- 最後の水着がif… 前編 -

久々の休暇をとあるビーチを訪れ楽しんでいたオーレンジャーの五人。
「次は女の方だな…ギヒヒヒヒヒッ」
だがそこにもバラノイアの魔の手が-。マシン獣、バラクローズがこのビーチを暗躍していたのだ。
そしてバラクローズの触覚から放たれる光線、メタリックウェーブは光線を浴びた者の着ている服を鋼鉄にしてしまう効果がある。
「やめてみんな!目を覚まして!あんなヤツに負けちゃダメ!わたしたちはオーレンジャーなのよ!鉄の意志を持った戦士じゃない!」
しかもそれだけじゃない。その上そのメタリックウェーブを浴びた服を着ている者はバラクローズの想いのままに操られてしまうのだ。
「隊長、昌平、裕司、桃…必ず元に戻してみせるわ」
そしてオーレンジャーの面々はこのメタリックウェーブを次々と浴びてしまい、オーイエロー・二条樹里を除いて全員がバラクローズの意のままにされてしまうのだった。

バラクローズに操られた仲間たちに襲われ、頼みのパワーブレスも失ってしまった樹里は何とかかき集めたマシンガン、手榴弾などの武器を手に必死の抵抗を試みる。
だが多勢に無勢。奮戦むなしく樹里はバラクローズに、そして操られた仲間たちに徐々に追い詰められていく-。やがて樹里はとある更衣室に何とか逃げ延びたのであった。
(…はっ!?)
…シャアアアアァァァァ…
樹里が逃げ延びた更衣室にはシャワー室があった。そしてそのシャワー室では誰かが気持ちよさそうにシャワーを浴びている。
その時、樹里の視線に着替えの置いてあるロッカーが飛び込んできた。黄緑の水着が置いてあるロッカーが。恐らくはシャワーを浴びている『女性』の物なのだろう。
「正義のため、地球のため……ちょっとお借りします」
そのロッカーに置いてあった水着を樹里は申し訳なさそうに拝借する。どうやら彼女はこの水着を見てバラクローズへの対策を何かひらめいたようなのだが…。

バラクローズ、そしてヤツによって操られた仲間たちと再び対峙する事になった樹里。だが所詮オーイエローへの変身能力を失った樹里一人では如何ともし難く、またもや徐々に追い詰められていく。
「グヘヘヘヘッ、ようやくおとなしくなったな。オレの手足となれ!オーイエロー!メタリックウェーブ!」
ビビビビビビビビビッ!
「ああっ!?ああああああっ!」
そしてついには樹里もバラクローズの放つメタリックウェーブの餌食に-。
「おおっ!?」
と思いきや樹里は着ていたワンピースの水着を脱ぎ捨てる。彼女はワンピースの下にもう一枚水着を着ていたのだ。
「うぬぬ…ならばもう一発!メタリックウェーブ!」
ビビビビビビビビッ!
「あああああぁぁぁ!?」
「どうだ、もう脱げまい!その水着を脱げば丸裸だぁ!」
さらにメタリックウェーブを浴びもだえ苦しむ樹里。それを見て勝ち誇るバラクローズ。
だがもう水着を脱ぐ事はできない。バラクローズの言うとおり、もし脱いでしまえば丸裸になってしまうからだ。まさに絶体絶命の樹里!……ところが。
「およよよよよ!?」
ところが樹里は着ていた『最後の砦』のはずの水着をあっさり脱ぎ捨てる。しかも脱ぎ捨てて丸裸になるはずの樹里の身体にはもう一枚水着が!
脱ぎ捨てた水着の中から現れたのは黄緑色のビキニ-。先程、樹里が更衣室で申し訳なさそうに拝借していた胸と股間、臀部だけを覆い隠す大胆な水着だった。
しかしその大胆な水着を身にまとっても樹里のスーパーボディが色褪せる事はない。むしろその水着の大胆さが彼女の魅力をさらに引き立てる。
173cmの長身にバスと87cm、ウエスト60cm、ヒップ88cm-。まるでそのスーパーモデル並に抜群のスタイルを見せ付けるかのような樹里の脱ぎっぷり!
「おおおっ!」
その見事な脱ぎっぷり、大胆な黄緑のビキニを身にまとった魅力的な樹里のスーパーボディにバラクローズはたまらず視線を奪われてしまう。
彼女のスーパーボディには心などないはずのマシン獣をも魅了してしまうほどの魔力があるのか。はたまたバラクローズが機械生命体のクセに人間のエロティズムを理解できてしまうほどの『人間臭さ』があるのか…。
「はっ!」
そしてスーパーモデルの顔から戦士の顔に戻った二条樹里はすかさず反撃に打って出る。バラクローズが自身の大胆ビキニ姿に注意を奪われている間に。
「おのれぃ!……ナイスバディ!」
「スキあり!たあああぁぁぁ!!」
さらに樹里はスキだらけのバラクローズに向かって攻撃を仕掛ける。バラクローズの触覚目掛けて懇親の飛び蹴りを!
「ぐおおおっ!?……な~んちゃって♪」
「えっ!?」
バキキッ!
「あああっ!?」
だがそれはバラクローズの巧妙な罠だった。樹里を誘い出すため、わざと彼女のビキニ姿に見惚れてスキだらけのフリをしていたのだ。
己の触覚目掛けて飛び込んできた樹里を難なくカワシタバラクローズは、まるで『ハエ叩き』でもするかのように彼女を砂浜へ叩き落す。
「…う…ううっ……ああっ!?」
「オラオラッ!グヘヘヘヘヘッ」
グリ、グリ、グリ、グリ…
さらにバラクローズの攻勢は続く。樹里を砂浜へ叩き落したバラクローズは、彼女の身体をあお向けにする。そしてその鍛えられた腹筋をグリグリと踏みつけ始めたのだ。
「ああぁ!?ああああぁっ!?」
「グヒヒヒヒヒッ、今度こそオレの意のままになるのだな、オーイエロー!…食らえ!メタリックウェーブ!!」
「ああああっ!?」
(くっ!?や、やられる!?……みんな、ゴメン)
今度こそ絶体絶命!!-。メタリックウェーブの声を聞き、さすがの樹里も今回ばかりは観念するしかない-。かに見えたのだが…。
「およよ!?メタリックウェーブが出ねえぞ?どぉいう事だ?」
しかしマシン獣の触覚から例の光線は出ない。『メタリックウェーブ!』の声がむなしく響き渡るだけだった。エネルギー切れ!?-。自身の触覚からメタリックウェーブが出ずうろたえるバラクローズ。
(あの光線が出ない?どうして!?……でもそれならまだわたしにもチャンスはある!)
そして、そのようなバラクローズの姿が、絶望しかけた樹里の心に再び希望の光を点すこととなる。まだ、完全にあきらめるのは早い、と。
「ぐっ…このぉぉぉぉ!」
すかさず樹里は反撃に打って出る。まず自身の腹部を踏みつけていたバラクローズの足を懸命に払いのける。
「おわぁ!?」
たまらずバランスを崩して後方へのけぞってしまうバラクローズ。そして樹里はその隙を縫って素早く起き上がり、後方へ飛びのいてファイティングポーズを取る。
「はぁ、はぁ……残念だったわね、あの光線が出せないなんて」
敵の失策により、絶対絶命のピンチから辛くも逃れることができた樹里。だがそれでも今の状況が樹里に圧倒的に不利なことには変わりは無い。
オーイエローに変身するためのパワーブレスは既になく、必死にかき集めた武器もこれまでの敵の猛攻を前に次々と失い、樹里が重ねて着ていた水着もメタリックウェーブによって3枚の内2枚までも剥ぎ取られてしまった。今や樹里に残されたものは、現在身に着けている黄緑のビキニ、そして己の肉体だけである。
しかしそれでも樹里の闘志が失われることはない。どのような逆境に追い込まれても、どのような苦境に立たされても、そこにバラノイアがいる限り彼女は戦う-。国際空軍所属、二条樹里中尉とはそういう女性なのだ。まさに軍人の鑑であり、頼もしきスーパーヒロイン!
だが、彼女の『そのような』軍人としての、スーパーヒロインとしての資質が時に仇となることも-。これから樹里に降りかかろうとする悲劇は、まさにそれだった。

「むぅぅぅぅ……えぇい!止めだ止めだ!もうメタリックウェーブでおまえを『オレの物』にするのは止めだぁ!」
「フンッ、それじゃ一体どうするつもりなのかしら?バラクローズさん♪」
樹里としては当然の疑問だ。何しろ樹里を始めオーレンジャーの面々は、それまで『あの光線』を前に散々苦労させられてきたのだから。だが敵はその光線を自らあっさりと捨てた。
しかしそうなるともう肉弾戦しかないはず。そして肉弾戦での接近戦ならわたしのマーシャルアーツで-。樹里がそんな青写真を描いていた刹那、バラクローズから発せられたものはとんでもない宣言だった!
「なぁに、そんなの決まっているだろうが!メタリックウェーブでおまえを我が物にできないのなら、直接迫って押し倒して我が物にするしかないだろうが♪ギヒヒヒヒヒッ」
(な!?)
バラクローズから出た突然の強姦宣言。これには鉄の意志を持つ女戦士、樹里もさすがに驚きを隠せない。これまでバラノイアとの戦いの中で様々なことを経験してきた樹里もまさか異型の怪物、マシン獣にそんなことを宣言されるなど夢にも思わなかったはずだから。
…ん!?-。だが樹里はすぐさま平静さを取り戻した。そして…
「プッ…クックックックッ…アーッハッハッハッハッハッ」
樹里は突然噴き出し大笑いを始めてしまったのだ。これにはバラクローズもさすがに面食らってしまう。
「むぅぅぅぅぅ…なぁにが可笑しい!オーイエロー!」
「アハハハッ、だってそうでしょう?マシン獣のあんたが人間の女であるわたしを犯すですって?そんなことできるわけないじゃない?これが可笑しくないわけなんかないでしょう?アーッハッハッハッ!」
なおもバラクローズを指差し、目の前のマシン獣の愚かさをあざけ笑う樹里。だが樹里の言っていることはもっともなのだから、彼女にしてみればそれも当然なのだろう。
「ギヒヒヒヒッ、甘いなオーイエロー♪おまえはマシン獣のオレには人間の男についている『あれ』がないとでも思っているんだろう?」
「あったり前でしょ?だいたいマシン獣のあんたが人間の女であるわたしに興味あるわけ?」
「ギヒヒヒヒヒッ、それがあるんだよオーイエローちゃん♪言っただろう?オレはグラマーちゃんが大好きだと。そしてオレはおまえの『ナイスバディ』に惚れてしまったのさ、ギヒヒヒヒヒッ」
「それはどーも…って言いたいところだけど、バッカじゃないの!?あんたそれでもマシン獣なわけ?だいたいあんた、それだけでマシン獣のあんたがわたしを犯せるとでも思ってるの?」
目の前のエロマシン獣に対して一歩も引かない樹里。というよりも彼女にしてみれば、こんなバカマシン獣とこんなくだらない論争をしていること自体ナンセンスなのだ。
だがその『エロマシン獣』との論争にうんざりしていた樹里の表情が一変する。バラクローズが股間から取り出した『ある物』を目にして…。
「ギヒヒヒヒヒッ、どうしたオーイエロー?顔色があまりよくないぞ?それともオレの『ムスコ』を見てビビッたのかな?ゲヘヘヘヘヘッ」
そう。バラクローズが己の股間から取り出してきたものは、まさに人間の男が持つ『性器』だったのだ。それも機械の香りがまったくしない、ほぼ人間の男のそれと変わらないのだから、それを見てしまった樹里の表情が険しくなってしまうのも無理もない話だった。
「ハ、ハッタリよ、そんなもの!だいたいマシン獣にそんなものがついているなんて……バ、バカげているわ!わたしをバカにするのもいい加減にしてよね!」
「ギヒヒヒヒヒッ…バカげているかどうかはこれからすぐ分かることだ。…すぐな、オーイエローちゃん♪ゲヘヘヘヘヘッ」
強がってはいても同様の色が隠せない樹里に対して、下卑た笑と共に『マシン獣らしからぬ』卑猥な視線をビキニ姿の樹里へ浴びせるバラクローズ。
マシン帝国バラノイア-。ヤツらは間違いなく強敵である。それはヤツらとオーイエローとして戦い続けてきた樹里が、何よりも良く分かっていることだ。
だが同時に彼女にはほんの少し安心感もあったのかもしれない。敵が機械であるならば、少なくとも『女としての危機』に晒されるようなことはないだろう、と。
しかし今、その樹里の『安心感』は脆くも崩れ去ってしまった。目の前にいるマシン獣、機械であるはずの敵はまぎれもなく自分の身体をターゲットにしている。少なくとも口ではそう宣言しているのだ。
女戦士、二条樹里に訪れた初めてといっていい女性としての危機-。女戦士、いや女としての彼女に最大の試練が訪れようとしていた。

「ゲヘヘヘヘッ、いくぜぇ!うがああああぁぁぁぁ!」
まさに強姦魔と化したバラクローズが樹里という獲物へ襲い掛かる。
ガシィッ!
そして樹里とバラクローズはお互いの両手を掴んで力比べのような格好になった。だが、樹里も女性とはいえそれほど非力ではない。体格にも恵まれている彼女は、マシン獣との力比べにも決して負けていない。
「ぐぅぅぅぅぅ…やるなオーイエロー!」
「ううううぅぅぅぅ…あ、当たり前でしょ?あんたなんかにやられてたまるもんですか!」
「ゲヘヘヘヘヘッ…そうか!だがこれはどうかな?」
ビシュッ!
「きゃあ!?」
だがそんな均衡はあっさり破られる。バラクローズの股間にある『ムスコ』から溶解液が樹里の胸目掛けて発射されてきたのだ!白い色の溶解液が。
そしてその白い溶解液は、樹里の胸を覆い隠していた黄緑の胸当てをみるみる溶かしていく-。まず右半分があっという間に溶けてしまい、やがて『この黄緑の胸当て』では樹里の胸を覆い隠すことは不可能となってしまう。
「く、くっ…!?」
たまらず反射的に右腕で両胸を隠し、よろよろと後ろへ退いていく樹里。その表情からも今の樹里が、思わぬセクハラ攻撃にたじろぎ動揺していることが分かる。
いくら屈強で強靭な精神力を持つ女戦士とはいえ樹里も年頃の女の子なのだ。やはり羞恥心を完全に捨て去ることはできない。
「これで丸裸への第一歩だなぁ、オーイエローちゃん♪ゲヘヘヘヘヘッ」
しかも相手はマシン獣とはいえ、その敵は完全に自分の身体を欲望の対象にしているのだ。いくら何でもこのような状況では、樹里が『恥じらいの心』を完全に捨て去ることなどできないのも無理もないことだった。
(!…い、いけない!?わたしはマシン獣を相手に何を恥ずかしがっているの?それに幸いなことに周りに人は全くいないじゃない!こんな状況で恥ずかしがってどうするのよ。こんなことにひるまないで戦うのよ、樹里!)
だがやはり二条樹里は並の女性ではない。このような状況下にあっても彼女は自らを必死に奮い立たせ、わずかにあった羞恥心をかなぐり捨てようとしている。
樹里は両胸を覆い隠していた右腕を外し、さらに両腕を左右に目一杯広げて仁王立ちする。まるで目の前のバラクローズに自分の胸とスーパーボディを見せ付けるかのように!
「おおっ!?おおおおおおっ♪」
一方のバラクローズ-。そんな樹里の『大胆な行動』はバラクローズに歓喜の叫び声を上げさせる。
だがある意味、それは当然の反応なのかもしれない。何故ならバラクローズの眼前にはスーパーモデルのような樹里の裸体が、欲望の対象が、推定Eカップの彼女の生乳房があるのだから。
ただしそれは『人間の男なら』という注釈がつくはずだ。あくまでヤツは、バラクローズは機械生命体、マシン獣なのだ。やはり『樹里のセミヌード』を目の前にしてのバラクローズのこの反応は『奇異』という他ない。
「ゲヘヘヘヘヘッ、随分サービスいいじゃないか?オーイエローちゃん♪」
「フン!よく考えたらマシン獣のあんたなんかに裸を見られたって全然恥ずかしくとも何ともないわ!そんなにわたしの裸が見たいのなら好きなだけご覧なさいよ!」
エロマシン獣、バラクローズを前に必死に強がってみせる樹里。だがそれは半分以上は彼女の本心でもあるのだろう。
所詮相手は機械生命体、マシン獣である以上、いくら自分の裸に興味を持っているとはいえ、このような状況下で裸を見せることをためらっている場合ではないのだ。女戦士・二条樹里としては当然の判断である。
「ギヒヒヒヒヒッ…そうか、ならばその裸、オレだけが楽しむのはもったいないというものだな。そうだ!ではおまえのセミヌード、せっかくだから全世界にいる愚かな人間どもにも見せてやろう♪ゲヘヘヘヘヘッ」
(…えっ!?)
だが-。だがもし、樹里のセミヌードを見る対象がマシン獣のバラクローズだけでなく、人間の男にまで広がってしまったとしたら。それも少数ではなく多数の男に見られることとなってしまったとしたら-。バラクローズが今、高らかに宣言したのはまさにそういうことなのだ。

「おいおまえ!こっちに来い!」
バラクローズにそう言われてやってきたのは大型のテレビカメラのような物を構えたバーロ兵だった。そのバーロ兵が右肩にかついでいるカメラの横には『VTV』と記されている。
(何!?あのカメラクルーのような格好をしたバーロ兵は?一体これから何が始まるっていうの?)
当然、その『奇妙な』バーロ兵の姿は樹里の目にも飛び込んできている。しかも彼女にはこのバーロ兵が何を意味しているのか、ヤツらがこれから一体何をしようとしているのか?-。その意図が全く分からないのだ。
それだけに、樹里には突然現れたこの『カメラクルー』バーロ兵の存在が不気味に映っている。このバーロ兵が開き直ったはずの樹里の心に妙なざわめきを、不安感を呼び起こしているのだ。

「あーあー……よし!準備OKだ、始めるぞ!」
そしてバラクローズのその号令とともに、テレビカメラを構えたバーロ兵が、そのカメラをいつの間にかマイクを手にしたバラクローズへ向ける。まるでこれから何かのテレビ中継でも始めるかのように。
「おっほん!…やぁやぁごきげんよう、全世界の愚かな人間諸君!本日は我がバラノイアTVをご覧になってくれてどうもありがとう。オレは素晴らしきマシン帝国バラノイアが生んだマシン獣、バラクローズだ!」
(バラノイアTV?ヤツら、一体今度はどんなバカなことを始めたっていうの?……でも何なの!?さっきから感じるこの胸騒ぎは…?)
突然テレビ中継のような真似を始めたバラクローズ。一見すればそれはかなりバカげた行動である。当然、普段の樹里なら彼女もそうやってそれを一蹴していたはずだ。
しかし今の樹里は何故かそれを『バカなこと』と切り捨てることができないでいる。さっきから彼女が感じている妙な胸騒ぎが、樹里にそうさせることを妨げているのだ。
「では全世界の愚かな人間諸君!これより特別番組『オーレンジャー最期の日、我がバラノイア帝国の大勝利!』をお届けしよう!」
だがそんな樹里の思いなど無視するかのようにバラクローズはしゃべり続けている。まずは番組タイトルの紹介だ。
「まずこちらを見て欲しい。…この4人はおまえら人間どものヒーロー、オーレンジャーだ。だがコイツらは既にオレの力によってオレの意のままなのだ、グフフフッ」
続いて現在のオーレンジャーの状況を紹介するバラクローズ。同時にバーロ兵が構えるカメラは、既にバラクローズによって操られている樹里以外のオーレンジャーの面々に向けられる。
「だが喜べ、おまえら愚かな人間たちにもまだ希望はあるぞ!……続いてこちらを見て欲しい」
バラクローズがそう言うとカメラはいよいよ樹里へ向けられる。黄緑のビキニの上半分を失い、セミヌード状態の樹里へ!
(……はっ!?)
そしてカメラが向けられると樹里は、また反射的に自身の胸を右腕で覆い隠そうとしてしまう。やはりバーロ兵が構えるテレビカメラが樹里へ与える真理的影響は大きい。樹里が『ごく普通』の感覚を持った人間である以上、そう簡単に羞恥心を捨てることなどできない。それが公衆の面前であると思ってしまえばなおさらなのだ。
「この女がおまえら人間どもの希望、オーレンジャーの最後の生き残り、オーイエロー・二条樹里だ。…だが愚かな人間諸君、もしかしてこんな女一人がオレたち人間の希望かよ-。そんな風に思ったヤツは多いんじゃないのかな?グフフフフッ」
「だが人間ども、この女はこう見えてもれっきとした国際空軍の軍人なんだそうだ。…何よりこの女は数々の武器を失っても、さらには己の着ているものが『あんな』ビキニだけになってしまっても地球のため、おまえら人間のために戦っているのだ。…どうだ?凄いと思わないか?グフフフフフッ」
続いて樹里の紹介をし始めるバラクローズ。ヤツによる樹里のその紹介は一見まともなものに聞こえるが…。
「ちなみに参考までにこの女の簡単なプロフィールを紹介しておこう。…本名二条樹里。歳は22歳。身長は173cmもあるそうだ。そして世の男性諸君が一番知りたいスリーサイズだが…」
「なっ!?い、一体何を言っているのよ!そんなこと地球の平和には何の関係もないじゃない!」
バラクローズの言っていることが徐々に『あらぬ方向』へいっていることに気付き、あわてて声を荒げてそれを静止しようとする樹里。
「ギヒヒヒヒッ…本当にそうかな?自分たちの平和のために戦ってくれている女が一体どんな人間なのか-。それを知りたいというのは人情ってもんじゃないのかな?グフフフフッ」
「何が人情よ!マシン獣のクセにそんなものを持ち出すなんて!だいたいあんた、わたしの身体のサイズなんて地球の平和と何の関係もないじゃない!」
樹里の言う通り、バラクローズの主張はどう考えてもムチャクチャ、支離滅裂である。
「ほぉ…では肝心のテレビの視聴者、人間どもはどう思っているのかな?ぜひ聞いてみようじゃないか?ギヒヒヒヒヒッ」
(えっ!?)
だがバラクローズはそこで意外なことを提案してきた。何とバラクローズと樹里の主張、どちらが正しいのか、どちらが共感できるのか、テレビの視聴者に意見を求めようというのだ。
「そ、そんなの決まってるじゃない!そんなこと聞くまでもないでしょ!」
「そうだよな、みんな樹里ちゃんの身体のサイズを知りたいに決まってるよな♪ゲヘヘヘヘヘッ」
「な、何バカなこと言ってるのよ!逆よ逆!人間のみんなが人間であるわたしに不利な答えを返してくるわけなんかないじゃない!だいたいあんた、どうやって全世界の人たちから短時間で意見を集めるって言うのよ?」
確かに言っていることは樹里の意見の方が正論であろう。しかし戦いのペースは完全にバラクローズのものだった。
「ギヒヒヒヒッ…なぁに、そいつは心配ない。我がバラノイアの超科学力をもってすればそんなことはたやすいことだ。それもボイスメールという声つきの意見を集めることができるぞ♪だいたいおまえたち、人間どもの科学の常識なんぞで考えてもらっては失礼というものだ、グフフフフッ」
それに樹里の主張していることは、実際には彼女の願望でしかないのかもしれない。何故なら同じ人間でも様々な物の考え方、様々な価値観を持った人間がいるからだ。
それに今回は『性欲』という特殊な要素が加わる。しかもその対象となるのは、大概の男から見れば生唾モノの美女・樹里であり、女から見れば誰もがうらやみそうな抜群のスタイルを誇る樹里なのである。
さらにさらに、今の樹里はおあつらえ向きというか不幸なことにボディラインがハッキリと現れるビキニ姿という、彼女の身体のサイズに興味を持ってしまいやすい格好なのである。
(人間のみんな…信じているわ。人間はそんなに愚かじゃないわよね…)
これだけ樹里にとって悪い条件が揃っている-。しかしそのことは樹里自身も重々承知している。だが彼女としては信じている、いや信じたいのだろう。人間はそれほど愚かではないということを。
樹里はこれまで、必死の思いでバラノイアという侵略者たちから地球を、人類を守ってきたのだ。その人間たちが自分を、同じ人間である自分に不利な結果をもたらすようなことをするわけがない。いや、そうであってほしい-。
「どうやら結果が出たようだな。どれどれ……では結果を発表する。樹里ちゃんの身体のサイズを知りたい・78%、知りたくない10%、どちらでもいい・分からない12%」
(……そ、そんな…)
しかし現実は時に空想や想像よりも残酷だ。樹里の祈りもむなしく、アンケートの結果は樹里に不利な方向へと出てしまった。
「ゲヘヘヘヘヘッ…まぁ喜べよ。みんなおまえの、樹里ちゃんのスーパーボデーに興味があるらしいぞ♪それにこれだけ大多数のヤツらが知りたがってるんだ。いっそ大々的に知らせてやるよ、ギャハハハハハ!」
それも僅差ならまだ救いがあったのかもしれない。だが結果はダブルスコア以上の大差がついてしまったのだ。このことは何よりも樹里にはショックだった。
確かに人間には多種多様の価値観がある。樹里も皆が皆、自分と同じ価値観を持っているなどと甘い考えを持っていたわけではない。
だがしかし。しかしである。ここまで自分の思いとは正反対の結果を突きつけられてしまうと-。それは樹里にとって、今まで懸命に守ってきた者たちの背後から、突如刃物で刺されたような気分だったのだろう。彼女はまさに、懸命に守ってきたはずの人間たちから裏切られたのだ。
「デ、デタラメよこんなの!デタラメに決まっているわ!どうせおまえたちが裏でデータを操作したに決まってるわよ!そうよ!そうに決まってるわ!だいたいこれが事実だなんて証拠がどこにあるのよ!」
しかし樹里は『このような結果』が出ても、なおも抗おうと試みている。当然だ。彼女にしてみればこのようなデタラメな結果は到底受け入れられないのだから。あらん限りの罵詈雑言を並べ立て、懸命にまくし立てる樹里。
「グフフフフフッ、証拠か?そうかそうか。では疑り深井樹里ちゃんのためにその証拠とやらをお聞かせしよう♪」
(う……一体どんな証拠があるっていうのよ?)
だが-。彼女のそんな抵抗はさらなる『残酷な現実』の呼び水となってしまう。正義と平和のために戦ってきた女戦士・樹里が人間不信になってしまいそうなほどの残酷な現実の。
…カチッ。
やがてバラクローズにうながされ、近くにいたバーロ兵の一人が何かのスイッチを押した。どうやら何かの音声を録音したもののスイッチらしいのだが…
<へぇ~これが噂のオーレンジャーの一人かよ。…っていうかスゲー美人じゃん!この娘の身体のサイズ?そりゃもちろん知りてーよ!>
<なになに…ふーん、この娘の名前、二条樹里っていうんだ。…で、樹里ちゃんの身体のサイズ?そりゃもちろん興味あるね>
<えーっ!?この人地球を守っている戦士なのにこんなに美人なわけ?戦士なのに全然ゴツい感じしないし、むしろスタイル超いいじゃん!…え?この人の身体のサイズ?うーん、同じ女としては興味あるなぁ>
(な、何よ……何よ!何よこれ…!?)
欲望と好奇心に満ちた人間たちの声、声、声、声、声、声-。それを聞いてわなわなと震えだす樹里。
<スゲー!何かのグラビア映像?この娘超かわいいじゃん♪…えっ、この娘の身体のサイズ?もち知りてーよ♪>
<あれ?でも何か画面の下にテロップみたいなのが出てるぜ?なになに…二条樹里22歳。身長173cm、スリーサイズは上から87・60・88、ブラジャーのサイズは推定Eカップ……って書いてあるじゃん、樹里ちゃんの身体のサイズ!>
(…えっ!?えっ!?)
「おや?どうやら何かの手違いで既に公開されてしまっていたみたいだな、樹里ちゃんの身体のサイズ。ま、いわゆる放送事故ってヤツだ、大目に見てくれや♪ゲヘヘヘヘヘッ」
そう言いつつニヤニヤと下卑た笑みを浮かべているバラクローズ。
<スゲー!バスト87にEカップかよ!樹里ちゃん、中々の巨乳じゃん♪>
<しかもあんなに美人でスタイルもいいなんて……同じ女としてはうらやましいわ~>
「イヤ……やめて…お、お願い…もうやめて…やめて…」
無遠慮で無責任な言葉は、時にどんな鋭い刃物よりも人を深くえぐり傷を負わすことができる-。この時の樹里が遭遇していた状況はまさにそれだった。
<でも樹里ちゃん、さっきから胸元をずっと隠してるんだよなぁ~。あ、もしかしてあの胸に樹里ちゃんの大切な何かがあるんじゃないか?♪>
<おいでもよ、もしかしたら樹里ちゃん、あのビキニの上何も身に着けてないんじゃないのか?だから胸さっきから隠してるんじゃねーの?>
「イヤ…何で…何で…何でみんなこんなこと言うの…イヤ…」
守ってきたはずの人間たちから次々と刺されてくる言葉のナイフ。樹里へ情け容赦なく突きつけられる残酷な現実。
<そうだぜ!いや、そうに決まってる!樹里ちゃ~ん、さっきから隠してるその胸元、せっかくだから隠さないでオレたちに見せてくれよ♪>
<そうだそうだ!せっかくだから勿体ぶらないでオレたちに見せてくれよ!キミの生おっぱい♪>
<見・せ・ろ!見・せ・ろ!見・せ・ろ!見・せ・ろ!>
「も、もうやめて…みんなやめて…イヤ…イヤ…イヤアアアアアァァァァァ!!」
それは今まで人間たちのために懸命に戦ってきた樹里にとってあまりにも酷な現実だった。あの気の強い樹里が、思わずカメラから背を向けてしゃがみ込んでしまうほどに。
カメラから背を向けてしゃがみこみ、不特定多数の人間たちから容赦なく浴びせられる無責任なヤジから逃れるように両手で両耳を塞ぐ樹里。
(……はっ!?)
だがそんな弱りきった樹里に対してもバラノイアの『カメラクルー』は容赦なく追い詰めていく。カメラから背を向けしゃがみこみ、両手で両耳を塞いでいた樹里。
しかしそのせいで彼女は、今まで必死に隠してきた『胸元』のカバーをおろそかにしてしまったのだ。両膝を曲げしゃがみこんでいるので、かろうじて乳房の中心にある薄いピンクの頂だけは隠れているかなりきわどい状態。
当然、バーロ兵扮する『カメラクルー』がそんな『オイシイ』ショットを見逃すわけがない。カメラクルーは急いで樹里の正面に回りこみ、樹里の『生おっぱい』を狙っている!
…キッ!
もちろん樹里もその『カメラクルー』の動きに気付き、素早くまた右腕で胸元を隠そうとする。さらにそのカメラクルーを鋭く睨み付ける。カメラを睨み付ける樹里の弱々しい表情にみるみる怒りが満ちていく。
「…何撮ってるのよ!このぉぉぉぉ!!」
バキキィッ!!
怒りの樹里から放たれる左ハイキック一閃!-。マーシャルアーツ仕込の彼女の協力な蹴りは、カメラを粉々に破壊しそのカメラモロともバーロ兵を蹴り飛ばす!
「はぁ、はぁ、はぁ……フン!これでカメラは破壊したわ!だいたい乙女の裸をみんなの前で晒し物にしようとするなんてサイテーの作戦!絶対に許さない!」
カメラを破壊し再びバラクローズへ向き直る樹里。同時にカメラを壊した安心感からか、今まで必死に胸元を隠していた樹里の右腕は胸元から離れ、彼女は通常している構えを取っている。
「…カメラは破壊しただと?ギヒヒヒッ」
だがそんな樹里を見てもバラクローズはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。意味深な一言と共に余裕の笑みを。その理由は…
<スゲー!樹里ちゃんの生おっぱいだよ!生おっぱい♪>
(…えっ!?)
何と、まだ視聴者とおぼしき人間たちの声が例の装置から聞こえてくるのだ。
<ホントだ!樹里ちゃん、やっぱ胸でけー!ホントにあのプロフィール通りじゃん♪>
<しかも樹里ちゃんが動き回る度にあの胸が揺ら揺ら揺れてるよ、おい!超ド迫力だよ!>
(…ウソ!?何で?カメラはもう壊したのに…何で…何で…)
それもただ聞こえてくるだけじゃない。明らかに彼女の最新の映像が、樹里のセミヌードの映像が、TV視聴者に届けられている!?-。そう思わせる、いやそうとしか思えないような視聴者から寄せられるコメントの数々!
<でもスゲーよ!樹里ちゃんみたいな美女のセミヌードがこんなに堂々と拝めるなんてよ!>
<ホントだよな、おい!…でもよぉ、樹里ちゃんのあのダイナマイトボディであんなことやこんなこともしてみたいぜ、ムフフフフッ♪>
<特にあのおっぱいだよ、おっぱい!樹里ちゃんの生おっぱいにしゃぶりつきてぇぇぇ♪>
「やめて!やめてっ!もうやめてぇぇぇ!」
次から次へと樹里の耳へ届いてくる無責任かつ卑猥な声、声、声!-。
<おい、オレ『アイアイ』のメロディーでこんな替え歌考えてみたぜ。…お~っぱい、お~っぱい、じゅ~りちゃ~んだよ~♪>
<何だよそれ?ダッセーな。…でも樹里ちゃんのあのおっぱいとは色々遊んでみてぇよなぁ♪樹里ちゃ~ん♪>
<樹里ちゃんのお~っぱい!樹里ちゃんのお~っぱい!Eカップの樹里ちゃんのお~っぱい♪>
「みんなやめて!やめて!イヤァ!イヤァァ!イヤアアアアアァァァァァァ!!」
人間たちから容赦なく浴びせ続けられる卑猥で、下種で、欲望に溢れた声、声、声-。悪夢-。樹里にとって、それはまさに悪夢そのものだったに違いない。
自分へ容赦なく浴びせられる人間たちの好機の目、淫らな視線、卑猥な言葉の数々-。いくら瞳を閉じても、必死に耳を塞いでも襲ってくるあまりにも残酷な現実。
強靭な精神力を誇る樹里はそうたやすく逆境に屈するような女性じゃない。これまでも彼女はバラノイアから様々な攻撃を受け、その度に樹里はそれらに耐え跳ね返してきたのだ。
だが今回はどうであろう-。自分がこれまで守ってきたはずの、味方だと思ってきたはずの人間たちから裏切られた-。そんな思いが樹里の心を痛烈にエグる。それは彼女がこれまでバラノイアから受けてきたどんな攻撃よりも効き目があった。
人間たちから樹里へ次々と寄せられる心無い声、声、声-。それらに相当のショックを受け打ちひしがれ、その場へうずくまっている樹里。
「随分と人気じゃないか?オーイエロー。いや、樹里ちゃん♪ギヒヒヒヒヒッ」
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…
そんな樹里をあざ笑うかのようにバラクローズが彼女へ歩み寄っていく。そのマシン獣の表情には相変わらず下卑た笑みが浮かんでいる。
「グフフフッ…おまえが壊したと思っているカメラのカラクリを教えてやろうか?オーイエロー」
「う、ううぅ……」
しかしショックに打ちひしがれている樹里には、そのバラクローズの問いに答える気力はもはやない。弱々しくバラクローズを見つめる彼女の瞳は既に涙目なのだ。
「どうした?もう答える気力もないってか?ギヒヒヒヒッ…まぁいいだろう。ハッキリ言うとな、おまえが壊したカメラはダミーなんだよ、樹里ちゃん♪残念だったな、ぐひひひひひっ」
だがバラクローズの言う『カメラのカラクリ』はこれだけにとどまらない。
「さらに言うとだ。カメラはこのあたり一帯に数多く仕掛けられているんだよ。肉眼では発見することができないような小さなものも含めてな、ギヒヒヒヒヒッ……そういうことだ。心配しなくても樹里ちゃんのセミヌードはしっかり全世界の人間たちに届けてやるぞ、ゲヘヘヘヘヘッ」
(そ、そんな…)
樹里へ次々と突きつけられる無慈悲な宣告-。もはや彼女に残された道は、自らの裸を全世界に晒しながら戦う道しか残っていないというのだ。
しかしそれはあまりにも過酷な事実。今の、精神的に打ちのめされている樹里にはあまりにも過酷な現実だった。

-続く-