- 真夏の夜の悪い夢 前編 -

「う、ううっ、うううぅ」
真夏の蒸し暑い夜…黒いタンクトップを身につけ、薄い生地の水色のタオルケットを軽くはおっていた若い女性・デンジピンクこと桃井あきらが自宅のマンションのベッドの上で大きくうなされていた。
「うっ、ううっ、ううううぅ…」
全身に汗をびっしょりかき、はおっていたタオルケットに両手でしがみついているあきらの呻き声は徐々に激しくなっていく。そんな彼女はこんな夢を見てうなされていた。
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「?…ここは一体どこなの?…何でわたしはこんなところにいるのかしら…?」
ここはとある森林の奥深く…見渡す限りの木々…数メートル先も見えないほどの濃い霧、日の光もほとんど当たらない森の中をあきらは辺りをきょろきょろと見渡しながらさまよっていた。
ピンクの上着にミニスカート、白のロングブーツという出で立ちのあきら…日当たりが悪いためか、夜のような森の中を歩いている彼女の姿は、周りとの暗さのコントラストでそのトレードマークのピンクの衣装がより一層際立っていた。
シャリ、シャリ…パキンッ。地面に落ちている枯葉、まれにふみしめる小枝の音が深い森の中にこだまする。
ドォォオン…!!その時、どこからともなく何かが爆発するような轟音が森の中に響き渡った。
「えっ、何!?…今の音は何かしら?…あっちの方からだわ」
その轟音が聞こえてきた方向へあきらは駆け出す。しばらくすると…その先から何者かの声が聞こえてくる。
「フフフフッ、ついに追い詰めたぞ…我らベーダーに協力できないというのであれば死んでもらおうか、フフフフッ」
(ベーダー!?…誰かがベーダーに襲われてるの?)
“ベーダー”という言葉を耳にし聞き捨てならないと感じたあきらは、さらに近づくために物音を立てないようにそろりそろりと慎重に歩を進めていく。
声が聞こえてきた場所へさらに近づいていくあきら。やがて彼女はその声の主が誰であるか視界に入ってくる。
それはデンジマンの宿敵、ベーダー一族の幹部である“ヘドラー将軍”だった。そのヘドラーがそこにいた、一本の大木に背中から寄りかかっている“紳士”と何か話している。
その紳士は年の頃は40歳くらい、180cmぐらいの身体を漆黒のスーツで身を固め、キチンと撫で付けたヘアスタイルに黒いサングラスといういで立ちの男だった。
そしてその紳士を取り囲むように周りにはすう対のダストラー兵の姿が見える。ダストラー兵たちはその紳士へわらわらと迫っていく…。
(あれは…ヘドラー将軍?それにダストラーも…あの人がベーダーに襲われてるのなら助けなきゃ…)「待ちなさい!…そこまでよ、ヘドラー」
そんな呼びかけと共に、そのベーダーの一段の前に勢いよく飛び出すあきら。
「ムッ…誰だ!?…お、おまえは、桃井あきら!」
濃い霧の中から突然現れたあきらにやや驚くヘドラー将軍。
「ヘドラー!その人から離れなさいっ」
「おのれ桃井あきら、貴様もまとめて葬り去ってくれるわ」
「…そう簡単にはいかせないわ。いくわよ…デンジスパーク!!」
そう叫ぶとあきらはフルフェイスのマスクをかぶり全身をピンクのデンジスーツを身に纏った桃色の戦士、“デンジピンク”に変身する。
「ムゥゥ、こしゃくな!…ダストラーたちよ、その女にかかれ、かかれい!」
ヘドラーにそう号令を掛けられた数体のダストラーたちはデンジピンクとなったあきらに対して一斉に襲い掛かってきた。
「いくわよ…掛かってらっしゃい!」
腰の右側に収まっていたデンジスティックを抜き、ダストラーたちに切りかかっていくあきら。
「えいっ!やあっ!とおっ!…」
次々とあきらに切り捨てられていくダストラーたち…抵抗らしい抵抗もすることができずそこにいた数体のダストラーたちはあっという間に地面に転がされ、灰となり消えてしまった。
「むぅぅ…おのれ、いまいましいデンジピンクめ、こうなればオレ様みずから貴様を葬り去ってくれるわ」
「ヘドラー、今日こそおまえを倒してみせるわ、覚悟しなさい」
「フン、デンジマンで最も非力な貴様独りで何ができる…返り討ちにしてくれるわ」
そう言うとヘドラーは右手で剣を抜き構えを取る。
「いくわよっ、ヘドラー!」
自身の右手にデンジスティックを持ったあきらがヘドラー将軍に切りかかっていく。キン、キン、キン…お互いの剣がはじき合う金属音が辺りにこだまする。
ガッ!そして互いの両手に持つ剣と剣が重なってつばぜり合いのような状態になり、互いの獲物を通じての力比べのようになっていく。
だが、剣での力比べに集中するあまりあきらの腹部に大きなスキができてしまう。そしてヘドラーはそのスキを見逃さなかった。
(フフフフッ…これでもくらえっ)
どぼっぉ!!ヘドラーの右の蹴りがあきらの腹へモロにめり込む。ぐっ…身体をくの字にしうずくまるあきら。そんな彼女へ追い討ちを掛けるようにヘドラーの左の張り手があきらの顔面に炸裂し後ろへと吹き飛ばしていく。
「あああうっ……ああんっ…ぐ、ぐぅ」
数メートル後方に吹き飛ばされあお向けにダウンするあきら。ぐぅぅ…左手で蹴られた腹を押さえ件名に立ち上がろうとする彼女。
「はああっ!!」
だが、そんなあお向けに転がっていたあきらへさらに追い討ちが…ヘドラーがそこに覆いかぶさってくるようにフライングボディーアタックを仕掛けてきたのだ。
「!…き、きゃああああぁぁぁ…ああんっ」
その巨体で空中から押しつぶすようにあきらへのしかかってきたヘドラー。さらに彼はあきらの身体の上で腹を支店にグリグリと彼女の身体を体全体で地面に押し付けていく。
「あうっ…ううっ…ああっ!」
「グフフッ、どうだピンクよ…だがまだ終わらんぞ」
ヘドラーはのしかかっていたあきらの身体から起き上がりそのように言うと、転がっていたあきらを抱きかかえ腰に両腕を回して彼女をベアハッグで締め上げていく。
「きゃあ、ああっ、きゃあぁ、あああっ、ぎゃあああぁぁぁ」
「フフフフッ、どうだデンジピンクよ…このまま目障りな貴様を絞め殺してくれるわ、グフフフッ」
みしっ、みしっ…バァンバァン…ヘドラーがあきらの細い腰を絞め上げるごとに彼女の身体から骨がきしむ音が聞こえ、さらにあきらの桃色のデンジスーツから火花が上がる。
(う、ううっ…このままじゃ…何とか反撃しなきゃ…でもどうしたら?…!そうだわ)絞め上げるヘドラーの腕の中で懸命に反撃の機会を窺っていたあきらの身体から強烈な電流が放出される。
「デンジサンダー!!」
ヘドラーの腕の中に抱かれていたあきらから放たれた強烈な電撃が彼を襲う。
「う、うおおおぉぉぉ!」
その衝撃がヘドラーの腕からあきらを引き離し、さらに彼を後ろへ吹き飛ばしていく。
勢い欲背中から地面にだうんするヘドラー。呻き声を上げながらよろよろと立ち上がる将軍。
だが、あきらは気づいてなかった…この時ヘドラーが傍らで木にもたれかかっていた“紳士”にチラッと目で合図のようなものを送っていたことを。
「はぁ…はぁ…ど、どう?まだ…まだ勝負はこれからよ」
ヘドラーの波状攻撃からようやく開放されたあきら。だがこれまでの攻撃でのダメージは大きく彼女の劣勢はまだ続くかに見えた…だがその時ヘドラーの口から意外な言葉が飛び出す。
「ムゥゥ…まぁいい、今日のところはこのくらいにしといてやる…さらばだ、デンジピンク」
そう言うとヘドラーはその姿を何処かへスッと消していった。
「た、たす…かった?…でもあいつはまだ十分やれたはず…なのにどうして?」…う…あ…」
ガクッ…はぁ、はぁ。それまでの戦闘での緊張が一気にとけたあきらは、その場に膝をつき肩で大きく息をしている。ビィィイン…そしてその彼女からはデンジピンクの変身も解けてしまった。
「ふぅ、助かった…おい、あんた大丈夫か?」
それまで傍らで戦いを見守っていた“紳士”がそんなあきらの様子を心配してかけ寄ってきた。
「え、ええ…それよりあなたこそケガはないですか?」
「ああ、オレの方は追われていただけで特に外傷はない…それよりこんなところにいるのは危険だ、この森の出口はオレが分かってる、さあ行こう」
え、ええ…うっ…立ち上がろうとしたあきらだったが身体に力が入らず再びその場へ膝をついてくずれおちてしまう。
「おい、大丈夫か?…しょうがない…オレがおぶっていってやろう」
「えっ?…い、いいです、だいじょう…きゃっ!?」
遠慮の言葉を口にしようとするあきら。だがその紳士はあきらの身体を自分の背中へ強引にしょいこむ。
「さあ、行こう」
背中にあきらを背負った紳士がその場を離れ歩き出した。
…その後、森の中を数十分歩いていた彼らだが、いっこうに出口につく様子がない。強引に背中にしょいこまれたあきらがしびれを切らしたように、その自分を背負っている紳士を背中越しに問い詰める。
「ちょっと!…あなた本当にこの森の出口を知ってるの?ねぇ、」
「…もうちょっとだ…もう少し我慢していてくれ」
(ホントにこの人出口を知ってるのかしら?それにさっきから妙に強引だし…)
紳士の背中であきらがそんな疑問を抱いていると…彼女の視界に先程の戦闘での森の爪あとが入ってきた。
(あれは?…さっきの場所?もしかしてずっと同じ場所をぐるぐる回っているの?)
「ねぇ、さっきから同じ場所をぐるぐる回ってない。あなた本当は出口なんか知らないんじゃないの?…なら降ろして、ねぇ?」
「…」
明らかにおかしいと感じたあきらは抗議の声を上げる。だがその紳士はその彼女の呼びかけにも何も答えず黙々と歩き続けている。
「ねぇ?降ろして、ねぇってば?」(やっぱりこの人何かおかしい?…まさか!?あの時一緒にいたベーダーと何か関係…あ…る…?)
あきらの意識はそこで途絶えてしまった…。
-続く-