- 最後の水着がif… 中編 -
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…
「ギヒヒヒッ…では樹里ちゃん♪そろそろ市庁舎のご期待に応えてオールヌードになりましょうかね~♪ゲヘヘヘヘヘッ」
下卑た笑みを浮かべながら、股間に鎮座する『性器』をそそり起たせながらゆっくりと樹里へ迫っていくバラクローズ。
(う、ううっ……ま、負けられない…こんなヤツに負けたくない!……でも、でも…)
そんなバラクローズを見て、その場へうずくまっていた樹里も気力を振り絞って立ちあがり、何とか戦闘態勢、ファイティングポーズのようなものだけは取って見せる。
だが彼女のその構えはいかにも弱々しい。樹里も必至に心を奮い立たせようとしている。
しかし今の樹里はそうすることができない。これまで蓄積されてきた精神的なダメージが、それまで信じてきた物にことごとく裏切られてきたというショックが、鉄のような屈強さを持っていたはずの彼女の意志をトロトロと溶かしていたのだから。
…ガッ!
「やっ!?な、何!?」
そしてそんな弱り果てている樹里へ襲い掛かるさらなる試練。彼女は突然、自身の両脇をロックするように『何者か』によって拘束されてしまったのだ。
「フフフフッ……そーら捕まえたぞ?樹里」
「た、隊長!?」
突然拘束されてしまう事態に驚き樹里が後ろを振り返ると-。そこにはオーレンジャーの隊長、星野吾郎の姿があった。
吾郎は樹里の背後から彼女に抱き着き、両脇をロックするようにして樹里の体を持ち上げている。吾郎が樹里の体をゆさゆさと揺らす度に、既にあらわになっていた彼女の生乳房もふるふると震えていた。
…ガッ、ガッ!
「あっ!?し、昌平…ゆ、裕司…!?」
そして次々と樹里へ襲い掛かる、バラクローズに操られていた彼女以外のオーレンジャーの4人。樹里の右足へ昌平が、同じく彼女の左足へ裕司が組み付いてきたのだ。
「へへへへっ…やっぱいい体してるよな、樹里は」と昌平。
「ホントだよ…オレたち、本当はおまえの体、ずっと前から触ってみたかったんだぜ、こんな風によ?へへへへっ…」
そう言って樹里の左足へ組み付いていた裕司が、彼女の太腿や尻の感触を確かめるようにいやらしい手つきでスリスリと…。
「…こ、こんな…こんなこと止めて!みんな!お願い!お願いだから正気に戻って!」
敵に操られている状態とはいえ、仲間たちからの突然の集団痴漢行為に当惑するばかりの樹里。
…ムニュ。モミモミ、モミモミ…。
「やっ!?あっ…あっ…あっ…あっ…」
だが仲間たちからの痴漢行為はとどまるところを知らない。背後から樹里の体へ組み付き両脇から彼女の両腕をロックしていた吾郎の両手が、彼女の乳房を、推定Eカップの生乳房をモミモミと…。
「フフフフッ…見た目通り、中々いい感触じゃないか、樹里?」
「た、隊長!?あっ…や、止めて…こ、あっ…こんなこと…や、止めてください!…あ、あっ…」
「何故だ?何故止めて欲しいんだ?お前、さっきはだけていた自分のおっぱいを自分の腕で隠していたじゃないか?だから代わりにオレがこうしてお前のおっぱいを人間たちから覆い隠してやってんだろ?…ほらほらっ、フフフフフフッ」
「そ、そんな…あっ、あっ…あっ、あっ…」
顔色一つ変えずに、しかしどことなく冷淡な笑みを浮かべながら樹里の生乳房を気持ちよさそうに揉みほぐしている吾郎。
普段は厳格な軍人である吾郎。だが今はどうであろうか-。部下である美女戦士の胸揉みにいそしむ彼のその姿からは、そんな面影などもはや見る影もない。
そんな変わり果てた吾郎の姿に樹里も少なからずショックを受けていたはずだ。あの普段厳格な隊長が-。見る影もなく変わり果てた仲間たちによって次から次へと淫らに弄ばれていく美女戦士。樹里の困惑の色合いは増すばかりである。
しかし樹里が困惑の色合いを濃くしていっているのはそれだけが原因ではなかった。
「フフフフッ……どうした樹里?ちょっとおっぱいを揉んでやっただけなのにもうこんなに乳首が勃起してきてるじゃないか?『止めて』とか言っといて本当はお前も嬉しいんじゃないのか?」
「そ、そんなこと…あ、あっ、ああぁ!?」
(…で、でも何で!?…ち、ちょっと胸を揉まれているだけのはずなのに……か、体が何でこんなに熱いの?熱くなっていくの!?)
それは樹里自身の体がみるみる熱くなっていくから。とめどなくほてっていく自身の体にとまどうばかりの樹里。
「ほらほら、ほらほら、フフフフッ、フフフフフフッ…」
「あ、あっ…ぁ、あっ、あっ…ぁ、ぁ、あぁ…」
樹里の柔らかな乳房をまるでマッサージするかのように揉みほぐしていく吾郎。その彼の手の動きに合わせるように樹里の唇から甘い吐息と喘ぎ声が漏れていく。
「…何よ?たかだか隊長に少しだけおっぱい揉まれてるだけじゃない?それなのにそんなに淫らにもだえちゃってさ……あんた、やっぱ淫乱女だったんだ、樹里?ウフフフッ♪」
そこへバラクローズに操られていた吾郎たちと同じような冷淡な笑みを浮かべていた桃が、樹里の正面から彼女へ迫っていく。
「あ、あっ…ぁ、あっ、あっ…ぁ、ぁ、あぁ…」
だがもはや吾郎の『胸揉み』によって快楽の渦へ飲み込まれようとしている樹里は、その桃の声にすら反応することができない。
「…何?もうまともに受け答えすることすらできないわけ?だっさ…」
両の手の平を上に向け『やれやれ』といった面持ちで首を横に振ってあきれている様子の桃。
「ギヒヒヒッ…まぁそう言うなよ、オーピンク。さっき樹里ちゃんのおっぱいはオレの特製の溶解液をモロにかぶったんだからしょうがないんだよ。媚薬がたっぷりと混ぜられているオレ特製の溶解液をな、グヘヘヘヘヘッ」
(…だ、だから…だからさっきからちょっと胸を触られているだけなのに…こ、こんなに体がほてってきて…)
そしてそんなあきれかえっている桃をなだめるように声をかけてきたバラクローズ。そのマシン獣はいつの間にか樹里の数メートル前まで迫ってきていた。すぐ右側に、淫らにもだえ続けている樹里の『ベストショット』を捕らえようとテレビカメラを肩越しに構えているバーロ兵を従えて。
「ふーん……ま、いいわ。ね、隊長?わたし、これからこの淫乱女とお話がしたいのよ。お愉しみのとこ申し訳ないんだけど、少し手を止めていただけるかしら?」
「何だよ桃?まったく、しょうがないな…ほら。これでいいんだろ?」
「そうそ。ありがと、た~いちょ♪」
そう言って樹里を『胸揉み』から解放するようにうながす桃。桃の要求にしぶしぶ応じ、樹里の生乳房を解放していく吾郎。
<おおおぉ♪スゲー!>
やがて再びあらわになっていく、張りがあって、それでいてほどよい柔らかさがありそうなボリューム感たっぷりの乳房。先ほどよりも明らかにツンと勃っている乳首-。それらが再びカメラに収められると、またしても視聴者=人間たちからの歓声が上がった。
「…ぁ…ぅ……はぁ…はぁ…はぁ…」
「…フン。やっとまともに話ができそうじゃない?樹里」
「…はぁ…はぁ……も、桃…!?」
散々もだえさせられ、喘ぎ疲れ、もはや息も絶え絶えの樹里。そして彼女はまるで生気のない、うつろな瞳で目の前に迫ってくる桃をやっとの思いで見る。
…クイィ。
「あぅ!?」
やがて樹里の眼前まで近づいた桃は、自身の右手で樹里の下アゴをクイィと掴んだ。もっとも樹里と桃は身長差が15cm以上はあるので、アゴを掴んでいる桃の方が樹里を見上げるような形にはなっていたのではあるが。
「それにしてもあんたがあんなに淫乱女だってのは知らなかったよ、樹里。たかだかちょ~っと隊長におっぱい揉まれただけじゃない?」
「…も…桃…」
親友である桃の口から発せられた自分へ向けての罵詈雑言。いくら敵に操られているとはいえ、それは今の心が弱っている樹里にとってはあまりな仕打ちといえた。
戦友である仲間やこれまで懸命に守ってきた人間たち-。この戦いで、樹里は今まで信じてきたものから次々と裏切られている。当然、桃から受けたこの罵詈雑言にもショックの色がアリアリだ。
「ギヒヒヒッ…だからさっき説明してやっただろ?オーピンク、グヘヘヘヘッ」
「ですけどねバラクローズ様……やっぱこの女は淫乱でふしだらな女なんですよ!」
…パチン!
「あぁん!?」
やがて桃は空いていた左手で樹里の右乳首をつまむと、それを思い切り引っ張って指から離した。思い切り伸ばされていた樹里の右乳首が勢いよく元に戻る。
何かがはじかれたような衝撃音と共に樹里の口からも悩ましげな悲鳴が上がる。既に『媚薬まみれ』になっていた胸にそのようなことをされては、当然樹里はたまったもんじゃない。
「…フン!それにしてもたかだかビーチクをつまんでやったくらいなのに、これみよがしに悩ましげな声上げちゃってさ……そうやってまた、世の男どもをたぶらかそうってわけ?」
「う、ううぅ…そ、そんなわけ…」
「そんなわけあるわよねぇ、樹里?あんたって昔からそういう女だったんだからさ!」
(う、ううぅ…も、桃…)
次から次へと桃の口から繰り出される言葉責めに打ちのめされていく樹里。
「それにさ、樹里。実はわたし、昔っからあんたのこと気に入らなかったんだよ!」
(……ウソでもそんなこと…操られていてもそんなこと言わないでよ…も、桃…)
例えウソだと分かっていても、敵に操られていると分かっていても、それは親友である桃の口からは絶対に聞きたくはない言葉だった。仲間たちから樹里が打ちのめされるのはこれで何度目だろうか。
「そうよ!だいたいあんたってわたしよりちょ~っと背が高いからってそれを鼻にかけちゃってさ!」
「!?…そ、そんなこと…」
「そんなことあるじゃない、この淫乱女!……樹里、あんた今年の春頃、わたしと一緒に副買いに行った時のこと、覚えてるわけ?」
「…こ、今年の…春…?」
今年の春頃-。それは確かオーレンジャーロボがまだ完成したばかりの頃だったはずだ。そのことは樹里もよく覚えている。そして桃と一緒にウィンドウショッピングをしていて副を買ったということも。
だが樹里の脳裏にはそれ以上の記憶はない。ましてや桃から恨みを買うようなことをしたことなど。
「そう!今年の春よ!そこであんた、わたしに何て言ったと思ってるわけ?」
「…わ、わたし……な、何て…」
「やっぱ覚えてなかったわ!このクソ樹里!…いい!あんた、わたしにこう言ったのよ。『あらあら、怖いわねぇ自分を知らないって。こういう服はね、ドーンとスタイルが良くないと似合わないの、分かる?あなたみたいにちっちゃいと、ちょっとねぇ』ってね」
「…そ、そんな……あれは…あれは!?」
あれはコミュニケーションの中でのただの軽口じゃない-。その言葉を今まさに口から吐き出そうとして、樹里はそれを直前で言いとどまった。いや、言えなかったのだ。
樹里にとってそれはただの『軽口』のつもりだったのかもしれない。だが一方それを言われた桃からみれば、ただの『軽口』で済ませられるようなものでは無かったのかもしれないのだから。
もしかしたらあの発言が本当に桃を傷つけていたのかもしれない。だから敵に操られている状態である今の桃の口からこのような発言が出てくるのかもしれない-。そう思うと樹里は反論することができなくなってしまう。
「あれは何だって?あれはあのまんまでしょ!だいたいね、背はあんたの方が確かにちょっとばかり高いかもしれないけど、そもそも胸はわたしの方が大きいのよ、樹里!そこのとこ、改めてハッキリさせといてやるわ!」
そう言うと桃は大きく胸を張って、己の豊満なバストを樹里に向かって誇示する。
確かに体に対する胸の大きさとしては樹里より桃の方が大きいようにも見える。いずれにしても彼女たち二人が『巨乳』と呼べるような、豊満なバストをその肢体に抱えていることは間違いない。
「バラクローズ様」
そして一通り樹里を罵倒し終わると、桃は後方にいるバラクローズへ向かってクルリと向き直る。さらにバラクローズへ向かって深々と、慇懃な感じで一礼しこのように宣言するのだ。
「今からわたしたちがこの淫乱女を全裸に剥いて差し上げます。その後、丸裸となったこの女をバラクローズ様に差し上げますわ。だから、バラクローズ様はこの女が剥かれていく様子をそこで見ていてくださいませんか?」
「ギヒヒヒヒッ…よかろう。それにしてもおまえはういヤツだな、オーピンク♪」
「ハイ、そのようにおっしゃられてわたしの方こそ光栄ですわ、バラクローズ様。…ウフフフッ♪」
(も、桃……お、お願いだから…そんなこと言わないでよ…)
いまやオーピンク・桃は完全にマシン獣・バラクローズの僕(しもべ)である-。まさにそう樹里に見せつけるかのようなシーンが、彼女の眼前では繰り広げられていた。
「ウフフッ♪…そういうことだよ、樹里。今からこのわたしがムカツクあんたを丸裸に剥いてやるわ!…と言ってもいまやあんたの着ている物はそのビキニのパンツ1枚だけだからねぇ」
そう言って桃は樹里の黄緑のビキニパンツを見る。彼女の臀部と股間をかろうじて覆い隠していたビキニパンツを。
「…何だかこのわたしが手を下さなくてもその内誰かに丸裸に剥かれてしまいそうだけど。ま、いいわ。せっかくだからこのわたしが『元仲間』のよしみとして最後に引導を渡してあげる♪、キャハハハハハ」
(…も、桃……もうわたしの知っている『あの桃』に戻ることはないの?)
そうかつての親友に先刻している桃は実に楽しそうだ。一方の樹里が桃を見つめる視線は対照的に実に悲しげである。それは『正義の心』を完全に忘れてしまった仲間たちへの憐みの瞳と言ってもいい。
しかし樹里は大事なことを忘れてしまっている。今、彼女には他人のことを心配しているような余裕はないということを。
…グイィ。
「やっ!?」
「ウフフフッ……さぁ!今からコイツをキレイさっぱり剥いてやるよ。そして全世界の人間どもにあんたの丸裸を、あられもない姿を晒してやるんだね!」
だが樹里はすぐさま『現実』へと引き戻される。先程、バラクローズへ『誓い』を立てた桃が樹里の体に唯一残っていた衣服である、黄緑のビキニパンツをグイッと引っ張ってきたのだ。
「さ、た~いちょ。このナイフでこのクソ樹里のビキニを切り刻んでやってよ♪」
「おいおい、一応、かつては親友だったんだろ?桃。いくら何でもその言い方はないんじゃないのか?」
桃へそううながされ、彼女が引っ張っていた樹里のビキニパンツへ桃から手渡されたナイフを当てる吾郎。
「な~に言ってるんですか隊長!そんなの『フリ』に決まってるじゃないですか!フリですよ、親友のフリ♪キャハハハハハ!」
それにしても『今の桃の様子』は本当に心から楽しげだ。もはや今の彼女には『樹里へのためらい』は微塵もないように見える。
「さぁ樹里!今から丸裸へのカウントダウンだよ!10秒後にあんたは本当に素っ裸さ!」
だが、そんな桃も樹里を見つめる時の瞳だけは冷ややかだ。樹里へ『死刑執行』を冷徹に先刻する桃。
(…う、ううっ…こ、こんな…こんなことって…)
かつての大親友、桃からの『死刑執行』にも等しい先刻。それまで身も心もボロボロに汚されながら必死の抵抗をしてきた樹里もついに観念したのか、現実から視線をそらすように思わず瞳をつぶってしまう。
パシィ!
「ぁう!?」
だが、それすらも今の樹里には許されない。樹里が瞳を閉じてしまうのを阻止するかのように、桃が左手で樹里の頬を軽くはたいてきたのだ。
「オラ、このクソ樹里、何勝手に目ぇつぶってんだよ!無力な自分が無残にも丸裸に剥かれていく様、よーく目に焼き付けておくんだね!」
(う、ううぅ……も、桃……も、もう…やめてよ…)
このあまりにも残酷な現実から目をそらすことすら許されない。かつての大親友のあまりの仕打ちに、樹里は思わず桃に哀願の視線を向けてしまう。
これは本来、気の強い樹里からすれば考えられないことだ。例えどのような苦境に立たされてもこれまでなら、敵に対してこのような表情を見せることはあり得なかったのだから。
しかし今、樹里の目の前にいる『敵』はこれまで彼女が戦ってきたバラノイアのマシン獣ではない。かつての仲間であり、かけがえのない親友だったはずの桃なのである。その現実が、樹里が本来持っている闘争心を鈍らせ、このような『彼女らしからぬ』表情をさせているのだろう。
……えっ!?-。だがそんな、哀願のまなざしで目の前にいる桃を見つめていた樹里が一瞬、キョトンとした表情を見せる。
(…も、桃……それ、本当なの?本当にそれ、信じていいの?)
オーレンジャーサイン-。桃を見つめていた樹里が驚きの表情をみせたのは、目の前にいるかつての親友からそれを受け取ったからだ。
それはオーレンジャーの退院にしか解読をすることができない、わずかな表情や唇の動きで退院に意思表示を伝える特殊なサインのことだ。このドタン場で樹里は、桃からそれを受け取ったのだ。
「10……9……8…」
だが一方で、桃の唇からは何事も無かったかのようにカウントダウンが紡がれていく。そう。今の桃は完全にバラクローズによって操られているバラノイアの先兵であり、そんな彼女から『特殊なサイン』であるオーレンジャーサインが出されるわけがないのだ。
(…そのサインは…そのサインは本当なのね、桃?信じていいのよね?桃)
「7……6……5…」
しかし、オーレンジャーの隊員たちは厳しい訓練を重ねることでこのサインを決して見落とさないように訓練を積んできている。それは例えどのような状況にあっても-。疲労困憊の状況、精神的に動揺が激しい状況、プライベートの楽しい時間-。でもなのだ。当然、それは樹里自身にも当てはまるというわけである。
「4……3……」
(…それに桃から出されたサインの内容が本当なら確かにわたしたちは必ず逆転できる!必ず勝てるわ!)
そして、どうやら樹里が桃から受け取ったサインは『彼ら』オーレンジャーの逆転勝利を可能にしてくれる作戦のようなものらしい。それは『絶望の淵』まで追い込まれていた樹里にさえ希望を与えてくれるものだというのだ。
(…で、でも…でもそんな…そんなことって…)
だが、そのような美味い話そう簡単に信じていいものだろうか?-。この戦いのさなか、いく度も信じてきたものから裏切られ続けてきた樹里だ。当然、そのような猜疑心にかられても何ら不思議なことではない。
今の状況下では、オーレンジャーサインへ絶対の自信を持っている樹里といえど、さすがに半信半疑にならざるを得ないのだ。このサインの解読の真偽が、数秒後の自身の運命を決定付けてしまうのだから。
「2……1…」
(でもわたしは…桃を…みんなを信じるしか…そうするしかないもの!)
しかしもはや樹里に選択の余地は残されていない。既にその身を拘束され身動きがほとんど取れない以上、彼女は元仲間たち、いや仲間たちに己の運命を委ねる他ないのだから。
「…ゼロ!」
……みんな!-。桃のカウントダウンが終わった瞬間、樹里は祈るような気持ちで瞳を閉じた。このまま己のオールヌードを全世界に晒すことになってしまうのか、はたまた-。数秒後にはまさに、運命の分かれ道、分水嶺が樹里を待っている。
ザッザッザッザッザッ…
桃のカウントダウンが終わると同時に樹里の周りであわただしく動き始める複数の足音。だがその『足音』の目的が一体どういうものであるのか、ただひたすら瞳を閉じていた樹里には全く分からない。
南無三!-。この時の樹里の心の中を一言で表すのなら、まさにその言葉がピッタリだったはずだ。
「およよよよ!?な、何だ、お、おまえら!?」
だが、この時の彼女には『奇跡』が待っていたのかもしれない-。突如バラクローズから上がったうろたえるような声が、その第一歩だったのだ。
「うるさいんだよ、バラクローズ!お前との芝居もこれまでってことさ」そう言うのはバラクローズを右側からつかまえている昌平だ。
「そうそう!あのくらいの芝居でも打たなきゃマシン獣のお前はだませないからな」バラクローズを左側から捕まえていた裕司も続く。
「そういうことだ。だがもうあんなお芝居は終わりだ!今度はオレたちオーレンジャーがお前に攻撃を食らわせる番だ!」バラクローズを背後から羽交い絞めにしていた吾郎が力強く反抗宣言をする。
「うぬぬぬぬ……何故だ!オレのメタリックウェーブを浴びた人間がそう簡単にオレを裏切れるわけがないはずだ!」
「甘いわねバラクローズ!わたしたちを……鉄の意志を持つオーレンジャーであるわたしたちをそう簡単に操れるなんて思わないことね!」
そうバラクローズへ言い放つ桃の声は、樹里を『責めていた時』とはまるで違う、力強さと凛々しさに溢れている。何故なら、彼女もまぎれもなく樹里と同じくスーパーヒロインなのだから。
「樹里……さっきはひどいことを言ってゴメンね。でももう大丈夫よ!」
「も、桃……本当に…本当に『わたしの知ってる』桃に戻ってくれたのね?」
そう言いながら、樹里は信じられない思いで桃を見つめている。彼女はそれまで散々仲間たちに、そして人間たちに裏切られ続けてきたのだからそれも当然なのだろう。
「もちろんよ樹里!さぁ!今度はわたしたちがバラクローズをブチのめす番よ!」
拳を振り上げ、そう力強く樹里へうながす桃。
……うん!-。その桃へ力強くうなずく樹里。まさにこれから、オーレンジャーの反撃が始まろうとしている!
「うぬぬぬ、くそっ!?離せぇ!このぉ!」
一方のバラクローズ-。オーレンジャーの男性隊員に上半身を拘束され、ほとんど身動きを取ることができない。
「へっ!バカ言うなよ!離せと言われて離すわけがないだろうが!」そう言うのは昌平だ。
「いよいよ年貢の納め時のようだな、バラクローズ!」裕司もそれに続く。
「さぁ樹里!お前の得意なマーシャルアーツ仕込みの蹴りをコイツに叩きこんでやれ!これまでの借りを返してやるんだ!」
「隊長、みんな……了解!」
……ダッ!-。吾郎にそううながされ、身動きが取れないバラクローズ目がけて懸命に駆け出す樹里。
<うおおおおぉ!いけー!樹里ちゃぁぁぁん!>
そして樹里が駆け出すとたちまち湧き上がる、視聴者からの大歓声。そう。味方であるバラクローズが危機に陥っていても、カメラを構えたバーロ兵は黙々と『自分の仕事』をこなしているのだ。
<すげぇぇぇぇ♪走ってる樹里ちゃんの胸が揺ら揺ら揺れてるよ!>
だが、樹里に向けられている声はただの声援ばかりでもないようだ。やはり、上半身をあらわにしていた樹里が懸命に駆けていく様は、別の意味で視聴者たちの目を引くのだろう。
「はあああああ!!」
しかし今の樹里にはそんな『卑猥な声』も耳には入らない。大逆転勝利へ向け、樹里の集中力は極限まで高まっているからだ。
「くそぉ!離せ!離せぇぇぇ!」
「こい樹里!お前の懇親の蹴りをコイツに食らわせてやれ!」
<いけぇぇ!樹里ちゃぁぁぁん!>
<すげぇぇぇ♪樹里ちゃんのおっぱいが!樹里ちゃんのおっぱいがぁぁぁ!>
わめくバラクローズ、その後ろから絶叫する吾郎、視聴者からの大声援、それに混じるように聞こえてくる下種な野次-。まさに『声の混沌(カオス)』のさなか、バラクローズへ一目散に突進していく樹里。
「やあああぁぁぁぁぁ!!」
「お、およよよよよ!?じゅ、樹里ちゃん、止めてくれぇぇぇぇ!」
一気に間合いを詰めてきた樹里を前に、たまらず許しを請うバラクローズ。だが、そんなもの今の樹里の耳に入るわけがない!やがて…
バキキィ!
「ぐへぇぇ!」
右ハイキック一閃-。強烈な打撃音と共に、樹里の長い右脚がバラクローズの顔面へ炸裂する!
「やっ!はぁっ!たああぁぁ!」
「ぐぶっ、ぐべっ、ぐへぇぇ!?」
だがそんなもので樹里の攻撃が止まるわけがない。バラクローズの醜い顔面をさらに醜くする、樹里の連続攻撃!-。これまでの鬱憤を晴らすかのように、左右の長い脚を振り回して樹里が強烈な蹴りをバラクローズへ次々と決めていく。
「いいぞ樹里!もっとだ!もっと打ち込んで来い!」そう言うのは、後ろからバラクローズを羽飼閉めにしている吾郎だ。
「その調子よ樹里!ほらっ、そこよ!」
少し離れた場所で『戦いの模様』を眺めていた桃。そんな彼女も興奮のあまり拳を上げ、親友へ送る声援にもより一層力がこもる。
<いいぞぉ!樹里ちゃぁぁぁん!>
<やっぱすげぇよ!樹里ちゃんがキックをするたびにあのおっぱいが♪樹里ちゃんの生おっぱいがぁぁぁぁ!>
そして視聴者からは相変わらずの様々な反応が聞えてくる。純粋に樹里へ声援を送る者、相も変わらず樹里へ卑猥な声を上げている者-。その割合はほぼ五分と五分といっていい。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「ぐ、ぐふぅ……も、もう…もうやべで…」
やがて、さすがに蹴り疲れた樹里の手が止まった。だが、もう既にバラクローズの顔面はボコボコだ。もはや原型をとどめてないといってもいい。
「そうだ裕司!そろそろ樹里にあれを渡してやれよ」
「おうそうだったな!…おい樹里!コイツを受け取れ!」
それを見て、裕司へ『とある物』を樹里へ渡すようにうながす昌平。
……ポイィ。
「これは?……わ、わたしのパワーブレス!?」
やがて投げ渡された『それ』を受け取る樹里。そしてそれは何と-。彼女がオーイエローへ変身するためのアイテム、パワーブレスだったのだ。
「でも何で?…何でみんながこれを?」
「今はそんなことはどうだっていい!早くそれでオーイエローになってバラクローズへトドメを刺すんだ!樹里!」
「隊長、みんな……OK!了解したわ!」
-続く-