- 緑の洗脳!!恐怖の黒十字戦隊 エピローグ -
「う、ううぅ…モ、モ…う、ううううぅ…ミ、ミ…う、うううぅ、ううううぅ…」
「総司令!大丈夫ですか!?…総司令!総司令!」
何かの機械やコンピューターが数多く置かれてあるどこかの室内。その床へうつぶせに倒れていた司令官風の中年の男。
ここはゴレンジャー基地の中にあるゴレンジャールーム。その部屋の床で倒れていた江戸川総司令が何か悪い夢にでもうなされているように呻き声を漏らしていた。
そしてほんの少し前、この部屋に入ってきていたゴレンジャーのリーダー、アカレンジャーこと海城剛がその江戸川総司令を心配するように彼の身体をゆさゆさと揺らしている。
「う、ううぅ……こ、ここは…ここは一体…」
「総司令!?総司令、気が付きましたか?」
うなされていた江戸川総司令が意識を取り戻した事に安堵の表情を浮かべている海城。
「う、ううぅ…か、海城!?海城か?…こ、ここは…一体…?」
「何言ってるんですか、総司令?ここはゴレンジャールームの中ですよ。いきなりそんな事…一体どうしたんです?」
海城の隣にいたアオレンジャーこと新命明が少し不思議そうな表情を浮かべながら江戸川総司令に言う。自分たちの司令官がいきなり意識のない状態でこのような所に倒れているなど、普段冷静な新命もさすがにとまどいの色が隠せない。
「ゴ、ゴレンジャー…ルームだと?そうか。…だが何故わしはこんな所に倒れていたんだ?」
「総司令!?まさか総司令は自分が何故、こんな所に倒れていたのか全然覚えてないんですか??」
江戸川総司令の言葉に驚愕の表情を浮かべている海城。だが少し前にあったここゴレンジャールームでの出来事などまったく知らない彼には当然の反応だった。
「ああ。それがまったく覚えてないんだ、海城。昨日、大事な会議があると言ってわしがイーグルの本部に行ったのは覚えているな?」
「はい…確かにそうでした。でもそれが何か…?」
「あの時、わしは本部での会議を終え、その本部から迎えの車でゴレンジャー基地に帰る途中だった。その車の後部座席に座っていたわしはその時、突然目の前が暗くなって…それから先はまったく覚えてないんだ」
「何ですか総司令!?それは…まさか!?…総司令は黒十字軍に襲われたんじゃ…」
「いや、新命。それもまったく分からないんだ。だが記憶が無くなる直前、近くには確か黒十字軍の気配はどこにもなかったと思うのだが…」
どうして自分がここに倒れていたのかポツリ、ポツリと海城に話し始める江戸川総司令。新命はその話を聞いて「もしや黒十字軍の仕業では?』と真っ先に疑うのだが…江戸川総司令によるとどうもそれも違うようだ。
「…ところで海城。おまえたちはどうしてここにいるんだ?」
「はい。オレたちはパトロールから帰ってきていつもの全員の定時集合のためにゴレンジャールームに戻って来てみたら…いきなりここに総司令が倒れていて…」
「そうか。それは驚かせてしまって済まなかったな」
江戸川総司令からの質問にそう答える海城。どうやら彼らは特別な用事でここに来たわけではないようだ。
「しかしペギーと明日香のヤツ、いつもの全員で集合の時間なのに一体どこで油売ってるんだ?…まさかあの二人、パトロール中にこっそり仲良くデートなんかしてるわけじゃないだろうな?」
「あ、大ちゃん!?それありえるかも?だいたいあの二人、いつも一緒に行動してるでしょ?二人とも歳も近いし…案外そういう事もありえるのかも?そうねぇ…もしあの二人が恋人同士だったら子供っぽいところのある明日香をお姉さんのペギーが上手く操縦するって感じなのかしら?ウフフフッ」
「何だよ陽子ちゃん!?随分楽しそうじゃないか?」
「あら?だってみんなに内緒で組織内恋愛なんて素敵じゃない?しかもそれが世界の平和を守る正義のゴレンジャーの隊員同士でしょ?女の子だったらそういうの、誰だって憧れちゃうな~♪」
つい先日、イーグル九州支部に栄転していった大岩大太に代わってキレンジャーになったばかりの熊野大五郎が、いつもの定時集合の時間のはずなのに姿の見えないペギーと明日香の事についてボヤいている。
それを聞いたイーグル連絡員007でもある加藤陽子は何やら奇妙な妄想を抱いていた。みんなに秘密で組織内恋愛-。彼女にとってどうやらそれは女性の憧れらしい。
「おいおい007!?悪い冗談はよしてくれよ?それにあの二人に限ってそういう事があるわけないだろう?」
「そうだ、新命の言う通りだぞ、007。だいたいオレたちゴレンジャーは黒十字軍の野望を阻止するために全国の壊滅したイーグルの各支部で生き残った人間たちがそれぞれ集められてきたんだ。例えお互い好意を持っていても恋愛なんて許されるわけがないだろう?そしてそれはあの二人もよく分かっているはずだ」
「海城さん。…それぐらいはわたしも分かってるつもりですけど…でもたまにはそんなロマンチックな事考えてもいいじゃないですか?」
それを聞いた新命が、海城が変な妄想を抱いている007をあわててたしなめる。
いつ、どこで黒十字軍との戦いになるのか分からない、常に危険と隣り合わせである彼らゴレンジャーにとってこの世への未練になるようなものはご法度だ。ましてや隊員同士の恋愛などもっての他である。
「モモとミドがいない?もしかしてあの夢は……ま、まさか!?」
しかし007のその話を聞いての江戸川総司令の反応は他の三人とはまるで違っていた。それを聞いて彼はみるみる顔色を失っていく。
「総司令!?何か顔色がすぐれないようですが…一体どうかしたんですか?」
「海城!?大変だ!モモとミドが危ないかもしれんのだ!」
「総司令!?いきなりモモとミドが危ないって…一体どういう事なんです?」
江戸川総司令はついさっきまで顔色を失っていたかと思うと、今度は何かをうったえるように色をなして海城へ一気にまくしたてている。その光景は近くで見ていた新命にはとても不思議なものに映っていた。
「新命!?そうなのだ!わしはモモとミドが黒十字軍によってボロボロにされている夢を見ていたのだ」
「夢??」
そうだ海城。モモとミドが五人の強力な仮面怪人たちに襲われて絶体絶命の危機に瀕している夢をわしは今、見ていたのだ」
「夢…ですか?ハハハハッ……総司令。そんなものでモモやミドが危ないだなんて…総司令らしくないですよ。一体どうしたんですか?」
このままではペギーと明日香が危ない!自分が見ていた夢がそう言っている-。江戸川総司令は懸命にそううったえるのだが…突然そのような事を言われても海城や新命たちがそのような話を急に信じられるわけがない。
「だが新命よ。今わしが見ていた夢は普通の夢とは明らかに違っていた。それに夢で見た記憶をこれほどハッキリと覚えている事も不自然だ。ここにモモとミドが姿を見せてない事といい…やはりあの二人に何かあったとは思わないか?」
「確かにペギーや明日香がここにいない事は何か嫌なものを感じますが…だからと言ってそれがあの二人の身に何か起きてると決め付けるのも…」
「そうですよ!海城さんの言う通りですよ総司令。いきなりそう決め付けなくても…ところで総司令はどんな夢を見ていたんです?」
だが江戸川総司令は尚もおなじような主張を繰り返す。しかし海城や熊野たちにはやはりその話をにわかに信じる事はできないようだ。
「うむ。モモとミド、二人はわしにゴレンジャールームへ呼び出されとある任務を受けてイーグル第4研究所へと向かっていた。その道中で黒十字戦隊を名乗る五人の強力な仮面怪人たちに襲われた。更に二人はその仮面怪人たちの攻撃の前になす術なく痛めつけられ絶体絶命の危機に陥ってしまっていたのだ。…これがわしが見ていた夢のだいたいの概要だ」
だが彼は“だいたいの概要”と言いつつ夢の中で見ていた肝心の部分については触れなかった、いや意図的に触れようとはしなかった。
それはすなわち“ペギーの事”についてである。彼女が数人の仮面怪人たちの陵辱まがいの攻撃によってボロボロにいたぶられ、見るも無残な姿にさせられていたあの凄惨な光景を…。
しかし江戸川総司令はその事について、海城たちに最初から話すつもりはなかった。そのような辱めを受けていたペギーの事を思えば彼にはとても言えなかったからである。
「しかし総司令。確かに“その夢”の内容が現実に起きているなら大変ですけど…どうもオレたちにはそれだけでは信じられないんですよ」
だが江戸川総司令のその話を聞いても、元来よりうたぐり深い新命にはやはりその話を素直に信じる事はできないらしい。
「総司令。確かに新命の言う通りです。…だが定時の集合時間になってもペギーや明日香の姿が見えない事は確かに少し気になるな……おい大五郎!すぐあの二人に連絡してみてくれ。二人が無事ならすぐに通信が繋がるはずだからな」
「よし、分かった。…もしもし、ペギー…もしもし、明日香…こちらゴレンジャールーム!至急応答せよ…もしもし、もしもし…」
新命の見せている反応とは少し違い、ペギーたちの姿が見えない事をやや気にかけている海城。そして熊野がその海城の指示を受け、左腕に身に着けていた通信機を使い姿の見えない二人と連絡を試みようとするのだが…。
「…どうだ大五郎?二人からの反応はあるか?」
「ダメだぜ新命さん。うんともすんとも言わねえ…」
「二人からの反応はなし、か。…しかしこれで総司令の言っている事は益々信憑性が高くなってしまったな…」
「ああ、海城。コイツはいよいよキナ臭いにおいがしてきやがったぜ」
ペギーと明日香へ通信を試みていた熊野の反応がかんばしくない事もあり、それを聞いた海城たちに重苦しい空気が漂い始める。しかしその重い空気を打ち破るかのように…。
ピーッ!ピーッ!ピーッ!…。
「何だ?ここの通信の発信音か?それにしても一体誰からだ?……おい007」
その発信音を耳にした江戸川総司令は007に据え置きの通信機の前へ座るよう指示する。彼女もそれに無言でコクリとうなずいて通信機の前に座る。ゴレンジャールームでの通信は、基本的に普段江戸川総司令の秘書のような役回りもこなしていたイーグル連絡員007でもある彼女の役目だ。
ピッ。
やがて彼女は手慣れた手つきで通信機を操作し、その通信機が傍受した通信が誰からのものであるのかすぐに確認しようとするのだが…。
「??…差出人不明!?…一体どういう事?」
「どうした007?何かおかしな事でもあったのか?」
「総司令。それが…この通信、差出人が不明なんです」
「何だと!?一体どういう事なんだ」
この通信の差出人は不明-。007からのその報告に江戸川総司令は思わず顔をしかめる。
「差出人不明の通信だと!……まさか!?…総司令!」
「うむ。…海城、どうやらわしもおまえと同じ事を考えていたようだ。…007、通信を繋いでくれ」
「ハイ」
ピッ。
何かにハッとしたような表情を浮かべて江戸川総司令の方を見る海城。その江戸川総司令は海城へコクリと頷き、007へ受けた通信を繋ぐよう支持する。
もしかして通信は黒十字軍からでは?そしてそれはここにいないペギーや明日香の事についてではないか?-。どうやら海城や江戸川総司令はそう考えたようだ。そしてそれと共に元々彼らの胸の内に渦巻いていたあの二人への一抹の不安は次第に大きなものへとなっていく。
「な、なっ!?…イ、イヤアアアアアアァァァァァ!!」
「何だ007!?いきなりどうしたんだ!」
「よ、陽子ちゃん!?一体どうしたんだよ?」
「…ぁ…ぁ…あ、あれ……ペ、ペギーが…あ、明日香が…!?」
通信を繋いでいた007が突然悲痛な叫び声を上げる。そのいきなりの甲高い悲鳴に海城や熊野もさすがに面食らってしまっているようだ。
その007が通信から受けた映像を身体をガクガクと震えさせながら指差している。そしてその指が指し示す先には…。
「何っ!?ペギーと明日香が一体どうしたって言うんだ!?……!?こ、これはっ!?」
「な、なっ!?ペ、ペギー!?」
「あ、明日香っ、明日香ーっ!?」
「何て事だ…本当にわしの思っていた事が起きているとは…」
新命が、海城が、熊野が、そして江戸川総司令が-。007がガクガクと震えながら指差している映像を見て他の四人もみな一様に顔色を失っていた。
ある者は画面に映っていた、見るも無残な姿の男女の名をただただ叫び、またある者はその画面を見て顔色と共に言葉も失っている。
そして彼らの視線の先にあるその画面には…恐らく既に絶命しているであろうペギーの見るも無残な姿と同じく絶命していると思われた明日香の哀れな姿が映し出されていた。
ほぼ全裸という屈辱的な姿であお向けに転がされていたペギー。その凛々しかった美貌は汗と涙でクシャクシャに汚れ、彼女の見事な長い黒髪もズタズタに切られてしまっている。
どうやら彼女は意識が無くなる寸前まで涙にくれていたようだ。まるで“悪い夢”でも無理矢理見せられていたように…。
またペギーの身体や両足、特に膝から下の部分については薄いピンクの生地や白いブーツなどのモモレンジャーの装飾の跡がかなり残されていた。この事からも彼女はモモレンジャーへと転換し、そのまま服をゴレンジャースーツごと敵によって無残に剥かれてしまったらしい。
更にそのペギーの身体の上に覆いかぶさっていた明日香。ミドレンジャーの格好のまま、マスクだけ外されていた明日香は、ペギーの上にうつぶせで転がされている。
また既に意識が失われていた明日香の顔はとても恍惚な表情をしていた。その顔はまるで直前まで女とのいとなみを愉しんでいたかのようである。
汗と涙にまみれ、まるで“悪夢”でも見させられていたような悲惨な表情で絶命していた全裸のペギー。その彼女の上に覆いかぶさり、恍惚な表情を浮かべて同じように絶命している明日香。
その状況はペギーと明日香、二人が絶命する直前まで何をしていたのか十分に想像できうるものだった。そしてそれはその画面に映し出されていた“地獄絵図”を見ていた海城たちにとっても“悪夢”であったに違いない。
「…う、ううぅ……ウ、ウソ…ウソでしょ!?こんなの何かの間違いよ!…な、何で…何でペギーが…ペギーが…こ、こんな…」
「あ、明日香……く、くそっ…あ、明日香まで…な、何でこんな…こんな…」
同じ女性であるペギーの惨状を目の当たりにし、両手で口元を抑えて泣き崩れている007。
無残な姿で絶命している明日香を嘆き、悲しみに暮れている熊野。他の三人も含め、二人の仲間のその悲劇的な姿に彼らが受けたショックは計り知れない。
カタカタカタカタ…。
やがて五人が悲しみに暮れている空気を打ち破るかのように据え置きの通信機から一本の紙テープがカタカタと出てきた。
「…何だこの音は…?」
「…総司令。どうやら“あの映像”と同時に送られてきた電報が印刷されているようです」
「そうか、海城。……007、印刷されてきたものをこちらによこしてくれ」
「…う…ううっ…ペ…ペギー…ペギー……何で…何で…」
しかし悲しみと涙に暮れている今の007にはそれどころじゃない。それほど同じイーグルの女性隊員であるペギーの悲劇的な姿から彼女が受けたショックは大きい。
もちろん江戸川総司令からのその命令も今の007はとても応えられるような状態ではなかった。そんな彼女の心情は海城たち、はたから見てる人間が見ても痛いほど分かってしまったのだが…。
「陽子ちゃん…陽子ちゃんの気持ちは痛いほど分かるけど…でも今のオレたちは悲しんでる暇はないんだ。オレたちゴレンジャーは何があっても立ち止まっている時間はないんだよ。…だから…だから…」
「うっ、うっ……だ、大ちゃん。……そ、そうね…そうだっ…たわよね。分かったわ。……こちらです、総司令」
その熊野の励ましもあってか、イーグル連絡員としての任務をどうにかして果たそうと気丈に振舞っている007。
「007……済まない」
そんな、自分の感情を必死にこらえ、イーグルの隊員としての任務を懸命に果たそうとしている007の姿は、江戸川総司令の目から見てもとても痛々しく映っていた。
やがて江戸川総司令は007から手渡されたその紙テープの内容を確認しようとするのだが…。
「!?…こ、これは…!?」
「総司令!?その紙には一体何が…」
「…」
海城からそう聞かれた江戸川総司令は彼から顔をそむけ、無言でそれを手渡そうとする。
「…!?」
「海城!一体何が書かれてるんだ?」
やがてその紙テープを手にしていた海城の下へ新命たちが集まってきた。そしてみなそれを覗き込み、その紙テープに書かれてあった内容を確認しようとする。
!!
だがプリントアウトされてきたその紙テープに印刷されてあった内容を見て、みな一様に言葉を失った。
「う、う…う、ううぅ…」
「くそっ!何で…何でアイツらがこうならなきゃ…ならないんだ!」
五人が言葉を失った後、彼らはそれぞれが異なった様子を見せている。
女性である007は両手で口元を抑え、嗚咽をもらすように泣いている。他の四人はペギーと明日香、彼ら二人の悲劇を嘆き、怒りに打ち震えていた。
五人を怒りや悲しみの淵に追い落とした紙テープ。その紙テープにはこのようなメッセージが印刷されてあった。
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モモレンジャー ミドレンジャーハワレラガショケイシタ
イーグル ナラビニホカノゴレンジャーノモノドモヘツグ ツギハオマエラノバンダ カクゴシテオケ
クロジュウジセンタイリーダー サイミンカメン
ついしん
ペギーマツヤマハ キッチリヤラセテモラッタ
ソレニシテモアノムッチムチノネエチャン ジツニオカシガイガアッタゼェ キーッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ
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