- 緑の洗脳!!恐怖の黒十字戦隊 黒十字戦隊登場! -

二人のゴレンジャーと対峙する不気味に笑う催眠仮面の後ろから現れた二つの影。黒十字軍の仮面怪人とおぼしきその二つの影は次第にその姿を明らかにし、同時に口を開き始めた。
「ククククッ…お初にお目にかかる、ゴレンジャーの諸君。…といってもそちらは今は五人じゃなくてたった二人みたいだけどな、ククククククッ」
黒い球状の頭、てっぺんに細い縄のような物が一本だけ生えている仮面怪人が口を開く。
「あ、あんたも…あんたも仮面怪人なの!?」
姿を現した目の前でしゃべり始める仮面怪人に反応するモモ。
「ククククッ…いかにも。オレは黒十字軍の爆弾仮面という。まぁせいぜい覚えておくんだな……そうか。おまえらは今日、ここで死ぬんだから覚えてもしょうがないのか?ククククククッ」
「ぐ、ぐっ!?な、何よっ!あんたなんかにわたしたちゴレンジャーがそう簡単にやられるわけないでしょ?……それにあんた!何よ!そのフザけた頭!?」
「これか?ククククッ……これはまぁ、見ての通り爆弾だな。そしてこのオレの得意武器はこの頭を見て分かるように爆弾だ。…そうだな。後でオレとおまえ、どっちがより優れた爆弾の使い手か、勝負してみるか?なぁモモレンジャー?おまえもゴレンジャー随一と言われる爆弾の使い手なんだろ?…ククククッ、ククククククッ」
「フン!あんたみたいなフザけた頭のヤツにこのわたしが爆弾で負けるわけなんかないでしょ!?わたしと張り合おうなんて10年、いや100念早くてよ!笑わせないで!」
「ほぉ、大した自信だな?モモレンジャーが女だてらに男勝りに気が強いという我らの情報はどうやら本当らしい。…まぁどっちがより優れた爆弾の使い手か、いずれその辺はハッキリさせてやるよ、ククククッ」
モモと爆弾仮面。同じ武器、爆弾の使い手である女戦士と仮面怪人がお互いを誇示するように張り合っている。どちらも相当の自信があるのか、二人ともまったく引くつもりはないようだ。
「ガルルッ、ガルルルルルッ…」
「おお、そうか。おまえの事を忘れちゃいけなかったな、ククククッ……この全身岩石みたいなヤツは同じ黒十字軍の仮面怪人、岩石仮面と言ってな。オレ共々ぜひ覚えておいてもらいたいね?ククククククッ」
身長が3メートル近くの巨体、爆弾仮面の言う通り全身が岩石で覆われた、まるでゴーレムのような岩石仮面が唸り声のような雄たけびを上げている。
「ガルッ、ガルルッ、ガルルルルルッ!」
「何だ、コイツ!?さっきからガルガル言ってばかりじゃねぇか?」
「そう言えば言い忘れてたけどな。コイツはおまえたちのような人間の言葉はしゃべれないんだよ、済まないな、ミドレンジャー。…だがその代わりといっちゃなんだがコイツのパワーは凄まじいぞ?コイツのバカ力に掛かっちゃおまえらなんかひとたまりもないだろうな?ククククククッ」
「ガルルッ!ガルルルッ!ガルルルルルルルッ…」
爆弾仮面による自己紹介に合わせるように、相変わらず唸り声を上げている岩石仮面。ヤツは両腕を高らかに上げながら己を誇示するように雄たけびを上げている。
「何だと!?面白ぇ!じゃあ見せてもらおうじゃねえか?そのパワーとやらをよ!」
(だけど相手はあっという間に三人に増えちまったぜ。さすがに作戦を考え直さないとマズイかもな……どうするよ?モモ)
あっという間に増えてしまった敵の数にさすがにややうろたえているミド。その彼は隣にいたパートナーの女戦死がどのように考えているのか、彼女の様子を横目でチラリと伺おうとしていると…。
「きゃあ!?…ぁ、あっ!?」
「!…モ、モモ!?」
ミドが横目で様子を伺おうとしていた桃色の女戦士が突然当惑するような悲鳴を上げている。そしてその彼女を当惑させているものとは…。
「ぁ、あっ!?な、何っ!?き、急に誰かが…あ、あっ!?わ、わたしの胸を…ぁ、あんっ…」
「キヒヒヒッ…ねえちゃん、随分揉みがいのあるいい乳してんじゃねえか?さしずめバスとはDカップってところかぁ?キーッヒッヒッヒッヒッ」
それはモモの背後をいつの間にかとっていたその二足歩行の灰色の物体が、後ろから彼女の両乳房を気持ちよさそうに揉みほぐしているからだった。
身長は約170cm、やや痩せ型の体系を灰色の全身タイツのようなものに覆われたその人間体?は鼻につく、下卑た笑いを浮かべながら彼女の両胸を弄んでいる。
だがその者の特徴を一番表している部分は、何といっても頭部に何本も小型のナイフのような物が突き刺さっているという点だ。その常軌を逸した、何とも危うさを漂わせている身体的特徴がその者の狂気と嗜虐心に満ちた性格を更に如実に示している。
「ぐっ!?コ、コイツ、いつの間に!?…このヘンタイ!どこ触ってんのよ!このぉ!」
だがモモもこのままその灰色の全身タイツ男?の自由にされるつもりなど毛頭ない。彼女の恥じらいと怒りの右肘鉄が背後にいる灰色の全身タイツ男?に炸裂した…はずだったのだが…。
ブシュッ!
「あうぅっ!?……ぐ、ぐっ!?ひ、肘が…な、何でわたしの方が…!?」
桃色の肘から勢いよく吹き出す赤い鮮血。
背後で自分の胸を弄ぶ灰色の変態男?に強烈な肘鉄を食らわせたはずのモモ。だが逆に肘鉄を食らわせたはずの彼女の右肘の方が痛んでいる。何故なら…。
「キヒヒヒッ…よぉ、ねえちゃん。オレの体は全身刃物みたいなもんなんだぜぇ。うかつに手出ししたら危ねえと思うけどなぁ、キーッヒッヒッヒッヒッ」
「ぐ、ぐっ!?…はっ!?」
(い、いつの間に…コ、コイツの体に刃物のような物が…??…な、何で!?さ、さっき見た時はこんなものはなかったはずなのに…い、一体どこから??)
不可解な自分の傷を不信に思ったモモが後ろを振り返ってみると…そこには先程までその灰色の体にはついてなかったはずの刃物のようなものが…。
「キーッヒッヒッヒッヒッ…随分不思議そうな顔してるねぇ。なぁ、ねえちゃんよぉ?…何でオレの体から急に刃物が出てきたんだ?って顔してるよなぁ。それじゃ、そのカラクリを教えてやろうかなぁ?キーッヒッヒッヒッヒッ」
(ぐ、ぐっ!?コ、コイツ…)
相変わらずニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている灰色の変態男?。そのヤツはモモのふくよかな乳房を変わらずに弄び続けながら、彼女が気になっていた“そのカラクリ”について誇らしげに説明し始めた。
「キヒヒヒッ…何を隠そう、オレの体は自分の意思でいつでも好きな時にどっからでも刃物が出せるんだよなぁ。つまりねえちゃんはそんなオレの体へまともに肘鉄なんか食らわせようとしてたってわけだぁ。そんなオレにそんな事したらそりゃあ普通はたまらねえよなぁ?キーッヒッヒッヒッヒッ」
(ぐ、ぐっ…コ、コイツの体にそんな秘密が…)
背後にいる灰色の変態男?の思いもよらない意外な秘密にさすがに同様の色が隠せないモモ。だがその灰色の変態男?は彼女への攻撃、いや淫らな手をまだまだゆるめようとはしない。
「それに…ということはだ。オレはねえちゃんにこういう事もできるってわけだぁ……しゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃあああぁ!?」
ビリビリビリ、バリバリバリバリ!
その甲高い奇声と共に灰色の変態男?は、それまで気分よさそうにモモの両乳房を弄んでいた両手を一気に外側に引き裂いた。
たまらず上がる女戦士の悲鳴。同時にヤツが胸を両側に引き裂くような行動をとった際、彼女のゴレンジャースーツはまるで巨大な猫の爪のような物でひっかかれたようにスーツが切り裂かれていく。
桃色のスーツに痛々しく残る鍵爪のような傷跡。更にその傷跡から彼女の柔肌とふくよかな乳房の一部が顔を覗かせている。
「キヒヒッ…ほうら、ねえちゃんのおっぱいとご対面だぜぇ。キーッヒッヒッヒッヒッ」
「モモ!?…キ、キサマァァァァァ!モモに何しやがるぅぅぅ!」
「キヒヒヒヒヒッ…オレァ、ガキは興味ねえんだけどなぁ?まぁそんなに遊んでほしいんなら遊んでやるかぁ、キーッヒッヒッヒッヒッ」
仲間の女戦死が好きなように弄ばれ、それを見たミドがカタキとばかりにその張本人である灰色の変態男?に向かい、逆上して襲い掛かっていく。
若い娘のモモとは違い、男のミドにはほとんど興味がなさそうなその変態男?。
しかし成り行き上、仕方なく彼の相手をしようとしていると思わぬ所から静止する声が飛んできた。先程から灰色の変態男?がモモを弄ぶ様子を静観するように眺めていた仮面怪人、催眠仮面である。
「…おい、ナイフ仮面!その女と遊ぶのはまだ後にしろ!コイツらにも一応、オレたちの自己紹介をしておきたいんだよ。オレたちがどんなヤツらか分からないまま殺すのはさすがに可哀想だろ?…それにおまえも犯る“その女”にしっかり自己紹介ぐらいしとけ、グフフフフフッ」
「キヒヒヒヒヒッ…なるほどねぇ。それも確かに一理あるよなぁ。…じゃあねえちゃん、今度はしっかり犯してやるからなぁ!…じゃあ、あばよっ!キーッヒッヒッヒッヒッ」
「く、くっ…ひゃっ!?」
ドンッ!
「あっ!?このっ、待ちやがれ!」
「ガキャァ!今回はリーダーに免じて見逃してやるぜぇ!…キーッヒッヒッヒッヒッ」
ヤツはモモから離れる際、“最後のおまけ”とばかりに彼女の大きなヒップを一触りし、ミドが襲い掛かってくる前にモモの身体を前に突き飛ばす。そしてヤツは奇声を上げて彼女の後方へと身軽に跳躍して行った。
「くそっ!なんてすばしっこいヤツだ!」
「…ぁ…ぁ…う、ううぅ…ひ、ひどい…ひどいわ…」
ドサッ。
いきなり胸を弄ばれ、その上スーツを引き裂かれ乳房の一部までも露出させられてしまったモモ。突然の淫らな行為に、彼女は桃色のスーツを引き裂かれて肌を晒すハメになってしまっていた胸元を左腕で覆い隠している。そして彼女はショックのあまり、膝からアスファルトの地面へと泣き崩れてしまった。
「…ひ、ひっく…ひっく…う、ううぅ…ぁ、あんまりよ…幾ら何でもあんまりじゃない…」
「おいおいおい!…たかだか胸やケツでちょっと遊んでやっただけじゃねえか?あんなもんでわんわん泣いちまうとはねぇ。ゴレンジャーの誇る小娘、モモレンジャーは大層気が強えって聞いてたけどてんで大した事ねえじゃねぇかぁ?…あ、でもねえちゃん、あんたケツの方もすげえモン持ってんな?キーッヒッヒッヒッヒッ」
「!?お、おい。大丈夫か?モモ」
(そうだ。幾ら気が強くてもモモは女の子なんだぜ。いきなり痴漢みたいな事されてその上スーツまで破かれて胸の一部を晒すハメになったら……あの刃物野郎!絶対に許さねぇ!)
散々淫らに弄ばれ泣き崩れるモモを気遣うように寄り添っているミド。そして彼は隣にいる彼女をこんなにまでしたナイフ仮面を強烈に睨みつけている。
「…何だガキャァその目はァ?てめぇ、その女の騎士(ナイト)気取りのつもりかぁ?…キヒヒヒッ、そうか。そのねえちゃんはてめぇのカノジョだったよなぁ?そりゃぁ悪かったなぁ。…だけどてめぇの女、すげえいいケツしてたぜぇ。そういやてめぇはそのプリプリのデカいケツ、触らせてもらった事あんのかなぁ?キーッヒッヒッヒッヒッ」
「ぐっ!?…こ、この…ナイフヤロォォォォ!」
{…ミド。お願いミド、聞こえて?ミド…}
ナイフ仮面の傍若無人の態度にかなり怒り心頭のミド。それもこれもヤツがあの気の強いモモを泣き崩れるまで精神的に痛めつけたからなのだが…しかしその泣き崩れているはずのカノジョが、囁くような小さい声ながらも意外にも明るい声でミドに呼びかけてきたのだ。
{モモ!?もう大丈夫なのか?}
{ええ、ミド。心配してくれてありがと。…でもわたしは最初から泣いてなんかないわよ}
{えっ!?そ、それはどういう…?}
意外にも明るいトーンで声を掛けてくるモモ。その彼女は最初から泣き崩れていたわけではなかったという。
{フフッ♪…あなたも騙されてたのね、ミド。これは“ウソ泣き”よ、ヤツらを欺くためのね}
{えっ??そ、それじゃおまえ、何でこんな時にウソ泣きなんか…}
{うフフッ、言ったでしょ?ヤツらを欺くためだって…それよりわたしが泣き崩れてるフリしてるように見せかけてゴレンジャールームに応援を頼んどくわ。幾ら何でも二対四じゃ分が悪すぎるものね。ミド、あなたはその間にヤツらの目を引き付けておいて…}
{あ、ああ…わ、分かった…}
(そうだよな。やっぱりモモはモモだ。少しぐらい痴漢まがいの事をされたぐらいで泣き崩れるようなタマじゃないか?オレも女だからってコイツを甘くみちゃいけないよな…)
目の前で泣き真似をしている女戦士を眺めながら、ミドは彼女の、いや“女”という人種のたくましさを改めて思い知っていた。女だからといって彼女を甘く見てはいけない、という自戒の念も込めて…。
だが明るく振舞っていたはずのその女の内心はミドの受けていた印象とは相当食い違っていた。その彼女の心の中とは…。
(…それにしてもあの刃物だらけのヘンタイ、絶対に…絶対に許さないわ!わたしの受けた屈辱、絶対に何倍にもして返してやる!…あのヘンタイ!今に見てなさい!…絶対に…絶対に許さないわ!)
フルフルと打ち震える屈辱の心。メラメラと燃え上がる復讐の炎。本当の彼女の心の中は先程のナイフ仮面にされた淫らな行為の屈辱に腹わたが煮えくり返っていたのである。

(さて…それじゃモモの言う通り、モモが動けるようになるまでどうにかして時間を稼いでやらないとな。でもどうするか…?)
一方のミド。彼はモモに頼まれた通り、彼女がゴレンジャールームへ応援の連絡を取るまで何とかして時間を稼ごうとしていた。
しかしモモがまともに動けない以上、敵の目を引くにしても彼女をこのまま放っておいて自分が動き回り、ヤツらの注意を引くわけにはいかない。そこで彼がとった行動とは…。
「…おい、刃物野郎!さっきリーダーがどうとか言ってたよな?一体どういう事なんだ?」
「キヒヒヒッ…リーダーはリーダーだよ。ガキにゃ関係ねぇぜ、キーッヒッヒッヒッヒッ」
「何だと!キサマァァァァ!」
(ぐっ…ま、まぁ今はこれでもいいぜ。ヤツらの注意がオレに向いてくれるんならな…) ヤツらの注意を引くためにナイフ仮面に話しかけ始めたミド。しかしそのナイフ仮面は相変わらず男のミドはまともに相手にしようとはしない。
全身刃物の仮面怪人におちょくられまたもや頭に血が上っていくミド。それでも彼はこれで時間が稼げるのであればそれでもいい…自らに言い聞かせるように彼はそう割り切っていた。
「グフフフッ…まぁナイフ仮面。あんまりそのガキをおちょくってやるなよ。せっかくだからその疑問に答えてやろうじゃないか?それにそのガキも隣にいる女が応援の連絡をつけるまでできるだけ時間を稼いでやろうと必死なんだろ?せっかくみえみえのウソ泣きまでして茶番を演じているモモレンジャーのためにな…グフフフフフッ」
(何だと!?)
(!…そ、そんな…気付かれてる。それにヤツらはそれを承知でわたしたちの好きなようにさせていたっていうの??……ぐ、ぐっ!?)
二人のゴレンジャーの行動は全てヤツらに見抜かれていた。ミドが時間稼ぎをしてるという事も、モモが泣き真似までして仲間の応援を呼ぼうとしていた事でさえも…。
(でも…でももう後戻りはできないわ。それよりわたしがウソ泣きだと分かってて見逃していたその余裕…後で絶対に後悔させてやるんだから!)
しかし彼らがもう後戻りする事はできない。例え自分たちの行動がヤツらに筒抜けになっていたとしてもだ。
{…もしもし、こちらモモ。ゴレンジャールーム、応答して…}
気を取り直してゴレンジャールームとの通信を試み始めるモモ。二人はこのまま敵の手の中で踊り続ける選択肢以外はないのである。
「グフフフフフッ…さて、緑色の小僧。さっき何でわたしがリーダーと呼ばれているのか知りたがっていたな?それはわたしがこの五人のチームのリーダーだからだ、グフフフッ、グフフフフフッ」
「チームだと!?それに五人!?一体どういう事だ!?」
モモがゴレンジャールームと連絡を取ろうとしている一方で、その時催眠仮面と対峙するミド。チームのリーダー?五人のチーム?…その時、ヤツの口から発せられた言葉に彼は思わず反応してしまう。
「グフフフッ…我らはおまえたちゴレンジャーと同じように、五人で一つのチームなのだ。おまえらゴレンジャーが正義の戦隊なら我らは悪の戦隊、黒十字戦隊ってところだな?グッフッフッフッフッ」
「く、黒十字戦隊…だと…!?」
「グフフフッ…そうだ。そしてその黒十字戦隊のリーダーはこの催眠仮面様ってわけだ。これで分かったかな?デキの悪い緑色の小僧、グフフフフフッ」
(ぐ、ぐっ…な、何てこと。黒十字戦隊……く、黒十字軍が、黒十字軍がこんなヤツらを結成していたなんて…)
悪の戦隊、黒十字戦隊の存在に驚愕しているミド。
だが驚愕しているのは彼だけではなかった。ミドと催眠仮面の会話を聞きながら、自らはゴレンジャールームとの連絡を取ろうとしていたモモも同じ思いだったのである。
「…そしてそこにいる岩石仮面と爆弾仮面も当然、我が黒十字戦隊のメンバーってわけだ、グフフフフフッ」
「ガルルッ、ガルルルッ、ガルルルルルッ…」
「そういうことだ。ククククッ…」
リーダーである催眠仮面の紹介に合わせ、自らをアピールする岩石仮面と爆弾仮面。
「おいおいおい!リーダーよぉ、オレを忘れてもらっちゃぁ困るぜぇ。このナイフ仮面様をなぁ、キーッヒッヒッヒッヒッ」
更に催眠仮面に名前を呼ばれなかったナイフ仮面が自らの存在をアピールするように口汚くわめいている。
「おおっ!?そうか、すっかり忘れてた。済まなかったな、ナイフ仮面、グフフフッ」
「おいおいおいぃ、頼むぜぇ、リーダーよぉ!オレの事をしっかりアピールしてくれよなぁ。ムチムチしたいい乳とケツをしてるあのねえちゃんによぉ、キーッヒッヒッヒッヒッひっ」
「グフフフッ…そうだったな。これからおまえは“あの女”を犯るんだったな。あの女にはおまえの事をしっかり紹介してやらないとな、グフフフッ、グフフフフフッ」
再三自らの存在をアピールするナイフ仮面。そして催眠仮面はその前身刃物の仮面怪人について、満を持したように紹介し始めた。
「グフフフッ…まずこの男の名前はナイフ仮面という。そしてさっき、モモレンジャーをしつこく付けねらっていた事でも分かるように無類の女好きだ。いい女と見るや、どこまでも付けねらい、身に着けている服をズタズタに切り刻んで最後には犯さないと気が済まないという、非常に困ったヤツだ、グッフッフッフッフッ」
「キヒヒヒッ…そりゃあひでぇ言い草だなぁ。オレは自分の欲望の赴くまま、素直に行動してるだけだぜぇ、キーッヒッヒッヒッヒッ」
(…な、何なの、コイツ?ヘンタイというより…狂ってる。完全に狂ってるわ…)
(く、くっ!?何てことだ!モモはこんな厄介なヤツに目をつけられちまったのか…?)
催眠仮面によるナイフ仮面の紹介と全身刃物男のとても理解し難い狂気。
それを聞いていた二人のゴレンジャーは、当事者のモモばかりでなく、パートナーのミドでさえも顔が青ざめ、額や背筋から嫌な汗が吹き出ていく。
「グフフフッ…どうした?おまえたちゴレンジャーは無敵なんだろ?幾らコイツがキチガイみたいな事言ってもどうせおまえたちには関係ないんじゃないのか?…なぁモモレンジャー、グフフフフフッ」
「ぐ、ぐっ!?あ、当たり前でしょ?そんな話、わたしにはぜっんぜん関係ないわ!誰があんなヘンタイナイフ男に犯されるもんですかっ!」
催眠仮面の脅しにも似た言葉に表面上はこれまでとは変わらない、強気な態度を見せているモモ。
だが強気に叫ぶ彼女のその声は緊張から微妙に裏返り、その裏返っていた声も恐怖からか微かに震えていた。
ゴクリ…。
身体をこわばらせ、緊張から唾液を飲み込み喉を鳴らす女戦士。マスクに覆われているおかげでその表情をうかがい知る事はできない。だがハート型のバイザーの無効にあるペギーの美貌は恐怖と緊張で明らかにこわばっている。
そしてモモのその心の動揺は、普段から彼女に接している者にはすぐに分かってしまう変化だった。
「モモ…」
常日頃からモモとコンビを組む機会が多かったミドも、当然彼女のそんな変化には気付いていた。その彼は急激に緊張し、身体をこわばらせていく女戦士を心配そうに見つめている。
「キーッヒッヒッヒッヒッ…そうだよなぁ。何たってねえちゃんは正義のスーパーヒロインだもんなぁ、キヒヒヒッ……シャアァァァァァ!」
ビュンッ!
「きゃっ!?」
下卑た笑いを浮かべていたナイフ仮面が突然耳障りで大きな奇声を上げた。
それと共にナイフ仮面に背を向けるようにしゃがんでいたモモの尻の右側を“一陣の風”が通り抜ける。
カランッ。
その一陣の風の通り抜けたほんの少し後、彼女の目の前のアスファルトに転がる小型のナイフ。更に…。
ピッ。
「あっ!?…ス、スーツが!?」
それから少しのタイムラグをおき、モモの尻の右側、先程“一陣の風”の通り抜けた場所のゴレンジャースーツが突然、刃物で切り裂いたように切り口が入れられている。
何かの鋭い刃物で切った跡のようにキレイに切り口が入れられている桃色のスーツ。その切り口から“ペギー松山”が身に着けていた黄色いホットパンツが…更にはその黄色い生地をも切り裂き、彼女の柔肌が顔を覗かせている。
「…そ、そんな!?ど、どうして…どうして急に……も、もしかして…!?」
普通の刃物などではそう簡単に切られるはずなどない特殊な強化繊維で作られているゴレンジャースーツ。その強固なはずのスーツがいとも簡単に切り裂かれてしまっている。
これまで自らを危機から何度となく守ってくれた桃色のスーツ。そんな絶対の信頼をおく強化スーツがいとも簡単に突破されてしまったのだ。スパッとキレイに入れられた切り口を驚愕の表情で見つめる、普段強気な女戦士の同様は計り知れない。
「キーッヒッヒッヒッヒッ…実はそのスーツの下もちゃんと服は着てるんだなぁ。益々剥きがいがあるってモンだよなぁ。…それにしてもねえちゃん、あんたやっぱいいケツしてるぜぇ、キーッヒッヒッヒッ、キーッヒッヒッヒッヒッひっ」
モモの破れたスーツの隙間から覗く柔肌を、桃尻をニヤニヤと、いやらしい目つきで覗き込むナイフ仮面。彼女のゴレンジャースーツに切り口を入れた張本人は相変わらず下卑た笑いを浮かべているナイフ仮面だったのだ。
ナイフ仮面の頭の上に何本も突き刺さっていた小型のナイフ。その内の一本をヤツは手にし、モモの尻の右側をかすめるように投げつけた。
女戦士の右横を通り抜けた一陣の風。それはヤツがモモを目掛けて猛スピードで投げつけたナイフだったのだ。彼女の目の前に転がる小型のナイフはヤツがモモ目掛けて放り投げた物だったのである。
「ぐ、ぐっ!?や、やっぱり…やっぱりあんたが…」
先程からのしゃがんだ体勢のまま、モモは後方で下卑た笑いを浮かべているナイフ仮面の方を振り返り、強烈に睨みつけている。だがハート型のバイザーの向こうにある美貌は更に堅くこわばっていく。
「キーッヒッヒッヒッヒッ…そのナイフはわざと外してやったんだぜぇ。だが今度は外すつもりはねえ!ねえちゃんのそのスーツをズタズタに切り刻んでキッチリ犯ってやるからなぁ、キーッヒッヒッヒッヒッ、キーッヒッヒッヒッヒッヒッ」
ヤツは相変わらず下卑た笑いを浮かべながら、頭部からまた一本ナイフを手にし、その刃渡りを狂気じみた表情でペロッ、ペロッと舐めている。
「く、くそっ!?何てヤツだ!…それより大丈夫か、モモ?」
「え、ええ…大丈夫よ、ミド。心配しないで…」
ゴレンジャースーツがいとも簡単に切り裂かれ、動揺の色が見えるモモを気遣うように声を掛けるミド。彼はしゃがんでいる彼女を助け起こすためにモモに左手を差し伸べている。
{…それよりモモ。ゴレンジャールームとの連絡は取れたのか…?}
{それが…さっきからずっと通信を試してるんだけど…どうしても連絡が取れないの}
{何だと!?…くっ!?一体どういう事なんだ??}
{それがわたしにも原因がよく分からないのよ。一体どういう事なのかしら…?}
ミドが左手でモモを助け起こしながら、二人は彼女がゴレンジャールームと連絡を取ろうとしていた事についてヒソヒソと話をしている。
だがそのモモがずっと通信を試み続けてもゴレンジャールームとの連絡は一向に取れる気配がないのだ。
しかもその原因はミドにはおろか、通信を試みていたモモでさえも全く分からない。不安そうな表情を浮かべてお互い顔を見合わせる二人の男女。しかし彼らはその原因もすぐ知ることに…。
「グフフフッ…ところで応援の連絡は取れたのかな?なぁモモレンジャー、グフフフッ、グフフフフフッ」
「ぐ、ぐっ!?そ、それは…今、今やってる最中よ!だいたいそんな事、あんたたちには関係ないじゃない!?」
「ほぉ、そうなのか?わたしはてっきり通信ができなくて困ってるんじゃないかと思ってな、グッフッフッフッフッフッ」
「ぐ、ぐっ!?そ、それは…」
(何!?何よコイツ!?まるでその事が分かっているような口ぶりじゃない?……!…も、もしかして通信ができないのは…)
催眠仮面に応援の連絡が取れていない事を指摘され、徐々にあせりの色を濃くしていくモモ。と同時に彼女の頭の中はとてつもない嫌な予感と言い知れぬ不安にだんだんと支配されていく。
「グフフフッ…そうだよな、応援の連絡なんか取れるわけないよな?何たって“アイツ”がおまえの出している通信機からの電波を吸い取っているんだからな?グフフフッ、グッフッフッフッフッ」
「!な、何ですって!?そ、それじゃ…」
「グフフフッ…そうだ。“あれ”を見るがいい!」
そう言って催眠仮面は舗装された道路の脇にそびえ立つ、一方の岩壁の頂上を指差した。そしてその指が指し示す先には…。
(!…あ、あれは!?ひ、人影!?あ、あそこに…あそこに誰かいるの??)
岩壁の頂上に颯爽と立つ人影。モモが見たその人影とは…。
「フフフフッ…さすがはイーグルだな。通信の妨害を受けにくいような、良い電波を使っている。…もっとも、わたしには関係ないんだけどな、フフフッ、フフフフッ…」
「!?…あ、あんたが…あんたがわたしの通信を邪魔してたって言うの!?」
岩壁の上に立つ、モモが見たその人影とは…二メートル弱の身長、比較的ひょろりとした体系、額の中心に“アンテナ”のように生えていた一本角を持つ仮面怪人だった。
「フフフッ…いかにも。わたしは黒十字軍の電波仮面という。そしておまえがさっきから必死にやっていた通信は全て、わたしが邪魔させてもらった…おまえの通信機から出していた電波を吸い取ってね」
「な、何ですって!?…ウ、ウソでしょ?信じられないわ。そんな事が…」
「フフフフッ…信じたくなければ勝手に信じなければいいさ。ただし、わたしにはこのくらいはたやすい事だけどな。…そしておまえらはこのわたしがいる限り、無線通信で遠くにいる仲間と連絡を取り合う事はできないってわけだ。分かったかな、気の強いお嬢さん?フフフッ、フフフフフフッ」
(く、くっ…な、何てこと。それじゃわたしたちは完全に孤立無援って事じゃない?)
仲間との連絡手段も封じられてしまい、さすがにうろたえる様子がありありと見えるモモ。
ザッ。
(はっ!?)
しかしそのショックに打ちひしがれる暇は彼女にはない。彼女、いや彼ら二人にはそれ以上の危機が忍び寄っていたのだ。
「グフフフッ…これで分かったかな?もうおまえたちは“籠の中の鳥”も同然というわけだ。そしてこの電波仮面は我が黒十字戦隊の最後の一人というわけだな…グフフフッ、ハハハハッ、ハーッハッハッハッハッ」
「ガルルッ、ガルルルッ…」「クククッ、ククククッ…」
「犯ッテヤル、犯ッテヤルぜぇ、ねえちゃんよぉ…キヒヒヒッ、キーッヒッヒッヒッヒッ」「フッ…これがゴレンジャーか。所詮、ただの小娘とガキではないか?フフフフッ…」
岩壁の上に立つ電波仮面も含め、“黒十字戦隊”によってすっかり取り囲まれてしまった二人のゴレンジャー。
四方から徐々に間合いを詰めてくる四人の仮面怪人を、お互いの背中を合わせて待ち構えているモモとミド。
(ぐっ!?絶体絶命ってヤツか?しかし相手は仮面怪人五人か…このままじゃ本当にヤバイぜ…)
心の中でそう自嘲気味に呟くミド。普通に戦えば一人でも強敵の仮面怪人。
それが今、四人がかりで彼ら二人のゴレンジャーに迫ってきている。状況が自分たちに不利であるという事は、ミドがどう贔屓目に見ても明らかだった。
{…ミド。…ミド、聞こえて…?}
そんな絶体絶命の状況の中、パートナーの女戦死が背中越しにミドへ囁いてきた。
{!…モモ!?聞こえてるぜ。一体どうしたんだ?}
{…ここは一旦退いてゴレンジャールームまで戻りましょう。このままわたしたちだけでコイツらと戦っても勝ち目はかなり薄いわ}
{だがモモ、逃げるって言ってもこの状況だぜ?一体どうやって逃げるつもりだ?}
「その辺は任せて。わたしに考えがあるわ}
背中越しに囁いてきたモモの相談とは、ヤツらから逃げるための算段だった。それに彼女にはそのための策ももうあるという。
{…今からわたしがモモ爆弾を幾つか投げて煙幕を作り出すわ。その隙にすぐにグリーンスターに乗り込んで煙幕に乗じてコイツらから脱出しましょう}
{そうか、目くらましでコイツらをかく乱するのか…分かった。確かにこのままコイツらと戦ってもオレたちの勝ち目は薄いからな…よし!じゃあそれで行こうぜ!}
{それじゃオッケイね。じゃあ決行は10秒後よ、早速時間合わせをしましょう}
複数の煙幕を作り出し、その隙に乗じてヤツらからの脱出を計る。絶体絶命の危機を乗り切るため、これが彼らの導き出した作戦であり結論だった。
{それじゃ始めるわよ。…10…9…}
小さな声でカウントダウンを呟き始めるモモ。決行の時に向け、二人の男女に張り詰めた空気が流れ始める。
ピトッ。
(…?)
その張り詰めた空気の中、ミドの尻から何か柔らかい感触が伝わってきた。
{…7…6…5…}
それは桃色のスーツに覆われた、肉付きのいい、ボリューム感たっぷりのモモの大きな桃尻だった。
(これは…モモの尻なのか?それにしても…モモのヤツ、本当にお尻、デカいよな…?)
この張り詰めた緊張の中、まだ多感な感情を持つ未成年でもあるミドは、パートナーの女戦死に対してまたしてもそんな不届きな思いを抱いてしまう。
{…4…3…}
(!…ば、バカ野郎!こんな時に何考えてんだ!オレは?)
こんな土壇場に戦いとはまるで関係のない、それどころかあまりにも不埒な事を考えていた自分を恥じているミド。
(…今は戦いに集中するんだ!死ぬか生きるかの瀬戸際なんだぞ!?)
必死に自戒しているそんなミドの思いはこの状況では当たり前といえば当たり前の事なのだが…彼はすっかり乱れてしまった精神状態を何とかして必死に元に戻そうとしている。
{…2…1…}
そんな、ミドが勝手に思い悩んでいる間にもモモのカウントダウンは着々と進んでいく。そして…。
カチッ、カチッ、カチッ…。
「…いいわね!いくわよ!!」
彼女は体中に身に着けていたモモ爆弾を数個手にし、それをいつもの掛け声と共に周囲にバラ撒いていく。
ドカンッ!ドカンッ!ドカーン!!
次から次へと爆発していくモモ爆弾。それに伴い次々と上がっていく、桃色の爆煙が辺りと二人のゴレンジャーを覆い隠していく。
「…よし、これでいいわ。いきましょう!ミド!」
「オーライ!今のうちにこんなところからは早くズラかろうぜ!」
ダッ!
桃色の爆煙にまぎれ行動を開始するモモとミド。そんな彼らの目的は近くに止めてあったグリーンスターに乗り込むことであり、それを使ってこの場から逃走する事である。
「何だぁ、あのねえちゃん?いきなりいっぱい爆弾をバラ撒きやがって。…それにしてもこう煙たいと何も見えないよなぁ?キヒヒヒッ…」
「何も見えない?…そうか、そういう事か、グフフフッ……おい、おまえら!これは恐らく煙幕だ。ヤツらはこの煙に乗じて我らから逃げ出すつもりなのだろうな。中々小癪なマネを…グフフフフフッ」
悪の戦隊、黒十字戦隊のリーダーでもある催眠仮面がその優れた洞察力を発揮し、二人のゴレンジャーの狙いをいち早く察知した。
「煙幕だぁ?それにあのねえちゃんがオレから逃げようとしてるだとぉ!?…キヒヒヒッ、そんな事が許されるわけねぇだろ?あのねえちゃんはオレがじっくり犯るって決まってるんだからよぉ、キーッヒッヒッヒッヒッ」
「グフフフッ…まぁそんなに興奮するなよ、ナイフ仮面。それにあの二人を止める事はそれほど難しい事じゃないさ。ヤツらの狙いはハッキリしてるからな、それを邪魔してやればいい…グフフフッ、グフフフフフッ」
「ヤツらの狙いだと!?一体どういう事だ、催眠仮面?」
執拗に狙っていたモモの逃亡を知り、興奮気味にいきり立つナイフ仮面。その様子を一歩引いた目線で見ていた催眠仮面は、そんなナイフ仮面を余裕の表情でなだめている。
更にヤツはモモとミドの作戦ばかりでなく、爆弾仮面を始め他の仮面怪人が読みきれてなかった彼らの直近の狙いでさえも読み取っていた。
「グフフフッ…爆弾仮面、つまりはこういう事だ。ヤツらの目的はこの場から逃走する事にある。そのためにヤツらはあのオートバイみたいなマシンを使って逃げ出そうと考えるはずだ。という事は我らが先回りしてあのオートバイみたいなマシンを破壊してやればいい。それぐらいチョ路いモンだろ?グフフフフフッ」
「しかし催眠仮面、あのマシンを破壊するにもこの爆煙だ。これではさすがにあのマシンのある場所も分からんだろ?一体どうするつもりだ?」
「グフフフッ…爆弾仮面、何か忘れてないか?我らには電波仮面がいるではないか?グフフフッ、グッフッフッフッフッフッ」
催眠仮面の見事な洞察力で二人のゴレンジャーの狙いは理解した爆弾仮面。
しかしそれでもこの桃色の爆煙が仮面怪人たちの行動を邪魔するはずなのだが…催眠仮面にはそれに対する対策も頭にあるらしい。しかもそのカギを握るのはすぐ近くにいた電波仮面だと言うのだ。
「電波仮面?なるほど、そうか。そうだったな。オレたちには電波仮面のヤツがいたな、ククククッ…」
「そうだ。やっと思い出したらしいな、グフフフッ……おい!電波仮面!聞こえてるか!?おまえに頼みたい事がある!」
「……何だ、催眠仮面?わたしにまだ何か用か?」
不適な笑みを浮かべている催眠仮面はニヤリと口元をゆるませ、岩壁の上に立つ電波仮面の名を叫ぶ。岩壁の上に立つ名前を呼ばれた電波仮面は少し気だるそうにそれに応えた。
「ああ、まだおまえに頼みたい事があるのだ!……これから我らはゴレンジャーのヤツらが乗るオートバイみたいなマシンを破壊しようと思っている!だがこの爆煙だろう?我らだけではヤツらのマシンがどこにあるのか分からないのだ!」
「フッ…まぁ確かにそうだろうな。…で、わたしにどうして欲しいのだ?」
「グフフフッ…わたしがわざわざ不精なおまえに頼む事だ。そのぐらい、本当は何となく分かっているのだろう?相変わらずつっけんどんなヤツだな。グフフフフフッ」
「フフフッ、まぁな。…で、わたしの持つ“能力”でこの爆煙の中からヤツらのマシンを探し出して欲しいんだろ?なぁ催眠仮面…フフフッ、フフフフッ」
電波仮面の持つ“能力”。
それは視界不良の空間の中、探し出したいターゲットを容易に探し出し、その場所を味方へ的確に知らせる。いわゆる索敵能力である。
どうやら催眠仮面はその“能力”を活かし、ゴレンジャーの二人が駆るマシン、グリーンスターを電波仮面に探し出してもらおうとしているようだ。
「グフフフッ…何だ?やっぱり全てお見通しなんじゃないか?…それなら話は早い。早速ヤツらのマシンの位置を教えてくれないか?グフフフッ、グッフッフッフッフッ」
「フッ…いいだろう。それぐらい、わたしにはたやすい事だしな、フフフフッ……enemy search!」
ピピッ、ピピピピッ!
電波仮面のそんな絶叫に合わせるように、ヤツの一本角の角が青白く光りだした。
(フフフッ…見える。実によく見えるぞ!…フフフフッ)
視界不良の中、電波仮面の目には辺り一面の光景がダークグリーンのフィルターに被せられたような映像が映っているはずだ。桃色の爆煙が排除された、かなりクリアーな状態で…。
(!…あそこか。…それに何だ?近くにはゴレンジャーのヤツらもいるじゃないか?フフフッ、フフフフッ)
そして電波仮面はグリーンスターを難なく発見する事ができた。しかもすぐ傍にはゴレンジャーの二人の男女もいる。電波仮面はその光景をややほくそ笑みながら眺めていた。
「…おい!催眠仮面!見つけてやったぞ!……おまえの位置からだいたい右に50度、距離にして30メートルぐらいの位置だ!…フフフッ、フフフフフフッ」
「そうか。ご苦労だったな、電波仮面、グフフフッ」
「それとその近くには面白いヤツらもいるぞ?…フフフフッ」
「ほぉ…面白いヤツらだと?」
「そうだ。緑色のオスが一匹、そして桃色のメスが一匹だ。…どうだ、面白いヤツらだろう?フフフッ、フフフフフフッ」
「グフフフッ…そうか。確かに面白いヤツらだな、グフフフフフッ」
電波仮面の言う緑色のオスと桃色のメス。それとなく隠語にはされていたが、それがゴレンジャーの二人、緑色の戦士と桃色の女戦士を指している事は明らかだった。
「グフフフッ…よし。爆弾仮面、今の電波仮面の話を聞いただろ?おまえの爆弾でヤツらのマシンを破壊してくれ。その際、二人の“面白いヤツら”を巻き込んでくれれば尚喜ばしいな?…愚フフッ、グフフフフフッ」
「ククククッ…了解した。せいぜい派手にぶっ飛ばしてやるよ?クククッ、ククククククッ」
「それから岩石仮面とナイフ仮面!おまえたちは作戦タイプC・標的は桃色だ!…二人とも、しっかりやれよ!…グフフフッ、グッフッフッフッフッ」
「ガルルッ、ガルルルッ、ガルルルルルッ…」「そうかぁ!さすがリーダーだぜぇ。おいしいところはオレに全てゆずってくれるってわけだぁ!…キーッヒッヒッヒッヒッヒッ」
電波仮面からゴレンジャーマシン、グリーンスターと二人のゴレンジャーの位置を受け取った黒十字戦隊のリーダー、催眠仮面は他の仮面怪人へ次々と支持を出していく。
そして催眠仮面の言う『作戦タイプC・標的は桃色』とは一体何を示しているのか?…催眠仮面の支持の下、三人の仮面怪人たちは一斉に動き出した。
あわただしく響く仮面怪人たちの足音。そしてそれは二人のゴレンジャーへと奏でられる“地獄への旋律”でもあった。

一方、桃色の爆煙にまぎれ、ヤツらからの逃走を試みていた緑色の戦士と桃色の女戦士は…。
「…あった、モモ!グリーンスターだ!早く乗り込もうぜ!」
「OK。それにヤツらに見つかる前に早くここから逃げ出しましょう!」
桃色の爆煙にまぎれ、首尾よくグリーンスターを発見できたミドとモモ。彼らはミドがオートバイ部分へ、モモがサイドカー部分へと素早く乗り込んでいく。
「…よし。幸いマシンに特に問題はなさそうだ。早速発信するぞ、モモ!」

「……ォッケ…」
「!?…どうしたんだ、モモ?何だか元気ないぞ?」
グリーンスターの動作を確認し、早速マシンを発信させようとしているミド。だが彼の横のサイドカーに乗る、桃色の女戦士は先程からずっと浮かない顔をしてうつむいたままだ。
「…まくいきすぎてないかしら…?」
「…何だ?声が小さくて聞き取れないぜ。もっと大きい声で言ってくれないか?」
そのモモは相変わらずうつむいたまま、小さな声で何かポツリと呟く。だが辺りは爆発の轟音が響き渡っているのだ。そのような小さな声では近くにいたミドでさえ、何を言っているのか聞き取れるわけがない。
「…ねぇミド!何か…何か上手く行き過ぎてるんじゃないかしら?わたしずっと嫌な予感がしてるのよ。ヤツら、また何か罠を仕掛けてるんじゃないかって…」
「モモ!?」
急にうつむいていた顔を上げ、モモは心の中に影を落としている不安をミドに吐露し始めた。そんな様子からも今、彼女が相当精神的に滅入っているのは明らかだ。
「…モモ、一体どうしたんだ?いつも強気なおまえらしくないぞ?それに上手く行き過ぎているように見えてるって事はそれだけおまえが立てた作戦が見事に当たったって事じゃないか?何よりヤツらがそれだけ間抜けだって事だろ?」
「ミド……うん。そうよね。わたし、ちょっと考えすぎてたのかしら?……ありがと、ミド。少しは気が晴れたわ。礼を言うわね」
「そうだぜ、モモ。あんまり考えすぎるなよ」
(モモのヤツ……そうか。あの変なナイフ野郎に付け狙われたり、さっきからモモばかり集中的に攻撃されてたからな。それもかなりエゲつない方法で…)
落ち込む女戦士を必死に励ますミド。そんなミドに対し、彼女は表面上は懸命に明るく振舞っている。
だが常にモモと接しているミドには、彼女の心の動揺は隠し切れない。またその原因はこれまでの戦いにある事は火を見るより明らかだった。
(…モモだって女の子なんだ。あれだけ心理的に、しかも痴漢まがいな方法で責め続けられれば、幾ら普段強気なモモでも同様するのも無理はない、か…)
普段は強気で鳴らしている女戦士。そんな彼女が痴漢まがいの淫らな責めで徹底的に痛めつけられ、普通はまず見せる事などない、女としての弱々しい姿を見せている。
(ももは今、かなりまいっている。こんな時こそオレがフォローしてやらないと…)
そんな弱々しい彼女の姿が、普段以上にミドのモモに対する意識を過剰にさせていた。またそれは、彼が先程から必要以上に彼女を“同年代の女性”として意識していたからなのかもしれない。

だが一方のモモは、そんな意識過剰なパートナーとはまた違った思いを抱いていた。ミドに明るく返答した後、モモはこんな事を考えていたのである。
(はぁ…わたしって情けないな。あんなヘンタイにちょっとぐらいエッチな事されたぐらいで心を乱して…)
モモはモモで、戦いの中で“女”としての弱さを見せてしまっていた事を恥じていたのだ。
戦いという過酷な環境に身を投じた以上、せめて戦闘中は“女”である事を忘れようとずっと誓っていたにも関わらず…。
(…わたしがこんなんじゃ、きっとミドにも“何て頼りないヤツ。ま、所詮“女”だからしょうがないのか”とか思われてるのかな…?)
決してミドは彼女を頼りないとは思っていないのだが…戦場という場において“女”である事のコンプレックスが非常に強いモモは、自分が女である事を必要以上に気にしていた。モモはモモで違う意味で意識過剰だったのである。
(でもこれ以上、ミドに迷惑を掛けるわけにはいかないわ!それにあんなヘンタイ刃物男が何よ!今度こそ返り討ちにしてやるんだから!)
しかしモモは気を取り直し、懸命に闘志を奮い立たせていく。それは彼女の”戦士”としての意地だったのかもしれない。
「さぁ、ミド!早く発信しましょう!早くしないとわたしが作り出した煙幕の煙が消えてしまうわ」
「モモ!?…あ、ああ。分かった。それじゃすぐに発信だ!」
恥辱にまみれ、苦悩する女戦士とそんな彼女を何とかしてサポートしたい緑色の戦士。それぞれの思いを胸にミドがゴレンジャーマシン、グリーンスターを発信させようとしていた今まさにその時…。
カチッ、カチッ…。
「!?…何だ?何か変な音がしたような…」
「音!?…一体どういう…」
チッチッチッチッ…。
不意のミドの言葉にモモが耳を澄ましてみると…思わず聞き逃してしまいそうな小さい音ながらも確かに時計の針が動くような音がしている。更にその音を耳にしたマスクの中のペギーの美貌は次第に青ざめていくのだ。
「…ウソ…何で……ミド、ここから早く離れて!早く!」
「モモ!?い、一体急にどうしたんだ??」
その機械音を耳にしたモモは突然何かをあせるようにミドに叫びだした。しかし叫ばれているミド自身は何故モモの態度がいきなり豹変したのか、当然分からない。
「爆弾よ!すぐ近くから爆発物の反応があるの!」
「何だと!?それは本当な…」
カッ。
ドカーン!
「!な…うわあああぁぁぁ!?「きゃああぁ!?いやあああぁぁぁぁ!!」
ドカンッ!ドカンッ!ドカァァァァァン!!
彼らの乗るゴレンジャーマシン、グリーンスターを巻き込むように何度も起こる大きな爆発。その強烈な轟音は二人の男女の悲鳴を打ち消すように飲み込んでいく…。

ピピッ、ピピピピッ!
青白く光る一本角。爆煙がキレイに排除され、ダークグリーンのフィルターのようなものを被せられたクリアーな視界が広がる。
その良好な視界の中、二人のゴレンジャーが乗るマシン、グリーンスターは木っ端微塵に爆破された。そのマシンに乗っていた二人の男女もその爆発に巻き込まれ、散り散りに吹き飛んでいく…電波仮面の瞳にはそのような光景が映っていた。
「フッ…ヤツら、木っ端微塵か。いいザマだな、フフフフッ……おい、催眠仮面!爆弾仮面の投げた爆弾はヤツらのマシンにクリーンヒットだ!ついでにヤツらも爆発に巻き込まれて散り散りに吹っ飛ばされていったぞ。…フフフッ、フフフフフフッ」
二人の乗るグリーンスターは爆弾仮面の投げつけた複数のプラスチック爆弾によって大破させられてしまったのだ。そして、その一部始終を電波仮面の“能力”が高みから見物していたのである。
「グフフフッ…そうか。爆弾仮面、おまえの投げつけた爆弾は予想以上の成果を上げたらしいぞ?…グフフフッ、グッフッフッフッフッ」
「ククククッ…そうか。ヤツら、見事に木っ端微塵か?クククッ、ククククククッ」
電波仮面からの報告を受け、その結果に満足そうにほくそ笑む催眠仮面。その近くにいた爆弾仮面も己の作り出した爆弾の相変わらずの威力に自己満足の笑みを浮かべていた。
「グフフフッ…おい!岩石仮面!ナイフ仮面!…今度はおまえらの番だ!せいぜい上手くやれよ…グフフフッ、グフフフフフッ」
「ガルルッ、ガルルルルッ!」
「キヒヒヒッ…そんなこたぁ言われるまでもねえぜ。何たっていよいよオレの待ち焦がれていた瞬間がやってくるんだもんなぁ。待ってろよ、ムッチムチのねえちゃんよぉ…キヒヒヒッ、キーッヒッヒッヒッヒッヒッ」
ザッザッザッザッ…。
催眠仮面の支持を受け、今度は岩石仮面とナイフ仮面の二人が一斉に動き出した。またそれは二人のゴレンジャーへ更なる危機が訪れようとしている事を意味していた事に…。

「う、ううぅ…ぐ、ぐぅ…!?」
(く、くそっ…な、何で…何でグリーンスターがいきなり爆発したんだ…??)
その時、ミドはアスファルトの地面にうつぶせの状態で転がっていた。
グリーンスターにモモと一緒に乗り込んでいた彼は、突然の爆発に巻き込まれ、その爆風によって吹き飛ばされてしまう。
そして彼はその爆風の衝撃により、一緒に行動していた女戦士とも散り散りになってしまったのである。
(く、くぅ!?そ、それに…それにモモと離れ離れになってしまったらしいな。…と、とにかくどうにかしてモモと合流しないと……こ、このまま…このまま敵のど真ん中で孤立するわけには…)
爆風に巻き込まれて孤立してしまった自分の状況を憂い、パートナーの女戦死を早く見つけ出して合流しようとしていたその時…。
ガシィッ!
「ぐあぁっ!?」
その時、ミドは背中に何か“重たいモノ”に乗られるような衝撃に襲われてしまう。
グリ、グリ、グリ…。
「ぐあああぁ!?…な、何だ!?せ、背中が、背中が…!?ぐ、ぐああああぁぁ!?」
更にその“重たいモノ”はミドの背中でその“重たいモノ”をこするようにグリグリと押し付けてくる。そしてそれは…。
「ガルルッ、ガルルルッ、ガルルルルルッ!」
それは全身岩石のような仮面怪人、岩石仮面が左脚でミドの背中を踏みつけていたからだった。
ヤツはうつぶせに転がっていたミドを背中から踏みつけ、両手を上げて雄たけびを上げながら、ミドの背中を力強くグリグリと踏みしめている。
「…あ、あの岩石…野郎…か!?…く、くそっ…そ、そこをどきやがれ……!ぐああああぁぁ!?」
「ガルルッ、ガルルルルルッ…」
しかしそんなミドの悲痛な叫びが全身岩石の仮面怪人に届くわけがない。ヤツは苦痛にもだえるミドを無死するように彼を踏みつけ、力ずくでアスファルトの地面に抑え付けている。

「…う、ううぅ……ぁ、ぁぅ…」
不意の爆発によって勢いヨク吹き飛ばされてしまっていたモモ。彼女はうつぶせの状態に転がされ、爆発の衝撃で受けた激痛にもだえ苦しんでいた。
(くっ!?ま、まさか…まさかわたしたちがゴレンジャーマシンに乗るところを狙われるなんて…)
だがモモは爆発に巻き込まれた事よりも、自らの立てた作戦がヤツらに完璧に読みきられていた事に、より大きなショックを受けていた。しかもその作戦が自分だけでなく大切な仲間も巻き込んでしまったのだ。
(?!…そ、そうだわ!ミ、ミドは…ミドは一体どこ…!?)
しかも彼女の近くには一緒に巻き込まれたはずのミドの姿がない。モモはあせる気持ちを必死に抑え、爆発の衝撃で散り散りに吹き飛ばされたと思われるミドの姿を、辺りをキョロキョロと見回して懸命に探している。
「ぐあああぁ!?」
(!…この悲鳴!?ミドの声だわ!)
その時、彼女はミドのものと思われる悲鳴を耳にする。脳裏をよぎる嫌な予感が止まらないモモがその悲鳴が聞こえる方向へ振り向くと…。
「ぐあああぁ!?…く、くそっ…ど、どけっ…そこをどきやがれぇ!……!?ぐあああああぁ!?」
「ガルッ、ガルッ、ガルルルルルッ!」
(!ミ、ミド!?…あ、あの岩石だらけの仮面怪人にミドが…ミドがっ…)
モモが振り向いた先に彼女が見たものは…うつぶせに転がされているミドがあの全身岩石のような仮面怪人によって、足蹴にされている光景だった。
(くっ!?あ、あのままじゃミドが踏み殺されてしまうわ!な、何とかして…何とかしてミドを…ミドを助けなきゃ…)
「ミドッ!!」
ダッ!
岩石仮面に足蹴にされ、窮地に追い詰められてしまっていたミド。
まだどうにか自由に動けるモモは、そんな窮地の彼を助けようと、急いでそちらへ向かおうとする。
ザッ。
(!うっ!?)
だがその女戦士の行く手には今、彼女がもっとも出会いたくない男が立ちふさがる事に…。
「キーッヒッヒッヒッヒッ…どこに行こうと言うんだぁ、ねえちゃん。あんたの相手はこのオレだぜぇ!…キヒヒヒッ、キーッヒッヒッヒッヒッ」
「ぐ、ぐっ!?さっきのヘンタイ刃物男!?」
(くっ!?…こ、こんな時に一番出会いたくないヤツに出会うなんて…)
モモの目の前に立ち塞がった男。それはあの狂気じみた変態猥褻仮面怪人、ナイフ仮面だった。
「そ、そこをどきなさい!わたしは今、あんたなんかの相手をしてる暇はないのよ!」
現在もっとも出会いたくない敵を目の前にしても、表面上は正義のスーパーヒロインらしく毅然とした態度を見せているモモ。だがその実、心の動揺は計り知れない。
「キヒヒヒッ…ねえちゃんがどうであろうと関係ねぇんだよ!あんたはオレと戦って、そして犯される。つまり、もうねえちゃんの運命は決まってるんだよなぁ!…キヒヒヒッ、キーッヒッヒッヒッヒッ」
「グフフフッ…ナイフ仮面。おまえのためにこれだけお膳立てしてやったんだ。その女としっかり楽しめよ、グフフフッ、グフフフフフッ」
「キヒヒヒッ…どうもありがとよ。さすがはリーダーだぜぇ…キヒッ、キヒヒヒッ、キーッヒッヒッヒッヒッ」
催眠仮面がナイフ仮面のためにお膳立てしてやった事。先程、催眠仮面が口走った“作戦タイプC・標的は桃色”という言葉。つまりはこういう事だったのだ。
爆弾仮面の投げつけた爆弾に巻き込まれ、散り散りに吹き飛ばされていく二人のゴレンジャー。
ここで仮面怪人たちが動き出す。(ナイフ仮面にとって)邪魔者であるミドを力自慢の岩石仮面が力ずくで足止めする。そこを一人、孤立する形になったモモをナイフ仮面に与えてやる。
粗暴さと可逆心に溢れ、一度目ぼしい獲物に目を付けると誰にも欲望を抑制する事ができないナイフ仮面に対して催眠仮面、いや黒十字戦隊が“ヤツ”をなだめるためによく使う作戦だ。何よりモモはそんなヤツらの敷いた“地獄へのレール”にまんまと乗ってしまったのである。
「モモッ!?オレの事はいい!逃げろ!逃げてくれ!…!ぐあああああぁ!?」
「ガルッ、ガルルルルッ…」
岩石仮面に踏みつけられている自分よりも“あの”狂気じみたナイフ仮面に晒されている眼前の女戦士の方が遥かに危険な状況に晒されている。それはミドも直感的に肌で感じ取ったようだ。
(ミ、ミド!?…で、でもそんな事わたしに…わたしにできるわけないわ!)
だが足蹴にされて地面に抑えつけられているミドを目の当たりにし、一人逃げる事など仲間への思いやりと正義感に溢れる彼女ができるわけがない。
ザッ。
「キヒヒヒッ…ねえちゃんもいよいよオレと遊んでくれる気になってくれたみてえだなぁ~、キーッヒッヒッヒッヒッヒッ」
「モモ!?ダメだっ、モモッ!モモォーッ!」
(戦うしか…わたし一人でも戦うしかない!このままミドを放っておくわけにはいかないわ!それに…さっきあのヘンタイに受けた“あの屈辱”…絶対にお返ししてやるんだから!)
様々な思いを胸にナイフ仮面と正対するモモ。結局、彼女は目の前のナイフ仮面と、今一番戦いたくないヤツと戦わざるを得ない状況に追い込まれてしまっていたのである。
「キヒヒヒッ…いよいよだぁ、いよいよだぜぇ…犯ッテヤル、犯ッテヤルぜぇ!キーッヒッヒッヒッヒッヒッ」
かくしてゴレンジャーの紅一点、モモレンジャーはかつてない最強の敵、いや“最凶の敵”と戦うハメになってしまったのである…。
- 以下 緑の洗脳!!恐怖の黒十字戦隊 モモ色への狂気へ続く -