、遂に両手で頭を抱え、膝をついてうずくまってしまった。
「ああっ!?…ア、アオ!アオ!しっかりして、アオ!?」
耳障りな音が響き渡る中、頭を抱えてうずくまるアオレンジャーを心配するようにペギーも左側から彼の傍へ寄り添ってくる。
「…う、ううぅ…ペ…ペギー…!?」「アオ!?…アオ!しっかりして!アオ!?」
自分を心配し、膝を落として寄り添ってくるペギーの方をよろよろと、何とか振り向こうとするアオレンジャー。傍に寄り添うペギーもうずくまる彼に必死に呼びかけている。そんな彼女はうずくまるアオレンジャーに対しては当然のように無防備だ。だがそこにはペギーにとって信じられない落とし穴が待っていた。
「!?…ゃ、ゃ!?な、何っ!?」
さわっ…その時、ペギーは突然自分の尻の右側に不快感を覚える。
!?…な、何!?誰かわたしのお尻を触ってるの??
突然降りかかってきた尻への不快感にペギーがたまらず後ろを振り返ってみると…。
さわっ、さわっ…確かに白い手袋をハメた手がいやらしい手つきで自分の尻を撫でている。しかも“その白い手袋”の先には青い腕のようなものまで見えるのだ。
!…ま、まさか!?
それを見てしまったペギーが顔を引きつらせ、再びアオレンジャーの方を振り返ると…。
「フフフッ…相変わらずいいケツしてるよな?ペギー。…それにしても心配してくれてありがとよ。でもおまえのご立派なケツを触らせてもらったおかげでもう大丈夫だぜ。フフフッ、フフフフッ」
「!?…や、き、きゃぁ!?…な、何してるの!アオ!?」
ドンッ!
目の前にいる青い戦士に突然自分の尻を痴漢され、困惑するペギーは思わず両手で彼を突き飛ばしてしまう。
「!?っと…何だよ?いきなり突き飛ばすなんてひでえじゃねえか、ペギー?…そうだよ。だいたいオレたちは仲間だろ?ちょっとぐらいケツを触っても減るもんじゃないんだし、別にいいじゃねえか?…フフフッ、フフフフッ」
「ア、アオ!?…ま、まさかあなたもキたちと同じように…?」
まるで何かに取り憑かれたようにユラリと起き上がり、ペギーの方を見てくるアオレンジャー。そのただならぬ様子にペギーはただただ恐怖し、脳裏には徐々に昨日の“悪夢”が蘇っていく。
「…どうしたんだよ、ペギー?もしかしてオレが怖いのか?…なぁペギー、オレたちは仲間だろ?オレたち、もっとスキンシップを取って楽しく遊ばないか?フフフッ、フフフフッ」
「…い…いや…こ、来ないで。アオ…お願いだから…それ以上近づかないで」
ア、アオのこの言動といい態度といい…き、昨日のキやミドとほとんど同じだわ。や、やっぱりアオもキたちと同じように…??
両腕をだらりと垂らし、股間をもっこりと膨らませ、前かがみの状態でペギーにじわりじわりと近づいていくアオレンジャー。
こ、来ないで…い、いや…。
その異様な彼の雰囲気に気圧されていく彼女は、腰が引けてしまいその身を自然と後ずさりさせていってしまう。
「それ以上近づかないでくれだと?…ペギー、自分のピンチを助けてくれた仲間にそれはないんじゃないのか?フフフッ、フフフフッ……シャァァッ!!」
ダンッ!
その時、ペギーに向かってゆっくりと歩いていたアオレンジャーが突然大きな奇声を上げ、彼女に向かって勢いよく跳びかかってきた。
!ひ…ひ、ひっ!?
スタッ…自分の目の前に突然飛び込んできた“青いケダモノ”に思わず顔を引きつらせ、身をたじろがせてしまうペギー。
「フフフッ…そういえばペギー。さっきは“あんな事”言ったんだけどよ。やっぱりおまえさんのその“生パイ”、もっとじっくり拝みたいんだがなぁ?…そういうわけなんでさっきおまえに貸してやったオレのそのマフラー、やっぱり返してくれないか?いや、ぜひ返してもらうぜ、フフフッ、フフフフッ」
「!?ア、アオ!?…と、突然何を言い出すの??…!?きゃあ!…ア、アオ!?い、いきなり何するの??や、やめて!やめてっ!?」
ガッ!
そう宣言したアオレンジャーは突然ペギーの胸元に巻かれてある白いマフラーに右手を掛けてきた。そして彼はそのマフラーを力任せにペギーのバスとから引き剥がそうとしている。
ぁ!?い、いやっ!?…彼女もそれを何とか阻止しようとその白いマフラーに両手で必死にしがみつき、どうにかしてそれを取られまいとしている。だが…。
「レッドビュート!」
「ああっ!?…ぁ…ぁ…な、何なの…こ、これ!?く、苦し…」
ビュッ!
その時、その叫び声と共にペギーの首に“赤いムチ”のようなものが鋭く巻きついてきたのだ。
ギュッ、ギュッ、ギュゥッ…。
ぁぁ…ああぁ…ああっ!?
突然彼女の首に巻きついてきたそれはペギーのか細い首を容赦なく絞め上げていく。
「フフフッ…ペギー。オレも見てみたいな。おまえの以外と大きかったらしいその“生パイ”をよ、フフフッ、フフフフッ」
「!?ア、アカ!?あなたまで!?…や、やめて…お、お願い…ふ、二人とも…め、目を…目をさま…して…」
ペギーの首に巻きついてきたそれはアカレンジャーのレッドビュートだった。首をキツく絞め上げられながらも搾り出すようなか細い声で二人に必死に呼びかけるペギー。
ギュゥッ、ギュゥッ、ギュゥッ…だがそんな彼女の懸命の呼びかけも、もはや“ただのケダモノ”と化してしまった二人には届かない。
その赤いムチは彼女のか細い首をグイグイと絞め上げていく。痙攣を起こし始めて身体に上手く力が入らなくなってきていたペギーは、自分の胸に巻かれていた白い布を奪い取ろうとしていた“青いケダモノ”の手に対しても徐々に抗う力を失ってきていた。
「フフフッ…ペギー?おまえさんのそのマフラーを掴む手の力、だんだん弱くなっていってるぜ?おまえも遂にオレたちにその“生パイ”を見せてくれる気になったのかな?フフフッ、フフフフッ」
「…ああ…ぁぁ…ぁ……ぁ…」
ああ…お、お願い…二人とも…も、元に…もど…って…で、でも…ぁ……ぁ…。
自身の首をグイグイと絞め上げられ、だんだんと呼吸困難に陥っていくペギー。その上、彼女の胸のマフラーにしがみつく力は徐々に弱々しくなっていってしまう。
更に白いマフラーにしがみつくペギーのその腕が小刻みに痙攣し始め、ついにはその白い布を掴んでいた右腕が力無くだらりと垂れ下がっていく。
ぁぁ…も、もう…ダ…メ…。
そして彼女のバスとからそのマフラーが今まさに抜き取られようとしていたその時…。
スッ…しかしその白いマフラーからはペギーの手だけではなく、それを剥ぎ取ろうとしていた“青いケダモノ”の手の力も緩んでいく。更には彼女の首に巻きついていた赤いムチの絞め上げる力も弱々しくなっていくのだ。
…ぇ??ど、どう…して…。
首を絞め上げていた赤いムチの力が緩んだおかげで徐々に意識を取り戻していくペギー。と同時に、予想もしない事態に彼女はとまどいの表情を隠せないでいた。そして自分の目の前に広がる光景にペギーは驚愕する。
「!…な、なっ!?ア、アカ!それにアオまで!…な、何で!?…ふ、二人とも!どうしたの!アカ!アオ!…アカ!?アオ!?」
徐々に意識を取り戻し始めたペギーの目の前に広がる光景。それはどういうわけか胸から力無く倒れている二人のゴレンジャーの姿だった。
ウ、ウソ!?な、何で、何でなの!?
ついさっきまで自分に襲い掛かっていたケダモノ、もとい仲間たちがどういうわけか地面に突っ伏している。目の前に突然倒れている二人に目に涙を溜めて一目散に駆け寄っていくペギー。
「な、何で!何でなの、アカ!?…ア、アオも!ねぇ、二人とも!お願い!返事をして!!」
倒れている二人の名前を悲痛な声でひたすら叫び続けるペギー。倒れていたアオレンジャーに駆け寄る彼女の瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「アオ!?アオッ!…お願い!目を覚まして!アオ!アオ!……!…えっ!?こ、これ…?」
こ、これって!?銃弾??…じ、じゃあアオはこの弾で誰かに撃たれたって言うの?
アオレンジャーの傍でただひたすら悲しみに暮れていたペギー。その時、彼女は彼の首筋の後ろ、頚椎の辺りに2cm大の銃弾が撃ち込まれているのを発見した。
!…そ、それじゃ!?…も、もしかしてアカも!?。
ダッ!
そう思ったペギーは同じように突っ伏していたアカレンジャーの下に急ぎ駆け寄っていき、彼の首筋も調べてみる事にする。
!や、やっぱり!
そして彼女の予想通り、アカレンジャーも先に見たアオレンジャーと同じような場所に銃弾が撃ち込まれていた。
や、やっぱり二人はどこかから銃で誰かに撃たれたんだわ!で、でも一体どこから…?
ペギーは発見した銃弾がどこから撃たれたのか、それを探し出そうと周囲をキョロキョロと必死に見回している。しかし彼女が幾ら辺りに目を凝らして見てみても狙撃手、またはその類の物は発見できなかった。
ない!?…この近くにはそんな形跡どこにもないわ!で、でもこれは確かに誰かが撃った弾…じ、じゃあ一体どこからなの??
ペギーは自分の周囲360度、かなり遠くの位置までくまなく見ているつもり、だった。だが彼女が注意を払っていたのはせいぜい自分から半径100メートルの距離までだ。
それでも常識的な射撃の技術を考えればペギーはかなり広範囲に注意を払っていたし、実際、“普通”の狙撃手を想定しているのであればそれでも十分なはずだった。
だが彼女は知らないのだ。今回のヤツら、黒十字軍には超人的な射撃のウデ、数百メートルはゆうに超える射程距離を持つスナイパー仮面がいた事を…そして今回、二人のゴレンジャーに弾を撃ちこんだのも…。
どこ?一体どこから撃ってきたの??これは明らかに誰かがアカたちに撃ったものだわ!で、でもどこなの??
しかしそんな事とは知らない、自分の想像より遥かに遠くから二人が撃たれた事など一滴も思っていなかったペギーは相変わらず周囲をキョロキョロと見回している。だがそんな“犯人探し”に気をとられていた彼女には大きな隙が生まれてしまっていた。そしてその隙を狙っていた者が接近していた事にも気付かず…。
「グッフッフッフッ、グッフッフッフッフッ…」
「一体どこから…!はっ!?…!ぁ、あ、あんっ…な、い、いつの間に??」
グイィ。
ペギーが銃弾を撃ちこんだ“犯人探し”に躍起になっていたその時、いつの間にか彼女の股下、両太腿の間に何か棒のような物が差し込まれていた。ペギーがそちらに気を取られていたその隙に接近していた日輪仮面が、ヤツが持っていた日輪状の杖をそこに入れてきたのだ。
「…戦いの最中によそ見とは随分余裕だな?なぁペギー松山、グフフフッ……それとコイツらはこれから“爆葬”にしてやる。だから邪魔な貴様には少しどいていてもらう、グフフッ、グフフフフフッ……よっ!でやあっ!!」
「ぐっ!?し、しまっ…!…ああっ!?きゃああぁぁ!!」
グイッ!バキィッ!
ペギーの股下に杖を差し込んでいた日輪仮面はその杖で彼女の身体をふわりと浮かせ、更に追い討ちを掛けるように宙に浮いて無防備なペギーの股間目掛けて強烈な張り手を叩き込んできた。まともに張り手を食らってしまい、10メートル近く勢いよく飛ばされるペギー。
「ぁぁ…う、ううぅ!?…う、迂闊だったわ。あんな簡単に接近を許してしまうなんて…!?…な、な!?」
勢いよく飛ばされ、地面に背中から転がされていたペギーが強烈な張り手を受けた股間の痛みを懸命にこらえ、よろよろと起き上がろうとしていたその時…。
ドカン!ドカン!ドカンッ!
彼女が先程までいた場所に何個ものダイナマイトが投げ込まれている。しかもそこにはうつぶせに突っ伏していたアカレンジャーたちがまだいるのだ。
ああっ!?あ、あそこにはまだアカたちが…い、幾らゴレンジャースーツに護られていても…こ、このままじゃやられてしまうわ。そ、そんな事はさせないっ!
少し離れた場所で爆発の嵐の中に飲み込まれようとしていた仲間たちを助け出すため、股間の痛みを懸命にこらえ必死に立ち上がろうとしているペギー。
ガッ!
だがそんな彼女に想像もしていなかった邪魔が入る事に…。
「きゃっ!?な、何!?…だ、誰かがわたしの後ろに…だ、誰!?誰なの??」
「へっへぇ~、捕まえたぜ、モ~モちゃん♪…あんたにはアイツらが爆死するまでオレたちと遊んでいてもらうぜぇ。もっともオレたちはモモちゃんとずっと遊んでたいんだけどなぁ、へへへっ、へへへへっ」
それはペギーの背後から彼女に組み付いてきた一体のゾルダー兵だった。そのゾルダーは彼女の両脇の下から己の両腕を通してペギーの二の腕をロックし、腕が一定以上の高さからは下ろせないように彼女の両腕の自由を奪い取りに掛かる。
「くっ!?は、離してっ!…わたしにはやる事があるの!今、あんたたちなんかにかまってる暇はないのよっ!…う、くっ…は、離せ!離しなさい!」
「や~なこった♪…それにモモちゃんがやる事ってもしかしてオレたちと遊ぶ事なのかなぁ?へへへっ、へへへへへへっ」
背後からガッチリと捕まえられてしまったペギー。二の腕を上手い具合にロックされ、両腕の自由をほぼ奪われてしまった彼女は両脚をバタつかせ、そのゾルダーからの脱出を必死に試みているのだが…。
「へっへぇ~、そんなお子チャまみたいに足をバタバタさせてもムダだよん、モ~モちゃん♪…もうすぐこのオッパイや大きなお尻とも楽しく遊んであげるからね~、へへへっ、へへへへへっ」
ペギーにそんな変態じみた言動を浴びせていくゾルダーは、自身の肘で彼女のふくよかな乳房を器用に弄んでいき、更には己の股間をペギーのヒップへと押し当てていく。
ゃ!?く、くっ!?
そんな背後からの痴漢行為に苛立ち、不快感を覚えていくペギー。
ほいっ、ほいっ。
しかも彼女の目の前からは別の二体のゾルダーが嬉々として迫ってきている。
「へへへっ、いいぜぇ~…おいおまえ、モモちゃんをそのまましっかり捕まえとけよ。それに…もぉうすぐ昨日の続きをしようねぇ、モ~モちゃん♪…へへへっ、へへへへへへっ」
く、くっ!?こ、このままじゃやられちゃうわ。何とかしないと……こ、こうなったらイチかバチか…だけどそれは危険な賭けだわ。でも…でも…。
下卑た薄ら笑いを浮かべながら、徐々にペギーへと迫ってくる二人のゾルダーたち。
でも…このままこんなヤツらに犯されるよりはマシよ。とにかくやるしか…やるしかないわ!
そのゾルダーたちを見ながらペギーは意を決して一か八かの賭けに打って出る事にした。…そして彼女はそれまでジタバタともがいていた脚の動きを止め、遂に観念したような表情を見せる。
「へっへぇ~…その表情(かお)を見るといよいよ観念してくれたのかなぁ?モ~モちゃん♪…へへへへっ……それじゃ、いっただきま~す!ほいぃぃぃぃぃ!!」
そんなペギーの様子を認めたゾルダーの一人が、まるで猛獣が獲物に飛びつくように彼女に跳びかかっていく。
ガシッ!
そしてそのゾルダーは勢いよく抱きついた“それ”に気持ちよさそうにスリスリと頬ずりしている。
「う~ん♪…これがモモちゃんのあのムチムチした太腿かぁ、へへへへへへっ……でもそれにしては何かゴツゴツしてるような…?」
「!?…バ、バカ!それはオレの足だっつーの!おまえ、オレの足なんかに何頬ずりしてんだよっ!」
ゾルダーが勢いよく抱きつき、完全にペギーの太腿だと思い込んで頬ずりしていた足。だがそれはペギーを背後から捕まえていた別のゾルダーの足だったのだ。自分の足にいきなり顔を押し当てられているそのゾルダーは当然のように嫌がっている。
「えっ??わ、わっ!?き、気持ちわりぃ!何でオレがおまえなんかに…でも確かにモモちゃんはここにいたはず…」
「こっちよ!おバカさん♪…といや!」「えっ??…ぐへぇ!」
バキッ、バキィッ!
その時、そんなペギーの声と共に白いブーツを履いた彼女の左右のカカトがペギーに抱きつこうとしていたゾルダーの脳天に降ってきた。
勢いよく跳び付いてきたゾルダーに抱きつかれる寸前に、ペギーはアスファルトの地面を力強く蹴り上げ、ロックされていた両腕を支店にして宙に倒立するように逆立ち状態になっていたのだ。そこからすぐ下にいたゾルダー目掛け、重力に任せて勢いよく左右二段のカカトおとしを叩き込んだのである。
「ああっ!?だ、だいじょうぶ…!?うわあぁ!?」「はっ!…といやぁ!」
更にペギーは地面に着地した反動で彼女を捕まえていたゾルダーも背中に乗せるようにして勢いよく前へ投げ飛ばす。その投げ飛ばされたゾルダーはつい先程、ペギーがカカトおとしを叩き込んだゾルダーをも巻き込んでいく。
「ああっ!?お、おまえたち!?…く、くっそぉ~、このアマァ!調子に乗んじゃねえぞぉ…ほいぃぃぃぃ!」
あっという間に仲間のゾルダーたちが倒され、それを見ていたもう一人のゾルダーはサバイバルナイフのような物を手に逆上し、ペギーに襲い掛かっていく。
「フフッ…どっからでも掛かってらっしゃい。あんたたちみたいなのがわたしに遊んでもらおうなんて10年、いや100年早くてよ!…といやぁっ!」
ガッ!バキィッ!
しかし身体の自由を取り戻したペギーにはただの雑兵ゾルダー兵などもはや敵ではない。いきり立ち向かってくるゾルダーの首筋にペギーは左の手刀を浴びせ、更に動きが一瞬止まった敵の頭部に強烈な右ハイキックを叩き込んだのだ。
ほいぃぃぃぃ!…ペギーの鋭いハイキックに10メートル近く無残に蹴り飛ばされていくそのゾルダー。
そして先程ペギーに投げ飛ばされ、カカトおとしを叩き込まれたゾルダーに覆いかぶさるようにうつぶせで転がっていたゾルダーがよろよろと起き上がろうとしている。
「ぐ、ぐぅ!?…い、痛つつつっっ…こ、こんのアマァ~…!?…ぐへぇ!!」
ドスッ!
だがそんなゾルダーを押しつぶすように空からペギーの膝が降ってきた。別のゾルダーに右ハイキックを決めたペギーはすかさず高く跳び上がり、二人重なるように転がっていたゾルダーの背中目掛けて全体重を乗せたニープレスを落としてきたのだ。
「ぐ、ぐぅ…!?かはっ…う、う…ぐぅ……さ、さすが…と言っといてやる…ぜ。だ、だがオレたちを倒したぐらいで…いい気になってんじゃ…ねぇぞ。どうせてめえはグチャグチャに…犯されんだからな…へへへっ…ぐふぅっ!」
ガンッ!
息も絶え絶えにそんな捨てゼリフを吐いていたゾルダーは、頭部をペギーの白いブーツの靴底に思い切り踏みつけられ、そのセリフを言い終わると同時にあえなくトドメを刺されてしまった。
「フンッ!誰が黒十字軍なんかに犯されるもんですかっ。それに…あんたたちみたいなのはそうやって地面を這いつくばってるのがお似合いよ!」
眼下に転がるゾルダーたちの死体を見下ろしながら、まるで“これで一段落付いたわね”と言わんばかりにパン、パンッと手をはたいているペギー。
ドカン!ドカンッ!ドカーンッ!
だがその時、耳元に入ってきた爆発音が彼女がそんなつかの間の勝利の余韻に浸る事を許してはくれない。
!?…そ、そうだったわ!こんな事やってる場合じゃない!…は、早くアカたちを助けに行かなきゃ…。
その爆発音にはっとして本来自分がやろうとしていた事を思い出したペギーは、その爆発の方を振り返ってすぐにでも駆け出そうとする。だがペギーが振り向いたその瞬間…。
ゴォォォォ!
彼女の眼前には人一人丸々飲み込んでしまう勢いの熱線が…。
「!?…き、きゃああぁぁ、いやあああぁぁぁぁ!」
ドサッ。ぅ、ぅぅっ…灼熱の濁流に飲み込まれ、数メートル後方に飛ばされるペギー。そんな、灼熱地獄に苦しんでいる彼女の様子をやや離れた距離からニヤニヤと眺めている男がいた。その火炎をペギーに向けて放った張本人、日輪仮面である。
「…グフフフッ、まぁ心配するな。その“日輪ファイヤー”は手加減しといてやった。本気で繰り出したらゴレンジャースーツに護られてない貴様など簡単に灰になってしまうからな、グフフフッ、グフフフフフッ」
ぐ、ぐっ!?に、日輪仮面!?…で、でも確かに…生身の身体で“あの火炎”の直撃を受けたにしてはダメージが軽すぎるわ。それでも…う、うぐぅ…く、くぅ!?
「だが貴様をしばらく足止めできるぐらいの威力では撃っといてやった。何しろ貴様にはまだ黙っていてもらいたいもんでね?アイツらが爆死するまではな。…まぁそこで仲間たちが“あの爆発”の中で命を落としていく様子を見ているがいい。貴様とはその後にゆっくり遊んでやるよ。昨日よりも何倍も楽しくな、グフフッ、グッフッフッフッフッ」
そ、そんな…そんな事は絶対にさせない!う、ぐ、ぐぅ!?ぐ、ぐっ!?…で、でも痛みの割には身体が動かないわ!?一体どういう事なの??
多少の痛みがあるとはいえ、まるで全身が麻痺したように身体が動かないペギー。
ドカン!ドカンッ!ドカーンッ!
だがその間にも数多くの爆発がアカレンジャーたちを飲み込んでいく。
ああっ!?…しかしそれを見てあせりが色濃く見えるペギーには、ただ見ているだけで何もする事ができない。
「グフフフッ…そう言えば言い忘れてたけどな。貴様にさっき浴びせてやった日輪ファイヤー、かなり威力を落とした代わりに浴びた相手が麻痺するようにしといてやったよ。まぁいわゆる“ヒートブレス”ってヤツだ。…こう見えてわたしも結構色々器用だろう?グフフッ、グフフフフッ」
!?…ど、道理でダメージの割には身体が全然動かないはずだわ。で、でもそんな事分かっても…。
ドカン!ドカンッ!ドカーンッ!
ああっ!?こ、このままじゃアカたちが、アカたちが…ど、どうしたらいいの??
しかしペギーがそんな事を考える間にも彼らはドンドン爆発に飲み込まれていく。
「グッフッフッフッ…一度にあれだけの数の爆発を見るというのも中々壮観だとは思わないか?…まぁ爆弾のスペシャリストである貴様でもあれだけの規模の爆発は見た事はないだろう?グフフッ、グフフフフフッ」
ああっ!?こ、このまま見ている事しかできないの?お、お願い!動いて!動いて!…う、くっ…う、うぐぅ!?
全身がしびれ、己の四肢を思うように動かせないペギー。それでも彼女は何とかして立ち上がろうと、理屈抜き、もはや気力だけで必死に身体を起こそうとしている。
「グフフフッ…中々頑張るじゃないか?…だがわたしが浴びせてやった“あれ”からはそれほど簡単には逃れられないよ。まぁ仲間たちが爆死していくところをそこでせいぜいゆっくりと眺めているがいいさ…グフフッ、グフフフフフッ」
ドカン!ドカンドカンッ!ドカーン!
しかし無常にも時間は止まっては暮れない。気力だけで必死に立ち上がろうとしているペギーをあざ笑うかのように凄まじい爆発の嵐は二人のゴレンジャーを容赦なく飲み込んでいく。
ああっ!?…く、くぅ…お、お願い!動いて!…こ、このままじゃまた目の前で仲間が死んじゃう!も、もうそんなのはイヤよっ…もうわたしの前で誰も死なせたくない!だからお願い!動いて、動いてぇ!
自分の目の前で爆発の海に飲み込まれていく仲間たちを見つめながら、ペギーは心の中でそんな、祈るような想いを必死に叫んでいた。そして、遂にそんなペギーの想いが彼女の身体に通じる事になる。
「う、うぐぐぅ…うぐぐぐぐぐぅ…」
これまでほとんど動かせなかったペギーの身体がよろよろと起き上がろうとしている。更にペギーはまともに動かせないはずの二本の脚で力強く立ち上がった。彼女の必死の思いがペギーの限界を打ち破ったのだ。
「ほぉ?…もう立ち上がってきたのか?本当に頑張るじゃないか?グフフッ、グッフッフッフッフッ……だが少し遅かったようだな?あれを見るがいい!」
懸命に立ち上がってくるペギーをあざ笑うかのように日輪仮面が爆発の方向を指差すと…。
ドカンドカン!ドカァァァァァァン!!
それまでより数倍凄まじい大爆発が二人のゴレンジャーを飲み込んでいく。
「!?…ウ、ウソ!?そ、そんな…そんな…アカ…アオ…か、海城さん!新命さん!…そ、そんな!そんなっ!い、いやああああぁぁぁぁ!!」
これまでとは比べ物にならない大爆発を目の当たりにし、その事実を信じたくないペギーは悲しい涙声でただひたすらに絶叫し続けている。
そ、そんな…ア、アカたちまで、海城さんたちまで…またわたしの前で仲間たちが…そ、そんな、そんなのって…。
ペタンッ。
これまで必死に振り絞ってきた気力がほぼ全て抜けてしまい、脱力してしまったペギーは、内股のまま膝から地面にガクンと崩れ落ちてしまった。
そ、そんな…そんな……そして膝から崩れ落ちているペギーはその美貌を涙でダラダラと汚しながら、大爆発の光景を呆然と眺めている。
「グフフフッ…これでまた独りぼっちだなぁ、ペギー松山よ?グフフッ、グッフッフッフッフッ」
「…」
だが日輪仮面のそんな哀れみの言葉にもペギーは何も反応できない。彼女は膝立ちになり、顔を涙でクシャクシャに汚しながら、焦点の定まってない、うつろな瞳でその爆発をただ呆然と見つめているだけだ。
「どうした?寂しくて言葉も出ないのかな?グフフフッ……おい、おまえら!いまいましいゴレンジャーはあらかた始末した。残るゴレンジャーはおまえらの大好きなモモレンジャー様だけだ。それにその女はお仲間さんたちがみんないなくなってとっても寂しいらしいぞ?おまえら、大好きなモモレンジャー様を精一杯慰めてやれ、グフフッ、グフフフフフッ」
「へへっ、分かりやした。…そういうわけらしいぜぇ。あんたのその悲しみ、今からオレたちが慰めてやるからなぁ。だからそんなに泣かなくてもいいんだぜぇ、モ~モちゃん♪…へへへっ、へへへへへへっ」
日輪仮面の命令を受けたゾルダーたちが、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながらいやらしい手つきでジリッ、ジリッとペギーへと迫っていく。だが飢えたケダモノたちが徐々に迫ってきても彼女は特に何も反応しない。ただその美貌を涙でクシャクシャに汚し、膝から崩れ落ちて遠くを呆然と見つめているだけだ。
ぁぁ…ゾ、ゾルダーたちがいやらしい目をしてこっちに近づいてきてる!?…そっか。コイツら、わたしを犯したいんだったわよね。…でもそれでももういいかな…?わたし、もう何もかも疲れちゃった。…モモレンジャーにも転換できないし、ゴレンジャーの仲間たちも全員いなくなって…わたしももうダメよね!?いよいよわたしも年貢の納め時なのかしら…?
<おい!そんな簡単にあきらめるのか?ペギー!>
ぇ!?…か、海城…さん??ど、どうして…。
先程の芝居とは違い、ペギーが本当に希望を捨てかけていたその時…彼女の頭の中にツイ先程死んだはずのアカレンジャー=海城の幻が現れたのだ。突然、ペギーの脳裏に浮かんできた彼の幻は、完全に希望を失いかけていた彼女に力強く叱咤激励してくる。
<そうだペギー!…だいたいそんな簡単にあきらめられちゃ先に死んだオレたちは浮かばれないぜ>
<そうばい!おんしはおなごのハンデを必死の思いで跳ね返した頑張り屋さんじゃ!こげに簡単にあきらめるなんておぬしらしくなかとよ?ペギー!><そうだぜペギー!生きてオレたちのカタキ、必ず取ってくれよ!>
新命さん!?それに代ちゃん、明日香も!?
海城に続いて次々とペギーの頭の中に登場する仲間たちの幻…彼らは希望を失いつつあったペギーに暖かい励ましの言葉を次々と投げかけてくる。
<そうよ。必ず帰ってくるのよ!ペギー><そうだよ!帰ったらまた一緒に遊ぼうね!ペギーおねえちゃん>
007!?太郎ちゃんまで…。
続いてペギーの中に現れた加藤姉弟の幻が、彼女が無事帰還してくれるようにメッセージを…。
<そうだ、モモ。おまえはまだ完全に負けたわけじゃない。反撃のチャンスはまだある。…だから必ずゴレンジャールームに帰ってくるんだ!>
…総司令…。
最後に現れた江戸川総司令の幻が進むべき道を見失ってしまったペギーを導くように道しるべを示してくれる…。
<生きろ、生きるんだ!ペギー><そうだ!おまえは独りぼっちなんかじゃない、ペギー><ガンバレ!ペギーおねえちゃん>
<ペギー、ペギー…><ペギー…>
みんな……。
ペギーの脳裏へ不意に浮かんできた仲間たちが絶望しかけていた彼女の心に戦う勇気を与えてくれる。希望の灯をともしてくれる。
…そ、そうよ。わたしはまだ死ねないわ。わたしには帰りを待っていてくれる人たちがいる。それに死んでしまったみんなの無念を晴らすためにも…何より黒十字軍の野望を食い止められるのはもうわたししかいないのよ!…死ねない。わたしはまだ死ぬわけにはいかないわ!
膝から崩れ落ち、呆然と遠くを見つめていたペギーだったのだが…仲間たちの幻が彼女の気力を再び奮い立たせ、輝きを完全に失いつつあった瞳も再び強靭な意志を宿していく。
「…負けない…わたしは…わたしはまだ負けられない!絶対に負けないわ!」
完全に気力を取り戻したペギーは、そう絶叫し、左腕で涙をグイッと拭いながら膝から立ち上がっていく。
それに…わたしにはまだ“コイツ”があるわ。ヤツらを倒す事はできなくても…ここから逃げる事ならまだできるはず!
そしてその彼女の右手には先程使おうとしていた小さなハート型の煙幕弾が握られていた。
「ほ?何だぁ、モモちゃん。まだオレたちとヤル気なのかぁ?…何したってどうせオレたちに犯されるってのは決まってるのによぉ…へへへっ、へへへへっ」
つい先程まで呆然としていたペギーが再び立ち上がり、自分たちと戦う姿勢を見せてきた事をニヤニヤと見ているゾルダーたち。そんなゾルダーたちはもはやペギーを憎きゴレンジャーの女戦士、モモレンジャーとは見ていない。ヤツらには今の彼女は一介の無力な若い娘にしか映っていないのだ。下卑た笑みを浮かべながら、ペギーへわらわらと迫っていくゾルダーたちは、今や彼女を完全に舐めきっている。
「フフッ♪…そう簡単にいくかしら?」
だが完全に戦闘意欲を取り戻したペギーも一歩もひくつもりはない。
カチッ…そして彼女は右手に握り締めていた煙幕弾のロックを解除し…。
「いいわね!いくわよ!」
ポイィ。
そう言って彼女は手にしていた煙幕弾をいつもイヤリング爆弾を投げる時のようにゾルダーの集団目掛けて放り投げた。
「ゲッ!あの女、まだ爆弾なんか隠し持ってやがったのかよ!?」「くそっ!?おい逃げるんだ!」
ペギーに迫ってきていたゾルダーたちは彼女が投げた“それ”が煙幕弾とは当然思っていない。
ドカーンッ!!
そしてペギーから放り投げられた煙幕弾はそのゾルダーの集団の真ん中で炸裂した。ゾルダーの群れの真ん中でまばゆい閃光と共に爆発するその爆弾。だが彼女が投げたその爆弾はいつもより大きな爆煙を上げている。しかもその煙の色は彼女のシンボルカラーである桃色だ。
その爆発からやや離れた位置にいた日輪仮面は、自分へ向かってきたそのピンク色の煙を遮るように左腕を前に出している。
「ぐっ!?…ペギー松山め!まだこのような物を隠し持っていたとは……!…これは?…“ただの爆弾”ではないな?……もしかして我々の目を眩ませるための…!?」
「日輪仮面様!た、大変です!あ、あの女が…あの女がどこにもいません!完全に逃げられました!」
「騒ぐな!…グフフフッ、やはりそうか。あの女め!まさか煙幕を張ることができる爆弾などまだ隠し持っていたとはな、グフフッ、グッフッフッフッフッ」
せっかくの“獲物”に逃げられてしまい、あわてふためくゾルダーたち。だがそんな状況にも関わらず、周囲の雑兵たちに比べて日輪仮面は妙に落ち着きを払っていた。
「日輪仮面様!まだそれほど遠くには逃げてないはずです。早くあの女を追いかけ…」
「まぁあわてるな。…それにおまえたちの大好きな、あの“ムチムチボディ”にはすぐに会えるさ、グフフッ、グフフフフフッ」
「?…なぜそのような事が分かるのです??」「グッフッフッフッ…これを見るがいい…」
あわてふためく周りのゾルダーたちに比べ、妙に落ち着き払っている日輪仮面にゾルダーの一人が怪訝そうに問いかける。
ピコンッ、ピコンッ。
すると日輪仮面は手の平より少し大きいレーダーのような物を取り出した。そのレーダーは一定のリズムを刻むように無機質な電子音を鳴らしている。
「日輪仮面様!?これは…?」
「グフフフッ…コイツは見ての通りレーダーだよ。コイツにピンク色の点が点滅してるだろう?これがあの女のいる場所を表している点であり、あのムチムチボディのいる場所さ、グフフッ、グフフフフフッ」
ペギーのシンボルカラーを表すかのように一定のリズムで点灯している桃色の点滅。日輪仮面はそのレーダーの真ん中で煌々と輝いているそれが先程逃げていった女戦士だと言うのだ。
「しかしなぜそれがあの女の所在を表していると…」
「グフフフッ…昨日、わたしがあの女がおもらしした時に一本の注射を打ってやっただろう?あれの効力はあの女をモモレンジャーになれないようにしただけではないのだよ、グフフッ、グフフフフフッ」
昨日の苛烈な拷問の果てに失禁し、気絶してしまったペギーに日輪仮面が打ち込んでいた怪しげな注射。あの注射には別の効力があるらしい。
「??…どういう事なんですか?もしや別の効果があると…」
「…その通りだ。あの注射にはもう一つ効果があってな。注射を打った身体の中から特殊な電波が発信されるようになっているのだよ。だからコイツに点滅しているピンクの点があのムチムチ女のいる所をハッキリ教えてくれるってわけさ。…そしてコイツがある限り、あの女は我々から逃げ切る事は決して出来ないってわけだ。…グフフッ、グッフッフッフッフッ」
「なるほど…そういう事ですか…それじゃオレたちはいつでもモモちゃんを襲うことができるってわけですね…へへへっ、へへへへっ」
抱いていた疑問が解け、先程のようにまただらしなく顔をゆるませていくそのゾルダー。日輪仮面の説明を聞いていた周りのゾルダーたちもみな一様に顔がいやらしくニヤけていく。
「そういう事だ。これで分かっただろう?…それでは早速これからあの女と遊びにいくぞ?グフフフフフッ」
「はっ!…へへへっ、へへへへへへっ」
『ガーッ…おい!日輪仮面!聞こえてるか?オレだ!スナイパー仮面だ!…聞こえてるか?おい!』
顔をだらしなくニヤつかせた日輪仮面と、それ以上にだらしない顔をしているゾルダーたちが“女戦士狩り”に向かおうとしていたその時…日輪仮面の持っていた通信機からトーンの低い男の声が聞こえてくる。それは昨日と同じ場所、この秘密要塞全体が見渡せるやぐらの上にいた黒十字軍一の狙撃手、スナイパー仮面だった。
「お!?…何だ?スナイパー仮面か?何か用か?こっちはこれからあの女と楽しい事をしようと思っていたところだ。…どうだ?貴様も一緒に来るか?グフフッ、グッフッフッフッフッ」
『ガーッ…フッ…遠慮しておくよ。おまえの楽しみを取っちゃ悪いからな、フフフッ、フフフフッ』
「そうか、グッフッフッフッ……それよりアカレンジャーとアオレンジャーの始末、ご苦労だったな。相変わらず見事な腕前だったよ、グフフッ、グフフフフフッ」
『ガーッ…フッ、まぁあのぐらいならチョロいモンさ。…それよりオレはこれからどうすればいいんだ?フフフッ、フフフフッ』
ペギーを助け出しに来た二人のゴレンジャーを超遠距離から狙い撃ちにする。これが今回のスナイパー仮面の“仕事”だった。そして今回も見事な射撃の技術でその任務を完了したスナイパー仮面。まだ己の欲望が満たされていない彼は、それこそ飢えた狼のごとく自身の飢餓を満たしてくれる“仕事”を追い求め、通信先の親友に要求する。
「そうだな。だが実は貴様にはもう特にやってもらいたい事はないんだよ。しかしそれでは貴様も退屈かもしれんな…そうだ。こういうのはどうだ?気が向いたらあのメスに適当に麻酔針でも撃っておいてくれないか?例えばあの女が動き回っているところに“あの”ムチムチした太腿に撃ちこんで見るとか面白いんじゃないか?…グフフッ、グフフフフフッ」
『ガーッ…なるほどな。それは中々面白そうな“仕事”だ。…ではわたしは頃合を見てそれを実行するかな?フフフッ、フフフフッ』
プツッ…そう言い残しスナイパー仮面は日輪仮面との通信を切った。
「グフフフッ…あの男も相変わらず仕事熱心なヤツだな、グフフッ、グフフフフフッ……よし、そうだな。ではこちらも開発中の試作品をテストしてみるか?グフフフフフッ」
「開発中の試作品?…何なのですか?それは?」
「…まぁこれを見るがいい。グフフッ、グフフフフフッ」
そう言って日輪仮面が右の方向を指差す。その先には三人の黒い人影が見える。それは…全身黒ずくめのスーツで固めたゾルダー兵だった。
「これは?…見たところ我々と同じ、ただのゾルダーに見えますが…?失礼ながらただのゾルダーなら開発中というのはおかしいのでは…?」
「そう見えるか?グフフフッ……だがコイツらはただのゾルダーとは違うのだよ。コイツらは“黒十字忍団”と言ってな。諜報活動を主な活動の目的とし、物音を立てずに行動したり壁をすり抜けたりする事ができる。その上おまえたち普通のゾルダーに比べて接近しての戦闘を特に強化してある。まぁ、もっと簡単に言えばおまえたちゾルダーの強化型だな、グフフフフフッ」
「なるほど…。しかしそんなヤツらがいるのなら我々普通のゾルダーはもう用無しですかぁ?」
日輪仮面が指差していた、一見普通のゾルダーに見えるその黒服たち。彼らはゾルダーの強化型のようだ。名前は黒十字忍団というらしい。
しかしそのような強化型が開発されているのならいずれ自分たちの出番はなくなるのでは?…普通のゾルダーたちのそんな心配はもっともだ。だが日輪仮面が言うにはその心配はしばらくはないらしい。彼は言う。
「グフフフッ…まぁそう心配するなよ。この黒十字忍団はまだ試作品段階でな。細かい命令を下さないと何も行動できない、何よりコイツらはまだ言葉がしゃべれんのだよ。…なぁおまえら?グフフッ、グッフッフッフッフッ」
「…」
そう不気味に笑いながら日輪仮面は黒十字忍団の方を見る。だが日輪仮面のその言葉にも彼らは何も反応しない。ただ黙ったまま、上官である仮面怪人の話を微動だにせず聞いているだけだ。
…見ただろう?わたしがこれだけ上機嫌に話しても何も反応は無い。まったくつまらんヤツらだ。…だからおまえたちにもまだまだ使い道はあるって事さ、グフフッ、グッフッフッフッフッ」
「なるほど…。ではしばらくはオレたちのクビも大丈夫って事ですね?」
「グフフフッ…そうだな。だがそれも一年後にはどうなってるか分からんぞ?グフフフッ、グフフフフフッ」
「それは…でも少なくともオレたちがモモちゃんと遊ぶまでは大丈夫ですよね?…ま、それなら別にいいや。あのムチムチボディと楽しく遊べれば…へへへっ、へへへへへっ」
「グフフフッ…まぁそうだな。わたしたちがあのムチムチボディを犯すまではおまえたちの出番は保障してやるよ…グフフフッ、グフフフフフッ」
ここにいるゾルダーたちには自分たちが目の前にいる強化型ゾルダーに取って替わられようとしている事などもはやどうでもいい事らしい。今の彼らは欲望のまま、ペギーの肉付のいい肢体にむさぼりつければいいのだ。
「…ではおまえら。ムダ口はそれぐらいにしてそろそろあのムチムチ女と遊びに行くぞ?ぐふふふふっ……ほぉ、あの女は要塞のB地区に逃げ込んだらしいな。…そういえばあそこには外壁が低い所が一箇所あったな?…ではあの女をそこに追い込むようにするか?その後は…おまえたちのお楽しみタイムだ。まぁおまえたちゾルダーの退職金みたいなモンだと思って目一杯楽しめよ?…グフフフッ、ぐっふっふっふっふっ」
「そいつは随分ヒドイ言い草ですねぇ…へへへっ、へへへへへへっ」
だが上官にそう皮肉たっぷりに言われたゾルダーたちもまんざら悪い気はしていないらしい。彼らはペギーの艶やかな肢体にむさぼりつく己の姿を想像し、顔をだらしなくゆるませ、徐々に高鳴る期待に股間をむくむくとふくらませていく。
ほいっ、ほいっ、ほいぃぃぃぃ!
そして彼らは最後に残ったゴレンジャーの紅一点、モモレンジャーことペギー松山を狩に、己の欲望を満たすために動き出した。しかし動き出したゾルダーたちが発していたいつもの間の抜けた掛け声は、普段よりどことなくハイテンションだ。それは現在の彼らの喜びの内面を表しているかのようでもあった。
ババババババッ!…そんな、意気上がる彼らの上空に漫然と漂う物体があった。ゴレンジャーの誇る戦闘ヘリ、空の王者バリブルーンである。
だがその空の王者も今や主を失い、空中を行き場もなくたださ迷っているだけだった。そんな行く当ても無く空中を漂っているかつての空の王者の姿は次々に仲間たちや能力を奪われ、ひたすら逃げ惑う事しかできない女戦士を案じているようでもあった…。
- 以下 黒い死の要塞!!恥辱まみれのモモレンジャー 逃亡編1へ続く -