- 緑の洗脳!!恐怖の黒十字戦隊 惨劇の始まり -
「ハイッ!ハイッ!…といやぁ!!」
バシィ!バシィ!…バシィィィン!!
その部屋中に響き渡る激しい息遣い。気力の充実した女の気合のこもったかけ声。何かをマットに打ち付けるような強烈な打撃音。
ここゴレンジャールームの隣にあるトレーニングルーム。そこでは長い黒髪の若い女性がその長い髪を振り乱して、目の前のサンドバッグに向かって一心不乱にハイキックを打ち込んでいた。
「はぁ…それにしてもおまえは熱心だよなぁ…」
その部屋の壁際にある長椅子に座り、両手で頬杖をついてため息をついている青年の姿があった。まだ少年の面影を残す、ゴレンジャーの最年少メンバー、ミドレンジャーこと明日香健二である。
彼は目の前でサンドバッグに向かって一心不乱に蹴りを打ち込んでいた“彼女”の熱心さを感心するような、半ばあきれるような目で眺めていた。
「…そもそもペギー、おまえのメインの戦い方はおまえの必殺武器、“モモ爆弾”を使う事じゃないか?だったらおまえに肉弾戦の出番はあまりないんじゃないのか?それなのにそんな特訓を幾らしても…」
どうやら明日香の視線の先にいる女性、ゴレンジャーの紅一点、モモレンジャーことペギー松山の普段の戦い方と今、彼女がやっている特訓はかなり乖離しているらしい。先程からペギーが熱心に訓練する様子を見ていた彼はそんな疑問をずっと抱いていたようだ。
「はぁ、はぁ…ふぅ…」
そんな明日香の疑問を耳にしたペギーは特訓の手を止める。そして激しく呼吸を乱した彼女は明日香の法を振り向き、そのハーフ特有の日本人離れした美貌をニコリとさせてその疑問にこう答えた。
「…でも明日香。いつも敵がわたしにモモ爆弾を使えるような状態にしていてくれるとは限らないんじゃなくて?…それに最近は黒十字軍の攻撃も激しさを増してるわ。例え得意な武器を封じられてしまったとしてもわたしもいつまでもみんなに頼っているわけにはいかないんじゃないかしら?」
そう静かに、しかし力強い意思のこもった言葉を明日香に呟くペギー。
クルリ。
そして彼女はこれまで蹴りを打ち込んでいたサンドバッグに再び向かい始めた。
「さぁ!まだまだこれからよ!上段蹴りの打ち込み、あと残り左右100回ずつだわ!……といやぁ!」
バシィッ!
そう言うペギーは再び気合を入れなおして、目の前のサンドバッグにハイキックを叩き込み始めた。白いロングブーツを履いたペギーの脚が黒いサンドバッグに次々と打ち込まれていく。
「はぁ…ま、確かにペギーの言う通りなんだけどな」
(でもオレにはあそこまで自分を追い込んで自分を高めることはできないよ…もっともペギーはああいう向上心を常に持ってるから、女の身でありながらオレたち男と同じようにあの黒十字軍との苦しい戦いをこれまで戦ってこられたんだろうけどな…)
目の前のサンドバッグに向かって再び一心不乱にハイキックを打ち込み始めたペギー。そんな女戦士に明日香は感心するようなまなざしを向けていた。
(…それにペギーのヤツ、いつもトレーニングを欠かしてないせいか、ホント、いい体つきしてるよな…)
そう思いながら明日香はペギーの身体を改めて眺めてみる。
身長は約160cm、ほぼ平均的な女性の体格であるペギーの身体は普段のトレーニングのたまものか、よく鍛え上げられ非常にムダが少ない。
それでいてペギーの身体は男性のそれのような、ゴツゴツした筋肉質というわけではなく、女性らしい丸み、柔らかさを感じることができる。よく鍛えられた中にも女性らしい、どこかホッとするようなあたたかさ、肉付のよさを感じることができるのは“女”としてのペギーの大きな魅力の一つだ。
(…特にペギーはお尻から太腿のあたりが凄いよな…)
やがて明日香の視線は無地の白いTシャツに覆われたペギーの細身の背中から下半身へと移っていく。
小さな黄色のホットパンツからはち切れんばかり、ボリューム感たっぷりの大きな桃尻。そこからスラリと伸びていた肉付のいい太腿。
そのよく鍛えられた中に若さと健康的な色気を漂わせていた魅力的な肉体美にまだ未成年の明日香は、だんだんと思わず見入ってしまう。
(!…いかんいかん!何考えてんだ、オレは?)
一瞬とは言え、ペギーを見て思わずそんな不順な思いを抱いてしまった自分を恥じている明日香。彼はそんな思いを振り払うように自分の頭をブンブンと振っている。
(…確かにペギーは魅力的な女の子だけど……だけど…だけどペギーはあくまで戦友なんだぜ?それなのにオレは…)
普段あまりペギーの姿をよく見る事など今までなかった明日香。しかしこれまで“仲間”としてしか見ていなかった女戦士の“女”としての魅力に彼は気がつき始めている。
彼自身、その事は極力触れないようにしたいみたいなのだが…これが後々、彼ら二人に降りかかる惨劇に利用されようなどこの時の明日香は知る由もない。
『モモ、それにミド。二人ともそこにいるな?…これから二人に大事な話がある。すぐゴレンジャールームまで来てくれないか?』
それから間もなく部屋に備え付けてあった連絡用のスピーカーから男の低い声が流れてくる。声の主はゴレンジャーの総指揮を執る総司令、江戸川権八からだった。
「はぁ、はぁ…ハイ、総司令。分かりました。すぐそちらに向かいますわ」
『うむ。ではすぐこちらに来てくれ。待ってるぞ』
プツッ。
そう言い残し、ペギーからの声に応えるようにスピーカーから音は途絶えた。
「…総司令がわたしたちに急に話だなんて一体何かしら?……ねぇ?明日香、どう思う?」
「…」
総司令の声に再びトレーニングの手を止めたペギーが後ろにいた明日香の方を振り返る。だが彼は呆けた表情をして、彼女の方をぼーっと見つめているだけだった。
「!…明日香!?ねぇ、明日香ってば!?一体どうしたの??」
「!?…あ、ああ、ペギー。済まない。別に何でもないんだ。何でも…」
ようやくペギーの呼びかけに気付いた明日香。彼はあわてて顔を上げてペギーに答える。何かやましい事を考えていたのか、彼はその頬をほんのりと紅く染めていた。
「ふーん…変な明日香。…ま、いいわ。さぁ、早くゴレンジャールームに行きましょ?総司令が待ってるわ」
「ああ、そうだな。…ほらっ、ペギー。おまえのジャケットとタオルだ」
明日香は座っていた長椅子の上に置いてあった、ペギーの袖の無い、レザーのジャケットと汗を拭くための白いタオルを彼女に向かって放り投げた。
「…っと。ありがと、明日香。…さぁ早く行きましょ?」
明日香から放り投げられたジャケットをペギーは受け取ってすかさずはおる。そして彼女は同じように受け取っていたタオルで汗を拭いながら明日香と共にゴレンジャールームへと向かっていった…。
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「ふわあぁぁぁ…」
「こら、明日香!大事な任務中なのよ。それなのにあくびなんかしてダメじゃない!」
岩肌の山間を切り開いて作られた細い道路。その舗装された細い道をサイドカーのついていたオートバイが走っていた。ゴレンジャーが敵を追跡するために作られたゴレンジャーマシン、グリーンスターである。
そのサイドカーつきオートバイに乗っているのはミドレンジャーこと明日香健二とモモレンジャーことペギー松山である。オートバイ本体を明日香が運転し、そのサイドカーにペギーが乗り込んでいた。
「総司令がイーグル第4研究所に持って行くように命令された物は、これからのゴレンジャーにとってとても大事な物なのよ。だから明日香、もっと真面目におやりなさいよ!」
「へぃへぃ…分かりましたよ、ペギーさん」
「もうっ、明日香!その態度は何ですか!」
ペギーを適当にあしらおうとする明日香に怒り出す彼女。その様子はまるで彼の保護者のようである。
「まぁまぁペギー。オレだって“コイツ”の重要さは分かってるつもりだぜ。なんせコイツは…」
そう言いながら明日香は少し前、ゴレンジャールームでの江戸川総司令とのやり取りを思い出していた。
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「これを…わたしたちが第4研究所に持って行くんですか?」
手にしていたチップのような物を見ながらペギーは目の前の人物に問いかける。
「そうだ。これをおまえたち二人でイーグル第4研究所まで厳重に持って言ってもらいたい」
「しかし総司令!こんな小さなチップであればわざわざオレたちが持って行かなくてもいいんじゃないですか?」
江戸川総司令の命令に明日香が疑問を挟む。この程度の物を持って行くのであればわざわざ自分たちゴレンジャーの出る幕ではないのでは?というのが彼の主張らしい。その疑問に江戸川総司令はこう答えた。
「…だがな、ミド。このチップには今おまえたちが身に着けているニューゴレンジャースーツを強化するための大切な情報が入っているのだ」
「本当ですか?総司令!…しかしゴレンジャースーツはこの間、新しい物に切り替えたばかりじゃ…」
明日香の言う通り、五人のゴレンジャースーツは少し前、従来の物より強化したニューゴレンジャースーツに切り替えたばかりだった。
そのためにペギーや明日香たちゴレンジャーは15万ボルトにも及ぶ高圧電流からの衝撃に耐えるため、そのための先例を受けたばかりなのである。
それがあれからそれほど日も経っていないのに何故今…明日香がそのような疑問を抱くのはある意味当然だった。
「…済まない。あの時は急いで黒十字軍に対抗するためにゴレンジャーにも新たな力が必要だった。本当はこちらの真に強化されたニューゴレンジャースーツをおまえたちに装備させたかったのだが…スーツの歓声がほんの少しだけ、どうしても間に合わなかったのだ」
「それじゃ総司令。それが今ようやく完成したという事ですか?」
珍しく頭を下げている江戸川総司令。そんな彼にペギーは更に問いかける。
「そうだ。こちらのニューゴレンジャースーツは今使っているものよりも格段に性能が上がっている。おまえたちの黒十字軍との戦いにも大きな力となってくれるはずだ」
「すげぇ!それじゃオレたちゴレンジャーはもっともっとパワーアップするって事ですか?」
ゴレンジャーが再び強化されるという事が分かり、明日香はそれまでの何か不信がっていた態度から一遍し、狂喜している。
「…それでだ。このチップにはおまえたち五人の身体的なデータが入っている。これをその真のニューゴレンジャースーツに合わせることで初めておまえたちはその新しいゴレンジャースーツを装備する事ができるのだ」
「それでその大事なデータをオレたちが第4研究所へ大切に届けろって事ですよね?分かりました!…おい、ペギー!早く行こうぜ!」
「んもう!明日香ったら。さっきまであまり乗り気そうじゃなかったのに……でも分かりました。そういう事ならわたしたちが責任を持って必ず第4研究所にお届けしますわ」
子供のようにはしゃぐ明日香を少しあきれたようにたしなめるペギー。そして彼女は改めてそのチップを受け取る。
「それじゃ総司令、行ってきますわ」
「このチップはオレたちが必ず第4研究所に届けてきますよ。それじゃ…」
そう言い残してペギーと明日香の二人は意気揚々とゴレンジャールームを後にした。
とまぁここまでが明日香たちが覚えているゴレンジャールームでのやり取りである。しかし実はこの後、ゴレンジャールームで衝撃の出来事があったのだ。
「フフフッ…バカなヤツらだ」
先程まで二人の部下の前では威厳にあふれる態度を見せていた江戸川総司令。だが彼は急に人が変わったように“悪人面”になっていく。
ピッ。
そして彼はおもむろに据え置きの通信機の前に座り、何者かと連絡を取り始めた。更にその驚くべき相手とは…。
「…催眠仮面様、聞こえますか?手はず通り、ペギー松山と明日香健二を指定された場所に向かわせました。フフフフッ」
『うむ。ご苦労だった。…後はこれで分断したゴレンジャーどもを各個撃破していけばいい。五人揃わないゴレンジャーなど物の数ではないからな、グフフフフフッ』
江戸川総司令が通信を交わしていた相手。何とそれは黒十字軍の仮面怪人、催眠仮面と名乗る者だった。
だがゴレンジャーの総指揮を執る江戸川総司令が何故黒十字軍の仮面怪人と…謎は深まるばかりである。
「しかし催眠仮面様。何故あの二人を真っ先にターゲットに指名されたのです?何かお考えでもおありなのでしょうか?」
相変わらず“悪人面”で通信先の仮面怪人と話す江戸川総司令。しかしその彼から発せられているまがまがしいオーラはとてもこれまで正義のために戦ってきた男とは思えないものだ。
『グフフフッ…まぁアイツらは所詮、女と青臭いガキだからな。相手が集団の場合、その集団の戦力的に弱そうな所から攻めて行くのは常套手段だろう?特にペギー松山はヤツらの必殺技、ゴレンジャーハリケーンの要になっているしな。まさに一石二鳥と言うわけだ、グフフフフフッ』
「なるほど…確かにそうですね。フフフフッ……分かりました。ではそろそろこちらから通信は終わります。ゴレンジャー基地の他の連中にこの事を見られたら色々面倒ですから…」
通信先の仮面怪人と一通りの連絡をやり終えた江戸川総司令がその通信を切ろうとしていたその時…。
『グフフフッ…その必要はない。おまえはもう用済みだからな……このままそこで自分の部下が嬲られる夢を見ながらゆっくり眠っているといい…グフフフッ、グフフフフフッ』
「!?…そ、それはどういう意味で??…!?うわぁぁぁ!?」
プシュゥゥゥゥゥゥ。
通信先の仮面怪人がそう言い放つと、突然通信機から白い煙が噴き出してきた。
「う…う、ううぅ…」
ドサッ。
その白い煙をまともに吸い込んでしまった江戸川総司令は瞬く間に意識を失い、その場に力無く倒れてしまった。彼が吸い込んだ白い煙はどうやらたっぷりと睡眠薬が練りこまれたガスの類らしい。
『グフフフッ…わたしに操られていたとは言え、こいつも存外バカなヤツだな…グフフフフフッ』
プツッ。
そう吐き捨てて催眠仮面と名乗る、白い衣を被り、妖しい模様の入ったまがまがしい仮面を身に着けたその仮面怪人は通信を切った。そしてこれまでの江戸川総司令の悪意に満ちた、まがまがしいそのオーラはどうやらこの催眠仮面が彼を操っていたからのようである。
「クククッ…どうやら上手くいったみたいだな?クククッ、クククククククッ」
「きひひっ…これで後はオレたちのやりたい放題ってわけだ…キーッヒッヒッヒッヒッ」
「ガルルッ、ガルルルルルッ…」
「フッ…しかしこれほど簡単にヤツらが誘い出されるとはな…」
その時、それまで通信を行っていた催眠仮面の後ろの方に四つのシルエットが…どうやらそれぞれが黒十字軍の仮面怪人のようである。
「何だ?おまえらか……グフフフッ、どうやらゴレンジャーの女の隊員とケツの青いガキがエサに誘い出されてきたらしい。
「キヒヒヒッ…それじゃ早速殺りに行こうぜ?もっとも女の方は殺ルんじゃなくて犯ルんだけどな、キーッヒッヒッヒッヒッ」
「クククッ…それにしてもおまえも相変わらずだな?ククククククッ」
先程から鼻につく笑い声を上げていた影が狂気じみた事を言っている。そんなヤツの様子を不気味な笑みを浮かべていた別のもう一つの影があきれるように呟いた。
「まぁそいつはそういうヤツだ、別にいいじゃないか?……ではオレたちもそろそろいくぞ?そして盛大な狩の始まりだ…グフフフフフッ」
そう催眠仮面が号令を掛けると一人の仮面怪人と四つのシルエットは動き出した。まんまと誘い出した二人のゴレンジャーを狩に…。
***************
「…これはオレたちゴレンジャーが更にパワーアップするため、重要な情報が詰まっている大切なチップだからな。これが敵の手に渡ったらマズい事ぐらいはオレにも分かってるさ」
「ええ…その通りよ。このチップは何としても敵の手に渡すわけにはいかないわ!」
そう静かに、だが力強く呟く明日香は、手にしていたチップを隣のサイドカーに乗っていたペギーに手渡そうと彼女の方へその手を伸ばす。だがそれからまもなく…。
ガタンッ、ガタンッ!
「うわぁっ!何だ!?」「きゃあ!?」
その時、二人の乗ったグリーンスターは何かに乗り上げたように大きく揺れ動いてバランスを崩してしまう。乗っていた二人の男女はグリーンスターから投げ出されないようにそのマシンに必死にしがみついている。
「くそぅ!…一体何だって言うんだ?」
「くっ!?…ほら、明日香!ちゃんと前見て運転してないから…」
「だけどペギー。今のは急に…!?…ペギー!おまえ右手に持っていたチップはどうしたんだ?」
「え??…!?…ウ、ウソ!?な、ない、ないわ!一体どこに……!?…ぁ!?う、上に!?」
「え!?う、上だと…!?」
ペギーの叫ぶ声に明日香が自分の左肩の上の方を見上げてみると…さっきまでペギーが手にしていたはずのチップがいつの間にかヒラヒラと舞っている。
「明日香!すぐにマシンを止めて!…やっ!」
パシィ。
ペギーはそのヒラヒラと舞っているチップを身体を懸命に伸び上がって掴み取った。
「ふぅ…危なかった…ああっ!?」
「う、うわぁ!?」
ガタンッ。
しかし彼女はサイドカー上という、バランスの悪い足場の上に無理な体勢で伸び上がってしまったため、そのまま明日香の左腕にバランスを崩すようにもたれかかってしまった。
「きゃっ!?」
ポフッ。
そのペギーは左から抱きつくように明日香にもたれかかっていく。その際に彼女の柔らかい胸元が明日香の左腕に触れてしまう。
「お、おい…大丈夫か?ペギー」
いきなり抱きつかれ、少しとまどいながらも明日香は右手でペギーの身体を起こしてやる。
(…香水のいい香りだ。それにペギーの身体、意外と柔らかいんだな……やっぱり何だかんだ言ってもペギーも女の子なんだよな…)
起こしているペギーの身体から香水のブランド、コロンの甘い香りがほのかに漂ってくる。
そして抱き起こすためにペギーの身体を掴んでいる明日香の右手からは彼女が“女”である事を証明するかのような意外な柔らかさが…それらのファクターはペギーが年頃の女の子である事を、改めて明日香に木塚刺せるものでもあった。
(…それにしてもペギーのヤツ、意外と胸大きいんだな…。もしかしてコイツ、結構着やせするタイプなのか?)
更に明日香は偶然、彼の左腕に当たってしまったふくよかな胸元の意外なほどのボリュームに思わずそんな感想を抱いてしまう。
(!…バ、バカ!今は任務中だぞ!だいたい仲間のペギー相手に何考えてんだ?オレは…)
またまたそんな不届きな思いを抱いてしまった自分を恥じるようにかぶりをブンブンと振っている明日香。
「っと…ゴメンなさいね、明日香。いきなり抱きつくようなマネしちゃって……明日香!?どうしたの?顔、真っ赤よ。熱でもあるんじゃないの?」
「!…バ、バババ、バカ!そんなものあるわけないだろ?何言ってんだよ、ペギー!」
真っ赤になってしまった顔を冷まそうとかぶりを必死にブンブンと振っている明日香。そんな彼を心配するように、ペギーが上目遣いで明日香に声を掛けてくる。だが彼女のその何気ないしぐさは初な青少年の心拍数を早くさせるには十分過ぎるものだった。
(おいおい何だよ?…ペギーのヤツ、こんなにかわいかったか?)
その彼女の何気ないかわいらしさに明日香は更にドギマギしてしまい、そのペギーについキツく当たってしまう。
「何よ!せっかく心配してあげてるのに…そんなにキツく言う事ないじゃない?…それに今日の明日香、本当に何か変よ?どこか体におかしい所とかあるんじゃなくて?」
「!?…そ、そそそ、そんな事あるわけないだろ?ほらっ、この通りピンピンしてるぜ?ハハハハッ…」
「ふーん、そうかしら?…ま、いいわ」
(ふぅ…オレ、本当に今日はどうしちまったんだ?このままじゃオレ、どうかしちまいそうだぜ…)
そんな数々の不自然な明日香の態度にさすがに不信そうな様子のペギー。疑われた明日香も体の伸びの運動をしたり、何とかして疑惑を晴らそうと試みている。
ペギーもその明日香の必死の行動に一応は納得したみたいなのだが…初な未成年の心の動揺は簡単に収まりそうにない。
「そ、それにしても…オレたちのマシンは一体何を踏みつけたんだ?」
自分たちの乗るグリーンスターが大きくバランスを崩した原因を気にしたように呟く明日香。彼も心の動揺を悟られないよう、何とか話題をそらそうと必死だ。
「そうよね。一体何でいきなりあんなに揺れたのかしら?……!?…あ、明日香!後ろ!…あ、あれ見てっ」
後ろを振り返っているペギーが叫びながら指指している先には…何とグリーンスターの通った後に大人の腕五本分ぐらいの太さの丸太が転がっているのだ。
「!…何だあの丸太!?何であんなもんがこんなところに…?」
「グフフフッ…それはわたしがそこに置いていた物だ。それをおまえがその女とのデートに夢中で気付かなかっただけだろう、小僧?グフフフフフッ」
「何だと!誰だ!?」
丸太の方を振り返っている明日香の後ろから聞こえてくる彼を侮辱する低い声。激昂する明日香がその声のする方を振り返ってみると…そこには黒十字軍の仮面怪人とおぼしき男が立っているのだ。
「グフフフッ…せっかくのペギー松山とのデートをお邪魔して悪かったな?なぁ、明日香健二、グフフフッ、グフフフフフッ」
「な、何だと!…貴様!黒十字軍か!?」
普段からペギーとペアを組んで行動する事が多かった明日香には、そのような子供染みた挑発は本来なら何でもないはずなのだが…ペギーに対して普段と異なる思いを抱いてしまっていた今日の彼はそんな挑発にも同様の色が隠せない。
「グフフフッ…いかにも。わたしは黒十字軍の催眠仮面という。本日はおまえたちを抹殺するためにうかがったのだが…もしかして楽しいデート中でわたしの相手どころではなかったかな?グッフッフッフッフッ」
「な、何だと!?おい、貴様!今から相手してやるからそこで待ってろ!」
「ダメよ!明日香。…わたしたちは大事な任務中なのよ。今はこんなヤツに構っている暇はないんじゃなくて?明日香お願い、もっと冷静になって…」
「グフフフッ…何だおまえ?もしかして、もうその女の尻に敷かれてるのか?若いのに情けないヤツだな?グフフフッ」
「何だと!キサマァァァ!!」
「明日香!お願いだから落ち着いて!」
心の動揺が激しい明日香を巧みに挑発していく催眠仮面。精神的に不安定な今の明日香は、その挑発にまんまと乗ってしまう。その横にいたペギーはそんな激昂する明日香をなだめるのに必死だ。
{明日香、落ち着いて。わたしたち、いつも一緒に行動してるじゃない?今更あんな挑発に乗るなんて…本当にあなた、今日は何かおかしいわよ}
{…ああ、済まなかった。今は“あれ”を無事第4研究所まで届ける事が先決だったよな}
{そうよ、明日香。…それに明日香。ここはわたしに任せて}
二人で身を寄せ合い、何かヒソヒソと打ち合わせしている明日香とペギー。
しかしあくまで話の主導権を握っているのは、いつも明日香の保護者役のようにふるまっているペギーの方だ。そういう意味では催眠仮面の言っている事はあながちデタラメというわけではないのかもしれない。
そして明日香をしっかりとなだめたペギーは顔を上げて催眠仮面の方を向く。更に彼女は余裕を見せ付けるようにニッコリと笑みさえ浮かべて催眠仮面と話し始めた。
「何だ?若い男女が身を寄せ合って…てっきり愛の語らいでもしていたのかな?だがそんな事するぐらいなら、さっさと二人でホテルにでも行ったらどうなんだ?グフフフッ、ハーッハッハッハッハッ」
「ねぇ、黒十字軍の仮面怪人さん♪…わたしたち今、大事な任務中なの。せっかくだけど今あなたに構ってあげられる暇はないのよ。だからまた今度相手になってあげるわ。ゴメンあそばせ、ウフフフッ♪」
安っぽい挑発にまんまと乗ってしまった明日香とは違い、右手を口元に当てて“オトナの女”の余裕を見せつけようとしているペギー。だが彼女のその目論みは、そんなペギーへの催眠仮面の見せた反応によって見事にアテを外されてしまう。
「グフフフッ…その“大事な任務”とは今、おまえが大事そうに持っているチップを第4研究所とやらに届ける事かな?なぁ、ペギー松山、グフフフフフッ」
「な!?な、何であんたがそれを…」
目の前の仮面怪人には自分たちの行動が筒抜けになっている。その事に驚愕するペギーの美貌からはさすがに余裕の笑みが消えていく。
「グフフフッ…だが残念だったな。おまえが大事そうに持っているそのチップはニセモノだ。それは我ら黒十字軍がおまえらゴレンジャーに送りつけてやった小型のプラスチック爆弾だからな…グッフッフッフッフッフッ」
「な、な!?そ、そんなの…そんなのデタラメよ!だいたい何を根拠にそんな事が言えるのよ!」
催眠仮面のその衝撃の発言にはさすがにペギーも同様の色が隠せない。だが催眠仮面は彼女を更に追い詰めるように次々と言葉を浴びせてくる。
「グフフフッ…ウソだと思うのならそのチップを調べてみたらどうだ?今、そのチップ、もといプラスチック爆弾にスイッチを入れてやった。ペギー松山、おまえは爆弾のエキスパートなんだろ?だったら自分で確かめてみたらどうなんだ?…グフフフフフッ」
「ペギー…」
自信満々にペギーへそう言い放つ催眠仮面。隣にいた明日香は先程から顔をひきつらせ、余裕をなくしてしまっている女戦士を心配そうに見つめている。
「……いいわ。そんなに言うなら確かめてあげる。どうせデタラメに決まってるんだから」
「ペギー…」
「心配しないで、明日香。どうせアイツのハッタリに決まってるわ。さっさと本物だと確認して第4研究所に行きましょ」
心配そうに見てくる明日香にペギーは彼を安心させるようにニッコリと微笑みかける。そして彼女はやや緊張した面持ちでそのチップを調べ始めた。
(……フンッ、何よ。やっぱり爆発反応なんてどこにもないじゃない?所詮あんなヤツの言う事なんて……ぇ??)
チッチッチッチッチッ…。
手にしていたチップを調べ上げ、一度は爆弾ではないと結論付けようとしていたペギー。だが彼女の耳に微かに聞こえる機械音にペギーの美貌はだんだんと青ざめていく。
「ウソ!?ぐ、ぐっ!?」
ポイッ。
ペギーは手にしていたチップをあわてて遠くへ放り投げ、身を屈めるようなしぐさをする。
「おい、ペギー!?一体何をするんだ!あれはオレたちを強化するための…」
「明日香早く伏せて!あれは爆弾よ!」
「な、何だと!?そんなバ…」
カッ!ドォォォォン!!
「うわあぁぁぁ!」
あわててチップを投げ捨て、その場に伏せているペギーを問いただそうとする明日香。だが彼が最後まで何か言い終わらない内にそのチップは強烈な閃光、轟音と共に爆発してしまった。
「グフフフッ…だから言っただろう?おまえたちは大事に持っていた爆弾でイーグルの研究所を吹っ飛ばそうとしていたってわけだ。わたしはそれを教えてやったんだ。むしろわたしにはもっと感謝してもらいたいね…グフフフッ、ハハハハッ、ハーッハッハッハッハッ」
辺りに響き渡る爆発音と広がっていく爆煙の中で催眠仮面の勝ち誇ったような高笑いが響き渡る。
「く、くっ!?…ま、まさか本当に…本当に爆弾だったなんて……!?明日香!大丈夫!?」
徐々に広がる爆煙の中、ペギーは爆弾への対応がわずかに遅れていたと思われる明日香を気遣うように叫んでいる。
「っ……あ、ああ…おまえがあの爆弾をとっさに遠くに放り投げてくれたおかげで何とか大丈夫だ。ちょっと耳が大きな音でやられちまったみたいだけどな…まぁ何てことないさ」
「そう、よかった…」
「しかしペギー、オレたちはどうやら黒十字軍の罠にまんまとハマってしまったようだぜ?これからどうする?」
「そうね…こうなったら作戦を変更しましょう、明日香。幸い相手は一人、わたしたちは二人いるわ。アイツを倒してゴレンジャールームに帰り一度、体勢を立て直しましょう。それに何で総司令があんなニセモノを渡してきたのかも気になるわ」
「そうだな。だが今はそれを気にしてもしょうがないぜ。とにかくアイツを倒すことが先決だ」
「ええ、そうね。…よし、じゃあそれで行きましょう。それじゃ明日香、早速始めるわよ!」
「OK。それじゃいくぜ!」
「…ゴー!!」「ゴー!!」
広がる爆煙の中、これからの行動を打ち合わせしていた明日香とペギー。そして取る行動が決まった二人は爆煙から飛び出すように跳び上がり、それぞれモモレンジャーとミドレンジャーへと転換する。
スタッ。
爆煙の中から飛び出した二人は華麗に着地し、身構えて催眠仮面と対峙する。
「ほぉ…さっきまで戦わないと言っていたのに…二人してゴレンジャーになるとは一体どういう了見なのかな?グフフフフフッ」
「フンッ!作戦が変わったのよ!…それに催眠仮面!よくもわたしたちを騙してくれたわね!…その借りは倍にして返してあげるわ!覚悟なさい!」
モモレンジャーへと転換したペギーが目の前の催眠仮面に向かって大見得を切る。
「グフフフッ…随分勇ましいな、お嬢さん。どうせ二対一なら弱いわたしたちでも何とか勝てるわ、と踏んだんで戦いを挑んできた、ってところじゃないのか?どうなんだ?グフフフッ、グフフフフフッ」
「な!?そ、そんな事あるわけないでしょ!それにわたしたちが弱いだなんて…わたしたちをあんまりナメないでよね!」
ほぼそのままの図星を衝かれてしまい、みるみる激昂していくモモ。先程まで幼さの残るパートナーを必死になだめていた彼女自身が今度は挑発にまんまと乗ってしまう。
明日香の前では保護者のようにふるまっているとは言え、実年齢は彼女も18歳、その明日香とほとんど変わらないのである。精神的に未熟という点では実は彼女もあまり変わらないのだ。
「だが残念ながらわたし一人でここにいるのではないのだよ?グフフフッ」
「何だと!?そんなバカな…」
「グフフフッ…目論見が早速外れてしまったかな?ミドレンジャー。だがウソではないぞ?今からわたしの仲間を紹介してやろう…グフフフッ、グフフフフフッ……おい、おまえら!」
自信ありげに笑う催眠仮面が後ろを振り返り、合図のようなものを送る。そこには二つのシルエットが…不気味に笑う催眠仮面の後ろから現れた二つの影。二人のゴレンジャーに降りかかる最大の苦難はこれからが本番である…。
- 以下 緑の洗脳!!恐怖の黒十字戦隊 黒十字戦隊登場!へ続く -