Case File.X-1 黒の戦士

「身辺調査…ですか?」
―雑居ビルの一室
その中で中年の女性と若い女性が机を挟み、向き合っていた
中年の女性は、豹柄のコートなどブランド物の衣類に身を固め、厚化粧をした「嫌な金持ち女」というイメージを凝縮したような風貌だ
一方の若い女性は、茶色のコートとスカートに身を包み、美しさと聡明さが感じられる顔立ちだ
中年の女性は、危機迫る表情で若い女性に迫り、若い女性はそれに対応している
「ええ、あなた方はお金さえ払えば何でもして下さる何でも屋だと聞いたので」
どこか刺々しい態度の中年の女性に、若い女性が返す
「何でも…といっても法に触れるようなことは―」
「わかってるわよそのくらい!」
バシン!と中年の女性が机を叩いた
「…!」
流石に頭にきたのか、若い女性が何か言おうとすると、
「まあまあまあ、落ち着いてくださいよ」
奥から現れた若い短髪の男が中年の女性にお茶を差し出す
「…フン」
中年の女性はそっぽを向く
「それで美河さん、調べて欲しい人というのは…?」
若い女性が尋ねる
「コレよ」
美河と呼ばれた女性は、懐から1枚の写真を取り出し、机に置く
「失礼します」
若い女性は、その写真を見る
その両脇から、若い男と金髪の少年が覗きこむ
「名前は黒羽省吾。ある企業の社長よ」
「あ、この人…!」
パソコンで作業していた金髪の少年がハッとしたように言う
「知ってるのか、シオン?」
「はい。えーっと…あった!」
ガサゴソと、部屋の隅にある雑誌の山に手を突っ込み、その内の一冊を取り出す
「これですよ、これ!」
シオンと呼ばれた少年が手にした雑誌には、写真の男が表紙に載っている
「えーっと、『急成長するミレニアムコーポレーション!その若手社長の秘密に迫る』…」
男が読み上げる
「この方とはどういうご関係で…?」
その問いに美河は顔を歪ませ、
「この男は…私の会社の技術を奪うつもりなのよ!」
「…はい?」
ポカンとする一同に構うことなく、美河は続ける
「我が社とミレニアムコーポレーションは、機械部品の製造部門で敵対関係にあるわ」
「売り上げはほぼ互角、でも我が社の方がコストが安い」
「だから、この男はウチにスパイを送り込んだのよ!」
まくしたてるように話す美河に、女性は呆気にとられるしかない
「だから次にそんな真似をしないように、ヤツの身辺を徹底的に調べてもらいたいの!」
「ですが、特にスパイを送り込んだという証拠はあるんですか?でしたら…」
言い終わる前に、
「うるさいわね!調べなさいったら調べなさい!!」
そして、
「お金はこれでいいでしょう!?」
アタッシュケースを机に乗せ、中を開く
そこにはあったのは、大量の札束
「2千万あるわ!」
「…少々お待ち下さい」
3人は、玄関口に向かった

「どうするんですか?」
シオンが2人に尋ねる
「つっても、あの人の被害妄想って可能性もあるしなぁ」
浅見竜也が遠慮がちに言う
「その可能性大有りね」
ユウリが、うんざりしたように続ける
3人がいるここは“トゥモローリサーチ”のオフィスだ
「でも、もう今月厳しいですよ」
シオンが家計簿を見せる
「確かに2千万は破格だよな…」
竜也が迷ったように言うが、
「まあでも、探偵業はユウリの仕事だし、受けるかどうかはユウリが決めろよ」
能天気に笑い、ユウリに視線を向ける
「…」
ユウリは、苦虫を噛むような表情をするが、やがて
「…仕方ないわね」
肩をすくめてそう言った

トゥモローリサーチは、5人の若者がそれぞれの技能を活かして働く所謂“何でも屋”だ
竜也は空手の指導、シオンはコンピューター関連業務や機械修理業、そしてユウリは探偵・調査担当で、それぞれ生計を立てている
しかし、それはあくまで“表の顔”であり、彼らには、もう一つの使命があった
西暦3000年、犯罪組織“ロンダーズファミリー”―そのボスであるドン・ドルネロが配下と共に1000年前、すなわち現代へと逃走した
それを追ってユウリ達4人の捜査官が派遣され、さらに現代人である竜也も加わり、タイムレンジャーは結成された
彼らの存在は世間に認知されているが、その正体は明かしてはいない
ドルネロと、その配下達を捕えるべく、彼らは日夜戦っているのである

「2千万!?」
がっしりした体形の、大男が驚いた声を上げる
彼の名はドモン。トゥモローリサーチでは護身術の指導を担当しており、今日は出勤していたのだ
「はい。今多角経営を展開して急成長している会社の社長のことを調べて欲しいって…」
「ふ~ん、何でそんなことを俺たちに?」
「他にアテがなかったんじゃないですか?」
「そうかぁ。でも、2千万なら受けないわけにはいかないよなぁ」
ドモンとシオンがそんな会話をする横で、
「だが、そんな大企業の社長が俺たちの相手なんかするか?」
長髪の男―アヤセが冷静に言う
彼はトゥモローリサーチでは運転業を担当しており、ドモンと同様、仕事から戻ってきたところだ
「そこなのよね…」
ユウリが参ったように呟く
大金に釣られて引き受けてしまったが、それはすなわち何らかの結果を出さなければならない、ということだ
「ま、でもそういうのはユウリの担当だし、めんどくさいことは任せた!」
「勝手なこと言わないでよ…」
呑気にそう言うドモンに、ユウリは呆れかえるが、彼の言うことに分があるため、強くは言いだせない
「そう言うなって。俺たちにもできることがあったら手伝うぜ」
「そうですよ、何でも言って下さい」
竜也とシオンがフォローする
「とりあえず、どうやって面会を取り付けるかが問題ね…」
頭を悩ませる
その時、
『You got mail』
シオンのパソコンから、メール受信を知らせる音が鳴る
「あれ、あの人からだ」
パソコンの画面を覗くと、件名に『美河響子』とある
シオンが、そのメールを開いた

翌日、ユウリは街中のカフェに来ていた
コーヒーを飲みつつ相手の到着を待つが、どこか落ち着かない様子だ
(まさかこんなにあっさり会えるなんて…)
そう、待ち合わせの相手はあの黒羽省吾である

昨日、美河から来たメールには、以下のような指示があった
『あの男とアポイントがとりたかったら、会社の受付に“コード206”と言いなさい』
その指示通り、ミレニアムコーポレーションに電話をかけた
最初、受付の男はこちらの話を取り合おうとしなかったが、この暗号らしきものを告げると態度を一変させた
そして、翌日にあうことを約束し、電話は切れた

そわそわしながら、窓の外を眺めていた、その時―
「失礼します。トゥモローリサーチの方でしょうか?」
「え、は…はい!」
ユウリは、現れた人物に相対する
スーツ姿のその男は、若々しさと精悍さを感じさせる顔立ちで、立ち方にも気品が漂っている
「私、ミレニアムコーポレーション社長の黒羽省吾です」
黒羽は名刺を取り出し、ユウリに差し出した
それを受け取ると、ユウリも、
「トゥモローリサーチの取材担当、桃井悠里と申します」
探偵業の際に使っている名の記された名刺を差し出す
「桃井さん、ですね。よろしくお願いします」
黒羽は、ユウリの反対側の椅子に腰かけた

20分程、世間話に時間を費やした後、
「それで、今日の本題とは?」
黒羽の問いに、ユウリは
「はい。御社の経営理念について取材したいと思いまして…」
「経営理念、ですか」
ユウリの問いかけに、黒羽はあごに手をやり、思案する
「ええ、ミレニアムコーポレーションは最近破竹の勢いで拡大していますよね。その秘密を知りたいのですが、構わないでしょうか?」
「はい、勿論です」
黒羽が語り始める
「僕は、全ての人を幸せにしたいんです」
ユウリは、左腕のクロノチェンジャーの録音モードにした

「では、ありがとうございました」
黒羽は話し終えると、席を立った
「いいえ。こちらこそお忙しい中お時間をいただき本当にありがとうございます」
ユウリは一礼して返す
そんな彼女に、
「またいつでも連絡してください。名刺に乗っている私の携帯番号にかければ、かけ直すこともできますので」
そういって、黒羽は背を向け、店を出た
「…」
その姿を見送りながら、ユウリは思案する
今日の取材では、彼に特に怪しいものは感じられなかった
それどころか、その堂々としかつ気品のある立ち振る舞い、そして経営理念を雄弁に語るその姿に、ユウリは好ましささえ抱いていた
(彼女の思いこみじゃないかしらね…)
依頼人の美河響子のことを思うと、そう考えるのが妥当ではあった
名刺の番号を携帯電話に登録し、ノートに今日の調査結果を記し終えると、レジへと向かう
支払いを済まそうと、財布を取り出す
が、
「お会計でしたら、お連れ様が支払いましたよ?」
「え?」
店員の言葉に、ユウリはキョトンとする

(キザな人…)
男の姿を思う
ああいうタイプの男が、女性に好意を抱かれるのだろう
狙ってやっているのか、あるいは生粋のものなのか…
もの思いに耽りながら、トゥモローリサーチへと帰路を進んでいたその時、
ドゴォォォォォン!
轟音が、響き渡った
「!!」
音がした方向を見る
と、
『ユウリさん、聞こえますか!?』
「シオン!」
クロノチェンジャーで連絡が入る
『近くにロンダーズの反応ありです!僕たちも向いますから、先行していてください!』
「わかったわ!」
通信を切ると、爆発の方に走り出した

このオフィス街には、金融機関の本社が密集している
休日も平日も問わず人通りが多いこの場所に、混乱が生じていた
ゼニット―ロンダーズファミリーの戦闘兵が暴れまわり、人々が逃げ惑う
その中心に、黒い人影がある
ソレは、微動だにせずに佇んでいる
「きゃあ!」
一人の女性が、転倒する
そこに、一体のゼニットが迫る
「…ひっ!」
ゼニットが剣を振り上げた、その時、
「たあっ!」
桃色の人影が、ジャンプキックで戦闘兵を吹き飛ばした
「逃げて!」
桃色の戦士―タイムピンクは華麗に着地し、女性へと声をかける
「は、はい!」
身を起こし、女性は走り去った
それを見送り、
「そこまでよ、ロンダーズ!」
凛とした声で言った

ゼニット達は、一斉にタイムピンクに襲いかかる
タイムピンクはそれに動じることなく立ち向かう
「はぁ!せい!」
30世紀で対マフィア捜査官としての訓練を積み、ユウリはアスリート以上の高い身体能力を誇る
加えて、装着者の能力を数10倍にも引き上げるクロノスーツにより、その戦闘力は、ロンダーズの雑兵では相手にもならない
ゼニット達は、タイムピンクに攻撃も当てることもできず、破壊されていく
しかし、ゼニットの最大の武器はその量である
倒しても倒しても後から湧いてくるのだ
「ふんっ!」
それに対し、タイムピンクはクロノチェンジャーに右手をかざす
「クロノアクセス!」
その言葉と同時、クロノ粒子としてブレスレットに収納されていた重火器が形成される
「ボルスナイパー!」
タイムピンク専用武器であるこの熱線砲は、半径50メートルの範囲を焼き尽くすほどの威力だ
「はあぁつ!」
銃口から桃色の熱光線が放射され、周囲のゼニット達を焼き尽くしていく
無数にいたゼニットは、瞬く間に全滅した

「あとはお前だけよ!」
黒い敵と相対する
通常のロンダーズ囚人とは異なり、全身が黒い鎧のようなものに包まれ、無機質な仮面をかぶっている
それは、タイムピンクを前にしても全く動きはない
「…!」
タイムピンクは、マスクの耳元に手をやる
ゴーグルに備えられた機能“クロノサーチ”
これにより、ロンダーズ囚人の詳細なデータを示すとともに、弱点も分析することができる
しかし、
(解析不能!?)
クロノスーツには全ての囚人のデータがインプットされており、解析できないということはありえない
しかし、ゴーグルを通して表示されたデータは、名前、身長、体重、血液型―全てが「???」となっている
(どういうこと…?)
一瞬動揺するが、すぐに持ち前の冷静さを取り戻す
(今はヤツを倒すのが先決ね)
ゼニットを引き連れている以上、ロンダーズであることに間違いはない
タイムピンクは、動かない敵に向け、ボルスナイパーのトリガーを引いた
その瞬間、敵の手に、身の丈ほどもある大太刀が形成され、
―ブン!!
振り下ろされると同時、熱線を弾き返した
「!!」
跳ね返された熱線を、タイムピンクはとっさの判断で身を翻し、回避する
「くっ!」
その目の先―敵は、身を起こした
タイムピンクはボルスナイパーをクロノチェンジャーの中に収納し、
「ダブルベクター!」
続いて、2本の剣―長剣スパークベクターと短剣アローベクターを、両の手に構える
敵も、それに応じるように大太刀を構えた
「行くわよ!」
タイムピンクは敵に向け、突進する

タイムピンクのクロノスーツは、装着者であるユウリの身体能力を限界まで発揮できるように、パワーでは他のメンバーに劣るが、小回りが利くのが特徴となっている
そのため、跳躍力が最も高く、一蹴りで30メートルもの高さまで飛ぶことが可能となっており、空中戦や壁面を走って移動するトリッキーな戦いをすることができる
すなわち、素早い動きで相手を撹乱し、隙が生まれたときに急所にダメージを与える―それがタイムピンクの戦い方だ
しかし、
「はあっ!」
黒の敵は、2本の剣によるスピーディな攻撃を身の丈ほどもある大太刀で確実に受け止め、弾き返す
かなりのパワーと、凄まじい技術が必要となる動作だ
(何なの、こいつ…!)
一見タイムピンクの優勢のように見えるが、実際は、その的確な防御に、逆にユウリが追い詰められている
「この…!」
次の手を打つため、スパークベクターとアローベクターの柄を合体させ“ツインベクター”を形成する
そして、
「たあ!」
大きく跳躍し、空中で一回転しながら、敵の頭上を飛び越え、着地する
―背後を取った
(よし!)
そのまま、ツインベクターを振り下ろす
しかし、
「なっ!?」
驚きの声が漏れる
何故なら、敵は背後を見ることなく、右手に持った大太刀を後ろに回し、受け止めたのだ
さらに、ほんの一瞬、呆気にとられて生まれた隙を、見逃さなかった
「あぐぅっ!?」
振り向きざまに、左手でタイムピンクの首を掴み、持ち上げた
「ぐ…あぁ…!」
何とか腕を振りほどこうとするが、ビクともしない
そして、敵はタイムピンクの身体を放り投げた
「きゃああああ!」
地面に激突し、痛みにのたうちまわる
「ハァ…ハァ…」
呼吸を整え、何とか身を起こす
その時、視界に―
「―!?」
大太刀を振り上げた、黒の敵が立っていた
一瞬の後、大太刀が振り下ろされる
それの一撃を、何とか右腕のガントレットで受け止める
クロノスーツは、マシンガンの連射にもビクともしない程の防御力をもっている
特に、両腕に装着された銀色のガントレットは、その数十倍もの硬度を誇る
しかし、
「うぐぅ!」
無骨なマスクの下、ユウリの表情が苦痛にゆがむ
ガントレットがあっても尚、右腕に激しい衝撃と痛みが走る
さらに、敵は続けて、タイムピンクの胴を蹴り飛ばした
「く…ああああああああああ!」
華奢な身体が宙に舞い上がり、そのまま落下する
「ううっ!」
地面にたたきつけられ、苦悶の声を上げる
それでも、
「この…!」
何とか立ち上がり、ツインベクターの穂先を向ける
対して敵は、待っていたかのように構えを取る
(何て強さなの…)
相手と自分の実力差を実感する
目の前の敵は、パワーは勿論、スピード、テクニックにおいても自分を上回っている
今まで戦ってきたどのロンダーズ囚人よりも強い、と
しかし、だからといって諦めるわけにはいかない
タイムレンジャーとしての矜持と、ロンダーズを全員捕えるという執念がある
また、それとは別に、この目の前の敵との戦いに、“愉しさ”を感じていた
物言わぬその佇まいの中に、どこか武人らしい態度を感じ取っていたからだ
だから、引くわけにはいかない
(この一撃なら…!)
「ビートアップ!」
双剣の柄のパワーボリュームを押す
ダイヤモンド以上の硬度を誇るクロノマイト合金製の刀身が桃色に発光し稲妻のようなエネルギーを放つ
それを構え、走り出す
「はああああああああああああああああああああ!」
応じるように、敵も大太刀を構えた
「ベクタースラッシュ!!」
ビートアップにより出力は大きく上がった刃で、タイムピンクは袈裟斬りを放つ
それにぶつけるように、敵は大太刀を振り上げた
そして、2つの刃がぶつかり合い
バチィイイイイン…!
激しく音を立てながら、ツインベクターと漆黒の大太刀が激突し、
パン!
弾けるような音と共に拮抗する力が行き場を失い、炸裂した
そして、
「うああああああああああ!」
衝撃に耐えられず、タイムピンクの身体が、後方に大きく吹き飛び、コンテナの山に激突した

全身に残る痛みに耐え、崩れ落ちる箱を避ける
しかし―
確信する
これほどまでの衝撃を受けて、相手も無事でいられるはずがない
一矢報いることはできたはずだ
そう思い、相手の方を見る
「嘘…」
呆然とつぶやく
敵は何ともないという風にこちらに向け歩を進めている
もう立ち上がる力さえない
―敗北
その2文字が心に浮かぶ
敵が、左手をかざし、
「!」
光弾を放った
「くっ!」
防御する手立てもなく、歯を食いしばり、目を閉じる
しかし、
「はあ!」
「おりゃあ!」
聞きなれた声
目を開けると、眼前に青と黄色の人影がある

タイムブルーとタイムイエローはダブルベクターで敵の光弾を跳ね返す
「ボルブラスター!」
「ボルパルサー!」
タイムピンクを庇うように立ち、タイムレッドとタイムグリーンが各々のボルウェポンを放つ
それを、敵は大太刀で受け止める
「ちっ!」
「何てヤツだ…」
その強さを、4人は肌で感じ取る
「う…はぁ…」
何とか立ち上がったタイムピンクも、そこに並ぶ
向き直る、5人と1体
やがて、
「……」
漆黒の敵は、背を向け歩き出した
「おい!」
「待て!」
ブルーとイエローが追おうとするが、
「うぅ…」
ピンクが崩れ落ち、変身が解ける
「ユウリ!」
「ユウリさん!」
脇からレッドとグリーンがユウリの身体を支える
ブルーとイエローも追跡を諦め、変身を解く
「仕方ないな。トゥモローリサーチに戻るぞ」
アヤセの言葉に、他のメンバーも従う

「大丈夫だ。異常はない」
ユウリのメディカルチェックを終えサポートメカであるタックはそう結論づけた
「腕の方も3日もすれば完治するだろう」
「良かったぁ…」
シオンがホッとして言う
「しっかしユウリよぉ、あんな正面切って戦わなくても俺たちが来るまで時間稼ぎくらいの戦い方で良かったんじゃねぇの?」
「…うるさいわね」
茶化すように言うドモンに、ユウリはバツの悪そうにする
「まあ、とにかく何ともなくてよかったよな」
能天気な竜也の傍ら、アヤセが
「アイツ一体何者なんだ?」
―全くデータのない謎の怪人
その正体を疑問する
「うむ。奴の剣の破片を解析してみよう」
先程のぶつかり合いで、敵の大太刀にもダメージがあったのか、破片が見つかったのだ
「ロボットか何かじゃないか?」
「ありえないわ」
竜也の推論を、ユウリが一蹴した
「あの動きは機械なんかじゃない。間違いなく生き物のものよ」
大胆かつ繊細、強烈かつ俊敏
30世紀のロンダーズの技術だとしても、あれほどのものを作ることはできないはずだ
「とにかく解析結果が出るまで待ってくれ。ユウリはケガが完治するまで無理しないように」
タックの指示に
「そうね…」

自室に戻り、ユウリは胸に手を当てた
あの敵との戦いの中で得た高揚感
それが未だ胸に残っている
圧倒的な力に打ちのめされながら、ユウリは感じたことのない心地よさに包まれていたのだ
しかしその正体が何なのかわからず、今はあの敵との再戦に闘志を燃やすことしかできない
(今度は、必ず私が倒すわ)
リベンジを決意する
その時、
ピリリリリリリ
携帯電話が鳴る
表示を見ると、
「…!」
『黒羽省吾』と記されていた