愛を得る者                    
 
ロンダースとマフィアの取引の情報を掴み取引現場を押さえたタイムレンジャーだったが、凄まじい火力のマフィアと、
ロンダースの予想以上の激しい抵抗に遭っていた。多数のライフルは勿論、50口径の軍用機関銃も使用していた。
ロボ ットのゼニットはともかく、マフィアと言えども人間を殺してしまう訳にも行かず、タイムレンジャー達は、抵抗する
マフィアの制圧に手間取っていた。その最中、逃走するギエン達を発見したタイムピンクは、武器マフィアの逮捕を
タイムレッド達に任せて、一人でその後を追った。
廃工場に逃げ込んだギエンを逮捕する為、タイムピンクは工場内部の捜 索を開始した。
捜 索開始から何体目 かのゼニットを倒し、ふと気を緩めたタイムピンクの前に壁を破壊して大型の戦闘メカが現れた。
「こ、これは!どうして、こんな物が此処に?!」
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ユウリは、何かのファイルでこのメカを見た事があった。たしか、人間の脳を内蔵し、それで攻撃・火器管制・格闘戦など
全ての制御を行う戦闘用サイボ ーグで、30世紀では何十世代も前に廃案になったシロモノだった。
既に人間の脳など使わなくても何十倍 も優秀なバイオコンピューターが存在し、しかもドナーの自我や精神の崩壊等の
問題を考えれば倫理的な問題以前に開発中止は当然だった。19世紀でも有るまいし、コンセプトが前世紀すぎた。
膨大なリスクで完成するのは、脳を収める仮の身体。利点といえばドナーの記憶を引継げる点のみ。
当然、製作以前に開発中止になり、図面をのみを残し存在すらしないハズの物だった。
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タイムピンクの脳裏にふと、疑問が浮んだ。ここにサイボ ーグがいるのが偶然でないとすると、(コレ)はロンダース、
いやギエンの造ったハズ。だとすると、使われている脳は一体どこの誰の頭から流用されて・・・・・・・
「やあ、ユウリ。久し振りだね。長い間、君と引き離されて、とても寂しかったよ・・・・」
再現された音声だったが、すぐに分った。だが、そんなハズは無い。確かにあの時、自分が逮捕したのだ。
「ア、アベル?!確かに圧縮冷凍したはずなのに!どうして・・・」
回収した囚人は全て定期的に確認しており、名簿と数の間違いは一度もなかった。まして、逃走は在り得ない。
「君に捕まったのは、バイオコンピュータの入った(身体)の方だよ。(頭)はココにいる(僕)の方さ。
君の心も身体も(僕だけのもの)にしてくれる、って言うギエンとの取引に応じたんだ。
その為にこんな(カラダ)になったんだ。おとなしく僕のモノになって貰うよ、ユウリ。」
(アベル)は両腕のパワーアームをタイムピンクに向けた。素早く捕えようとしたが、アームは宙を掴んだ。
「勝手な事言わないで!絶対にアナタのモノになんてならない!ハッ!!」
タイムピンクは2つの剣、ダブルベクターを抜くとジャンプしアベルに振り下ろした。光輝いたダブルベクターが、
アベルの装甲を切り裂き、内部のメカを破壊する・・・はずだった。
「うあッ!!は、離しなさい!うぐぅぅぅぅぅぅ・・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
寸前で両手首を掴まれ、ダブルベクターを封じられたタイムピンクは腕を強引に左右に開かれてしまった。
「ユウリ、君の攻撃パターンは分っているよ。ずっと、君だけを見ていたからね。」
宙吊りにされたタイムピンクは、逃れようと力を込めたがクロノスーツを遥かに凌ぐパワーにビクともしなかった。
右肩部から工業用のロボ ットアームの様なサブアームを出し、ベルトのバックル部分に有るエネルギー受信用の
クリスタルを掴み一気にもぎ取った。インナースーツに接 続されていたコードごとむしり取られ投げ捨てられた。
「これで通信をする事も、僕に無意味な抵抗をする事も出来ない。やっと、二人だけになれたんだ、ユウリ。」
アベルの言った通り、クロノスーツのエネルギーはみるみる無くなり、生命防護装置しか作動しなくなった。
「ユウリ、僕のモノになるんだ。僕も君にこんな事はしたく無いんだ。君が(イエス)と言ってくれるだけでいいんだよ。」
するとアベルはタイムピンクの両腕を左右に引っ張り始めた。凄まじい力で引かれ、メキメキと関節が悲鳴を上げた。
「腕がぁぁぁぁ!!うあぁぁぁぁ!・・ア、ア、アナタのモノになんてぇぇぇ、な、ならないぃぃぃぃぃ!・・・・・ぐがぁぁぁぁぁぁ!!」
やがて、ベキッ、と音を立てて肩の関節が外れた。タイムピンクは堪え切れず仰け反って悲鳴を上げた。
「絶対に、君の口から(イエス)と言わせる様に言われてるんだ。そうじゃないと、君と僕は(一つ)になれない。」
今度は左肩部からもサブアームを出すと、タイムピンクのまだ生きている両ヒジの関節を挟んだ。
「早く(イエス)と言って僕のモノになれ、ユウリ!!」
声をやや荒げてアベルが言った。うなだれたタイムピンクはゆっくりと顔を上げた。
「・・・・・い・・・いや・・・・絶対に・・・・アナタのモノになんて・・ならない・・・・ギャアァァァァァァァ!!」
タイムピンクの拒否の声と同時にヒジから下が切り落とされ、ドサッと地面に落ちてピクピクと痙攣していた。
「何故だ!!どうして僕のモノにならない!僕が本 当に嫌いなのか?いや、そんなはずは無い!どうして!・・・・
そうか!タイムレッドだな!!あのタツヤとか言うヤツに騙されているんだ!そうなんだろう!ユウリ!!」
やはり、(オリジナル)の脳の理論の屈曲度は(バイオコンピューター)以上だった。自己中心的極まりない。
「ち、違う!竜也とはそんなんじゃ・・・ヒギァァァァァ!やめてぇぇぇぇ!い、痛いぃぃぃぃぃ!ヒ、ヒギィ!!」
否定するタイムピンクの足首をサブアームが掴んで高速で回転させた。あっという間に足首が千切れ落ちた。
手足を切断されたタイムピンクは宙吊りのまま、うめき声を上げて鮮血を撒き散らしていた。
「イエスと言え!ユウリ、イエスと言うんだ!どうして言わない!言え!言え!」
残ったヒザの関節をパワーアームでベキベキと逆方向に折り、砕き、捻じ切りながらアベルが叫んだ。
「ギャアァァァァ!やめてぇぇぇ!あ、脚が、脚がぁぁぁぁ!!ギャアアアアアアアア!」
アベルの怒 号とタイムピンクの獣じみた悲鳴が廃工場に響き渡った。
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「ハア、ハア、ハア。済まない、ユウリ。興奮してしまったようだ。」
手足を切断され、ピンクのクロノスーツを血飛沫で真赤に染めたタイムピンクを捕えたまま、アベルは言った。
アベルは片手でタイムピンクの上半身を固定し、片手で力無くうなだれたマスクを固定し前を向かせた。
サブアームの中から針の様な物がせり出し、タイムピンクのマスクの両脇の継目 にセットされた。
「ああ、僕のユウリ。君の顔を見せてくれ。」
サブアームが凄まじい光を放ち、タイムピンクのマスクをプラズマ光で切断し始めた。
「うあぁぁぁぁ!あ、熱いぃぃぃ!熱いぃぃぃ!止めてぇぇぇぇ、助けて!!助けてぇぇぇぇぇ!」
マスクの中でユウリは恐怖で錯乱状態になった。火花と凄まじい光で目 は見えず、高温で皮膚が燃える様だった。
逃れようとしたが、しっかりと固定され動く事は出来なかった。切断される轟音と悲鳴でなにも聞こえない。
全ての感覚が感じられず、感じられるのは恐怖だけだった。恐怖は恐怖を産み、ユウリの心を蝕んでいった。
堅い堤防は一度崩れ始めると、非常に脆い。マスクを切断されながらタイムピンクは泣き叫んでいた。
「イヤァァァァァァ!あ、アナタのモノになる!なるからァァァァ!!お、御願い、助けてぇぇぇ・・・許してぇぇぇ・・・・」
頭部のメカが異常な点滅を始め、それが消えるとマスクはゴトッ、と真っ二つに割れ、煙と汗と涙で薄汚れ、
恐怖に怯えた素顔が現れた。クールなタイムピンクはただの怯えきった女性に変貌していた。
「・・・本 当かい?ユウリ、君はとても頭が良い女性だ。僕を騙して逃げるつもりじゃないのか?」
怯えるタイムピンクの顔を覗き込み、アベルは疑わしげに言った。殆ど言い掛りに近い質問だった。
自分でタイムピンクの手足を切断したのだ。最早、逃げられる訳など無い。
「・・・・本 当よぉぉ・・・もう・・逆らわないから・・・酷い事しないでぇ・・・・御願いよぉぉ・・・」
涙を流しながら、タイムピンクはアベルに懇願した。これ以上の苦痛には、耐えられなかった。
「・・・なら、タツヤとか云うヤツの事は忘れると誓えるかい?どうかな、ユウリ。」
アベルはタイムレッドにこだわった。どんなに望んでも手に入らなかった(ユウリの心)を奪ったのだ。
そんなヤツの事を思いだすなど許せるはずがない。ユウリの心は残らず全て自分のモノだ。
「えっ!竜也を忘れる・・・そんな・・・ギャアァァァァァァ!やめてェェェェェ!うあぁぁぁぁぁ!」
返事に躊躇したタイムピンクが悲鳴を上げた。サブアームのプラズマ光が血塗れのクロノスーツを切断し始めた。
シルバーのインナースーツも貫通して白煙を上げて背中や胸を切り裂き、タイムピンクは悶え苦しんだ。
「ギャアァァァァ!助けてェェェェ!タツヤァァァァ!助けてェェェ!ヒイィィィィィィ!死ぬぅぅぅぅぅ・・死んじゃうよぉぉぉぉぉ!」
ユウリは無意識に竜也の名を呼んでいた。愛する人に助けを求める。人ならば当然の事だったが、このタイミングでは、
これは最悪の方向に働いた。これを聞いたアベルは逆上し、タイムピンクを更にズタズタに切り刻んだ。
「ユウリ!アイツに騙されているんだ!忘れろ!忘れるんだ!愛していないと言え!誓うんだ!愛していないと!」
正気を失ったアベルはボ ロ布のようになったタイムピンクの大腿 部をパワーアームで掴み、両脚を左右に開き始めた。
メキメキッ、と云う不気味な音と人間の悲鳴とは思えない絶叫を上げ、タイムピンクは股間を裂かれ出した。
「ギエェェェ!ダズゲベェェェ!ジギャウゥゥゥゥ!ワダジはァァ、アベルのモノォォォォォ!ダガラァァ、ギャガガガガガ・・」
誓いとも悲鳴とも付かない叫びを上げ、タイムピンクの(身体)と(心)は確実に破壊されて云った。
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身も心も完全に破壊されたタイムピンクをロンダースに引き渡したアベルはギエンに聞いた。
「ユウリは僕のモノになってくれたが、あの状態で本 当によかったのか?」
「身体など飾りと同じだ。キミなら理解出来ると思うが?キミとユウリは(キミの身体)の中で一つになるんだ。
もう、だれにも邪魔などされない。約束どうり、二人きりの世界だ。違うか?」
二人の会話をどこか遠くに聞きながら、ユウリはゼニットに首を切断され、生命維持装置に収められた。
「もう、誰にも渡さない。君は僕のモノだ。愛しているよ、ユウリ。」
アベルはカプセルの中の首だけになったユウリに語りかけた。(生首に愛を語るサイボ ーグ)、まるで19世紀の挿絵だった。
ユウリの精神は蝕まれ、幼児以前まで後退してしまっていた。美しい外見とは裏腹に、中身は胎児と変わらなかった。
言葉も思考も感情も、そして絶対と思っていた竜也への愛も、奪われ、コナゴナに破壊され、失ってしまった。
羊水に包まれ、首に張り付けられたチップに喋らされユウリは、アベルに愛を誓っていた
「ワタシモ、アイシテイルワ、アベル。アイシテイル・・・・・・・・・」
(改造された)ユウリはゆっくりとアベルの(身体)に収納されて、アベルの(心の重要なパーツ)になった。