- 捕獲されたヒロインたち プロローグ -
「うっ、くっ…」「うっ、ふっ…う、ううぅ…」
何処かの研究所のような建物の中…20畳ほどはあろうかという何もない広い部屋で3人の女が3本の柱にそれぞれ手を後ろに回され束縛されていた。
直径約50cm、高さ4mほどの三本のその柱は、部屋の中央に50cm幅の正三角形のような位置関係で並び立っている。彼女たち三人は、それぞれの柱に背中越しに手を後ろに回され束縛されていたのである。
「うっ、くっ……これ、何とかならないの?…うっ、くっ…」
ピンクの上着にミニスカート、そこからスラリと伸びる“濃茶のパンスト”が印象的な肉付きのいい両脚、その足先に身に着けていた白いロングブーツ…モデルのような抜群のプロポーションを誇る身体を鮮やかな桃色の衣装に身を包んだ若い女性が呻く。
「この手錠さえ何とかできれば…うっ、くっ…で、でも外せない!?どうしたらいいの?」
ガチャガチャ、ガチャガチャ…サラサラした長い黒髪、まだあどけない顔立ち、その意思の強さが垣間見えるクリッとした大きな瞳の少女が弱音のような言葉を呟く。少女が身悶えるたびに両手にハメられていた手錠から無機質な音がガチャガチャと鳴り響く。
「大丈夫、きっと何とかなるわ。冴ちゃん、絶対にあきらめちゃダメよ」
弱気な面を覗かせる少女に隣から励ましの言葉が聞こえる。それは白い半袖スーツにミニスカート、ロングブーツと身に着けている物全てが“白”といういで立ち、ややカールがかったせみロングの黒髪の知性的な雰囲気を醸し出している若い女性からだった。
ピンクと白い衣装の若い女性二人は同じぐらい、二十歳そこそこといった感じの年頃、もう一人、まだあどけなさの残る顔立ちの少女は中学生から高校生くらいといった感じの娘だった。
ほとんど共通点のなさそうな、この三人の女性たちが何故このような所に捕らえられているのか?…それはこれから彼女たちが恐ろしい計画に利用されようとしていたからだ。
だが彼女たち自身は自分たちが何故このような場所に連れてこられたのか、まだそれを知らないでいた。彼女たちは訳も分からずこのような場所に束縛されていたのである。
カチャッ…その時、部屋のドアノブが静かに、そーっと回る音が聞こえた。それはまるで誰かに見つからないようにしてるかのようだ。
「!…誰?そこにいるのは誰なの?…答えなさい」
開いた部屋のドアに向かって叫ぶピンク色の衣装の女性。その声につられるようにして他の二人の注目もそのドアに集まる。
スタッ…そのドアからゴーグルアイのある黄色いフルフェイスのマスクに同じ色の全身タイツのようなスーツを身にまとった人物が現れる。カチャ…そしてその“黄色い人物”が入ってきた部屋のドアをなるべく物音を立てないように静かに、ゆっくりと閉める。
「??…あ、あなたは一体誰?誰なの?」
今度は全身白い衣装の女性がその“黄色い全身タイツ”のような人物に問いただす。彼女たちはその扉から現れた黄色い人物を知らない。得体の知れない正体不明の人物の登場に三人に緊張が走る。
「シッ!…あまり大きな声を出さないで!」
その黄色い人物はマスクの前で右手の人差し指を立て『静かに』というようなポーズを取る。そして彼女たち三人を静止する“その声”はトーンの高い、女性のものだった。
「…今からあなたたちをその手錠から助け出すわ…ちょっと待ってて」
えっ??…その黄色い人物の言葉に三人は思わず顔を見合わせる。ビシュッ、ビシュッ…そしてその黄色い人物は三人が縛られていた柱の後ろにそれぞれ回りこみ、レーザーガンのようなもので手錠を強引に破壊した。
「…て、手錠が??…」「…う、動くわ?…あ、ありがとう。助けてくれて……でもあなたは一体誰なの?」
両手の自由を取り戻し、自分の手を見つめているあどけない顔立ちの少女。その隣から同じく自由を取り戻したピンクの衣装の女性が黄色い人物に問いかける。
「…あなたたちが“桃井あきら”さん、“渚さやか”さん、“大河冴”さんですね」
それぞれピンク色の衣装の女性、全身真っ白のいで立ちの女性、あどけない顔立ちの少女の顔を順番に見て、それぞれの名前を言う黄色い人物。
「!…わたしたちの名前!?…どうしてわたしたちの名前を知ってるんですか?」
“大河冴”と呼ばれた少女がクリッとした大きな瞳を更に見開いてその黄色い人物に質問する。
ふぅ…その黄色い人物が頭部のマスクを外す。中からマスクの中にまとめられていたキレイな長い黒髪が流れ落ちる。マスクを取ったその人物は流れてきた黒髪を振り払うようにかぶりを振っている。
ゴソゴソ…そしてその人物は右手に警察手帳のようなものを取り出し、それを手にあきらたち三人に見せるように差し出してしゃべり始めた。
「…わたしは宇宙警察の者です。名前は“礼紋茉莉花(れいもんまりか)”、コードネームは“デカイエロー”って言います…まぁほとんどの人はわたしの事は“ジャスミン”って呼んでるけどね。4649、いやヨロシクね♪」
マスクを取ったその黄色い人物、ジャスミンと名乗る若い女性が妙、いや、ヘンな自己紹介をする。三人はそんな彼女の自己紹介にあっけに取られていた。
「…え、えっと…宇宙警察の方だったんですか?…改めてお礼を言います。助けてもらってどうもありがとうございました。“礼紋”さん」
「そんな堅苦しいあいさつは抜き抜き…それにわたしの事は“ジャスミン”って呼んでくれて構わないわ。みんなそう呼んでるし」
ややあっけに取られていた“桃井あきら”と呼ばれた女性が改めてお礼を述べる。そんな彼女に“もっとくだけた感じでいいわよ”と言わんばかりに言うジャスミン。
「…分かりました。ありがとう、ジャスミンさん。それからわたしたちの事も下の名前で呼んでくれて構わないわ。お互いその方が呼ばれなれてるから…」
あきらがジャスミンのその言葉へのお返しを投げかける。
「OK牧場!分かったわ。じゃあ、これからはそうさせてもらうわ」
ビシッ!右手の親指をグイと立て、またしてもヘンな言葉遣いで切り返すジャスミン。…きっとこの女(ひと)はこういう人なのだ。あきらたち三人はあっけに取られながらも無理やりそう納得する事にした。
「それはいいとして…ここは危険だわ。早くこんな所から脱出して安全な所まで行くべし」
「…ま、待ってください…ここはどこなんですか?…それにあたしたちは何でこんなところに連れてこられたんです?それに一体誰があたしたちを…」
さっさとここからの脱出を考えるジャスミンに“渚さやか”と呼ばれた女性が次々と質問を投げかける。
「それは…」
「クククッ…それはわたしから説明しよう」
!…その時、彼女たち四人の後ろ、ジャスミンが入ってきたドアの方から男の声が聞こえてくる。一斉にそのドアの方へ振り向く四人…それはどこか陰湿で暗さのある低いトーンの声だった。
「…誰!?誰なの?」「…お、おまえは…」
「…クククッ…これはこれは…“麗しきレディ”のみなさん、わたしの秘密のアジトへようこそ…最近、若い娘が次々と行方不明になっている事件は知ってるだろう?わたしはその黒幕だよ、宇宙警察の女刑事さん、ククククッ…」
その男に向かって叫ぶあきら、男を見て何か知ってるアテがありそうに言うジャスミン…慎重180cmぐらいのその男が不気味な低いトーンで話し出す。
「…ここはわたしの秘密のアジトだ…キミたち三人を連れてきたのはわたしとその部下たちだよ、桃井あきら…それに渚さやか、大河冴だったかな?ククククッ」
!…自分たちの名前を的確に言い当てられた事で驚愕するあきらたち三人。この男は初めから自分たちの事を知っていたのだ…その上で自分たちを最初からターゲットにしていたのだと…その事実に愕然とするあきらたち三人。
「…で、何でキミたちをさらったのか?だったな…それはこれからわたしが“ある計画”をしてるものでね…その計画にキミたちが欲しかったのさ…だからそのためにキミたちにちょっとここまで来てもらったのだよ、クククッ、ククククククッ」
「く、くっ…な、何なのコイツ…何のためにわたしたちを…ジャスミンさん、この男、何者なんです?」
陰湿な笑みを浮かべ、とつとつと語りだすその男。ややおびえた様子を見せる冴が少し不安げにジャスミンに問いかける。
「…この男はまだこっちでも詳細が掴めてないの。名前もまだ分からないわ…ただわたしたちは“死の商人”って呼んでる。全宇宙を股にかけ、人身売買やクスリの密輸など悪質な商売を手がけてるって事でね」
チッ…ジャスミンはそう言い終わると、いまいましそうに舌打ちをする。
「…そんな風に宇宙警察にマークされてたなんて光栄だよ、刑事さん。そう言えばまだ自己紹介をしてなかったな。そうだな…“デストレーダー”とでもとりあえず呼んでもらおうか?ククククッ」
「“デストレーダー”?…死の商人だからデストレーダーってわけ?ただ横文字にしただけじゃない?…随分芸のない名前だこと、“ひょっとこ君”♪」
恐らく“デストレーダー”という名前もこの男の加盟なのだろう…そんな自己紹介にすかさずジャスミンが例のユニークなセンスで妙なネームメイキングをしてみせる。確かにこの男は素顔の“面”が割れないように“ひょっとこ”のようなお面をしていた。恐らくその辺りから彼女は名づけたのだろう。
「ひょっとこ君?…フフフッ、中々面白い娘さんだ。宇宙警察の犬になどしておくのは実に惜しいねぇ、クククッ」
「あら、ありがと♪…でもおまえみたいな凶悪犯に言われてもねぇ…」
軽いノリで受け答えするジャスミン。だがこれがいつもの彼女のペースなのだ。実際にはそんな態度とは裏腹に彼女の心はこの男への怒りに燃え盛っていた。
一方で“デストレーダー”を名乗るその男は改めてジャスミンをじっくりと観察していた。
ほぉ…実はこの宇宙警察の女刑事も結構いい女じゃないか?マスクを外していた彼女の顔立ち、体にピッチリと貼りつき、彼女の見事なボディラインをいやらしく強調している光沢のある黄色いスーツを眺めながら男はそう思っていた。
それにわたしが希望している“スーツヒロインの若い娘”に偶然にも当てはまっている…ついでにこの女刑事もいただくか?見たところ、そこにいるピンク色や白い服の女と同じぐらいの年頃の娘らしいからな、ククククッ…思いがけず目の前に現れた新たな“獲物”に男は内心舌なめずりしていた。
「!…ちょっと!わたしの可憐さにみとれるのは分かるんだけど…女の子をそんな“目”で見るのは失礼なんじゃないかな?ひょっとこ君♪」
ジャスミンもそんな彼の淫らな視線に気づいたのか、そんな彼に思わずチャチャをいれてしまう。あくまで今までの軽いノリで突っ込みを入れているが、これでも彼女なりに十分嫌がり、恥ずかしがっているのだ。
「クククッ…失礼。いや、思いがけず“いい素材”が手に入ったと思ったのでな、ククククッ」
「あなた!あたしたちが必要な“ある計画”って一体何なのよ!」
相変わらず陰湿な笑みを浮かべている男、デストレーダーに溜まり兼ねたさやかが問いただす。
「フフフッ…それはキミたち自身で確かめるのだな、渚さやか」
「ならそうさせてもらう!力ずくでおまえから聞き出すのみ!」
ガチャ。ビシュッ、ビシュッ、ビシュッ…不適な笑みを浮かべるデストレーダーが言い終わると同時に、ジャスミンがレーザーガンのような銃、Dリボルバーを構え、彼に向かって乱射する。
Dリボルバーから放たれた光線はことごとくデストレーダーに命中した…はずだった。だが放たれた光線は何事もなかったかのように全て彼の体をすり抜け、後ろのドアを打ち抜く。
「!…弾がすり抜けた!?全部まともに当たったはずなのに…どうして??」
不可思議な現象にあきらは思わず声を上げる。ビッ…すかさずジャスミンが左手に手帳のような物を構え、デストレーダーに向ける。
「What??…SPライセンスが作動しない?どうして?……まさか!?」
差し出した手帳のような物から思い通りの結果が得られなかったジャスミンが不審に思ったのか、素早く次の行動を取る。ビュン!彼女は腰のホルダーからDスティックを抜き取り、それをデストレーダーに向かって思い切り投げつけた。
今度こそは当たった、はずだったが…カランッ。やはり投げつけられたDスティックは男の体をすり抜け、後方のドアに当たり無機質な金属音と共にコンクリートの床に転がり落ちた。
「またすり抜けた?…どうして?何でなの?」「…もしかして…幻?」
疑問に満ちた冴の叫びにさやかが冷静な低いトーンで応える。
「幻!?……ホログラフィ…そうかいそうかい気分爽快」
不可解な現象の謎がやっと解けたかのようにジャスミンがその正体をまたしても例の“ジャスミン語”でポツリと呟く。
「フフフッ…ご名答。さすがは地球守備隊の元作戦部隊将校といったところか?渚さやか…ククククッ」
「!…な、何でそれを!?…あなた一体ホントに何者なの?」
デストレーダーにここにいる全員に話していないはずの自分の素性を言い当てられた事に驚愕するさやか。
「…おまえだけではないぞ。桃井あきらはアスレチッククラブで水泳を教えるインストラクター、大河冴は専門学校に通う空手少女…違うか?ククククッ」
!…ことごとく言い当てられる自分たちの素性に明らかなとまどいを見せるあきらたち三人。自分たちが何もかも丸裸にされてるような気味悪さを感じ、彼女たちは緊張して思わず身構えてしまう。
「フフフッ…お遊びが過ぎたようだな…まぁまたいずれ会うだろう。だがその時はおまえたちはどうなってるか分からないがな、クククッ、ククククククッ」
そう言い残し、デストレーダーの幻は部屋のドアの前からスッと姿を消した。
「あっ!?…ま、待ちなさいよ!…はぁ、消えちゃった……ジャスミンさん。これからどうするんですか?」
姿を消す男の影に向かって叫ぶ冴…そして彼女はこれからの行動をどうするかジャスミンに聞く事にした。とりあえず一番事情を知っていそうなのは宇宙警察の刑事である彼女のようだし、冴はこの場はそうするのが一番いいと思ったからだ。
「うーん、そうね…確かにアイツを何とかしたいのは山々なんだけど…こんな所にいつまでもいるのは危険だし…何より今回はあなたたちを安全な場所に非難させる事が一番の目的なんだから、ね…さぁ、今度こそ早くこんな所からはとんずらしましょ?」
カチッ。外していたマスクを再び頭にかぶり、今度こそ逃げる準備をするジャスミン。
「ま、待って!確かにこんな所からは早く脱出した方がいいとは思うけど…あたしたち状況が本当によく分かってないの。それにあなたも全ての事情を把握してるわけじゃなさそうだし…だからお互い知ってる情報を交換して状況を整理した方がいいんじゃないかしら?闇雲に動く前にそうした方がいいと思うの」
「…そうね。確かにそれも一厘、いや一理あるかな?…それにアイツらにはわたしたちの事はだいぶ知られちゃってるみたいだったし…こっちも情報をキチンと整理しておいた方がいいのかな?…よし。じゃあそうしましょう…でもなるべく早くね。さっさと逃げた方がいい事には変わらないんだし…」
一刻も早く動こうとするジャスミンを静止するように言うさやか。何事もキチンと情報を整理しようというのは軍人である彼女の習性なのか、それとも元々の彼女の性格からくるものなのか…とにかく彼女たちはさやかが提案した通りお互いの情報交換をする事にした。
「…それじゃ、まずあなたたちがどこからきたのか?何でアイツらにさらわれてしまったのかって事からかな?」
刑事らしくこの場を取り仕切るジャスミン。それにしてもその様子は駐車違反の取り締まりでもしてるようである。
「…わたしたち、みんな突然気を失って…目が覚めたらここにつかまっていて…それよりどうも腑に落ちない事があるんです」
「??…どういう事?」
事情を説明し始めるあきら。しかし彼女たちはどうにも腑に落ちない事があるという。それが何か問いかけるジャスミン。
「わたしたち、ジャスミンさんがここに助けにきてくれるまで三人である程度話はしていたんですけど…わたしたち、それぞれ別の時代から連れてこられたってお互い主張してるんです。もちろんみんなそんな事信じてないんだけど…」
??What?どういう事?……冴のその言葉の言う意味が分からず混乱するジャスミン。それを横にいたあきらが補足説明する。
「つまり、わたしは今は198X念、さやかはその5年後ぐらい、冴ちゃんは20年後ぐらいだってお互い主張してるの。…でもお互い話をしてみると嘘を言ってるようには見えないし…だから、わたしたちはもしかしてそれぞれ別の時代から連れてこられたんじゃないかって考えたわけなんです…ところでジャスミンさん、本当に今は西暦何年なんです?」
「今は200X念だけど…」
「!…それじゃわたしの言ってる時代より更に5年ぐらい未来だって事ですか?それじゃわたしたち本当に別の時代から連れてこられたんじゃ…」
「…どうやら本当にそうみたいね。にわかには信じられないけど…」
ジャスミンのその言葉に驚き、明らかにうろたえる冴。それを冷静に受け止めるさやか。この辺の反応の違いは精神的に未成熟な学生の冴と、訓練された軍人のさやかの違いだろうか?
「…確かにこの宇宙には時間旅行をする技術がどこかにあるって聞いた事があるわ。今の地球の文明レベルじゃマンガかおとぎ話の世界の話でしかないけど…もしかしたらあの“ひょっとこ君”はその技術をどこかで手に入れてあなたたちを連れてきたのかもしれない」
「そんな!…じゃあ、わたしたちもう元の時代には戻れないんですか?そんな、そんな…」
「心配しないで。絶対に戻れるって保障はできないけど…わたしに心あたりがあるの。わたしの昔の知り合いに腕利きのメカニックがいるわ。しかもとてもやさしくて頼りになる人…その人に相談すれば何とかなるかもしれない」
ジャスミンのその言葉に取り乱す冴。そんな彼女を落ち着かせるためか、ジャスミンはその事を相談するアテがある事を紹介する。
***********
「ヘクチョン!…あら、おかしいわね…風邪かしら?」
ここ地球署、デカベースの一室で一人の大人の落ち着いた雰囲気の女性がくしゃみをしていた。
「…何だ、スワン?風邪でもひいたのか?」
地球署の署長、ドギー・クルーガーが近くで作業をしていた女性、白鳥スワンに言う。
「おかしいわねぇ…そんな事はないと思うんだけど。ここんとこ根つめて開発の研究をし過ぎたからかな?」
この時、自分が昔、娘のようにかわいがっていた部下に噂されている事など彼女、白鳥スワンは知る由もない…。
************
「ジャスミンさん、それ、本当ですか?」
ジャスミンの言葉を聞いた冴の表情がパァッと明るいものになる。この辺の豊かな感情の起伏はまだあどけない少女のものだ。
「でもあの男は何のためにわたしたちをさらったのかしら?結局アイツは“ある計画”と言っただけで詳しい事は言わなかったし…」
もう一つの解決されてない大きな疑問をあきらが口走る。
「…確かに。それも気になるんだけど…でも今、それをここで考えててもしょうが焼き、いや、しょうがないわ。後で余裕ができたらまたゆっくり考えましょ?」
結局ジャスミンのその言葉がこの話の結論になったらしい。
「…じゃあ今までの話をまとめると…あたしたち三人はそれぞれ別の時代から連れてこられた可能性が極めて高い。しかも何のために連れてこられたかほとんど分からない…そしてあたしたちが元にいた時代に戻るためにはここを脱出して、ジャスミンさんの言う知り合いの方にお願いをしてみるしかない…こんなところかしら?」
言いだしっぺのさやかが、頭脳明晰の彼女らしく理路整然とこの場をまとめる。
「どうやら、だいたい話はまとまったみたいね…後はここからさっさと逃げ出すべし!それだけっと!」
ドアの近くに転がり落ちていたDスティックを拾い上げながらジャスミンが言う。そのジャスミンの言葉に頷く他の三人。
「じゃあ、今度こそ逃げ出しましょう」
カチャ。そう言うとジャスミンは部屋のドアをそーっと開き、部屋の外、廊下に誰もいない事を確認する。
「…誰もいないみたい。みんな、今なら大丈夫そうよ。わたしについてきて。ここに忍び込む時、外への脱出経路は調べてあるから」
誰もいない事を確認し、ジャスミンは後ろを振り返りあきらたち三人の方を見る。それに力強く頷き応えるあきらたち三人。
ダッ!そして彼女たち四人は建物の出口に向かって一目散に駆け出した。
ジーっ…だがそんな彼女たちの様子を2cm大の虫型の小型監視カメラがとらえていた。そして当然、そのカメラからその様子を伺っていた人物がいた。先程、彼女たちの前に現れた幻影の男、デストレーダーである。
「フフフッ…やっと動き出したか。おまえたちが動き出すのを待っていて何もしてやらなかったというのも知らずにな、ククククッ」
ソファーチェアーに深く腰掛けていたデストレーダーが、右手に手にしていた赤ワインが入ったワイングラスをグイと飲み干しながら陰湿な笑みを浮かべる。
「…ただおまえたちを捕らえるだけではつまらんからな。これから楽しいゲームの始まりだ…そしてこの様子を全て映像に収めてビデオにでもして大量に作れば大もうけのタネになりそうだ。“ヒロインたちの逃避行”とでも名づけてバラ撒いてな、クククッ、ククククククッ」
部屋の中にデストレーダーの不気味な笑い声が響く…彼が見ていたモニターには決死の逃避行を繰り広げている四人の若い女の姿が映し出されていた…。
- 以下 捕獲されたヒロインたち 脱出、そして……へ続く -