- 真夏の夜の悪い夢 中篇(桃井あきら視点) -
「う、ううん…!はっ、こ、ここは?」
…その時、わたしはゆっくりと意識を取り戻し目を開けた。そして辺りを確認するように静かに周囲の風景を見渡したわ。
ここは…さっきの森?-。わたしがいたその場所はさっきヘドラーと死闘を繰り広げた森だった。
…確かわたしはあの怪しげな“紳士”の背中で気を失って-。まだ混濁する意識の中、わたしは自分がどうしてこのような状況におかれてしまっているのか、必死に思い出そうとしていた。
ヘドラーとの厳しい戦いで深いダメージを負ったわたしは紳士、もといあの男の背中で気を失った-。状況から考えてそれはまず間違いないわ。
でもそういえばあの男は?-。そう思ってわたしは周囲を見渡した。でも辺りにはあの男どころか誰一人としていない。
どうやら近くには誰もいないみたいね。あの男はアテにならないし、やっぱり自分で脱出方法を考えないと-。
幸いなことに意識を失っていた間、消耗し切っていたわたしの体力はすっかり回復したようだわ。
それに辺りには誰もいないみたいだし周囲から特に妙な気配も感じない…このチャンスを逃す手はないわ-。そう想いわたしは意を決して自分の体を動かし行動を起こそうとしたの。
でもこの時のわたしにはそうすることができなかった。今のわたしが自身がとんでもない状況におかれていたことに気づいたのはそれからまもなくのことだったわ!
!…うっ?何これ?か、身体が動かない-。そうなのよ!この時のわたしは体を全く動かすことができなかったの。
そう思ってわたしは自分の体の状況を確認してみると、改めて自身が置かれていた状況に愕然としてしまったわ。
まず両腕。左右対称の形で水平に伸ばされていたわたしの腕の手首にはピアノ線のようなものがキツく縛り付けられていたわ。
そして両脚。わたしが履いていた白いロングブーツごと、わたしの両足首からスネのあたりにかけて、同じようにピアノ線のようなものがグルグルと巻きつけられていたの。
それにわたしの背中には何か木柱のようなものが当たっている感触があった。左右に伸ばされている両腕といい、真っ直ぐ揃えて伸ばされている両脚といい……この形はもしかして……じ、十字架磔!?
じゃあわたしは誰かに捕まってしまったというの?でも一体誰が!?それになんのために?-。わたしの頭の中で次々と浮かんでくる疑問の数々。
だけど今はそんなことどうでもいいわ。それにこんな細いピアノ線でわたしを拘束しようとするなんて……わたしをナメているの!?-。わたしがそう思うのは当然だったわ。
だってわたしを縛り付けていたのは超がつくほど極細のピアノ線だったんですもの。いくら非力な女のわたしでもこんなもの簡単に-。そう思ってわたしは全身にありったけの力をこめたの。当然、こんなピアノ線なんてすぐほどけると思っていたわ。
!!
ぜ、全然外せる様子がないわ…た、ただのピアノ線のはずなのに…どうして?-。だけどその結果は信じられないものだった。いや信じたくないものだったわ。だってこんな簡単に外せると思っていた極細のピアノ線の拘束が外せなかったんですもの。
何で?何でこんなものが外せないの?それともわたしはここまで非力だとでもいうの?-。非力な己への焦燥感と憤り。同時に湧き上がってきた二つの感情が、自由に体を動かすことができないわたしをパニックへといざなっていく。
それでもわたしはあきらめきれず体を動かし続けたわ。だけどまともに動かすことができたのは拘束されていない首から上くらいだった。
見苦しく頭を振り乱す度にわたしのやや茶色がかった長い髪がむなしく頬をかすめることくらい-。それは、はたから見ればただ全身を激しくもだえさせているようにしか見えなかったのでしょうね。
「“森の奥深く磔にされている桃色の女戦士”か…美しい、美しいよ…フフフフッ、お目覚めのようだね、桃井あきら、いやデンジピンクよ」
あ、あれは!?-。そこへ周囲に立ち込めていた霧の中から、それをかきわけるように一人の男が姿を現したの。しかもその男はわたしが必死の思いで助けたあの紳士だったのよ!
やっぱり……あの男がわたしをこんな風にしたというの?でも何で?-。目の前にあの男が現れた時にはさすがに驚いたわ。いえ、信じたくなかったというのがホントのところだったのでしょうね。
でもあの男がわたしを強引に背中におぶさろうとしたところくらいから、わたしもこの男に疑念を感じていたのも確かよ。もしかしたらベーダーと何か関係があるのかもしれない-。そう感じていたのも事実だったわ。
だけど一方で、わたしが必死の想いで助けた紳士が『そのような人ではないこと』を願っているのも事実だったの。確かにその考えは戦いに身を投じる者としては甘いのかもしれない。
でも人が人を信じられないなんて悲しすぎるわ。それに人を信じることができないのに地球の平和を守るための戦いをするなんてわたしには到底できないもの!
「!お、おまえは?さっきの…わたしをこんな風にしたのもおまえってわけね…何でこんなことするのよ?」
だけどわたしのその思いはこの男に無残に踏みにじられてしまった。でもこうなってしまった以上は仕方ないわ。
ここから先はなるべくこの男にわたしの『心の動き』を悟られないようにしないと-。意を決してわたしはこの男との対決に臨むことにした。無表情を装いなるべく心情の変化を悟られないように気を配りながら。
「なぜこんなことをするかって?…カンタンなことだよ、オレがあのベーダーとかいうヤツらに貴様らデンジマンの抹殺を依頼されたからさ…そして貴様はそんなオレの罠にまんまと堕ちたってわけだ、ククククッ」
くっ…やっぱりこの男はベーダーと繋がってたっていうの?-。わたしが思い描いていた最も最悪のシナリオ。しかしそれは物の見事に当たってしまっていたわ。
そして敵が仕掛けた罠にまんまとハマり捕らわれの身となってしまった自分-。恐らくヤツらが描いていた最も最良のシナリオに落ちてしまったわたしは、もうこの状況に対して苦虫をつぶすことくらいしかできなかった。
ただしわたしはそれを決して顔の表情には出さないように気をつけてはいたわ。心の動揺を悟られないように、わたしは目の前の男をじっと睨み付けている。表情一つ変えずにね。
「…それと貴様はこんなことも思ってるんじゃないか?“なぜこんなただのピアノ線が外せないのか?”ってな、ククククッ」
くっ!?……悔しいけど当たっているわ。でも-。目の前にいるこの男はわたしの図星を、痛い所を的確に突いてくる。
だけどわたしはその心中だけは決して顔に出さないように細心の注意を払っていたわ。ここでわたしが少しでも動揺している所を悟られてしまったら、この後のこの男との『心理戦』が益々不利なものになってしまうもの。それだけは絶対に避けないといけない。
そう心の中で誓いを立て、わたしは相変わらず目の前の男をじっと、表情一つ変えずに鋭く睨み付けている。得意げにペラペラとしゃべり続けているこの男を。
「あくまでだんまりか…まぁいい。特別に教えてやろう…オレはちょっとした呪術を使えてね…細胞や血液、汗を採取した相手の自律神経をコントロールしてそいつの意識を自在に操ることができるのさ」
…どうやらまだこの男にわたしの心中を悟られてはいないみたいね。でもこの男も『この手』の攻防に関しては中々のやり手と見たわ。決して油断はしないようにしないと。
だけどこの男が今言っていることは本当なの!?も、もし本当ならわたしは-。この時のわたしはまだ表面的に平成を保ってはいた。
でもその心中は決して穏やかではなかったわ。目の前のこの男が言っていることが事実であればあるほどわたしは絶望的な状況に追い詰められているということですもの。
それにこのまま何も手を打たないとわたしにとって状況は悪くなるばかりだわ。…でも一体どうすればいいの?-。わたしは次第にあせりを感じ始めていた。
今のわたしの心理状態は、氾濫寸前の動揺という名の川を精神力という堤防で何とか押さえつけているような状態だったわ。
だけどその堤防の抵抗力にも限界はある。いつ、どんなきっかけでその堤防が決壊してしまうか分からない。
でも、だからといって今のわたしに打つ手がないことも事実だった。どうすることもできないのも事実だったわ。
「…そして背中に貴様をおぶったオレは貴様の“汗”を採取してその意識を奪ったってわけさ、ククククッ」
くっ…だからあんなに強引だったの?わたしに近づいてそれを採取するために…-。この時のわたしはまた苦虫をつぶすことしかできなかったわ。『あの時』の自分の迂闊さを後悔しながら。
あの時のわたしは、目の前のこの男に強引に背中におぶさられてとまどいと同時に不快な思いをしていた。でもその時のわたしはヘドラーとの戦いで相当消耗していたわ。
だからその時わたしはこの男の強引さに抵抗することよりもこの『あやしげな男』の背中で体力の回復を優先することを選んだの。ある程度なり行きだったとはいえ、またその時は確かにそれが最良の選択だとも思っていたわ。
でもそのことが……わたしのその油断がこんなことになってしまうなんて-。わたしは心底悔いた。悔いるしかなかった。ただただ歯噛みするしかなかったわ。
!?…い、いけない!-。でもわたしはまだギリギリのところでそれを表に出さないようにはできていた。それがわたしの、戦士としてのせめてもの意地だったのかもしれない。
「…そういうわけで今の貴様は赤子のような力しかないってことさ…おっと、そういえば自己紹介がまだだったな…“紳士”である自分が“レディ”に対して失礼なことをしてたな、フフフフッ」
…プチンッ!
その時わたしの中で何かが弾けた。いえ、ついに弾けてしまったわ。
「フンッ、わたしにこんなことしといて今更何が紳士よ、笑わせないで」
わたしにこれだけのことをしておいて……今更紳士面する資格なんてないわよ!-。ついにわたしの中の堤防が決壊してしまった。今まで抑えてきたものが爆発してしまったの。
…ゴキキッ!
でも確かにわたしはこの男の言動に『キレて』蔑みの言葉を吐いたわ。だけどどうやら向こうもわたしの態度に『キレて』いたらしいわね。
つかつかとわたしに近づいていたこの男は何の前ぶれもなくいきなり右拳でわたしの左頬を殴りつけてきたもの。でも…でもわたしはこんなことで負けない!負けるもんですか!!
「っ…う…ぐっ…」
…キッ!-。いきなり顔面を殴打されわたしは懸命に呻き声を押し殺している。そしてさっきまでよりもこの男を鋭く睨み付けたわ!この男への抵抗の意志を、ファイティングポーズを示すかのようにね。
「…フン、口の減らない女だ…まぁいい。オレの名は“デリンジャー”、闇の世界じゃ少しは名の通った呪術師でね…明度の土産に覚えておいてもらうと光栄だがな、ククククッ」
……そうよ!何でこんな簡単なことに気づかなかったの!-。目の前のこの男は、相変わらず得意げに自己紹介しているみたいだけど、今のわたしにはそんなもの全然耳に入らなかった。
そうだわ…生身の身体で力が出ないのなら“デンジピンク”に変身すれば-。だってその時のわたしには今の苦境を全てひっくり返せそうな妙案が浮かんでいたんですもの。
いえ、こんなもの妙案でも何でもないわね。何でこんな簡単なことをわたしは最初から思いつかなかったの?-。本当にその通りだった。
でも見てなさい……デンジピンクに変身さえすればあんたなんか!-。わたしは早速その『起死回生』の一策を実行に移したわ。全ての苦境をひっくり返すために!
「デンジスパーク!!…えっ?な、何で…どうして変身できないの?」
だけどわたしはデンジピンクには変身できなかった。全てを変えてくれるはずのデンジピンクへの変身ができなかったのよ。
何故?どうして??何で変身できないの!?-。当然、わたしはその原因を懸命に考えた。必死になってその原因を探したわ。それまでせっかく心中を出さないように戦ってきたことをかなぐり捨ててもね。でもその原因が分かるのにわたしにはそれほど時間は要らなかった。
!!
ない?わたしの“デンジリング”がないわ…どうして??-。だってその原因は単純明快なものだったから。その時、わたしは左手の薬指にはめていたはずのデンジリングがないことに気づいてしまったから。
デンジリングはわたしたちがデンジマンに変身するために必要不可欠なもの。これがなければさすがのわたしも、いくらデンジ星人の末裔であるわたしといえどもデンジマンに、デンジピンクに変身することはできないわ。
くっ!?…で、でも何故?一体誰がわたしのデンジリングを?それにあれは簡単には外せないはずなのに-。最大にして最後の切り札を失ってしまい、わたしはついに同様が隠し切れなくなってしまった。
何故…何故…一体どうしてなの?-。受け入れがたい現実にただただ呆然とするしかないわたし。だがそこへこの男がわたしに何か声をかけてきたわ。
「フフフフッ、お探し物はこれかね?お嬢さん」
「な…そ、それはわたしのデンジリング…どうしておまえが?それ以前にわたしたちが身につけているデンジリングは普通の人間には外せないはず、なのにどうして?」
そして男は何かをわたしに見せつけてきたわ。しかもそれはわたしの左薬指にはめられているはずのデンジリングだったのよ!
何故?何故コイツがわたしのデンジリングを??だいたいそのリングは普通の人間には簡単に外せないはずよ!?なのにどうして-。わたしはもう心中の動揺を、狼狽を隠すことができなかったわ。わたしにはそれほどショッキングな出来事だったの。
「フフフッ、確かにコイツは簡単には外せなかったよ…だがオレの呪術で少し細工をしたらいとも簡単に貴様から取り上げる事ができたってわけさ、ククククッ」
己の手の内にあるデンジリングをわたしに見せつけながら、男は勝ち誇るように言ってきたわ。さらに男はこうも言ってきたのよ。
「…というわけだ。これがなければ貴様はデンジピンクに変身する事はできまい?だがこの“指輪”を取り戻すにはそこから動いてオレを倒すしかないってわけだ…だが貴様は力が出なくてその拘束から抜け出す事ができない、さあ、困ったな、ククククッ」
くっ…-。たっぷりと嫌味の効いた男の勝利宣言。それを聞いてわたしは顔をゆがめて露骨に悔しがったわ。
だってもうわたしは、それまで心の中で必死に噛み潰していた苦虫を押し殺すことができなくなっていたもの。それまでのように心中の悔しさを押し殺すことなんてできなくなっていたもの。
ザッ、ザッ、ザッ…
そしてたっぷりと勝ち誇った後、男はつかつかとさらにわたしに近づいてきたわ。
それよりその時、近づいてくる男のニヤニヤした表情に、何故かわたしは不思議な恐怖を感じていたの。!?……な、何なの?この嫌な感じは…-。わたしは最初、それがどういうことなのか分からなかったわ。
「それにしても、だ…」
「な、何よ一体…あっ!?」
さわっ…
でもそれがどういうことだったのかを理解するのにそれほど時間は要らなかったわ。だってこの男は突然わたしの左胸をその手で触ってきたんですもの!
ぐ、ぐっ…-。完全に不意をつかれた『痴漢行為』に、体の準備がまったくできてなかったわたしは思わず声を漏らしてしまった。でも男のわたしに対する悪戯はそれだけでは済まなかったわ。
スゥーッ…
わたしの左胸を触ってきた男の右手は、そのまま滑るようにわたしのウエストへ。
そして間髪入れずにそのままわたしの履いていたミニの上からお尻を!-。さらにそれだけでは飽き足らず男はわたしの左足の内腿まで触れてきたのよ!
「やっ…ちょっ、な、何すんのよ、いきなり」
わたしは当然露骨に嫌悪感を示したわ!でも同時にわたしはさっきの『嫌な感じ』の正体も分かった。いえ、正確には分かってしまったのよ。
くっ……こ、このままじゃわたしは…-。わたしがデンジピンクとなる決意をして以来、確かにベーダー一族との戦いは過酷なものだったわ。
命の危険を感じたことだって一度や二度じゃなかった。でも戦っている相手は所詮異次元からの怪物-。そう割り切れている部分はあった。だからわたしはこれまでベーダーとの戦いで女として『身の危険』を感じることはなかったわ。
でも今は違う。わたしはデンジピンクとして戦ってきて初めて、女として身の危険を感じ始めていたわ。それも最大級の危機感を!
「ふむ…中々すばらしい体つきだ…やつらの作った資料もまんざらデタラメではなさそうだな」
くっ!?……で、でもコイツの言っているヤツらの作った資料って…もしかしてベーダーがわたしたちのことを?-。わたしのその想像は当たっていたわ。
目の前の男はスーツのポケットの中からおもむろに何か紙のようなものを取り出してきたの。そしてこれみよがしにその紙をわたしに見せつけてきたわ。
「見てみろ…これはあいつらベーダーが作り上げた貴様らデンジマンの資料だ。しかも中々よくできているぞ、コイツは…ククククッ」
や、やっぱり……ベーダーがここまでわたしたちのことを調べ上げていたなんて…-。男が見せ付けてきたその紙には、わたしたちデンジマン5人の顔写真と簡単なプロフィールが記してあったわ。
それにわたしはその紙を見て思わず顔をそむけてしまったから他に何が書いてあるのかは分からなかったけど、この感じならわたしたちの戦力や得意技能、それぞれのウイークポイントなどが書かれていてもおかしくないわね…。
でも少し分析をされたくらいでわたしたちデンジマンが負けるもんですか!見てなさい…わたしたち5人から正義と平和のために戦う心が失われなければ-。男が見せ付けてきた紙、ベーダーが作り上げたというわたしたちデンジマンのことが記されていた資料。
わたしはそれを見て改めてベーダーへの闘争心を燃えたぎらせたわ。だけど、てっきりわたしたちの戦力や強さが記されていると思っていたその紙には意外なことが書かれてあったの。
「…当然貴様のことも書かれてあるぞ、こんな感じにだ。『デンジピンク、本名桃井あきら、身長165cm、体重50kg、スリーサイズは上から84・60・88…」
「な、何でベーダーがそんなことまで知ってんのよ!や、やめなさいっ…もう読まないで、読まないでよ!」
何とそれはわたし個人の体のサイズのことだったのよ!身長や体重、それに人には簡単に知られたくないスリーサイズまで!?-。わたしは思わず森全体に響き渡るような大きな声で男に抗議の声を上げたわ。見苦しく紙を振り乱すようにかぶりを振ってまで。
わたしは恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていくのが分かったわ。でも男はそんなわたしに一切構うことなく、その紙の内容を淡々と読み上げている。まるでファッションモデルやグラビアアイドルのプロフィールの紹介でもするように。
それはわたしがそのような仕事にもし就いていたとしたら、それほど真っ赤になって恥ずかしがるようなことでもなかったのかもしれないわね。でも今のわたしは違うわ。ベーダー一族にとっては宿敵ともいえる存在、デンジマンの戦士デンジピンクなのよ。
「…容姿端麗、スポーツ万能にして頭脳明晰』…中々いいことを書いてあるじゃないか、何を嫌がることがある、ククククッ」
それよりもそれ以上にわたしが耐えられなかったのは、ベーダーが調査したわたしに関するデータが自分の強さや戦力に対してではなかったということ。つまりベーダーはわたしを『敵』としては見ていなかったということだったの。
そんなもの調べなくても、デンジピンク程度ならいつでも倒せるだろう、と-。自分が必死の思いで戦っている相手にそのように思われていたのかもしれない。それは戦士としては屈辱以外何者でもなかったわ。
「それにしても…オレが最初この仕事を引き受けた時は“あまりうま味がない”と思ったんだがな…だがオレは途中でその認識を改めたよ、なぜなら…」
そう言いながらこの男はさらにわたしに近づいてきたわ。そしてわたしの顔に触れるくらいの距離で、わたしの顔をまじまじと覗き込んできたの。
くっ…-。わたしは露骨に表情をゆがめて必死にこの男から顔をそむけたわ。
「それは依頼された抹殺のターゲットの中に貴様のような“いい女”がいたからさ。殺しの仕事をしながら貴様のような若くていい女を弄ぶ事ができるんだからな、ククククッ」
くっ…-。男の言葉を聞いて、わたしはまた屈辱に表情をゆがめたわ。だってそうでしょう?目の前にいる男から堂々と『レイプ宣言』をされたようなものなんですもの。
しかも今のわたしはただの女の子じゃない。正義の女戦士デンジピンクなのよ!それがこんな男に堂々とこんなことを言われてしまうなんて…。
だけど今のわたしはその屈辱に耐えることしかできなかったわ。ただ黙って男の卑猥な言葉を聞いているしかなかったの。その時のわたしにできた男に対する抵抗といえば、せめて男の卑猥な表情を少しでも見ないように顔をそむけることくらい。
…クイィ。
でもその男はそれすらも許してくれなかった。男はわたしの下アゴを掴んで、そむけていたわたしの顔を自分へ向けるように仕向けてきたの。
!!
しかもそれだけじゃなかったわ。さらに男はわたしの右の内腿をスリすりと触ってきたの。鳥肌が立つようないやらしい手つきで!
「…これから楽しい事をして遊ぼうというんだ、そんなに嫌がる事ないんじゃないのか?ククククッ」
「!…勝手な事言わないで!…それにさっきからその薄汚い手で馴れ馴れしく触らないでよっ」
…ぺっ-。そう一気にまくしたてるとわたしは思わずこの男の顔へ唾を吐き付けていたわ。でも男にとってもわたしのその行動はとても意外なものだったみたい。
だって男は露骨に顔をゆがめてわたしが吐き付けた唾を拭っているもの。フフッ♪…-。男のその表情にわたしは少しだけ溜飲を下げたわ。
それまでわたしは目の前のこの男に押されっぱなしだった。戦士としても女としてもただただ屈辱に耐えることしかできなかったわ。
でもわたしは初めてこの男に有効な攻撃を与えたような気がしたの。先の見えない劣勢に追い詰められていた中で、それはとても胸がすく想いがしたものだわ。
「くっ……ほぉ、どこまでも気の強い女だ。だがそれもどこまで続くかな?…その気の強い女ほど汚し膜って泣かせるのが快感なんだよ、ククククッ、ククククククッ」
う…ぐ、ぐっ-。だけどそれはわたしのただの錯覚だったのかもしれないわ。わたしの『そんな思い込み』はほんの一瞬のことでしかなかったの。
ゾクッ…
そしてその時男が見せた凶器に満ちた表情。わたしはその時全身に寒気が走ったわ。全身から鳥肌が立つくらいに。
それはさっき男に内腿を悪戯されて感じていた寒気の比じゃなかった。それよりもわたしは少なからず後悔していたのかもしれないわね。だってわたしの見せた半端な抵抗が巧みに覆い隠していた男の本章を暴いてしまったみたいだから。
「…オレはプロだからな、引き受けた仕事はキッチリやる、だがその前に…貴様のその肢体でたっぷり楽しませてもらおうか。なにぶん、最近若くて活きのいい女とは縁遠い生活をしてるものでね、ククククッ」
でもそんなことは後の祭りだったわ。早速狂気に満ちた男の毒牙がその牙を剥きだしにしてきたのだから。
…ヒラリ。
な!?-。ついに狂気を剥きだしにし始めた男は、まず手始めにわたしの前まで近づいたかと思うとその場にしゃがみこんでいきなりわたしのスカートをめくり上げてきたの!しかもそのままの体勢でわたしがその時履いていた下着をジロジロと覗き込んできたのよ!
「やっ!?ちょっ、な、何すんのよ…み、見ないで、見ないでよっ」
当然わたしは困惑した。男のとった突然の変態行為に当惑するばかりだったわ。
その時わたしが履いていた下着は上に身に付けていた服と同じような色のピンクのアンダースコート。いわゆる見られても大丈夫な『見せパンツ』というものだった。
だからわたしは普段、この格好でハイキックみたいな高く足を上げる技を繰り出しても全然平気だったの。でもだからといってこんなに近くでまじまじと見つめられて平気というものでもなかったわ!
「ほぉ、上着だけでなく下着も“ピンク”とはな、中々そそらせるじゃないか…だがこれは見せパンだな、せっかくこんな丈の短いスカートを履いているんだ…もう少しいい下着を履いてもらわないと男としては困るんだがな、ククククッ」
くっ!?な、何言ってるのよ!このヘンタイ!!-。だけどその時わたしに可能だった抵抗手段といえば、心の中で男に毒づくことぐらいだったのも事実。情けないけどね……でも目の前の男の変態行為はこれだけでは終わらなかったわ!
…パン、パン。
「きゃっ…あん…ちょっ…な、なにすんの、あっ、あん」
その男はわたしの下着をまじまじと覗き込むだけでは飽き足らず、わたしの股間をパン、パンと軽くはたいてきたのよ!
ふむ、反応もいい…ますます弄り甲斐がありそうだよ、くくくくっ」
しかもわたしが不覚にもそれに『この男好み』の反応をしてしまったもんだからさらに調子に乗って-。もうわたしは男のされるがまま、ひたすら屈辱に耐えることしかできなかったわ。
だけど男のわたしに対する『悪戯』はもちろんこの程度では終わらない。でもそんなの当たり前よね。この時のわたしはこの男にとって最高の玩具みたいなもんだったんですもの。
一通りわたしの股間の反応を愉しんだ後、この男はその場にスクッと立ち上がってきたわ。そしてわたしへさらに近づいてきて…。
「くっ、今度はな、やっ!?…ちょっ、あっ、あん」
今度はわたしの左胸を右手で鷲掴みにしてきたの!しかもそこからわたしの胸の感触を愉しむように扇を描くような動きで右へ左へ掴んでいた右手を…。
「ん?妙に柔らかいな?…なんだ、おまえブラはしてないのか?ベーダーのあの資料によるとそれなりに胸はあるようだが…戦闘などで激しく動いたときに乳がぼよんぼよん動いて気にならないのか?ククククッ」
くっ…-。男のその卑猥な言葉にもわたしは何も言えなかった。ただただ顔を赤らめて押し黙ってしまうだけだったわ。
確かにこの時のわたしはブラジャーをしていなかったの。でもそれはこの男の言うように決してブラをすることが嫌いだったからじゃないわ!
というよりも何でわたしがこの時ブラをしていなかったのか、自分でもサッパリ分からなかったの。でもそんなことをこの男に言っても……だからわたしは何も言えなかった。ただただ悔しさを押し殺して押し黙っていることしかできなかったの。
ビリリリッ!
「きゃああ!」
でもこの男にはそんな『わたしの事情』なんかもちろん関係ないのでしょうね。その理由がどうしても知りたい男は、わたしの左胸を掴んでいた右手をそのまま力任せに腹部へ引きちぎってきたわ!
プルンッ。
男によって引きちぎられるわたしの身に付けていたピンクの上着。もちろんその下に着ていた無地の白いTシャツや下着もよ。そしてわたしの乳房が支えを失ってこぼれ落ちてきたわ。
くっ…こんな、こんなことって…-。男の人に無理矢理拭くを剥かれて行くという未体験の感覚。でもそれに対してわたしがこの時感じていた感情は屈辱だけではなかったの。
だけどわたしはこの時はまだその感情を自覚してはいなかったのでしょうね。この時のわたしにはそれは『平常心を保てなくなっている』ことくらいにしか思ってなかったから。
「ん、なんだ?キャミソール…そういうことか、ククククッ」
破り取ったわたしの服の切れ端を見て男はそう呟いている。そして男はそれを見てさらにだらしない笑みを浮かべたものだわ。
やがてこの男はまたわたしの顔に触れるくらい近づいてきたの。ぐっ…こ、来ないで-。だけどこの時のわたしは精神的に相当追い詰められていたわ。それはもう、自分の中でごまかすことができないくらいに。
だからこの時のわたしには卑猥な男の視線を睨み返すことも、サイテーな男の行為を罵ることもできなかったの。わたしができたことといえばこの卑猥な表情から少しでも逃れるように顔をそむけることくらい…。
クイィ。
だけど男はそれすらも、そんなささやかな抵抗すらもわたしにさせてくれなかった。男はまた下アゴを掴んでわたしの顔を自分の方へ向かせようとしてきたのよ。
…い、いけない!?これ以上この男にわたしの弱い姿を見せてはダメよ!
…キッ!
そう想い、わたしは最後の力を振り絞るように男を必死に睨み付けたの。それはわたしにまだ残っていた、戦士としての意地だったのかもしれない。
「その必死で強がっている表情(かお)もたまらないな…しかし見れば見るほど魅力的な娘だ…これほどの女には滅多にお目にかかることはできないよ、ククククッ」
だけどこの男にはわたしのそんな心理状態もお見通しだったようだわ。わたしの目の前で、卑猥な男がいやらしく舌なめずりしている姿を見て、わたしはそう思い知らされたの。
「くっ…そ、それ以上近づかないで!」
だからといってわたしにはそれを簡単に受け入れることなんてできなかった。わたしは心中の『弱気』を覆い隠すように、この男を必死に睨み付けた。懸命に罵ったわ。
でもそれは所詮ムダなあがきだったのかもしれない。だってこの時のわたしの瞳は涙で潤んでいるのが一目で分かるような状態だったんですもの。顔が蒸気していることが自分でも分かってしまうくらいの状態だったんですもの。
「おや?そのキレイな口元に血がついているではないか…ではオレが麗しきレディのためにきれいにしてやろう、ククククッ」
フ、フン!わたしの口元をキレイにしてくれるですって!?何を今更言うかと思ったら…-。わたしは男のその言葉を冷ややかに聞いていたものよ。
確かにわたしの口元は、さっきこの男に殴られたおかげで少し切れていたみたいね。噛み締めている唇から何だか鉄っぽい味がしていたもの。
でもわたしは今更それをきれいに拭き取ろうなんて気にはならなかったわ。それもこんな男にしてもらうなんて!
「べ、別にいいわよ!…!?」
えっ??-。だけど男が思い描いていた『口元をキレイにする』という意味とわたしのそれとは、そもそも大きくかけ離れていたの。男はいきなりわたしの唇をスッと奪い取ってきたのよ!
最初、わたしは何が起こっているのか一瞬分からなかった。ただただ呆然とするばかりだったの。
だけどわたしは自分に起きていることをまもなく、数秒も経たないうちにすぐさま理解したわ。そのことがどういうことを意味しているのかもね。だからわたしはそれを理解した後、目一杯瞳を見開いて驚愕の表情を浮かべていたの。
でも男はまだまだわたしにその毒牙を剥き続けてくる。男はわたしの腰に手を回してきて、わたしの体を自分に密着するくらい抱き寄せてきたわ!
ススススッ…
さらに男は腰に回していた手をわたしのお尻へ滑らせていってその手をスカートの中に潜り込ませてきたの。しかもその後、男はそのいやらしい手でわたしのお尻の中心で円を描くように撫で回してきて…。
わたしのお尻の上でいやらしく這い回る汚らわしい男の手。わたしの全身に身の毛のよだつような感覚が、再び鳥肌が立つような寒気が走ったわ。
「うっ…ん、んぐっ、んぐっ」
だけどこの時のわたしは口元をこの男の汚らわしい口で塞がれ、声にならないくぐもった声で苦しげな呻き声を上げるばかり。そしてその間にもこの男の魔手はわたしに伸び続けてくるわ!
この男はそれまでわたしの下アゴを掴んでいた手をそこから離したかと思うと、今度はすかさず既にはだけていたわたしの左の乳房へ伸ばし、わたしの胸をグリグリと押し付けてきたわ!
イ、イヤァ!?ち、ちょっ、な、何すんのよ!?-。さらに男の、恐らく親指がわたしの左乳房の乳首を押し付け、他の4本の指がわたしの乳房を鷲掴みにしてきたのよ。そして乳房の感触を愉しむように男はその手を左右にグリグリと回している!?
「ん、んぐっ…んぐっ、んぐっ」
くっ…こ、こんな…いやっ…いやあぁ!-。度重なる戦士としての屈辱と女としての恥辱。わたしはそれまでそれを瞳を力いっぱい閉じて懸命に耐えていた。
だけどもうそれも限界だったわ。様々な屈辱に耐えられなくなっていたわたしの瞳から一筋の涙が…。
こ、こんな…何でわたしがこんなヤツに…-。だけどわたしのそれはこの男にただ泣かされているだけのか弱い女の子が見せる類の涙ではなかった。
それは無力で情けない自分へ流している涙。デンジピンクとなって、いや生まれて初めて味わうこの屈辱、恥辱、情けなさ、憤り-。わたしはもう、瞳から溢れてくる悔し涙を止めることができなかったわ…。
も、もうわたしはダメなの?わたしは、デンジピンクはベーダーにもまともに相手にされず、こんな下種な男に犯されて最期を迎えてしまうというの?-。その時、わたしの脳裏に『絶望』の二文字がよぎったのは確かよ。わたしがデンジピンクになりたての頃なら、それでもう終わっていたでしょうね。
だけど今のわたしはもうあの頃の経験不足のわたしじゃない。ベーダーとの数々の死闘をまがりなりにも潜り抜けてきたんですもの。
…いえ、そうではないはずよ!必ず、必ずどこかに突破口はあるはずだわ!-。わたしは必死に自分を奮い立たせたわ。まだこの後にあるはずの逆転のチャンスを信じて。
そして再び戦意を取り戻したわたしは、どこかに突破口がないか冷静に考えを巡らせていた。そうよ!きっとこれまでのこの男が言っていた事の中にそのヒントが隠されているかもしれない-。そう想い、わたしはこれまでのこの男の発言を懸命に思い返していたわ。
そういえば……コイツはわたしの自律神経を操ってるって言ってたわ…ならその意識が違う所に向けば-。そしてわたしはついにその突破口を見つけたわ!もしかしたら大逆転に繋がりそうな希望の光を!
だから耐えていればチャンスは必ず来るはず…ならそれまでは耐える、耐えて見せるわ-。だからわたしはもう覚悟を決めたの。わたしの見つけた一筋の光明に一縷の望みを賭けてみることにしたのよ!
「ぷはーっ…へへっ、中々の味わいだったよ、ククククッ」
「ケホッ、ケホッ…ぐ、ぐっ」
しばらくして-。わたしは男との強制接吻からやっと解放された。そしてようやく口元の自由を取り戻したわたしは必死にむせかえっていたわ。この男がわたしの口内へ残してきた『汚らわしいもの』を追い出したい一身で。
でもこの時のわたしははたから見たらそれはひどい顔をしていたのでしょうね。瞳は相変わらず潤んでいたし、明らかに数多くの涙を流して頬を濡らしたような跡があったもの。
しかも男に無理矢理接吻を迫られ淫らに弄ばれた後。一見しただけならこの時のわたしはまさに男に無理矢理陵辱され泣かされた後。とても戦う意欲なんて感じられなかったと思う。
…キッ!
だけどこの時のわたしはまだ戦意を失ってなんていなかったわ。それどころか目の前の男を睨み付けている眼光だってさっきまでよりも鋭かったはずよ。
だって今のわたしはもう覚悟を決めたから。取るべき道を決めた今、わたしにはもうこれまでのような気の迷いや弱気の虫なんて完全に払拭したから!
「ほぉ、まだやる気なのか?面白い、その気の強さ、ますます気に入ったよ…まぁオレもまだ貴様には愉しませてもらうつもりだがな、ククククッ、ククククククッ」
そう言って目の前のこの男はわたしへの愛撫、いえ陵辱を再開してきたわ。右手はわたしの剥き出しになっていた左乳房を。左手は下着越しにわたしの股間を。
「そらっ、そらっ…くくっ、くくくっ、ククククククッ」
「あっ、あん…ああっ…あぁぁあん…はあぁぁあん」
それに対してわたしはひたすら喘ぎ声を上げていた。必要以上に色っぽく喘ぎ声を上げていたの。
でもわたしは決して感じているから声を漏らしているわけじゃなかったわ。それはこの下種な男に陵辱されている嫌悪感から少しでも逃れるため。
何よりも男の意識をわたしの肉体への欲望へと向けるためによ!-。わたしは必死に喘いだ。出きる限りこの男好みの淫らな女になれるように色っぽく喘いでみせたわ。
だってそうすることがわたしに反撃するチャンスを与えてくれる一番の近道だと思えたから。それがこの汚らわしい男へ鉄槌を食らわすことができる最良の方法だと思えたから。
だからわたしはこんなことには絶対負けない!絶対に負けないわ!!-。確かに今のわたしはこの身をすっかりこの男に捧げてしまっているかもしれない。わたしの体はもう完全にこの男に屈しているのかもしれないわ。
でもまだ生き残る可能性があるのなら、この男に勝利する可能性があるのならわたしは最後まで決してあきらめない。それがわたしに与えられた使命。デンジピンクであるわたしに与えられた宿命なのだから…。
-続く-