パトレン3号~GIRLFRIENDS AFTER

【0】

テレビ画面の中に映る彼女の姿に、自分は釘づけになった。

艶やかな黒の長髪。強い意志を感じさせる瞳。透き通るような白い肌。グラマラスとは言えないが、均一の取れたストイックさを感じさせるプロポーション……。

精悍な印象の濃紺の制服に身を包みながらも、懸命に犯罪者を追う彼女の姿はあまりに眩しかった。

少しでも彼女のことを知りたい。少しでも彼女に近づきたい。

沸々と湧き上がる情動に、自分自身が戸惑っていた。

そんなある日、悪魔……否、正確には悪女が眼前に現れた。

「……そんなに彼女にご執心なら、良い商品があるわよ」

明らかにこの世の者ならざる異形のシルエットの……しかし、どこか魅力的な悪女。

「お金? そんなのは頂かないわ。あたしの……いえ、あたしたちの狙いはもっと大事なモノ。ああ、何も心配はいらないわよ。君から何かをもらうつもりじゃないから」

異形の悪女は、とろけるような甘美な声色で言葉を続ける。

「ある意味、あたしたちの望むモノもあなたと同じ――そう、パトレン3号よ」

 

1

「……代休、ですか? それも今から?」

定例のパトロール中だった明神つかさは、唐突な上司からの連絡に首を傾げた。

国際警察戦力部隊日本支部に配属されてからというもの、確かに休日は少ない。世間的にはパトレンジャーの一員に休日なんて――と思われるかもしれないが、立場上はあくまで公務員。休日なら半休であろうとなんだろうと、貰えるに越したことはないのだが……。

「しかし……」

ここ数週間、ギャングラー犯罪の通報は皆無。ルパンコレクションを狙う怪盗達もやけに大人しい。もちろん喜ばしいことなのだが、逆にそれが、つかさにとってはこれが嵐の前の静けさのように感じられ、唐突な休息を素直に受け入れられなかったのだ。

「はい……はい……」

そんなつかさの気持ちを察しているのだろう、上司――ヒルトップ管理官は「ギャングラーが現れた時は、申し訳ないが、その代休は取り消しになってしまうけど」と一言を添える。

そんな至極当然の言葉が、つかさが抱いていた休むことへの後ろめたさを払拭してくれた。

超過勤務の多い自分たち戦力部隊に対しての労いの意味もあるのだろう。

「そうですか……。ご配慮感謝します」

――久々の休日だな。さて、何をして過ごそうか……。

そういえば、クマムウ(つかさの気に入っているクマのキャラクター)の専門ショップが隣町の商店街にオープンしたとネットで見た。

そこでショッピングを楽しむのも良いし、普段行けないような人気レストランでランチを楽しむのもありだ。

そんなことを考えながらオフィス街を歩いていると、不意にチェーンのコーヒーショップの窓ガラスに映った自分の姿が目に入る。

「……」

濃紺にピンクのストライプが差し色に入った制服の上着。動きやすさを重視してのショートパンツに黒のタイツ。

ここ最近、普段着よりも圧倒的に着用する時間が長く、つかさにとっては自然な服装だが……さすがに、こんな格好ではプライベートを満喫できない。

――とりあえず、本部に戻って私服に着替えるとするか。

そう思った彼女が歩む方向を変えた、その瞬間……。

「あの……み、明神つかささんですよねっ!?」

おどおどと、どこか戸惑ったような声色で、誰かが自分へ話しかけてきた。

「?」

それはひとりの女の子だった。

活発さを感じさせつつも、女の子らしい服装に首から下げた一丸レフのカメラがミスマッチで、どこか微笑ましい彼女は……。

「ユウちゃん! ユウちゃんじゃないか。久しぶりだな」

以前、学級新聞で戦力部隊に訪れた少女だった。

本人曰く「大人になったら新聞記者になりたい」とのことで、その観察眼は小さいながらも目を見張るものがあった。

「は……はいっ」

取材中、彼女はギャングラー・ナンパリオに襲われかけたこともあり、心配していた。が、先日届いた彼女からの手紙で元気に過ごしていると知り、安堵したところだった。

「うん? ユウちゃん、少し声がガラガラしてないか?」

「あ……少し、風邪気味で……」

「そうか。確かに最近寒くなってきたからな……気をつけるんだぞ。そうそう、手紙読んだよ。お友達と仲直りできて、よかったな」

「仲直り?」

「あれ? 違ったか?」

「う……ううんっ! ユウ、お友達と仲直りできて、その……えっと……」

「……」

「……う、嬉しかったわ」

「どうした、ユウちゃん?」

何だか、妙に堅い。初対面の時よりも緊張しているのが手に取るように分かる。

「ううん。何でもないの。ね、ねえ、つかささん……」

「うん?」

「一枚、良いですか?」

一丸レフを構え、つかさにレンズを向ける。

「ああ。なるべく美人に撮ってくれよ」

そう言って微笑むと、つかさは腰に手を充ててレンズを見つめる。

「もちろんっ!」

パシャ。パシャパシャ……。

「やった。ありがとうございますっ!」

これまで広報の人間やマスコミに写真を頼まれたことは何回かあるが、ユウほど純粋に喜んでくれる人間はいなかった。正直、悪い気はしない。

――こんなにあたしを嬉しそうに撮ってくれるカメラマンは他にはいないな。

彼女はテレビのニュースでパトレンジャーの活躍を見て以来、つかさのファンだったなんてことも言ってくれていた。

「もし国際警察をクビになったら、ユウちゃんにモデルとして雇ってもらおうかな」

「えっ?」

つかさにとっては、何てことない冗談のつもりだったのだが……ユウはあからさまに驚いていた。

「おっと、すまん。これは冗談だ。今のところ、定年まで警察官を勤めあげるつもりだからね。それに、そもそもユウちゃんは新聞記者志望だったな」

「でも、つかささんがモデルになってくれるなら、カメラマンもいいかも」

「ははは、褒め言葉として受け取っておくよ」

「あ、でも……」

「?」

照れくさそうに、ぼそりと呟くようにユウは言葉を続ける。

「需要を考えると、モデルをやるなら、水着ぐらいは着てもらわないとかも……」

「うん?! ……ユウちゃんったら、冗談がキツいな」

そう言って額をピン、と指で優しく弾く。

「あっ」と驚きの声をあげた後、心底嬉しそうにはにかむユウを見て、つかさは暖かい気持ちになった。

そんな中、近くの鳩時計から正午を知らせる音色が周辺に響き渡る。

「そういえばユウちゃん……今日はどうしてこんな所に?」

平日の正午。普通なら、学校へ行っている時間だろう。

風邪で休んでいるなら、外を出歩くのはおかしい。そもそも、ここはビジネス街。彼女ぐらいの年齢の子がいるのは違和感がある。

「あ、えっと、えっと……今日は学校が開校記念日なんです。それで、お父さんが忘れ物しちゃって、それを会社まで届けに行った帰りなの」

そういうことだったのか。なるほど、合点がいった。

「お使いか。ユウちゃんは良い子だな」

そう言って頭を撫でてやると、ユウちゃんはこれまた心底嬉しそうに、少し照れくさそうにはにかんでいた。本当に素直で可愛い子だ。

「良い子のユウちゃんにはご褒美をあげないとな。お昼はまだだろう? このつかさお姉さんがランチをご馳走してあげよう」

「えっ? ホント?!」

「ああ。何でも好きなモノを食べよう。ご馳走させてくれ」

「じゃ……じゃあ……それなら、つかささん……」

何かを言いかけて、ユウはひとり、何かに気づいたように頭を振った。

「うん?」

「あ、ううん。何でもない! ゴメンなさい、急に用事を思い出しました!」

ペコリと頭を下げ、脱兎のように走り去るユウ……。

「どうしたんだ? いきなり……」

去っていくユウを不思議そうに見つめるつかさ。

そんな彼女は背後から、唐突に妙な気配……それこそ、殺気にも似たモノを感じた。

「!?」

振り返る。と、そこにはすぐ近くのカフェのウェイトレスがスマートフォンを持ってこちらに近づいていた。

「国際警察の明神つかさ様でいらっしゃいますね」

耳にまとわりつくような、甘えた声音だ。正直、少し寒気を覚える。

「あ、ああ……」

「お電話でございますわ」

そう言って差し出されたスマートフォンには、この店のロゴのシールが貼られてあった。恐らく店の備品なのだろう。

「電話? どうも……」

不審に思いながらも差し出された電話に出る。

「もしもし……ヒルトップ管理官? お疲れ様です。あの、これは一体……」

 

【2】

唐突に与えられた代休は、瞬く間に先送りとなった。

先刻のヒルトップからの連絡は、国際警察にとって急を要する内容だったのだ。

――現在、国際警察の施設内のあらゆる通信網が盗聴されている。

恐らくはギャングラーの仕業だ。それに気づいたヒルトップは、GPSを用いてつかさの居場所を把握。あえて公衆電話からカフェの電話へと連絡をした。ハッキングに用いられた装置は、今、つかさがいるオフィス街からほど近いアパートの一室にあると言う。

「まったく……ギャングラーのヤツら、随分回りくどいことをしてくれたな」

ボヤきながら、つかさは指定されたアパートの一室の前に辿り着いた。

本来ならチャイムを鳴らすのが常識だが、状況が状況だ。

そもそもギャングラー犯罪の疑いがある場合、国際警察に捜査令状は必要ない。

ゆっくりとドアノブに手をかける。幸い、施錠はされていなかった。

「よしっ……」

残る2人を待ってはいられない。つかさは、ぶち破らんとする勢いでドアを開け、部屋の中へ侵入する。

部屋へ入るや否や、居間に響く何者かの「あっ!?」という戸惑いの声。

「動くな! 国際警察だ!」

その“何者か”はこちらの命令には応じず、素早く居間と隣り合う寝室へと逃げ込んだ。

「待て!」

すぐさま後を追う。寝室の戸を開け、周囲を警戒しつつ潜入すると……。

「うっ……」

その薄暗い部屋は、普通の寝室としては考えられないほど何も無かった。

寝具も、テレビも、クローゼットも……生活感のあるものは何1つ置かれていない。

しかし、この部屋の最たる異常性はそこには無い。

「な……なんなんだ、これは……」

ベランダへと通ずる窓ガラスを除く三面の壁、そして天井に至るまで……びっしりと貼られた大小様々な写真。それらの被写体は全て……

「全部、あたしじゃないか……」

広報や新聞社が撮ったと思しき写真以外にも、明らかに盗撮と思しき写真も多く見受けられる。顔面のアップをはじめ、上半身や下半身……特定の部位を不必要にフォーカスした不愉快な写真も数知れずだ。

「趣味が良い人間とは言えないな…………なっ、なにッ!?」

おびただしい数の自分の写真……それだけでも気味が悪いというのに、とんでもない一枚が目に入ってしまった。

合成写真……コラージュと言うヤツだろうか。肌の露出が極端に多い衣装を着た女性の肉体に、自分の顔が挿げ替えられている。

「こ、こんない格好を……あたしに……?」

女性としての人間性や尊厳を無視した……否、それを知った上で、あえて弄び、踏みつけ、歪んだ欲望を発散するような行為に寒気と怒りを感じる。

「……本当、不愉快だ」

その壁に貼られた一枚を乱暴に引き剥がしてやろう。そう思った瞬間――。

ゆっくりと、ベランダへ通ずる窓ガラスが開いた。

「!?」

発作的にVSチェンジャーの銃口をその相手に向ける。

「や、やめてつかささん! わたし、わたしよ……」

その相手とは……。

「ゆ、ユウちゃん!?」

 

【3】

「怖い……つかささん、わたし、怖かったよ!」

自分の胸に飛び込んでくるユウを、つかさはギュッと抱擁して宥める。

「ユウちゃん……一体何があったんだ?」

「分かんない。怖い人にここに連れて来られたの。ここにいろって言われたの。本当だよ……本当だよ!」

よほど怖かったのだろう。ユウはつかさの両胸に頬をすり寄せながら、びくびくと痙攣しているように震えている。

「怖い人……ギャングラーか?」

「多分、そう……」

質問には答えながら、ユウはつかさの体(正確には、彼女が意図していないとは言え、両胸)から離れようとしない。

「大丈夫だ。怖がらないで良いぞユウちゃん。あたしがついてるからな」

「うんっ……うんっ……」

ようやく落ち着きを取り戻したのか、つかさから離れるユウ。

そんな彼女は、所狭しと貼られた大量のつかさの写真をぼうっと見つめながら……。

「わたし怖い。怖いけど…………」

「ん?」

「つかささん……やっぱり……」

なぜか照れくさそうに、恥じらいながら、ユウは言葉を漏らす。

「すごく、綺麗……」

「お、おいおい。褒められて悪い気はしないが、今はそんな状況じゃ…………なっ!?」

思わず、本能的にユウから半歩距離を置くつかさ。

「どうしたの、つかささん?」

確かにユウ本人に確認を取ってはいなかったが……だが、そんなこと、ありえない。

顔立ち、体つき、服装、所持品、言葉遣いに立ち振る舞い……明らかに彼女は女の子だ。

なのに……なのに……。

「ユウちゃん、そ、それは……?!」

恐る恐る、つかさが指差した先はユウの半ズボンに包まれたデリケートゾーン。

そこにはおぞましいほどにいきりたった“ナニ”が、窮屈そうに存在を主張していたのだ。

「えっ? あ……あっ! い、いやあぁあぁぁぁ!」

喉が張り裂けそうなほどの悲鳴。ユウは、今の今まで自分の下半身の変化に気づいていなかったのだ。

「何これ!? これ、一体何なの!? ユウ、分からない!」

この反応。明らかに自分の肉体の変化に戸惑っている。即ちユウは、正真正銘の女の子。それなのに肉体の一部が男性に変化しているということは……。

「まさか……」

以前、あらゆる生物を性転換させるギャングラーがいた。名は確かピッチ・コック……ヤツのせいで、自分も男性として半日近く過ごす羽目に陥った。

「ピッチ・コックと同じ能力を持ったギャングラーが他にも……?」

しかし、ギャングラーは、なぜユウを性転換せたのだろうか。

疑問は残ったままだ。しかし……。

「怖い……わたし、とっても怖いのぉ」

そう呼びかけるユウの“ナニ”は、さっきよりも大きく……こんな言葉、つかさは使いたくはなかったが……一言で表せば“勃起”していた。

「落ち着いて、落ち着くんだユウちゃん!」

「でもでも、つかささんのこと考えると……ここがギューってして、苦しいのぉ……」

「……え!?」

――まさか、この子……あたしのことを……?

初対面の時から、嫌われているとは思っていなかった。むしろ好意的に思ってくれているのだと、そう認識していた。

「そういうこと、か……?」

同性に対する好意的な感情が、性転換によって愛情へと変化してしまった……というのだろうか。

「つかささん、嫌そうな顔してる……。わたしのことがキモチ悪いのね? 嫌いになっちゃったのね?」

「…………」

ギャングラーによって拉致され、肉体の一部まで望まぬ姿へ変えられてしまったユウ……。

その上、慕っていた年上の同性から嫌悪されるなんて、あまりに可哀想じゃないか。

自分だって、“そっち方面”は経験豊富とは言えないが、一応は立派な大人だ。

こういう時の対処の方法ぐらい、知識としては知っている……。

「気持ち悪くなんかない。あたしはユウちゃんのことが大好きだ」

「つかささぁん……」

まずは何より、ユウを落ち着かせることが先決だ。

「今からユウちゃんに魔法をかけてあげよう」

「……魔法?」

「ああ、魔法だ。ユウちゃん、シンデレラのお話は知っているな?」

「う、うん」

「かぼちゃの馬車も、綺麗なドレスも、魔法は12時になれば無かったことになる。今からやることも同じようなことだと思ってほしい。ユウちゃんは今日の12時を過ぎたら、魔法のことは綺麗さっぱり忘れること。約束できるかな?」

「うんっ……よく分からないけど、約束するっ!」

「よし!」

そう言うと、つかさはユウの傍に寄って、片膝をついたままの姿勢でゆっくりと彼女のズボンを降ろす。

「あぅ……」

続けてショーツを降ろすと……凶悪なほどにいきり立った“ナニ”がつかさの目の前に現れる。

――す、凄いな……。

つかさは一瞬躊躇したものの、指先で優しくユウの“ナニ”を弄ぶ。

「はぁ……あぁぁぁぁぁあぁぁぁ……っ!」

「大丈夫? 痛かったら言ってほしい。すぐに辞めるか――」

「やめたら、イヤ……」

「へ?」

「もっと……もっともっと、してえぇぇぇ!!」

――初めてだからか? すごい反応だな。……大人になったら恋人とは円満な関係が築けそうだ。

場違いながら、“ナニ”を刺激しながらつかさはそんなことを思った。

「そうそう。子供は素直が一番だな……可愛いぞ、ユウちゃん」

冷静を装いながら手で奉仕するつかさだったが……先刻から、ねばねばとした体液が手にまとわりつく。おまけに凄く生臭い……正直言って(ユウに責任は無いとはいえ)酷い匂いだ。

「……うっ!」

あまりに強烈な臭気が鼻孔をくすぐり、一瞬手の動きが止まる。顔もしかめてしまった。

「あっ……」

不意にユウの顔を見上げると、ひどく悲しそうな顔をしていた。

「やっぱ気持ち悪いんだ……女の子なのにおちん○んが生えてるユウのこと、嫌いなのね」

「ち、違う! あたしが慣れていないだけで……えっと、その……」

逡巡は一瞬で終わる。

――何を恥じらっているんだ……今はそんな場合じゃない!

つかさは覚悟を持って次の行動に出た。

「……パクっ!! んんぐ……うぅ……ほ……ほら……へんへんひもちわるくなひ……♪」

“ナニ”を口に突っ込んだまま、つかさは満面の笑みを浮かべて言葉をかける。

「つかささんが……おちん○んパクパクして喜んでるうぅぅぅ!!」

……無邪気な感想とは、こうも大人の羞恥心を刺激するものなのか。

「ひ……ひわないで……っ♪」

「嬉しい……ユウ……嬉しい……ぃ……いっ……あああああああああああっ♪」

目一杯の歓喜の声と共に、ユウは絶頂を迎えた。

おびただしいエキスがつかさの口の中に放出され……。

「ん……ん……ゴクッ」

つかさは断腸の思いで……。

――全てはこの子のためだ!

それを必死に飲みこんだ。

当然だけれど、初めての経験で……ハッキリ言って、今後人生で二度とやりたくはない行為を終えたつかさは……。

「ふぅ……うっ……。た、たくさん出たな。落ち着いたかな?」

「えへへ」

頬を真っ赤に染めて、ペコリと頭を下げるユウ。

これでひとまず、彼女は落ち着きを取り戻したことだろう。

さっそく捜査に戻らなければ……性転換の現象そのものを解決するには、ギャングラーを倒せねばなるまい。

「よし。それじゃあ、落ち着いたところで……」

「つ、つかささぁん……」

今にも泣きそうな声のユウは、哀しそうに自分の股間を見下ろしていた。

「な……なにッ!?」

そこには、射精前よりも隆起した“ナニ”が活き活きと痙攣していた。

――普通、一度終えたら興奮は収まるものじゃ……

「何で……どうしてこんなに苦しいのぉ? 変なおちっこ、もっと出したいよぉ……」

「…………」

「つかささぁん……」

こうなってしまったら、もう、やることは1つだ。

「よーし、分かった。これから徹底的に、あたしがユウちゃんに魔法をかけてあげよう!」

努めて明るく、つかさはそう宣言した。

“本当の意味”で自分がしている行為が何を意味するのか知らぬままに……。

 

【4】

つかさはVSチェンジャーにトリガーマシン3号をセットする。

手慣れた所作で警察スーツの装着を開始する。

「警察チェンジ!」

その掛け声が合図となって、彼女の均一の取れた肉体にパトレンジャーの証たる、ピッチリとした警察スーツが装着される。

ピンクと白を基調とした、肉体のシルエットが強調されるボディスーツ然とした強化服。

正直、初めて装着した時はあまりにボディラインがくっきりと見えすぎるため、気恥ずかしさもあったが、今はこのスーツを着る度に身が引き締まる思いだ。

「パトレン3号!! ……ははは、こういう状況でやるのは照れるな。どうかな?」

つかさ=パトレン3号は、ユウを前に頭を掻いた。

「すごいカッコいい! つかささん、ううん……パトレン3号が、パトレンジャーで一番素敵だよっ!」

その素直な褒め言葉は、聞いていて悪い気はしない。

ユウが性転換されたことを考えると、「パトレン3号に変身して」という要望に、性的な欲求が多分に含まれていると思しき点が、引っかかってはしまうのだが……

「本当に……本当に何をしてもいいの? 怒らない?」

「ああ。パトレン3号は、ユウちゃんみたいな良い子の味方だ。それに今日は特別。でも、誰にも言っちゃダメだぞ? 約束でき――

「や……やったあああ!!」

言うや否や、ユウはパトレン3号の胸に手を宛てる……

「パトレン3号の……お、おっぱい……

むにゅぅぅ! ムニュグニュ……遠慮なんてまるでなく、まるで玩具のように両の乳房を刺激するユウ。

「ああ……あぁぅ……」

「柔らかぁい♪ 何でこんなにおっぱい柔らかいのぉ? 何が入っているのぉ?」

――何が入っているって……真面目に答える質問だろうか。というか……ユウちゃん、ちょっとセクハラオヤジっぽくないか……?

「ねえねえ、パトレン3号のおっぱいには、何が入っているのぉ??」

「それは……あぅ……みんなの平和や幸せを守りたいっていう……正義の誓いだよ……っ」「わあ、素敵! ねえねえ、それじゃあ……」

今度はユウはパトレン3号の背後に回り、いやらしい手つきで尻をぎゅっと鷲づかむ。

「このお尻は? すっごい弾力ぅ」

「あ、ちょ! だ、ダメだ……ユウちゃん……そんな……強いの……ぉ」

「えー? でも、パトレンジャーの強化スーツはとっても頑丈なんでしょう?」

その言葉が終わらぬうちに、鋭い刺激がヒップに伝わる。

ペシッ……ベシッ……!

「あっ! ああっ……ああぁぁっ♪」

戸惑いの声に、わずかに悦楽が混じる。

まさか、自分は……今、叩かれて興奮を覚えているとでも言うのだろうか……?

「あ~! パトレン3号、お尻叩かれて喜んでるぅ~正義の味方のお姉さんなのにぃ

「ち、違う! それは違うんだ! あっ……ああっ!」

繰り返される刺激に、無邪気な言葉に、どんどん力が抜けていくのを感じる。

一体……自分はどうしたって言うんだ。

気づけば、パトレン3号は自然と四つん這いの姿勢になり、臀部を(スーツを身に着けているとはいえ)恥ずかしげもなく、ユウに晒していた。

「も……もう、やめよう……」

「えー、何でー?」

無邪気に不満を訴えるユウ。無邪気……本当にそうか? どことなく、先程のあるタイミングからユウの様子がおかしい。まるで人が変わったような……本性を現したような……。

「これ以上はいけない……いけないんだ……っ!」

「うーんとねー、じゃあ……これを読んでくれたら、ユウ、辞めてあげるぅ」

「へ?」

ユウが指差したのは、壁に貼られたつかさの写真の中でもひときわ大きい……制服姿のバストアップ姿を納めた一枚だった。

よくよく見れば、その写真には言葉が添えられている。

恐らくはこの写真を貼った人間が、妄想の中の「明神つかさ」になりきって書いたと思しき、

卑猥かつ破廉恥な台詞だ……。

「そ……そんなっ……」

四つん這いのまま、躊躇うパトレン3……

しびれを切らしたのか、ユウは背後からパトレン3号の両胸を揉みしだきながら、いきりたったナニをヒップの割れ目に執拗にこすりつけ始める。

「ぬああああぁぁっ……! ああぅ……や……やめ……て……っ♪」

「だーかーらー、これを読んでくれたら辞めてあげるってばぁ」

何で……どうして自分がこんな、いやらしい台詞を読まなきゃいけないんだ。

想像しただけで、羞恥心と屈辱で頭がどうにかなってしまいそうだ。

「そっか。ユウのこと、嫌いだから言えないんだ。ギャングラーに襲われたからこうなったのに……つかささん、ユウのこと、気持ち悪いって、見捨てちゃうんだ……」

「それは違――!」

凌辱に近い仕打ちをされながらも、何度か繰り返されるユウの言葉は、パトレン3号の……つかさの中に、呪詛のように響いた。

――そうだ。彼女は飽くまで被害者……自分が、自分が助けてあげなくてどうする……!?

「分かった、読む! 読むから……。よ……良い子……の……」

ペシッ! ひときわ強くヒップが叩かれる。

「ああっ……ッ!!」

「それじゃダメ。もっと大きな声で、気持ちを込めて読みましょね♪ はい、もう一度♪」

まるで号令代わりとでも言うように、ヒップが叩かれる……まるで家畜か性奴隷だ。

「あうぅ! ああっ……よ、良い子のみんな! パトレン3号の明神つかさお姉さんだよー パトレン3号を応援してくれるみんなに、今日はお姉さんの秘密を教えちゃうぞぉ」

ペシッ……むにゅ……ぐにゅううぅぅ!

凌辱の真っ最中、健気にパトレン3号は与えられた言葉を発し続ける。

「普段はクールなつかさお姉さんは、本当はエッチなイジワルされるのがだーい好物♪ おっぱいやお尻を玩具みたいに無理矢理もてあそばれるのが大好きなんだ♪ 男の人のおちん○んだって、いっつも咥えていたいぐらいのヤリマンなんだぁ……♪」

「……」

「だからぁ、明神つかさお姉さんは正義のヒロインだけど、実はドMの淫乱なの♪ この警察スーツも、体がギュ~ってしちゃうから感じちゃう♪ マゾなお姉さんにはたまんないんだ♪」

「…………」

「え? ヤリマン、ドM、淫乱の意味が分からない? そういう時はお父さんかお母さんに聞いてみようね♪ お友達にもいっぱい、パトレン3号の秘密を教えてあげてね エッチで変態な……パトレン3号のお姉さんとの、約束だ…………っ」

最後の方は……なんとか声に出すだけで精一杯だった。

もう最悪の気分だ……。

――良い。良いんだ。これで……ユウちゃんが満足さえしてくれれば……あとは、ギャングラーを見つけ……て……。

「最っ高だよ、パトレン3……

「はぁ……はぁ……」

あまりの屈辱に体が悶える。マスクの下、ひっそりとつかさは涙が零れ落ちるのを感じた。

そんな彼女の気持ちを一切考えず、ユウはその手でゆっくりと、焦らすようにパトレン3号のヒップに手を伸ばす。

「も……もう……やめて……」

欲望に取り付かれたユウが、その懇願を聞くはずがない。

彼女の手は、パトレン3号のヒップの割れ目をツゥゥっとなぞる。薄手の警察スーツ越しに感じるユウの欲望に、つかさは身もだえする想いだ。

「警察スーツって、こんなに薄いんだね……。なんだか、コンドームみたい……」

なんて下劣な感想だろうか。実のところ、極一部の世の男性から性的なモノとして見られているなんてことは、インターネットなどで知識とは知っていたが、コンドームだなんて……。

「……えっ?」

ちょっと待て。おかしい。だってこの子、いくら肉体が変わったとはいえ、まだ……。

「ゆ、ユウちゃん、何だってそんな言葉を知って……!?」

四つん這いのまま、背後を振り返るパトレン3号。

「パトレン3号のこと、本当に大好きだから……だから……

質問には一切答えず、ユウは続ける。

「だから……ア○ルで許してあげるねっ♪」

コンドームにア○ル……おおよそ彼女が知らぬはずの単語を言い放った、その直後、つかさにとって本当の地獄が始まった。

「いっ……」

強い力で乳を揉まれ、そのままいきりたったペ○スを警察スーツ越しにグリグリとア○ルへと挿入される。

「イヤアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

人生で1度も使ったことがない場所から、体の中に男根が入り込む敗北感・嫌悪感・そして耐え難い快楽につかさは、ただただ喘ぐことしかできなかった。

「や……いやッ! イヤアァァッ! お尻、お尻は……やめてえええええええッ!!」

「ああああっ、つかささぁぁん……こんなにいやらしい声でよがってくれて、僕、僕、本当に嬉しい“わ”ぁぁぁ♪」

電流のように迸る快楽の中、つかさはユウの言葉の端々がおかしいことに気づく。

「あああっ♪ あっ♪ やめっ……! 僕……? えっ……ゆ、ユウちゃん、君は……ぁ」

必死の思いで、振り返る。

恍惚の表情で腰を振り続けるユウ。

小さな女の子であったはずのユウの外見が徐々に、まるで熱でガラス細工が説かされるようにどろどろと変化していき……。

「はああぁ……クールな美人だけど、実は淫乱ドMなパトレン3号のアル、マジで最っ高!」

欲望にまみれた、中年男性の姿へと変わる。

「ぎゃ……」

その瞬間、つかさが、心の中で蓋をしていた嫌悪感が一気に溢れ出た。

「ぎゃああああああああああ!! やめろ、やめろぉぉぉっ……んッ♪」

だが抵抗の声にも、不気味な快楽の音色が混じってしまう。

「触るなぁ……やめろ……っ♪ ぁぁぁああっ♪」

中年男性はただただ一心不乱に腰を振りながら、下卑た吐息を漏らし続ける。

「卑劣だぞギャングラー! あうぅぅっ、こんな……こんなぁ……♪ あうぅッ♪」

「口では嫌がっていても体は正直……はぁはぁ……こんな想像通りな女性だったんだぁ」

「うぅ……うるさいっ♪ はぅぅっ♪ ギャングラー、ユウちゃんをどこへやった!? こ……答えろぉぉっ……ん♪」

「知りませんよ。僕、人間だし……」

「!?」

「ただ、女の子に化けられる皮をもらって着ていただけ……うっ……で、出るぅ……ぅぅぅ」

男は言葉を止め、ほんの一瞬だけ腰の動きを止める。

――女の子に化けられる皮……“化けの皮”か!? そ、それじゃ……それじゃユウちゃんは……もう……この世には……

そんな思考の果て、パトレン3号=つかさは自分の中で、何か大切な――誇りのようなモノが、音を立てて崩れていくような気がした。同時に、怒涛の勢いで欲望のエキスがつかさの中へと注がれる。

「い……いやああああああああああああああぁぁぁッ! やめろ……ぉぉぉ…」

最後の虚しい抵抗の言葉さえ、不気味な快楽の波に飲み込まれ、文字通り玩具のように弄ばれたつかさ。

警察スーツも解除され、精神・体力共に限界を超えていたつかさの視界は、世界は、深い闇の中へと誘われるのだった――。

 

【5】

余程のショックだったのだろう。

気絶したまま、仰向けに倒れ、人形のように動かなくなった、麗しの女性警察官……明神つかさ。

陰鬱な、欲望まみれの部屋で二つの影が彼女を見下ろす。

一方はかつてユウだったはずの“誰か”。

そしてもう一方は、その“誰か”をそそのかした異形の悪女。

「“化けの皮”の実験に、パトレン3号の肉体・精神的破壊……。ま、実験結果は上々といったところね。ご協力感謝するわ」

「はぁ……はぁ……」

“誰か”は異形の悪女――ギャングラーのゴーシュの言葉も入らない様子で、未だ快楽の余韻に浸っていた。

「“化けの皮”は人間が使用しても問題ないようね。あとは、性的興奮によって剥がれてしまう不具合さえ改良すれば……より実験と作戦の幅が広がるわね……」

「はぁ……はぁ……」

「んふふふ。まあ、あたしの話なんて入ってこないわよね。憧れのスーパーヒロインを犯しまくれた直後なんですもの。本当、人間の欲望って恐ろしいわ」

自らの提案であるにも関わらず、ゴーシュはこの男の……否、地球の人類が持つ欲望の強さに驚愕していた。

「いたいけな少女の命と引き換えに、その姿を借りてまで、己の性欲を満たしたいだなんて……んふふふっ。人間って、もしかしたらあたしたちより、よーっぽど怖い生き物かもしれないわね♪」

そう呟くと、ゴーシュは魔法のようにすううぅっとその部屋から姿を消した。

次なる欲望を開花させ、憎き警察と怪盗を貶める為に……。

Fin