- 捕獲されたヒロインたち エピローグ -

「…おい、店長、店長はいるか?」
ここ地球、とある国の某有銘電気街のとある場所…小さな店の裏の控え室に特徴的な低い声が部屋中に響いていた。宇宙警察に“死の商人”と呼ばれている男、ひょっとこのようなお面を身に着けていたデストレーダーである。
「これはこれは…あなた様ですか?…して今日はどんな御用で?」
店長と呼ばれた男、角刈り、色白でヒョ路っとした長身のいわゆる“青びょうたん”のような体型の男が、デストレーダーに向かって慇懃な態度であいさつをする。
なに…たまたまこの星の近くを通りかかったもので、ついでに何となくフラッと、な……ところで店長、例の“あのゲーム”は売れたのか?…ククククッ」
「いえ。あのゲームはまだ店頭には並べておりませんが…なにぶん、こちらでデバックプレイをしていたもので…こちらとしてもいい加減な物を売るわけにはいきませんのである程度内容を確認させていただきましたが…」
「ふっ…わたしが今まで店長に持ってきた物でそんないい加減な物があったか?ククククッ…」
持っていたタバコを右手に手にしながらデストレーダーが、皮肉を込めて店長に言う。だがその表情は笑っていた。
「…まぁそうですがね。フフフフッ……ただこちらとしても店頭に並べる前にある程度、ゲームの内容は把握しておきたいですから…」
「まぁそれはもっともだな、ククククッ……ところで…あのゲームをプレイしてみての店長の感想はどうなんだ?」
彼は左手にスーツのポケットの中から小さなライターを取り出した。シュポッ……そして右手に手にしていたタバコを口元に持っていき、デストレーダーがそれに火をつけながら店長に質問する。
「いや、面白いとかそういう次元の話ではなく…まったく驚きの一言につきますよ。あのゲームは自分の体をゲームの中にトレースしてほとんど生身の状態でプレイできるようなのですけど…もちろんそれだけでも驚きなのですが…ところで“あのゲーム”の中に出てくる女の子たちは一体何者なんです?どう見ても“あの子”たちは本物にしか見えないのですが…」
その店長の疑問はもっともだ。質問されたデストレーダーは、右手にくゆらせていたタバコをふかしながら、それにゆっくり、とつとつと答え始めた。
「ふーっ……ああ。あれはあくまでプログラムの一種だ。この宇宙にはそのような技術もあるのだよ…まぁ今の地球の文明レベルではどう見ても本物にしか見えないんだろうがな、ククククッ」
「ほぉ、そういう事でしたか…でも“あんな物”があったら風俗なんか商売上がったりになるんじゃないですか?フフフフッ」
「…実際にそういう話も聞いている。まぁわたしがプロデュースしたあのゲームは何人か本物も混ざってるがな、ククククッ」
「それはまた物騒な話で…そんな事して犯罪にならないのですか?」
店長の目の前の男、デストレーダーは何とも物騒な話をする。店長もそれを聞いて一瞬ギョッとしたような表情を浮かべる。だがそんな彼の“目”は笑っていた。
「なに、その辺は上手くやってるさ…まぁコイツを作る時、宇宙警察の女刑事に嗅ぎ付けられたがそいつもこのゲームのキャラクターになってもらった。何気にそいつも宇宙警察のメス犬にしては結構いい女だったのでな、ククククッ」
「…しかし宇宙警察に手を出したら尚更厄介な事になるのでは?」
そう言う店長の声は少し不安げだ。だがその彼の問いにもデストレーダーは余裕の笑みを浮かべている。彼は近くにあった灰皿でくわえていたタバコの火をもみ消しながら、ゆっくりと答え始めた。
「それも問題はない。わたしの信頼できる工作員が宇宙警察の内部にいる。そいつに少し細工してもらった…ちなみにその女刑事は“遥か銀河の彼方のとある星にてあえなく殉職”って事にしてもらったがな、ククククッ」
「なるほど…確かにぬかりはないようですね、フフフフッ、フフフフフフフッ」
一通り話をし終えた二人が不気味な笑い声を漏らす。それはどこまでも暗く、陰湿な笑いだった。
「…そういえばあのゲーム、まだ店頭に並べる際の価格を決めてないのですが…あなた様の希望の販売価格とかはございますか?…一応、こちらとしましては“これくらい”の規模の新作なら5000円ぐらいで売り出そうかと考えているのですが…」
「うむ、そうだな…まぁ200円ぐらいで構わないぞ、ククククッ」
「!…200円!?そのような格安の値段でよろしいのですか?」
店長がまだ決めかねていた“そのゲーム”の希望販売価格をデストレーダーに質問すると、とんでもない格安の値が返ってくる。その返答を聞いて彼が目を丸くするのはもっともな事だった。
「それほどの格安か?フフフフッ…まぁあのゲームはほとんど開発費はかかってないからな。あえていうならCD-ROM代とその中に放り込んだ女たちをひっとらえるためにわたしが費やした人件費ぐらいのものだ…それもその過程でわたしは個人的に随分と楽しませてもらったからな。まぁこんなもんで構わんさ…店長にはだいぶよくしてもらってるしな、クククッ、ククククククッ」
「そういう事ですか…ではそのようにいたしましょう。別にこちらといたしましては、あなた様のお戯れで作られたあのゲームで利益をあげるつもりは全然ないですから…わたしとしてはどんな値段で売り出しても構わないですけどね、フフフッ、フフフフッ」
「うむ。では頼んだぞ…まぁ店長の言う通り、あのゲームはわたしの個人的な趣味で作ったようなもんだからな…それにわたしはもう十分楽しんだ。あとは世の中の女に縁の無い青少年におこぼれをくれてやるさ…クククッ、ククククククッ」
デストレーダーから返って来たその返答に店長は納得する。そして、彼はデストレーダーがその後についでのように付け加えた理由が妙におかしかったらしく、微妙な笑みを浮かべている。
「おっと!?そうだった…実は店長に頼みたい事があるのだが…」
「?…また改まって何です?…まぁあなた様にはいつもごひいきにさせてもらってますから、多少の事なら何なりとお聞きしますが…」
「うむ…実はこれを店頭に並べて欲しいのだ、クククッ、ククククククッ」
何かを思い出したように言うデストレーダー。??…目の前にいた店長はそれが何かと問いかける。それに答えるようにデストレーダーは“ある物”を取り出す…それは二本の白いロングブーツだった。だが、それはよく見るとどちらも右足の物、二本のブーツでいわゆる“対”になっているわけではないようだ。
「これは…白いブーツ?…あの…非常に申し訳ないのですが…ウチは“靴屋”ではございませんので、このような物は扱えないのですが…」
「フフフッ、まぁ待て…これはただのブーツではないぞ?…店長、この写真を見て欲しい、ククククッ…」
そう言うとデストレーダーは二枚の写真を店長に差し出す…それはピンクの衣装を身にまとった桃井あきらと、全身白で固めたいでたちの渚さやかの写っていた写真だった。写真の中の彼女たちはそれぞれその凛々しい美貌をキリッとさせ、いつものように戦闘態勢で身構えている。
?…この娘(こ)たちは?……デストレーダーからその二枚の写真を受け取った店長が怪訝そうな表情で彼に問いかける。
「フフフッ…その写真は二人とも“このブーツ”の持ち主だ。ピンクの服を着ている方の名前が桃井あきら、もう片方の白い服を着ている方が渚さやかという…」
「ほぉ、左様でございますか…ところでこの娘(こ)たち、かなりの美形なのですが…何故あなた様がこのような写真を?…あなた様の事、ただのかわいい女の子たちのわけがないと思うのですが…」
「フフフッ…さすが店長、相変わらずカンがいいな…実は先程店長に見せたあのブーツ、今回わたしがあのゲームを作る過程でそいつらから奪い取った物なのだ…つまり、そいつらはわたしが今回あのゲームを作る上でターゲットにしたスーツヒロイン、女戦士どもってわけだな、クククッ、ククククククッ」
「何と!…このようなかわいらしい顔をした娘たちが戦士なのですか?」
デストレーダーはそのブーツがその写真の彼女たちのものであると紹介する。更に彼女たちはれっきとした“女戦士”である事も合わせて説明した。その事実を聞き、さすがに驚きの表情を見せる店長。
「そうだ、フフフフッ…しかもただ美形なだけではなく、二人ともボリューム感たっぷりの肢体で実に店長好みではないのか?…特によく鍛えられた、このムチムチした脚なんかは店長にとってはたまらないと思うのだがな、クククッ、ククククククッ」
「…そうですね…“脚フェチ”のわたしにはこのムチムチした脚はたまらないですよ、フフフッ、フフフフッ」
どうやらこの店長と呼ばれていた男はボリューム感たっぷりの肢体が好み、特に非常な“脚フェチ”であるらしい…そんな彼には彼女たち二人、ピンクのミニスカからスラリと伸びる濃茶のパンストで覆われていた、質感たっぷりで迫力抜群の脚を見せ付けていたあきらと、その白いミニスカからスラリと伸びる非常に肉付きのいい色白の太腿を見せ付けていたさやかのいでたちは、さぞ魅力的に写っていたに違いない。
「…それよりもどうだ?店長…このブーツ、店頭に並べてくれるか?…このブーツの隣にこの写真を添えてガラスケースにでも展示すれば十分売り物になると思うのだがな?クククッ、ククククククッ」
「なるほど、そうですね…分かりました。ではそのようにいたしましょう…してこのブーツ、お値段は幾らに設定いたしますか?やはりこちらもあのゲームのように格安の値に設定するのですか?」
「いや…こちらは二本セットで100万円でおいてくれないか?」
「えっ??こちらは逆にそのようなお値段を?…そのような高額では需要はあってもとても売れないと思われるのですが…?」
今度、店長は逆にあまりにその高額な価格設定に驚く。だがデストレーダーにはその設定にそれなりの勝算があるらしい。
「フフフッ…そんな事はないのではないか?店長…世の中には色々なマニアがいるものだ。店長の“脚フェチ”のようにな…そいつらからしてみれば100万円ぐらいなら、必ず買いたいと思うヤツがいると思うがな、クククッ、ククククククッ」
「なるほど…確かにそうですね。分かりました…では100万円で店頭に並べましょう。それも、あなた様のご提案通り、ガラスケースに飾って…フフフッ、フフフフッ……では“コレ”はこちらでお預かりしておきましょう…」
店長はデストレーダーから二本のその“白いロングブーツ”を受け取る。そして彼は受け取ったその白いブーツを見つめて、暗く陰湿な笑みを浮かべていた。
「フフフッ、ではよろしく頼む…それから店長、そのブーツを店頭に並べる時、“コイツ”を使うといい、ククククッ」
そう言いながら、デストレーダーはスーツのポケットの中から“ある物”を取り出す…それは一本の小型のビデオテープだった。そして、そのテープのラベルには“ヒロインたちの逃避行”と記されている。
「これは?…ビデオテープ…ですか?」
「フフフッ…まぁ、これは“イメージ映像”のようなものだ。さっき店長に渡した“白いブーツ”とあのゲームのな…このブーツの展示してあるすぐ横で“コイツ”を流せば効果バツグンなのではないか?…我ながら実に効果的な支援策だと思うのだがな、クククッ、ククククククッ」
「なるほど…確かにそうですね。分かりました。ではこちらもありがたくお店で使わせていただく事にしますよ、フフフフッ」
店長は更にデストレーダーから差し出されたそのビデオテープもありがたく受け取る。
「さて、これで今回店長に頼みたい事は終わりだな……!…おっと!一つ言い忘れてた事があった…そういえば店長、さっき見せた写真の女二人、やけにお気に入りの様子だったな…?」
「?…ええ。確かピンクの服の娘が桃井あきら、白い服の娘が渚さやか、でしたね?フフフフッ」
「フフフッ、さすがにお気に入り、チェックも鋭いではないか?…その二人、桃井あきらと渚さやかの事だがな…実はあのゲームの中に封じ込めてあるのだ。まぁ店長はもうあのゲームはデバックしてチェック済みらしいからな…その事はとっくに知っているのかもしれないが…まぁ一応教えといてやるよ、ククククッ」
「本当ですか?……!…そういえばまだ少しあのゲームはチェックしてない部分がありましてね。見せに商品を並べる前に今夜、もう一度デバックし直さないといけないのですよ…いや~、この仕事も中々大変でしてね、フフフッ、フフフフッ」
「フフフッ…そんなに大変なら別にやらなくてもいいではないか?わたしの作ったゲームだ。どうせ問題があるとは思えないがな……まぁ店長にも事情があるんだろう、好きにするがいいさ、クククッ、ククククククッ」
ニヤニヤする店長に向かって、そう皮肉っぽく言うデストレーダー。彼は店長が何のためにあのゲームのデバックをするなどと言い出したかは分かっていた。
フフフッ…やはり店長、あの女たちを見てもはやたまらないといった様子のようだな…まったく分かりやすい男だよ、ククククッ……それを分かっていたデストレーダーは目の前の男、店長のそのあからさまな行動がたまらなくおかしいらしくこちらもニヤニヤした表情を浮かべている。
「…それよりもこれからこのゲームも評判がいいようなら量産体制に入りたい、ククククッ」
「分かりました…こちらとしては受け入れ態勢はいつでも問題ないですよ。あなた様が売りたい時に、あのゲームを量産して持ってきてください、フフフッ、フフフフッ…」
その部屋の中から二人の男達の微かな、それでいて陰湿で不気味な笑い声が漏れてくる…その計画は静かに、深海を潜伏するように人知れず進んでいくのだ…。
- 捕獲されたヒロインたち 完 -